IPEの果樹園2015
今週のReview
2/23-28
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ミンスク停戦合意 ・・・外交か,武器供与か? ・・・中国とインドの外交 ・・・プレミアリーグ ・・・ギリシャの債務組換え交渉 ・・・イスラム国家の野蛮さ ・・・IRと「愛」 ・・・アフリカへの軽工業移転
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l ミンスク停戦合意
FT February 13, 2015
The meaning of the Minsk agreement
Niall Ferguson
世界は和平合意を歓迎する.しかし,それには2つの見方がある.1つは,敵対する者同士が和解に踏み出す「キャンプ・デービッド」であり,もう1つは,独裁者を宥和する「ミュンヘン」だ.
残念なことに,ミンスク合意はそのどちらでもない.ロシアとウクライナは,永久に和平を結んだわけではないし,プーチンに領土を与えたわけでもないからだ.
ロシア側に明らかに有利であるが,それはウクライナが弱小国であるからだ.かつてツキディデスがペロポネソス戦争の歴史に書いたように,「われわれと同様に,あなたたちも知っていると思うが,何が正しいかというのは対等なものの間でだけ問われる.他方,強者は可能なことをするし,弱者はやらねばならないことをするのだ.」
Project Syndicate FEB 13, 2015
Putin’s European Fifth Column
YURIY
GORODNICHENKO, GÉRARD ROLAND and EDWARD W. WALKER
ロシアのプーチン大統領が持つ戦略的な野望とその技巧を,われわれは過小評価してはならない.
1970年代に,ギリシャ,スペイン,ポルトガルで右派の独裁体制が崩壊した際,一つの重要な要因は国民の多くがヨーロッパの民主主義諸国家からなる共同体に参加したかったからだ.それは中東欧の共産主義体制崩壊,ベルリンの壁崩壊でも,同じだった.プーチンの重要な同盟者,ウクライナのViktor Yanukovychが2014年に失脚したのもそうだ.ヨーロッパ・モデルの存在が,共産主義後の多くの国で,透明な,っ民主的ガバナンスを求めるガイドとなっている.
EUの崩壊からプーチンが利益を受けるのは明らかだ.ヨーロッパの民主的モデルの魅力は大きく失われるだろう.すでにハンガリーなど,いくつかの加盟国で,EU懐疑論,反リベラルの風潮が広まっている.プーチンの権威主義体制に従い,その圧力や保護の誘惑が受け入れられやすくなっている.
プーチンはこれを利用し,左右の政治党派を問わず,影響を広げている.フランスの極右指導者Marine Le Penの政党National Frontがロシア政府系銀行から900万ユーロの融資を受けたことを認めている.またロシアのオリガークたちはヨーロッパの新聞The Independent, The Evening Standard, and
France-Soir. The French newspaper Libérationを買収してきた.国有エネルギー企業Gazpromはリトアニアとルーマニアでフラッキングに反対する活動に資金提供した疑いがある.
プーチンの話はソ連時代のプロパガンダをまねたものかもしれない.しかし,ヨーロッパ統合のプロジェクトはすでに経済危機で大きな緊張を生じている.価値観の戦いが激化している.EUは,民主主義,自由,法の支配,制度化された国際協調を代表し,プーチンは,権威主義体制,非寛容,軍事力と威嚇を手段とした外交を代表する.
ヨーロッパのエスタブリッシュメントはモスクワの反ヨーロッパ的な分割と支配に十分対抗していない.特にベルリンがそうだ.メルケル首相は指導力を発揮しなければならない.プーチンはEUを破壊する気だ.このまま緊縮策を推し進めて,ヨーロッパを貧血症の経済と失業の中に放置するなら,EUはプーチンのものになる.
l 外交か,武器供与か?
FP FEBRUARY 11,
2015
Putin’s Countermove
BY MARK GALEOTTI
ミンスク停戦合意が成立しても,なお永続的な和平は遠く,ワシントンではキエフに対する武器供与を求める声が強い.ウクライナ政府軍の奪回作戦が,反政府軍へのロシアの支援で失敗したとなれば,それも当然だ.支持者は防衛的な装備を考えている.
