IPEの果樹園2015
今週のReview
1/12-17
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ガザはどこにあるか? ・・・地球の分配構造 ・・・イギリスのグローバル化と選挙 ・・・国際政治の見方 ・・・ギリシャとユーロの危機再現 ・・・ユーロ圏の完成 ・・・ヨーロッパの極右と他者 ・・・ロシアの孤立 ・・・シャルリー・エブド襲撃テロ
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT:
Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project
Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l ガザはどこにあるか?
NYT DEC. 30, 2014
Gaza Is Nowhere
Roger
Cohen
イスラエルのハイテク施設から,かごのような通路を抜けて15分ほど歩くと,パレスチナのガタガタの境界点に着く.それから,手続きが終われば,進むにつれて,ゴミと下水漏れの中を歩き,ぐしゃりと潰れた建物を過ぎ,ロバの貨車を観て,どこでもない土地の中心に至る.
ガザとは,どこでもない.140マイル四方の飛び地で,出入りする人は非常に少ない.ほとんどの人はガザのことを忘れたいと思っている.エジプトとの境界は閉鎖され,イスラエルとの境界には,少数の旅行者が審査の迷路に取り組み,ユダヤ国家を目指している.
ガザは次の戦争が起きるのを待っている.前の戦争は何も変えなかった.
全体で12万4000の居住施設を数えるが,そのうち9万6000が破壊されるか損なわれた.再建する資材もほとんどない.ここは空っぽである.
ファタハとハマスとの和解がなされたはずだが,無意味だった.病院の掃除や食事に対する支払いもなされず,双方が非難しあっている.ファタハ,ハマス,イスラエルは,一層の暴力を避けているが,いつまでも続かない.
ガザはさまざまな失敗を意味する.イスラエル撤退の失敗.ハマスに権力を与えた選挙の失敗,和平交渉のためにパレスチナが統一することの失敗,繰り返される戦争を防げなかった失敗,アラブの春がエジプトの境界閉鎖に至った失敗,ハマスに対する一貫した姿勢を持てない失敗,180万人の難民がまともに暮らせない失敗.
ガザを最初に解決するべきだ.パレスチナの統一と選挙の実施に向かい,戦争により人命を失うことやイスラエルの国際的な地位を貶めることを回避し,パレスチナの多数の人々が過激派に流れることを抑え,国際介入をあきらめさせて,国連をもっと重視させるだろう.
精神分析医のHasan al-Zeyadaは周辺を案内してくれた.彼は,母親や3人の娘を含む,6人の近親者をイスラエルの空爆で失った.8歳の娘Zeinaは,祖母が殺されてから,神に祈らなくなった.彼女は言った.「神は弱い.私は2度と神様に頼まない.彼には何も変えることができない.」
しかし,イスラエル人,パレスチナ人,エジプト人,ヨーロッパ人,アメリカ人にはできる.彼らが,このなにもない土地を何かに変えると選択すれば,ガザは変わる.それ以外には,果てしない戦争しかない.
l 地球の分配構造
NYT JAN. 1, 2015
Twin Peaks Planet
Paul
Krugman
Branko
Milanovicの作成した図表を観ることだ.それは,ベルリンの壁崩壊後,世界所得の「ツウィン・ピーク」を物語る.いうまでもなく,頂上の人々の所得は増大したが,同時に,中国やインドにおらわれたグローバルな中間層も増大した.
新興諸国の貧困を脱して中間層が現れたことは人類の福祉を大きく改善するものだ.しかし,他方で,グローバル・エリートと中国の中間階級(新興富裕層)との間に,失望の谷,と呼ぶべき人々がいる.それは世界の所得階層の20%を占め,基本的に先進諸国の労働者だ.
彼らの所得が増えないのは,一方では,新興経済の輸出と競争するからだが,より重要なことは,トップの富裕層が,下層から搾り取って,富を増やしていることだ.賃金を削り,組合をつぶし,ますます多くの資源を金融ビジネスに向けている.
