(前半から続く)
l ヨーロッパの極右
SPIEGEL ONLINE 12/21/2014
The End of Tolerance?
Anti-Muslim Movement Rattles Germany
By
SPIEGEL Staff
Bloomberg DEC 24, 2014
A Great Year for the Far Right
By
Leonid Bershidsky
グラフィック・デザインの専門家Steve Hellerは画集を発行した."The
Right Is Always Wrong" そこにはハンガリー,ギリシャ,ウクライナで,過激なナショナリストたちが,ナチスのシンボルを自慢げに示している.
極右の影響力が増大するかどうか,という問題はすでに古い.彼らはすでに多くの国で,政治のエスタブリッシュメントに入っている.外国人排斥,孤立主義,大国志向の愛国主義者,好戦論者,宗教的狂信者,単純な経済政策の信奉者.彼らは上等のスーツを着て,おおむね法に従って政治を戦う.彼らは公論を支配するだけでなく,政治システムを支配しつつある.
彼らは単純な解決策が効果を持たないことで信用を失うのか? その指導者たちは,彼らを権力に押し上げたナショナリストの勢力をなだめるほど,十分な政治的洗練に達するのか?
l アメリカの治安と拷問
NYT DEC. 21, 2014
Prosecute Torturers and Their Bosses
By
THE EDITORIAL BOARD
NYT DEC. 21, 2014
Pursuing Justice for All
Charles
M. Blow
14歳の黒人少年George
Stinney Jr.が,2人の白人少女を殺害した罪で,その事件の3か月後に死刑になった.
FP DECEMBER 22, 2014
A Christmas Pardon
BY
STEPHEN M. WALT
オバマは,今,すべての罪に対して謝罪し,事実を明らかにした後,恩赦を与えるべきだ.
報告書が示したように,アメリカは指導者の許しを得て拷問を行い,国連の人権宣言に反する行動を取っていた.オバマは過去を振り返らず,将来を目指す,と述べたが,もはやそれはできない.旧政権の責任を告発し,NYTが指摘するように,チェイニー元副大統領も含めて,犯罪捜査が必要だろう.
オバマのジレンマは,繰り返し,アメリカの警察官が発砲で死者を出す事件にも示されている.体制による拷問と,警察官の過剰な行動は,顕著な類似性を示す.野蛮で,道義的に不快で,違法である.われわれの安全を確保するため必要だった,と擁護され,正当化されている.間違った行為であるという多くの証拠があっても,彼らは罪を問われていない.
オバマは苦しい立場だ.アメリカのイメージを改善し,テロとの戦いを終え,拷問をさせないと主張したはずだが,それができないのだ.アメリカの政治は分裂しているからだ.過去の誤りを正さないまま,将来の不安を抱える.
それゆえオバマがなすべきことは,アメリカの政府職員が罪を犯したことを明確にすること,同時に,ブッシュやチェイニーも含めて,かつてフォードがニクソンを許したように,彼らの罪を許すことだ.
オバマはそれで終わるべきではない.スノーデンやマニングにも,大統領恩赦を与えるべきだ.彼らは,ブッシュやチェイニーと同様,それがこの国の最善の利益になると信じていた.危険な,権力の乱用から,この国を守るために,彼らは行動したのだ.私的な利益を求めたのではない.自分が大きな困難に陥ると知っていた.今,権力を乱用し,アメリカの評価を損なった者たちは,今も富と栄光を保持している.他方で,権力の乱用に光をあてた者が囚人となり,国外追放され,困窮を強いられている.
両者に恩赦を与えることで,9・11に続く暗黒の時代を閉じるべきだ.9・11が起きたとき,アメリカでは,脅威を適切に評価し,われわれの強さや価値に応じた,社会としての一貫した対応を打ち出せる,バランスの取れた,成熟し,現実ウィ直視した諸個人が国を指導できなかった.彼らはタフな話をしたが,実際はパニックに陥り,その対応はビンラディンよりアメリカを害した.
双方に恩赦を与えることは,右派も左派も喜ばないだろう.しかし,世界は不完全だ.アメリカの民主主義は完全な政治システムではないし,バラク・オバマも完璧な大統領ではない.苦境における最善の行動が,たとえ希望をもたらす十分な変化ではないとしても,そう信じることができる変化になるだろう.
l 中国経済のバブル
FT December 22, 2014
Hello 2015: no hard landing for
China
By
Rafael Halpin, China Confidential
中国政府は改革と成長のバランスを取ることに成功するだろう.
