IPEの果樹園2015

今週のReview

1/26-31

 

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スイス・フランの通貨危機 ・・・ユーロ危機とギリシャ債務処理 ・・・ECBの量的緩和 ・・・Pegidaとは何か? ・・・世界経済と政策の予測 ・・・メルケル・プラン ・・・中国経済の転換 ・・・オバマの一般教書演説 ・・・国際政治の多極化とアメリカ

[長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  スイス・フランの通貨危機

NYT JAN. 15, 2015

Francs, Fear and Folly

Paul Krugman

スイスと言えば,・・・ハト時計と健全通貨,で有名な国だったはずだ.他の国が過激な経済政策を試すとしても,スイスの政策で驚くようなことはなかった.

今までは.しかし木曜日,スイスの中央銀行であるthe Swiss National BankSNB)は,世界の金融市場を驚愕させた.ユーロに対する通貨の固定性を破棄し,同時に,銀行準備金に対する金利をマイナス0.75%にしたのだ.

スイスの苦悩は,世界経済を襲うデフレの嵐がいかに激しいかを示すミニチュア版だ.

2008年の金融危機以後,われわれは経済政策の以前のルールが停止し,さかさまの世界に入って出口が見えないのだ.多くの経済的な美徳が悪徳になった.貯蓄,財政の堅実さ,安全な銀行,健全通貨.

2009年に,ギリシャの債務危機が起きたとき,安全な資産に向けて,資本が移動した.スイスに流入する資本はスイス・フランの価値を押し上げ,製造業の競争力を破壊し,スイス経済を「日本型」デフレに追いやった.

通貨価値を維持するのは,下落を止めるより,上昇を止めるほうが簡単だ,と思うだろう.しかし,金融危機後の世界は,そうではない.貨幣を刷って,銀行に詰め込んでも,無駄なのだ.そこでスイスはもっと直接に,為替市場に介入し,スイス・フランを売って,ユーロを買った.

2011年,SNBは心理作戦を用いた.「スイス・フランは大幅に過大評価されている」と宣言し,スイス経済を守り,デフレの危機を避けるために,ユーロの下限を設定する,と表明したのだ.1ユーロ=1.20スイス・フランである.これを実行するために,無制限に介入する用意がある,と.こうした宣言をすることで,介入額を抑制できるだろう,と期待したわけだ.

何年か,うまくいったが,木曜日に諦めた.その理由はわからない.ユーロ安だから,という説明は誰も信じない.

重要なことは,今や世界の多くが苦しみつつあるデフレを退治するのは,どれほど難しいか,ということだ.ヨーロッパと日本だけでなく,おそらく中国もそうだ.ここしばらくアメリカは良好であるが,アメリカだけはデフレにならない,と思うのは愚かだ.

不況において政府支出を削ること,低インフレにもかかわらず,金融引き締めを急ぐことは,重大な間違いである.

アメリカはスイスから学ぶべきだ.彼らは慎重に,何世代も健全通貨を守った.しかし,今,その代償を支払っている.

FT January 16, 2015

Lessons from Switzerland doffing its cap

John Authers

FP JANUARY 16, 2015

What the Wild Swiss Franc Appreciation Really Means

BY EDWARD HARRISON

スイス・フランは,一時,ユーロに対して40%近くも増価し,その日の終わりでも20%高くなった.その影響で,通貨ブローカーの倒産が起きている.

外国為替市場で取引されている主要な通貨では,2%3%も変化すれば大きいことだ.20%は途方もない変化であり,かつてない恐るべきブラック・スワンだ.

通貨戦争の世界へようこそ.

ユーロ安,円安,ドル高に苦しむ新興市場だけでなく,ロシアも,スイスも参加して,通貨市場が浮動性を高めている.

2007年に始まった金融危機から,世界中の政治家たちは成長の見通しが悪化したことを知る.低成長,高失業で,選挙に勝つことはできない.政治家たちは何でもしようとするだろう.通貨価値を下げること,他国の成長を「盗む」ことも含めて.

スイスが2011年に,スイス・フランとユーロの価値を固定したこともそうだ.SNBは為替市場に介入し,今では約5000億スイス・フラン,GDP80%もバランスシートに(購入したユーロ資産を)示す.英米の中央銀行の約3倍だ.それは莫大な額であり,日本銀行だけがそれを上回る.