富裕層は政策に対して過度の強い影響力を持っており,財政赤字の削減,社会給付の引き下げを執拗に求める.だれも所得が伸びない労働者の声を代弁しようとしない.左派勢力を率いても,オランド,エド・ミリバンド,オバマは,ぼそぼそつぶやく程度だ.
彼らはエリート層の財政赤字削減という要求を恐れ,無責任という非難を浴びたくないのだ.その結果,非正統的な指導者たち,その一部は非常に悪質な者たちに,絶望した市民たちに向けた政治的アピールの余地を与えてしまう.
今月の選挙でギリシャの左派政党が権力を握れば,彼らの求める債務免除や緊縮策の停止はブラッセルとの対立を生じる.さらに,フランスやイギリスでも,ナショナリスト,反移民の勢力が拡大している.
これは1930年代に経験したことだ.金融危機の後世界不況が続いた.当時も今も,危機に対する効果的な対策を,財政均衡や通貨価値の安定を主張するエリート層が阻んでいる.その結果,権力は醜悪な人々の手に渡った.
l イギリスのグローバル化と選挙
FT January 2, 2015
Globalisation has moved the
goalposts for Britain
Gideon
Rachman
イギリスのプレミア・リーグは,世界最高のプレーが楽しめる.しかし,私が最初に観た1973年に比べると,当時の選手たちは地元の出身者が多かった.今では60%以上が海外生まれである.マンチェスター・ユナイテッドはアブダビからの投資を招き入れた.
イギリスのフットボールがグローバリゼーションの縮図であるように,他のイギリスの機関でも同様のモザイクが広がっている.1980年代,イギリスは「ビッグ・バン」で金融ビジネスに外国資本を参加させ,同じ名前の銀行でも外国の機関に買収されている.プライベート・スクールも,地元の優秀な学生より,オリガークの子弟たちに利用されている.
イギリス社会のトップに生きる人々はその快適さと有利さを満喫できるだろう.しかし,より貧しい人々,労働者階級は,移民たちと競争しなければならない.ロンドンのイーストエンドでも,かつてのコックニーはマイノリティーのモザイクに呑み込まれた.
過去を懐かしむ気持ちは強い.しかし,全体として,これが進歩なのだろう.
l 国際政治の見方
FP JANUARY 6, 2015
The Credibility Addiction
BY
STEPHEN M. WALT
アメリカの軍事・外交の専門家たちは,繰り返しアメリカ政府が他国に約束したことを守らなければ信認を失い,と主張した.アメリカはさまざまな軍事同盟や国際協定の要であるから,アメリカの信認は重要であった.
しかし,他国はアメリカの何を見て判断するのか? アメリカがすべての約束を守らなければ信認は失われるのか? そうではない.
明らかにすべての問題は異なっているのであり,アメリカがアフリカで何をしたから自国も同じようにする,とは考えない.アメリカの行動や拒否に十分な理由があるかどうか,状況を観て判断するだろう.アメリカの敗北が常にドミノを倒すことを意味しないし,ある種の約束を変更しても真に重要な戦略的関係を守る妨げにはならない.
アメリカにとって何が真に重要な利害なのか,それを正しく理解し,その優先順位を明確に語るとき,他国はアメリカの外交政策に真実を感じ,信頼するのだ.アメリカが世界で起きている事件をどのように分析しているのか,脅威を冷静に,合理的に分析し,それを解決するため,どのような正しい方針を示す力があるのか,他国は注目している.
外交政策への信認は,その指導部の分析能力を高めた国,的確な判断力にあるのだ.
l ギリシャとユーロの危機再現
FT January 2, 2015
Greece: Grasping for relief
Kerin
Hope and Tony Barber
左派政党Syrizaの指導者Alexis Tsiprasは,「人道的危機」を主張している.そして,貧困線以下のギリシャ人に20億ユーロの支出を計画する.年金の引き上げ,無料の電気・医療,アテネの失業者家族に対する住宅補助金,など.その財源としては,無駄を省き,富裕層に増税する,という.最低賃金も50%引き上げる.
