IPEの果樹園2014

今週のReview

12/29-1/3

 

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キューバとの関係改善 ・・・中東の秩序とイスラエル ・・・プーチンとルーブル ・・・ヨーロッパの極右 ・・・アメリカの治安と拷問 ・・・ユーロ圏の金融緩和 ・・・クリスマスとは何か?

[長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  キューバとの関係改善

NYT DEC. 18, 2014

Goliath Opens His Wallet

By YOANI SÁNCHEZ

子供のころ,学校で「アンクル・サム」の人形を燃やしたことを思い出した.政府による反米のプロパガンダが繰り返されても,Raúl Castroの経済改革は失敗し,巨人が財布を開いてくれることに頼るしかなくなった.共存の時代が始まったのだ.

娘からの仕送りに頼って生活する女性は,アメリカのクレジットカードを送ってもらえるかもしれない.兄のレストランを手伝っている若者は,そのメニューを増やせるだろう.反政府活動家は,政府の行動をまだ信用できない.

関係改善のためにキューバ政府が受け入れる条件とは,政治犯の釈放,国連人権宣言の受け入れ,弾圧体制の放棄,市民社会活動の承認,である.

Project Syndicate DEC 19, 2014

Why Cuba Turned

JORGE G. CASTAÑEDA

これはキューバの勝利ではない.禁輸を解除するにはアメリカ議会がそれを認めなければならない.まだ大使を交換することもない.キューバもそれほど大きく譲歩したわけではない.

石油価格の下落が重要だった.キューバを支援していたロシアとヴェネズエラの経済衰退がキューバに転換を促した.特に,Hugo Chávezは重要な支援者で,毎日10万バレルの石油と,年間50から150億ドルの支援を与えていた.2013年にチャベスが死んだとき,キューバの秘密交渉が始まった.

民主主義と人権を尊重しなければ歴史的転換は成就しない.軍事力によるものでも,外交官によるものでもない.ノース・ダコタやアラビア半島の,キューバに関心のない石油長者たちが,最後にはカストロのキューバを解き放ったのだ.


l  中東の秩序とイスラエル

NYT DEC. 20, 2014

What Will Israel Become?

Roger Cohen

磨かれた表面の下には,不安がある.3月の選挙に向けた運動が始まるにつれて,この不穏さは政治変化の前触れかもしれない.

リベラルな,救世主的イスラエルに反対する,作家のAmos Ozは,「イスラエルはますます孤立したゲットーになりつつある,という意識が高まっている.それは建国の父や母が永久に去りたいと願った場所である.」 もし2国家案が実現しないなら,1つの国家が現れるだろう.イスラエルの,宗教的,ナショナリスト的な独裁国家である.パレスチナ人,ユダヤ人の敵は弾圧される.

政治学者のShlomo Avineriは言う.「われわれは,毎朝,ネタニヤフが撒いた新しい脅威に目を覚ます.」 そして,われわれはそれに疲れてしまった.

この疲れは,もし活気のある対立候補がいれば,政治を変えるチャンスになる.最近まで,誰もいなかった.しかし,この数週間で,労働党の指導者Isaac Herzogと,右派リクードの法務大臣を辞任した,パレスチナ人との交渉担当者を長く務めたTzipi Livniが連携する可能性が現れた.

これはイスラエルの魂をめぐる選挙である.1948年の国家創設憲章が唱えたもの,イスラエルの預言が示す,自由,正義,平和に依拠する新生国家を創ることだ.宗教,民族,性別によらず,すべての居住者に平等な社会的・政治的権利を保障する.それは2人の体現するシオニズムである.すべての市民の,ユダヤとアラブの,民主的自由を支持する点で,彼らは左右の対立を超えている.

ナショナリストや入植者たちは,その考えを攻撃する.悪質な,ユダヤ人優先の考えが,最近も,アラビア語を公用語から排除した.それはネタニヤフ政権の分裂を促し,誰であれ,アラブ人の権利を擁護したReuven Rivlin大統領も含めて,「裏切り者」と非難する.

2国家案は生き延びているが,中身が失われた.それは建国の原理と両立するが,地中海からヨルダン川まで土地の併合やユダヤ人の優位を示す国家とは両立しない.イスラエルによる半世紀の支配は,一層大きな傷,不信感,分裂を残した.それは,イスラエルがユダヤ人の民主国家となるために大きな犠牲を払うことで埋めるしかない.

ガザ東部のがれきの中に暮らす9歳の子供は,この6年間で3度の戦争を記憶している.どのような力がこれほどの破壊を,なぜ繰り返しもたらすのか? と不思議に思うだろう.そして,この子供が大人になるとき,イスラエルにとっての幸いであるはずがない.彼らに憎しみを教える必要もない.