しかし,もしワシントンが武器供与しても,ウクライナ軍がそれを使用するには訓練期間が必要だろう.プーチンのために戦争を計画している担当者たちが,この期間を利用して攻勢を強め,支配領域の拡大を考えるかもしれない.
ロシア人は何のためにウクライナ東部で代理戦争を続けるのか? 一般にロシア軍の装備や訓練は劣っている.紛争の拡大は間違いなく西側の制裁を強める.Donetsk
and Luhanskの確保に,クリミアを取るほどの価値はない.その目的は,軍事的・政治的に拡大して,キエフに対する取引を有利にするため,ロシア軍が身をひそめることである.
クレムリンは疑似国家the
Donetsk People’s Republic (DNR) and Luhansk People’s Republic (LNR)を樹立して,紛争を「凍結」するだろう.1990年以来,重工業と密輸とロシアからの援助で“Transdniestrian
Moldovan Republic”を維持しており,それは可能である.それは莫大な費用がかかるけれど,撤退による政治的な敗北を受け入れることはプーチンにとって破滅的である.
しかも将来の交渉に向けて,クレムリンは「平和維持軍」としてロシア軍の駐留をこの地域で正当化するはずだ.そのような国際的権限はないが,それはキエフや西側の行動を抑止する.そして,ロシア軍の財政負担を軽減するには,空港や黒海の港,ウクライナ最大のコカコーラ工場を占拠する.
モスクワは,ワシントンによる武器供与を利用するだろう.ロシアの諜報機関や特殊部隊はキエフに深く浸透している.アメリカの兵器は反政府軍に流され,あるいは,コピーが作られる.モスクワが「ナチス」と呼ぶキエフの超ナショナリストがアメリカの武器を手にすることで,西側の政治的な結束を乱す宣伝活動,情報操作も激しくなる.
こうした事情は,アメリカからの武器供与を拒む理由にはならないが,それに対してモスクワが採る行動を予想し,反撃を準備しなければならない.
The Guardian, Monday 16 February 2015
There’ll be no peace while Putin is squatting
in Ukraine’s living room
Timothy Garton
Ash
第1次世界大戦の後も,第2次世界大戦の後も,1995年のボスニアでも,ヨーロッパの人々は“Never again!”と叫んだ.しかし,戦争は再現した.メルケルが奮闘の結果として得たミンスク停戦合意が平和をもたらすことを願うのと同様に,私はそれを疑っている.
すでに何が起きているのか.新たにヨーロッパの国家が武力によって分割された.国連の推定では,少なくとも5400人が殺害され,1万3000人が負傷し,160万人が住居を追われた.
先週,ミンスクⅡ停戦合意は次の内容を含む.ウクライナがロシアとの国境に対する管理権を回復するのは,今年の終わりであり,しかも,選挙を行い,2つの地域the Donetsk and Luhanskに憲法上の「特別な地位」を認めた場合のみである.しかもキエフ政府は,クリミアとこれらの地域に,年金や「公共費用」を支払わねばならない.
つまり,こういうことだ.あなたは裏のドアに鍵をかけてよいが,それは,銃をあなたの頭に突き付けるかもしれない誰かに居間を譲り,しかも,あなたが家賃を支払う場合だけだ,と.
理性のある者なら,このような恥知らずな合意に反対するだろう.現実には,旧式の,悪しき方法で,プーチンはEUに対抗する.すなわち,力が正義である.黒は白である.戦争が再現し,法は傷ついた難民のようにその下に従う.
これはロシア,アメリカ,イギリスが独立に合意した国で起きている.1994年のブタペスト覚書で,世界最大の核兵器保有を放棄するとともに,ウクライナはその独立を承認された.ボリス・エリツィン,ビル・クリントン,ジョン・メージャーが署名した.この信頼が破棄されたことから,他の核保有国や核開発を考える国は,核の放棄が何を意味するか理解するだろう.
モスクワのジャングルの法と,ブラッセルの法のジャングル.どちらが勝つのか? アメリカの著名な「リアリスト」であるJohn Mearsheimerは,ロシアが勝つ,と答える.われわれにできることは,「冷戦期にオーストリアがそうであったように,ウクライナをロシアとNATOの間にある中立の緩衝国にすることだ.そして,EU拡大やNATO加盟をあきらめる.」
そうだろうか? リアリストの教授は考えてみるべきだ.あなたが支持する完璧なリアルポリティークの頂上会談とは,ヤルタであろう.F.D.ルーズベルトとウィンストン・チャーチルが,ソビエトの東欧占領にあいまいな正当性を与えた.
