IPEの果樹園2014

今週のReview

10/6-/11

 

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西側文明と秩序の戦い ・・・国家とナショナリズム ・・・イスラム国家との戦い ・・・秩序ある社会 ・・・ヨーロッパの不況 ・・・香港民主化運動の拡大 ・・・所得格差の弊害

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  西側文明と秩序の戦い

NYT SEPT. 25, 2014

The Good Order

David Brooks

作家や芸術家、創造的な仕事を果たす者たちは、厳しい規律や単調といえる毎日の平凡な日課を守るものだ。

コミュニティーも反映し、協力するために、秩序を必要とする。カオスと無秩序は、不信と引きこもりをもたらすから。各地の指導者が果たす主要な仕事は、安全保障のインフラを提供することだ。道路、警察、正直な判事、規律ある学校。

世界もまた秩序を必要とする。すべての国が従う、一揃いの規範と平凡な日課。あなたの自由や、信頼、民主主義、自主性は、もしプーチンのような殺し屋が境界を越えて蛮行を広め、イスラム国家のような怪物が無辜の人々を殺戮し始めるなら、失われてしまう。

世界の超大国というのは、難しい、楽しくない義務を意味する。アメリカは法の支配を確立するために連携を呼びかける義務がある。狼たちを撃退し、秩序を守るのだ。

オバマ大統領が、今秋、国連総会で行った演説は、彼の最高の演説の一つであった。そこには厳格なリアリズムと高い理想主義とがミックスされていた。

演説で、オバマはISISやプーチンのような敵に対抗する世界秩序を守ると主張した。軍事的脅迫には軍事力で対抗しなければならないと認め、もし威嚇せず、理性的であるだけなら、権力に飢えた者たちを宥和できない、と説いた。

グローバルな文明圏が存在するためには、詩人たちの心にも規律があるように、戦いと強制が必要なのだ。

NYT SEPT. 27, 2014

Who Had It Easier, Reagan or Obama?

Thomas L. Friedman

1986年、レーガンはアイスランドでゴルバチョフを説得して、冷戦を平和的に終わらせることに成功した。レーガンが優れていたのは、よく言われるように、スター・ウォーズ計画を進めたことではない.それは,ゴルバチョフが過去のソビエト指導者と根本的に異なったタイプであることを、諜報機関がそれを示す前に、理解したことだ。

近頃、オバマもレーガンのような指導者であればよかったのに、という言葉をよく聞くが、ある意味で、オバマはレーガンよりも困難な世界に直面している。

数千発の核兵器を持つ超大国を相手にしたレーガンの世界は、同じ西側の文明に属していた。冷戦とは,2つの異なるシステムが、支持を広げるために軍事・経済援助を与え、代理戦争を行うものだった。米ソはたとえ戦争でも管理下に置き、電話できる相手がいた。

レーガンの相手は、のちにノーベル平和賞を得たゴルバチョフであった。ベルリンの壁が倒れた時、東の人々は西側の文明を回復したのだ。彼らは自分たちを,異なる文明であるとか、コミュニストとして自覚していなかった。誘拐された西側文明人とみなしていたのだ。

オバマは違う。中東こそがオバマを消耗させた。そこで壁を倒した人々は、その習慣や経験が、民主主義と市場システムに向かうことはなかった。イスラム主義、部族主義、宗派争い。電話に出る相手はいない.

それは、西側の価値や制度にしばしば敵対的な文化を持つ、戦争によって心を傷つけられ、分裂した文明に対する、世界最大の国家再建プロジェクトである。


l  国家とナショナリズム

NYT SEPT. 25, 2014

Fostering National Identity but Not Nationalism

By SERGE SCHMEMANN

スコットランド独立の住民投票はEUを脅かすナショナリズムであったのか? いや、スコットランドも、カタルーニャも、ウクライナも、反EUの運動と敵対している。大きな国家から離脱しても、EUの統一市場とNATOは必要だ。

2次世界大戦後、ヨーロッパはナショナリズムを克服して、統一を求めた。しかし、同じ西側諸国が、部族的な武力衝突の解決策として、ソ連やユーゴスラビアの分裂を支持した。

ナショナリズムは、民族の歴史、文化、言語、神話を混ぜ合わせた、良くも悪くも、人々のアイデンティティを形成している。独裁者と戦うときも、「外部の者」を憎むときも、人々は団結する。それは常に合理的とは言えない。

EUは民族のアイデンティティを否定しなかった。むしろ、ヨーロッパの人々は多くの異なる文化、多くの差異を、自分たちの強さであり、魅力と考えている。確かにポピュリスト政党は増加した。しかし、経済危機、緊縮財政、他の地域における騒乱がもたらす移民増加、など、デマゴーグたちに最適な条件があるからだ。

