IPEの果樹園2015

今週のReview

2/16-21

 

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アメリカの安全保障政策 ・・・イスラム国家のテロ ・・・中国と通貨戦争 ・・・ギリシャとの債務処理交渉 ・・・ウクライナへの武器供与 ・・・アベノミクスはCマイナス

[長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  アメリカの安全保障政策

FP FEBRUARY 6, 2015

Rice Pudding

BY DAVID ROTHKOPF

もしあなたがオバマの賛美者なら,新しい国家安全保障戦略National Security Strategy (NSS)にあなたが称賛する理由をすべて見出すだろう.それは抑制的で,国内問題を優先し,アメリカの軍事力の限界をよく知っており,ブッシュ政権がイラクとアフガニスタンで犯した大失敗を避けるだろう,と確認するはずだ.

もしあなたがオバマの批判者なら,あなたの感じていた不安がすべて実現しているのを見るだろう.「戦略的な忍耐」を唱え,明確な戦略を描いているが,その混乱ぶりはアメリカの国際的な地位を低下させ,ウクライナでもシリアでも,リビアでもアフガニスタンでも,事態を悪化させた.

あるいは,あなたが左からの批判家であれば,オバマはまた偽善を振りまいている,と思うだろう.価値を重視した外交政策と言いながら,ドローンによる攻撃,NSAの諜報活動,を続け,グアンタナモの閉鎖はできなかった.グローバルな金融改革も好まず,移民政策改革でも,気候変動の抑制でも,オバマが積極的に動くことはなかった.

もちろん,あなたは多くのアメリカ人と同様に,こんなものを読まないだろう.これは戦略ではない.過去の失敗の言い訳だ.

立派なことばかり書いてあるが,すべてはプラスに評価される.Susan Riceとその安全保障チームによる,「すべてはおおむね良好だ」という作文でしかない.

そして,私はと言えば,オバマに2度も投票した人間として,世界的な状況の悪化に十分な配慮を欠いたこと,オバマの戦略の欠如,過去の政策の正当化や言い訳ばかりをする態度に,何度も,ひどく後悔したわけだ.

Project Syndicate FEB 10, 2015

Challenging Disorder

JOHN F. KERRY

2次世界大戦から数年後に,北大西洋条約がアメリカとヨーロッパの関係諸国間で締結された.トルーマン大統領は,「大西洋共同体が平和のために緊密に協力すればするほど,世界中の人々にとって良いことだ」と,簡潔に述べた.

今,それは2つの重大な試練に直面している.われわれがこの70年間築き,維持してきた,国際法,多国間メカニズム,グローバルな秩序が脅かされている.

一つは,ウクライナだ.ロシアは東欧,中欧で,安全保障を危険な状態にしている.クリミアを不法に占拠し,ウクライナ東部を不安定化している.外交努力は続けられているが,その解決には時間がかかるだろう.アメリカ,フランス,ドイツ,そして同盟諸国がウクライナを支持するのは,国際的な境界線を軍事的に変更してはならない,という基本原則を支持するからだ.

2の試練は,暴力的な過激派の台頭だ.ヨルダンの飛行士を生きたまま焼き殺したISISや,学校を襲撃して145人も殺害したタリバンのように,世界のどこでも,このような過激派を受け入れることはないだろう.われわれは彼らを制圧するために協力し,支配地域を奪回し,資金源を断ちつつある.

暴力的な過激派との闘争が行われるのは,戦場でだけではない.不寛容,経済的な失望と排除が,過激派の浸透する隙を作る.過激派の広がる諸国に,それに代わるものを,信頼できる,目に見えるものを作るべきだ.

国際システムが解体しつつあると主張することが流行っているが,私は強く反対する.私は,アメリカが新しい,拡大した貿易協定を結ぼうとしており,世界のGDPの約70%を包括するのを見る.私はエボラの感染を防ぐために世界が協力するのを知っている.イランの核開発計画を阻み,気候変動を抑えるグローバルな枠組みのために協力し,中央アフリカ,コロンビア,コンゴ,など,各地の紛争を制限している.

