IPEの果樹園2014

今週のReview

10/6-/11

 

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西側文明と秩序の戦い ・・・国家とナショナリズム ・・・イスラム国家との戦い ・・・秩序ある社会 ・・・ヨーロッパの不況 ・・・香港民主化運動の拡大 ・・・プーチンの戦争国家 ・・・アフガニスタンの新体制 ・・・ドイツの安全保障 ・・・裕仁の日記公開 ・・・所得格差の弊害 ・・・中国の転換

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  西側文明と秩序の戦い

NYT SEPT. 25, 2014

The Good Order

David Brooks

作家や芸術家、創造的な仕事を果たす者たちは、厳しい規律や単調といえる毎日の平凡な日課を守るものだ。

コミュニティーも反映し、協力するために、秩序を必要とする。カオスと無秩序は、不信と引きこもりをもたらすから。各地の指導者が果たす主要な仕事は、安全保障のインフラを提供することだ。道路、警察、正直な判事、規律ある学校。

世界もまた秩序を必要とする。すべての国が従う、一揃いの規範と平凡な日課。あなたの自由や、信頼、民主主義、自主性は、もしプーチンのような殺し屋が境界を越えて蛮行を広め、イスラム国家のような怪物が無辜の人々を殺戮し始めるなら、失われてしまう。

世界の超大国というのは、難しい、楽しくない義務を意味する。アメリカは法の支配を確立するために連携を呼びかける義務がある。狼たちを撃退し、秩序を守るのだ。

オバマ大統領が、今秋、国連総会で行った演説は、彼の最高の演説の一つであった。そこには厳格なリアリズムと高い理想主義とがミックスされていた。

演説で、オバマはISISやプーチンのような敵に対抗する世界秩序を守ると主張した。軍事的脅迫には軍事力で対抗しなければならないと認め、もし威嚇せず、理性的であるだけなら、権力に飢えた者たちを宥和できない、と説いた。

グローバルな文明圏が存在するためには、詩人たちの心にも規律があるように、戦いと強制が必要なのだ。

NYT SEPT. 27, 2014

Who Had It Easier, Reagan or Obama?

Thomas L. Friedman

1986年、レーガンはアイスランドでゴルバチョフを説得して、冷戦を平和的に終わらせることに成功した。レーガンが優れていたのは、よく言われるように、スター・ウォーズ計画を進めたことではない.それは,ゴルバチョフが過去のソビエト指導者と根本的に異なったタイプであることを、諜報機関がそれを示す前に、理解したことだ。

近頃、オバマもレーガンのような指導者であればよかったのに、という言葉をよく聞くが、ある意味で、オバマはレーガンよりも困難な世界に直面している。

数千発の核兵器を持つ超大国を相手にしたレーガンの世界は、同じ西側の文明に属していた。冷戦とは,2つの異なるシステムが、支持を広げるために軍事・経済援助を与え、代理戦争を行うものだった。米ソはたとえ戦争でも管理下に置き、電話できる相手がいた。

レーガンの相手は、のちにノーベル平和賞を得たゴルバチョフであった。ベルリンの壁が倒れた時、東の人々は西側の文明を回復したのだ。彼らは自分たちを,異なる文明であるとか、コミュニストとして自覚していなかった。誘拐された西側文明人とみなしていたのだ。

オバマは違う。中東こそがオバマを消耗させた。そこで壁を倒した人々は、その習慣や経験が、民主主義と市場システムに向かうことはなかった。イスラム主義、部族主義、宗派争い。電話に出る相手はいない.

それは、西側の価値や制度にしばしば敵対的な文化を持つ、戦争によって心を傷つけられ、分裂した文明に対する、世界最大の国家再建プロジェクトである。


l  国家とナショナリズム

NYT SEPT. 25, 2014

Fostering National Identity but Not Nationalism

By SERGE SCHMEMANN

スコットランド独立の住民投票はEUを脅かすナショナリズムであったのか? いや、スコットランドも、カタルーニャも、ウクライナも、反EUの運動と敵対している。大きな国家から離脱しても、EUの統一市場とNATOは必要だ。

2次世界大戦後、ヨーロッパはナショナリズムを克服して、統一を求めた。しかし、同じ西側諸国が、部族的な武力衝突の解決策として、ソ連やユーゴスラビアの分裂を支持した。

ナショナリズムは、民族の歴史、文化、言語、神話を混ぜ合わせた、良くも悪くも、人々のアイデンティティを形成している。独裁者と戦うときも、「外部の者」を憎むときも、人々は団結する。それは常に合理的とは言えない。

