前半から続く)


l  国連を強化する4つの提案

NYT FEB. 6, 2015

Four Ideas for a Stronger U.N.

By KOFI A. ANNAN and GRO HARLEM BRUNDTLAND

70年前に国際連合は,これからの世代が戦争の惨禍に苦しまないように,設立された.しかし,世界中でこの目標は損なわれている.ナイジェリア,中東,アフガニスタン,ウクライナ,などで,何百万もの人々が死と苦しみの淵を逃げ惑うが,国連は無力である.

この組織を強化するために,われわれは4つのアイデアを提案する.

問題の重要な部分は安全保障理事会だ.第2次世界大戦の戦勝諸国が今も理事会を支配する.世界の,特に南の諸国はそれを納得できない.安保理の権威は傷つき,決定の正当性は疑われる.ほとんどすべての者が常任理事国を増やすことに同意するが,どの国が加わるか,常任理事国の拒否権をどうするべきか,意見が異なる.

1.新しい理事国の概念を創る.この理事国は,毎年選出される非常任理事国より,長期に役割を果たし,再選されることもできる.

2.既存の常任理事国は,その合意形成を欠くことで理事会の行動を妨げない,と誓約する.常任理事国は,自国の利益のために拒否権を行使してはならず,まさに提案された計画が,平和と危機にさらされた人々に危害を与えると懸念するときだけ,行使できる.その場合,明確な説明と代案を示し,裏取引ではなく,共通の土俵に立って,効果的な解決策を見出すために協力する.

3.安保理は,その決議によって影響を受ける人々から慎重に意見を聴取する.その紛争地域の人々に,十分な情報と決定への影響力を与える.

4.安保理は,国連にふさわしい指導者を決める.国連憲章とその精神に従う指導者は,密室の議論ではなく,理事会の投票で決定する.特に,常任理事国は異なる色の投票カードを使用して,どの国が支持し,反対したか,明確に示す.国や性別に拠らず,資格のある最善の候補を出して,安保理が推薦した複数の候補から,総会が決定する.その人物は7年の任期を1基だけ努める.


l  ウクライナへの武器供与

Bloomberg FEB 6, 2015

Merkel and Hollande's Mission in Moscow

By Leonid Bershidsky

NYT FEB. 7, 2015

Western Nations Split on Arming Kiev

By MICHAEL R. GORDON, ALISON SMALE and STEVEN ERLANGER

FT February 8, 2015

This time Minsk must be made to work

NYT FEB. 8, 2015

Don't Arm Ukraine

By JOHN J. MEARSHEIMER

経済制裁によってもロシアがウクライナ東部への介入をやめないため,アメリカにおいてウクライナに武器援助をするべきだ,という声が高まるのは驚くことではない.

しかし,それは間違っている.アメリカにとっても,NATOにとっても,ウクライナ自身にとっても,重大な失敗になる.武器援助によってもウクライナ軍は勝利できず,むしろ戦争が激化するだろう.ロシアが数千発の核兵器を保有し,死活的な戦略的利益とみなすものを守るだけに,そのような決定は危険である.

ウクライナにおけるバランス・オブ・パワーはモスクワに有利であり,武器援助によってもワシントンは勝利できない.軍備増強ではモスクワを圧倒できないから,戦闘で勝利する必要がある.たとえ勝利できなくても,プーチンに損失を与えることであきらめさせることができる,と武器援助の支持者は主張する.

しかし,大国は自国の周辺で他の大国との軍事同盟が結ばれることを嫌う.モンロー宣言もそうだった.ロシアにとってウクライナがNATOに参加することは許せない.プーチンに核兵器を使用する威嚇まで考慮させるだろう.

その危険を意識して,支持者は「防衛的」な武器を提供する,と言うが,そのような明確な区別はない.ウクライナ危機は外交的に解決するしかないのだ.

