IPEの果樹園2015
今週のReview
2/23-28
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ミンスク停戦合意 ・・・外交か,武器供与か? ・・・中国とインドの外交 ・・・プレミアリーグ ・・・無秩序と移民・難民 ・・・ギリシャの債務組換え交渉 ・・・世界経済の脅威 ・・・イスラム国家の野蛮さ ・・・IRと「愛」 ・・・アベノミクスの春闘 ・・・アフリカへの軽工業移転
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT:
Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l ミンスク停戦合意
FP FEBRUARY 11,
2015
Putin’s Countermove
BY MARK GALEOTTI
ミンスク停戦合意が成立しても,なお永続的な和平は遠く,ワシントンではキエフに対する武器供与を求める声が強い.ウクライナ政府軍の奪回作戦が,反政府軍へのロシアの支援で失敗したとなれば,それも当然だ.支持者は防衛的な装備を考えている.
しかし,もしワシントンが武器供与しても,ウクライナ軍がそれを使用するには訓練期間が必要だろう.プーチンのために戦争を計画している担当者たちが,この期間を利用して攻勢を強め,支配領域の拡大を考えるかもしれない.
ロシア人は何のためにウクライナ東部で代理戦争を続けるのか? 一般にロシア軍の装備や訓練は劣っている.紛争の拡大は間違いなく西側の制裁を強める.Donetsk
and Luhanskの確保に,クリミアを取るほどの価値はない.その目的は,軍事的・政治的に拡大して,キエフに対する取引を有利にするため,ロシア軍が身をひそめることである.
クレムリンは疑似国家the
Donetsk People’s Republic (DNR) and Luhansk People’s Republic (LNR)を樹立して,紛争を「凍結」するだろう.1990年以来,重工業と密輸とロシアからの援助で“Transdniestrian
Moldovan Republic”を維持しており,それは可能である.それは莫大な費用がかかるけれど,撤退による政治的な敗北を受け入れることはプーチンにとって破滅的である.
しかも将来の交渉に向けて,クレムリンは「平和維持軍」としてロシア軍の駐留をこの地域で正当化するはずだ.そのような国際的権限はないが,それはキエフや西側の行動を抑止する.そして,ロシア軍の財政負担を軽減するには,空港や黒海の港,ウクライナ最大のコカコーラ工場を占拠する.
モスクワは,ワシントンによる武器供与を利用するだろう.ロシアの諜報機関や特殊部隊はキエフに深く浸透している.アメリカの兵器は反政府軍に流され,あるいは,コピーが作られる.モスクワが「ナチス」と呼ぶキエフの超ナショナリストがアメリカの武器を手にすることで,西側の政治的な結束を乱す宣伝活動,情報操作も激しくなる.
こうした事情は,アメリカからの武器供与を拒む理由にはならないが,それに対してモスクワが採る行動を予想し,反撃を準備しなければならない.
YaleGlobal, 12
February 2015
New Ceasefire
Points Toward Frozen Conflict in Ukraine
David R. Cameron
Bloomberg FEB 12,
2015
A Time Bomb Wrapped
in a Ukrainian Peace Deal
By Leonid Bershidsky
ロシアのプーチン大統領が,この数か月間は信頼できない交渉相手であったから,本当に譲歩したのか,明らかではない.もしプーチンが約束を守れば,停戦合意はメルケル首相の外交的な勝利になる.しかし,私はそうではないと思う.これは最後のハイレベル会談ではない.マラソン交渉の末に得られた合意は,矛盾した,長期的に機能しないものであるからだ.
ウクライナの主権と統一を認めながら,合意は9月の時点よりもロシア側の反政府勢力に有利な内容である.双方が9月の合意された境界線から50キロ撤退する,という内容は,反政府軍がこの2日間に支配を拡大する余地を生む.ウクライナが憲法を修正し,その地区の選挙によって自治の拡大を受け入れる.
