IPEの果樹園2015

今週のReview

2/9-14

 

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中国と国際秩序 ・・・アメリカと中米 ・・・金融政策の協調 ・・・プーチンとの対決 ・・・ベーシック・インカム ・・・ギリシャ左派政権との交渉 ・・・独裁の再定義 ・・・日本の戦後秩序改革

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  中国と国際秩序

Project Syndicate JAN 30, 2015

The Grand Strategy of Xi Jinping

YOON YOUNG-KWAN

2014年を通じて,中国は「アジア人のためのアジア」という言葉で,70年前に日本が試みたように,帝国的なパワーを得ようとしてきた.中国の試みは,日本が失敗したような結果にはならないだろう.

既得権を持つ大国,特にアメリカとの対立は避けられない.しかし,間もなく,アメリカはロシアとの対立に大きく関心を向けざるを得なくなった.この面では,中国はむしろアメリカの同盟国である.中国はロシアからのエネルギー購入に関する長期契約を結んだが,その価格決定や,クリミア併合後のロシア向け融資停止を見ると,中国はロシアの側に就く気はない.

また,習近平は,日本との関係にも回復のサインを示し,近隣諸国に対してハードパワーよりソフトパワー,経済的な利益で関係を強化しつつある.他方,アメリカ国内の政治情勢から,オバマ政権はアジア外交に対するパワーを失っている.

アメリカのグローバルな指導力が失われるのは事実であり,その真空を埋めるのが中国かも知れない.アメリカが大統領選挙で内向きになる時期は特に,まず,アメリカの役割が低下し,機能しないアジアの秩序を,中国が作り直すだろう.


l  アメリカと中米

NYT JAN. 29, 2015

Joe Biden: A Plan for Central America

By JOSEPH R. BIDEN Jr.

昨夏,アメリカの南西国境を越えようとした,保護者のいない多くの子供たちを思うなら,中米El Salvador, Guatemala and Hondurasの治安と繁栄がアメリカのそれと結びついていることは明白だ.

南北アメリカの経済が躍進する中でも,これらの諸国は衰退したままだ.それは,教育の投資が不足し,制度が腐敗し,犯罪が蔓延しており,投資がなされないからだ.この10年間に600万人の若者達が労働市場に加わるが,彼らに十分な雇用がなければ,その結果,多くの難民が西半球に流出する.

これらの国から指導者たちがワシントンのオバマ大統領を訪問したとき,彼らがこうした問題を解決することに取り組むなら,アメリカはそれを支援すると説明した.透明性を高め,腐敗を防止し,汚職や人身売買にかかわった高官を追放し,米州開発銀行と協力する,など,各国の政府は改革を始めている.

3つの分野に注目している.1.治安回復.地方の警察力を改善し,コミュニティーに依拠した治安のネットワークを支援し,国境を越える犯罪組織にも対処する.2.雇用と投資を呼び込むためにガバナンスを改善する.裁判所,政府契約,徴税システム,を改革する.3.政府の財源では不十分だ.国際投資や民間投資を増やすことが欠かせない.

それは国家の大改造であるが,1999年,コロンビアが麻薬組織による混乱と貧困から立ち直る計画をアメリカは支援し,それに成功した.中米諸国を改革することは,その投資に十分見合うものであり,議会に協力を求めたい.


l  金融政策の協調

Bloomberg JAN 29, 2015

Central Bankers, Unite!

By William Pesek

9月になれば,世界はプラザ合意の30周年を迎える.ドル安と円高を促したこの合意は,今なお経済協力の頂点を示している.それは,われわれの混乱したデフレの時代に,最も欠けているものだ.

今週,シンガポール通貨庁MASのパニック的な行動は通貨戦争の新しい話題となった.スイス国立銀行がスイス・フランの増価を許してから13日後,シンガポールは金融緩和でシンガポール・ドルの減価を促した.こうした一方的な行動は世界中の市場をかく乱し,浮動性を強める一般的な条件となる.