メルケルやヨーロッパの指導者たちは,今も,ウクライナを自分たちの側に含めて,解決策を考えているが,それは間違いだ.ウクライナはロシアとの緩衝国家であると認めるべきであり,EUNATOには入れない.アメリカは,ロシアと協力してウクライナの安定化を実現し,経済を再建することが,すべての国の利益になることを認めるべきだ.

Bloomberg FEB 8, 2015

Putin Can't Have the Last Laugh in Ukraine

By The Editors

NYT FEB. 9, 2015

Western Illusions Over Ukraine

Roger Cohen

FP FEBRUARY 9, 2015

Why Arming Kiev Is a Really, Really Bad Idea

BY STEPHEN M. WALT

アメリカはウクライナに武器を供与し,東部におけるロシア軍に支援された反政府軍の攻撃に抵抗し,敗退させるべきだろうか?

多くの外交官や専門家たちがthe Brookings Institution, the Atlantic Council, and the Chicago Council on Global Affairsから集まった作業チームは,そう考えている.しかし,それは驚きだ.ウクライナのような,破産した,分裂国家を支援して,アメリカが戦争を続けさせることに,意味はない.

作業チームは広くさまざまな意見を代表しておらず,以前からNATO拡大を推進した者たちである.さまざまな選択肢を検討したのではなく,彼らは過去の政策を正当化しているだけだ.ロシアに脅威を与えない,という彼らの考えは間違っていた.

しかも彼らは,脅威の累積が当てはまり条件で,抑止論を振り回している.Robert Jervisがその古典で説明したように,国家は全く異なった理由で威嚇的な行動を選択する.

抑止モデルが適当であるのは,国家の指導者が傲慢で,個人的な栄誉を求め,あるいは,イデオロギー的な理由で,他国からの脅威がないのに,攻撃的な姿勢を取るときだ.他方,スパイラル・モデルが適当であるのは,不安や安全保障の欠如から攻撃的な政策を取っている場合だ.その不安を抑止しようとすると,むしろ不安を強めて,一層の対立を生じてしまう.正しい対応は,外交的な緊張緩和であり,融和することだ.

ウクライナへの武器供与を支持する者は,抑止モデルを考えている.プーチンは無慈悲な攻撃的指導者で,ソ連帝国の復活を狙っている,というわけだ.しかし,証拠はスパイラル・モデルを支持している.ロシアはナチス・ドイツや現代の中国のような,台頭する野心的な大国ではなく,高齢化,人口減少に苦しむ,衰退していく旧大国である.国際的な影響力や影響圏を維持することにこだわるのだ.

そもそもウクライナの危機は,ロシアの攻撃的な姿勢で起き輪のではない.アメリカとEUがウクライナをロシアの軌道から外そうとしたのだ.その目的は抽象的には望ましいかもしれないが,モスクワは何としてでも阻止する姿勢を明確にした.それはロシアの領土的な欲望によってではなく,安全保障上の不安から生じているのだ.プーチンが重武装した反撃をすることを予測できなかったアメリカの外交官たちは,顕著に外交的能力を欠いていたわけだが,この大失敗を導いた連中が今も職を失っていないことは驚くべきことだ.

もっとも重要なことは,ウクライナの運命はアメリカにとって以上に,ロシアにとってはるかに重要なことであり,プーチンとロシアは,われわれが支払う以上に,大きな代償を支払う意志がある,ということだ.その決意の強さと,局地的なバランス・オブ・パワーの観点で,モスクワは大きな優位を示している.このような条件で,アメリカが勝つ見込みのない武器供与で競争することは無駄である.それはロシアを中国の側に追いやり,アメリカにとって長期的な利益を損なうし,ロシアとの核軍縮を損なうし,ウクライナ国民の苦しみを長引かせるだろう.

アメリカと同盟諸国は,NATO拡大という危険な,不必要な目標を放棄することだ.そして,ロシアに,ウクライナは永久に中立地帯として残し,その経済的な自立を可能にする再建策を,ロシア,EUIMFとともに推進することだ.