明らかに,この介入はSNBの政治的な行動だ.健全通貨を捨て,銀行にも課税して,スイス・フランの増価を抑えている.

かつて,通貨が強くなることは良いことだった.1970年代,80年代,ドイツや日本はアメリカ・ドルに対して通貨が強くなった.両国は,発展した諸国の中でも最も高成長を遂げた国だった.増価した通貨は,より多くの外国の財・サービスを買えたのだ.しかし,国内需要が伸びず,世界需要も弱い中で,各国は縮小する世界のパイに対して,輸出を難しくする強い通貨を好まない.

中央銀行は政府の一部である.政府の支持を受けて,独立性を維持しなければならない.アメリカ連銀の決定はさらに難しくなり,通貨市場の混乱は続くだろう.アメリカ連銀の政策によって,彼らが恐れいた長短金利の逆転が起きる.

完全な世界では,協調型の通貨価値の切り下げ,金融緩和が起きるだろう.しかし,現実の世界では,そうならない.各国が一方的に行動する.この金融緩和に依存した世界が,深刻なマクロ的不均衡をもたらしているはずだ.アメリカの金融政策が正常化するとき,新興市場や世界の資産市場がその問題を生じる.

スイス・フランは怯えるカナリアでしかない.

Bloomberg JAN 16, 2015

Swiss Turmoil Hints at Future Lehman Moments

By Mark Gilbert

Bloomberg JAN 16, 2015

A Square Peg in a Round Euro

By Megan McArdle

Project Syndicate JAN 17, 2015

Making Sense of the Swiss Shock

MARKUS BRUNNERMEIER and HAROLD JAMES

2009年にヨーロッパの政府債務危機が起きてから,危機に陥った国が議論され,その後,黒字国がユーロ圏を離脱するケースも議論された.

スイス・フランの固定制離脱は,少なくとも,それがもたらす不確実性のいくらかを示した.SNBは投機的な圧力によって離脱を強いられたのではない.理論上は,SNBが為替レートを無制限に固定できただろう.しかし,スイスの保守派がSNBの保有するユーロ圏政府証券のリスクを嫌い,金を買うように求めた.彼らは国民投票まで強いた.金準備を一手の割合にする要求は失敗したが,ECBの大規模な量的緩和が始まるという見通しや,最近のドルに対するユーロ安の進行により,固定制は石への政治圧力が強まった.

金融危機のモデルに比べて,中央銀行が政治圧力に屈するときのモデルは研究されていない.SNBは,数日前に,固定制の維持を約束したばかりであった.その結果,もはや市場は中央銀行の言葉を信じない.金融危機後の重要な政策である,フォワード・ガイダンスが難しくなった.

政治圧力が勝利した先例がある,1960年代後半,ドイツ連銀が固定レート制を維持するため,バランスシートの危機とインフレ圧力にさらされた.当時,ドイツの保守派も金の購入を求めたが,ドイツ連銀は,金を売ってドル安圧力を生じさせない,とアメリカ連銀に約束していた.

1969年,ドイツ政府は一方的にドイツ・マルクを切上げた.しかし,それは外貨の流入を止めるのに十分ではなかった.為替市場の介入がまだ続いた.金利を低くしたが,インフレ圧力が強まった.そして,19715月,ドイツ政府は,ドイツ連銀の願いを無視して,固定レート制を放棄し,通貨価値を変動させた.

政治は中央銀行間の約束を破棄したが,それから3か月で,国際通貨システム全体が崩壊した.ニクソン大統領はドルから金による基準を取り去った.システムに対する中央銀行の関与は信用されなくなった.システムは極端に不安定化して,ドイツ・マルクはさらに増価し,ドイツの輸出業者を苦しめた.

いまでは,1971年に比べて,ドイツ企業はさらに世界化している.金融はグローバル化し,通貨価値の変動に対して,バランスシートは大きなリスクをさらしている.外国の多くの人々がスイス・フラン建の安全な資産を求めており,それに応じてスイスの主要銀行は,他の通貨で世界中の資産を保有している.スイス・フランで自宅購入の資金を得た無邪気なハンガリー人だけでなく,こうした大銀行も為替レートの突然の変動により,莫大な損失を強いられる.

