IPEの果樹園2015

今週のReview

2/9-14

 

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中国と国際秩序 ・・・アメリカと中米 ・・・金融政策の協調 ・・・労働者の未来 ・・・プーチンとの対決 ・・・ベーシック・インカム ・・・ギリシャ左派政権との交渉 ・・・新しい国防長官への質問 ・・・独裁の再定義 ・・・日本の戦後秩序改革 ・・・混沌の時代へ ・・・ヨーロッパ移民政策の見直し

[長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  中国と国際秩序

Global Times 2015-1-29

Will South China Sea stay peaceful in 2015?

By Li Kaisheng

資源,特に石油が,南シナ海で領海紛争が続く原因の一つである.石油・天然ガスの価格は下がったが,諸国間の衝突が沈静化するとは限らない.

2015年に緊張緩和が起きると考える理由は,ベトナムやフィリピンのような小国の要求ではなく,この地域にかかわる大国が決める戦略的な変化が起きるからだ.すなわち,中国とアメリカだ.

アメリカの「アジア旋回」は,数年の模索の後,再考と修正の時期に入った.ホワイトハウスは南シナ海で,緊急事態がなければ,大きな動きを起こさない.アメリカ政府は,南シナ海の問題で北京に圧力をかけることが自身の利益にならないと悟ったのだ.両国は,多くの地域・国際問題で,協力と相互利益をめざす広い余地を有している.

中国は今後も,主権を守り.平和維持活動に従事するだろう.他国の侵入を許さないが,今後はむしろ「ワン・ベルト,ワン・ロード」計画を推進するだろう.すなわち,それはシルクロードの経済ベルトと,21世紀の海のシルクロードを他の諸国と協力して築くことだ.

ベトナムや,特にフィリピンは,アメリカが彼らの保護者として十分な行動を取らないことを理解したはずだ.アメリカは,中国の主張する「9つの点線領域」に関して圧力をかけ,マニラを支援するかもしれない.しかし国際裁判所に提訴しても,ASEANで行動規範に関する合意を模索しても,その実効性は疑わしい.どこかの国が違反行為を犯すことも排除できないのだ.

各国の複雑な国内政治が,そのような行動に傾く事情もある.しかし,予想外の事件が起きない限り,リスクの管理と信頼醸成が全般的な改善にふさわしい.

Project Syndicate JAN 30, 2015

The Grand Strategy of Xi Jinping

YOON YOUNG-KWAN

2014年を通じて,中国は「アジア人のためのアジア」という言葉で,70年前に日本が試みたように,帝国的なパワーを得ようとしてきた.中国の試みは,日本が失敗したような結果にはならないだろう.

既得権を持つ大国,特にアメリカとの対立は避けられない.しかし,間もなく,アメリカはロシアとの対立に大きく関心を向けざるを得なくなった.この面では,中国はむしろアメリカの同盟国である.中国はロシアからのエネルギー購入に関する長期契約を結んだが,その価格決定や,クリミア併合後のロシア向け融資停止を見ると,中国はロシアの側に就く気はない.

また,習近平は,日本との関係にも回復のサインを示し,近隣諸国に対してハードパワーよりソフトパワー,経済的な利益で関係を強化しつつある.他方,アメリカ国内の政治情勢から,オバマ政権はアジア外交に対するパワーを失っている.

アメリカのグローバルな指導力が失われるのは事実であり,その真空を埋めるのが中国かも知れない.アメリカが大統領選挙で内向きになる時期は特に,まず,アメリカの役割が低下し,機能しないアジアの秩序を,中国が作り直すだろう.

FP JANUARY 30, 2015

Paul Krugman’s Unpleasant Peasant Arithmetic

BY SIMON COX

FT February 4, 2015

Corporate China not yet ready to rule the world

David Pilling

アリババが世界を制覇する,とは限らない.中国市場をめぐる競争は激化する.

FP FEBRUARY 4, 2015

Self-Immolations. Threats From Beijing. Playing Politics With the Dalai Lama.

BY ISAAC STONE FISH

FP FEBRUARY 4, 2015

Closing a Vital Window Into China

BY SUZANNE NOSSEL

FP FEBRUARY 4, 2015

Chinese Ask: What If the Islamic State Captured One of Us?