2つの中央銀行は異なった行動を取ったように見えるが,その問題は同じである.すなわち,世界中で流動性が大幅に増加したことの副作用である.量的緩和の論争は,アメリカ,日本,ユーロ圏のような大規模経済のリスクをめぐるものだった.しかし,"The Dollar Trap"の著者であるEswar Prasadは,「主要先進諸国の中央銀行による行動は,世界金融市場における資本移動と浮動性の高める前兆である」と言う.資本移動を自由化しているシンガポールやスイスのような小国は,その痛みを感じている.

昨年だけで,140億ドルのホットマネーがインドネシア,フィリピン,タイの株式市場に流れ込んだ.しかも,こうした資金流入はアメリカの金利引き上げやギリシャが引き起こすユーロ危機で,一気に逆転する可能性がある.

問題は,各国が輸出競争力を維持するために金利を下げるほど,その効果は失われてゆくことだ.結局,各国による量的緩和がもたらすものは,現実の成長ではなく,その副作用ばかりになる.すなわち,過度の浮動性,資産市場のバブル,債券利回りの異常な低下,である.

これは大規模経済圏にとっても不安材料だ.1998年に,もう亡くなったKarl Otto Poehlと昼食に同席した.1985年,彼はドイツ連銀総裁としてプラザ合意の当事者であったのだが,雑談の中でワインにするブドウ畑のたとえが出た.ブドウ畑はしばしばバラのツルに囲まれている.彼はそれを早期警戒システムだと説明した.バラは病気に弱い.ブドウが病気になるよりずっと早く,バラが枯れることを農家は知っているのだ.シンガポールやスイスのような,小国開放経済は,グローバル経済にとって同じ役割を果たす.

各国が協力して通貨戦争の潜在的な脅威を避けるべきだ,と主張することは容易ではない.中央銀行家たちは,為替レートの大きな裂け目を修復し,財政や経常収支に生じた赤字を抑え,その他の不均衡を調整することで,浮動性を抑制できる.国際協力は,特にデフレと戦う統一したアプローチは,グローバル市場で歓迎される.しかし,デフレを退治するために円をドルに固定するとか,東南アジアが地域的な為替レートシステムに向かう,といった革新的なアイデアは,政策担当者に受け入れられない.

「競争的な切り下げの波が高まるとき,何らかの国際協調が望ましい」と,Rice UniversityBaker Institute(この研究所はプラザ合意のときのアメリカ財務長官James Bakerを記念するものだ)に属するRussell Green は述べた.IMFが一般的なルールを定めるために行動を起こす必要がある.為替レートの競争を抑えることはIMFの主要な権限である,と.

中央銀行家たちが団結すれば,彼らは政府に,経済を一気に回復する行動を取るよう促せるだろう.Prasadは言う.「成長や物価を高めるために中央銀行がすべての責任を負わされていることに問題がある.金融政策は,必ず国境を越えて副作用を生じるものだ,」 「金融政策の負担を減らし,主要諸国が政策ミックスを改善することを望む.」

プラザホテルに部屋を予約すべき時が来た.

Project Syndicate FEB 1, 2015

An Unconventional Truth

NOURIEL ROUBINI

世界金融危機から6年たっても,金融政策はそれまで聞いたこともないような非正統的な手法を次々と試している.こんなことになるとはだれも思わなかっただろう.

世界中で金融政策が積極的な拡大を試みているために,それを攻撃する似非経済学者や市場関係者の反乱が生じている.「オーストリア学派」,マネタリスト,金嗜好,ビットコイン,など,さまざまな論者が,ハイパーインフレ,ドル暴落,金投機,人工貨幣からデジタル貨幣への逃避,などを予言してきた.

こうした間違った予言が次々に流行する理由は,彼らが原因と結果とを混同していることにある.中央銀行が非正統的な金融政策を採用した理由は2008年以後の回復が弱いことである.政府と民間の累積した債務を減らす苦しい過程で生じたデフレ圧力に,金融政策で対抗する必要があった.