確かに挑戦の時代だ.しかし,世界は極端な貧困を減らし,基本的な医療を改善し,子供たちの栄養状態は改善している.基礎教育を拡大し,寿命が延びている.歴史上のいかなる時代よりも,多くの人々が繁栄を手に入れ,それに近づいている.それらはすべて,国際システムが強固であることの証拠だ.

文明,理性,法の支配こそ,未来を築くのだ.


l  イスラム国家のテロ

FT February 6, 2015

To stop horror, turn it off

Gillian Tett

この1年で,6人のジャーナリストや国際援助スタッフが,ISISによって斬首された.その死体は現地の犠牲者とともにソーシャルメディアに公開された.

文化的なシンボルを操作して衝撃を与えるというだけでなく,ここには意味があるという人類学者の意見がある.この蛮行に対応するために,彼らの意見を聞いておこう.

1に,斬首は歴史上に多くの例がある.それはイスラム圏も含めて,国家の暴力であった.ISISは自分たちを国家とみなしており,斬首の誇示はその願望を示すものだ.

2に,斬首の公開とイメージの蔓延は,これが最初ではない.1939年,ドイツで最初の例があった.連続殺人犯Eugen Weidmannがギロチンによって斬首され,それがひそかに撮影されて,画像やビデオが流出した.政府は阻止しようとしたが,その後の数年間,広く閲覧された.人々は斬首を嫌悪しつつ,その情報に魅せられる.

3に,ソーシャルメディアがこうした好奇心の水準を飛躍的に高めた.斬首の実行犯たちは,目撃者を増やして勝利の感覚を味わっている.われわれはすべて,こうした画像を観ないという形で文化的な抵抗を選択できる.誰も見ない限り,処刑人は勝利を得られない.同じ技術により,人々は礼節を示し,Kenji Gotoの家族に祈りを届けられる.


l  中国と通貨戦争

Bloomberg FEB 5, 2015

Is China Preparing for Currency War?

By William Pesek

デフレを回避するために,中国も通貨戦争に参加した.中華人民銀行PBOCが預金準備率を引き下げたことだ.しかも,為替変動のバンドを拡大した,

習近平は,24年ぶりの低い成長率に落ち込んだ経済を刺激せよ,という強い圧力を受けている.しかも,過剰投資や債務を減らす成長モデルに移行する,と約束してきた.政府にとって,それは人民元を安くして輸出を伸ばす,ということだろう.

その影響は世界に及ぶ.日本,韓国,シンガポールはすでに通貨戦争に参加しており,東南アジア諸国が参加するのも間違いない.中国にとって,日本が30%も円安を進め,トヨタやソニーの市場を拡大していることは,中国産業への脅威であり,デフレの輸出である.安倍政権は,アメリカ議会が人民元の過小評価を操作することに制裁を求める姿勢に対して,中国に政治的な反撃手段を与えている.

日銀,アメリカ連銀,ECBと,世界がデフレ対策と競争的なQEに向かっている.しかし,それは国内需要を刺激できず,通貨安と他国の需要を奪うことに向かうのであれば,自己破壊的な通貨戦争を拡大するだけである.

世界最大の貿易国である中国が参戦したことの意味は深刻だ.

Project Syndicate FEB 10, 2015

An Accidental Currency War?

MOHAMED A. EL-ERIAN

スイスやシンガポールのような,安定性を最も重視する諸国も,これまでにない政策を採用している.それは,世界金融市場に影響を与える3大経済圏,アメリカ,ユーロ圏,日本が,金融緩和とその方向転換で差異を生じているからだ.開放小国経済は,これに耐えられない.

金融緩和も通貨安も,成長を回復するために中央銀行が圧力を受けていることを示す.問題は,金融緩和だけで解決できない経済成長への障害が多く存在することだ.インフラ投資,労働市場改革,財政再建,など,ファンダメンタルズの改善,家計,企業,政府の支出がもたらす総需要の不足,過剰な債務を処理する圧力,は中央銀行に解決できない.