しかし、紛争を抑えて、経済危機は解決できるし、ユーロ圏は生き残る。スコットランドの多数派は、それを支持したのだ。


l  イスラム国家との戦い

FT September 26, 2014

Politics not bombs is the key to beating Isis

By David Gardner

ISISはスンニ派の至上主義者である。イラクで権力を失ったスンニ派の勢力を吸収した。

さらに、ISISは地域の宗派争いを利用して拡大することに成功した。イラクとシリアだけでなく、周辺諸国に拡大する兆しがある。アラビア湾岸から地中海、アフガニスタンやソマリアまで、各地の形骸化した国家を侵食している。

このエスニックと宗教による拡大勢力を抑えるには、信頼できる制度に依拠した地域的権限移譲が必要である。その場合だけ、石油や天然ガスのような資源を共有して、中央政府と地方政府の安定化を図ることができる。

スンニ派のサウジアラビアとシーア派のイランとがデタントを合意することが重要だ。

FT September 28, 2014

Obama’s Faustian pact with the Saudis

Edward Luce

望ましくない同盟国とともに戦争を始める。ISISに対するオバマが始めた戦争には、5つの専制支配体制が含まれ、そのうちの4つは王政である。彼らは反政府派を弾圧し、かんせつに、あるいは、うかつにも、ISISやアルカイダのようなテロ組織を支援している。そしてアメリカを支持して長期的な利益を得る。

そのファウスト的な契約の中心にはサウジアラビアがいる。911のハイジャック犯20人中の19人はサウジ国籍であった。今、状況は911が起きた時とそっくりだ。

オバマは連携を広げたが、その原因となっている彼らの過激なSalafi(イスラム原点回帰運動)を抑えることなく、その症状を抑えるだけだ。アメリカは1980年代から中東への介入を繰り返したが、ソ連やサダム・フセインを倒しても、その後の過激派の運動拡大によって苦しんでいる。今回が違うとは思えない。

しかも、過去の同盟は単純であった。敵の敵であったから。今はそうではない。シリアでISISの敵であるアサド政権は、アメリカの敵である。

サウジアラビアはアメリカと組んで、ISISへの空爆をアサド政権にも向けたいだろう。イランは核交渉を進めなければ協力しない.しかし,アメリカと組む条件として、サウジアラビアはアメリカとイランとの合意を阻止したいだろう。しかも、サウジアラビアはエジプトで軍事政権の誕生を強く支持し、イスラム各国の民主化を阻んでいる。

中東では若者人口が膨張している。しかし、彼らに仕事を与える経済成長は、その支配者たちの自由に対する抑圧姿勢によって窒息し、若者たちがISISの勧誘に応じるのを助けている。

確かにオバマは国連演説で、そのリベラルな介入主義の姿勢を厳格に示した。テロの温床となっている宗教学校や、資金の流れ、イデオロギーを断つべきだ,と主張した。

では、サウジアラビアをなぜ非難しないのか? それは,サウジアラビアがアメリカの同盟国であるからだ。


l  秩序ある社会

FT September 26, 2014

Francis Fukuyama’s ‘Political Order and Political Decay’

By David Runciman

秩序ある社会を実現するには,3つの要素が必要だ.強い国家,法の支配,民主主義.しかもこれらの要素は正しい順序で実現しなければ安定しない.民主化だけでは失敗する.

Francis Fukuyamaは,冷戦終結を「歴史の終わり」と呼んでスターになったが,民主主義が停滞や腐敗に苦しむことを認めた.各地で,不平不満を政治に持ち込むことが民主主義を停滞させている.そして政治が内向化・再部族化する.アメリカの制度で最も信頼されているのは,軍やNASAであり,最も信頼されないのが議会である.


l  ヨーロッパの不況

Project Syndicate SEP 26, 2014

Europe’s Austerity Zombies

JOSEPH E. STIGLITZ

緊縮策は失敗した.しかし,支持者はまだ緊縮が成功したと主張している.経済は崩壊しなかった,と.

しかし,景気回復はまだ実現していない.GDPや雇用は失われたままだ.多くの国で若者たちが熟練形成の機会を奪われた.ドイツは緊縮策を他国に求め,その経済だけでなく政治を弱体化した.