要するに,供給は過剰で,需要が少ない.こうした持続的なインフレ低下の世界,デフレとは言わないまでも,それが攻撃的な金融緩和の原因である.

しかし,金融緩和でも,需要が増えなければ,通貨価値が低下して輸出を増やすことで他国の需要を奪うしかなく,それはゼロサム・ゲームである.重要なことは,財政政策が主要国で緊縮や財政再建を目指しており,需要拡大に反していることだ.IMFでさえ指摘するように,今は低金利を生かして政府が公共投資を増やすべきである.


l  プーチンとの対決

The Guardian, Sunday 1 February 2015

Putin must be stopped. And sometimes only guns can stop guns

Timothy Garton Ash

プーチンは旧ソ連のミロシェビッチSlobodan Miloševićである.同じような悪と,より大きな規模で.嘘を積み重ねて,その背後ではウクライナ東部に傀儡国家を築こうとしている.

黒海の港では無関係の市民が殺害された.かつてドネツク空港であった一帯では,シリアのような光景が広がる.軍事衝突で約5000人が殺害され,50万人以上が難民となっている.ギリシャやユーロ圏の問題に忙殺されて,ヨーロッパは目の前で起きているボスニアの惨状を放置しているのだ.ヨーロッパよ,目を覚ませ!

最終的には,交渉による解決しかない.ドイツのメルケルAngela Merkel首相やFrank-Walter Steinmeier外相が外交を続けることは正しい.しかし,会談は成立せず,停戦合意も守られていない.外交の時期が来るとしても,それは今ではない.

ロシアに対する経済制裁を強化していくべきだ.石油価格の下落も重なって,厳しい効果が表れている.しかし,それはロシアの,包囲されたという被害者意識を,強めるだけではないか? そうであるが,すでにプーチン体制は,ナショナリズム,反西側プロパガンダをまき散らしている.たとえ脅威がなくても,ロシアのテレビが作り出す.

ミロシェビッチのように,プーチンはあらゆる手段を駆使して西側との戦争を始めている.重火器,エネルギー封鎖の脅迫,サイバー攻撃,プロパガンダ,資金提供した放送局,秘密の軍事行動,EU諸国の中枢における影響力確保.他方,身氏側民主主義と多国間組織の欠点として,EUの行動は遅い.

長期的には,プーチンが敗北する.プーチンの暴挙にもっとも苦しむのは,クリミア人,東ウクライナ人だけではない.ロシア人もそうだ.しかし,悪事に巧みで,冷血な独裁者,高度に武装し,資源の豊富な,国民を心理的に操作するプーチンにとって,長期とは本当に長いかもしれない.

この期間を短縮するためには,武装集団に対しては武装して,対抗しなければならない.ウクライナ政府軍に武器援助を始めるべきだ.John McCainはアメリカ議会でそのための法案を通過させた.ウクライナ政府軍の軍事力がロシア軍の攻勢を阻止して始めて,交渉による解決が可能になる.マッケインとメルケルは,まさにプーチンへの脅し役となだめ役として,適当な組み合わせになるだろう.

プーチンのプロパガンダにも対抗しなければならない.それは嘘で対抗することはなく,BBCを通じた豊富な事実の報道だ.今こそ,ロシアやウクライナの住民たちはBBCの正確で,公平で,バランスの取れた報道を聞きたがっている.イギリス政府はBBCに介入することなく,放送拡大に資金を提供するべきだろう.

独裁者が短期的に勝つとしても,長期的には,民主主義が勝つ.


l  ベーシック・インカム

FT January 30, 2015

The basic problem with basic income is basic mathematics

John McDermott

イギリスの緑の党the Green Partyは,「市民の所得」a “citizens’ income”を提案して支持を伸ばしている.それはベーシック・インカムの別名だ.