ウクライナへの武器供与は,ワシントンのシンクタンクで安全な部屋にいて考える者には簡単なことだろうが,ウクライナを助けると称して破壊してしまう,賢明ではないし,道義的にも支持できない外交なのである.

Bloomberg FEB 9, 2015

The World According to Angela Merkel

By Leonid Bershidsky

FT February 10, 2015

Help Ukraine seize this chance

Martin Wolf

西側はロシアとの戦争を考えたくないが,ロシア政府が考えているのは,西側との戦争,だ.プーチンとその仲間は,25年の歴史を,悲劇的な機会喪失としてではなく,悲しむべき侮辱と受け取っている.ロシアは,法の支配を守る,正直な政府を捨てて,この失敗に対処する.今は,ウクライナだ.

ウクライナを,安定した,繁栄する民主主義国に変えることほど,ロシアのkleptocracy略奪政治体制を脅かすものはない.政府の無能さと腐敗が,ウクライナの未来を奪っているのだ.実際,1990年に,ほぼ同じ生活水準であったポーランドとウクライナは,その後,逆の方向に変わった.2013年までに,ポーランドの一人当たりGDPはウクライナの160%もある.

戦争はウクライナ経済に深刻な影響を及ぼしているが,IMFは安定化のための多年度の融資を計画するだけでなく,根本的な改革を求める必要がある.

Anders Aslundによれば,腐敗とコネを排除する包括的改革の重要な要素としては,1.エネルギー価格を市場価格に一致させる,2.多数の監視機関や許認可権,特に銀行から寡占企業への融資を廃止する,3.財政赤字を減らすが,外貨準備は拡充する.さらにウクライナに対する民間債権者による債務削減も進める.これらは

こうした融資と構造改革だけでなく,ほかにも重大な問題がある.ロシアに対する一層厳しい制裁を取るべきか? ウクライナに対して武器供与を行うべきか?

私の考えは,どちらも Yes である.それには強い反対意見がある.大きなリスクがあること,ロシアを抑えるより,報復を招く危険もある.

それにもかかわらず,経済的に見て,ウクライナを支援することは道義的,政治的に,強く支持できる.西側にはウクライナの経済安定化に十分な資源がある.それは,長期的に,ロシアを説得するチャンスを拡大する.外交,制裁,武器供与を通じて,西側はキエフを支援し,その改革を成功させるべきだ.それだけでは十分でないが,それは西側に不可欠なものである.

NYT FEB. 9, 2015

European Leaders Debate Aid to Ukraine, but Not Russia’s Transgressions

By SERGE SCHMEMANN

ミュンヘン安全保障会議の雰囲気は,ロシアに対する敵意に満ちていた.それはロシア関係者にとって危険なものであった.

ウクライナに対するアメリカからの武器供与を,もっと高度なレーダー・システムや攻撃的な武器も含めるべきだ,という議論が強まっている.オバマは慎重な姿勢を保っている.他方,メルケルは武器供与の強硬論に反対だ.冷戦の経験から,軍事的な解決はあり得ない,と主張する.外交的な解決が失敗しても,その後,次の外交的努力を始めるしかない.

プーチンは武器供与を歓迎するかもしれない.アメリカの介入を警告してきたのであり,いつでも,一層の武器供与を行って反政府軍の優位を確保できる.

FP FEBRUARY 10, 2015

Smoking Putin Out of His Cave

BY JAMES JEFFREY

Bloomberg FEB 11, 2015

First Weapons, Then What for Ukraine?