47歳のMustafa Hararaは,毎日,彼の家があったクレーターを見に来る.ほかの場所に行こうとしても,ここへ来てしまう.彼が26年間かけて建てた家を,わずか5分間でイスラエルが破壊した.彼はハマスの兵士ではないが,電気技師である彼の職場も破壊された.

エジプトは国境を封鎖し,イスラエルは越境者を最小限に減らした.イスラエルの監視のための気球が移動する.この屋根のない140平方マイルの監獄は,暴力的な過激派を育てるのに最適だろう.

戦争が起きてから,アッバスはガザを訪問していない.イスラエルとの和解を模索したが,ガザの180万人を彼は代表していない.パレスチナ国家は彼らの分裂によっても阻まれている.10年もパレスチナ政府の権力を握るけれど,彼には政治のバランスに立つ正当性がない.

ガザの住民は,誰もが次の戦争を予想している.「われわれは緩やかに死につつある.だから,今すぐ死ぬこともいとわない.」 文字通り,出口なしだ.

ハマスの強硬派指導者Mahmoud Zaharに会った.彼はアッバスを非難し,1967年の合意された国境に戻る2国家案という妥協の可能性を否定した.「イスラエルは消滅するだろう.ここはわれわれの土地であり,彼らはここの歴史にも,宗教にも,帰属しないからだ.」 イスラエルのユダヤ人について,彼は言う.なぜエチオピアやポーランド,アメリカからユダヤ人が来るのか? パレスチナにいる600万人のユダヤ人をどうするか? アメリカは広い.ユダヤ人地区を新しく作ればよい.

もっと若い世代は,政府の無益な脅迫,行政の無能さ,戦争のサイクル,を心配する.Amos Ozも,幸せな妥協などない,と認める.先ずは,歯を噛みしめて停戦に合意する.そしてゆっくりと,双方が,感情的なエスカレーションを鎮める.


l  プーチンとルーブル

NYT DEC. 18, 2014

Putin’s Bubble Bursts

Paul Krugman

ウラジミール・プーチンのマッチョ・スタイルに保守政治家は称賛を隠さなかった.しかし,プーチンの姿勢は経済的な支持がなかった.ロシア経済の規模はブラジルに等しく,明らかになったように,危機に対して非常に脆弱であった.

ルーブルの通貨危機は,アルゼンチン,インドネシア,メキシコ,などで,おなじみの筋書きである.民間部門が外貨建ての融資を大規模に利用している国が脆弱さを示すのだ.

ところで,普通こうした国は貿易赤字を示すが,ロシアは石油を輸出する貿易黒字国だ.危機のもう一つの理由を知るには,ロンドンやマンハッタンの高級住宅地を歩けばよい.特に,夜,歩けば,こうした住宅地で電燈の点いていない邸宅の所有者が,アラブの石油王,中国の太子党,あるいは,ロシアのオリガーク,とわかる.

こうした高級住宅購入に示されるように,ロシアの富豪たちが資金を持ち出しているのだ.彼らは極め付きのクローニー・キャピタリズム,実際,プーチンに隷属する資本家たちだ.その富は石油の高価格がもたらしていたが,プーチン体制のひどい腐敗がロシア経済を弱めたのだ.

ロシアの経済危機は,他の通貨危機と違い,IMF融資による安定化で終わらない.プーチンはそれを嫌って,自国で処理するからだ.つまり,一層の破局を引き寄せる.これがマッチョ指導者の愚かな経済学だ.

The Guardian, Monday 22 December 2014

Angela Merkel has faced down the Russian bear in the battle for Europe

Timothy Garton Ash

2014年,ヨーロッパの戦いは今も続いている.

ヨーロッパの将来を決めるのは,2人の指導者に代表される戦いだ.ロシアのプーチンと,ドイツのメルケル.その対比はこれ以上にないほど鮮明だ.一方はロシアの男.マッチョで,軍事専門家で,ソ連型の大規模な謀略が得意だ.恨みを持った,帝国崩壊後のナショナリスト.追い込まれた熊.他方はドイツの女性.漸進的で,静かに語り,合意形成を重視する.経済力が最強のドイツから,動きの遅い,主権を共有する,多くの国民からなるヨーロッパの亀を,我慢強く操縦する.

2人はともに1989年に東ドイツで暮らした.KGB職員と,若い科学者だ.彼らが学んだ教訓は全く対照的だった.

