IPEの果樹園2014

今週のReview

12/8-13

 

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中国資本主義の文化的矛盾 ・・・ヨーロッパの景気回復策 ・・・警察官による黒人殺害 ・・・日銀,プルトニウム,人口減少 ・・・石油価格下落 ・・・資源とプーチンの呪い ・・・大西洋をはさむ移民論争 ・・・強権政治家の時代

[長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  中国資本主義の文化的矛盾

NYT NOV. 27, 2014

The Ambition Explosion

David Brooks

1976年にDaniel Bellは『資本主義の文化的矛盾』を出版した.ベルは,資本主義が消費者の満足を追求することに熱心で,その起源にあった勤勉さを失い,華美で,支出を好み,借金に頼る,苦しい仕事を嫌って楽しみだけを求める人々を増やす傾向に,文化的な限界を見たのだ.

しかし,本当の矛盾は,資本主義が人々の野心を,焦点も決まらないまま,過度に刺激することだ.職業も経済的な成功も,実現可能であるという幻想を広める.資本主義は,人々が精神的に最も豊かな生活を生きていないという曖昧な感覚を育てる.

現代の中国はその極端な例である.Evan Osnosが新著 “Age of Ambition” で,ケ小平の改革により社会全体で野心が高まったことを描いている.毛沢東の指導の下では革命の歯車であった人民が,わずか1世代で,ボロ着から富裕層に変わった.

資本主義の下で,人間の道徳的な想像力は抑圧されてしまう.しかし,決して破壊され尽くすことはなく,人々は精神的な彷徨を始める.儒教やナショナリズム,Michael Sandelの講義,キリスト教に注目が集まる.

NYT NOV. 28, 2014

The Disintegration of Rural China

By JOE ZHANG

私は,平穏な,牧歌的な村で育ったが,多くの中国の村がそうであるように,長年の政策失敗と無策により,伝統的な社会規範は崩壊し,農村は破滅してしまった.私の世代は以前の時代に戻ることを望む.

中国の現代史を想えば,こうしたノスタルジアは不思議であろう.共産主義革命がもたらした惨禍と飢餓,大量死があったし,さらに1970年代半ばに文化大革命に終わるまで,厳しい記憶が上の世代にはあるはずだ.しかし,彼らはそれについて経験を語らず,われわれはそのあとに生まれた.

私の子供時代は中国の転換期であった.伝統的な農村で暮らし,毛沢東時代の暗黒を知らず,資本主義の熱狂もまだなかった.家族の絆は強く,犯罪など聞いたことがなかったし,風景は原始の状態であった.小学校では教科書もなかったが,我々は貧しさを知らなかった.何も欠けていることなど知らなかったから.平和な,緊密な共同体の暮らしがあった.

しかし,中国の伝統的な社会の枠組みは粉砕されたのだ.そのもっとも顕著な姿は農村である.家族は解体し,犯罪が増加し,環境汚染が人々を殺している.かつて政府が私生活から立ち去ることを喜んだ人々が,政府の介入を切望している.農村の暮らしを再建するために何かしなければならない.

ケ小平の経済自由化によって,農民は土地に工場を建てたり,作物を決めたり,自由に売ったり,沿海部に出稼ぎに行ったりできた.しかし農村部のルネサンスは1990年代後半に終わった.中央銀行の無謀な紙幣増発で2けたインフレが起き,急速に農村部の所得は浸食され,都市と農村の格差が拡大した.

さらに政府は,住宅を民営化し,都市の住宅価格は5倍にも6倍にもなった.それに比べて農村の住宅はほとんど上昇しなかった.ますます多くの農民が沿海部に流出し,地方政府は軽視され,衰退した.都市周辺の村には工場が建ち,湖を枯らして,川や空気を汚染した.専門家の推定では,450もの農村にガンが異常に高い率で発生している.

私の故郷Jingmen, Hubei Provinceでは,長い間修復されなかったので道路が使用できない.公民館は倒壊してしまっている.農村の自殺率は都市の3倍もある.幼い兄弟を残して,両親が出稼ぎに行くケースも多い.子供たちは祖父母が世話するか,自分たちだけで暮らすしかない.学校に行かなくなる子供も多い.農村部で,2009年の離婚率は1979年の4倍だ.