キエフは反乱軍の罪を問わず,特別地域の銀行システムを再生し,その住民に年金や社会的給付を行う.そしてロシアとの国境に対するウクライナの管理は,2015年末までに,憲法の修正と選挙が終わってから回復できる.地方政府は独自の警察,検察,裁判官を指名し,公式言語を選択できる.その条件は連邦制のロシアで全く認められていないものだ.
しかし,合意の条件はほとんどプーチンが求めたものでできている.ウクライナのポロシェンコPetro
Poroshenko大統領は,合意の2時間前でも「受け入れられない」と述べたが,メルケルとオランドが彼をEUに招き,自分たちの同盟者であると称賛することで合意に至った.
Global Times
2015-2-12
Compromise best
choice for both Russia and West in Ukrainian deadlock
By Adam Swain
FT February 13,
2015
European leaders
cautious over ‘Minsk II’ agreement
Neil Buckley in London, Kathrin Hille in Moscow and Roman Olearchyk
in Kiev
FT February 13,
2015
The meaning of the
Minsk agreement
Niall Ferguson
世界は和平合意を歓迎する.しかし,それには2つの見方がある.1つは,敵対する者同士が和解に踏み出す「キャンプ・デービッド」であり,もう1つは,独裁者を宥和する「ミュンヘン」だ.
残念なことに,ミンスク合意はそのどちらでもない.ロシアとウクライナは,永久に和平を結んだわけではないし,プーチンに領土を与えたわけでもないからだ.
ミンスク合意は正式の条約でもない.むしろ停戦のための行動リストである.ドイツ首相,フランス,ロシア,ウクライナの大統領が集まったが,彼らは署名もしていない.OSCE,ウクライナ,新ロシアの分離主義者が,それらの代表からなる「連絡グループ」を構成し,それが署名した.
すべきこととして,非武装地帯を設け,捕虜を交換し,戦争犯罪者を許し,キエフと紛争地域との経済関係を修復し,Donbassの政治的自治を高める憲法の分権化を行う.しかし,重要なことは細則に書かれてある.2014年の合意に比べて,国境の監督権は2015年末まで回復されず,分離主義者は200平方キロの地域を新たに獲得し,憲法の修正を求めている.
ロシア側に明らかに有利であるが,それはウクライナが弱小国であるからだ.かつてツキディデスがペロポネソス戦争の歴史に書いたように,「われわれと同様に,あなたたちも知っていると思うが,何が正しいかというのは対等なものの間でだけ問われる.他方,強者は可能なことをするし,弱者はやらねばならないことをするのだ.」
ポロシェンコ大統領は,やらねばならないことをしている.ドネツクDonetskの戦略上の重要拠点であるDebaltseveにはウクライナ軍がおり,ミンスク合意を拒めば全滅したであろう.また別の見方では,IMF専務理事であるラガルドChristine Lagardeが175億ドルの融資を決めたのと交換に,停戦を受け入れたのだ.
プーチンがしているのは,ウクライナの地域を併合することではなく,「紛争凍結」地域を創りだすこと,キエフの命令に従わない自治区を得ることだ.
1週間前,プーチンは大きな脅威に直面した.アメリカ議会でウクライナへの武器供与が支持を集めたのだ.もう一つの脅威は,ドイツが前のミンスク合意を守らないプーチンに憤慨していることだ.そこでプーチンは外交的に,アメリカとドイツの間にくさびを打ち,軍事的解決を受け入れないメルケルを味方につけた.
オランドとメルケルをミンスクに呼んで,プーチンはこの違いを広げた.アメリカの武器供与を抑え,オバマの新しい安全保障政策,「戦略的忍耐」も利用した.このアメリカの戦略は,実際は優柔不断でしかないが,イラクやシリアを混沌に導いたものである.ウクライナ東部も同じだ.
しかし多くの者は,細則を見逃し,停戦合意のおとぎ話を信じるだろう.