イギリス市民のすべて(25-65歳)が,無条件で,権利として毎週71ポンドを得る.それは年間52週で,イギリス国民6400万人に,2360億ポンドを支払うことになり,イギリス中央政府が医療,教育,警察,防衛に支出している額とほぼ等しい.

ノーベル賞受賞者で,多くのリバタリアンが尊敬するMilton Friedmanも,「負の所得税」“a negative income tax”として,この考え方を好んだ.ただし,おおざっぱに言って,左派は貧困をなくすこと,リバタリアンは社会福祉の官僚制をなくすこと,に関心がある.

1970年代に,アメリカやカナダの町で実施されたことがある.このような所得があれば,だれも働かない,という労働に対する悪影響は,恐れられるほどなかった.貧困は急激に減ったし,就学率が高まった.

しかし,週71ポンドでは不十分かもしれない.貧困の解消を重視するなら,対象者を絞るべきだ.他の福祉政策をやめると,貧困層の生活は悪化する.それはデザイン次第である.

実施にともなう多くの問題もある.それは他の政策と同じであり,ベーシック・インカムはそれほど過激な政策ではない.


l  ギリシャ左派政権との交渉

FT January 30, 2015

European democracy enters dangerous times

Mark Mazower

ギリシャにおける左派政権の誕生を恐れていた人々は,今や左派政権の崩壊を恐れるべきだろう.

1974年にギリシャが民主体制に移行した後,有権者は左右の政党の間で支持を切り替えた.こうした傾向が続けば,ヨーロッパ統合のプロジェクトは崩壊するだろう.

EUの基礎を据えた世代は,民主主義が近年の産物でしかなく,壊れやすいということを,その苦しい経験から知っていた.すでに大恐慌の前,スターリンがソ連の影響を示す前から,左派は議会制民主主義を信用していなかった.右派は戦間期のヨーロッパで大陸規模の成功をおさめ,強権的指導者や将軍たちが行軍した.政治の中心は失われた.

1939年までに,ヨーロッパの民主主義システムは機能しなくなり,過激派たちの戦いの犠牲になった.ようやく1945年の後に,すべての党派が政治的な穏健化の価値を認めたのだ.政治の中心的な基礎を見出すことが,民主主義再建の前提であった.

EUが決定的な方向を選択しなければならないとき,Syrizaのような左派はヨーロッパ主義者であるが,右派はそうではない.Golden Dawnは,まったくナチズムを模倣した政党であり,ユーロを嫌い,一国型のファシズムを目指している.こうした動きはギリシャに限らない.共通通貨を守る戦いが,民族の純血,人種差別,独立,という極右の言葉を復活させたのだ.

Syrizaの勝利は,ヨーロッパの解体ではなく,再定義を求めるものだ.緊縮策はギリシャを崩壊させた,と彼えらは訴えた.国有地や国有企業が売却され,公共財という考えが否定された.それはエコロジカルな破壊にもつながった.こうした緊縮に対する批判は,階級や世代を超え,都市も農村も超えて団結させる.

しかし,北欧の債権諸国はそうではない.彼らはギリシャ人を無責任と非難し,出口を指さすかもしれない.彼らは半世紀前よりも現在のほうが危険なことを理解していないのだ.協力を制度化することが必要だ.グローバリゼーションは進み,単独で行動する余地は消滅した.ドイツ人やフィンランド人が示した連帯は,自分たちの金融機関を守るためだった,とも言える.

倹約は政策ではない.公共財を回復する必要がある.さもないとヨーロッパの政治的中心は失われ,極右が活動を広めるとともに,ヨーロッパが崩壊に向かう.

SPIEGEL ONLINE 01/30/2015

Merkel's Unintended Creation

Could Tsipras' Win Upset Balance of Power in Europe?

By SPIEGEL Staff

Alexis Tsiprasの勝利は,ドイツのEU支配に対する真正面からの攻撃であり,フランスやイタリアの指導者も緊縮さの廃止を望んでいる.