BY DAVID WERTIME

もし中国人がイスラム国家に拘束されたら,中国はどうするか? Weiboでの議論が盛んだ.


l  アメリカと中米

NYT JAN. 29, 2015

Joe Biden: A Plan for Central America

By JOSEPH R. BIDEN Jr.

昨夏,アメリカの南西国境を越えようとした,保護者のいない多くの子供たちを思うなら,中米El Salvador, Guatemala and Hondurasの治安と繁栄がアメリカのそれと結びついていることは明白だ.

南北アメリカの経済が躍進する中でも,これらの諸国は衰退したままだ.それは,教育の投資が不足し,制度が腐敗し,犯罪が蔓延しており,投資がなされないからだ.この10年間に600万人の若者達が労働市場に加わるが,彼らに十分な雇用がなければ,その結果,多くの難民が西半球に流出する.

これらの国から指導者たちがワシントンのオバマ大統領を訪問したとき,彼らがこうした問題を解決することに取り組むなら,アメリカはそれを支援すると説明した.透明性を高め,腐敗を防止し,汚職や人身売買にかかわった高官を追放し,米州開発銀行と協力する,など,各国の政府は改革を始めている.

3つの分野に注目している.1.治安回復.地方の警察力を改善し,コミュニティーに依拠した治安のネットワークを支援し,国境を越える犯罪組織にも対処する.2.雇用と投資を呼び込むためにガバナンスを改善する.裁判所,政府契約,徴税システム,を改革する.3.政府の財源では不十分だ.国際投資や民間投資を増やすことが欠かせない.

それは国家の大改造であるが,1999年,コロンビアが麻薬組織による混乱と貧困から立ち直る計画をアメリカは支援し,それに成功した.中米諸国を改革することは,その投資に十分見合うものであり,議会に協力を求めたい.

FP FEBRUARY 2, 2015

The Obama Administration Turns Its Gaze South of the Border

BY JOHN HUDSON


l  金融政策の協調

Bloomberg JAN 29, 2015

Central Bankers, Unite!

By William Pesek

9月になれば,世界はプラザ合意の30周年を迎える.ドル安と円高を促したこの合意は,今なお経済協力の頂点を示している.それは,われわれの混乱したデフレの時代に,最も欠けているものだ.

今週,シンガポール通貨庁MASのパニック的な行動は通貨戦争の新しい話題となった.スイス国立銀行がスイス・フランの増価を許してから13日後,シンガポールは金融緩和でシンガポール・ドルの減価を促した.こうした一方的な行動は世界中の市場をかく乱し,浮動性を強める一般的な条件となる.

2つの中央銀行は異なった行動を取ったように見えるが,その問題は同じである.すなわち,世界中で流動性が大幅に増加したことの副作用である.量的緩和の論争は,アメリカ,日本,ユーロ圏のような大規模経済のリスクをめぐるものだった.しかし,"The Dollar Trap"の著者であるEswar Prasadは,「主要先進諸国の中央銀行による行動は,世界金融市場における資本移動と浮動性の高める前兆である」と言う.資本移動を自由化しているシンガポールやスイスのような小国は,その痛みを感じている.

昨年だけで,140億ドルのホットマネーがインドネシア,フィリピン,タイの株式市場に流れ込んだ.しかも,こうした資金流入はアメリカの金利引き上げやギリシャが引き起こすユーロ危機で,一気に逆転する可能性がある.

問題は,各国が輸出競争力を維持するために金利を下げるほど,その効果は失われてゆくことだ.結局,各国による量的緩和がもたらすものは,現実の成長ではなく,その副作用ばかりになる.すなわち,過度の浮動性,資産市場のバブル,債券利回りの異常な低下,である.

これは大規模経済圏にとっても不安材料だ.1998年に,もう亡くなったKarl Otto Poehlと昼食に同席した.1985年,彼はドイツ連銀総裁としてプラザ合意の当事者であったのだが,雑談の中でワインにするブドウ畑のたとえが出た.ブドウ畑はしばしばバラのツルに囲まれている.彼はそれを早期警戒システムだと説明した.バラは病気に弱い.ブドウが病気になるよりずっと早く,バラが枯れることを農家は知っているのだ.シンガポールやスイスのような,小国開放経済は,グローバル経済にとって同じ役割を果たす.

