IPEの果樹園2015

今週のReview

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スイス・フランの通貨危機 ・・・ユーロ危機とギリシャ債務処理 ・・・ECBの量的緩和 ・・・Pegidaとは何か? ・・・世界経済と政策の予測 ・・・メルケル・プラン ・・・中国経済の転換 ・・・オバマの一般教書演説

[長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  スイス・フランの通貨危機

NYT JAN. 15, 2015

Francs, Fear and Folly

Paul Krugman

スイスと言えば,・・・ハト時計と健全通貨,で有名な国だったはずだ.他の国が過激な経済政策を試すとしても,スイスの政策で驚くようなことはなかった.

今までは.しかし木曜日,スイスの中央銀行であるthe Swiss National BankSNB)は,世界の金融市場を驚愕させた.ユーロに対する通貨の固定性を破棄し,同時に,銀行準備金に対する金利をマイナス0.75%にしたのだ.

スイスの苦悩は,世界経済を襲うデフレの嵐がいかに激しいかを示すミニチュア版だ.

2008年の金融危機以後,われわれは経済政策の以前のルールが停止し,さかさまの世界に入って出口が見えないのだ.多くの経済的な美徳が悪徳になった.貯蓄,財政の堅実さ,安全な銀行,健全通貨.

2009年に,ギリシャの債務危機が起きたとき,安全な資産に向けて,資本が移動した.スイスに流入する資本はスイス・フランの価値を押し上げ,製造業の競争力を破壊し,スイス経済を「日本型」デフレに追いやった.

通貨価値を維持するのは,下落を止めるより,上昇を止めるほうが簡単だ,と思うだろう.しかし,金融危機後の世界は,そうではない.貨幣を刷って,銀行に詰め込んでも,無駄なのだ.そこでスイスはもっと直接に,為替市場に介入し,スイス・フランを売って,ユーロを買った.

2011年,SNBは心理作戦を用いた.「スイス・フランは大幅に過大評価されている」と宣言し,スイス経済を守り,デフレの危機を避けるために,ユーロの下限を設定する,と表明したのだ.1ユーロ=1.20スイス・フランである.これを実行するために,無制限に介入する用意がある,と.こうした宣言をすることで,介入額を抑制できるだろう,と期待したわけだ.

何年か,うまくいったが,木曜日に諦めた.その理由はわからない.ユーロ安だから,という説明は誰も信じない.

重要なことは,今や世界の多くが苦しみつつあるデフレを退治するのは,どれほど難しいか,ということだ.ヨーロッパと日本だけでなく,おそらく中国もそうだ.ここしばらくアメリカは良好であるが,アメリカだけはデフレにならない,と思うのは愚かだ.

不況において政府支出を削ること,低インフレにもかかわらず,金融引き締めを急ぐことは,重大な間違いである.

アメリカはスイスから学ぶべきだ.彼らは慎重に,何世代も健全通貨を守った.しかし,今,その代償を支払っている.

FP JANUARY 16, 2015

What the Wild Swiss Franc Appreciation Really Means

BY EDWARD HARRISON

通貨戦争の世界へようこそ.

ユーロ安,円安,ドル高に苦しむ新興市場だけでなく,ロシアも,スイスも参加して,通貨市場が浮動性を高めている.

2007年に始まった金融危機から,世界中の政治家たちは成長の見通しが悪化したことを知る.低成長,高失業で,選挙に勝つことはできない.政治家たちは何でもしようとするだろう.通貨価値を下げること,他国の成長を「盗む」ことも含めて.

スイスが2011年に,スイス・フランとユーロの価値を固定したこともそうだ.SNBは為替市場に介入し,今では約5000億スイス・フラン,GDP80%もバランスシートに(購入したユーロ資産を)示す.英米の中央銀行の約3倍だ.それは莫大な額であり,日本銀行だけがそれを上回る.

明らかに,この介入はSNBの政治的な行動だ.健全通貨を捨て,銀行にも課税して,スイス・フランの増価を抑えている.

かつて,通貨が強くなることは良いことだった.1970年代,80年代,ドイツや日本はアメリカ・ドルに対して通貨が強くなった.両国は,発展した諸国の中でも最も高成長を遂げた国だった.増価した通貨は,より多くの外国の財・サービスを買えたのだ.しかし,国内需要が伸びず,世界需要も弱い中で,各国は縮小する世界のパイに対して,輸出を難しくする強い通貨を好まない.

