IPEの果樹園2015

今週のReview

2/16-21

 

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アメリカの安全保障政策 ・・・イスラム国家のテロ ・・・中国と通貨戦争 ・・・ギリシャとの債務処理交渉 ・・・国連を強化する4つの提案 ・・・ウクライナへの武器供与 ・・・中国の転換期 ・・・アベノミクスはCマイナス

[長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  アメリカの安全保障政策

FP FEBRUARY 5, 2015

White House Unveils Call for ‘Strategic Patience’

BY GOPAL RATNAM

ホワイトハウスは新しい安全保障政策を発表した.そして,さまざまな緊急事態があふれる世界で,紛争に対処する長期的視点を求めた.オバマ大統領の信念である,慎重な行動が事態の悪化を避ける,という方針に従ったものだ.

「成果は即座に,また,単純に現れない」とSusan Rice国家安全保障補佐官はthe Brookings Institutionで述べた.「しかし,日々の危機を超えて未来を獲得し,その世界観を追求する.」

オバマ政権の対応は,イスラム国家やロシア軍によるウクライナ侵攻も含めて,非難されてきた.しかしRiceは,「戦略的忍耐」という政策を求めた.アメリカは軍事力を行使しなければならないが,長期の紛争に巻き込まれる対応策には我慢が必要だ.そうすることで,長期的視点から,安全保障の根本的条件が変化することに対応し,将来の国益を守ることができる.

しかし外交評議会the Council on Foreign Relations Stewart Patrick 研究員は,緊急事態の間で競合する優先順位を選択するべきだが,それが明確でない,と批判する.ホワイトハウスからの明確な指示がないからだ.

アメリカが直面する危機はさまざまだ.すなわち,太平洋やサイバー圏における中国の攻撃的な姿勢,イスラム国家,ロシア,ジェノサイド,気候変動.また,アメリカには軍事力のほかにも,金融・経済制裁のようなパワーがある.しかし,オバマはボコハラムの虐殺に対しても慎重であるし,シリアやウクライナで,その不十分な軍事援助,経済政策の効果には批判がある.気候変動の抑制に関しては,中国との合意に大きく依存している.

2011年,イラクから米軍を撤退させたことは,その後,シリアとイラクでイスラム国家の拡大が生じ,米軍の関与を再び拡大しつつある.

オバマに対する戦略の欠如という批判は続くだろう.

FT February 6, 2015

Global crises demand patience, says Obama

Geoff Dyer in Washington

オバマ政権が示した優先リストに示されたのは,ロシアや中東ではなく,核拡散,テロ,気候変動,感染症対策,であった.共和党からの批判に応えて,オバマ大統領は,戦略的な忍耐と持続を強調した.

FP FEBRUARY 6, 2015

Welcome to Obama Land

BY AARON DAVID MILLER

FP FEBRUARY 6, 2015

Rice Pudding

BY DAVID ROTHKOPF

もしあなたがオバマの賛美者なら,新しい国家安全保障戦略National Security Strategy (NSS)にあなたが称賛する理由をすべて見出すだろう.それは抑制的で,国内問題を優先し,アメリカの軍事力の限界をよく知っており,ブッシュ政権がイラクとアフガニスタンで犯した大失敗を避けるだろう,と確認するはずだ.

もしあなたがオバマの批判者なら,あなたの感じていた不安がすべて実現しているのを見るだろう.「戦略的な忍耐」を唱え,明確な戦略を描いているが,その混乱ぶりはアメリカの国際的な地位を低下させ,ウクライナでもシリアでも,リビアでもアフガニスタンでも,事態を悪化させた.

あるいは,あなたが左からの批判家であれば,オバマはまた偽善を振りまいている,と思うだろう.価値を重視した外交政策と言いながら,ドローンによる攻撃,NSAの諜報活動,を続け,グアンタナモの閉鎖はできなかった.グローバルな金融改革も好まず,移民政策改革でも,気候変動の抑制でも,オバマが積極的に動くことはなかった.

もちろん,あなたは多くのアメリカ人と同様に,こんなものを読まないだろう.これは戦略ではない.過去の失敗の言い訳だ.

立派なことばかり書いてあるが,すべてはプラスに評価される.Susan Riceとその安全保障チームによる,「すべてはおおむね良好だ」という作文でしかない.