By Noah Feldman


l  アメリカ国内政治

The Guardian, Sunday 8 February 2015

Deluded and dysfunctional, the Republicans have lost the plot

Gary Younge

FT February 8, 2015

The jesters shaping American politics

ED Luce

NYT FEB. 9, 2015

Let’s Not Mention Inequality

By RAMESH PONNURU


l  アメリカの経済政策

FT February 8, 2015

Only raise US rates when whites of inflation’s eyes are visible

Larry Summers

NYT FEB. 9, 2015

Nobody Understands Debt

Paul Krugman

FT February 9, 2015

Policy makers eye corporate cash piles in bid to boost growth

Ferdinando Giugliano, Economics CorrespondentAuthor alerts

FT February 11, 2015

Interview: US wages, inflation and rate rises

Sam Fleming in San Francisco


l  民主主義とポピュリズム

The Guardian, Monday 9 February 2015

Why Ernesto Laclau is the intellectual figurehead for Syriza and Podemos

Dan Hancox

昨年の4月にErnesto Laclau78歳で亡くなったとき,アルゼンチン生まれの,Oxfordで学んだポスト・マルクス主義者がスペイン左派政党Podemosの知的な指導者の一人であることを知る者は少なかった.Laclauは,「ラディカルな民主主義」として,ポピュリズムを擁護する政治理論を開拓した.

2011年,スペイン国民が大規模な抗議デモを行ったとき,1つのスローガンがポピュリズムの本質を示していた.「右でも左でもなく,われわれは底辺から,トップに向けて抗議する.」 Laclauによれば.こうした内的な敵対的フロンティアを,Podemosなど,ポピュリスト運動は,民衆とその要求を拒む支配階級との間に定義したのだ.

トロイカの進める財政緊縮を受け入れたMariano Rajoy首相が,社会福祉を削減すると,PAH(住宅ローン被害者協会)の立ち退き拒否,住宅占拠運動が活発化した.こうした運動は,旧左翼である社会党や共産党の権威をも掘り崩した.

Laclauは,ポピュリズムへの批判を誰がするのか,と問う.彼らは政治の正常さを強調する.しかし,彼らにとってポピュリズムは危険であるのは,民主主義が危険なものであるからだ.「合理性は個人に属する.」 しかし,エリートは大衆を軽蔑している.

Podemosは,以前から,NATOに反対し,イラク戦争に反対した人々にあった「内的なフロンティア」を,2008年後の大衆と支配層の間に引いたのだ.


l  中国の転換期

FT February 9, 2015

China’s strange fear of a colour revolution

Gideon Rachman

北京の街には欧米のブランドがあふれている.若者の様子も西側諸国と同じだ.しかし,それは表面的な類似であり,中国のインターネット検閲,「万里の長城」は強化されている.GoogleTwitterも,その他の多くのサイトが接続できない.

中国の指導部は「カラー革命」の波及を強く懸念している.アラブ世界の革命の波,そして,香港のデモが,革新的な通信手段やインターネットを利用していることを重視し,ウクライナの政変ではプーチンの解釈に同意した.すなわち,アメリカは世界中で政権転覆と親米派の権力獲得を謀っている,というものだ.

習近平は政治権力を集中し,国内の支持を高めているけれど,国民に支持される汚職追放運動も,共産党幹部には不安を広めるものである.経済成長の減速も重なって,習近平に対する反発や,主席交代の可能性が噂される.

外から見れば,中国政府の懸念は大げさであるが,権力者は常に狂気にさらされている.

Bloomberg FEB 9, 2015

China's Dangerous Debt Drag

By William Pesek

中国経済の成長を妨げる債務累積は消え去らない.不動産部門,シャドー・バンキング・システム,地方政府に累積している.

政府はこれを一気に解消できないから,目標を絞って順次解決する計画を立てている.まずは,事実を認めさせることだ.

FT February 9, 2015

China’s policy dilemma deepens on record trade surplus

James Kynge

中国は,成長の減速による輸入の減少が,人民元のユーロや円に対する増加による油種tぐの減少を超えて,大幅な貿易黒字を出した.それは成長を刺激するために人民元を安くしたいという条件で,しかし,貿易黒字をさらに増やすことで「通貨戦争」という批判を招き,リバランスという目標に反することで,制約されている.