中央銀行は政府の一部である.政府の支持を受けて,独立性を維持しなければならない.アメリカ連銀の決定はさらに難しくなり,通貨市場の混乱は続くだろう.アメリカ連銀の政策によって,彼らが恐れいた長短金利の逆転が起きる.

完全な世界では,協調型の通貨価値の切り下げ,金融緩和が起きるだろう.しかし,現実の世界では,そうならない.各国が一方的に行動する.この金融緩和に依存した世界が,深刻なマクロ的不均衡をもたらしているはずだ.アメリカの金融政策が正常化するとき,新興市場や世界の資産市場がその問題を生じる.

スイス・フランは怯えるカナリアでしかない.

Project Syndicate JAN 17, 2015

Making Sense of the Swiss Shock

MARKUS BRUNNERMEIER and HAROLD JAMES

2009年にヨーロッパの政府債務危機が起きてから,危機に陥った国が議論され,その後,黒字国がユーロ圏を離脱するケースも議論された.

スイス・フランの固定制離脱は,少なくとも,それがもたらす不確実性のいくらかを示した.SNBは投機的な圧力によって離脱を強いられたのではない.理論上は,SNBが為替レートを無制限に固定できただろう.しかし,スイスの保守派がSNBの保有するユーロ圏政府証券のリスクを嫌い,金を買うように求めた.彼らは国民投票まで強いた.金準備を一手の割合にする要求は失敗したが,ECBの大規模な量的緩和が始まるという見通しや,最近のドルに対するユーロ安の進行により,固定制は石への政治圧力が強まった.

金融危機のモデルに比べて,中央銀行が政治圧力に屈するときのモデルは研究されていない.SNBは,数日前に,固定制の維持を約束したばかりであった.その結果,もはや市場は中央銀行の言葉を信じない.金融危機後の重要な政策である,フォワード・ガイダンスが難しくなった.

政治圧力が勝利した先例がある,1960年代後半,ドイツ連銀が固定レート制を維持するため,バランスシートの危機とインフレ圧力にさらされた.当時,ドイツの保守派も金の購入を求めたが,ドイツ連銀は,金を売ってドル安圧力を生じさせない,とアメリカ連銀に約束していた.

1969年,ドイツ政府は一方的にドイツ・マルクを切上げた.しかし,それは外貨の流入を止めるのに十分ではなかった.為替市場の介入がまだ続いた.金利を低くしたが,インフレ圧力が強まった.そして,19715月,ドイツ政府は,ドイツ連銀の願いを無視して,固定レート制を放棄し,通貨価値を変動させた.

政治は中央銀行間の約束を破棄したが,それから3か月で,国際通貨システム全体が崩壊した.ニクソン大統領はドルから金による基準を取り去った.システムに対する中央銀行の関与は信用されなくなった.システムは極端に不安定化して,ドイツ・マルクはさらに増価し,ドイツの輸出業者を苦しめた.

いまでは,1971年に比べて,ドイツ企業はさらに世界化している.金融はグローバル化し,通貨価値の変動に対して,バランスシートは大きなリスクをさらしている.外国の多くの人々がスイス・フラン建の安全な資産を求めており,それに応じてスイスの主要銀行は,他の通貨で世界中の資産を保有している.スイス・フランで自宅購入の資金を得た無邪気なハンガリー人だけでなく,こうした大銀行も為替レートの突然の変動により,莫大な損失を強いられる.

SNBの決定は金融システムを通じて影響を拡大している.観光業や医薬品のような輸出産業が競争力を失って苦しみ,スイス経済に及ぼすマイナスの効果により,ユーロに対する固定制を放棄したことは良くなかった,と示しつつある.

その影響が及ぶ範囲はスイスに限らない.ユーロ圏の,財政的に弱い小国が離脱して,ユーロを破壊することを心配したが,今や,財政的に強い小国が固定制を離脱して,EUにも加盟していないけれど,さらに大きな衝撃を与えることに対処しなければならない.

VOX 19 January 2015

End of the Swiss franc’s one-sided exchange rate band

Charles Wyplosz

SNBの固定制離脱を非難する声が高まっている.SNBはユーロの減価が収まるまで待つべきだった,という.論争はあるが,私は,次第に,よりバランスの取れた政策評価に落ち着くと思う.