そして,私はと言えば,オバマに2度も投票した人間として,世界的な状況の悪化に十分な配慮を欠いたこと,オバマの戦略の欠如,過去の政策の正当化や言い訳ばかりをする態度に,何度も,ひどく後悔したわけだ.

The Guardian, Tuesday 10 February 2015

The careless, astonishing cruelty of Barack Obama’s government

George Monbiot

Project Syndicate FEB 10, 2015

Challenging Disorder

JOHN F. KERRY

2次世界大戦から数年後に,北大西洋条約がアメリカとヨーロッパの関係諸国間で締結された.トルーマン大統領は,「大西洋共同体が平和のために緊密に協力すればするほど,世界中の人々にとって良いことだ」と,簡潔に述べた.

今,それは2つの重大な試練に直面している.われわれがこの70年間築き,維持してきた,国際法,多国間メカニズム,グローバルな秩序が脅かされている.

一つは,ウクライナだ.ロシアは東欧,中欧で,安全保障を危険な状態にしている.クリミアを不法に占拠し,ウクライナ東部を不安定化している.外交努力は続けられているが,その解決には時間がかかるだろう.アメリカ,フランス,ドイツ,そして同盟諸国がウクライナを支持するのは,国際的な境界線を軍事的に変更してはならない,という基本原則を支持するからだ.

2の試練は,暴力的な過激派の台頭だ.ヨルダンの飛行士を生きたまま焼き殺したISISや,学校を襲撃して145人も殺害したタリバンのように,世界のどこでも,このような過激派を受け入れることはないだろう.われわれは彼らを制圧するために協力し,支配地域を奪回し,資金源を断ちつつある.

暴力的な過激派との闘争が行われるのは,戦場でだけではない.不寛容,経済的な失望と排除が,過激派の浸透する隙を作る.過激派の広がる諸国に,それに代わるものを,信頼できる,目に見えるものを作るべきだ.

国際システムが解体しつつあると主張することが流行っているが,私は強く反対する.私は,アメリカが新しい,拡大した貿易協定を結ぼうとしており,世界のGDPの約70%を包括するのを見る.私はエボラの感染を防ぐために世界が協力するのを知っている.イランの核開発計画を阻み,気候変動を抑えるグローバルな枠組みのために協力し,中央アフリカ,コロンビア,コンゴ,など,各地の紛争を制限している.

確かに挑戦の時代だ.しかし,世界は極端な貧困を減らし,基本的な医療を改善し,子供たちの栄養状態は改善している.基礎教育を拡大し,寿命が延びている.歴史上のいかなる時代よりも,多くの人々が繁栄を手に入れ,それに近づいている.それらはすべて,国際システムが強固であることの証拠だ.

文明,理性,法の支配こそ,未来を築くのだ.

FP FEBRUARY 10, 2015

#Disrupt the Pentagon

BY KATE BRANNEN

NYT FEB. 11, 2015

Obama Seeks an Expansive War Authorization to Combat ISIS

By THE EDITORIAL BOARD

NYT FEB. 11, 2015

Congress, Don’t Be Fooled; Obama Still Believes in Unlimited War

By BRUCE ACKERMAN


l  イスラム国家のテロ

Bloomberg FEB 5, 2015

Abe Has to Look Beyond World War II

By The Editors

FT February 6, 2015

To stop horror, turn it off

Gillian Tett

先週,Kenji Goto後藤健二の解放を願う,元FTの同僚ジャーナリストHenry Tricksが書いたブログを観た.しかし,後藤の斬首を示すビデオが今週初めに公開され,その訴えは悲劇に終わった.

この1年で,6人のジャーナリストや国際援助スタッフが,ISISによって斬首された.その死体は現地の犠牲者とともにソーシャルメディアに公開された.

文化的なシンボルを操作して衝撃を与えるというだけでなく,ここには意味があるという人類学者の意見がある.この蛮行に対応するために,彼らの意見を聞いておこう.

1に,斬首は歴史上に多くの例がある.それはイスラム圏も含めて,国家の暴力であった.ISISは自分たちを国家とみなしており,斬首の誇示はその願望を示すものだ.

2に,斬首の公開とイメージの蔓延は,これが最初ではない.1939年,ドイツで最初の例があった.連続殺人犯Eugen Weidmannがギロチンによって斬首され,それがひそかに撮影されて,画像やビデオが流出した.政府は阻止しようとしたが,その後の数年間,広く閲覧された.人々は斬首を嫌悪しつつ,その情報に魅せられる.