多くの農村が無政府状態になって,犯罪が増え,選挙の不正が起きている.この数十年,北京政府はガバナンスを地方に分権化したが,それは社会の崩壊を促した主要な要因だ.村長の選挙は操作され,汚職が広まっている.政府の手放す地域で権力の真空が生じ,村人たちは自営するしかないが,マフィアのような集団がはびこっている.今や,警察は都市部の治安しか守らない.税の廃止で,農村には治安維持の財源もない.

不平等,環境破壊は,とくに農村部で,経済成長よりも重要な問題である.リバタリアンたちが政府の弊害について何と言おうとも,多くの農村は政府の介入を求めている.

政府と国民がもっと重視され,農村の生活を再建しなければならない.国家には財源と専門知識がある.必要なのは,その意志だ.

Project Syndicate DEC 2, 2014

China’s Asia?

MINXIN PEI

習が示した新しいスローガン,“Asia for Asians”とはどういう意味か? ここには明らかにアメリカが重要な役割を担うアジアの安全保障構造を全面的に変更したい,という意図がある.

確かに,結局,どんな国も国内や地域の事情を外から大国に干渉されたくない.しかし,中国はアジア太平洋におけるアメリカの役割を認めてきたのであり,その姿勢が大きく転換することになる.

これまで,中国のプラグマティックな指導者たちは,アメリカの存在がソ連(そしてロシア)を封じ込め,日本の再軍備を阻止し,シー・レーンの開放性を維持していることを知っていた.また,中国の力では,このアメリカ主導の安全保障に代わる実現可能な計画がないことも知っていた.

こうした認識が変わったかもしれない.中国は力をつけて,特に経済分野では,アジア・インフラ投資銀行や,シルクロード基金などを創設した.しかし,軍事面では失敗している.日本との関係は最悪であり,東南アジア諸国との紛争は中国に対抗するためアメリカとの関係を強化させている.

“Asia for Asians”は,こうしたアジア諸国へのアメリカの支援を嫌う姿勢を示すものかもしれない.もしそうであれば,それは中国の戦略的な失敗である.アジアの安全保障では,北朝鮮も含めて,ほとんどの近隣諸国が中国の無制限な覇権を恐れているからだ.“Asia for Asians”とは“Asia for the Chinese”であるだろう.

中国の専門家たちは,近隣諸国が支持しないような愚かなスローガンを広めようとはしないだろう.それは日本が,1930年代に,帝国支配と征服の目的を隠すために「大東亜共栄圏」を唱えたようなものだ.


l  ヨーロッパの景気回復策

Bloomberg NOV 30, 2014

ECB Should Fire Up Its Helicopters

By Clive Crook

ECBはまだ小手先の手段で成長を刺激できると思っている.しかし,疑いなくデフレは迫っており,量的緩和をできるだけ早く実施するのが良い.

では,具体的な何をするのか? 反対意見をどうするべきか?

ドラギ総裁は合意を得ることにこだわりすぎている.ECBの国債購入プログラムは量的緩和QEではない.アメリカ連銀型のQEに移るべきだ.すなわち,流通市場で国債を購入することだ.あるいは,Jeffrey Frankelが提案したように,アメリカ財務省証券を購入して,ユーロ安を促してもよい.またYanis Varoufakisは,EIBの大規模なインフラ投資計画に対して債券購入することを提案している.

QEのメリットは,長期国債を購入するだけでなく,支出を直接に刺激することで発揮されるだろう.それはMilton Friedmanがたとえたような,ヘリコプターによる現金散布に似ている.John Muellbauerは,ECBが直接に消費者の口座へ預金を積み増すように提案した.QE for the people,である.

こうした手段でユーロ圏をデフレから救出することは,政治的に重要な意味がある.特に,ギリシャやポルトガルのような,不況に苦しむ諸国で,EUの諸制度に対する不満が高まっている.ECBがインフレ達成に真剣なことを,市民や投資家に訴えることができるだろう.ナショナリズムに反撃することだ.


l  警察官による黒人殺害

FT November 28, 2014

After Ferguson: Missouri burning

Megan Murphy and Neil Munshi

逮捕,投獄,警察官による発砲,など,アメリカ中で黒人の過剰な比率が統計に示されている.2012年にフロリダで黒人青年Trayvon Martinが射殺されたとき,オバマはその事件を積極的に取り上げて,アメリカの人種的な分断を指摘した.しかし,今回は違う.警察や裁判制度の改革を唱えるデモ隊と距離を置いた.