しかし,過去5年間,ギリシャの改革にかかわってきたヨーロッパ諸国は,その姿勢を変えないだろう.EUの経済担当委員Pierre
Moscoviciは,「ヨーロッパへの強い関与,必要な成長に向けた改革に対する有権者と政治指導者からの広い支持が,ユーロ圏内でギリシャが繁栄するために欠かせない.」という.
Tsiprasが債務不履行を選択することはないだろう.ビジネス界も政治指導者たちも,ヨーロッパを支持している.おそらくドイツなどとの妥協が成立するはずだ.
FP JANUARY 6, 2015
It’s Groundhog Day in Europe, as
Talk of ‘Grexit’ Returns from the Grave
BY
ELIAS GROLL
ヨーロッパは再び “Grexit” を恐れている.ギリシャの債務不履行,ユーロ圏離脱が,金融市場で感染を拡大するのだ.ドイツのAngela Merkel首相は,そのコストは管理できる,と答えたが,それはAlexis Tsiprasの交渉力をそぐためだろう.
選挙で勝利すれば,Alexis Tsiprasはユーロ圏の緊縮策を転換させる最初のポピュリスト指導者になるかもしれない.ユーロ圏離脱は,ギリシャ経済が昨年成長に転じたことで,考えられなくなった.Barry Eichengreenが述べたように,離脱はリーマンショックの再現になるだろう.Tsiprasは決して望まない.
アテネとブラッセルの間で,Tsiprasは,緊縮から債務免除への重心を移行させる.Merkelも明らかにその力学を理解している.しかし,彼女なりの緊縮政治を維持しなければならない.関係者の一部が予想するように,Tsiprasはギリシャ版のLuiz
Inácio Lula da Silvaになれるかもしれない.
FP JANUARY 8, 2015
Why Greece Needs Syriza to Win
BY
PHILIPPE LEGRAIN
ギリシャ人は6年間も不況に苦しんでいる.経済は4分の1も縮小した.所得は3分の1近く減った.多くの労働者が賃金を支払われていない.4人に1人が失業し,若者では半分が失業している.社会保障は削減され,年金で暮らす家庭はぎりぎりの生活だ.人々がフード・バンクに殺到する.ゴミの山をあさる子供たちもいる.病院には薬がなく,マラリアが再現している.
ギリシャが無謀な借り入れを続けたのは,無謀な融資が与えられたからだ.何よりも,フランスやドイツの銀行融資は過剰で,低利子だった.それを促したBISの金融規制もECBも愚かであった.
2010年,ギリシャ債券が市場で売れなくなったとき,それはGDPの130%に達していた.もし債務免除していたら,不況は軽く,短かったはずだ.しかしユーロ圏の政策担当者は,フランスやドイツの銀行が損失を被ることを恐れた.メルケルは,ギリシャが一時的に財源不足にあると装うことにした.そして「救済禁止」の条項を破って,税金を使ってギリシャ政府を救済した.連帯を唱えながら,その債権者を救済したのだ.哀れなギリシャ人は債務者監獄に入れられた.
ギリシャの債務は今もGDPの175%である.経済はデフレに陥り,実質的な負担が増している.債務免除なしには,経済が縮小し続ける.過剰債務によって国内需要が失われ,輸出も弱い.不況で輸入が減っても,貿易赤字が巨額で,しかも増えている.銀行システムは破たんし,投資は起きない.
改革を語るばかりで,EUが重視したのは財政緊縮と賃金削減であった.汚職や政治的コネによるビジネスは,そのまま放置されている.富裕層は税金を支払わない.
確かに,Syrizaの約束は,年金増額のように,現実的ではない.左派の連携のために,資本家を競争にさらすより,規制し,増税するのも残念だ.しかし,Alexis Tsiprasはコネ・ビジネスに関与しないし,改革の約束を実現するだろう.債務免除を約束する点で,Syrizaがギリシャの希望である.