SNBの決定は金融システムを通じて影響を拡大している.観光業や医薬品のような輸出産業が競争力を失って苦しみ,スイス経済に及ぼすマイナスの効果により,ユーロに対する固定制を放棄したことは良くなかった,と示しつつある.

その影響が及ぶ範囲はスイスに限らない.ユーロ圏の,財政的に弱い小国が離脱して,ユーロを破壊することを心配したが,今や,財政的に強い小国が固定制を離脱して,EUにも加盟していないけれど,さらに大きな衝撃を与えることに対処しなければならない.

FT January 19, 2015

Are central banks a destabilising force?

Axel Merk

VOX 19 January 2015

End of the Swiss franc’s one-sided exchange rate band

Charles Wyplosz

SNBの固定制離脱を非難する声が高まっている.SNBはユーロの減価が収まるまで待つべきだった,という.論争はあるが,私は,次第に,よりバランスの取れた政策評価に落ち着くと思う.

重要な問題としては,1SNBは固定制を,2.一方的に破棄したのが良かったか,3.正しい時期に破棄したか,4.銀行に準備をさせるべきだったか,5.より優れた代替案があったか,6.並行して十分な対策を取ったか,である.

私の答えを単純に示せば,固定制は一時的な手段であるから,いつか破棄される.その時期は間違っていたかもしれない.しかし,破棄は予告されない.明白な代替策もない.緩和措置も難しい.

20119月にユーロに対してスイス・フランを狭い変動幅に固定したとき,それは一時的な措置であった.アメリカとイギリスが量的緩和をする中で,ユーロ圏の混乱からスイスに避難する投資家が続き,スイス・フランは大幅に過大評価された.小国開放経済として,スイスはそのような変化に耐えられず,また,金融的に統合されたまま,外で起きたことに解決不可能な状況だった.

しかし,スイスは政策の自律性を求めている.下限に近接したまま,その後もこの固定レートは守られると市場が信じていた.そのためSNBは,実際,ECBの金利変更に追随するだけだった.SNBは離脱するタイミングを待っていたのだ.

2008年の金融危機以後,ユーロとドルの為替レートは,そのショックと政策の違いにも関わらず,驚くほど安定していた.今や,ドルが大幅な増価に向かう時期に見える.確かにスイスの貿易の半分はEU諸国との間で行っている(固定制でよい).しかし,他の半分は,ドルの影響が重要だ.資本移動も影響する.過去3年間の,ユーロに対する固定制がスイス全体にとって利益になった時期は,終わった.

ユーロに固定することは減価を意味するだろう.そうではなく,ドルに固定すれば増価する.正しいレートがその間であれば,バスケットに固定するか,変動を許すことだろう.そして自律した金融政策を回復する.しかし,それが成功する保証はない.

ドルとユーロの為替レートは,今後,大きく変化し,オーバーシュートもするだろう.ユーロに固定することは望ましくない.変更するタイミングであった.

ユーロとともに減価したことで,スイスはインフレを輸入し,デフレを回避できた.回復にとってプラスだった.そのコストは,為替市場への介入で中央銀行のバランスシートが膨張することだった.しかし,新規のフランは国内に流通しなかったから,SNBは待てばよかった.

最後の日まで,SNBはユーロのレートを必ず守ると説明した.それが,市場に予想外のショックをもたらし,憤慨を引き起こした.しかし,ほかに選択肢はなかった.SNBが離脱の準備を促せば,巨大な投機が起きて,SNBは準備の差損に苦しんだはずだ.通常,為替レート制度の変更は秘密に行われる.それはSNBの信認を損なうというのも間違いだ.予告して,投機の圧力に屈するような変更のほうが,信認を大きく損なう.

多くの代替案が可能だった.一つは,バスケット・ペッグだ.スイス・フランのオーバーシュートを防ぐ.しかし,金融政策の自律性は回復できないし,官僚的な制度である.真に優れた解決策ではない.

もう一つは,政策金利をもっとマイナスにすることだ.それはエコノミストにとって魅力的な実験だが,銀行に対する課税に等しく,金融部門に依存するスイスやSNBが採用することはないだろう.

SNBはマイナスの政策金利をさらに下げて,投機を抑えようとした.しかし,それが銀行の倒産をもたらしたら,どうするのだろうか? 金利を挙げれば資本流入を招く.それに課税することや,資本規制も難しい.