オバマはアフリカ系の最初の大統領として,肌の色で判断される言動を抑えねばならない.黒人コミュニティーもそれを理解している.しかし,10年前に無名のイリノイ州上院議員として民主党大会で演説し,大統領候補になったときの理想は,単なるおとぎ話であったように思える.

「黒いアメリカも,白いアメリカも存在しない.ラティーノのアメリカ,アジア系のアメリカも存在しない.ここにあるのはアメリカ合衆国だ.」

Michael Brownが死んでから数日間,若者たちは大統領の写真を掲げて行進し,オバマがここへ来るべきだと主張した.しかしBrown夫人は彼に聞いてほしい言葉はないと言った.「彼も肌の色は同じかもしれないが,そういう白人なのだ.」

FP DECEMBER 4, 2014

Leaders in Glass Countries Shouldn't Throw Stones

BY STEPHEN M. WALT

アメリカは,国内の人種差別問題で対外的なイメージを損ない,外交政策の影響力も失っている.アメリカの対外的な展開と国内問題の解決とはトレード・オフの関係にある.

連邦政府が国内の無意味な政治対立で閉鎖に危機に追い込まれたり,国内でマイノリティが差別され,不当な扱いを受けたりしていることがあれば,アメリカの外交は制約され,国際的な権威を失う.

またアメリカが3兆ドル以上も費やし,イラクやアフガニスタンで間違った戦争に深入りしなければ,それを国内のインフラ整備や雇用改善に支出できただろう.その結果,Fergusonのような町で問題を改善できたはずだ.

アメリカがテロとの戦争を強化する過程で,国内の警察にも武装の強化が補助金を通じて推進された.Fergusonで見たように,こうした重装備(とテロに対抗する戦術)は警察の治安活動に逆効果であった.

国内で健全な社会を実現するために,アメリカは国際的な十字軍を担うより,もっと国内問題を解決する努力に集中するべきだ.


l  日銀,プルトニウム,人口減少

FP DECEMBER 1, 2014

Japan Has Enough Plutonium to Make Thousands of Nukes

BY JEFFREY LEWIS

日本政府は六ヶ所村の再処理工場の完成を再び延期した.再処理の見通しがないままプルトニウムを蓄積し続けている.日本がそれで核兵器を生産する意図はないとしても,他の諸国が原子力発電所から核兵器を作るためにプルトニウムを貯蔵する試みを刺激してしまうだろう.

日本政府が300億ドルを投資した施設を閉鎖することは,確かに,非常にむつかしいだろう.しかし,日本がこの地域安全保障にも配慮して,再処理計画を変更する先例を作ってはどうか?

Project Syndicate DEC 1, 2014

The Return of Currency Wars

NOURIEL ROUBINI

日銀による「近隣窮乏化」円安政策は,アジア(China, South Korea, Taiwan, Singapore, and Thailand)と世界(The European Central Bank and the central banks of Switzerland, Sweden, Norway, and a few Central European countries)に反動をもたらす.すべてはドル高に向かい,アメリカ連銀も金利引き上げを遅らせるかも知れない.

こうした通貨不安が生じている理由は,金融危機後の債務削減,財政再建により,金融政策だけが利用可能な政策手段となっているからだ.世界的に見ても,債務国・赤字国の緊縮に対して,黒字国の拡大策は十分ではない.世界の需要は減少し,成長の減退,デフレが生じている.その結果,通貨戦争がもたらすのは,成長ではなくゼロサム・ゲームだ.

金融緩和はゼロサムではないが,財政緊縮などと合わせて,景気刺激になっていない.赤字削減が先行して,金融緩和は遅れている.その逆が正しいのに,政府は積極的なインフラ投資を行わない.流動性だけでは民間投資は起きない.