もしMerkelが賢明なら,連帯のために債務免除するだろう.ユーロ圏が崩壊すれば,ドイツはその責任を問われる.西ドイツ自身が1953年に歴史的な債務免除を受けたこと,ギリシャなど,債務諸国に対するマーシャル・プラン(メルケル・プラン)がドイツの輸出を増やすことも考えるだろう.
しかし,税金で救済したために,Merkelは債務免除できないのだ.ギリシャはデフォルトを交渉のために使うだろう.アテネはプライマリーな収支で黒字を出したから,債券を発行しなくてもよい.アルゼンチンのような法的混乱を避けて,民間債権者の債務には利子を支払うことだ.ギリシャの銀行が保有する債券にも手を付けない.他方,ドイツによるユーロ圏からの追放は,法的根拠がない脅しである.Tsiprasは,交渉中,ギリシャの財政を均衡化すればよい.
それは明らかに大変動であり,深刻な事態に至るかもしれない.しかし,必要なことだ.Syrizaに投票せよ.
l ユーロ圏の完成
Project Syndicate JAN 2, 2015
Stability and Prosperity in Monetary
Union
MARIO
DRAGHI
ユーロ圏は政治同盟を欠いた通貨同盟だ,という間違った認識が広まっている.しかし,通貨同盟は,実質的な統合がEU諸国間ですでに達成されているという理由でのみ,可能になる.
EMUが多くの人が思った以上に回復力を示したとすれば,それは彼らが統合の政治的次元を誤解していたのだ.各国は統合化に多くの投資を重ねてきた.共通の問題を一緒に解決する意思を明らかに持っている.
しかし,通貨同盟が未完成であることも明白だ.では,完成するために何が必要か? 最も重要なことは,加盟国が,ユーロ圏に属さなくても達成できる以上に,安定し,繁栄する条件を,明確に示すことだ.各国は,ユーロ圏の外にいるより,内にあることで改善されるのだ.
他の政治同盟では,強固なアイデンティティを共有し,しばしば,豊かな地域が貧しい地域に永続的な財政移転を行うことで,結束を維持している.ユーロ圏内で,そのような一方的財政移転は行われないだろう.それゆえ,加盟国の福祉を改善する,異なるアプローチが求められる.
それは主に2つある.第1に,すべての加盟国が独自に繁栄できる条件を創り出すことだ.各国は単一市場内で,比較優位に従い,資本を集め,雇用を増やす.さらに,各国は短期的なショックに迅速に対処できる十分な弾力性を持つ必要がある.そのために,競争を促進し,不要な規制を緩和し,労働市場を変化に反応させる,構造改革が重要だ.
通貨同盟内の改革が遅れれば,離脱の亡霊がよみがえる.それは加盟国すべてを苦しめる.ユーロ圏内の安定と繁栄はすべての地域で依存しあっている.主権を共有し,真の経済同盟を構築する強い根拠がある.共同統治,すなわち,協力から共同の意思決定へ,ルールから制度へ.
財政移転を欠くことの第2の意味として,加盟諸国間で,為替レートなしに,ショックがもたらすコストを共有するメカニズムに,もっと投資する必要がある.不況地域が固定され,格差が拡大するのを避けるメカニズムだ.
そのため,民間の金融統合を促して,リスク・シェアリングを促進することだ.銀行同盟だけでなく,資本市場を深化させ,株式市場も統合する.さらに,地域ごとの不況回避は,金融政策ではなく,財政政策で対応しなければならない.政府は経済的なストレスに対して借り入れを増やして対応する.そのためにも財政健全化の枠組みが欠かせない.
経済の収斂は,ユーロ圏の参加条件だけでなく,不断に求められるべきものだ.それゆえ,通貨同盟は政治同盟の深化を必要としている.われわれは,権利と義務を明確にした,制度化された秩序を再生するのである.
