IPEの果樹園2014
今週のReview
11/10-15
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世界金融緩和 ・・・ユーロ圏の経済政策 ・・・世界秩序の模索 ・・・ベルリンの壁崩壊後 ・・・アメリカ中間選挙 ・・・ポーランド・ユダヤ人歴史博物館 ・・・アメリカを超える中国 ・・・日中外交
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l 世界金融緩和
FT October 31, 2014
Farewell to the Fed’s QE3, a
monetary job well done
今週,FRBは,大いに論争となったQE3を静かに終わった.
アメリカ連銀とイングランド銀行の過激な金融緩和は,まだ世界中で受け入れられてはいない.東京では,日銀がその独自のQEを拡大した.インフレ目標を21か月も下回っているが,ECBはまだQEを行わない.
QEをしなかったらどうなったか,正確にはわからないが,連銀とイングランド銀行は成功し,ECBは疑わしく,日銀は間違った,と思われている.アメリカは,大恐慌の専門家であるバーナンキが連銀議長としてQEを採用した点で幸運だった.ハイパーインフレになる,と警告し,通貨価値の堅持を唱える批判的主張は完全に間違いだった.QEは,不況金融逼迫,デフレに対する政策であり,インフレを促すものではない.
より優れた批判は,QEが株式やリスク資産の価格を引き上げるため,その保有者である富裕層に有利であり,所得の不平等を拡大する,というものだ.それが証明されたわけではないが,少なくとも,分配を平等化することは深刻な不況の回避には役立たない.
また,増大する流動性がグローバルな金融市場や新興市場に流れ込み,リスクの高い投資を増やして,次の危機を準備する,という批判もある.そのような影響は生じるが,それを抑える政策手段を各国は持っており,資本流入規制,金融監督・規制の強化,財政的な引き締め,を行うべきだ.他方,連銀がアメリカ国内の不況を無視して,他国のためにQEを放棄することはない.
アメリカ連銀は,金融危機が大恐慌に転嫁するのを阻止する点で,重要な役割を果たした.
NYT OCT. 31, 2014
What the Bank of Japan’s Surprise
Move Means for the Global Economy
Neil
Irwin
アメリカ連銀は量的緩和を終えたが,日銀は金融緩和のペースをさらに強め,債券を年間80兆円まで購入し,通貨供給を増やす,と発表した.アメリカとイギリスで中央銀行による紙幣増刷の時代は終わったが,日本ではそれが生き続け,そしてユーロ圏でも始まるかもしれない.
Bloomberg OCT 31, 2014
Bank of Japan's Money Can't Match
China's Engine
By
William Pesek
安倍晋三は日本を元気にする新しいエンジンを探している.明らかに,一つあるのに,安倍はそれを拒む.
構造改革しか,日本を持続的な成長に乗せる道はない.しかし,その最大のエンジンは,中国だ.
l 移民流入阻止
The Guardian, Tuesday 4 November
2014
Now is the time to slow down
immigration
Paul
Collier
右派は移民流入の恐怖を誇張する.左派は移民の経済的利益を主張する.しかし,現在の移民が持つ穏当な利益を支持することと,これ以上の移民流入を抑えることとは,矛盾しない.
右派のUKIPは,移民流入の不安を,EUから政策の自由を取り戻す主張に結び付ける.それをEU離脱はできない,と反対しても,庶民に対するエリート主義として反発を強める.このリンクを,左派が打破するべきだ.
かつて,中国との国交を回復できたのは,右派のニクソンRichard Nixonが「黄禍論(アジアからの貧しい移民が賃金を下げる)」の神話を打破したからだ.今,移民に対する開放政策の神話を打破するのは,左派である.
l ユーロ圏の経済政策
VOX 03 November 2014
Fixing Europe in the short and long
run: The European Federal Institute
Luigi
Guiso, Massimo Morelli
ヨーロッパには一石二鳥の政策が求められる.すなわち,現在の景気停滞を解消する.将来のユーロ危機を回避する.
そのために,ユーロ圏諸国の財政を部分的に移転させる制度,European Federal
Institute(EFI)を設立する.EFIは,ユーロ圏の不況に対して,参加諸国が刺激策に必要な融資を行う.すなわち,EFIから融資を受けた分を,各国は減税する.EFIに対する債務は,それに応じて,各国がその財政(徴税と支出の権限)を連邦財政に移転することにも合意する.