重要な問題としては,1SNBは固定制を,2.一方的に破棄したのが良かったか,3.正しい時期に破棄したか,4.銀行に準備をさせるべきだったか,5.より優れた代替案があったか,6.並行して十分な対策を取ったか,である.

私の答えを単純に示せば,固定制は一時的な手段であるから,いつか破棄される.その時期は間違っていたかもしれない.しかし,破棄は予告されない.明白な代替策もない.緩和措置も難しい.

20119月にユーロに対してスイス・フランを狭い変動幅に固定したとき,それは一時的な措置であった.アメリカとイギリスが量的緩和をする中で,ユーロ圏の混乱からスイスに避難する投資家が続き,スイス・フランは大幅に過大評価された.小国開放経済として,スイスはそのような変化に耐えられず,また,金融的に統合されたまま,外で起きたことに解決不可能な状況だった.

しかし,スイスは政策の自律性を求めている.下限に近接したまま,その後もこの固定レートは守られると市場が信じていた.そのためSNBは,実際,ECBの金利変更に追随するだけだった.SNBは離脱するタイミングを待っていたのだ.

2008年の金融危機以後,ユーロとドルの為替レートは,そのショックと政策の違いにも関わらず,驚くほど安定していた.今や,ドルが大幅な増価に向かう時期に見える.確かにスイスの貿易の半分はEU諸国との間で行っている(固定制でよい).しかし,他の半分は,ドルの影響が重要だ.資本移動も影響する.過去3年間の,ユーロに対する固定制がスイス全体にとって利益になった時期は,終わった.

ユーロに固定することは減価を意味するだろう.そうではなく,ドルに固定すれば増価する.正しいレートがその間であれば,バスケットに固定するか,変動を許すことだろう.そして自律した金融政策を回復する.しかし,それが成功する保証はない.

ドルとユーロの為替レートは,今後,大きく変化し,オーバーシュートもするだろう.ユーロに固定することは望ましくない.変更するタイミングであった.

ユーロとともに減価したことで,スイスはインフレを輸入し,デフレを回避できた.回復にとってプラスだった.そのコストは,為替市場への介入で中央銀行のバランスシートが膨張することだった.しかし,新規のフランは国内に流通しなかったから,SNBは待てばよかった.

最後の日まで,SNBはユーロのレートを必ず守ると説明した.それが,市場に予想外のショックをもたらし,憤慨を引き起こした.しかし,ほかに選択肢はなかった.SNBが離脱の準備を促せば,巨大な投機が起きて,SNBは準備の差損に苦しんだはずだ.通常,為替レート制度の変更は秘密に行われる.それはSNBの信認を損なうというのも間違いだ.予告して,投機の圧力に屈するような変更のほうが,信認を大きく損なう.

多くの代替案が可能だった.一つは,バスケット・ペッグだ.スイス・フランのオーバーシュートを防ぐ.しかし,金融政策の自律性は回復できないし,官僚的な制度である.真に優れた解決策ではない.

もう一つは,政策金利をもっとマイナスにすることだ.それはエコノミストにとって魅力的な実験だが,銀行に対する課税に等しく,金融部門に依存するスイスやSNBが採用することはないだろう.

SNBはマイナスの政策金利をさらに下げて,投機を抑えようとした.しかし,それが銀行の倒産をもたらしたら,どうするのだろうか? 金利を挙げれば資本流入を招く.それに課税することや,資本規制も難しい.

政策決定は,他のケースと同じく,さまざまな視点をバランスしたものである.離脱は,金融政策回復に向けたレートの変動に向かうSNBの意向,外貨準備の膨張,ユーロ建資産を持つスイス諸州の利益とコスト,など,政治圧力が高まった結果だろう.


l  ユーロ危機とギリシャ債務処理

FT January 16, 2015

A debt to history?

Gillian Tett

ギリシャの選挙が近づくにつれて,新聞にはアテネのデモを示す写真があふれている.私は,昨年の夏,スイスであった中央銀行家たちの会議を思い出した.

豪華な,威厳のある会議であり,高尚な会話が交わされていた.陶磁器のセットに,紅茶が注がれて,尊敬される歴史家であるBenjamin Friedmanが立ち上がって,食後の話が始まった.

中央銀行の官僚たちは心地よく椅子に沈み,難解な金融政策の知的論争を予想していた.しかしFriedmanは,そこで手榴弾を高く投げ上げた.

「われわれは,世界の経済的・政治的な軌道が,多くの土地で混乱する時代に遭遇しています.ヨーロッパもそうです.」と,Friedmanは抑えた調子で話し出した.