政策決定は,他のケースと同じく,さまざまな視点をバランスしたものである.離脱は,金融政策回復に向けたレートの変動に向かうSNBの意向,外貨準備の膨張,ユーロ建資産を持つスイス諸州の利益とコスト,など,政治圧力が高まった結果だろう.

Bloomberg JAN 21, 2015

Will Hong Kong's Peg Be the Next to Fall?

By William Pesek

スイスの次は香港ドルの固定制だろうか?  香港金融庁のJohn Tsang長官は明確に否定した.

しかし,香港の住民に不満が広がっている一つの理由は,インフレ,特に不動産価格の上昇だ.その背景には,香港ドルの為替レートがUSドルに固定されていることがある.人民元に対して,香港ドルが過小評価になるからだ.中国からの資本流入が続いている.

香港ドルを,USドルではなく,人民元に固定すること.あるいは.シンガポールのように,USドルと人民元のバスケットに為替レートを固定すること,などが議論されている.HSBCPeter Wongは,完全に変動させて,人民元化することを支持した.


l  グアンタナモ閉鎖に向けて

The Guardian, Friday 16 January 2015

Where is justice for the men still abandoned in Guantánamo Bay?

Morris Davis

NYT JAN. 17, 2015

Perpetuating Guantánamo’s Travesty

By THE EDITORIAL BOARD


l  テロ後のフランス

The Guardian, Friday 16 January 2015

France’s much vaunted secularism is not the neutral space it claims to be

Giles Fraser

NYT JAN. 18, 2015

To Call This Threat by Its Name

By MARINE LE PEN

その名を正しく呼ぶべきだ.フランス政府はそれを避けている.人権と自由の国であるフランスが,全体主義イデオロギーである,イスラム原理主義の攻撃を受けている.

フランス政府は間違いを繰り返している.それは,3つである.人と財の自由な移動というドグマ.大規模な移民の流入.しかも同化政策を拒否している.地政学的な危機を連続したフランス外交.

NYT JAN. 20, 2015

Say It Like It Is

Thomas L. Friedman

ホワイトハウスがイスラム過激派を,個人の犯罪行為,として理解するのは間違っている.スンニ派アラブとパキスタンのっ中東とヨーロッパにおけるコミュニティーにおける憤慨する若者たちが多くの過激派を生んでいる.

西側の軍事介入がこうした諸国の崩壊を招いたのであれば,われわれはこれを抑えるべきだ.そして彼らの不満を吸収するべきだ.それには長い時間がかかる.

アラブやパキスタンのスンニ派イスラムが,近代化,多元主義,女性の権利をどのように考えるのか,議論するべきだ.

Bloomberg JAN 21, 2015

Don't Restart Europe's Wars of Religion

By Pankaj Mishra

FT January 22, 2015

After Charlie, an opening for Le Pen

Philip Stephens

NYT JAN. 22, 2015

Chechnya and Charlie Hebdo

By MICHAEL KHODARKOVSKY


l  インドとオバマ

FT January 16, 2015

India has every chance to outstrip China if it tries

FP JANUARY 22, 2015

To Beat China, Be China

BY RUPA SUBRAMANYA

YaleGlobal, 22 January 2015

Obama in India: Time to Get Serious on Common Goals

Vikram Mansharamani


l  ユーロ危機とギリシャ債務処理

FT January 16, 2015

A debt to history?

Gillian Tett

ギリシャの選挙が近づくにつれて,新聞にはアテネのデモを示す写真があふれている.私は,昨年の夏,スイスであった中央銀行家たちの会議を思い出した.

豪華な,威厳のある会議であり,高尚な会話が交わされていた.陶磁器のセットに,紅茶が注がれて,尊敬される歴史家であるBenjamin Friedmanが立ち上がって,食後の話が始まった.

中央銀行の官僚たちは心地よく椅子に沈み,難解な金融政策の知的論争を予想していた.しかしFriedmanは,そこで手榴弾を高く投げ上げた.

「われわれは,世界の経済的・政治的な軌道が,多くの土地で混乱する時代に遭遇しています.ヨーロッパもそうです.」と,Friedmanは抑えた調子で話し出した.