メルケルは,影響圏の考え方を捨てるように求めた.彼女は1914年の教訓から学び,政治指導者間の対話を続けている.他の指導者の誰よりも,メルケルはプーチンと対話した.クレムリンが漏らした情報では,今年の最初の8か月間に35回の電話を交わした.もちろん,他方で,メルケルはオバマが最も頻繁に話しかける指導者でもある.

メルケルの戦略は3つだ.ウクライナを支援し,ロシアとの外交による解決策を求め,プーチンがテーブルに就くよう制裁を行う.彼女は制裁の過程で,歴史の広い文脈から,ロシアの姿勢を弁解するような「理解者たち」に反論した.消極的なイタリアも,ヨーロッパの声に一致させた.

私が特に強く印象に残ったのは,制裁によってロシア向けの輸出が半減した工作機械の会社で,その社長が明確にこれらの制裁を支持したことだ.「もしチェンバレンがヒトラーに強い制裁を決断していたら,事態は違っていただろう」,と.


l  ヨーロッパの極右

Bloomberg DEC 24, 2014

A Great Year for the Far Right

By Leonid Bershidsky

グラフィック・デザインの専門家Steve Hellerは画集を発行した."The Right Is Always Wrong" そこにはハンガリー,ギリシャ,ウクライナで,過激なナショナリストたちが,ナチスのシンボルを自慢げに示している.

極右の影響力が増大するかどうか,という問題はすでに古い.彼らはすでに多くの国で,政治のエスタブリッシュメントに入っている.外国人排斥,孤立主義,大国志向の愛国主義者,好戦論者,宗教的狂信者,単純な経済政策の信奉者.彼らは上等のスーツを着て,おおむね法に従って政治を戦う.彼らは公論を支配するだけでなく,政治システムを支配しつつある.

彼らは単純な解決策が効果を持たないことで信用を失うのか? その指導者たちは,彼らを権力に押し上げたナショナリストの勢力をなだめるほど,十分な政治的洗練に達するのか?


l  アメリカの治安と拷問

FP DECEMBER 22, 2014

A Christmas Pardon

BY STEPHEN M. WALT

オバマは,今,すべての罪に対して謝罪し,事実を明らかにした後,恩赦を与えるべきだ.

報告書が示したように,アメリカは指導者の許しを得て拷問を行い,国連の人権宣言に反する行動を取っていた.オバマは過去を振り返らず,将来を目指す,と述べたが,もはやそれはできない.旧政権の責任を告発し,NYTが指摘するように,チェイニー元副大統領も含めて,犯罪捜査が必要だろう.

オバマのジレンマは,繰り返し,アメリカの警察官が発砲で死者を出す事件にも示されている.体制による拷問と,警察官の過剰な行動は,顕著な類似性を示す.野蛮で,道義的に不快で,違法である.われわれの安全を確保するため必要だった,と擁護され,正当化されている.間違った行為であるという多くの証拠があっても,彼らは罪を問われていない.

オバマは苦しい立場だ.アメリカのイメージを改善し,テロとの戦いを終え,拷問をさせないと主張したはずだが,それができないのだ.アメリカの政治は分裂しているからだ.過去の誤りを正さないまま,将来の不安を抱える.

それゆえオバマがなすべきことは,アメリカの政府職員が罪を犯したことを明確にすること,同時に,ブッシュやチェイニーも含めて,かつてフォードがニクソンを許したように,彼らの罪を許すことだ.

オバマはそれで終わるべきではない.スノーデンやマニングにも,大統領恩赦を与えるべきだ.彼らは,ブッシュやチェイニーと同様,それがこの国の最善の利益になると信じていた.危険な,権力の乱用から,この国を守るために,彼らは行動したのだ.私的な利益を求めたのではない.自分が大きな困難に陥ると知っていた.今,権力を乱用し,アメリカの評価を損なった者たちは,今も富と栄光を保持している.他方で,権力の乱用に光をあてた者が囚人となり,国外追放され,困窮を強いられている.

両者に恩赦を与えることで,911に続く暗黒の時代を閉じるべきだ.911が起きたとき,アメリカでは,脅威を適切に評価し,われわれの強さや価値に応じた,社会としての一貫した対応を打ち出せる,バランスの取れた,成熟し,現実ウィ直視した諸個人が国を指導できなかった.彼らはタフな話をしたが,実際はパニックに陥り,その対応はビンラディンよりアメリカを害した.