EUは民族のアイデンティティを否定しなかった。むしろ、ヨーロッパの人々は多くの異なる文化、多くの差異を、自分たちの強さであり、魅力と考えている。確かにポピュリスト政党は増加した。しかし、経済危機、緊縮財政、他の地域における騒乱がもたらす移民増加、など、デマゴーグたちに最適な条件があるからだ。

しかし、紛争を抑えて、経済危機は解決できるし、ユーロ圏は生き残る。スコットランドの多数派は、それを支持したのだ。

FT September 28, 2014

Germany’s eurosceptics sow the seeds of turmoil

Wolfgang Munchau

AfDAlternative für Deutschland ドイツのために異なる選択肢を)は次の選挙の脅威になるか? その通り。

しかしAfDはユーロ圏離脱を提唱しているが、それは容易ではない、と知っている。彼らの州議会における躍進は、ユーロ圏離脱だけでなく、保守的な価値を支持し、移民阻止、家族への支援、社会支出を強調したからだ。彼らは極端な保守派と自分たちを区別している。

AfDは、ユーロ危機の再来と政府の姿勢に疑問を示しておくことで、政治的な拡大を狙っている。

Bloomberg SEPT 28, 2014

In Defense of Nationalism

By Clive Crook

ナショナリズムは必要だ.エスニックなナショナリズムではなく,市民的なナショナリズムは民主主義社会を有効に機能させる.


l  イスラム国家との戦い

The Guardian, Friday 26 September 2014

We must beware – Isis wants the west to conduct a crusade

Oliver Miles

FT September 26, 2014

Iraq’s sectarian war rages on as world focuses on Isis

By Borzou Daragahi in Latifiya

FT September 26, 2014

Politics not bombs is the key to beating Isis

By David Gardner

ISISはスンニ派の至上主義者である。イラクで権力を失ったスンニ派の勢力を吸収した。

さらに、ISISは地域の宗派争いを利用して拡大することに成功した。イラクとシリアだけでなく、周辺諸国に拡大する兆しがある。アラビア湾岸から地中海、アフガニスタンやソマリアまで、各地の形骸化した国家を侵食している。

このエスニックと宗教による拡大勢力を抑えるには、信頼できる制度に依拠した地域的権限移譲が必要である。その場合だけ、石油や天然ガスのような資源を共有して、中央政府と地方政府の安定化を図ることができる。

スンニ派のサウジアラビアとシーア派のイランとがデタントを合意することが重要だ。

The Observer, Sunday 28 September 2014

Isis and Syria: ‘Western hypocrisies have been driving support for extremism’

Nick Cohen

FT September 28, 2014

Obama’s Faustian pact with the Saudis

Edward Luce

望ましくない同盟国とともに戦争を始める。ISISに対するオバマが始めた戦争には、5つの専制支配体制が含まれ、そのうちの4つは王政である。彼らは反政府派を弾圧し、かんせつに、あるいは、うかつにも、ISISやアルカイダのようなテロ組織を支援している。そしてアメリカを支持して長期的な利益を得る。

そのファウスト的な契約の中心にはサウジアラビアがいる。911のハイジャック犯20人中の19人はサウジ国籍であった。今、状況は911が起きた時とそっくりだ。

オバマは連携を広げたが、その原因となっている彼らの過激なSalafi(イスラム原点回帰運動)を抑えることなく、その症状を抑えるだけだ。アメリカは1980年代から中東への介入を繰り返したが、ソ連やサダム・フセインを倒しても、その後の過激派の運動拡大によって苦しんでいる。今回が違うとは思えない。

しかも、過去の同盟は単純であった。敵の敵であったから。今はそうではない。シリアでISISの敵であるアサド政権は、アメリカの敵である。

サウジアラビアはアメリカと組んで、ISISへの空爆をアサド政権にも向けたいだろう。イランは核交渉を進めなければ協力しない.しかし,アメリカと組む条件として、サウジアラビアはアメリカとイランとの合意を阻止したいだろう。しかも、サウジアラビアはエジプトで軍事政権の誕生を強く支持し、イスラム各国の民主化を阻んでいる。

中東では若者人口が膨張している。しかし、彼らに仕事を与える経済成長は、その支配者たちの自由に対する抑圧姿勢によって窒息し、若者たちがISISの勧誘に応じるのを助けている。

確かにオバマは国連演説で、そのリベラルな介入主義の姿勢を厳格に示した。テロの温床となっている宗教学校や、資金の流れ、イデオロギーを断つべきだ,と主張した。

では、サウジアラビアをなぜ非難しないのか? それは,サウジアラビアがアメリカの同盟国であるからだ。

FT September 30, 2014

America can only beat Isis by spending more on defence

By Martin Feldstein

オバマは地上軍を投入する意図はないし,防衛予算を拡大することもないだろう.アメリカはすでに,ヨーロッパ,中東,東アジアにおいて,ウクライナを失望させ,イスラエルやエジプトを阻害し,ロシアや中国,北朝鮮の脅威にどのように対処するのか,同盟諸国に疑われている.