3に,ソーシャルメディアがこうした好奇心の水準を飛躍的に高めた.斬首の実行犯たちは,目撃者を増やして勝利の感覚を味わっている.われわれはすべて,こうした画像を観ないという形で文化的な抵抗を選択できる.誰も見ない限り,処刑人は勝利を得られない.同じ技術により,人々は礼節を示し,Kenji Gotoの家族に祈りを届けられる.

FP FEBRUARY 6, 2015

Want to Hurt the Islamic State? Here’s How.

BY CHRISTIAN CARYL

イスラム国家ISを壊滅するために,アメリカは空爆するだけでなく,地上軍としてヨルダンと協力する.しかし,さらに,アメリカからの物的な支援を得ないまま,不十分な装備で,ISと激しい戦闘に入っているクルド人部隊に,大規模な支援を届けるべきだ.

アメリカ政府はイラクの分裂を恐れ,その政治的な理由から,クルド人の武力を強化したくなかったのだ.クルド国家独立は地域のバランス・イブ.パワーを根本的に変えることであり,懸念するのは理解できる.アメリカはバクダッドにクルド支援の拒否権を与えていた.

問題はクルドが軍備を持つかどうかではない.クルド人がイラク国家の中で,十分な自治権と,資源に対する権利を認められるなら,完全な独立を放棄することに同意した.それはすべての者に好ましい取引だ.

FP FEBRUARY 9, 2015

The World War Inside Islam

BY JAMES TRAUB

アメリカがイラク侵攻した後の世界について,新保守主義(ネオコン)の批評家Norman Podhoretzは長い評論で,イスラム過激派との戦いを「第4次世界大戦」として描いた.そのたとえはイスラム国家が登場し,パリでテロが起きた結果,冷戦を第3次世界大戦として,今では大げさに思えなくなった.

キッシンジャー的なアナリストで諜報機関を運営するGeorge Friedmanは,イスラム圏とキリスト圏との戦争,に関して最近書いた.Foreign PolicyAaron David Millerは,1世代に及ぶ戦争,長い戦争,と呼んだ.

しかし文明論的なたとえは,間違った認識と,正しい行為についての偏向を与える.世界大戦というのは,かつて19世紀にフランス革命後,イギリスとフランスが,そして第1次世界大戦では地政学的な意味でヨーロッパの諸大国が戦った.その後は,ファシズムやコミュニズムが,そのイデオロギーを世界に広めるために,主に西側社会の組織化についてリベラルな勢力と戦った.

イスラム過激派の行動は逆向きである.その戦争は非西側の文明圏で戦われている.イスラム世界それ自体の内部で戦われる戦争だ.しかし,911は誤解を与えた.西側にできることは,むしろ,「本土防衛」に関する様々な努力であろう.また,安定した,宗教にも寛容な諸国を支援することも重要だ.教育や,公衆衛生の改善,など,また企業家を育成し,若者の雇用を増やすことも,支援することが重要だ.

Project Syndicate FEB 11, 2015

Muzzled in the Name of Freedom

IAN BURUMA


l  中国と通貨戦争

Bloomberg FEB 5, 2015

Is China Preparing for Currency War?

By William Pesek

デフレを回避するために,中国も通貨戦争に参加した.中華人民銀行PBOCが預金準備率を引き下げたことだ.しかも,為替変動のバンドを拡大した,

習近平は,24年ぶりの低い成長率に落ち込んだ経済を刺激せよ,という強い圧力を受けている.しかも,過剰投資や債務を減らす成長モデルに移行する,と約束してきた.政府にとって,それは人民元を安くして輸出を伸ばす,ということだろう.

その影響は世界に及ぶ.日本,韓国,シンガポールはすでに通貨戦争に参加しており,東南アジア諸国が参加するのも間違いない.中国にとって,日本が30%も円安を進め,トヨタやソニーの市場を拡大していることは,中国産業への脅威であり,デフレの輸出である.安倍政権は,アメリカ議会が人民元の過小評価を操作することに制裁を求める姿勢に対して,中国に政治的な反撃手段を与えている.

日銀,アメリカ連銀,ECBと,世界がデフレ対策と競争的なQEに向かっている.しかし,それは国内需要を刺激できず,通貨安と他国の需要を奪うことに向かうのであれば,自己破壊的な通貨戦争を拡大するだけである.