独立国家を鑑賞国として利用することは正しいのか? ロシアについてMearsheimer よりも詳しいGarry Kasparovが最近のトウィッターでつぶやいた.「多数のウクライナ人を占領地における終身刑にして,「リアリストたち」は幸せそうだ.21世紀のヨーロッパでも.」
たとえプーチンがロシアで高い支持を得ているとしても,プーチンとロシアを混同してはならない.ヒトラーも高い支持を得ていたのだ.巧みなプロパガンダで国民の神話や傷を利用するなら,人々を破滅的な進路に向けることができる.国民は数年の後に目覚めて,その代償を支払わされる.
プーチンが侵した重大な原理は,国家の主権である.しかし問題はシリアでも同じだ.なぜシリアについて書かないのか? イラクに侵攻した英米がそのような主張をできるのか?
シリアについては,私は専門家ではなく,誰に聞いても明確な進路を描くことは難しい.英米がイラクに侵攻したことは,法的,道義的,戦略的に間違いだった.しかし,ウクライナは違う.明確な言葉で原則を示すことができる.「プーチンは軍隊を引き揚げ,ウクライナが東部の国境を完全に管理しなければならない.」
もちろん,これだけで分離主義者が抑えられるわけではない.戦場の極端な野蛮さが隣人たちを敵に変えてしまった.キエフは実効性のある連邦国家を回復し,ロシア人にとってもここが故郷であるようにすることだ.
FP FEBRUARY 17, 2015
What Putin Learned from Reagan
BY STEPHEN M.
WALT
大国は敵対する国が現れるのを嫌う.
衰退する大国が,長い間,自分の裏庭だと考えていた伝統的な影響圏を守るために,腐敗し,野蛮なオリガークの支配する小さな隣国に介入してきた.しかし,突如,大衆的な蜂起によって政権が崩壊し,腐敗した指導者が国外に逃亡した.大衆の支持する指導者は,そのイデオロギーに惹かれ,また,旧来の隣国に支配された関係を抜け出すために,敵対する遠方の大国と同盟関係を結びたいと熱望する.
これに対して,強硬派の,保守的な指導者は,かつての傀儡国家において,反政府グループに武器を供給し,新しい政権が遠方の大国と同盟関係を結ぶことを阻止し,さらには政権の崩壊を企てる.
よく知っている話だろうか? しかし,衰退する大国とはロシアではないし,保守的な指導者はプーチンではない.問題の小国とはウクライナでもない.この話は,アメリカとレーガン大統領,そして,ニカラグアを意味する.
1980年代,ニカラグアのサンディニスタ運動が,親米的な独裁者を打倒し,キューバと緊密な関係を結んだ.レーガン政権は,反政府軍を組織し,支援して,内戦が激化したのだ.その結果,ニカラグア国民の約2%,3万5000人が死亡した.アメリカの人口で換算すれば,600万人以上が死亡したことを意味する.
われわれがそれを嫌うとしても,大国が近隣諸国の政治に影響を与え,自分たちの死活的な利害に関して強硬策を採る,というのは通常の事態である.ところが,ウクライナ危機の発生や解決策を考えるとき,欧米はそれを忘れている.
ウクライナの事態は悲劇であり,プーチンやロシアの行動は非難されるべきだが,ロシアが採った行動はアメリカが西半球において採ってきた行動と変わらない.NATOやEUを拡大する我々の意図が高貴であるかどうかは問題ではない.それはロシアの指導者にとって,レーガンが小国ニカラグアに見た以上に,深刻な脅威であり,あるいは,そうなるに違いないものと見えるのだ.
単純な道義的議論が起きるのを,私は理解できる.西側は善良で,ロシアは悪だ,と.しかし,こうした道義論や独善性を,政策にしてはならない.地理的条件,その土地のバランス・オブ・パワー,ウクライナ内部の分裂状態,ロシアの利害,これらを前提すれば,強硬策は事態を改善するよりも悪化させるものである.