Alexis Tsiprasは,その意図を最高の舞台で宣言した.首相就任の宣誓をした後,彼は,アテネの端にある公園の「平和の祭壇」に向かったのだ.それはナチス・ドイツの占領に抗議したレジスタンスを記念するものだ.

ここでドイツの占領軍は約600名のレジスタンス戦士を銃殺した.その一部は戦争の終わる直前,194451日であった.収容所からの200人のコミュニストと一緒に.最年少の犠牲者はわずか14歳であった.

ヨーロッパ最年少の首相となったTsiprasは,ドイツのギリシャ占領を再び終わらせるつもりだ.そして何度も,ギリシャ人の尊厳を回復する,と約束した.

FP FEBRUARY 2, 2015

The Dirty Little Secret of Berlin’s Bankers

BY DANIEL ALTMAN

なぜドイツは,ECB1兆ユーロの資金供給をするのを嫌うのか?  なぜドイツは,ギリシャの緊縮策を求めるのか?  なぜドイツは,ギリシャがユーロ圏に残るよう求めるのか?

これらは矛盾している.しかし,3つとも同じ者の利益になる.ドイツの富裕層だ.

まず,ドイツの現代詩を振り返れば,1990年に東西ドイツの再統合があった.それにより低賃金の労働力を大量に得たのだ.それは輸出を競争的にした.さらに1999年,ユーロが導入された.ドイツはマルクを捨てて,もっと財政的に脆弱な基盤しかない諸国と共通通貨を採用した.その結果,ユーロはマルクより弱く,さらに輸出を競争的にした.

ドイツ企業と投資家が輸出で大きな利益を得ただけでなく,東の労働者は賃金の上昇,西の労働者も好況によって所得を増やした.ドイツの所得分配は,東西間で収斂したが,長い好況の結果,国内の分配は不平等化を進めた.それはユーロ圏で最悪,アメリカに並ぶほど大きくなった.

ユーロ圏が緊縮やデフレに苦しんでいるとしても,ドイツは成長していた.成長と低インフレは銀行家たちにとって好ましい持続的条件だった.ギリシャのユーロ圏参加はさらに輸出による高い成長率を持続させるユーロ安を意味したから,富裕層は反対しなかった.他方,ギリシャのユーロ圏離脱は,ドイツにとって残ったユーロの増価と不況を意味したから,強く反対した.

今や,ドイツの成長も減速し,デフレの不安が生じている.ギリシャで左派政権が登場したより,この成長の減速が,ドイツの富裕層にECBの拡大策やギリシャとの妥協を,政治的に好ましいものにする.

FT February 3, 2015

A deal to bring modernity to Greece

Martin Wolf

EUは帝国ではなく,民主主義の同盟だ.Tsiprasの新しい提案を恐れるより,信頼して交渉による解決を模索するべきだ.これまでのところ,ギリシャ危機の経過は,緊縮ばかりで,改革が進まなかった.ギリシャの民衆は苦しみ続けたけれど,その苦しみには成果がなかった.財政赤字や経常赤字を減らし,より生産的になることが重要なはずであった.

ユーロ圏の離脱を議論するより,双方が冷静になるべきだ.ECBがギリシャの銀行に対する流動性の供給を保証しなければ,そして,ギリシャ政府が自国の銀行が発行した証券をユーロで保証できなければ,自国通貨の発行,ユーロ圏離脱が始まる.ギリシャのVaroufakis蔵相は,債務の削減が受け入れられないと考え,新債券との交換を提案している.成長にリンクした債券,より長期の債券,GDPにリンクした債券,が考えられている.特に,GDPにリンクした債券は,ユーロ圏の欠陥を是正する方向で,金融システムのリスクをシェアし,財政移転を行うメカニズムに近い.