Project Syndicate FEB 10, 2015

China’s War on Western Values

MINXIN PEI

FT February 10, 2015

Chinese go on spending spree and double investment in Europe

Claire Jones in Frankfurt and Jamil Anderlini in Beijing

FT February 11, 2015

China and Pakistan make an oddball but enduring couple

David Pilling

中国の外交専門家Wang Jisiによれば,ゼロサム・ゲームとなっている東アジアに比べて,パキスタンやアフガニスタンのような中国の西のフロンティアは,アメリカとの協力によって相互の利益が可能である.

(China Daily) 2015-02-11

US can learn from China's Ukraine policy

By Mike Bastin


l  アベノミクスはCマイナス

YaleGlobal, 10 February 2015

Grading Abenomics: It’s a C-

Edward J. Lincoln

アベノミクスの発想は正しいが,その実現は限られていた.評価は,Cマイナス,である.

安倍が掲げた目標は,2%のインフレと,2%の実質FGP成長であった.そのための手段は,3本の矢として,金融緩和,財政刺激策,構造改革,を唱えていた.

安倍は幸運にも日銀総裁の交代時期に,これまでの金融政策を転換する黒田総裁を指名できた.劇的な金融緩和(2年でマネタリーベースを2倍)を行ったといわれるが,それでもアメリカ連銀(3か月で2倍)に比べて限定的なものであった.その効果は,消費税の引き上げや,実際には引き締めとなった政府支出,銀行融資の増大の遅さによって,不十分なものに終わった.

財政刺激策は,補正予算で変化し,しかも議論は財政再建に向かって,消費税引き上げを実行することになった.消費税引き上げが住宅建設に与えたマイナスの影響は大きかった.そして,構造改革として,あまりにも多くの政策課題を示し,集中的な努力を欠いたまま,抵抗する利益団体によって抑制されたものに変えられた.

総じてアベノミクスは,金融緩和によって生じた円安が,1980年代前半の水準にまで達し,輸出を増やすことで成長をもたらすだけだった.それはインフレで消費者を苦しめ,構造改革を進めるものでもなかった.


NYT FEB. 11, 2015

How the West Turns on Itself

Jochen Bittner


NYT FEB. 11, 2015

What Is the Purpose of Society?

Mark Bittman


l  モディの敗北

Bloomberg FEB 11, 2015

India Gives Modi a Taste of Defeat

By Chandrahas Choudhury

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The Economist January 31st 2015

Go ahead, Angela. Make my day

The accession of King Salman in Saudi Arabia: An unholy pact

Thailand politics: Moral disorder

Greece’s election: Beware Greeks voting for gifts

Labour unrest: Out brothers. Out!

Russia and Ukraine: Understanding Putin’s plans

Germany and Israel; A very special relationship

Buttonwood: A peg in a poke

European banks: Easing means squeezing

(コメント) ドイツ,サウジアラビア,タイ,ギリシャ,中国,ロシア,ウクライナ,為替レート,ユーロ圏.どれも面白い内容です.

特に,メルケルをめぐって,ヨーロッパや世界の秩序が動きつつあることに驚きます.ロシアとの外交と制裁,ギリシャとの融資と交渉,ECBとのユーロ圏に関する経済調整・景気刺激,さらに,ここには出ていませんが,ヨーロッパに向かう移民,テロ,イスラム教徒への差別,中国との貿易・投資,さらに,イギリスのEU離脱? ・・・

ドイツとイスラエルとの「非常に特別な関係」は,日本と韓国,中国も,興味深く読むでしょう.

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IPEの想像力 2/16/15

テレビのニュースを観ていたとき,民主党の枝野幹事長が話すコメントに注目しました.

・・・戦後70年の談話を安倍首相が出しても,それが国会で十分な議論を経たものでなければ,首相の個人的な主張を示したものでしかない.国民の合意を形成する努力を欠けば,首相が変われば,その意味も変わる.

私たちは,今,ウクライナの東部で,新しいベルリンの壁,あるいは,北朝鮮の建国,を観ているのでしょうか?