各国が協力して通貨戦争の潜在的な脅威を避けるべきだ,と主張することは容易ではない.中央銀行家たちは,為替レートの大きな裂け目を修復し,財政や経常収支に生じた赤字を抑え,その他の不均衡を調整することで,浮動性を抑制できる.国際協力は,特にデフレと戦う統一したアプローチは,グローバル市場で歓迎される.しかし,デフレを退治するために円をドルに固定するとか,東南アジアが地域的な為替レートシステムに向かう,といった革新的なアイデアは,政策担当者に受け入れられない.

「競争的な切り下げの波が高まるとき,何らかの国際協調が望ましい」と,Rice UniversityBaker Institute(この研究所はプラザ合意のときのアメリカ財務長官James Bakerを記念するものだ)に属するRussell Green は述べた.IMFが一般的なルールを定めるために行動を起こす必要がある.為替レートの競争を抑えることはIMFの主要な権限である,と.

中央銀行家たちが団結すれば,彼らは政府に,経済を一気に回復する行動を取るよう促せるだろう.Prasadは言う.「成長や物価を高めるために中央銀行がすべての責任を負わされていることに問題がある.金融政策は,必ず国境を越えて副作用を生じるものだ,」 「金融政策の負担を減らし,主要諸国が政策ミックスを改善することを望む.」

プラザホテルに部屋を予約すべき時が来た.

FT February 1, 2015

The perils of a strong US dollar

ED Luce

Project Syndicate FEB 1, 2015

An Unconventional Truth

NOURIEL ROUBINI

世界金融危機から6年たっても,金融政策はそれまで聞いたこともないような非正統的な手法を次々と試している.こんなことになるとはだれも思わなかっただろう.

世界中で金融政策が積極的な拡大を試みているために,それを攻撃する似非経済学者や市場関係者の反乱が生じている.「オーストリア学派」,マネタリスト,金嗜好,ビットコイン,など,さまざまな論者が,ハイパーインフレ,ドル暴落,金投機,人工貨幣からデジタル貨幣への逃避,などを予言してきた.

こうした間違った予言が次々に流行する理由は,彼らが原因と結果とを混同していることにある.中央銀行が非正統的な金融政策を採用した理由は2008年以後の回復が弱いことである.政府と民間の累積した債務を減らす苦しい過程で生じたデフレ圧力に,金融政策で対抗する必要があった.

多くの先進諸国では大きな産出ギャップが存在する.企業は価格支配力を失い,労働市場も大幅に弛緩し,グローバリゼーションや技術革新もあって,失業者にあふれている.金融危機の原因となった不動産市場では価格が下落し,新興市場のバブル崩壊も,なお続いている.商品市場はインフレ消滅の圧力を追加する.中国の減速は,それ以前の過剰投資もあって,世界にデフレ圧力を輸出する.所得分配の不平等化,すなわち,消費する人々から,貯蓄する人々への再分配は,黒字国の支出を刺激するより,赤字国の緊縮を強める市場圧力を生じる.

要するに,供給は過剰で,需要が少ない.こうした持続的なインフレ低下の世界,デフレとは言わないまでも,それが攻撃的な金融緩和の原因である.

しかし,金融緩和でも,需要が増えなければ,通貨価値が低下して輸出を増やすことで他国の需要を奪うしかなく,それはゼロサム・ゲームである.重要なことは,財政政策が主要国で緊縮や財政再建を目指しており,需要拡大に反していることだ.IMFでさえ指摘するように,今は低金利を生かして政府が公共投資を増やすべきである.

低成長,長期停滞,ディスインフレ,デフレに向かうこうした政策こそ,総需要の不足を長引かせ,非正統的な金融緩和に注意が集まる理由である.