双方に恩赦を与えることは,右派も左派も喜ばないだろう.しかし,世界は不完全だ.アメリカの民主主義は完全な政治システムではないし,バラク・オバマも完璧な大統領ではない.苦境における最善の行動が,たとえ希望をもたらす十分な変化ではないとしても,そう信じることができる変化になるだろう.


l  ユーロ圏の金融緩和

VOX 23 December 2014

Combatting Eurozone deflation: QE for the people

John Muellbauer

ユーロ圏EZはアメリカと異なり,住宅市場の債務が危機の原因ではなかった.また,EZの家計はアメリカと異なり,株式を保有せず,多くの流動資産を持っている.それゆえ,アメリカと同じようなQEは効果がないだろう.

EZがデフレを避けるためには,むしろECBが銀行システムではなく,直接,家計に資金を,たとえば500ユーロを移転することが望ましい.ECBは政府への資金移転を禁じられている.また,これはECBが財政的な刺激策を肩代わりするというのではなく,インフレ目標を実現するという自らの権限に従い,独立した金融当局として行動する.

ECBの行動は,特にギリシャやスペインで強い効果を発揮し,各地に台頭するナショナリストたちとEUが政治的にも対抗できるだろう.インフレ加速や,モラル・ハザード,など,民衆を通じたQEに対する様々な反対論は間違っている.


l  市場と政府

Project Syndicate DEC 23, 2014

The Productivity of Trust

RICARDO HAUSMANN

カナダ人は,アメリカ人同士よりも,アメリカ人との関係が近い.カナダのほとんどの国民が,3000マイルのアメリカとの国境線に沿って,狭い帯状の地帯に住んでいるからだ.

その国が成長し,繁栄する,潜在能力を決定するのは,ルールや政府機関,ビジネス・コミュニティーが互いに積み重ねた関係である.その関係が信頼できるとき,市場と国家は繁栄し,互いに信頼を欠くとき,ともに衰退し,崩壊する.

政府は市場を必要とし,市場も政府を必要とする.両者の関係を合意するには,利潤や分配よりも,生産性に焦点を絞るべきだ.高い生産性を実現することは,コストを下げ,賃金を上げ,価格を下げ,税金を支払い,株主に配当できる.


l  クリスマスとは何か?

NYT DEC. 24, 2014

Religion Without God

T. M. Luhrmann

神を必要としない信仰心はあるか? 葬儀も,結婚も,名づけることも,神の名に拠らずに行う協会the British Humanist Associationもある.

「宗教とは,根本的に,人々が世界をありのままに,そして,いまだに経験していない,その程度やその仕方で,あるべき姿で見ることを助ける実践なのである.人々が教会で行っていることの多くは,仲間を見出し,誕生や結婚を祝い,亡くなった人を思い出し,われわれが大切にする価値を確かめることは,そのメタファーとして神を意味するが,物語として,まったく神に言及しない物語としても,もたらすことができる.」

無神論者は人間関係を信頼するのであり,超自然的な関係を信仰していない.人類は世界をあるべき姿にするほど善良ではない.おそらくそれが,我々がクリスマスの讃美歌や礼拝に感動する理由である.

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The Economist December 13th 2014

America’s police on trial

Policing: Don’t shoot

CIA torture: Shock therapy

Free exchange: An on-off relationship

(コメント) 人種差別だけでなく,アメリカの警察に関する改善策,銃器の規制は重要です.

資本規制に関する国際合意は,まだ,議論が続きます.

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IPEの想像力 12/29/14

クリスマスが過ぎて授業があるのは酷です.しかし,それくらい学びたいという気持ちを持てたらいいな,と思い,アップルパイを持ってきてゼミ生と食べました.そして,質問しました.

「今年の重大事件は何か?」 「来年,世界の歴史を変えるような事件が起きるとしたら,それは何か?」 彼らが指摘してくれて話し合ったことは,

1.ルーブルの暴落.・・・ウクライナにおける軍事紛争と西側の経済制裁,世界景気の低迷とシェール革命などによる石油価格の下落,が重要です.資源に依拠した独裁体制が通貨危機の性格を変え,深刻な政治危機と結びつきます.

世界各地の強権国家体制,それをめざす指導者たちに,リビジョニズム(歴史観の転換・強制)が共通して見られます.

2.円の暴落.130円を超える.・・・ルーブルと円では,通貨価値の下落の意味が異なるでしょう.すでに円も50%の下落ですが,暴落と言うなら,1ドル=200円とかを言うのかもしれません.実際,現在の円安を「プラザ合意の円高」(逆向き)と比較する議論があります.

マクロ経済のモデルを駆使する研究であれば,変数によっては出てくるでしょう.最適の水準を議論し,それに比べて200円は良いか,悪いか,示します.