西側の金融の歴史を簡潔に述べ,史上かつてないヨーロッパの単一貨幣という実験を強調し,20世紀の国家や地方政府がデフォルトしたことを描いた.そして,彼の声は厳しさを加えて,前の世紀で債務免除の最大の受益国の一つがドイツであった,と指摘した.1924年,1929年,1932年,1953年に,西側の連合は繰り返しドイツの債務を組み替えた.

では,なぜドイツは同じことを他国にしないのか? 「債務免除,債務の組み替えについて,ヨーロッパには多くの前例があります.・・・ドイツだけが,近代において,公的債務を大規模に救済される唯一の国である,という経済的な理由は何もないし,もちろん,道義的な理由もないのです.」

「ヨーロッパで最大の債務を負う諸国が時間とともにその負担を減らす,と仮定されているが,その経済規模と比べても,なお,それはフィクションでしかないのです.」と Friedmanは続けて,このような状態を放置すれば,政治的な騒擾に至る,と警告した.

その場が凍り付いたように静かになった.部屋はショックに襲われ,会議の主催者が質問を求めたとき,誰も動かなかった.Friedmanはギリシャと言わなかったが,誰もがそれを知っていた.中央銀行家は上品で,互いを攻撃しない,仲間意識を持っている.Friedmanはその亀裂を暴露した.

ギリシャの扱い方は,経済学の問題であるだけでなく,中央銀行家たちにとってさえ,まさにそれゆえ,深い感情的な問題であることが分かった.David GraeberDebt: The First 5,000 Yearsで示したように,信用取引は社会的・政治的な仕組みである.貸付に上限を決めない過去の社会ではどこでも,それが債務を累積的に増やし,社会的な崩壊を招くか,あるいは,債務を免除する儀礼を適用した.過去には,そのような安全弁が多く存在した.

しかし,現在のヨーロッパで問題なのは,誰がそのような権力を持つのか,明白でないことだ.第2次世界大戦後,連合国がドイツを管理していたときは債務を組み替えたが,その後,権力は分散した.しかも,債務免除の思想は,アメリカでも,ヨーロッパでも,あまりに道義的な意味合いで嫌われるようになった.

ギリシャの苦悩が続くほど,誰もが感情的になる.中央銀行家でさえもそうなのだ.ドイツ語でも,ギリシャ語でも,幸い,Graeberの本は読めるから,誰かが配ってはどうか?


l  北朝鮮の崩壊過程

Project Syndicate JAN 20, 2015

Managing North Korea’s Collapse

KENT HARRINGTON and BENNETT RAMBERG

金正恩が権力を掌握しきれず,北朝鮮の体制が崩壊する深刻なリスクがある.関係する諸国はその事態に準備するべきだ.

NYT JAN. 21, 2015

North Korea Dabbles in Reform

By ANDREI LANKOV

北朝鮮が開放政策を採用するとか,核兵器や情報管理を放棄することはないだろう.しかし,農業の改革は進んでおり,その成果は収穫に示されている.製造業の生産も伸びている.経済改革は体制を不安定化する面もあるが,生き残るためには避けられない.


l  ECBの量的緩和

VOX 17 January 2015

Effective Eurozone QE: Size matters more than risk-sharing

Francesco Giavazzi, Guido Tabellini

量的緩和QEECBの反デフレ政策の最終手段である.その規模と期間を計画に示して,それらに関して政治的な妥協をしてはならない.

ECBがリスクをプールする手段になることは,それに比べて重要ではない.南欧諸国の政府債券をECBが購入することでリスクを回避できるけれど,それを北欧諸国が嫌うなら,損失を各国の財政で負担するような妥協をすればよい.

たとえ消費者がリカード的な恒常所得を心配するとしても,QEは総需要を刺激する効果がある.すなわち,流動性を追加してポートフォリオを動かし,為替レートを通じてユーロ安が起き,債務を現金化することで財政的な制約を緩和するからだ.QEは「ヘリコプター・マネー」として機能する.

その効果を発揮するうえで,財政政策との協力が重要だ.ECBは政府債券を購入して長期に保有する.例えば,毎月600億ユーロの長期政府債を購入し,2%の成長軌道が実現するまで購入し続ける,と約束する.アメリカ連銀のQEでは850億ドルを購入し続けた.