結果的に,金融政策は,成長,インフレ,金融市場の安定性を達成する手段として信頼を欠くものになってしまう.さらに理想から離れる点は,中央銀行の金融政策が「宣戦布告のない通貨戦争」というゼロサム的な状況を生み出すことだ.この状況が破滅的でない条件は,第1に,アメリカがドル高を容認していることである.

アメリカの景気と雇用の回復は持続しており,外国市場の要因がそれに影響するのは小さいから,まだしばらくは政治的圧力が高まることはないだろう.アメリカの家計も企業も,その生産と消費の両側で世界と結びついており,保護主義を嫌う.

2に,金融市場がリスクを取ることにファンダメンタルズとの乖離を意識しない,ということだ.中央銀行は,景気回復のために生産的投資のリスクを減らそうとするが,その仮定が間違っているかもしれない.

いずれにせよ,中央銀行の姿勢は逆転する時が来る.そのとき金融緩和に慣れた世界経済はどのように反応するのか? 通貨戦争への流れがそれを加速するのか?


l  ギリシャとの債務処理交渉

Project Syndicate FEB 9, 2015

Greece is Playing to Lose

ANATOLE KALETSKY

ヨーロッパの未来は,ギリシャとドイツの合意にかかっている.ギリシャは債務削減を求め,ドイツは1ユーロも取り消せないと主張する.

ゲーム理論では,弱い側の決意が強く,強い側の関与が低い場合,その結果は最も予測できないものである.ギリシャとドイツの対立では,理論的に,プラスサムのゲームを描くことも簡単だ.政治的な主張を排して,参加者の経済的な利益に集中すればよい.双方の妥協も可能なはずだが,人間は間違いを犯す.

ギリシャの新しい財務大臣Yanis Varoufakisバルファキスは,ゲーム理論の専門家であるが,その戦略はお粗末だ.自分の頭に銃を押し付けて,引き金を引いてほしくないなら身代金を支払え,と要求している.こんな交渉では成果がない.

しかし,先月,ECBのドラギMario Draghi総裁は,巧みな戦略でドイツを説得し,QEを成功させた.ドイツとの論争では,債務の共有(ユーロ圏の他国の債務不履行がドイツの負担になること)をドイツが絶対に受け入れないことa “red line”がはっきりした.そこでドラギは,この点ではドイツが勝利することを最終段階で認めた.むしろ,QEの成功にとって,経済的には重要でない点を受け入れ,重要なQEの規模と交換したのだ.最後の瞬間に重要な点で譲歩を示すことが大切だ.

同様に,バルファキスも最後の瞬間まで債務の削減を要求し,その後でこの「原則」を譲歩することと交換に,緊縮や構造改革の条件で重大な譲歩を得るべきだった.あるいは,攻撃的な姿勢を抑えて,ドイツの「原則」を受け入れる代わりに,ギリシャ人の面目を失わない形で,緊縮の緩和を引き出せただろう.しかしバルファキスは,債務削減か,融資の拒否を唱えた.

債務削減が実現できなとわかったギリシャ政府は,無益なことに,トロイカとの交渉を拒否する姿勢を示した.トロイカは,ドイツ政府よりもむしろ,債務削減に理解を示していた.トロイカの次の融資を拒否すれば,ECBはギリシャの銀行システムに対する資金を引き上げ,228日が交渉の期限となってしまう.

ギリシャの理想主義的な指導者たちは,自分たちが民主的に得た権限が官僚制に対する絶対的な優位を持つと信じている.しかし,民主制に対する官僚機構の優位は,EUの諸制度が譲れない原則である.ポーカーに例えれば,ギリシャ政府はあまりにも早く最も強いカードを出した.そして信頼を欠いたブラフを試したのだ.

今後は,どうなるのか? Syrizaは敗北を認め,他のユーロ圏の諸政府がそうであったように,「トロイカ」の押し付けを外しただけで,トロイカ型の緊縮策を実施するだろう.あるいは,一方的な賃金引き上げや財政支出を行うかもしれない.そのばあい,ECBは追加融資を行えず,ギリシャ政府の交渉期限戦略は,アイルランドやキプロスと同じく,取り下げられる.