SPIEGEL ONLINE 01/06/2015
Operation Helicopter
Could Free Money Help the Euro Zone?
By
Anne Seith
ユーロ圏にも量的緩和を求める声が強い.しかし,それは機能するのか?
一見,それは狂った思考実験のようだ.ある朝,ユーロ圏の全住民の郵便受けに,500ユーロ,もしかしたら3000ユーロも届くのだ.それはフランクフルトのECBから出た贈り物,「ヘリコプター・マネー」である.
Willem
Buiterは,折衷的なアプローチを支持し,政府の追加する公共投資をECBが融資するように求めた.政府との協力が,インフレ目標を守るためにECBにとって必要だ.
しかし,2012年末に,日本で政権を取った安倍首相が唱えたことも同じであった.その成果は,ユーロ圏の「ヘリコプター・マネー」支持派にも,反対派にも,注目されている.安倍政権が約束した改革を実現するかどうか,誰にもわからない.
l 中国経済
FT January 7, 2015
China’s ‘new normal’ is more
Alibabas, fewer smokestacks
David
Pilling
デフレ圧力,不動産価格の下落,成長減速,ゾンビ企業.日本の話ではない.これが中国だ.
2015年の中国は1995年の日本とよく似ている.しかし,最大の違いは所得水準だ.日本は当時アメリカの80-90%に達していた.中国はまだそれに大きく劣るだろう.成長の余地は大きいはずだ.
賃金は上昇し,人民元も強くなるから,輸出は成長を支えられない.デフレ傾向と政府部門の縮小が進む中で,重工業よりも,もっと多くのAlibaba,新興の民間企業に資源を移すことだ.
l ロシアの孤立
Project Syndicate JAN 6, 2015
The Global Consequences of Russia’s
Isolation
HAROLD
JAMES and DOMENICO LOMBARDI
グローバル・ガバナンスから排除されたロシアは,世界の金融システムが破たんするのを願うだろう.
ロシアの通貨危機は,最近まで,まったく予想されていなかった.それはロシア経済の脆弱さだけでなく,国際秩序や経済理論の脆弱さを示すものだ.
ラテンアメリカやアジア諸国が通貨危機を経験して以降,新興市場は同じような危機を回避することに注意を払ってきた.特に,準備を増やし,経常赤字を抑え,政府や民間の対外債務を抑えることが重視された.その意味で,ロシアは危機の条件を持たなかった.
しかし,対外資産は危機に対処するものではなかった.ロシア企業が大規模な資本逃避に外国資産を利用したからだ.ルーブルの下落に応じて還流しなかった.特に,通貨危機が安全保障上の危機と結びつくとき,資本移動は不安定化する傾向を示した.第1次世界大戦前も,1930年代も,安全保障の枠組みが崩壊し,通貨危機が政治的に利用された.
今,ロシアがグローバルな政治・安全保障から脱落しつつある.
l シャルリー・エブド襲撃テロ
FT January 7, 2015
Liberty and laughter will live on
Simon
Schama
不敬は自由の生命である.笑いのヤリで突かれた,暗殺者たちの背後に潜むモンスターが激怒した.それほど言葉は弾丸なのだ.
ヨーロッパにおいて,自由と笑いは一つになって3世紀に及び,愚弄する権利として尊重された.画像による風刺が最初に現れたのは,カトリックとプロテスタントとの宗教戦争であった.プロテスタントにとって,印刷物はローマ教会のイメージに対する返答であった.彼らは異端と懐疑とを出版物で表現した.彼らは宗教画のイコンと正反対のものを発明し,そこでは法皇が想像上の怪物になり,国王も虐殺者たちの代表になった.