Timothy Garten
Ashのゆな聡明な批評家が,事態の推移を観て,ロシアを非難し,「プーチンは軍隊を引き揚げ,ウクライナが東部の国境を完全に管理しなければならない.」と主張する.問題は,どうやってそれを実現するのか,彼が知らないことだ.
Project Syndicate FEB 18, 2015
Why Ukraine Needs Weapons
CARL BILDT
外交官や外交専門家たちの間で繰り返されるマントラがある.ロシアとウクライナとの紛争に軍事的な解決策はない,というものだ.
しかし,最近のミンスク停戦合意が武力行使を止められず,ウクライナ政府軍がDebaltseveから排除されたことを観れば,今や,クレムリンが押し付ける軍事的な解決策を阻止する必要がある,と考えねばならない.
最近,アメリカの3つの有力シンクタンクが示した提案はそれにふさわしい.アメリカがウクライナ政府軍にもっと高度な兵器と防衛システムを供給する,というものだ.しかし,ヨーロッパの諸政府は分裂している.
昨年,Donbas地域で分離主義者が現れたとき,ウクライナ軍だけで制圧できそうだった.しかし,クレムリンは直ちに反応した.ロシアは分離主義者の軍事的敗北を避けるために,何でもする気だ.ウクライナにこの地域を回復する見込みはなくなった.
分離主義の指導者たちは,Odessaに及ぶ黒海沿岸を支配し,小国家“Novorossiya"を設立することも考えている.こうしたシナリオが実現しないためには,クレムリンとの真剣な交渉で制裁を強め,彼らの攻撃がもたらす代償を高めるべきだ.しかし,外交交渉が持続的な平和をもたらすには,より包括的なアプローチが必要である.
それは,IMF融資の条件が示すように,ウクライナの改革を進めて腐敗を一掃し,成長を実現することだ.EUとの包括的な自由貿易圏協定は長期的な改革に決定的である.それらの条件が成功するために,ロシアの支援を受けた分離主義運動や黒海沿岸の小国家がウクライナの防衛力の弱さを突いて現れるのを阻止しなければならない.十分な防衛力なしには,紛争の政治的,外交的,解決策は不可能である.
メルケルなどが,紛争の軍事的解決策はない,と言うことは正しい.しかし,交渉と停戦合意が失敗したように,純粋な外交的解決策もないのだ.
l プレミアリーグ
The Guardian, Sunday 15 February 2015
Football is just one example of the
inequalities that bedevil us
Will Hutton
プレミアリーグはイギリスの不平等を象徴するものになってきた.放映権をめぐる入札で,SkyとBTは,年間の200試合を生放送するために,3年間で51億ポンドを支払う.HSBCは脱税を奨励し,首相は個人資産家の富を運用するファンドを代弁し,保守党は企業重役たちの憤慨から政治資金を得る.
主要なクラブチームには,ロシアのオリガークや石油王,イギリス貴族が極端に不公平な富を並べている.よい社会ではすべての文化と同様に,スポーツが誰にでも楽しめるものである.しかし,イギリスのフットボールは,その高価な入場料やテレビ放映権がそれを損なっている.その結果は,フットボールの短期的利益追求,選手の露骨な利己主義である.リーグ内のチームにも格差が拡大し,新しく強いチームが現れることはなくなった.
リーグの支持者たちは,欠陥を超える大きな利益を主張するだろう.グローバル・ブランドとして,世界中から選手と投資を集め,外国のテレビ放映権はイギリスにとって重要なサービス輸出である.富裕であることを,誰が嫌うのか?
すでに20クラブの中で11が外国の所有である.さらに外国資本による買収が続くだろう.試合では個人の成績をめぐるラフ・プレーが増え,支配的なチームが固定され,オーナーとマネージャーは辞任と狂乱状態を続ける.選手は才能を浪費し,ファンは愛着を失う.
あまりに多くの金と無関心への不平等が,プレミアリーグを破壊するだろう.フットボールは社会の縮図でしかない.公平さこそが重要だ.
l ギリシャの債務組換え交渉
Project Syndicate FEB 13, 2015
Reforming Greek Reform
DANI RODRIK
Syrizaは,緊縮策を否定する,ラディカルな左派政党である.伝統的なヨーロッパの官僚が考えることを無視している.