緊縮の政治経済学が最適の政策を否定する.政府は,たとえ非効率でも,既存の支出,雇用,民間補助金を継続することを優先する.世界の景気回復は貧血症を解消できない.ある意味では,我々はすべて今や日本人だ.


l  石油価格下落

The Observer, Sunday 30 November 2014

Falling oil prices offer the west a great chance to refashion itself. Let’s seize it

Will Hutton

この18か月間の世界最大の石油産出国は,サウジアラビアを抜いて,アメリカだった.府ラッキング技術によって,今後も世界最大であるだろう.これまで半世紀の世界経済が逆立ちした.OPECは石油価格を引き上げる力を持たず,生産削減の合意も成立しなかった.

石油価格は4年ぶりの最低水準,1バレルあたり70ドルまで下がっている.産出の増加と,中国も含めて新興市場の成長が減速したころで,石油の過剰が問題になっている.石油価格下落は世界景気にとって良いニュースだ.石油価格上昇は消費者から石油輸出国に資金を移す.産油諸国はそれを厖大な外貨準備として預金してしまうから,世界景気を抑制するのだ.

ヨーロッパ経済は石油輸入を通じてその利益を受ける.他方,プーチンのロシアは,金融,政治,安全保障,ビジネスの支配層が不利益を受ける.ウクライナへの介入も低下するだろう.

しかし西側政府は石油価格下落だけに頼ってはいけない.それだけではデフレを強めるかもしれない.攻撃的な景気拡大策が必要だ.ECBも,ドイツも,欧州委員会も,この機会をとらえることだ.

中東の石油に依存しなくなったアメリカでは孤立主義が強まるかもしれない.権力の真空に,ナショナリスト,テロリスト,宗教的原理主義者,中国,などが紛争に介入する.UKIPや保守党右派は,過去のユートピア世界に住んでいる.


l  資源とプーチンの呪い

FT November 30, 2014

The oil price will set the test for Putin’s resource nationalism

Kirill Rogov

クレムリンにおいてプーチンの政治力は2つの源泉から得られてきた.石油の高価格と,熱狂的な愛国心,である.石油価格が下落した今,プーチンは愛国心だけで生き延びるのだろうか?

石油・天然ガスを国有化することで,資源が豊富な国は有権者の利益を実現できた.しかし,国有化は民間投資の動機を失わせ,その資源を奪って,経済のパフォーマンスを改善できなかった.コストは上昇し,消費の増加が尽きて,石油の富は政府の寛大さを示すことに消耗された.すなわち,社会給付,年金,公務員の高給,軍事予算である.

これは,イラクのフセイン,ヴェネズエラのチャベスも試みた,資源ナショナリズムである.そして,こうした政治指導者たちは,地域の指導権を求め,愛国心を刺激するために近隣諸国との紛争を画策した.

それが完全な全体主義支配になるかどうかは,3つの条件にかかっている.すなわち,大衆的な支持,エリートたちの黙従,そして,経済が急激に悪化しないこと,である.この最後の,経済成長こそ,大統領にとって致命的な条件だ.クレムリンは,経済を維持するために紛争を鎮静化すべきか,迷っている.

しかし,資源ナショナリズムによる支配は逆転を許さない.自然資源を枯渇させるだけで,繁栄は創り出せない.石油価格が下落したとき,プーチンはますます愛国心を必要とするから,西側との紛争を激化させるしかないだろう.

Project Syndicate DEC 2, 2014

Why Did Putin Turn?

HAROLD JAMES

西側の評論家たちはプーチンの外交政策を誤解している.彼らは,2007-2008年の金融危機以後に生じた地政学の変化を,ロシアの魂が現れた心理劇とみなす.なぜプーチンが,近代化,若い,西側支持の立場から,攻撃的な歴史の見直しに変化したのか,その理由を理解していない.

一方では,プーチンに共感する者がいる.その前提は,西側がその約束を破って,NATOEUを東欧に拡大したことだ.しかし,そのような約束はなかった.実際,1990年に東西ドイツが再統合したとき,アメリカはそれをNATOに加えるしかなかった.1990年代にヨーロッパの経済・安全保障を中東欧に拡大したが,ロシアは関心を示さなかった.

他方で,プーチンを非合理的な,幻想にとらわれた人物,とみなす者もいる.しかし,かつてもっとも近代的な,頼りになる指導者と言われたプーチンが,ラスプーチンのような狂人になった,とは考えられない.