SPIEGEL ONLINE 02/13/2015
Nuclear Specter
Returns
'Threat of War Is
Higher than in the Cold War'
By Markus Becker in Munich
Project Syndicate
FEB 13, 2015
Putin’s European
Fifth Column
YURIY GORODNICHENKO, GÉRARD ROLAND and EDWARD W. WALKER
ロシアのプーチン大統領が持つ戦略的な野望とその技巧を,われわれは過小評価してはならない.
1970年代に,ギリシャ,スペイン,ポルトガルで右派の独裁体制が崩壊した際,一つの重要な要因は国民の多くがヨーロッパの民主主義諸国家からなる共同体に参加したかったからだ.それは中東欧の共産主義体制崩壊,ベルリンの壁崩壊でも,同じだった.プーチンの重要な同盟者,ウクライナのViktor
Yanukovychが2014年に失脚したのもそうだ.ヨーロッパ・モデルの存在が,共産主義後の多くの国で,透明な,っ民主的ガバナンスを求めるガイドとなっている.
EUの崩壊からプーチンが利益を受けるのは明らかだ.ヨーロッパの民主的モデルの魅力は大きく失われるだろう.すでにハンガリーなど,いくつかの加盟国で,EU懐疑論,反リベラルの風潮が広まっている.プーチンの権威主義体制に従い,その圧力や保護の誘惑が受け入れられやすくなっている.
プーチンはこれを利用し,左右の政治党派を問わず,影響を広げている.フランスの極右指導者Marine
Le Penの政党National Frontがロシア政府系銀行から900万ユーロの融資を受けたことを認めている.またロシアのオリガークたちはヨーロッパの新聞The
Independent, The Evening Standard, and France-Soir. The French newspaper
Libérationを買収してきた.国有エネルギー企業Gazpromはリトアニアとルーマニアでフラッキングに反対する活動に資金提供した疑いがある.
プーチンの話はソ連時代のプロパガンダをまねたものかもしれない.しかし,ヨーロッパ統合のプロジェクトはすでに経済危機で大きな緊張を生じている.価値観の戦いが激化している.EUは,民主主義,自由,法の支配,制度化された国際協調を代表し,プーチンは,権威主義体制,非寛容,軍事力と威嚇を手段とした外交を代表する.
ヨーロッパのエスタブリッシュメントはモスクワの反ヨーロッパ的な分割と支配に十分対抗していない.特にベルリンがそうだ.メルケル首相は指導力を発揮しなければならない.プーチンはEUを破壊する気だ.このまま緊縮策を推し進めて,ヨーロッパを貧血症の経済と失業の中に放置するなら,EUはプーチンのものになる.
FP FEBRUARY 13,
2015
New Model Dictator
BY CHRISTIAN CARYL
オーストラリアのG20では,首脳たちに嫌われて,こそこそ逃げ出したプーチンだが,エジプトへの公式訪問ではAbdel
Fattah El-Sisi大統領に歓迎された.ほかにも,トルコのRecep
Tayyip Erdogan,ヴェネズエラのNicolas
Maduro,アルゼンチンのCristina Fernández
de Kirchner,ハンガリーのViktor
Orbanに,プーチンは尊敬されている.
プーチンのマニアはほかにもいる.イングランドのナショナリストNigel
Farageも,スコットランドのナショナリストAlex
Salmondも,フランスの極右Marine Le Penもギリシャの極左Alexis Tsiprasも,アメリカでは同性愛者を嫌う保守主義者たちも,プーチンの言動を愛する.
その理由は簡単だ.世界の出来事にアメリカが支配力を持ち,その価値(リベラル経済学,ゲイの権利,ザ・シンプソンズ)を及ぼすとき,それを嫌う人々はプーチンに惹かれるのだ.中国共産党や,イランのアヤトラではなく.巨大で,みすぼらしいが,高度に武装した,ロシアだ.プーチンは悪童のように,フェミニストのヒラリーを冷笑し,レイプをジョークに使う.