世界最大の貿易国である中国が参戦したことの意味は深刻だ.

Project Syndicate FEB 10, 2015

An Accidental Currency War?

MOHAMED A. EL-ERIAN

スイスやシンガポールのような,安定性を最も重視する諸国も,これまでにない政策を採用している.それは,世界金融市場に影響を与える3大経済圏,アメリカ,ユーロ圏,日本が,金融緩和とその方向転換で差異を生じているからだ.開放小国経済は,これに耐えられない.

金融緩和も通貨安も,成長を回復するために中央銀行が圧力を受けていることを示す.問題は,金融緩和だけで解決できない経済成長への障害が多く存在することだ.インフラ投資,労働市場改革,財政再建,など,ファンダメンタルズの改善,家計,企業,政府の支出がもたらす総需要の不足,過剰な債務を処理する圧力,は中央銀行に解決できない.

結果的に,金融政策は,成長,インフレ,金融市場の安定性を達成する手段として信頼を欠くものになってしまう.さらに理想から離れる点は,中央銀行の金融政策が「宣戦布告のない通貨戦争」というゼロサム的な状況を生み出すことだ.この状況が破滅的でない条件は,第1に,アメリカがドル高を容認していることである.

アメリカの景気と雇用の回復は持続しており,外国市場の要因がそれに影響するのは小さいから,まだしばらくは政治的圧力が高まることはないだろう.アメリカの家計も企業も,その生産と消費の両側で世界と結びついており,保護主義を嫌う.

2に,金融市場がリスクを取ることにファンダメンタルズとの乖離を意識しない,ということだ.中央銀行は,景気回復のために生産的投資のリスクを減らそうとするが,その仮定が間違っているかもしれない.

いずれにせよ,中央銀行の姿勢は逆転する時が来る.そのとき金融緩和に慣れた世界経済はどのように反応するのか? 通貨戦争への流れがそれを加速するのか?


l  ギリシャとの債務処理交渉

The Guardian, Friday 6 February 2015

Stop squeezing Syriza. We can’t afford another wrong turn in Europe

Sony Kapoor

NYT FEB. 6, 2015

A Game of Chicken

Paul Krugman

ドイツは銀行を守りたい.しかし,ギリシャ離脱はEUを破壊する.

これは債務をめぐる協力的な交渉ではなく,チキン・ゲームだ.ダイナマイトを積んだトラックが,狭い山道を反対方向から走ってくる.どちらも譲る気はない.生産的な協力関係を築くはずのEUで,なぜこんなことが起きるのか?

ギリシャ危機が再現したのは,政治家たちの欺瞞によるものだ.政治家たちは,有権者が聞きたがる話だけした.そして,守れない約束をした.現実を直視せず,難しい選択を回避できるかのようにふるまった.

私はもちろん,メルケルとその仲間のことを話している.ギリシャへの融資が返済できると,彼らは説明できなくなると,問題を道徳問題にすり替える.借りたものは返すべきだ,と.

ECBはだれの利益を代表するのか? ドイツのための債務取立人なのか? あるいは,ヨーロッパ経済とその民主的な制度の守護者なのか?

FT February 8, 2015

Washington urges eurozone leaders to compromise with Athens

Peter Spiegel in Brussels and Shawn Donnan in Washington

FT February 9, 2015

Greek negotiators should learn a little from Britain

Bill Emmott

Project Syndicate FEB 9, 2015

Greece is Playing to Lose

ANATOLE KALETSKY

ヨーロッパの未来は,ギリシャとドイツの合意にかかっている.ギリシャは債務削減を求め,ドイツは1ユーロも取り消せないと主張する.

ゲーム理論では,弱い側の決意が強く,強い側の関与が低い場合,その結果は最も予測できないものである.ギリシャとドイツの対立では,理論的に,プラスサムのゲームを描くことも簡単だ.政治的な主張を排して,参加者の経済的な利益に集中すればよい.双方の妥協も可能なはずだが,人間は間違いを犯す.

ギリシャの新しい財務大臣Yanis Varoufakisバルファキスは,ゲーム理論の専門家であるが,その戦略はお粗末だ.自分の頭に銃を押し付けて,引き金を引いてほしくないなら身代金を支払え,と要求している.こんな交渉では成果がない.