EFIが財政再建を実行するから,ドイツなどの黒字国は,赤字諸国が財政再建を実行しないという懸念によって一時的な刺激策に反対することはなくなる.EFIは,ユーロ圏連邦財政への移行を実現する.
景気変動を繰り返す中で,次第に,各国の財政規模は縮小し,連邦財政が成立する.EFIが安定化に責任を持つから,財政赤字は全体として増大しない.EFIが赤字国への公共投資を融資するときにも,連邦財政への移行が進む.
新しいEFIの連邦財政とその安定化を監督するのはヨーロッパ財務省である.ヨーロッパ財務長官が,もしドイツ人であれば,北欧諸国の財政再建に対する不安は解消するだろう.同時に,EFIを通じて,ユーロ圏の不況は迅速に財政政策で緩和され,財政規律も強化される.
l 世界秩序の模索
Project Syndicate OCT 31, 2014
Governing a World Out of Order
ANNE-MARIE
SLAUGHTER
われわれは,平和を維持し,諸国が合意したルールに従って行動するような,国際秩序を発展させることができるか? と,キッシンジャーHenry
Kissingerは新著で問う.しかし,その問いは間違っている.
Kissingerは,インドやブラジルのような新興諸国とも,安定したグローバルなバランス・オブ・パワーができると考える.ウェストファリア型の多元論は,各国が国内の異なる原理を許容することに重要な意味がある.Kissingerは,国家間関係を重視し,戦争の回避を主張する.
しかし,今日,数百万人の難民を生み,あるいは殺害する脅威とは,国家間の戦争ではない.感染爆発,気候変動,テロ・犯罪ネットワークが,グローバルな脅威なのだ.例えば,ロシアのウクライナ侵攻は3000人以上の死者をもたらしているが,エボラ・ウィルスの感染は100万人に及ぶと予測されている.HIV・エイズによる死者は3600万人だ.その数は第2次世界大戦の犠牲者よりも1000万人も多い.
FP NOVEMBER 3, 2014
A New Type of Great Power Dialogue?
BY
HUGH WHITE, CHEN WEIHUA, WU JIANMIN
11月10日から12日にかけて,オバマ大統領は訪中する.オバマと習近平とは,どのような会話をするべきか? 世界第1と第2の経済大国が,高まる戦略的な対抗関係を平和的に管理し,協力関係を深めたい.
オバマはこれまで,国際関係に対する中国の挑戦を受け入れていない.アメリカは現状維持を求め,「アジア旋回」は中国に対する現状維持へのコミットメントであった.しかし,習近平は「新しい大国間関係」を求めて,その主張を強めている.それが何であれ,オバマの答えによっては米中間の関係を2国間で見直す始まりになる.
米中は,何としてでも,ツキディデスの罠を回避しなければならない.
l ベルリンの壁崩壊後
Project Syndicate NOV 4, 2014
Poland’s New Golden Age
GÜNTER
VERHEUGEN
ポーランドは,ヨーロッパの政治的・経済的な復活を示すシンボルである.民主化して15年,NATO加盟の15年,EU加盟の10年という,3つを記念する年に,元首相Donald Tuskは欧州閣僚会議の議長になった.EUを担う重要な国として認められたと言える.
ポーランドは18世紀に分割されて地図から消え,20世紀には2つのイデオロギー,ナチズムとスターリニズムの犠牲になった.今世紀の初めには,まだ多くの点で後進的であった.
しかし,ポーランド人は犠牲を払って国家を復活させ,ヨーロッパの新しい時代を開いた.ポーランドの連帯がなければ東欧の民主化もなかっただろう.EUの東方政策を担う国として,ポーランドこそがふさわしい.
NYT NOV. 6, 2014
How the Berlin Wall Really Fell
By
MARY ELISE SAROTTE
ベルリンの壁は,1987年にレーガン大統領がソ連の指導者に“tear down this wall”と要求したから崩壊した,とアメリカ人の多くは思っている.それは間違いだ.
どう見ても本当の理由を誤解させるし,最悪の場合,アメリカの指導者は「ベルリンからバクダッドまで」どこでも行くことができる,という思い込みを助長する.地域の複雑な現実を無視するものだ.
真実の理由は,東ドイツの官僚たちが犯した一連のミスであった.しかも,それを取り消す前に,民衆たちは失敗に反応して,変化を止められないものにした.民衆は政府の無能さを確信していたのだ.