ギリシャの改革を進めることに双方が合意できるだろう.債務の束縛を解く代わりに,ギリシャ政府は根本的な改革を実行し,法に依拠した国家,生産的な経済を築く.通貨同盟は封建制度ではない.諸国家のパートナーシップだ.もし彼らが価値を共有できないなら,非難や攻撃を強めるより,双方が苦しむとしても,静かに離脱することだ.

NYT FEB. 3, 2015

Political Fractures in European Economic Unity

Eduardo Porter

1997年,アメリカのMartin Feldsteinは,ヨーロッパの指導者たちが調和と平和を求めて通貨同盟に合意することは,その反対に,戦争につながる,と警告した.

それはヨーロッパの内戦ではなく,政治的な紛糾を意味した.経済政策をめぐる論争が,歴史や国民性,宗教をともなう長期にわたる反感を復活させる.

彼は今,通貨同盟が一層の統合化に向けて,外交,防衛,軍事力も共有するべきだと主張する.むしろ攻撃的になったヨーロッパが,ロシアのウクライナ侵略に対して,戦争を始めることを懸念している.

ユーロ圏を救うのは,ヨーロッパの連帯である.Feldsteinは,政治がまだ地域的に限定されていることを強調した.他方,ベルギーのPaul De Grauweは,政治が経済戦略の結果である,と言う.緊縮策が不況を激化し,大量の失業者と,過激な党派を生んだ.

債務を削減する正しい政策は,周辺における政治危機を緩和するが,ドイツの危機をもたらす.それは南欧でコミュニストの支配を防ぐが,北欧で極右の支配を招くだろう,とDe Grauweは懸念する.

イギリス,オックスフォードのSimon Wren-Lewisは,ユーロ圏が不況を緩和する財政政策を取るよう各国政府に認めるべきだった,と考える.しかし,ドイツは財政再建に執着し続けたのだ.

ECBQEも効果はないだろう.すでに金利は低いからだ.Feldsteinは,ECBがユーロ安を進めること,各国は税制を改革して,財政赤字を避けて投資を促すことができる,と主張する.

こうした提案は政治によって採用されないし,実行しても効果がないかもしれない.ユーロ圏の各国で,有権者たちは妥協を好まない.


l  独裁の再定義

FT February 1, 2015

Capitalism has broken free of the shackles of democracy

Slavoj Zizek

100年後に記憶される人物は,強権国家が成長を指導するモデルを開拓したLee Kuan Yewであろう.それ以前は,資本主義と民主主義とは結びついていた.そのリンクを切ったのだ.

西側の文明は世界に輸出できなかった,と言うが,経済モデルは政治思想よりも広がりやすかった.貧しい地域は,価値観や宗教の違い,政治を無視して,豊かになるために資本主義を歓迎した.

西側の資本主義にも,自由は失われつつある.なぜなら,それは選択の自由と言うけれど,もはや人々にとって重荷でしかなくなったからだ.「弾力的な」労働市場で自分を売る自由,国家の提供した年金制度を失った後に自分の老後を計画する自由,それを,十分な知識もないまま,たった一人で選択する.

彼らにそのような自由はないが,エジプトやウクライナで政府を倒した人々は,われわれの持たない権力を持った.民主主義の姿も変わったのだ.

Bloomberg FEB 1, 2015

The Postmodern Autocrat's Handbook

By Robert D. Kaplan & Dafna H. Rand

独裁の概念を見直す必要がある.恣意的で,しばしば偏執狂で,臣民に命ずる時も,ほとんど制約を受けず,政治生命を脅かされることもない.そのような旧概念は北朝鮮の金正恩やシリアのアサドにあてはまっても,少なくなった.

世界中に,独裁の新しいモデルが広まっている.そこでは大衆の意見が民主主義以上に重要だ.もし大衆の意見を見誤れば,民主的な支配者は選挙で負けるだけだが,専制的支配者はその命も,権力構造も,家族,資産,顧問たちも,失いかねない.