ギリシャの交渉手段は,たった一つ,ユーロ圏離脱Grexitの脅しである.ギリシャと債権者であるトロイカ(欧州委員会,ECB,IMF)とが債務をめぐる経済学について合意する,と期待することは難しい.ドイツは緊縮策の緩和に全く応じないからだ.彼らは緩和が経済的に逆効果であり,ギリシャの破たん状態を再生するだけだと考えている.
Grexitの脅しが効果を持つには,ドイツがそれを真剣に受け取り,しかも,どの結果としてギリシャの経済状態が改善する,という見通しが必要だ.
経済学はこれにどう答えるか.第1の条件は,ギリシャのユーロ圏離脱はその影響を切り離せる,という者がいる.ギリシャの規模は小さく,その経済はスペインやポルトガル,イタリアと大きく異なっているからだ.しかし,結果は予測不可能だろう.ドミノが生じたときのコストはあまりにも大きい.メルケル首相は,Grexitを真剣にとらえねばならない.
第2の条件は,実現が非常に難しい.破滅シナリオは多くある.まず,資本規制と金融市場の隔離は避けがたい.その結果は,政策や物価が予測不可能であり,実物経済にも大きな影響を及ぼす.
しかし,同様に通貨圏を離脱した結果,プラスの経済的効果を生じたケースが存在している.1931年,イギリスは金本位制を離脱し,ポンドを安くし,金融政策を緩和できた.それは離脱を遅らせた国よりも良い結果を示した.また2001年,アルゼンチンはUSドルに対する為替レートの固定制度を放棄した.それは,2つの四半期を経て,急速な成長を実現できた.
どちらのケースも,金融主権を回復し,より競争的な貨幣を得たことで,輸出需要が増大し,経済の回復を支持したのだ.Grexitでも同じことが起きるだろう.
ギリシャは緊縮策を続けて,実質賃金が15%以上も低下し,内的切下げで同じことを生じたはずだ.しかし,結果は失望するものだ.輸出は伸びず,緊縮策のせいで輸入が減って経常収支を改善した.つまり,ドラクマを回復してもギリシャ経済の成長にはつながらない,ということだ.エネルギー価格,融資不足,停滞部門への特化,政策不安,など,他の要因が輸出を妨げている.
ギリシャは,こうした問題を解決する改革案を出すことで,トロイカの構造改革に従うよりも経済状態を改善できる.そして,Grexitが実際に起きることを防ぐのだ.
Project Syndicate FEB 16, 2015
Playing Chicken with Democracy
HAROLD JAMES
近代の民主政治は2つのタイプの課題を含むと考えられる.1つは,一般原理に基づき法を定めること.もう1つは,課税と政府支出を介して資源を再配分すること.一国の内部では,これらの課題は相対的に複雑ではない.しかし国際関係が入ってくると,政府に強い制約が加わる.
ギリシャがEU加盟国として受ける制約はそれだ.ヨーロッパであれ,世界であれ,すべて統合化には,国内的な選好や法律に関する調整の作業が求められる.また課税が資本や高所得者の国外逃避を招くなら,富を再分配する政府の能力も制約される.
Syrizaは,ギリシャの債務を削減するために2つの主張を行った.1つは,戦間期におけるドイツで民主主義の実験が失敗に終わったのは,国際的な債権者が緊縮策を強制したからだ,というものだ.もう1つの話は,ドイツのワイマール共和国が1933年に崩壊した後,ギリシャは最も苦しんでいる国の1つだった.ナチスの占領期にギリシャ政府はドイツに融資を強制されたが,それは返済されなかった,というものだ.
Syrizaの歴史解釈はいくつか間違っている.第1次世界大戦後のドイツは,1932年までに,賠償金を支払うことができないと分かっていた.支払い停止がドイツを不安定化したのではなく,逆に,一層の過激な計画へ向かわせたのだ.ヒトラーが権力を握ったとき,資源再配分の課題はまったく新しいアプローチによって解決された.すなわち,他国の資源を再分配したのだ.