FT December 23, 2014
China’s lenders are best placed to
fix region’s infrastructure
Henny
Sender
FT December 24, 2014
Causes and consequences of China’s
contagious case of deflation
George
Magnus
過剰生産力によって生じる中国のデフレは構造的であり,その影響を強めるだろう.多くの部門で生産能力の余剰が生じており,名目GDPの成長率は半減し,GDPに対する債務の比率は250%に達している.
中国のデフレは続くし,その世界的な影響は拡大しつつある.人民元も減価するだろう.
世界の主要経済で深刻な低インフレからデフレが進むとき,中央銀行の対策は不十分であることを認めて,政府が行動する時が来る.
NYT DEC. 23, 2014
Plastic Surgery Tourism Brings
Chinese to South Korea
By
ALEXANDRA STEVENSON
l 北極海の分割
FT December 22, 2014
The geopolitical game in the Arctic
heats up
Project Syndicate DEC 24, 2014
The Battle for Santa Claus’s Home
CARL
BILDT
l ユーロ圏の金融緩和
FT December 22, 2014
Draghi must choose right type of QE
Diana
Choyleva
量的緩和QEには,流動性の問題と,支払い不能の問題,という異なるタイプの対応策がある.ECBは政府債務を購入しなければならないが,政治的反対が強く,「日本化」を避けるのはなお難しい.
Project Syndicate DEC 23, 2014
The Fed Sets Another Trap
STEPHEN
S. ROACH
アメリカ連銀の金融政策は,まさに世界金融危機前の数年がそうであったように,その正常化が遅れている.
VOX 23 December 2014
Combatting Eurozone deflation: QE
for the people
John
Muellbauer
ユーロ圏EZはアメリカと異なり,住宅市場の債務が危機の原因ではなかった.また,EZの家計はアメリカと異なり,株式を保有せず,多くの流動資産を持っている.それゆえ,アメリカと同じようなQEは効果がないだろう.
EZがデフレを避けるためには,むしろECBが銀行システムではなく,直接,家計に資金を,たとえば500ユーロを移転することが望ましい.ECBは政府への資金移転を禁じられている.また,これはECBが財政的な刺激策を肩代わりするというのではなく,インフレ目標を実現するという自らの権限に従い,独立した金融当局として行動する.
ECBの行動は,特にギリシャやスペインで強い効果を発揮し,各地に台頭するナショナリストたちとEUが政治的にも対抗できるだろう.インフレ加速や,モラル・ハザード,など,民衆を通じたQEに対する様々な反対論は間違っている.
VOX 24 December 2014
Bank Resolution under T-LAC: The
Aftermath
Charles
A.E. Goodhart
l 隠れケインズ主義
Project Syndicate DEC 22, 2014
Britain’s Closet Keynesian
ROBERT
SKIDELSKY
イギリスの大蔵大臣George Osborneは「隠れケインジアン」かもしれない.
彼は政府支出を削って財政均衡を達成すると約束した.しかし,目標の都市になると,均衡よりも目標年を先延ばしにした.
これはエコノミストが「シグナリング効果」と呼ぶものだ.政府が財政の均衡を唱えて支出を削ると,消費者は将来の増税という不安から解放されて,消費するようになる,というわけだ.その意味では,結局,財政均衡を延期するなら,彼は需要を重視したケインジアンである.
もちろん,彼はケインズ主義を信じていない.不況でも政府支出を削れば景気は回復すると主張するのだから.しかし,ケインズも述べたように,改革を進めるのに適した時期は好況期である.
l クリントンとブッシュ
NYT DEC. 22, 2014
The Real Threat to Hillary Clinton:
Jim Webb
By
JACOB HEILBRUNN
l 日本の株式相場
FT December 23, 2014
Japan stocks count on Abe’s third
arrow hitting home
Ben
McLannahan in Tokyo
安倍首相が始めたアベノミクスの株式相場は,マクロ・ヘッジファンドから,国内市場参加者の買いを経て,中国台頭に関連する相場となっていた.
安倍が選挙で勝利した後,第3の矢で相場を維持できるか.
l 医療改革
FT December 23, 2014
Let us enjoy the greatest human
escape of all
Martin
Wolf
l 気候変動
FT December 23, 2014
Our manifest destiny is to move
beyond Earth
l 市場と政府
Project Syndicate DEC 23, 2014
The Productivity of Trust
RICARDO
HAUSMANN
カナダ人は,アメリカ人同士よりも,アメリカ人との関係が近い.カナダのほとんどの国民が,3000マイルのアメリカとの国境線に沿って,狭い帯状の地帯に住んでいるからだ.