大衆的な支持を得るために,情報を管理することは難しくなった.投票の科学的予測,ソーシャル・メディアの発達で,数時間ではないけれど,数日も秘密にできない.21世紀の専制的支配者は,大衆的な抗議によって地位を奪われる危険がある.

他方,大衆やメディアは,よりナショナリズムやポピュリズムの傾向を示す.たとえ自滅的な戦争であっても,大衆が専制的支配者に戦争を強いる.中国,ロシア,イランを観ればよい.

不安定な地位にある専制的支配者たちにとって喜ばしいことは,全体として,大衆は利己的で,戦闘を避けるということだ.暴動や革命は,中国,ロシア,湾岸諸国で起きていない.文字を読み,教育を受け,外の情報をインターネットで得ることのできる大衆は,革命に参加しない.彼らを満足させることは難しいが,不確実さよりも秩序を好む.

専制的支配者は,西側の政治家たちと似たメディア戦略を採用する.実際,双方は混合体制に向かっているのだ.中央の権力は分散するが,個人の自由は制限されている.モロッコ,ヨルダン,オマーンのように,伝統的で,しかも,臣民に諮問する王政が,その典型だ.部族,その他の権力機構に諮問したうえで,専制的支配者は決定する.

西側は,より自由な政治システムを築くために苦心するが,その方法は見いだせない.むしろこうした混合型の支配を,諮問機関に対する権限の強化や制度構築を通じて,妥協に積極的な仕組みへ変えていくべきだ.われわれは政治的な原理を輸出して安定的な伝統を発明するのではなく,その土地の政治的アクターと一緒に,これらのシステムをより自由に,混合型の政治体制に移行させ,個人の機会を増やすのだ.

そのような環境を創り出すことで,独裁制を内部から弱め,大衆的な圧力やグローバルな規範に従わせるだろう.


l  日本の戦後秩序改革

Project Syndicate FEB 2, 2015

Japan’s Constitutional Albatross

BRAHMA CHELLANEY

同じように敗戦後,連合諸国の認める憲法を1949年に受け入れたドイツは,その後,何度も修正している.自衛のために軍事力の行使を認めるし,集団的安全保障にも参加している.

ほとんどの民主主義諸国で,国民は憲法を進化させている.例えば,インドは1950年以降,99回も憲法を修正した.日本の憲法改正が必要だ.日本人は,まるでイスラム原理主義者のように,憲法の条文を変えようとしない.

しかし,1947年の世界と現在では,まったく異なっている.安倍首相は改正に意欲的だが,そのハードルは高い.

中国からの批判,国内の絶対平和主義者,公明党の反対,その他の制約条件がある.これらを乗り越える奥の手は,アメリカ政府が日本の憲法改正を明確に支持することだろう.

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The Economist January 24th 2015

America’s new aristocracy

Urbanisation: The great sprawl of China

(コメント) 多くの問題が解説されていますが,つかみ損ねたような印象です.特に,アメリカの貴族政治と,中国の都市化は,そのポイントをつかんでいないのではないでしょうか?

これはThe Economistの衰退かも知れません.アメリカの所得分配が不平等化すること,富裕層の献金と保守派のポピュリズムが政治を支配すること,旧来型の差別がグローバリゼーションに応じて復活すること,などは,大学を利用して知識を世代間で優先的に蓄積する,という「貴族化」論に収まらないと思います.

ボコハラム,ウクライナ,違法な過剰漁業,北京の環状道路,ECBとスイスの中央銀行,アフリカの開発,オバマのインド訪問,南シナ海,一般教書演説,シャーリー・エブド,イラン.

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IPEの想像力 2/9/15

日本にも理想社会は築けるでしょうか? それは独裁者のレトリックでしかない?

1990年,バブル崩壊,債務処理が迷走,・・・1995年,阪神・淡路大震災,オウム教団による地下鉄サリン事件,・・・2001年,911テロとアフガニスタン・イラクへの侵攻,日銀による量的緩和政策,・・・2009年,民主党による政権交代,・・・2011年,東日本大震災と福島原発事故,・・・2012年,尖閣諸島国有化,民主党は選挙で大敗し,第2次安倍内閣が成立しました.