ギリシャ政府はEUが承認する官僚型の政権に交替するかもしれない.2012年に,イタリアでベルルスコーニがそうであったように.より穏健なシナリオでは,バルファキス財務大臣だけが交替する,というものだ.ほかの可能性としては,ギリシャの銀行が倒産して,ユーロ圏を離脱することであろう.

もしギリシャ政府が交渉に失敗すれば,ドイツがヨーロッパに課した自己破壊的な緊縮策を破棄する機会も,同様に,失われる.

Project Syndicate FEB 10, 2015

The Greek Austerity Myth

DANIEL GROS

Syrizaの要求は間違っている.2012年と状況が変わった.

ユーロ圏の他の債務諸国は改革に成功し,輸出や成長,財政再建を実現している.また,ECBは金融緩和で周辺諸国の経済を支援する.ドイツはギリシャ政府の要求を拒むだろう.

ギリシャ政府の要求は誤解されている.ギリシャはGDP170%に及ぶ債務で,その返済負担に苦しんでいる,というのは間違いだ.債権諸国は返済を猶予しており,その金利も抑えているため,ギリシャの返済負担はアイルランドやイタリアより少ない.

ギリシャが廃止を求める緊縮策は,もとからIMF, ECB, 欧州委員会の融資で負担されていた.

FT February 11, 2015

The historical and cultural differences that divide Europe’s union

Jürgen Stark

ドイツ人は経済政策を知らないのか? 政治的・経済的な危険がヨーロッパに,それゆえ,ドイツ自身に迫っているのを理解できないのか?

そうではない.真実は,ドイツがユーロ圏の多くの国より,堅実な政策を追求したのだ.ドイツは赤字を好まず,その文化的な違いは通貨同盟によって明白になった.

ドイツの経済政策は,問題の一時的な緩和ではなく,根本的な改革を求める.財政を赤字で融資に頼ることは,持続的な成長や雇用をもたらさない.成長に対する構造的な障害を解決するべきなのだ.それはECBの金融緩和や政府の赤字を増やすことではできない.

こうした異なる経済政策観を,ドイツの歴史的な経験が形成した.20世紀の2度の破壊的なインフレーションと,ナチ体制下の金融・財政政策の乱用が,社会的市場経済,という考えを導いた.市場経済は慎重にルールを定め,過度の国家介入には警戒する.

しかし,EUやユーロ圏は連邦制ではなく,共通の憲法による法的秩序がない.


l  ウクライナへの武器供与

NYT FEB. 8, 2015

Don't Arm Ukraine

By JOHN J. MEARSHEIMER

経済制裁によってもロシアがウクライナ東部への介入をやめないため,アメリカにおいてウクライナに武器援助をするべきだ,という声が高まるのは驚くことではない.

しかし,それは間違っている.アメリカにとっても,NATOにとっても,ウクライナ自身にとっても,重大な失敗になる.武器援助によってもウクライナ軍は勝利できず,むしろ戦争が激化するだろう.ロシアが数千発の核兵器を保有し,死活的な戦略的利益とみなすものを守るだけに,そのような決定は危険である.

ウクライナにおけるバランス・オブ・パワーはモスクワに有利であり,武器援助によってもワシントンは勝利できない.軍備増強ではモスクワを圧倒できないから,戦闘で勝利する必要がある.たとえ勝利できなくても,プーチンに損失を与えることであきらめさせることができる,と武器援助の支持者は主張する.

しかし,大国は自国の周辺で他の大国との軍事同盟が結ばれることを嫌う.モンロー宣言もそうだった.ロシアにとってウクライナがNATOに参加することは許せない.プーチンに核兵器を使用する威嚇まで考慮させるだろう.

FP FEBRUARY 9, 2015

Why Arming Kiev Is a Really, Really Bad Idea

BY STEPHEN M. WALT

アメリカはウクライナに武器を供与し,東部におけるロシア軍に支援された反政府軍の攻撃に抵抗し,敗退させるべきだろうか?

多くの外交官や専門家たちがthe Brookings Institution, the Atlantic Council, and the Chicago Council on Global Affairsから集まった作業チームは,そう考えている.しかし,それは驚きだ.ウクライナのような,破産した,分裂国家を支援して,アメリカが戦争を続けさせることに,意味はない.