FT February 3, 2015

Rising dollar hits US corporate earnings

Eric Platt in New YorkAuthor alerts

VOX 04 February 2015

The illusion of monetary policy independence under flexible exchange rates

Sebastian Edwards

変動レート制で金融政策の自律性が回復する,というトリレンマの仮説は間違いだ.ラテンアメリカの3か国 Chile, Colombia, and Mexicoを見れば,変動レート制でも,為替レートの浮動性が高まれば危機の波及を恐れて金融政策は自律性を失う.

FT February 5, 2015

Debt mountains spark fears of another crisis

Ralph Atkins

FT February 5, 2015

Dollar bulls face jobs report test

Michael Mackenzie


l  労働者の未来

FT January 30, 2015

The changing face of employment

Gillian Tett

先週,ダヴォスで,MITAndy McAfeeが話し合うのを観た.彼は参加者にある思考実験を試みた.2つの軸に「技術革新」と「雇用」とを示す図を描いて,将来を予想させたのだ.たとえば,「技術革新」も「雇用」も増大を予想する場合はどこ,「技術革新」の増大と「雇用」の減少を予想する場合はどこ,という風に.

参加者の多くは,「技術革新」の増大は続き,バーコードやロボットによる「雇用」の減少を予想した.社会は常に労働を重視するから両方が増大する,という楽観は少数派だった.労働市場は,ますます中位の職場が消滅して,上位と下位に二極化するだろう.

かつて19世紀に農業革命が起きて,工業雇用の多くが消滅したとき,彼らは次第に工場で雇用された.しかし,現在の技術革新ははるかに急速に起きるから,経済や社会制度がそれに対処できないだろう.

誰もバーコードやロボットを破壊することは望まず,むしろ教育や公共投資による解決を求めている.しかし,その資金をどうやって調達するのか? 資産家層が寄付するか? 増税できるか? しかも,ダヴォスに集まる上位の人々は,今後も所得分配の不平等は拡大する,と当然のように認めている.

VOX 04 February 2015

Labour-market institutions and worker flows: Comparing Germany and the US

Philip Jung, Moritz Kuhn

2000年に入ってドイツで行われた労働市場改革the Hartz I-IV reformsが注目される.

1980年代からドイツで議論された労働市場の硬直性は,実際は,失業者が開いた職場を探す過程に非効率性があった.改革は,これに直接働きかけるものであった.それは,短期的な解雇を重視するアメリカと違って,景気循環を通じた新規採用を重視するドイツなどのヨーロッパ諸国にとって,特に有効な改革であった.


l  プーチンとの対決

FT January 30, 2015

Britain must hold Russia’s kleptocratic elite to account

Anne Applebaum

イギリス政府,そしてロンドンは,ロシア人の流入に対して,法の支配を実効あるものにしなければならない.広島の原子爆弾が使用されたのは1度きりであるが,アルカイダなどのテロ組織が大都市に対する核攻撃を行う不安が長く議論されている.ロンドンで,元KGB職員のロシア人,Alexander Litvinenkoが放射性の猛毒物質polonium-210で暗殺された事件を,なぜイギリスは今頃になって裁判しているのか.

ロシアやウクライナから多くの資産家やスパイがロンドンに亡命し,邸宅やマンションを購入している.イギリス政府はロシアに対する警告を繰り返すが,実際は,偽装した企業を通じて簡単に違法な金融取引や不動産売買が行われている.こうしたロシア政治の腐敗を手助けするイギリスの姿勢を,根本的に改めなければならない.

The Guardian, Sunday 1 February 2015

Putin must be stopped. And sometimes only guns can stop guns

Timothy Garton Ash

プーチンは旧ソ連のミロシェビッチSlobodan Miloševićである.同じような悪と,より大きな規模で.嘘を積み重ねて,その背後ではウクライナ東部に傀儡国家を築こうとしている.

黒海の港では無関係の市民が殺害された.かつてドネツク空港であった一帯では,シリアのような光景が広がる.軍事衝突で約5000人が殺害され,50万人以上が難民となっている.ギリシャやユーロ圏の問題に忙殺されて,ヨーロッパは目の前で起きているボスニアの惨状を放置しているのだ.ヨーロッパよ,目を覚ませ!