ギリシャの提案している債務免除は,ヒトラーと同じく,他国の資源を奪うものだ.それが実現すればユーロ圏全体に緊張が及ぶ.Varoufakis財務大臣は,最近,より大きな,パワーを持つ民主主義諸国は,弱小国を粉砕することで,自分たちの民主的基礎を破壊している,と述べた.しかし,彼も考えるべきだ.小国が国際システムを破壊することは容易かもしれないが,それによって自分たちの基盤を破壊する.
民主主義が隣国に負担を強いるために利用されるなら,統合は不可能である.民主主義も国際秩序も,ともに犠牲となるだろう.金融的な危機が感染するのと同様に,ゼロサム的な心理は政治的に感染する.
まず政治的な課題を解決するべきだ.それには,ユーロ圏のすべての選挙された政府が参加する仕組み(おそらく,ユーロ圏財務相会議)を必要とする.交渉が各国政府のチキン・ゲームにとどまる限り,その結果はカオスである.市場だけでなく,政治でも.
l イスラム国家の野蛮さ
FT February 18, 2015
The hideous dialectic of Isis savagery
By David
Gardner
リビア沿岸でエジプトからの出稼ぎ労働者を集団的に斬首したビデオを流した.イスラム国家は,その野蛮さによって誰にも恐怖と憤慨を引き起こすだけでなく,彼らの資源として,西側による「十字軍」を熱望しているのだ.それは9・11の前にアルカイダのAyman
al- Zawahiriが主張したように,アメリカを挑発して攻撃を誘発することで,聖戦の種をイスラム世界にばらまくことができる,というものだ.
l IRと「愛」
FP FEBRUARY 13, 2009
IR theory for lovers: a valentine’s guide
BY STEPHEN M.
WALT
明日のバレンタイン・デーにちなんで,国際関係論が提供する「愛」に関する考察を紹介しよう.
まず,愛とはロマンチックなパートナーシップであるが,それは国際関係の基本概念である同盟に等しい.われわれは,それがときに不合理な情熱の表現であったり,互いの自律性を不可避的に制約するものであったりすることを知っている.国際関係論者の多くが,同盟の制度化は関係の実効性と持続期間を強化する,と考えている.結婚のように,公式な関係を結ぶことは慎重に考慮すべき重要な変化である.
l アフリカへの軽工業移転
Project Syndicate FEB 19, 2015
Africa’s Path from Poverty
JUSTIN YIFU LIN
貧しい国でも急速に豊かになることができる.私は台湾に生まれ,中国に移住したから,そのことを2度も経験した.アフリカで,それを3度目に経験する.
貧しい国が豊かになる正しい戦略は,第2次世界大戦後に日本が実行し,その後,アジア諸国が採用したように,豊かな諸国から軽工業・製造業を移転することだ.
内陸国エチオピアを観ればよい.10年前に,この国に投資するものはなかった.しかし,アジスアベバの近くに工業団地を開設し,政府は中国企業を誘致した.Huajian靴工場は2012年1月に開設され,約600人を雇用したが,年末には2000人以上のエチオピア人を雇用し,今では3500人以上が働き,年間200万足以上を輸出している.
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The Economist February
7th 2015
Capitalism’s
unlikely heroes
Activist funds:
An investor calls
Immigration:
Let the states decide
Japan after the
tsunami: Grinding on
Banyan: Still
fighting
German-Americans:
The silent minority
Immigration:
Rolling out the welcome mat
Currencies:
Money-changers at bay
Free exchange:
Linked in
(コメント) 講義がなく,いくらか時間をかけて読むせいか,次々,面白い論説を見つけます.
資本主義の欠陥は様々な視点で議論されますが,株式会社,という制度も不満の源です.資本市場や巨大貯蓄機関とグルになって,経済の動きを悪用しているように思います.それに直接的な攻撃を加えるファンドも現れている,というのは痛快です.
通貨・為替市場を動き回る資本に比べて,移民の制度化が遅れていることは,世界的に見た社会モデルを歪めています.ユーロ危機もそうですが,アメリカが示す移民政策の危機も,もっと新しい工夫で解決する可能性が開かれている,という記事にも感心します.