このような状況で,イスラム国家の戦いに加わる姿勢を,他国は信用しないだろう.

NYT SEPT. 30, 2014

A Litmus Test for Kurdistan

By JENNA KRAJESKI and SEBASTIAN MEYER

FT October 1, 2014

War on Isis: Under fire

By Borzou Daragahi

FT October 2, 2014

The fatal flaw in the west’s fight against Isis

By Philip Stephens

NYT OCT. 2, 2014

Iran, the Thinkable Ally

Roger Cohen

スンニ派の新しい聖戦主義運動が重大な脅威となっている.

The Iran Project の重要な報告書(その報告に著名した者にはBrent Scowcroft, Zbigniew Brzezinski, Thomas Pickering, Ryan Crocker, John Limbert (the former U.S. hostage in Tehran), Joseph Nye and William Luersが含まれる)が,アメリカの戦略的な利益はイランとの核合意にあり,これによって,シリアからアフガニスタンまで,急速に変化する中東で重要な役割を果たせる,と主張している.

イラン政府は,厳格な国際査察によって核兵器の開発を排除し,平和利用に限って,核拡散防止条約に署名するだろう.それは強硬派の勢力を抑えることにもなる.オバマは,制裁よりも,この計画の実現にかけている.それはヨーロッパとの協力,ロシアや中国との対抗,イランへの攻撃を求める強硬派への反撃となる.

FP OCTOBER 2, 2014

Women and Children for Sale

BY COLUM LYNCH

「報道によれば,キリスト教やヤジディ派の家族から,未婚の少女や女性,150人が選ばれてシリアに送られた.彼女たちはISISの戦士たちに報酬として与えられ,性の奴隷として買い取られる,と国連の人権局レポートは報告した.」


l  秩序ある社会

FT September 26, 2014

Francis Fukuyama’s ‘Political Order and Political Decay’

By David Runciman

秩序ある社会を実現するには,3つの要素が必要だ.強い国家,法の支配,民主主義.しかもこれらの要素は正しい順序で実現しなければ安定しない.民主化だけでは失敗する.

Francis Fukuyamaは,冷戦終結を「歴史の終わり」と呼んでスターになったが,民主主義が停滞や腐敗に苦しむことを認めた.各地で,不平不満を政治に持ち込むことが民主主義を停滞させている.そして政治が内向化・再部族化する.アメリカの制度で最も信頼されているのは,軍やNASAであり,最も信頼されないのが議会である.


l  アリババ

FT September 26, 2014

Alibaba: Weapons of mass ecommerce

By Charles Clover in Beijing


l  ヨーロッパの不況

Project Syndicate SEP 26, 2014

Europe’s Austerity Zombies

JOSEPH E. STIGLITZ

緊縮策は失敗した.しかし,支持者はまだ緊縮が成功したと主張している.経済は崩壊しなかった,と.

しかし,景気回復はまだ実現していない.GDPや雇用は失われたままだ.多くの国で若者たちが熟練形成の機会を奪われた.ドイツは緊縮策を他国に求め,その経済だけでなく政治を弱体化した.

3年前,フランスの有権者は緊縮策を拒んだ.しかし,再びドイツの求める緊縮策が実施された.社会党政権というだけで,実際は,法人税を下げ,政府支出を削った.しかし,十分な需要がないときに,企業が投資するはずがない.

FT September 29, 2014

Merkel has a duty to stop Draghi’s illegal fiscal meddling

By Hans-Werner Sinn

FT October 2, 2014

Only a weak euro can save the ECB now

Lorenzo Bini Smaghi

為替レートはECBの目標ではないが,有効な景気刺激策としては,唯一,ユーロ安が重要であり.アメリカの景気回復もあって,成功するだろう.もし逆にユーロ高になるなら,ユーロ圏への悪影響を除くためにECBは重視しなければならない.


l  中国か,ロボットか?