その国が成長し,繁栄する,潜在能力を決定するのは,ルールや政府機関,ビジネス・コミュニティーが互いに積み重ねた関係である.その関係が信頼できるとき,市場と国家は繁栄し,互いに信頼を欠くとき,ともに衰退し,崩壊する.
政府は市場を必要とし,市場も政府を必要とする.両者の関係を合意するには,利潤や分配よりも,生産性に焦点を絞るべきだ.高い生産性を実現することは,コストを下げ,賃金を上げ,価格を下げ,税金を支払い,株主に配当できる.
l ヨーロッパの死活問題
theguardian.com, Wednesday 24
December 2014
Calais’ desperate migrants are dying
– politicians must intervene urgently
Anne
Perkins
不安定な地域から逃げてくる難民たちの収容施設を設けるべきだ.そして,彼らの再定住先を見つけねばならない.ここで,合意形成のために政治家は議論を始めることだ.
Project Syndicate DEC 24, 2014
Europe’s Make-or-Break Year
JOSCHKA
FISCHER
l クリスマスとは何か?
NYT DEC. 24, 2014
Scrooges of the World, Begone!
Nicholas
Kristof
ハイチの災害後.
NYT DEC. 24, 2014
An Atheist’s Christmas Dream
Mark
Bittman
クリスマスを祝わない.ユダヤ人,無神論,第1次世界大戦,社会革命.
NYT DEC. 24, 2014
Guantánamo Dreams
Linda
Greenhouse
2002年1月11日,初めて20人の捕虜がグアンタナモ湾の米海軍基地に着いた.最後に来たのは2008年3月だ.
NYT DEC. 24, 2014
Religion Without God
T.
M. Luhrmann
神を必要としない信仰心はあるか? 葬儀も,結婚も,名づけることも,神の名に拠らずに行う協会the British Humanist
Associationもある.
「宗教とは,根本的に,人々が世界をありのままに,そして,いまだに経験していない,その程度やその仕方で,あるべき姿で見ることを助ける実践なのである.人々が教会で行っていることの多くは,仲間を見出し,誕生や結婚を祝い,亡くなった人を思い出し,われわれが大切にする価値を確かめることは,そのメタファーとして神を意味するが,物語として,まったく神に言及しない物語としても,もたらすことができる.」
無神論者は人間関係を信頼するのであり,超自然的な関係を信仰していない.人類は世界をあるべき姿にするほど善良ではない.おそらくそれが,我々がクリスマスの讃美歌や礼拝に感動する理由である.
l 綿工業の歴史と搾取
NYT DEC. 24, 2014
A Long History of Exploitation in
the Cotton Industry
By
VIKAS BAJAJ
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The
Economist December 13th 2014
America’s
police on trial
Policing:
Don’t shoot
CIA
torture: Shock therapy
Free
exchange: An on-off relationship
(コメント) 人種差別だけでなく,アメリカの警察に関する改善策,銃器の規制は重要です.
資本規制に関する国際合意は,まだ,議論が続きます.
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IPEの想像力 12/29/14
クリスマスが過ぎて授業があるのは酷です.しかし,それくらい学びたいという気持ちを持てたらいいな,と思い,アップルパイを持ってきてゼミ生と食べました.そして,質問しました.
「今年の重大事件は何か?」 「来年,世界の歴史を変えるような事件が起きるとしたら,それは何か?」 彼らが指摘してくれて話し合ったことは,
1.ルーブルの暴落.・・・ウクライナにおける軍事紛争と西側の経済制裁,世界景気の低迷とシェール革命などによる石油価格の下落,が重要です.資源に依拠した独裁体制が通貨危機の性格を変え,深刻な政治危機と結びつきます.
世界各地の強権国家体制,それをめざす指導者たちに,リビジョニズム(歴史観の転換・強制)が共通して見られます.
2.円の暴落.130円を超える.・・・ルーブルと円では,通貨価値の下落の意味が異なるでしょう.すでに円も50%の下落ですが,暴落と言うなら,1ドル=200円とかを言うのかもしれません.実際,現在の円安を「プラザ合意の円高」(逆向き)と比較する議論があります.
マクロ経済のモデルを駆使する研究であれば,変数によっては出てくるでしょう.最適の水準を議論し,それに比べて200円は良いか,悪いか,示します.
しかし,政治的要因を重視し,円が下落するまでに何が起きたか,を考えるなら,同じ200円でも評価が異なります.