より正しく理解するには,ロシアの外交政策を時代順にみることだ.その変化は2008年のグルジア危機だった.ロシア人の飛び地を守るために,支援と介入が行われた.その過程はクリミアに受け継がれている.すでに2007年のミュンヘン安全保障会議で,プーチンは地政学的な挑戦を明確にしていた.新興諸国(ブラジル,インド,中国,ロシア)は,不当な一極世界に代わる国際秩序を築くべきだ,と.

翌年の金融危機で,アメリカの時代が終わった,と考えた.危機の前に,ロシアは多国籍企業と組んだ近代化や経済多様化を進めたが,危機により,こうしたグローバル資本主義への服従姿勢を放棄した.そして,もっと国家中心の資本主義,特に中国にモデルを求めた.

アメリカが世界的な関与を引き下げ,アラブの春に対しても混乱した弱い対応しか示さなかったこと,ユーロ危機が長引いたことに,伝統的なソ連型の地政学思考がよみがえったのだ.この点で,スターリンの外交は非常に合理的であった.

大恐慌によって資本主義は分裂し,戦争に至る,とスターリンは考え,それは正しかった.ナチスが侵攻してきたのだ.しかし,ヒトラーが敗北した後,英米は戦争しなかった点で,スターリンは間違った.今も,西側は世界金融危機を恐慌にしなかったけれど,プーチンは同じシナリオを描いている.


l  大西洋をはさむ移民論争

FT December 1, 2014

Obama is a lonely western liberal on immigration

Gideon Rachman

西側の政治家たちが最も心配していることは何か? 成長,不平等,環境問題,教育,・・・ 最近の議論を聞くと,何より,移民問題だ.

しかし,最近,アメリカとヨーロッパの政治は反対方向を向いた.オバマは非合法移民を国外追放から守るように指示し,ヨーロッパではポピュリストたちが反移民の主張を強めている.

OECD諸国の外国生まれ人口は,国民の11-13%でほぼ均衡している.情報通信手段の発達,輸送コストの低下は,裕福な,成長率の高い諸国を巨大な磁石にしている.それを規制すれば非合法な入国が増える.移民たちは国民が嫌がる分野で低賃金の労働を引き受ける.しかし,彼らは賃金を下げる,公共住宅を奪う,と非難されている.不況や不平等が問題になれば,ポピュリスト政治家たちは容易に移民を非難して人気を得ることができる.

アメリカのオバマは,反移民論を非アメリカ的で,人道に反する,と攻撃した.それは中道左派の政治家として,共和党からラティーノの支持を失わせ,民主党を有利にする意味もある.他方,キャメロンはUKIPに保守層を奪われることを恐れ,反移民論を選択した.

そこにはグローバリゼーションの考え方にも違いがある.オバマは国境の管理を時代遅れとみなし,要塞や警察国家より,変化に慣れることを求める.しかしキャメロンやサルコジは,国境管理を重視し,有権者の不満を優先する.

それはまた,大西洋の両岸で政治システムが異なっていることを示す.アメリカは移民の国を自覚し,多くの土地がある.2大政党が確立し,反移民だけで極右が政治勢力を形成することはむつかしい.他方,ヨーロッパにはそれらの条件がない.

それゆえ,ヨーロッパの移民論争はまだ続くだろう.


l  強権政治家の時代

FT December 4, 2014

This is the year of the political strongman

Philip Stephens

強権政治家の時代がもどってきた.経済は,国家権力の道具でしかない.

彼らは過去に対して謝罪しない.どんどん教科書を書き換える.自国の栄光を際立たせるために,歴史は変えられる.同様に,過去の恥辱が強調される.ドイツは悔悛によって生まれ変わった.安倍は謝罪に飽き飽きした.

習近平の見直しはアヘン戦争にまでおよぶ.プーチンは今も,ソ連崩壊が間違いであったと残念に思う.彼らの目には,現在のルールは西側が決めたものだ.軍事力と同盟関係のほうが,国際関係の正しい要素である.

20世紀後半の多角主義的秩序は気休めでしかなく,国家間の関係は本質的に変わっていない.グローバリゼーションは逆転し,カントではなくホッブズが,大国間政治の基本である.はるかに野蛮な世界を生きるために,西側もそれを再学習している.