VOX 28 September 2014

The rise of China and the future of US manufacturing

Daron Acemoglu, David Autor, David Dorn, Gordon H. Hanson, Brendan Price

Project Syndicate SEP 29, 2014

The Rise of the Robots

J. BRADFORD DELONG


l  香港民主化運動の拡大

FP SEPTEMBER 28, 2014

A Turning Point in the Fight for Hong Kong

BY RACHEL LU

2014928日を,将来,人々は香港の歴史で記憶すべき日とするだろう.この非政治的な都市が明確に政治的に覚醒し,数万の人々が民主主義を要求したからだ.

前日まで,北京と香港の関係が急激に悪化するようには見えなかった.27日には政府庁舎前で学生のストライキがあった.しかし,警察に連行され,数時間後に釈放されていた.

28日,学生たちが道路を封鎖してから,事態は驚くべきスピードで悪化した.暴徒鎮圧部隊が大挙して到着し,早い夕刻の街中に集まった群衆に向けて催涙弾を発射した.警官隊は,解散しなければ発砲する,と群衆に警告した.デモ隊は傘を広げて催涙スプレーを避け,ゴーグルとサランラップでガスマスクを作った.

デモ隊は,学生や,中心部占拠運動,市民的不服従,など,異なるグループが混生してできたものだ.2017年香港調整長官の選挙に自由な立候補を求めていた.しかし、中心部占拠には反対も強く,香港金融ビジネスや市場に対する評価を損なうと心配していた.いくつかの調査で,市民の半数以上が運動を支持せず,支持者は少数だった.8月には,立候補者の制限を受け入れる意見が過半数であった.

しかし,28日の事件で,人々の意見は抗議デモを支持する側に大きく変化した.香港を戦場のように変えた警官隊の行為は,住民たちを不安にした.香港の選挙が,1200マイルも北の北京で決まることに,人々は不満だった.抗議デモで北京の決定を変えることはできないだろう.しかし,彼らは選挙をボイコットし,街頭を占拠できる.「私は黙っていることができない.香港が死んでしまう.」と,ソーシャル・メディアのメッセージが連鎖した.

特別区を統治する北京は,ますます困難な事態を招いている.

theguardian.com, Monday 29 September 2014

The fight for democracy is not just a challenge for the people of Hong Kong

Rowena He

FT September 29, 2014

China’s biggest political challenge since Tiananmen in 1989

Gideon Rachman

中国政府は1989年の天安門事件以来,最も難しい局面にある.弾圧するべきか,屈辱的な撤退をするのか?

しかし,2014年の香港と1989年の北京には大きな違いがある.中国ははるかに豊かで,強力な国家になった.また政府は,ウォール街占拠運動がそうであったように,香港中心部占拠運動も,次第に鎮静化すると考える.さらに,1989年に比べて,香港のデモは解決のための余地が大きい.香港は,「12制度」の名目で,植民地から返還された,本土とは異なる特別行政区である.

北京の知的な反応としては,香港を政治改革モデルの事件として利用する,という考え方だ.本土で直ちに改革を求められることなく,実験ができる.もし成功すれば,これを政治改革のモデルとして,本土の地方都市レベルから,漸進的に導入すればよい.

残念ながら,北京の中央政府は逆の考え方である.彼らは国内で民主化が広まり,共産党が軽視されるリスクを冒す気はない.抗議デモが鎮静化しなければ,北京は暴力的な介入に踏み切る.

そうなる必然性はない.1997年の返還以降,北京政府の介入を恐れる声はあったが,香港市民たちは,報道の自由や独立した司法制度,という,本土に許されていない自由を享受し続けた.民主化運動の活動家であるMartin Leeは,4年前,その姿勢に「うれしい驚き」を示した.しかし,今は違う.北京はそれを否定しようとしている.

おそらく,北京の共産党政府はより自信を持ち、攻撃的になり,寛容さを失ったのだろう.しかし,それも本土の反応がどうなるかによって変わる.政府は情報を遮断し,本土に運動が波及することを恐れている.デモが続けば,ナショナリストの新聞がすでに示すように,香港市民は本当の中国人ではない,という敵対的な感情を強めるかもしれない.

北京の次の選択が正しいものであることは,香港にとって,中国にとって,世界経済にとって,国際政治の安定性にとって,決定的に重要である.

FT September 29, 2014

An avoidable threat to Hong Kong’s standing

NYT SEPTEMBER 29, 2014

Is Autonomy Possible for Hong Kong?

NYT SEPTEMBER 29, 2014

Hong Kong People!

By LOUISA LIM


後半へ続く)