東ドイツ市民の日々の反対や,西側の自由が発する魅力は,それを助けた.
l アメリカ中間選挙
NYT NOV. 4, 2014
The World Is Fast
Thomas
L. Friedman
中間選挙はナンセンスだった.これほど多くの金を費やして,流動的な将来についてほとんど何も考えていない.まじめな選挙なら,われわれは議論したはずだ.われわれが直面する最大の挑戦にどうこたえるべきか? すなわち,労働者,環境,制度を回復することだ.
なぜなら世界は変化が速いからだ.市場(グローバリゼーション),母なる自然(環境問題),ムーアの法則(マイクロチップの処理速度).それらが同時に,急激に台頭している.あるいは,三つの「気候変動」だ.
われわれは,人々を包括する,回復力の優れた制度を築くことで,これらに対応するしかないだろう.健康保険制度や,企業・就労のための生涯教育,能力のある物を惹きつける移民政策,持続可能な環境,債務の管理,新しいスピードに応じたガバナンスだ.
いつかわれわれは急速な変化を緩和し,機会をつかみ,適用するための方法について真剣に議論する選挙を実現するはずだ.
FT November 5, 2014
Washington gridlock cannot get any
worse
Jacob
Weisberg
バラク・オバマが就任してから,議会で共和党は単純な戦略により大きな勝利を得てきた.すなわち,大統領が指示することにはすべて反対し,どんな問題についても大統領を責め,オバマを選挙の焦点にした.そして2010年に下院を,2014年には上院を,共和党が制した.
民主党の敗退は,ワシントンの分裂を深め,一層の政治停滞をもたらす,と思うかもしれない.しかし,政治情勢はもうすぐ好転するだろう.
第1に,共和党はワシントンの成果に責任を負うようになった.
共和党が議会の少数派であれば,何か良いことがあれば,それはオバマに有利に働く,と考えるのが合理的だった.景気回復が弱くても,債務上限で政府を機能マヒにして,苦しむのはオバマだった.しかし,この先,共和党員の誘因は変化する.果てしなく反対するより,双方に利益のあることでオバマと協力する方が意味のあることだ.
それは,1994年,議会の両院を共和党が支配したとき,クリントン大統領が直面したのと同じ論理である.彼らは共通の基盤を探すことに成功した.
第2に,共和党内の力学が変わる.
今年までは,共和党議員の不安は,オバマに協力的だとティー・パーティに非難されることだった.しかしこれからは,大統領選挙を意識して,富裕層の献金はティー・パーティから離れ,共和党上院の実力者たちに集まるだろう.民主党案がより多くの支持を得られるなら,妥協は望ましい.
最後に,超党派の合意が最終局面では成立する.
選挙は2つの政党のゼロサム・ゲームだが,政治の全体はそうではない.選挙と選挙の間,民主党と共和党が互いに罵倒を繰り返せば,共通の基盤を見いだせず,現職の政治家たちが尊敬されなくなる.口論と行き詰まりの文化がワシントン全体への侮蔑を強め,あらゆる方向から挑戦を受け始める.
共和党議員たちは,通商や教育の分野で,オバマとの共通基盤を見つけるだろう.
FP NOVEMBER 5, 2014
This Man Is an Island
BY
DAVID ROTHKOPF
オバマ大統領は,ニクソン以来,最も孤立した大統領として任期を終えるだろう.それは彼自身が約束したことだ.
オバマが大統領として,その選挙運動を始めたときから,彼の孤立は始まっていた.選挙は最初から,民主党でも,彼の側近たちでもなく,国際関係でもなかった.それは一人の男,その成果も,使命も,存在理由も,全て一つであった.そして,就任後は,全てが逆に作用した.
オバマはその政治的・政策的なナルシシズムの犠牲になった.それは彼個人の悲劇ではなく,アメリカにとって,そして,世界におけるアメリカの役割にとって,良くないことだった.
彼の弱点や無能さは火曜日の選挙結果に示された.それゆえ次の2年間も,アメリカはその大統領と同じように,ますます国際的に無能になっていくだろう.
l ポーランド・ユダヤ人歴史博物館
The Guardian, Saturday 1 November
2014
A small miracle in the tortured
history of Polish-Jewish relations
Timothy
Garton Ash
ポーランド・ユダヤ人歴史博物館Museum of the History of Polish Jewsには,歌声がこだまする.“Mir zaynen do!” (“We are here!”)
博物館に入ると,モーゼが紅海を割ったような,ねじれた谷の,巨大な石の彫刻を通り抜ける.大理石のケースには,ポーランド・ユダヤ人1000年の歴史が,マルチメディアで示されている.それはホロコーストを含むが,ホロコーストは始まりでも終わりでもない.