FT January 19, 2015

Monetary stimulus and other ways of averting apocalypse

Manny Roman

数か月前,ニューヨークで,アメリカの芸術家Christopher Woolの作品が民間のコレクターによって買われた.白いキャンバスに,黒のインクで「FOOL」と描いてある.3年前に支払われた額は800万ドルだった.新しい所有者は,そのほぼ2倍を支払った.

金融危機の後,中央銀行家が手段にしているのは,資産購入だ.QEによる資金がさまざまな市場で価格を上げている.

QEに反対する意見もある.債務依存を促し,産業間の優劣を生じる.しかし,アメリカ経済が回復したことで反対派は抑えられた.最大の懸念は不平等の拡大だ.後知恵で,QEと新ケインズ主義の刺激策が景気回復に成功した,と言うが,その代替策である,オーストリア学派の主張はまったく無視されている.QEが終息する過程で,彼らが見直されるだろう.

Woolの新しい作品が最近のオークションに出た.“SELL THE HOUSE, SELL THE CAR, SELL THE KIDS”


l  Pegidaとは何か?

The Guardian, Sunday 18 January 2015

Germany’s anti-Islamic movement Pegida is a vampire we must slay

Timothy Garton Ash

Pegidaはイスラム化に反対するドレスデンのデモ行進だが,ヨーロッパ各地に同様の運動がある.ベルギーのテロ組織摘発やパリのCharlie Hebdo襲撃を受けて,こうした反イスラム・反移民・反ユダヤの活動が広まっている.

ドレスデンは東ドイツの主要都市であったが,移民はほとんどおらず,外国文化の影響や西ドイツの放送も受けていなかった.デモ参加者は中年の,それゆえ,東ドイツ政府に保護されていた人々だ.

1989年の革命のスローガン,Wir sind das Volk は,民主主義の自治政府を示す理想ではなく,エスニックで定義されたアドルフ・ヒトラーのスローガンに変わった.「西側のイスラム化に反対する愛国的なヨーロッパ人」と訳されるPegidaだが,その言葉は時代錯誤と人種的ゆがみを強く示している.

パリではル・ペンが英語でTwitterに投票を呼びかけ,イギリスでは独立党のNigel Farageが民族を語った.極右の主張と,それに呼応するようなイスラム過激派の脅迫や影響力拡大が悪循環を成している.ヨーロッパのイスラム教徒たちは不安を強め,マイノリティが過激化する.「愛国的ヨーロッパ人」の主張に,フランスのユダヤ人たちは,もはやこの国が安全ではない,と語った.

政治家や宗教指導者の発言,メディアの伝え方は重要である.しかし,結局,市民たちの行動が重要である.Charlie Hebdo襲撃に抗議してパリに集まった300万人がそうだ.さらに,非イスラム教徒の市民たちが日常生活で示す,イスラム教徒への共感,「彼ら」ではなく,「われわれ」としての真実が,日々,Pegidaのような邪悪さを拭い去るのだ.


l  世界経済と政策の予測

FT January 18, 2015

It can be morning again for the world’s middle class

Larry Summers

産業社会の民主主義が成功するために何よりも重要なことは,賃金が上昇し,労働者の生活水準が改善することである.

デフレを避けて成長を回復すること,しかし,長期的な成長の減速,停滞が懸念されること,不平等を抑え,包括的な成長を実現すること,が重要である.それは政策の重心が,貿易や投資の自由化だけでなく,もっと,累進課税や規制を国際的に重視して,底辺に向かう競争を抑えることも,政府に求めている.

Project Syndicate JAN 20, 2015

Half-a-Loaf Growth

MICHAEL SPENCE

成長を回復し,維持するためには,戦略が必要だ.政策担当者たちは,経済の開放,公共投資,マクロ経済の安定化,市場とその誘因に頼った資源配分が重要だ.

中国の成長はそれを示す.

アメリカとヨーロッパの回復の違いは,財政刺激策ではない.構造的な弾力性と,中央銀行の自律的な政策決定能力である.

成長戦略の一部を実現しても,全体の効果は生じない.


l  メルケル・プラン

Project Syndicate JAN 19, 2015

A “Merkel Plan” for Europe

BILL EMMOTT

4年以上も前からヨーロッパの経済危機は続いており,政治家や評論家たちがグランド・バーゲインを唱えてきた.第2次世界大戦後,アメリカがヨーロッパに対して行ったマーシャル・プランのような.それは実現しなかったのだが,いよいよその政治的な機会が訪れるかもしれない.