プーチンの態度は,その政策と同様に重要だ.プーチンが繰り返し示す好戦的な態度は,気まぐれな副作用ではない.それは,イスラム国家が流す斬首ビデオのように,敵を脅かし,同調者を増やすために,慎重に計算された戦略の一部である.
FP FEBRUARY 13,
2015
Putin’s Frozen
Conflicts
BY ROBERT ORTTUNG, CHRISTOPHER WALKER
FT February 16,
2015
Russian hearts,
minds and refrigerators
Gideon Rachman
FT February 16,
2015
We are all victims
now
Philip Stephens
FT February 17,
2015
The west has failed
to find a constructive role for Moscow
Robert Hunter
FP FEBRUARY 18,
2015
Let’s Call the
Ukrainian Cease-Fire What It Is
BY KURT VOLKER
Project Syndicate
FEB 19, 2015
Can Minsk 2.0 Save
Ukraine?
YULIYA TYMOSHENKO
NYT FEB. 19, 2015
Making the Most of
Minsk
By ADRIAN KARATNYCKY
l 外交か,武器供与か?
SPIEGEL ONLINE
02/14/2015
The War Next Door
Can Merkel's
Diplomacy Save Europe?
By SPIEGEL Staff
SPIEGEL ONLINE
02/14/2015
Leon Panetta
Interview
'You Have To Deal
with Russians from Strength'
Interview Conducted By Markus Feldenkirchen and Holger Stark
アメリカの元国防長官Leon
Panettaは,ロシアにウクライナで行動することが大きな代償を支払うことを示すために,キエフへの武器供与を含む,断固とした行動をとるべきだ,と語った.
:ヨーロッパの真ん中で戦争が起きることはどのくらい近くに迫っているのか?
:それはプーチン次第である.
:停戦合意を喜ぶが,それは前回と同じように,西側がウクライナを経済的・軍事的に:支援し,強制しなければ,一時的なものに終わる.
:あなたはCIAにいたころからロシアを観ている.何がプーチンを動かしているのか?
:旧ソ連圏で影響圏を保持すること.特に,EUやNATOへの加盟を阻止することだろう.
:ウクライナに武器を供給するべきか?
:プーチンに我々の決意の固さを知らせるべきだ.制裁から始めて,他の手段もとる.NATOは軍事支援を行うし,一層の攻撃に対して共同で防衛ラインを引くべきだ.ミサイル防衛網の構築も再開されるだろう.「軍事支援でもロシアは屈しないだろう.」というものが多い.しかし,軍事支援は明らかに,彼らの高い代償を意味する.ロシアの周辺諸国に,アメリカがエネルギーを供給することもできる.
:ドイツなどの国にもか?
:ドイツも,ポーランドも,ハンガリーも,ロシアのエネルギーに依存しているすべての国に,他の選択肢はある.
The Guardian, Sunday
15 February 2015
Ukraine points
towards the start of a tumultuous new era in world politics
Dmitri Trenin
The Guardian,
Sunday 15 February 2015
How Angela Merkel
became Europe’s undisputed leader
Franziska Augstein
The Guardian, Monday
16 February 2015
There’ll be no
peace while Putin is squatting in Ukraine’s living room
Timothy Garton Ash
第1次世界大戦の後も,第2次世界大戦の後も,1995年のボスニアでも,ヨーロッパの人々は“Never again!”と叫んだ.しかし,戦争は再現した.メルケルが奮闘の結果として得たミンスク停戦合意が平和をもたらすことを願うのと同様に,私はそれを疑っている.
すでに何が起きているのか.新たにヨーロッパの国家が武力によって分割された.国連の推定では,少なくとも5400人が殺害され,1万3000人が負傷し,160万人が住居を追われた.
先週,ミンスクⅡ停戦合意は次の内容を含む.ウクライナがロシアとの国境に対する管理権を回復するのは,今年の終わりであり,しかも,選挙を行い,2つの地域the Donetsk and Luhanskに憲法上の「特別な地位」を認めた場合のみである.しかもキエフ政府は,クリミアとこれらの地域に,年金や「公共費用」を支払わねばならない.