しかし,政治的要因を重視し,円が下落するまでに何が起きたか,を考えるなら,同じ200円でも評価が異なります.

もしアメリカの景気回復が予想以上に強く,日本の構造改革に失望感が深まるなら,円安が進むのは良いことです.アメリカもそれを気にしないかもしれません.日本は輸出を伸ばし,改革を進め,インフレも生じて,円の(実質)水準が回復します.

しかし,たとえば,中国との軍事紛争が起きたら,日本の国債や景気に対する不安が強まります.円安は問題を深刻にするだけで,パニックを誘発します.安定した外交,安全保障の合意が成立するまで,不安定な時代が続くかもしれません.

3.朝鮮半島の再統一.・・・毎年,私はトップに挙げます.「ベルリンの壁崩壊」と同じように,東アジアの冷戦体制が終わるからです.

しかし,東西ドイツ再統一のような大きな変動にはならないと思います.朝鮮半島とドイツの経済力が異なるだけでなく,ベルリンの壁崩壊は,ソ連の崩壊に至りました.中国の共産主義体制が内部で政治闘争を繰り返すとしても,ソ連崩壊のような形にはならないように思います.

朝鮮半島の再統一が成功すれば,その人口,経済力,外交的な自立性は大いに高まるでしょう.東アジアの将来をめぐって,日本と中国は積極的に関与し,支援するでしょう.

北朝鮮には核兵器があります.核を廃棄するか,あるいはヨーロッパのように,共有する枠組みを持つことができるでしょうか?

他方,もし地域の国際合意がなければ,中国と日本の間で,統一後の朝鮮も,グルジアやウクライナのような緩衝国家としての脆弱性を強いられるかもしれません.

キューバがアメリカとの関係を改善する過程は,朝鮮半島が再統一する,北朝鮮を平和的に転換する,基準になります.イラクやアフガニスタンで苦しんだからこそ,中東からアジアへ重心を移すアメリカが,この地域の同盟関係や中国との協力を,真剣に,しかし慎重に築く,開放型の調整過程が始まるでしょう.

朝鮮民族とその子孫は,中国にも日本にも住んでいます.日本は,彼らとともに,市民社会を育て,その秩序を共有することができているでしょうか? 平和的な調整を仲介し,信頼を得るために,日本政府は自ら問うべきです.

4.中国のバブル崩壊.・・・その判断は分かれています.世界金融危機の影響,成長モデルの転換,という過程が,中国政府の政治・経済に対する管理能力に対して過大な負担ではないか? 答えはわかりません.

土地・不動産や株式市場のバブルは何度も生じるはずです.銀行システムの健全化や債務依存の抑制,人民元の国際化も始まります.もし政府が対応を誤れば,リーマンショックを超える危機が広がるだろう,と世界の金融関係者は恐れています.

中国の政府・中央銀行は,さまざまな問題について検討を重ねているでしょう.日本やアメリカ,ユーロ圏の経験も参考にするはずです.

ゼミで学生たちの業界研究を聞いていると,人口減少が日本企業に及ぼす重荷を感じました.百貨店も,自動車も,鉄道も,住宅も,銀行も,日本の市場が縮小することに耐え続けるか,アジアやアメリカに進出するしかないのです.

あるいは,世界中から,特にアジア,中国から,観光客を集めて,地方の活性化やインフラ整備に活力を得るかもしれません.

日本は,人口規模からみて,アジアのオランダやベルギーになります.しかし,その前に,すでにアジアのイスラエルなのでしょうか? アメリカの同盟国として「特別な関係」を維持しようとするより,アジアの安定化と繁栄を共有する制度やメカニズムに投資するほうが,国民の独立心と,アメリカや中国,ヨーロッパやロシアの信頼を得られるでしょう.

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世界が破滅するのも,繁栄するのも,人間が築く社会制度に拠るのです.その最大の発明品は,おそらく,神,国家,貨幣,です.Reviewで紹介した以下の論説を読むとそう思います.

John Muellbauer, “Combatting Eurozone deflation: QE for the people,” VOX 23 December 2014

RICARDO HAUSMANN, “The Productivity of Trust,” Project Syndicate DEC 23, 2014

T. M. Luhrmann, “Religion Without God,” NYT DEC. 24, 2014

もしその発明を「最適信仰圏」,「最適国家圏」,「最適通貨圏」,と呼べば,それらが一致する小さな理想の社会を考えることができます.そこに実現する幸福と平和を,分散し,分裂した現実の世界で,市場統合と人口移動,通信が結びつける繁栄と混沌の中に見出すため,私たちは優れた政治を必要とするのです.

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