最終的には,交渉による解決しかない.ドイツのメルケルAngela Merkel首相やFrank-Walter Steinmeier外相が外交を続けることは正しい.しかし,会談は成立せず,停戦合意も守られていない.外交の時期が来るとしても,それは今ではない.

ロシアに対する経済制裁を強化していくべきだ.石油価格の下落も重なって,厳しい効果が表れている.しかし,それはロシアの,包囲されたという被害者意識を,強めるだけではないか? そうであるが,すでにプーチン体制は,ナショナリズム,反西側プロパガンダをまき散らしている.たとえ脅威がなくても,ロシアのテレビが作り出す.

ミロシェビッチのように,プーチンはあらゆる手段を駆使して西側との戦争を始めている.重火器,エネルギー封鎖の脅迫,サイバー攻撃,プロパガンダ,資金提供した放送局,秘密の軍事行動,EU諸国の中枢における影響力確保.他方,身氏側民主主義と多国間組織の欠点として,EUの行動は遅い.

長期的には,プーチンが敗北する.プーチンの暴挙にもっとも苦しむのは,クリミア人,東ウクライナ人だけではない.ロシア人もそうだ.しかし,悪事に巧みで,冷血な独裁者,高度に武装し,資源の豊富な,国民を心理的に操作するプーチンにとって,長期とは本当に長いかもしれない.

この期間を短縮するためには,武装集団に対しては武装して,対抗しなければならない.ウクライナ政府軍に武器援助を始めるべきだ.John McCainはアメリカ議会でそのための法案を通過させた.ウクライナ政府軍の軍事力がロシア軍の攻勢を阻止して始めて,交渉による解決が可能になる.マッケインとメルケルは,まさにプーチンへの脅し役となだめ役として,適当な組み合わせになるだろう.

プーチンのプロパガンダにも対抗しなければならない.それは嘘ではなく,BBCを通じた豊富な事実の報道だ.今こそ,ロシアやウクライナの住民たちはBBCの正確で,公平で,バランスの取れた報道を聞きたがっている.イギリス政府はBBCに介入することなく,放送拡大に資金を提供するべきだろう.

独裁者が短期的に勝つとしても,長期的には,民主主義が勝つ.

FT February 2, 2015

Battle for Ukraine: How the west lost Putin

FT reporters

FT February 2, 2015

Dangerous cracks at Europe’s centre

Gideon Rachman

ロシアとの戦争,イスラム国家のテロ,ユーロ圏では不況・失業とギリシャ危機,という政治・外交・経済の3つの危機をヨーロッパは同時に経験している.プーチンはヨーロッパ諸国において極右政治家や極左の運動を刺激し,分断を企てるだろう.

SPIEGEL ONLINE 02/02/2015

How to Stabilize Ukraine without Playing Putin's Game

By Wolfgang Ischinger

NYT FEB. 2, 2015

Putin's Evolution

By MAXIM TRUDOLYUBOV

今も,ロシアはますます内向きになっている.プーチンにとって,西側のルールで世界のすべてと競争するのは愚かだ.それを拒めば,西側は資産を凍結し,制裁を科すが,プーチンはロシア人に戦争の感情を高めている.ロシア経済が破局に向かうとしても,それは偉大な大義のための犠牲なのだ.アメリカに対抗し,ウクライナのファシストと戦い,ロシアを世界の大国として認めさせる.

FT February 3, 2015

Arm Ukraine and you risk another Black Hawk Down

Eugene Rumer

FT February 3, 2015

Battle for Ukraine: How a diplomatic success unravelled

FT reporters

FT February 4, 2015

Pledge weapons for Ukraine or the violence will go on

Wolfgang Ischinger

FP FEBRUARY 4, 2015

Inside the Obama Administration’s About-Face on Arming Ukraine

BY DAVID FRANCIS

The Guardian, Thursday 5 February 2015

Vladimir Putin is rewriting cold war history

Natalie Nougayrède

ルーズベルトとチャーチルは,ソ連が日本を攻撃することに早く参加させるため,ヤルタで東ヨーロッパにおけるソ連の占領に同意した.彼らはスターリンが,その後,自由な選挙で政府を決めることに従わなかった点で,彼の約束を信じたことは間違いだったと認めた.そのヤルタ会談が行われたウクライナの土地が,今,再び戦争によって破壊されていることは,歴史の皮肉である.