3年前,フランスの有権者は緊縮策を拒んだ.しかし,再びドイツの求める緊縮策が実施された.社会党政権というだけで,実際は,法人税を下げ,政府支出を削った.しかし,十分な需要がないときに,企業が投資するはずがない.


l  香港民主化運動の拡大

FP SEPTEMBER 28, 2014

A Turning Point in the Fight for Hong Kong

BY RACHEL LU

2014928日を,将来,人々は香港の歴史で記憶すべき日とするだろう.この非政治的な都市が明確に政治的に覚醒し,数万の人々が民主主義を要求したからだ.

28日,学生たちが道路を封鎖してから,事態は驚くべきスピードで悪化した.暴徒鎮圧部隊が大挙して到着し,早い夕刻の街中に集まった群衆に向けて催涙弾を発射した.警官隊は,解散しなければ発砲する,と群衆に警告した.デモ隊は傘を広げて催涙スプレーを避け,ゴーグルとサランラップでガスマスクを作った.

デモ隊は,学生や,中心部占拠運動,市民的不服従,など,異なるグループが混生してできたものだ.2017年香港調整長官の選挙に自由な立候補を求めていた.しかし、中心部占拠には反対も強く,香港金融ビジネスや市場に対する評価を損なうと心配していた.いくつかの調査で,市民の半数以上が運動を支持せず,支持者は少数だった.8月には,立候補者の制限を受け入れる意見が過半数であった.

しかし,28日の事件で,人々の意見は抗議デモを支持する側に大きく変化した.香港を戦場のように変えた警官隊の行為は,住民たちを不安にした.香港の選挙が,1200マイルも北の北京で決まることに,人々は不満だった.抗議デモで北京の決定を変えることはできないだろう.しかし,彼らは選挙をボイコットし,街頭を占拠できる.「私は黙っていることができない.香港が死んでしまう.」と,ソーシャル・メディアのメッセージが連鎖した.

特別区を統治する北京は,ますます困難な事態を招いている.

FT September 29, 2014

China’s biggest political challenge since Tiananmen in 1989

Gideon Rachman

中国政府は1989年の天安門事件以来,最も難しい局面にある.弾圧するべきか,屈辱的な撤退をするのか?

しかし,2014年の香港と1989年の北京には大きな違いがある.中国ははるかに豊かで,強力な国家になった.また政府は,ウォール街占拠運動がそうであったように,香港中心部占拠運動も,次第に鎮静化すると考える.さらに,1989年に比べて,香港のデモは解決のための余地が大きい.香港は,「12制度」の名目で,植民地から返還された,本土とは異なる特別行政区である.

北京の知的な反応としては,香港を政治改革モデルの事件として利用する,という考え方だ.本土で直ちに改革を求められることなく,実験ができる.もし成功すれば,これを政治改革のモデルとして,本土の地方都市レベルから,漸進的に導入すればよい.

残念ながら,北京の中央政府は逆の考え方である.彼らは国内で民主化が広まり,共産党が軽視されるリスクを冒す気はない.抗議デモが鎮静化しなければ,北京は暴力的な介入に踏み切る.

そうなる必然性はない.1997年の返還以降,北京政府の介入を恐れる声はあったが,香港市民たちは,報道の自由や独立した司法制度,という,本土に許されていない自由を享受し続けた.民主化運動の活動家であるMartin Leeは,4年前,その姿勢に「うれしい驚き」を示した.しかし,今は違う.北京はそれを否定しようとしている.

おそらく,北京の共産党政府はより自信を持ち、攻撃的になり,寛容さを失ったのだろう.しかし,それも本土の反応がどうなるかによって変わる.政府は情報を遮断し,本土に運動が波及することを恐れている.デモが続けば,ナショナリストの新聞がすでに示すように,香港市民は本当の中国人ではない,という敵対的な感情を強めるかもしれない.

北京の次の選択が正しいものであることは,香港にとって,中国にとって,世界経済にとって,国際政治の安定性にとって,決定的に重要である.

The Guardian, Tuesday 30 September 2014

China is Hong Kong’s future – not its enemy

Martin Jacques

民主化運動は自由な普通選挙を要求するが,香港住民の感情はもっと複雑だ.

忘れてはならないが,香港は過去155年間,第1次アヘン戦争以来,中国から奪われ,イギリスの植民地となっていた.28人の行政長官は6000マイルも離れたロンドンから次々に派遣されていたのだ.香港は法の支配と抗議する自由を得ていたが,イギリスの支配下で民主主義はなかった.

1990年に合意された基本法の下,2017年に普通選挙を約束したことは,高度な革新であった.特に,西側の人々には見慣れないものだ.香港を50年間,「12制度」の下で,その法律と政治システムを維持する,というのだ.香港は中国の主権に含まれるが,本土とは異なるシステムを許された.それはドイツの再統合を例に考えても,異質である.