作業チームは広くさまざまな意見を代表しておらず,以前からNATO拡大を推進した者たちである.さまざまな選択肢を検討したのではなく,彼らは過去の政策を正当化しているだけだ.ロシアに脅威を与えない,という彼らの考えは間違っていた.

しかも彼らは,脅威の累積が当てはまり条件で,抑止論を振り回している.Robert Jervisがその古典で説明したように,国家は全く異なった理由で威嚇的な行動を選択する.

抑止モデルが適当であるのは,国家の指導者が傲慢で,個人的な栄誉を求め,あるいは,イデオロギー的な理由で,他国からの脅威がないのに,攻撃的な姿勢を取るときだ.他方,スパイラル・モデルが適当であるのは,不安や安全保障の欠如から攻撃的な政策を取っている場合だ.その不安を抑止しようとすると,むしろ不安を強めて,一層の対立を生じてしまう.正しい対応は,外交的な緊張緩和であり,融和することだ.

ウクライナへの武器供与を支持する者は,抑止モデルを考えている.プーチンは無慈悲な攻撃的指導者で,ソ連帝国の復活を狙っている,というわけだ.しかし,証拠はスパイラル・モデルを支持している.ロシアはナチス・ドイツや現代の中国のような,台頭する野心的な大国ではなく,高齢化,人口減少に苦しむ,衰退していく旧大国である.国際的な影響力や影響圏を維持することにこだわるのだ.

そもそもウクライナの危機は,ロシアの攻撃的な姿勢で起き輪のではない.アメリカとEUがウクライナをロシアの軌道から外そうとしたのだ.その目的は抽象的には望ましいかもしれないが,モスクワは何としてでも阻止する姿勢を明確にした.それはロシアの領土的な欲望によってではなく,安全保障上の不安から生じているのだ.プーチンが重武装した反撃をすることを予測できなかったアメリカの外交官たちは,顕著に外交的能力を欠いていたわけだが,この大失敗を導いた連中が今も職を失っていないことは驚くべきことだ.

もっとも重要なことは,ウクライナの運命はアメリカにとって以上に,ロシアにとってはるかに重要なことであり,プーチンとロシアは,われわれが支払う以上に,大きな代償を支払う意志がある,ということだ.その決意の強さと,局地的なバランス・オブ・パワーの観点で,モスクワは大きな優位を示している.このような条件で,アメリカが勝つ見込みのない武器供与で競争することは無駄である.それはロシアを中国の側に追いやり,アメリカにとって長期的な利益を損なうし,ロシアとの核軍縮を損なうし,ウクライナ国民の苦しみを長引かせるだろう.

アメリカと同盟諸国は,NATO拡大という危険な,不必要な目標を放棄することだ.そして,ロシアに,ウクライナは永久に中立地帯として残し,その経済的な自立を可能にする再建策を,ロシア,EUIMFとともに推進することだ.

ウクライナへの武器供与は,ワシントンのシンクタンクで安全な部屋にいて考える者には簡単なことだろうが,ウクライナを助けると称して破壊してしまう,賢明ではないし,道義的にも支持できない外交なのである.

FT February 10, 2015

Help Ukraine seize this chance

Martin Wolf

西側はロシアとの戦争を考えたくないが,ロシア政府が考えているのは,西側との戦争,だ.プーチンとその仲間は,25年の歴史を,悲劇的な機会喪失としてではなく,悲しむべき侮辱と受け取っている.ロシアは,法の支配を守る,正直な政府を捨てて,この失敗に対処する.今は,ウクライナだ.

ウクライナを,安定した,繁栄する民主主義国に変えることほど,ロシアのkleptocracy略奪政治体制を脅かすものはない.政府の無能さと腐敗が,ウクライナの未来を奪っているのだ.実際,1990年に,ほぼ同じ生活水準であったポーランドとウクライナは,その後,逆の方向に変わった.2013年までに,ポーランドの一人当たりGDPはウクライナの160%もある.

戦争はウクライナ経済に深刻な影響を及ぼしているが,IMFは安定化のための多年度の融資を計画するだけでなく,根本的な改革を求める必要がある.