政治的な地域分割がそれを阻んできたのだが,125日のギリシャの選挙で,かつて湯^ロ圏離脱を主張し,今では債務条件の再交渉を求める極左派のSyrizaが勝利するだろう.スペインでも,20141月に創設された政党Podemosが同様の主張をしている.イギリスでは,5月の選挙で,RU離脱の国民投票が問題になる.

ドイツなど,債権諸国が債務国に求めた財政緊縮策と制度改革による生産性上昇は,不況をもたらし,債務を減らすことには失敗した.現代のマーシャル・プランが求められる.

ドイツのメルケル首相が指導力を示して提案する方が,赤字諸国の新政権に少しずつ譲歩するより,政治的に賢明であろう.さらにフランスのオランド大統領,イギリスのキャメロン首相と一緒に提案すれば,さらに優れている.オランドは,テロ攻撃の後,団結と成長を求めているし,キャメロンのEU改革の推進を見るからだ.

現代のマーシャル・プランは,3つの要素からなる.1.債務の組み替え,2.エネルギーとインフラへの集団的な公共投資,3.単一市場の自由化完成.

ドイツでは債務の組み替えに反対する声が強い.しかし,1953年のロンドン合意で,ドイツは公的債務の50%を免除され,残った債務も長期の返済に組み替えた,それはドイツの戦後復興に大きな力となったのだ.ユーロ圏の債務も,ギリシャ単独ではなく,ユーロ圏諸国が保証する長期のユーロ債で借り換えればよいだろう.

メルケル・プラン(あるいは,メルケル=オランド=キャメロン・プラン)は,成長を再生し各国に貿易自由化と競争とを受け入れさせる.それは,1980年代にマーガレット・サッチャ−が主張したものだ.


l  オバマの一般教書演説

FP JANUARY 20, 2015

We’re Not Out of the Woods Yet: 3 Dangers to the Economy Obama Should Tackle in Tonight’s Speech

BY PHIL LEVY

アメリカ経済は,IMFの経済予測を上向きに修正した唯一の主要国だ.オバマはそれを自慢できるが,今夜のスピーチでは3つの問題に取り組む.

1.世界中に,深刻な債務問題を抱えた小国や領土があふれている.それは,ギリシャやウクライナのように,世界経済にも影響を及ぼすかもしれない.2.アメリカ連銀はQEによるバランスシートの膨張を正常化するはずである.しかし,まだ実行していない.3.ヨーロッパ,日本,中国の成長が減速すれば,アメリカ経済の成長を続かない.

アメリカにできることは,国際機関の改革と活用だ.IMFTPPTTIP

FP JANUARY 20, 2015

The Opportunity Obama Missed in the State of the Union

BY KORI SCHAKE

アメリカ大統領が議会の支配を失ったら,3つの選択肢しかない.1.反対派のアイデアを盗む.2.議会の通過させた法制化を拒む.3.外交政策に重点を移す.

FT January 21, 2015

Barack Obama sets out case for middle-class economics

オバマの一般教書演説は,ずうずうしい経済ポピュリズムに満ちていた.中間選挙で議会を制した共和党員たちは憤慨しただけだろう.それは共和党が敗退させた民主党の選挙公約リストを再利用したものだ.

アメリカ国民の多数がまだ,世紀の始めよりも生活状態が悪化したままである.オバマは,トリクルダウンに代えて,「ミドルクラス経済学」を唱えた.しかし,共和党の利益になることを説明しなければ,何一つ法案が成立しない.

オバマは税負担を労働者から,キャピタル・ゲイン課税など,金融資産所有者に移すことを主張する.しかし,2016年の大統領選挙が目的であって,議会を通過させることは考えていないようだ.彼は選挙運動家としては優秀だが,統治者に向いていない.

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The Economist January 10th 2015

Terror in Paris

Libya: The next failed state

Libya’s civil war: That it should come to this

Banyan: Birthday blues

Canada’s immigration policy: No country for old men

Germany’s anti-Islam marches: The uprising of the decent

Charlemagne: Riga realities

(コメント) 世界を構成するものは何か? パリのテロ,破たん国家に向かうリビア,北朝鮮の消滅,カナダの移民政策,ドイツの反イスラム・デモ,ユーロ圏とロシアに挟まれたラトビア.