しかし,中国は1つの民族国家であるというより,1つの文明圏・国家である.これほど巨大な国家を,十分な柔軟性なしに統治することは不可能だった.その異なる歴史から,“one civilisation, many systems”という発想は生まれている.

香港と中国との関係は急激に変化した.当初,香港は中国本土よりも豊かであり,自分たちを西側の一部と考えた.そして,貧しい本土の人々を見下すような態度を示した.香港は,中国の成長する市場にアクセスするために必要な,西側の企業や銀行の窓口であり,投資や貿易が香港を経由して行われた.その結果,香港は中国の成長によってさらに繁栄し,慢心と横柄さを示したのだ.

しかし,中国が急速に豊かになって,香港はその地位を失った.もはや中国に進出する企業は,香港ではなく,北京,上海,広東に向かう.金融センターとしても貿易港としても,香港は第1位ではなくなった.香港への旅行者も本土からの裕福な中国人が多くなり,香港住民は怨嗟を抱くようになった.しかし,彼らも中国が彼らの未来であり,中国を失うことはできない,というのが真実であることを知っている.

こうした複雑な感情が,普通選挙の論争と抗議デモの背景に存在する.香港は分裂しているのだ.約半数は北京の認めた提案を受け入れた.それは歴史的に見て前進であり,実際的に(北京の決定を)変えようがないからだ.

中国共産党に敵対する人物が行政長官になることを,北京は受け入れない.しかし,事態を打開する手段がない以上,北京は現地の秩序回復に直接介入しないだろう.北京は,住民たちに,自分たちの主張を,もっと効果的に届ける必要がある.

Bloomberg OCT 1, 2014

Hong Kong's Revolt Will Probably End Like Moscow's

By Leonid Bershidsky

香港の「雨傘革命」とモスクワやキエフとの類似を指摘するのは当然だ.

プーチンと同じように,北京はアメリカの陰謀を示唆する.通信手段の民主化,リボン,自主的な清掃,ソーシャルネットワークの反響.

指導者たちが排除されれば,その組織は弱い.人々が街頭デモに参加したのは,政府によって騙されたと思ったからだ.普通選挙は偽物だった.

政府は法令を遵守させる形で弾圧する.2011年と2012年,モスクワは慎重に行動し,最も目立つ活動家だけを拘束し,すぐに釈放した.プーチンは何もせず,運動が過激化し,人々が参加を止めるのを待って,徐々に弾圧を強化した.

キエフでは,ヤヌコビッチが学生たちを暴動鎮圧部隊に襲撃させ,抗議活動が再燃した.暴力はエスカレートして,2か月間の抗議活動がモロトフ・カクテルを降らせたのだ.ヤヌコビッチはロシアに逃げ出した.

香港の行政長官と北京はプーチンのゲームを進めている.催涙弾を使用したせいで抗議デモが再燃し,キエフに似た事態が起きた.しかし,もし鎮圧できなければ,北京は700万人が参加してもデモを抑える力を持っている.

香港の人々はモスクワとキエフとの間で選択を迫られているが,その結末はモスクワになりそうだ.


l  所得格差の弊害

FT September 30, 2014

Why inequality is such a drag on economies

Martin Wolf

ある点を超えると,貧富の差の拡大は,需要の不足や,教育水準の改善が遅れることで,経済の悪化につながる.

アメリカはそれを示している.2013年,上位3%が総所得の30.5%を得る.次の7%16.8%を得る.90%の国民は総所得の半分しか得ていない.1990年代初めから,シェアを増大させたのは上位3%の階層だけである.

アメリカの教育水準の低下は,その長期的な成長率を低下させるだろう.そして,所得格差の最悪の影響は,市民として共有された共和国の理想が失われることだ.富裕層に有利な形に,政治や法律が変えられてしまう.

債務の増大,教育の劣化は,将来における深刻な病因である.

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The Economist September 20th 2014

Xi who must be obeyed

Ebola: Chasing a rolling snowball

South Asia and China: Xi Jinping’s progression

Banyan: Pax Sinica

(コメント) オバマはイスラム国家と戦う一方で,エボラの感染拡大にも米軍を派遣しました.どちらも犠牲となる無辜の民が急速に増えており,アメリカが支持する国際システムを不安定化し,その対応が遅れるほど,回復には多くの時間とコストが必要だからです.

習近平は国民から広く支持され,毛沢東以来の,個人に対する愛着や敬意を高めています.南アジアの島々や小国に多くの貿易や観光客をもたらし,中国からの融資や援助はインフラ整備を加速します.しかし,返済できないとき,その重要なインフラは中国企業が所有するのか・・・?