アメリカや西側からウクライナへ武器援助する案について,Ashは強く支持し,Wolfはリスクを認めながら支持する,と答えました.しかし,MearsheimerWaltは強く反対します.プーチンは,オバマよりもウクライナに多くの影響力を保持しており,アメリカによる武器供与は,それに対抗する一層のロシア軍の増強によって打ち消される.ウクライナが安定化する見込みはさらに遠ざかるのだ,と.

市場統合による利益と比べて,安全保障では,今も距離が決定的に重要です.モスクワはドネツクをいつでも征服できるし,アメリカがウクライナやグルジアを支援することは限られます.エスカレーションの末に,プーチンが核兵器を用いても威嚇するとしたら,オバマはそのようなチキン・ゲームに加わらないでしょう.

ヨーロッパでは,立て続けに,イスラム過激派がテロ事件を起こしました.イスラム国家による斬首ビデオは,あまりの残虐さに言葉をなくしますが.西側によるイスラム圏への侵略,略奪,破壊行為を歴史的に報復する感情を広めます.それは,ある意味で,習近平の中国が掲げる,「恥辱の1世紀」を終わらせる,愛国運動のスローガン,と共通します.斬首は,王朝の交代や,革命の後に見られる,国家としての自己主張だと人類学者は解説します.

日本の政治家や保守主義者たちは,後藤健二さんの斬首映像に憤り,日本が国家として重要な点で欠けている,と確信したようです.しかし,アジア(と欧米)の人々は,日本軍による斬首を思い出す,ということに,向き合う深い思想があるのだろうか? と私は恐れました.

ドイツの首相,メルケルは,ある意味で,安倍晋三と似た位置から,しかし,かなり異なった視野で国際秩序の転換を担い,その責任を自覚しているはずです.The Economistの記事は,イスラエルとの「非常に特別な関係」を描きます.50年前,初めてイスラエルに赴任したドイツ大使は,罵声と腐ったトマトを浴びました.しかし今では,アウシュビッツ解放70周年を前に行われたイスラエルの世論調査で,ヨーロッパのもっとも好きな国,になったそうです.

だから日本も,ドイツを見習うべきだ,と中国や韓国は主張するかもしれません.

しかし,記事は続きます.ドイツでは,主にパレスチナ問題で,イスラエルに対する懐疑が強まっています.ホロコーストに関して,ドイツ人の多くは過ぎたことであると感じ,2度と戦争してはならない,と考えます.メルケルはネタニヤフに対しても,2国家案を支持し,パレスチナの土地に入植することを批判します.ドイツには,(その多くがロシアから来た)10万人のユダヤ人と,400万人のイスラム教徒がいます.

安全保障と成長の持続的条件とは切り離せず,相互に強め合うものです.ウクライナも,イスラム国家も,ギリシャと同様に,長期的な融資や投資を通じて,国境を越えた,政治システムや制度の構造改革が問われています.

ECBの量的緩和,為替レートの不安定化(世界通貨戦争),ユーロ圏の構造改革,財政再建からギリシャの債務危機,プーチンへの制裁,ウクライナの経済安定化・近代化,国内の反イスラム運動,反ユダヤ主義の復活,中国経済の減速や石油価格の下落,などに,メルケルは発言し,行動しなければなりません.

国会代表質問のテレビ中継を観ました.とても面白いことに,驚きました.江田憲治による「維新の党」の代表質問は,現在の政治の面白さを凝縮していたのかもしれません.

オバマとメルケルは,ウクライナ,イスラム国家,ギリシャに関して,重大な選択を協力して決断するでしょう.そして,プーチン,習近平,モディ,安倍晋三も,第2次世界大戦によってできた国際システムの限界について談話を発表し,その改革を構想するときです.

・・・「国民的な議論を踏まえずに出しても、安倍内閣が終わった瞬間に効力を無くしてしまう」.「そうした談話は日本国としてのものではなく、安倍総理大臣の談話にすぎず、その程度のものを出そうとしているのか、と問いかけたい.」

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