しかし,先月,ECBのドラギMario Draghi総裁は,巧みな戦略でドイツを説得し,QEを成功させた.ドイツとの論争では,債務の共有(ユーロ圏の他国の債務不履行がドイツの負担になること)をドイツが絶対に受け入れないことa “red line”がはっきりした.そこでドラギは,この点ではドイツが勝利することを最終段階で認めた.むしろ,QEの成功にとって,経済的には重要でない点を受け入れ,重要なQEの規模と交換したのだ.最後の瞬間に重要な点で譲歩を示すことが大切だ.

同様に,バルファキスも最後の瞬間まで債務の削減を要求し,その後でこの「原則」を譲歩することと交換に,緊縮や構造改革の条件で重大な譲歩を得るべきだった.あるいは,攻撃的な姿勢を抑えて,ドイツの「原則」を受け入れる代わりに,ギリシャ人の面目を失わない形で,緊縮の緩和を引き出せただろう.しかしバルファキスは,債務削減か,融資の拒否を唱えた.

債務削減が実現できなとわかったギリシャ政府は,無益なことに,トロイカとの交渉を拒否する姿勢を示した.トロイカは,ドイツ政府よりもむしろ,債務削減に理解を示していた.トロイカの次の融資を拒否すれば,ECBはギリシャの銀行システムに対する資金を引き上げ,228日が交渉の期限となってしまう.

ギリシャの理想主義的な指導者たちは,自分たちが民主的に得た権限が官僚制に対する絶対的な優位を持つと信じている.しかし,民主制に対する官僚機構の優位は,EUの諸制度が譲れない原則である.ポーカーに例えれば,ギリシャ政府はあまりにも早く最も強いカードを出した.そして信頼を欠いたブラフを試したのだ.

今後は,どうなるのか? Syrizaは敗北を認め,他のユーロ圏の諸政府がそうであったように,「トロイカ」の押し付けを外しただけで,トロイカ型の緊縮策を実施するだろう.あるいは,一方的な賃金引き上げや財政支出を行うかもしれない.そのばあい,ECBは追加融資を行えず,ギリシャ政府の交渉期限戦略は,アイルランドやキプロスと同じく,取り下げられる.

ギリシャ政府はEUが承認する官僚型の政権に交替するかもしれない.2012年に,イタリアでベルルスコーニがそうであったように.より穏健なシナリオでは,バルファキス財務大臣だけが交替する,というものだ.ほかの可能性としては,ギリシャの銀行が倒産して,ユーロ圏を離脱することであろう.

もしギリシャ政府が交渉に失敗すれば,ドイツがヨーロッパに課した自己破壊的な緊縮策を破棄する機会も,同様に,失われる.

Project Syndicate FEB 9, 2015

Argentina’s Lessons for Greece

RAQUEL FERNÁNDEZ and JONATHAN PORTES

NYT FEB. 9, 2015

Greece to Propose a Debt Compromise Plan to Creditors

By LIZ ALDERMAN and NIKI KITSANTONIS

Bloomberg FEB 9, 2015

Tsipras Lays Out Part of the Road Map for Greece

By Mohamed A. El-Erian

FT February 10, 2015

Two false paths for Europe — and a new third way

Tony Blair

ヨーロッパがその実態と理想を今まで以上に求められている.ヨーロッパの個々の諸国が,ヨーロッパの利益,影響力,価値を決める集団的なパワーを求めている.しかし,ギリシャの行きづまりが示すように,ヨーロッパは危機にある.

大生の意見では,妥協は達成される.債務は増えて,処理は延期されるのだ.ギリシャ政府とトロイカは,中間地点で妥協する.

私はそう思わない.ギリシャはもっと大きな問題の一部である.状況は持続不可能で,提供された解決策は間違いだ,というギリシャの主張は正しい.経済が25%も縮小する事態を想像することは難しいが,イギリスなら革命が起きるだろう.

これはヨーロッパが直面するジレンマだ.しかし,ヨーロッパは構造改革を必要としている.ギリシャ政府は,債務返済に反対しているだけでなく,構造改革にも反対する.成長を実現できないとき,政治は左右に振れて,解決をもたらす中央の政治勢力が後退してしまう.

成長を実現する大きな妥協と合意が必要だ.金融と財政で経済を刺激し,同時に,各国が明確かつ検証可能な構造改革の計画を示すのだ.合意は,すべての者の利益を含まなければ成立しない.改革のためには,ヨーロッパ規模の合意が望ましい.

中央の政治勢力が指導すれば極端な主張も従う.ギリシャ危機を機会として生かすべきだ.