海のシルク・ロードを称賛し,インドとの投資と貿易を拡大し,上海協力機構(SCO)はロシアとの反西側同盟であったはずが,インドやイランも参加する準備が進んでいるそうです.NATOIMFWTOに代わる,パックス・シニカ(中国の支配による平和)への道が,決して手際よく整理された形ではないけれど,はっきりと現れてきたことに驚きます.

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IPEの想像力 10/6/14

政治的・軍事的に分割された世界は,ますます混乱した秩序に向かいます.

イスラム国家やエボラ・ウィルスと戦うオバマに限らず,指導者たちは内外に向けて望ましい政治秩序を形成するため,積極的な統合戦略を展開します.

ある領域では,「社会的なパワー」を,特定の少数集団が行使します.しかし,強大な権力ほど腐敗する,と言われます.権力は法律に従って行使され,公務員やメディアを権力の介入から守り,権力を行使する者を投票によって選び,任期を限って交代させるべきなのです.

あるいは,硬直した制度・国家では,改革のために外部勢力と手を組みました.

「イスラム国と中東の未来」(フォーリン・アフェアーズ・リポート,2014No.10)において,エド・フサインは,中東地域の秩序(サイクス=ピコ条約)が崩壊し始めていること,若者たちに雇用や起業のチャンスを与えることに失敗して,彼らがイスラム主義集団に流れていること,を指摘します.言語,歴史,宗教を共有していながら,欧米は国家単位で秩序の安定化を図ってきました.真の解決策は,政治・経済同盟を通じた統合のメカニズムにある,と主張します.

中国の場合,支配エリートは統合を維持し,驚くべきスピードで改革を実行しました.市場の力をより多く反映させ,外国企業の参加を国内企業と同じ条件で認め,農村の改善や出稼ぎ労働者の権利を高め,法の支配,民主的選挙,司法の独立,など,政治改革にも,共産党指導部は取り組む必要を認めています.しかし,内部の権力闘争が,改革を制約します.前指導部が新指導部の政策意図を懸念するからです.

引退した共産党の幹部を,各省の上院議員として権力基盤に制度化してはどうか,という提案がFTに掲載されました.中国では,権力の行使がシステムの中で個人と一体化しています.それゆえ,彼らは権力を手放すことで,高い政治的地位による蓄財や影響力が失われ,最悪の場合,新しい権力者によって失脚させられたり,かつての敵対勢力に報復を受けたりすることを恐れます.

同時に,富裕化だけでは共産党の権力を維持できないでしょう.大気汚染,不動産バブル,医療保険などの社会保障,所得・地域格差の是正,教育改革,など,単純な解決策の無い,難しい問題が山積しています.社会的なパワーを行使することの正当性は,ますます選挙や法律,政党間の政策論争によって高めるしかないのです.香港やチベット,ウィグルが示す反政府デモは,選挙の過程に包摂して,むしろ彼らの代表を下院として,ともに改革を推進し,民衆の支持を得るべきです.

政治的支配を正当化するためのナショナリズムや軍事力の行使は,劣った,危険な,解決策です.中国は,両院議会を制度化してはどうか,と思います.

上院は憲法に関する解釈を定め,外交と戦争に関する決議を行い,行政府の各長官を公開で審査・承認し,省単位で長い(例えば10年を2期まで)任期を務めます.

下院は投票によって多数派から首相を選出し,内閣を組織します.議員の定数は人口によって選挙区に配分し,農民と,都市のさまざまな社会集団・階層を代表します.政策論争を通じて,さまざまな党派が組織されます.都市では,「中国を愛する者」たちが,さまざまな政党を結成するでしょう.

連邦制,国家主席,議院内閣制,その他,独自の制度をどのように配置するか,中国の政治改革は国民のエネルギーを民主的制度の下で解放し,経済にも,アジアや世界の秩序形成にも,新しい活力をもたらします.

エド・フサインは,民主的改革派の理想を述べています.

「問題を軍事的に解決できた時代はすでに終わっている.」「外交,ソフトパワー,同盟諸国の連帯,穏健で正しいイスラム勢力への支援,そして中東の繁栄に向けて道筋とモデルを示すこと」が解決策である,と.

・・・植民地時代にヨーロッパの帝国が築いた秩序は崩れ,もっと一体性のある,自分たちの文化や価値を実現する統合化が,欧米との自由貿易による繁栄とともに,暗い,悪魔のような過激主義のイデオロギーを打倒できる.

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