18世紀,禁じ手なしの風刺画黄金時代は,宗教戦争の終わりとともにやってきた.それは,特にイギリスにおいて,この力を独占するいかなる政治勢力も制度もない,自由の空間が生まれたからであった.ホイッグ党は,この世紀の大部分,政府を支配していたが,反対派を一掃することはできず,あらゆる富裕な産業家や分派が現れて,風刺画で敵を愚弄した.権力者たちの偽善を暴き,彼らを侮蔑の大騒ぎに突き落とした.
昨日の血塗られた凶行は,笑いを圧殺するものだった.しかし,風刺画家たちを殺しても,風刺の笑いは滅びない.
NYT JAN. 7, 2015
Is Islam to Blame for the Shooting
at Charlie Hebdo in Paris?
Nicholas
Kristof
分断は,異なる信仰心の間にはない.テロリストと穏健な人々との間,寛容を尊ぶ人々と「他者を嫌う」人々との間にある.
オーストラリアで,報復テロを恐れるイスラム教徒を助け,その安全を高めるために,タグがTwitterに載った.#IllRideWithYou 25万人以上がこれに積極的に応じた.
NYT JAN. 7, 2015
French Humor, Turned Into Tragedy
By
ANDREW HUSSEY
2012年の9月に,Charlie
Hebdoは,フランス政府の助言を無視して預言者ムハマドの風刺画を載せた.
私はチュニジアにいた.戦車や兵士がモスクの周りに集まって,西側との戦争を叫んでいた.数日前に,チュニスのアメリカ大使館が襲撃され,アメリカン・スクールは焼け落ちた.その少し前には,リビアに行ったアメリカ大使が武装集団に殺害されていた.
2006年,デンマークの新聞が載せたCharlie Hebdoの風刺画は問題になった.2011年にはシャリア・ローを嘲弄した.
しかし,現在のパリ市民のほとんどは,Charlie Hebdoを1960年代,70年代の遺物とみている.それが衝撃を与えるパワーは,はるか前から失われていた.ニューススタンドにある最新号の表紙も,間抜けな処女のマリアが,もっと間抜けなキリストを生んだ絵であったが,誰もこんな雑誌を読まないだろう,と思った.
その主要な作家たちは,1968年5月の革命世代であった.彼らはシャルル・ド・ゴールの強烈な父権主義と戦ったのだ.彼らは無制限な自由を信じ,抑制されない性行動を誇り,麻薬を楽しみ,何より,道徳や宗教のあらゆる権威を馬鹿にする自由を重視した.
Charlie
Hebdoは容赦ない挑発を追求した.それはパリっ子独特の伝統だった.フランス革命以前にさかのぼるものだ.
1970年に設立されたCharlie
Hebdoは,その時代の攻撃的なフランス世俗主義を体現した.これも,カトリック教会のパワーを警戒するフランス文化の昔からの伝統だ.68年の若者たちからなる革命世代は,旧世代に反抗し,その重要な部分は反宗教的風刺画であった.
しかし,現代のフランスでは革命世代も,当時の左派やリベラルの主張を示すけれど,エスタブリッシュメントの文化だ.アナーキズムの前衛であるCharlie Hebdoも,はるか以前からエスタブリッシュメントだった.
それはまた,フランス主要都市の郊外に広がる,貧しい移民たちが多く住むバンリューthe banlieuesで,Charlie
Hebdoに全く違った意味を与えた.中東,アフリカ,アジアの旧植民地から来た移民たちにとっては,権力の一部として,Charlie Hebdoの風刺は彼らの個人的なアイデンティティを嘲笑した.それは,唯一,フランス社会によって叩き潰されていない,あるいは同化されていない,彼らの尊重する部分であった.
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The
Economist December 20th 2014
Savarkar,
Modi’s mentor: The man who thought Gandhi a sissy
Pakistan:
From the graveyard
Swine
in China: Empire of the pig
Life
after power: The loneliness of Tony Blair
(コメント) パキスタンでタリバンが行った最大の学校襲撃テロについて,司令官が語った理由は深刻です.空爆を続ける西側とパキスタン軍に,自分たちが家族を失う苦しみを知らせるためだ,と.