もしアメリカの景気回復が予想以上に強く,日本の構造改革に失望感が深まるなら,円安が進むのは良いことです.アメリカもそれを気にしないかもしれません.日本は輸出を伸ばし,改革を進め,インフレも生じて,円の(実質)水準が回復します.
しかし,たとえば,中国との軍事紛争が起きたら,日本の国債や景気に対する不安が強まります.円安は問題を深刻にするだけで,パニックを誘発します.安定した外交,安全保障の合意が成立するまで,不安定な時代が続くかもしれません.
3.朝鮮半島の再統一.・・・毎年,私はトップに挙げます.「ベルリンの壁崩壊」と同じように,東アジアの冷戦体制が終わるからです.
しかし,東西ドイツ再統一のような大きな変動にはならないと思います.朝鮮半島とドイツの経済力が異なるだけでなく,ベルリンの壁崩壊は,ソ連の崩壊に至りました.中国の共産主義体制が内部で政治闘争を繰り返すとしても,ソ連崩壊のような形にはならないように思います.
朝鮮半島の再統一が成功すれば,その人口,経済力,外交的な自立性は大いに高まるでしょう.東アジアの将来をめぐって,日本と中国は積極的に関与し,支援するでしょう.
北朝鮮には核兵器があります.核を廃棄するか,あるいはヨーロッパのように,共有する枠組みを持つことができるでしょうか?
他方,もし地域の国際合意がなければ,中国と日本の間で,統一後の朝鮮も,グルジアやウクライナのような緩衝国家としての脆弱性を強いられるかもしれません.
キューバがアメリカとの関係を改善する過程は,朝鮮半島が再統一する,北朝鮮を平和的に転換する,基準になります.イラクやアフガニスタンで苦しんだからこそ,中東からアジアへ重心を移すアメリカが,この地域の同盟関係や中国との協力を,真剣に,しかし慎重に築く,開放型の調整過程が始まるでしょう.
朝鮮民族とその子孫は,中国にも日本にも住んでいます.日本は,彼らとともに,市民社会を育て,その秩序を共有することができているでしょうか? 平和的な調整を仲介し,信頼を得るために,日本政府は自ら問うべきです.
4.中国のバブル崩壊.・・・その判断は分かれています.世界金融危機の影響,成長モデルの転換,という過程が,中国政府の政治・経済に対する管理能力に対して過大な負担ではないか? 答えはわかりません.
土地・不動産や株式市場のバブルは何度も生じるはずです.銀行システムの健全化や債務依存の抑制,人民元の国際化も始まります.もし政府が対応を誤れば,リーマンショックを超える危機が広がるだろう,と世界の金融関係者は恐れています.
中国の政府・中央銀行は,さまざまな問題について検討を重ねているでしょう.日本やアメリカ,ユーロ圏の経験も参考にするはずです.
ゼミで学生たちの業界研究を聞いていると,人口減少が日本企業に及ぼす重荷を感じました.百貨店も,自動車も,鉄道も,住宅も,銀行も,日本の市場が縮小することに耐え続けるか,アジアやアメリカに進出するしかないのです.
あるいは,世界中から,特にアジア,中国から,観光客を集めて,地方の活性化やインフラ整備に活力を得るかもしれません.
日本は,人口規模からみて,アジアのオランダやベルギーになります.しかし,その前に,すでにアジアのイスラエルなのでしょうか? アメリカの同盟国として「特別な関係」を維持しようとするより,アジアの安定化と繁栄を共有する制度やメカニズムに投資するほうが,国民の独立心と,アメリカや中国,ヨーロッパやロシアの信頼を得られるでしょう.
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世界が破滅するのも,繁栄するのも,人間が築く社会制度に拠るのです.その最大の発明品は,おそらく,神,国家,貨幣,です.Reviewで紹介した以下の論説を読むとそう思います.
John
Muellbauer, “Combatting Eurozone deflation: QE for the people,” VOX 23 December
2014
RICARDO
HAUSMANN, “The Productivity of Trust,” Project Syndicate DEC 23, 2014
T.
M. Luhrmann, “Religion Without God,” NYT DEC. 24, 2014
もしその発明を「最適信仰圏」,「最適国家圏」,「最適通貨圏」,と呼べば,それらが一致する小さな理想の社会を考えることができます.そこに実現する幸福と平和を,分散し,分裂した現実の世界で,市場統合と人口移動,通信が結びつける繁栄と混沌の中に見出すため,私たちは優れた政治を必要とするのです.
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