第2次世界大戦後のポーランド・ユダヤ人の痛ましい関係を少しでも知る者にとって,この博物館は小さな奇跡である.
もし私が西側でポーランドに関する普通の会話に加わり,それがポーランドのユダヤ人差別に向かうたびに1ドルをもらえたら,私は億万長者になっているだろう.しかし同様に,第2次世界大戦前・戦中・戦後の,ポーランドのユダヤ人差別について身をよじるような,憤った否定を,聴いたり読んだりするたびに1ユーロをもらえたら,その場合も私は金持ちになれただろう.
今,私たちは歴史,文化,個人の混じり合った関係の中で,想像できないような好ましい位置にある.差別する者が差別される.犠牲者が,また誰かを犠牲にする.第1に,私たちは,互いのステレオタイプを超えて話し合うために,歴史の複雑さを理解しなければならない.第2に,ポーランドは25年前に自由を得て,その後の素晴らしい発展を実現した.それはイスラエル社会が,ユダヤ人は犠牲者であるとともに,パレスチナ人を犠牲にしている,ということと同じだ.彼らは,まだ,その真実を直視できない.
l アメリカを超える中国
Project Syndicate NOV 6, 2014
China’s Questionable Economic Power
JOSEPH
S. NYE
PPPで測った中国のGDPがアメリカを超えても,一人当たり所得水準はまだ4分の1であり,その経済構造も全く異なる.中国の金融市場は閉ざされ,未発達なために,4兆ドルに近い外貨準備を持っても,アメリカにとって重要な脅威にならない.中国の企業は世界的なブランドを持たず,その技術は欧米に頼っている.
中国には国内の所得格差や環境破壊,社会保障,など,多くの問題がある.一人っ子政策の結果,今後の人口変動が大きな負担となる.一人当たり名目GDPが7000ドルに達し,民主化は抑えても,ますます強まる政治参加の要求は,韓国や台湾のように,多くの中所得国が経験したことだ.
GDPだけで中国がアメリカを抜いたと考えるのは間違いだ.
l 日中外交
FT November 6, 2014
China and Japan: Eyes on a
compromise
Demetri
Sevastopulo and Jamil Anderlini
船橋洋一は考える.日中関係は,かつて日清・日露戦争で日本がアジアの指導的な地位を得た時代と同じくらい,重要な転換を経験しつつある.中国の30年間の成長に,日本人の意識は適応できない.
宮家邦彦の意見では,中国に比べて,日本の外交はアメリカとの同盟だけでなく,アジア諸国との多角化に成功した.
天安門事件で共産党の正当性が動揺した後,愛国教育が行われた.その焦点は,外国勢力による「100年の恥辱」であり,特に,反日に向かった.
しかし,習近平は主席になる前に4度も日本を訪問し,副主席のときに天皇にも会った.親日派であると思われていた.しかし,国内の権力確立の過程で,日中戦争の歴史教育を強化した.
小泉純一郎が靖国神社に繰り返し参拝して,日中関係は悪化した.中国政府は,安倍政権を,軍国主義の歴史を積極的なものに見直す,リビジョニストとして批判し続けている.
日本には経済問題がある.産業界は日中関係の改善を求めている.中国も,APECサミットの主催国として,日本との対立は避けたい.日中双方が,言いたいことを主張した,という均衡状態が成立するかもしれない.
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The
Economist October 25th 2014
The
world’s biggest economic problem
The
danger of deflation: The pendulum swings to the pit
Charlemagne:
Gummed up
Immigration
and politics: The melting pot
Cheaper
oil: Winners and losers
(コメント) ユーロ圏のデフレを強く懸念した内容の冒頭記事です.しかし,それ(デフレの悪循環論)が特に優れているとは感じません.ユーロ圏のドイツ,フランス,イタリア,ギリシャ,などが互いの政策を嫌い,ECBの金融緩和は効果を失うということを指摘します.どちらも,踏み込み不足です.
イギリスの移民問題も,原油価格の下落も,異なる利害,異なるイメージを駆使して,その利益集団と対立を分析します.政治はそうやって,常に,舞台そのものを変えていきます.
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IPEの想像力 11/10/14
先週末の日経新聞を見て,日本がいよいよ動き出したような印象を持ちました.それは次の3つの言葉からです.