政治は,現実を変えます.それが望ましいものであるには,主要政党が,国民に向けた良質な政策論争を持続し,優れた若い政治家を育てることです.

アベノミクスが日本経済の成長を回復し,国債の累積を解消して,財政再建に向かう正しい政策なのか? また,日本はアメリカとのTPPに参加するべきなのか? あるいは,中国を含む市場経済統合に積極的に参加するべきなのか? ・・・これらが,以前,私のゼミ生たちが参加したディベートのテーマでした.つまり,日本はギリシャか,イスラエルか,ロシアか,・・・ガザか?

私は「日本病」を,20101122日の「IPEの想像力」で,ABCDFIPYA高齢化、B官僚制、C中国、Dデフレ、F財政赤字、I不平等の拡大、P政治的混迷、Y若者)として理解し,一体的に解決することを求めました.それは,国内の意識・制度改革に加えて,グローバルな安定化を求めるものです.

今や,世界の主要諸国が「日本化」を恐れ,日本の経験を学ぼうとしています.日本だけが「病気」や「愚行」,「停滞」に陥っているのではない,とわかりました.どれほど勤勉な.教育を受けた,技量に富んだ人々がいても,理想的な,安定した社会を求めても,金融市場のバブルが破裂した後は容易に経済を調整できないし,高齢化,人口減少が進む社会で,従来の金融政策や財政政策は機能しないのです.

ランニングをしていて思いました.・・・成長するのは都市です.人口減少や高齢化は,都市と農村を再編し,世界的な移動を促すことで解決できないか?

住宅市場の活性化で,都市や住環境を再編成してはどうでしょうか? 都市の中心部や郊外で,老朽化した住宅や空き家,老人だけが一人で住む小さな家が増えています.こうした住宅の価格を(たとえば)5分の1にして,もっと便利な集合住宅や商業地,あるいは緑地に転換します.所有者が損失を回避できるように,住み替え先も同じような低価格で紹介します.

このとき,日本列島の改造や都市計画の一部であることが重要な条件となります.その計画や取引契約の公的基準,監督を明確にして,個別の問い合わせに懇切な助言を与えます.十分な予告期間を経て,時限的な税の優遇策を示してはどうでしょうか? 新しい成長都市では,活発な商工業や製造業が生じ,人口が流入し,優れた技術にも投資して輸出を伸ばすでしょう.

この再編過程で,孤立した集落から老人を都市に集め,所得保証や集合住宅を提供して助けます.高齢者から若者への富の再分配にもつながります.難民の家族や移民労働者を積極的に受け入れ,新興企業や農業の再生につなげます.移民,貿易,投資・雇用を介して,グローバルな秩序の安定化が重視されます.

市民・環境・女性・社会主義という理想は,通貨・債務危機後の構造調整において求められる根本的な制度改革,ガバナンスの革新において,ポピュリズムやコーポラティズムの要素が強まることと結びつくでしょう.自治体が住民の合意を促し,新しい社会的基準を示して,成長都市を競います.それは,開発独裁と自由な資本主義とを組み合わせた混合体制への移行です.

民主党による政権交代,労働者派遣法の見直し,子ども手当,高校・高速道路の無料化,温暖化ガス排出抑制の枠組み参加,普天間基地移転の見直し,アメリカと中国とのバランス外交,TPP参加,消費税引き上げと社会保障制度の改革,農家の戸別所得補償制度,そして,安倍政権による構造改革に向けた日銀や財界との協力,外交・防衛政策の見直し,憲法改正論,などは,こうした日本の課題に応える試行錯誤だったと,今になって思うのです.

論争を積み重ね,選挙で国民に問いかけることで,「日本病」(ABCDフィッピー)の具体的な「治療薬」は開発できます.

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