イデオロギー対立と近隣の破たん国家は,世界都市パリにおける深刻な襲撃事件の背景です.移民・難民をめぐる豊かな国の選別政策は,一時的な専門職の雇用を重視したものに変わり,反移民のデマゴーグが要求するものに近づきます.

小国ラトビアがEUの議長国になることで,その困難な歴史をEU外交やユーロ圏の調整メカニズムに反映する機会かもしれません.他方,小国として北朝鮮が消滅に向かう過程は,すでに国際政治の一部として議論されています.

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IPEの想像力 1/26/15

独裁者も,通貨危機も,テロも,まだ日本を変える圧力になっていない,と書いた翌日から,それは変わりました.

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テレビ中継の舞台は「テロリスト 対 日本政府・安倍首相」です.覆面から眼だけ出したテロリストは,ナイフを手に,2人の日本人(湯川・後藤)を斬首するぞ,と,イスラム国家の攻撃に加担した日本政府を脅迫しました.

安倍首相は何と答えたか? テロには屈しない,2人を直ちに解放せよ,関係する諸国とも協力し,あらゆる手を尽くして2人の日本人の安全を確保したい,・・・日本からの援助は軍事目的ではない,と強調し,テロに対する国際社会の対応マニュアルに沿って,秘密裏に交渉し,関係諸国には圧力と援助・投資を約束しながら,解放を促す.

それは,安倍氏に限らず,政治指導者の模範解答です.しかし,さらに考える材料はほかにもあります.

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北朝鮮の崩壊を議論する Banyan: Birthday bluesが印象的でした.

アメリカの外交評議会のRichard Haassや元政府高官,中国の人民解放軍元将軍,などが,金正恩の体制を消滅させる選択肢について議論しています.

もちろん,北朝鮮は核兵器を放棄しないし,外の世界の情報を管理し,特に,韓国との経済水準の違いを国民に知らせず,ロシアと軍事的な協力関係を強めるでしょう.しかし,東ドイツ型の消滅は時間の問題だ,と関係者たちは見ています.

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NHKBS「島耕作のアジア立志伝」を観ました.「ASEANの飛躍を日本と共に」というタイトルで,ウィクロム・クロマディット(アマタ・コーポレーション創業者)を紹介しています.

若いウィルコムが台湾で学んでいたとき,日本企業の清掃や人間関係に惹かれた,と言います.ウィルコムは工業団地を開発することで,タイに日本企業を誘致し,雇用だけでなく,ショッピングモールや病院も建て,地域の住民に開放しました.

中国との国境に近いベトナムの町にも,日本企業がやってくる,と説明します.カンボジアでは,長く内戦を経てきた少数民族カレン族の将軍に,出稼ぎで放棄され,荒れはてた畑を工業団地に変えること,学校を建て,病院を建て,町を創るように説得します.ASEAN1つになり,日本からの投資で豊かになる,と.

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道路や鉄道,港湾の建設,電気・水道などのインフラ整備,パイプラインが敷設されます.そのためには,アジア・インフラ投資銀行だけでなく,周辺地域の安全,政治的な安定が求められます.

スリランカでは,安倍首相に似た早期の選挙により,権力の維持・強化を図った大統領が敗北しました.イスラム教徒やタミール人の少数派から支持された新大統領が,軍の支持を得ながら,中国だけでなく西側からの援助も受けて,内戦後の和解に向けた,安全保障と開発モデルの転換を模索します.

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スイス・フランは固定レートを離脱し,国際金融市場に衝撃を与えました.それはドイツがユーロ圏を放棄した場合の衝撃やコストを創造させます.あるいは,次は香港ドルでしょうか?

すでに,人民元は着実にドル本位制の世界を離脱しつつあります.決して破壊的な戦略を採用することなく,アメリカも中国も,金融政策の独立を回復し,独自の通貨圏と為替レートの変動を望むでしょう.

ギリシャの選挙でSyrizaが勝利したことは,「メルケル・プラン」の政治的な余地を明確に意識したはずだ,とBill Emmottは考えます.

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テロリストに対抗するには,より多くの人に貿易や技術革新の成果をおよぼす,市場開放と包括的な労働市場改革が重要でしょう.中国人も,韓国人も,異民族,異教徒,異論を唱える人々も,日本では共に助け合い,豊かに暮らしている,と説得することができます.

日本人を標的にするより,日本企業の投資を望む人が増えるでしょう.日本人の雇用を奪う,大東亜共栄圏の再現である,という内外の批判に,積極的に答えることです.

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