プーチンは,ソ連の領域にはロシア人が自由に住むことができるし,ロシアはロシア人を守るために行動する,と主張している.

FT February 5, 2015

Ukraine is only part of Putin’s game plan

Philip Stephens

FT February 5, 2015

Merkel and Hollande fly to Kiev and Moscow

Stefan Wagstyl in Berlin, Anne-Sylvaine Chassany in Paris and Kathrin Hille in Moscow

Project Syndicate FEB 5, 2015

Europe’s War in Ukraine

JOSCHKA FISCHER and HENRIK ENDERLEIN

FP FEBRUARY 5, 2015

What Germany Owes Ukraine

BY JAMES KIRCHICK

Bloomberg FEB 5, 2015

Georgia's War Lessons for Ukraine

By Leonid Bershidsky

アメリカのウクライナに対する資金や武器の支援を計画する者は,かつてのグルジアに対する支援と,2008年のロシアとの戦争から学ぶべきだ.

グルジアは,停戦後のロシアの介入がそれほど決定的ではないことを示している.Saakashviliは権力を維持した.グルジアは,むしろ国内の政治腐敗を追放することで,ロシアへの依存ではなく,EU型の経済発展を継続できた.


l  ベーシック・インカム

FT January 30, 2015

The basic problem with basic income is basic mathematics

John McDermott

イギリスの緑の党the Green Partyは,「市民の所得」a “citizens’ income”を提案して支持を伸ばしている.それはベーシック・インカムの別名だ.

イギリス市民のすべて(25-65歳)が,無条件で,権利として毎週71ポンドを得る.それは年間52週で,イギリス国民6400万人に,2360億ポンドを支払うことになり,イギリス中央政府が医療,教育,警察,防衛に支出している額とほぼ等しい.

ノーベル賞受賞者で,多くのリバタリアンが尊敬するMilton Friedmanも,「負の所得税」“a negative income tax”として,この考え方を好んだ.ただし,おおざっぱに言って,左派は貧困をなくすこと,リバタリアンは社会福祉の官僚制をなくすこと,に関心がある.

1970年代に,アメリカやカナダの町で実施されたことがある.このような所得があれば,だれも働かない,という労働に対する悪影響は,恐れられるほどなかった.貧困は急激に減ったし,就学率が高まった.

しかし,週71ポンドでは不十分かもしれない.貧困の解消を重視するなら,対象者を絞るべきだ.他の福祉政策をやめると,貧困層の生活は悪化する.それはデザイン次第である.

実施にともなう多くの問題もある.それは他の政策と同じであり,ベーシック・インカムはそれほど過激な政策ではない.

The Guardian, Sunday 1 February 2015

Paying everyone a basic income would kill off low-paid menial jobs

Paul Mason


l  ギリシャ左派政権との交渉

FT January 30, 2015

European democracy enters dangerous times

Mark Mazower

ギリシャにおける左派政権の誕生を恐れていた人々は,今や左派政権の崩壊を恐れるべきだろう.

1974年にギリシャが民主体制に移行した後,有権者は左右の政党の間で支持を切り替えた.こうした傾向が続けば,ヨーロッパ統合のプロジェクトは崩壊するだろう.

EUの基礎を据えた世代は,民主主義が近年の産物でしかなく,壊れやすいということを,その苦しい経験から知っていた.すでに大恐慌の前,スターリンがソ連の影響を示す前から,左派は議会制民主主義を信用していなかった.右派は戦間期のヨーロッパで大陸規模の成功をおさめ,強権的指導者や将軍たちが行軍した.政治の中心は失われた.

1939年までに,ヨーロッパの民主主義システムは機能しなくなり,過激派たちの戦いの犠牲になった.ようやく1945年の後に,すべての党派が政治的な穏健化の価値を認めたのだ.政治の中心的な基礎を見出すことが,民主主義再建の前提であった.