つまり,こういうことだ.あなたは裏のドアに鍵をかけてよいが,それは,銃をあなたの頭に突き付けるかもしれない誰かに居間を譲り,しかも,あなたが家賃を支払う場合だけだ,と.
理性のある者なら,このような恥知らずな合意に反対するだろう.現実には,旧式の,悪しき方法で,プーチンはEUに対抗する.すなわち,力が正義である.黒は白である.戦争が再現し,法は傷ついた難民のようにその下に従う.
これはロシア,アメリカ,イギリスが独立に合意した国で起きている.1994年のブタペスト覚書で,世界最大の核兵器保有を放棄するとともに,ウクライナはその独立を承認された.ボリス・エリツィン,ビル・クリントン,ジョン・メージャーが署名した.この信頼が破棄されたことから,他の核保有国や核開発を考える国は,核の放棄が何を意味するか理解するだろう.
モスクワのジャングルの法と,ブラッセルの法のジャングル.どちらが勝つのか? アメリカの著名な「リアリスト」であるJohn Mearsheimerは,ロシアが勝つ,と答える.われわれにできることは,「冷戦期にオーストリアがそうであったように,ウクライナをロシアとNATOの間にある中立の緩衝国にすることだ.そして,EU拡大やNATO加盟をあきらめる.」
そうだろうか? リアリストの教授は考えてみるべきだ.あなたが支持する完璧なリアルポリティークの頂上会談とは,ヤルタであろう.F.D.ルーズベルトとウィンストン・チャーチルが,ソビエトの東欧占領にあいまいな正当性を与えた.
独立国家を鑑賞国として利用することは正しいのか? ロシアについてMearsheimer よりも詳しいGarry Kasparovが最近のトウィッターでつぶやいた.「多数のウクライナ人を占領地における終身刑にして,「リアリストたち」は幸せそうだ.21世紀のヨーロッパでも.」
たとえプーチンがロシアで高い支持を得ているとしても,プーチンとロシアを混同してはならない.ヒトラーも高い支持を得ていたのだ.巧みなプロパガンダで国民の神話や傷を利用するなら,人々を破滅的な進路に向けることができる.国民は数年の後に目覚めて,その代償を支払わされる.
プーチンが侵した重大な原理は,国家の主権である.しかし問題はシリアでも同じだ.なぜシリアについて書かないのか? イラクに侵攻した英米がそのような主張をできるのか?
シリアについては,私は専門家ではなく,誰に聞いても明確な進路を描くことは難しい.英米がイラクに侵攻したことは,法的,道義的,戦略的に間違いだった.しかし,ウクライナは違う.明確な言葉で原則を示すことができる.「プーチンは軍隊を引き揚げ,ウクライナが東部の国境を完全に管理しなければならない.」
もちろん,これだけで分離主義者が抑えられるわけではない.戦場の極端な野蛮さが隣人たちを敵に変えてしまった.キエフは実効性のある連邦国家を回復し,ロシア人にとってもここが故郷であるようにすることだ.
FP FEBRUARY 17,
2015
What Putin Learned
from Reagan
BY STEPHEN M. WALT
大国は敵対する国が現れるのを嫌う.
衰退する大国が,長い間,自分の裏庭だと考えていた伝統的な影響圏を守るために,腐敗し,野蛮なオリガークの支配する小さな隣国に介入してきた.しかし,突如,大衆的な蜂起によって政権が崩壊し,腐敗した指導者が国外に逃亡した.大衆の支持する指導者は,そのイデオロギーに惹かれ,また,旧来の隣国に支配された関係を抜け出すために,敵対する遠方の大国と同盟関係を結びたいと熱望する.
これに対して,強硬派の,保守的な指導者は,かつての傀儡国家において,反政府グループに武器を供給し,新しい政権が遠方の大国と同盟関係を結ぶことを阻止し,さらには政権の崩壊を企てる.