中国の富裕化がもたらす変化は,豚の価格安定化準備や補助金政策から,家畜用飼料の世界価格,熱帯雨林伐採,各地の農地借用契約,抗生物質の大量投与,など,世界を震撼させています.
政権を離れて,国際チャリティーや宗教間対話を指導しても,トニー・ブレアは孤独です.イギリス国民の半数は,今も彼を戦争犯罪者とみなします.ブレアが自分の罪を認めないせいで,国民も彼を許しません.
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IPEの想像力 1/12/15
インドのガンディー暗殺者や,パキスタンの学校襲撃テロを生み出す闇,イラク戦争を開始したトニー・ブレアの孤独が,私には印象的でした.
宗教,風刺画,テロ,・・・ ヨーロッパが世界に広めた理想はボロボロです.
イデオロギーも戦争も,境界線をめぐる攻撃です.ガンディーの暗殺者が名誉を回復し,英雄として尊敬される時代に変わりそうです.日本の敗戦によって,伊藤博文の暗殺者も英雄となり,記念の銅像が建っています.
信仰を奪うこと,ナショナリズム,風刺や笑いは暴力を生みました.圧倒的な政府の監視や管理に対して,自分たちの尊厳を奪われ,文化や歴史,言葉も失って生きることに,暗殺者が抗議するとしたら,どちらの罪が深いのでしょうか?
表現の自由という権利を,インターネット上の暴言や,社会的な弱者への脅迫,差別を公言し助長する運動にまで認めるのでは,彼らが言論と政治を汚染し,公共の精神を劣化させるでしょう.一つの社会であるためには,寛容さや,広く,深い理解,他者にも感情移入し,同じ人間として共感できる能力を高めることが重要です.
タイのように,今も,不敬罪で軍がメディアや反政府活動を取り締り,多くの国外追放になった難民を生んでいる国もあります.日本の特定秘密保持法や皇室の報道は,そうならないのでしょうか?
治安を維持し,テロを予防するはずの,国家と警察機構が,諜報活動や捕虜の拘束,拷問によって,法の手続きや人権を無視していた,というアメリカへの不安と不快さは,ロシアや中国,北朝鮮,韓国,などへの不信感,対話の欠如とともに,グローバルな秩序の脆さ,空虚さを,私たちに痛感させます.
誰がこうした<境界線>を決めるのか? どうやって,何を根拠に決めるのか? 境界線は,どのようにして見直されるのか? すべての境界線を越えて,平穏な市民生活を広め,それを破る者たちが公正な審判を受けるには,どうすればよいのか?
政治家が対話を深めることも,歴史家が全体像を描き出すことも,究極において,もっとも重要ですが,大きなショックによって生じた事態の悪化を防ぐ力になるとは思えません.個人的な良心や良識に頼るだけで,深刻な社会的悪循環を止めるパワーは得られないのです.
The Economistのクリスマス特集号が紹介する,「豚の帝国」,が強烈です.中国の富裕化と豚の消費量増大は,政治的テロや戦争以上に,世界中の社会秩序や市場,環境を変革する力を示しています.
豚肉が中国人の富裕さのシンボルであり,その供給と価格を安定化するために,中国政府は備蓄を行い,畜産農家を補助し,飼料輸入を増やして,戦争に備えた自給体制を解体しました.中国のブタが,もうすぐ世界の家畜用飼料の半分以上を食い尽くすでしょう.中国企業は熱帯雨林を守るグループに参加せず,ブラジルやアルゼンチンで耕地を拡大して飼料を増産します.
イデオロギーも戦争も,その苛烈さを高める共通の起源は,貧困と差別です.豊かになることで,平等や公正さ,寛容のパワーが増すでしょう.現代では,それがはるかに世界的なスケールで起きるのです.その過程で,豊かな市民の姿勢,政治意識と感性が,社会変化の質を決めます.
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