西側の金融の歴史を簡潔に述べ,史上かつてないヨーロッパの単一貨幣という実験を強調し,20世紀の国家や地方政府がデフォルトしたことを描いた.そして,彼の声は厳しさを加えて,前の世紀で債務免除の最大の受益国の一つがドイツであった,と指摘した.1924年,1929年,1932年,1953年に,西側の連合は繰り返しドイツの債務を組み替えた.

では,なぜドイツは同じことを他国にしないのか? 「債務免除,債務の組み替えについて,ヨーロッパには多くの前例があります.・・・ドイツだけが,近代において,公的債務を大規模に救済される唯一の国である,という経済的な理由は何もないし,もちろん,道義的な理由もないのです.」

「ヨーロッパで最大の債務を負う諸国が時間とともにその負担を減らす,と仮定されているが,その経済規模と比べても,なお,それはフィクションでしかないのです.」と Friedmanは続けて,このような状態を放置すれば,政治的な騒擾に至る,と警告した.

その場が凍り付いたように静かになった.部屋はショックに襲われ,会議の主催者が質問を求めたとき,誰も動かなかった.Friedmanはギリシャと言わなかったが,誰もがそれを知っていた.中央銀行家は上品で,互いを攻撃しない,仲間意識を持っている.Friedmanはその亀裂を暴露した.

ギリシャの扱い方は,経済学の問題であるだけでなく,中央銀行家たちにとってさえ,まさにそれゆえ,深い感情的な問題であることが分かった.David GraeberDebt: The First 5,000 Yearsで示したように,信用取引は社会的・政治的な仕組みである.貸付に上限を決めない過去の社会ではどこでも,それが債務を累積的に増やし,社会的な崩壊を招くか,あるいは,債務を免除する儀礼を適用した.過去には,そのような安全弁が多く存在した.

しかし,現在のヨーロッパで問題なのは,誰がそのような権力を持つのか,明白でないことだ.第2次世界大戦後,連合国がドイツを管理していたときは債務を組み替えたが,その後,権力は分散した.しかも,債務免除の思想は,アメリカでも,ヨーロッパでも,あまりに道義的な意味合いで嫌われるようになった.

ギリシャの苦悩が続くほど,誰もが感情的になる.中央銀行家でさえもそうなのだ.ドイツ語でも,ギリシャ語でも,幸い,Graeberの本は読めるから,誰かが配ってはどうか?

NYT JAN. 16, 2015

Argentina’s Lessons for Greece

By PIERPAOLO BARBIERI and DIMITRIS VALATSAS

選挙の争点は,経済崩壊をどうやって管理するかではなく,ギリシャ経済が復活しつつあることだ.Eurostatの統計が示すように,ギリシャは昨年第1四半期から成長し続けている.

しかし,1週間後に迫った選挙では,政治的リスクが再現している.再び市場は怯えている.ギリシャ国民がSyrizaに政権を委ねて,債券諸国との対決に向かい,国有化,強制的な賃金引き上げ,不可能な補助金支給,という破滅的なマクロ政策に頼るリスクがあるからだ.

その指導者Alexis Tsiprasは,Syrizaを穏健に見せるために努めてきた.しかし,政策の中身は彼のかつての希望である,アルゼンチンの例に従う,ということだ.2011年の危機の際,Nouriel Roubini and Paul Krugmanのようなエコノミストたちが,それを主張した.

アルゼンチンの過去10年が示す教訓は2つある.第1に,Syrizaが唱える債務のモラトリアムは無意味である.債務を支払わないとしても,それはなくならない.アルゼンチンの長い法廷闘争を観ればよい.アルゼンチンの債権者は民間銀行や投資家であったが,ユーロ圏諸国は政府間で秩序ある債務処理を制度化している.

2に,経済ポピュリズムや金融の魔術的解決は短命である.それらは経済発展をもたらさない.孤立と不均衡である.アルゼンチンでは,その後,非正統的な政策を10年続けたが,マイナス成長と40%のインフレをもたらした.資本規制,時代錯誤の外貨管理,民間企業の行動を縛る政府介入が増えた.

しかもギリシャの債権国には,もっと貧しいスロヴァキアのような国もある.Syrizaの計画は不正直だ.世界から一方的に離脱するより,ユーロ圏諸国の交渉によって解決策を見出すべきだ.