よく知っている話だろうか? しかし,衰退する大国とはロシアではないし,保守的な指導者はプーチンではない.問題の小国とはウクライナでもない.この話は,アメリカとレーガン大統領,そして,ニカラグアを意味する.
1980年代,ニカラグアのサンディニスタ運動が,親米的な独裁者を打倒し,キューバと緊密な関係を結んだ.レーガン政権は,反政府軍を組織し,支援して,内戦が激化したのだ.その結果,ニカラグア国民の約2%,3万5000人が死亡した.アメリカの人口で換算すれば,600万人以上が死亡したことを意味する.
われわれがそれを嫌うとしても,大国が近隣諸国の政治に影響を与え,自分たちの死活的な利害に関して強硬策を採る,というのは通常の事態である.ところが,ウクライナ危機の発生や解決策を考えるとき,欧米はそれを忘れている.
ウクライナの事態は悲劇であり,プーチンやロシアの行動は非難されるべきだが,ロシアが採った行動はアメリカが西半球において採ってきた行動と変わらない.NATOやEUを拡大する我々の意図が高貴であるかどうかは問題ではない.それはロシアの指導者にとって,レーガンが小国ニカラグアに見た以上に,深刻な脅威であり,あるいは,そうなるに違いないものと見えるのだ.
単純な道義的議論が起きるのを,私は理解できる.西側は善良で,ロシアは悪だ,と.しかし,こうした道義論や独善性を,政策にしてはならない.地理的条件,その土地のバランス・オブ・パワー,ウクライナ内部の分裂状態,ロシアの利害,これらを前提すれば,強硬策は事態を改善するよりも悪化させるものである.
Timothy Garten Ashのゆな聡明な批評家が,事態の推移を観て,ロシアを非難し,「プーチンは軍隊を引き揚げ,ウクライナが東部の国境を完全に管理しなければならない.」と主張する.問題は,どうやってそれを実現するのか,彼が知らないことだ.
Project Syndicate
FEB 18, 2015
Why Ukraine Needs
Weapons
CARL BILDT
外交官や外交専門家たちの間で繰り返されるマントラがある.ロシアとウクライナとの紛争に軍事的な解決策はない,というものだ.
しかし,最近のミンスク停戦合意が武力行使を止められず,ウクライナ政府軍がDebaltseveから排除されたことを観れば,今や,クレムリンが押し付ける軍事的な解決策を阻止する必要がある,と考えねばならない.
最近,アメリカの3つの有力シンクタンクが示した提案はそれにふさわしい.アメリカがウクライナ政府軍にもっと高度な兵器と防衛システムを供給する,というものだ.しかし,ヨーロッパの諸政府は分裂している.
昨年,Donbas地域で分離主義者が現れたとき,ウクライナ軍だけで制圧できそうだった.しかし,クレムリンは直ちに反応した.ロシアは分離主義者の軍事的敗北を避けるために,何でもする気だ.ウクライナにこの地域を回復する見込みはなくなった.
分離主義の指導者たちは,Odessaに及ぶ黒海沿岸を支配し,小国家“Novorossiya"を設立することも考えている.こうしたシナリオが実現しないためには,クレムリンとの真剣な交渉で制裁を強め,彼らの攻撃がもたらす代償を高めるべきだ.しかし,外交交渉が持続的な平和をもたらすには,より包括的なアプローチが必要である.
それは,IMF融資の条件が示すように,ウクライナの改革を進めて腐敗を一掃し,成長を実現することだ.EUとの包括的な自由貿易圏協定は長期的な改革に決定的である.それらの条件が成功するために,ロシアの支援を受けた分離主義運動や黒海沿岸の小国家がウクライナの防衛力の弱さを突いて現れるのを阻止しなければならない.十分な防衛力なしには,紛争の政治的,外交的,解決策は不可能である.
メルケルなどが,紛争の軍事的解決策はない,と言うことは正しい.しかし,交渉と停戦合意が失敗したように,純粋な外交的解決策もないのだ.