SPIEGEL ONLINE 02/10/2015

Athens vs. Brussels

Greece Inches Closer to Renewal of Debt Crisis

By Martin Hesse and Christian Reiermann

SPIEGEL ONLINE 02/10/2015

Shrinking Merkel Down To Size

Berlin Faces Austerity Challenge in Brussels

By Christoph Pauly and Christoph Schult

欧州委員会が大規模公共投資計画を立て,財政安定化協定を変更しようとしている.ユーロ危機においてバワーのバランスが変化し,誰が権力を握るのか,問われている.ユンカー欧州委員会委員長は,ユーロ圏を経済的に支配するドイツの首相ではなく,ヨーロッパ議会こそが権力を握るべきだ,と考えている.

Project Syndicate FEB 10, 2015

The Greek Austerity Myth

DANIEL GROS

Syrizaの要求は間違っている.2012年と状況が変わった.

ユーロ圏の他の債務諸国は改革に成功し,輸出や成長,財政再建を実現している.また,ECBは金融緩和で周辺諸国の経済を支援する.ドイツはギリシャ政府の要求を拒むだろう.

ギリシャ政府の要求は誤解されている.ギリシャはGDP170%に及ぶ債務で,その返済負担に苦しんでいる,というのは間違いだ.債権諸国は返済を猶予しており,その金利も抑えているため,ギリシャの返済負担はアイルランドやイタリアより少ない.

ギリシャが廃止を求める緊縮策は,もとからIMF, ECB, 欧州委員会の融資で負担されていた.

FP FEBRUARY 10, 2015

Syriza Rolls the Dice

BY KORI SCHAKE

The Guardian, Wednesday 11 February 2015

Pablo Iglesias: If the Greek olive branch is rejected, Europe may fall

Pablo Iglesias, leader of Spain's Podemos party

FT February 11, 2015

The historical and cultural differences that divide Europe’s union

Jürgen Stark

ドイツ人は経済政策を知らないのか? 政治的・経済的な危険がヨーロッパに,それゆえ,ドイツ自身に迫っているのを理解できないのか?

そうではない.真実は,ドイツがユーロ圏の多くの国より,堅実な政策を追求したのだ.ドイツは赤字を好まず,その文化的な違いは通貨同盟によって明白になった.

ドイツの経済政策は,問題の一時的な緩和ではなく,根本的な改革を求める.財政を赤字で融資に頼ることは,持続的な成長や雇用をもたらさない.成長に対する構造的な障害を解決するべきなのだ.それはECBの金融緩和や政府の赤字を増やすことではできない.

こうした異なる経済政策観を,ドイツの歴史的な経験が形成した.20世紀の2度の破壊的なインフレーションと,ナチ体制下の金融・財政政策の乱用が,社会的市場経済,という考えを導いた.市場経済は慎重にルールを定め,過度の国家介入には警戒する.

しかし,EUやユーロ圏は連邦制ではなく,共通の憲法による法的秩序がない.


l  プーチンの反撃

FT February 6, 2015

Vladimir Putin and his tsar quality

John Thornhill

ソ連時代の共産党が誇る歴史家,Leonard Schapiroは,民主主義を他の権威主義体制と区別する決定的要素を「法の支配」とみなした.2000年に,ロシアの有権者が大統領になったプーチンVladimir Putinに望んだことは,帝国の分裂と経済的なカオスに代わって,秩序を回復すること,法の支配であった.しかし,この15年間にプーチンが達成したことは,彼と少数派の特権であった.「私の友人たちには何でも許される.私の敵には,法の支配だ.」

Putin’s Kleptocracy: Who Owns Russia?, by Karen Dawisha, Simon & Schuster, RRP$30, 464 pages

Red Notice: How I Became Putin’s No. 1 Enemy, by Bill Browder, Bantam Press, RRP£18.99/Simon & Schuster, RRP$28, 384 pages

Nothing Is True and Everything Is Possible, by Peter Pomerantsev, Faber & Faber, RRP£14.99/Public Affairs, RRP$25.99, 284 pages

FP FEBRUARY 6, 2015

Putin’s Peninsula Is a Lonely Island

BY DIMITER KENAROV

FP FEBRUARY 11, 2015

Is Putin’s Demise Spelled Out in New York’s Real Estate Listings?

BY ANDREW SCOTT COOPER


後半へ続く)