為替レートも債務組換えも交渉の制度化とバランスを取る政策手段が必要です.しかしそれも,東アジアの日中韓では,政策交渉が進まないムードを変えることから始まります.戦争の記憶を政府が交渉のために利用する状況は,いずれの国民も苦しめます.
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IPEの想像力 2/23/15
曇り空にときおり小雨が降る中,寝屋川ハーフマラソンに参加しました.何度か歩いたものの,2時間8分余りで完走できました.坂道,曲がり角,すれ違いの多いコースで,距離もわからず,走りにくかったです.しかし,足が痛くなって途中棄権するのを恐れていたので,ゴールできてとても満足でした.
走る人が増えているということです.平和を求め,豊かさを求め,家族や会社のために,働くことを使命として受け入れ,それは幼少期から学校で,受験勉強で,大きなストレスとなりました.社会を恐れ,人間関係を嫌う人々が増えたと思います.しかし,走るのは自由です.
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開発を唱える独裁者にも自由を求めた革命にも失望し,アラブ世界の若者はイスラム過激派に向かい,あるいは,ヨーロッパへの移民になっています.欧米では緊縮策や金融ビジネスに集中する富と債務の重圧で雇用の機会を奪われ,長期の失業に苦しみ,あるいは,テロに走る若者が増えています.他方,日本で若者や多くの高齢者がランニングを楽しむのも,現代の社会や政治に広がるストレスを表しているのかな,と思いました.
日本にとっては,まだ,通貨危機も,債務危機も,国境を超える軍事力の行使も,辺境におけるテロ組織の拡大も,潜在的な脅威なのです.
だからこそ,それらが顕在化するとき,地域が共有する交渉メカニズムや指導者間の信頼関係を損なうことに無頓着な政治姿勢が問題を悪化させます.今週のReviewからアイデアを拾えば,アフリカへの軽工業・製造業移転,ギリシャの成長連動債券,アメリカ州政府の移民歓迎政策と都市再生,が日本やアジアを刺激します.
日本が戦後の復興と高度成長を実現したように,アジア諸国がそれに続き,アフリカや中東諸国にも製造業が移転されるのを,私たちは積極的に支援し,その成長に参加することができます.日本企業がインフラ整備に参加し,日本の金融機関が貯蓄を地域の成長連動債券に投資し,日本企業が生産拠点と共に技術指導や品質管理を移転し,日本市場を開放して彼らの工業製品を輸入します.
日本が東北の被災地で製造業の復活や新興企業の育成,農業への労働力の供給を考えるとき,アジア,アフリカ,中東からの留学生や短期雇用契約を制度化して,自国で十分な教育や労働の機会を得られない若者たちに,日本で活躍する機会を提供します.そして,もし彼らが日本語や日本文化に深い理解と共感を得たのであれば,彼らが永住し,国籍を取得して,彼らの母国や世界各地のネットワークを日本で活用する展望を示し,奨励します.
それは実現可能な未来のシナリオとして,可能性の中に必ず存在しているはずです.それが実現しないのは,私たちが変化を恐れ,既得権を守り,確実なシナリオを得たいと願うからでしょう.それが長期的には,さまざまな脅威の予想外の発現によって変えられてしまうとしても,デフレや国債の累積,ネット依存の若者が示す閉塞感,社会保障など高齢化の重圧に,あえて解決策を示して人々の合意を促す者は現れません.
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しかし,そんなはずはない.日本でも,アジアでも,必ず,志のある人々が現れて社会や秩序の在り方を変えたはずだから.変えてほしいと願う人々の思いに反応し,覇気を示した者たちが成功し,あるいは,失敗したことを,きっと歴史は多く示しているのでしょう.
そして,ウクライナ東部の和平をめぐる交渉について,ギリシャの債務処理とユーロ圏やギリシャ国内の改革,ヨーロッパやアメリカにおける移民・難民の窮状,イスラム国家の野蛮さ,量的金融緩和の限界やリスク,通貨戦争,債務危機を繰り返す国際収支と資本移動のルールをめぐって,また,失業や貧困の問題を重視した市場制度や資本主義の再編についても,日本の若者たちが今こそ真剣に学ぶ時代なのです.
走るように,学んでください.
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