FP FEBRUARY 18,
2015
After Debaltseve,
What Comes Next in the Fight for Eastern Ukraine?
BY REID STANDISH
Bloomberg FEB 18,
2015
Putin's Staying Put
(for Now)
By Leonid Bershidsky
The Guardian,
Thursday 19 February 2015
In their cynicism
about Putin, western diplomats are making the Ukrainian crisis worse
Mary Dejevsky
FT February 19,
2015
The short telegram
about Vladimir Putin’s Russia
Philip Stephens
西側は,ロシア人の世界観,プーチンの意図を理解し,共存のための枠組みを示すときである.メルケルとオバマが唱える「戦略的な忍耐」では不十分だ.1946年2月,George Kennanは「長い電報」でそれを示した.「封じ込め」とは軍事的な意味だけでなく,むしろ政治的,経済的なものだ.
l 中国とインドの外交
FP FEBRUARY 12,
2015
China, Sri Lanka,
and the Maritime Great Game
BY KEITH JOHNSON
Project Syndicate FEB
13, 2015
Trouble in Nepali
Paradise
SHASHI THAROOR
世界の関心を集めていないが,ネパールの政治状況は憲法上の危機にある.そして,インドと中国の間の小国が,再び,完全な内戦に向かうかもしれない.
1996年から2006年に,ネパールは毛沢東派の反政府軍が王朝支配に対して内戦を続けた.和平は,インドと国連の仲介で毛派が合意し,ようやく2005年に立憲議会を成立させた.King Gyanendra が退位した2年後,2008年に最初の選挙が行われた.
しかし,選挙の結果,毛派が第1党になったが,社会民主主義のネパール国民会議派,ネパール共産党,さらに,ネパール南部の少数民族を代表し,地方分権を唱える政党が,議席を分け合った.連立政権はいずれも数か月で崩壊し,ネパール政治に関する基本的な問題で合意が成立しないまま,憲法上の危機を深めている.
紛争はすでに該当闘争に発展している.反対派はストライキに訴え,ネパールの主要地域で市民生活がマヒしている.憲法上の危機を速やかに解消しなければ,毛派は民主的な政治過程を信用しなくなり,中央権力を重視するものは連邦主義を国家の分割とみなし,エスニックな分離主義は一層の自治に向かうだろう.この発火寸前の情勢から,いつでも内戦を再発させかねない.
内戦は中国とインドにとっても避けるべきことだ.もし,多くが懸念するように,中国が毛派を支援すれば,双方の直接対立にもなるだろう.
l 中国の変化
The Guardian,
Saturday 14 February 2015
The fascinating
truth behind all those ‘great firewall of China’ headlines
John Naughton
NYT FEB. 15, 2015
Currency Battle Is
Tethered to Obama Trade Agenda
By JONATHAN WEISMAN
FT February 16,
2015
China’s
‘left-behind kids’ move to the city
Patti Waldmeir
Bloomberg FEB 16,
2015
Easing Won't Be
Easy in China
By William Pesek
中国政府は経済のソフトランディングを求め,人民銀行の金融緩和を模索している.しかし,それは難しい.世界の主要中央銀行が金融緩和する中で,中国の金融政策が不透明,不安定になれば,人民元安や,債務危機,そして,アジア通貨危機を思い出させる,資本移動が増えるからだ.
FT February 17,
2015
Western executives
should speak truth to Chinese power
Philip Delves Broughton
FT February 18,
2015
China’s contradictory
war against corruption
NYT FEB. 18, 2015
Giving Up on Hong
Kong
By VERNA YU
FT February 19,
2015
China treads more
cautiously over maritime disputes
Tom Mitchell in Beijing, Michael Peel in Hanoi and Robin Harding in
Tokyo
l 通貨戦争
Bloomberg FEB 12, 2015
Currency Wars Have
a Nuclear Option
By Mark Gilbert
FT February 16,
2015
Dominant dollar
will act like a depth charge
Felix Martin
Project Syndicate
FEB 17, 2015
Put Up or Shut Up
LUCY P. MARCUS
l プレミアリーグ
The Guardian,
Friday 13 February 2015
The Premier League
is no longer England’s – this country is just the backdrop
Jonathan Freedland
The Guardian, Sunday
15 February 2015
Football is just
one example of the inequalities that bedevil us
Will Hutton
プレミアリーグはイギリスの不平等を象徴するものになってきた.放映権をめぐる入札で,SkyとBTは,年間の200試合を生放送するために,3年間で51億ポンドを支払う.HSBCは脱税を奨励し,首相は個人資産家の富を運用するファンドを代弁し,保守党は企業重役たちの憤慨から政治資金を得る.