Anders Aslundによれば,腐敗とコネを排除する包括的改革の重要な要素としては,1.エネルギー価格を市場価格に一致させる,2.多数の監視機関や許認可権,特に銀行から寡占企業への融資を廃止する,3.財政赤字を減らすが,外貨準備は拡充する.さらにウクライナに対する民間債権者による債務削減も進める.これらは

こうした融資と構造改革だけでなく,ほかにも重大な問題がある.ロシアに対する一層厳しい制裁を取るべきか? ウクライナに対して武器供与を行うべきか?

私の考えは,どちらも Yes である.それには強い反対意見がある.大きなリスクがあること,ロシアを抑えるより,報復を招く危険もある.

それにもかかわらず,経済的に見て,ウクライナを支援することは道義的,政治的に,強く支持できる.西側にはウクライナの経済安定化に十分な資源がある.それは,長期的に,ロシアを説得するチャンスを拡大する.外交,制裁,武器供与を通じて,西側はキエフを支援し,その改革を成功させるべきだ.それだけでは十分でないが,それは西側に不可欠なものである.


l  アベノミクスはCマイナス

YaleGlobal, 10 February 2015

Grading Abenomics: It’s a C-

Edward J. Lincoln

アベノミクスの発想は正しいが,その実現は限られていた.評価は,Cマイナス,である.

安倍が掲げた目標は,2%のインフレと,2%の実質FGP成長であった.そのための手段は,3本の矢として,金融緩和,財政刺激策,構造改革,を唱えていた.

安倍は幸運にも日銀総裁の交代時期に,これまでの金融政策を転換する黒田総裁を指名できた.劇的な金融緩和(2年でマネタリーベースを2倍)を行ったといわれるが,それでもアメリカ連銀(3か月で2倍)に比べて限定的なものであった.その効果は,消費税の引き上げや,実際には引き締めとなった政府支出,銀行融資の増大の遅さによって,不十分なものに終わった.

財政刺激策は,補正予算で変化し,しかも議論は財政再建に向かって,消費税引き上げを実行することになった.消費税引き上げが住宅建設に与えたマイナスの影響は大きかった.そして,構造改革として,あまりにも多くの政策課題を示し,集中的な努力を欠いたまま,抵抗する利益団体によって抑制されたものに変えられた.

総じてアベノミクスは,金融緩和によって生じた円安が,1980年代前半の水準にまで達し,輸出を増やすことで成長をもたらすだけだった.それはインフレで消費者を苦しめ,構造改革を進めるものでもなかった.

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The Economist January 31st 2015

Go ahead, Angela. Make my day

The accession of King Salman in Saudi Arabia: An unholy pact

Thailand politics: Moral disorder

Greece’s election: Beware Greeks voting for gifts

Labour unrest: Out brothers. Out!

Russia and Ukraine: Understanding Putin’s plans

Germany and Israel; A very special relationship

Buttonwood: A peg in a poke

European banks: Easing means squeezing

(コメント) ドイツ,サウジアラビア,タイ,ギリシャ,中国,ロシア,ウクライナ,為替レート,ユーロ圏.どれも面白い内容です.

特に,メルケルをめぐって,ヨーロッパや世界の秩序が動きつつあることに驚きます.ロシアとの外交と制裁,ギリシャとの融資と交渉,ECBとのユーロ圏に関する経済調整・景気刺激,さらに,ここには出ていませんが,ヨーロッパに向かう移民,テロ,イスラム教徒への差別,中国との貿易・投資,さらに,イギリスのEU離脱? ・・・

ドイツとイスラエルとの「非常に特別な関係」は,日本と韓国,中国も,興味深く読むでしょう.

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IPEの想像力 2/16/15

テレビのニュースを観ていたとき,民主党の枝野幹事長が話すコメントに注目しました.

・・・戦後70年の談話を安倍首相が出しても,それが国会で十分な議論を経たものでなければ,首相の個人的な主張を示したものでしかない.国民の合意を形成する努力を欠けば,首相が変われば,その意味も変わる.