FP JANUARY 16, 2015

Europe Cracks Down

BY J.M. BERGER

Bloomberg JAN 16, 2015

It Might Be Time to Panic About Greece

By Megan McArdle

Project Syndicate JAN 19, 2015

The Greek Time Bomb

YANNOS PAPANTONIOU

Syrizaは,緊縮策ではなく,成長を通じて債務を返済する必要があると主張している.債務の支払い拒否が,ユーロ圏の赤字諸国に波及するリスクを軽視してはならない.

FT January 20, 2015

Syriza’s far-left imagines electoral victory as revenge

Tony Barber in Athens

FT January 20, 2015

End austerity before fear kills Greek democracy

Alexis Tsipras

Syrizaが保証するのは,政治的安定と経済的確実さのための新しい社会契約である.われわれは緊縮を終わらせ,民主主義と社会的結束を高め,中産階級を再生する.これこそがユーロ圏を強化し,ヨーロッパ統合のプロジェクトを大陸全体で市民に魅力的なものにする道である.

もし進歩と民主主義がヨーロッパを変えるのを拒めば,Marine Le Penとその極右の仲間がヨーロッパを変えるだろう.

Project Syndicate JAN 20, 2015

Still No Exit for Greece

KEMAL DERVIŞ

NYT JAN. 20, 2015

Greece’s Accounting Problem

By JACOB SOLL


l  ロシア危機

SPIEGEL ONLINE 01/16/2015

Gorbachev Interview

'I Am Truly and Deeply Concerned'

「もし戦争が起きたら,それは核戦争になる.」

Project Syndicate JAN 16, 2015

Putin’s Scare Tactics

NINA L. KHRUSHCHEVA

The Guardian, Tuesday 20 January 2015

Why Vladimir Putin should be at the Auschwitz memorial ceremony

Antony Beevor

FT January 21, 2015

Richard Nixon’s madman theory enjoys a Russian revival

Peter Pomeranzev

ロシアの政治エリートたちは「ダブル・バインド」にある.精神分裂病の原因としてこの言葉を使うとき,それは権力者の指示が矛盾しているために,犠牲者はそれを守ることも,抵抗することもできない状態に陥る,という意味だ.

かつてクレムリンは,無神論の共産主義者であったが,ヨーロッパに親しい近代化論者になり,今や,反西側の宗教的ナショナリストになった.

ロシア政府に関する情報では,プーチンが正気を失っており,経済制裁も意味がない,という.それはかつて,アメリカの大統領だったニクソンがソ連を怯えさせるために装った狂気と同じだ.クレムリンは,NATOを混乱させるために,リトアニアやエストニアを利用して,ワルシャワを攻撃するゲームに巻き込んでいる.


l  貿易のサービス化

VOX 16 January 2015

Tear down the trade-policy silos! Or how the servicification of manufacturing makes divides in trade policymaking irrelevant

Magnus Lodefalk

製品貿易は,ますますサービス化しつつある.この2つを異なるルールで管理することは不可能だ.


l  日本の安倍政権

NYT JAN. 16, 2015

The Shape of Japan to Come

By ALEXIS DUDDEN

多くの紛争を含む「領土」を掲げた安倍の日本復活は,憲法改正によって国民にも服従を求める.近隣諸国や国民に対する彼の強い要求は,日本が得るものより失うものが多いことを意味する.

(China Daily) 2015-01-19

Abe should give sincere apology to all

By Cai Hong


l  北朝鮮の崩壊過程

FP JANUARY 16, 2015

Calling In the Formers

BY JOHN HUDSON

Project Syndicate JAN 20, 2015

Managing North Korea’s Collapse

KENT HARRINGTON and BENNETT RAMBERG

金正恩が権力を掌握しきれず,北朝鮮の体制が崩壊する深刻なリスクがある.関係する諸国はその事態に準備するべきだ.

NYT JAN. 21, 2015

North Korea Dabbles in Reform

By ANDREI LANKOV

北朝鮮が開放政策を採用するとか,核兵器や情報管理を放棄することはないだろう.しかし,農業の改革は進んでおり,その成果は収穫に示されている.製造業の生産も伸びている.経済改革は体制を不安定化する面もあるが,生き残るためには避けられない.


後半へ続く)