日中首脳会談,原発再稼働の同意,そして,日銀追加緩和決定の舞台裏,です.
黒田総裁がウーバーに感銘を受けたわけではないと思いますが,あたかも世界の通貨供給を担うかのような,日銀の通貨供給拡大に驚きました.そして,インフレ期待を創り出すことに執着した黒田総裁の判断を危ぶむ,東洋経済ONLINEの小幡績「黒田総裁は天才かつ秀才だが、間違っている」を興味深く読みました.
アメリカ連銀が量的緩和QEを始めたころ,P. Krugmanや, B.
Eichengreen,そして,M. Wolfも,これを支持しました.世界金融危機を世界不況に転化しないための,(世界中央銀行に代わる)金融緩和である,と考えたからです.しかし,長期の成長を維持する改革や新しい規制は別に必要でした.好ましくない副作用として,金融資産のバブルや所得分配の不平等化も指摘されました.
私は,そのとき,ゼロ金利で民間貯蓄を吸収し,政府が公共投資をするべきだ,という意見や,アメリカからドルが流入する新興諸国,特に,ドルに対して為替レートを安定化する中国は,これをインフレにつながると非難するべきではない.なぜなら国際金本位制の時代と違って,変動レート制によるなら,(そして,中国も人民元を切り上げることで)自国でインフレを解決できる(それは,市場を通じた国際政策協調を導く),という論説を興味深く読みました.
しかし今回の日銀の追加緩和で,G2(米中協力)に代わって,G2(日米同盟)が世界金融政策を実現した,とは思いませんでした.中国が,国内の改革や人民元国際化の目標に従って,人民元の安定的な増価を維持し,対外不均衡を調整したことはG2戦略合意です.しかし,日本経済はどうか? 金融緩和をさらに拡大し,円安をさらに促すことで,日本は望ましい構造調整を実現しているのか? まして,アメリカ連銀に代わって,日銀が世界金融緩和を担えるのか?
確かに,デフレの解消や世界の金融市場に不安があること,石油価格が下落したことで,一時的に,日銀の目標と世界情勢は一致したかもしれません.しかし,その帰結として,日本経済の脆弱性が増すと思います.
安倍政権が,日中関係の修復や,構造改革,社会保障制度の改革,TPP交渉を遅らせてきたのは,政権への批判を受けることを嫌うからでしょう.
他方,日銀が金融緩和をさらに劇的に行うことは,円安や株高を即座に実現し,輸出企業の業績や経営者たち,株式などの金融資産を保有する富裕層と高齢者たちに,利益を振りまく(政府の支持率を高める)ことになります.さしあたり雇用や賃金が増えなくても,それは政権の責任と思われていないから,(デフレ退治後の上昇を訴えて)無視する,というのが政権幹部の判断ではないか,と思いました.(今,消費税引き上げの見送りと年内の解散,選挙が議論されています.)
国内投資・消費より金融市場や輸出に頼る回復は,根本的に,脆弱です.それこそが日本の外交を弱めていると思います.日本が国際社会で独自の地位を示したいなら,こうしてはどうでしょうか?
l 金融政策に過度の負担をかけず,政府と与野党は積極的な財政政策によるデフレ脱却をめざす.
l 消費税を20%に引き上げる方針を基本に,医療保険・社会保障支出の効果的なシステム構築を超党派の政治課題にする.
l 明確な新しい基準を立て,低所得者,子供を育てる若い世代,資産を持たない高齢者,などの生活・就労支援,若者の就労・再教育,高等教育・留学のための奨学金,を一気に「量的・質的に拡大」する.
l 原発廃止に向けて,地熱や太陽光発電によるエネルギー開発・送電システムを構築するため,政府がインフラ投資する.
l 「アベノミクス」という党派的,俗人的な呼称をやめ,「日本再生プラン」のような真摯な国民的取り組みを,多分野で一斉に広める.
こうした転換を進めるために,日本は野党の圧力を必要としています.安倍政権にとって「野党」があるとしたら,それは中国政府でしょう.中国は日本の景気に影響を与えます.中国は安倍首相の政治的な姿勢に疑問を示し,その信頼性をチェックできます.かつてアメリカ政府が自民党政権の「外圧」であったように,中国は日本の政策を,ある程度,政治的に取引できるはずです.
それは,「帝国」や「従属」というより,EUも示すように,国家間の外交として他国のガバナンスに関与する仕組みなのです.安倍首相の偏った政治的センスと,日本経済の脆弱性が,それを損なってきました.
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