私たちは,今,ウクライナの東部で,新しいベルリンの壁,あるいは,北朝鮮の建国,を観ているのでしょうか?

アメリカや西側からウクライナへ武器援助する案について,Ashは強く支持し,Wolfはリスクを認めながら支持する,と答えました.しかし,MearsheimerWaltは強く反対します.プーチンは,オバマよりもウクライナに多くの影響力を保持しており,アメリカによる武器供与は,それに対抗する一層のロシア軍の増強によって打ち消される.ウクライナが安定化する見込みはさらに遠ざかるのだ,と.

市場統合による利益と比べて,安全保障では,今も距離が決定的に重要です.モスクワはドネツクをいつでも征服できるし,アメリカがウクライナやグルジアを支援することは限られます.エスカレーションの末に,プーチンが核兵器を用いても威嚇するとしたら,オバマはそのようなチキン・ゲームに加わらないでしょう.

ヨーロッパでは,立て続けに,イスラム過激派がテロ事件を起こしました.イスラム国家による斬首ビデオは,あまりの残虐さに言葉をなくしますが.西側によるイスラム圏への侵略,略奪,破壊行為を歴史的に報復する感情を広めます.それは,ある意味で,習近平の中国が掲げる,「恥辱の1世紀」を終わらせる,愛国運動のスローガン,と共通します.斬首は,王朝の交代や,革命の後に見られる,国家としての自己主張だと人類学者は解説します.

日本の政治家や保守主義者たちは,後藤健二さんの斬首映像に憤り,日本が国家として重要な点で欠けている,と確信したようです.しかし,アジア(と欧米)の人々は,日本軍による斬首を思い出す,ということに,向き合う深い思想があるのだろうか? と私は恐れました.

ドイツの首相,メルケルは,ある意味で,安倍晋三と似た位置から,しかし,かなり異なった視野で国際秩序の転換を担い,その責任を自覚しているはずです.The Economistの記事は,イスラエルとの「非常に特別な関係」を描きます.50年前,初めてイスラエルに赴任したドイツ大使は,罵声と腐ったトマトを浴びました.しかし今では,アウシュビッツ解放70周年を前に行われたイスラエルの世論調査で,ヨーロッパのもっとも好きな国,になったそうです.

だから日本も,ドイツを見習うべきだ,と中国や韓国は主張するかもしれません.

しかし,記事は続きます.ドイツでは,主にパレスチナ問題で,イスラエルに対する懐疑が強まっています.ホロコーストに関して,ドイツ人の多くは過ぎたことであると感じ,2度と戦争してはならない,と考えます.メルケルはネタニヤフに対しても,2国家案を支持し,パレスチナの土地に入植することを批判します.ドイツには,(その多くがロシアから来た)10万人のユダヤ人と,400万人のイスラム教徒がいます.

安全保障と成長の持続的条件とは切り離せず,相互に強め合うものです.ウクライナも,イスラム国家も,ギリシャと同様に,長期的な融資や投資を通じて,国境を越えた,政治システムや制度の構造改革が問われています.

ECBの量的緩和,為替レートの不安定化(世界通貨戦争),ユーロ圏の構造改革,財政再建からギリシャの債務危機,プーチンへの制裁,ウクライナの経済安定化・近代化,国内の反イスラム運動,反ユダヤ主義の復活,中国経済の減速や石油価格の下落,などに,メルケルは発言し,行動しなければなりません.

国会代表質問のテレビ中継を観ました.とても面白いことに,驚きました.江田憲治による「維新の党」の代表質問は,現在の政治の面白さを凝縮していたのかもしれません.

オバマとメルケルは,ウクライナ,イスラム国家,ギリシャに関して,重大な選択を協力して決断するでしょう.そして,プーチン,習近平,モディ,安倍晋三も,第2次世界大戦によってできた国際システムの限界について談話を発表し,その改革を構想するときです.

・・・「国民的な議論を踏まえずに出しても、安倍内閣が終わった瞬間に効力を無くしてしまう」.「そうした談話は日本国としてのものではなく、安倍総理大臣の談話にすぎず、その程度のものを出そうとしているのか、と問いかけたい.」

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