主要なクラブチームには,ロシアのオリガークや石油王,イギリス貴族が極端に不公平な富を並べている.よい社会ではすべての文化と同様に,スポーツが誰にでも楽しめるものである.しかし,イギリスのフットボールは,その高価な入場料やテレビ放映権がそれを損なっている.その結果は,フットボールの短期的利益追求,選手の露骨な利己主義である.リーグ内のチームにも格差が拡大し,新しく強いチームが現れることはなくなった.
リーグの支持者たちは,欠陥を超える大きな利益を主張するだろう.グローバル・ブランドとして,世界中から選手と投資を集め,外国のテレビ放映権はイギリスにとって重要なサービス輸出である.富裕であることを,誰が嫌うのか?
すでに20クラブの中で11が外国の所有である.さらに外国資本による買収が続くだろう.試合では個人の成績をめぐるラフ・プレーが増え,支配的なチームが固定され,オーナーとマネージャーは辞任と狂乱状態を続ける.選手は才能を浪費し,ファンは愛着を失う.
あまりに多くの金と無関心への不平等が,プレミアリーグを破壊するだろう.フットボールは社会の縮図でしかない.公平さこそが重要だ.
l 無秩序と移民・難民
FT February 13,
2015
Saving migrants’
lives should pose no dilemma for Europe
NYT FEB. 15, 2015
A Death Sentence
for Migrants
Project Syndicate
FEB 18, 2015
The Death Toll of a
Dying Order
DAVID MILIBAND
国家間の戦争の数を基準とすれば,世界は過去300年間で最も平和な時代にある.しかし,世界に無秩序は広がっている.各地の紛争が激化している.ウクライナ,シリア,ナイジェリア,アフガニスタン,中央アフリカ,リビア,コンゴ,など.
3つの考察が示されている.1つは,ヨーロッパの宗教改革と同じことが,イスラム教の世界でも起きている,というものだ.Ahmed
Rashidは,ISISが戦っているのは西側ではなく,イスラム世界の内戦である,と明確に述べた.
しかし,その説明だけでは,独立したばかりの南スーダンなど,各地の紛争を説明できない.ほかにも2つの要因が重要である.1つは,グローバリゼーションの側面だ.世界の人口は同質化し,差異を失っていく,という予想とは逆に,各地のエスニック,政治,信仰が強化されている.そしてますます多くの国家が,こうした対立を国境内部で沈静化する能力を失ったのだ.その政治システムはあまりにも壊れやすく,住民はあまりにも貧しく,近隣諸国はあまりにもしばしば干渉し,権力をシェアすることや住民の必要を満たすことができない.
さらに,もう一つ,不安定化する世界を説明する要因は,国際システムが弱く,分裂していることだ.それは冷戦の時代とも対照的である.当時は国際システムの強い秩序が存在し,紛争を抑制できた.西アフリカで起きたエブラ・ウィルス感染でも,国際的な協力は遅く,各地の対応に負担が偏り,感染を拡大した.国際制度は各国の競合する要求に対応できず,組織の拡大に苦慮している.しかも,国家ごとのシステムは脆弱さを増す.
人道主義的な活動はあらゆる分野に広がっている.しかし,彼らにできるのは死を遅らせるだけである.紛争を止めることはできない.それは世界政治の課題である.
(後半へ続く)