EUが決定的な方向を選択しなければならないとき,Syrizaのような左派はヨーロッパ主義者であるが,右派はそうではない.Golden Dawnは,まったくナチズムを模倣した政党であり,ユーロを嫌い,一国型のファシズムを目指している.こうした動きはギリシャに限らない.共通通貨を守る戦いが,民族の純血,人種差別,独立,という極右の言葉を復活させたのだ.

Syrizaの勝利は,ヨーロッパの解体ではなく,再定義を求めるものだ.緊縮策はギリシャを崩壊させた,と彼えらは訴えた.国有地や国有企業が売却され,公共財という考えが否定された.それはエコロジカルな破壊にもつながった.こうした緊縮に対する批判は,階級や世代を超え,都市も農村も超えて団結させる.

しかし,北欧の債権諸国はそうではない.彼らはギリシャ人を無責任と非難し,出口を指さすかもしれない.彼らは半世紀前よりも現在のほうが危険なことを理解していないのだ.協力を制度化することが必要だ.グローバリゼーションは進み,単独で行動する余地は消滅した.ドイツ人やフィンランド人が示した連帯は,自分たちの金融機関を守るためだった,とも言える.

倹約は政策ではない.公共財を回復する必要がある.さもないとヨーロッパの政治的中心は失われ,極右が活動を広めるとともに,ヨーロッパが崩壊に向かう.

FT January 30, 2015

The radicals of Syriza endure a rocky start

SPIEGEL ONLINE 01/30/2015

Merkel's Unintended Creation

Could Tsipras' Win Upset Balance of Power in Europe?

By SPIEGEL Staff

Alexis Tsiprasの勝利は,ドイツのEU支配に対する真正面からの攻撃であり,フランスやイタリアの指導者も緊縮さの廃止を望んでいる.

Alexis Tsiprasは,その意図を最高の舞台で宣言した.首相就任の宣誓をした後,彼は,アテネの端にある公園の「平和の祭壇」に向かったのだ.それはナチス・ドイツの占領に抗議したレジスタンスを記念するものだ.

ここでドイツの占領軍は約600名のレジスタンス戦士を銃殺した.その一部は戦争の終わる直前,194451日であった.収容所からの200人のコミュニストと一緒に.最年少の犠牲者はわずか14歳であった.

ヨーロッパ最年少の首相となったTsiprasは,ドイツのギリシャ占領を再び終わらせるつもりだ.そして何度も,ギリシャ人の尊厳を回復する,と約束した.

Project Syndicate JAN 30, 2015

A Greek Burial for German Austerity

JOSCHKA FISCHER

メルケルが妥協を受け入れるかどうか,はもう問題ではない.それは時間の問題だ.成長を実現することだけが,ユーロ圏を救える.「新しい債務」と考えずに,輸送システムやインフラ,住宅と産業の近代に投資する,と考えるなら,ユーロ圏とヨーロッパは大きな刺激を受けるだろう.

NYT JAN. 30, 2015

Europe’s Greek Test

Paul Krugman

しかし,本当に,ギリシャ人は債務を支払わないのか? ギリシャ人が自分で借りたのは真実だが,ドイツやフランスの銀行が自分で貸したのも真実だ.双方が支払うべきだが,ギリシャは債務を支払い続け,銀行は救済されている.

ギリシャが債務を返済してしまうとはだれも信じていない.問題は銀行の脆弱さ,破たんのリスクだ.債権諸国の国民が自分たちの税金で銀行を救済する.それが答えだ.

NYT JAN. 30, 2015

Greece's Political Chimera

Nikos Konstandaras

債権諸国との対決は,ポピュリズムとドグマとの戦いだ.

それはまた,ある国の民主主義と他国の権利,ヨーロッパとの対決でもある.

FT February 1, 2015

Grexit is an avoidable catastrophe for the eurozone

Wolfgang Munchau

The Gurdian, Monday 2 February 2015

Syriza has bold solutions to the forces of austerity that are strangling Europe

Costas Lapavitsas

FT February 2, 2015

Athens plots a daring escape from the troika

SPIEGEL ONLINE 02/02/2015

Greece's New Economics Minister

'Europe Doesn't Need To Be Afraid'

Interview by Manfred Ertel


後半へ続く)