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The Economist November 23rd 2014

Russia’s wounded economy

The Russian economy: The end of the line

Japanese elections: Same race, same horse

China’s monetary policy: The People’s Blank of China

Germany’s economy: The sputtering engine

(コメント) ロシア,日本,中国,ドイツに関して読みました.石油価格が下落し,不況のデータで一気に選挙を決断し,あるいは,中央銀行が引き締めから緩和に転じ,経常収支の黒字どころか予算も黒字にすることを躊躇し始めた,という話です.それぞれに問題は複雑で,この政策転換が正しい,と断言できる政治家もエコノミストもいません.

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IPEの想像力 12/8/14

「民主主義は死んだのか?」と,イギリスの元首相ブレアTONY BLAIRは問います.情報が普及し,通信技術が発達した時代に,「民主主義」が十分な成果を迅速に有権者にもたらしていない,と彼は認めます.

民主主義とは「投票」だけではありません.資本主義システムや民主制の下で,人々の向上心は高まり,改革の要求がますます強まるのに,それに見合った改革を進めようとすると政治は行き詰まり,制度が硬直化する.ブレアは,こうした「民主主義のパラドックス」が指導者たちを苦しめている,と考えます.

近頃,読み終わるのが惜しいなと思う本は,大村はま『新編 教室をいきいきと 1』(ちくま学芸文庫)です.いつも時代小説を探しに行く駅前のワゴンセールで,たまたま見つけました.(2 は注文して買いましたが,3 は出版されていないようです.)

この本を読みながら,政治やガバナンスについても,私は教育から学ぶべきだと思いました.

著者は「いきいきと学ぶ教室」にするのは難しい,と書いています.「型にはまったような同じことば」で指示するだけではいけない.「心の底から出てきた迫力のようなもの」を伝えないと,子どもたちは「よし!」という気持ちにならない.

「だいたい子どもは,叱らないほうがよいのです.それよりも面白い勉強に引き付ける工夫をしたほうがいいのです.」

「あまり成績が振るわないひとも一生懸命にやっているんだから,ばかにしてはいけない」と,子どもたちに諭す先生がいる.著者は,それだけでは解決しない,と考えます.「人をばかにする,下に見るということのほんとうにない教室,そういう教室にしなければ,たとえば話し合いなどということは成立しません.」

著者が示す解決とは,「できないと思われている子どもに,現実に成果を上げさせる」ことです.ああ,こんな素晴らしいことのできる人なのか,と驚かせなければならない.「ばかにしていたことを後悔し,正しい目で,その人をほんとうに尊敬をもって見る」というところまで持っていく,と書きます.

そのためには,同じ材料,同じ方法ではなく,他の人と比較することができないような,めいめいが担当したことを,自分の話をする,というのがよい.「比較するという考えが浮かばない,出てこない,ということが大切です.」 そして,その子どもがほんとうに感心できる話をできるまで,助けなければならない.それが指導者の務めである.

もしそれができないのであれば,そのテーマ,その目標は,指導者である自分にとって無理だった,と知るべきだ.自分の力が不足し,できる子を伸ばし,できない子どもも見劣りしないところまで持っていく,教育者としての力が足りなかった,と.

「話し合い」による政治,民主主義,はどうでしょうか?

移民が多すぎる,と言うけれど,むしろこれほど発達した移動手段や通信手段があるのに,移民は少なすぎると思います.大きな所得の差があるとき,必ずしも移民によらずに,貿易や技術移転,投資によっても,その差を縮めることができるはずです.

移民論争は各地で起きています.その内容は似ていますが,論争の方向は異なります.オバマはアメリカの伝統や人道主義の視点で反移民論を攻撃しますが,キャメロンはますますポピュリスト政党に支持者を奪われ,それを意識して移民規制を求めます.もし厳しい貧困状態が,出稼ぎや人口流出の理由であれば,インフラ投資や成長だけでなく,移民も優れた解決策です.しかし,政治の在り方によって,その答えは異なります.

生まれた土地への愛着,自分が育った土地,両親や友人たちと暮らした土地へ帰ることを望むのは自然です.しかし,生活の快適さや自然環境の清浄さ,美しい景観,など,所得の差を補って,その土地に人々を引き寄せる力が発揮されるには,新しい政治が求められます.

世界を「小さな教室の中の子どもたち」と見るのは極端でしょう.しかし,困難な問題を解決するには,「いきいきと学ぶ民主主義」を実現する政治家を増やすことだ,と私は思います.

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