IPEの果樹園2014

今週のReview

9/29-10/4

 

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気候変動 ・・・エボラ・ウィルス ・・・スコットランド独立は否決 ・・・国際秩序の不安定化 ・・・再び中東への軍事介入 ・・・香港民主化デモとウィグル

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  気候変動

NYT SEPT. 18, 2014

Errors and Emissions

Paul Krugman

経済成長と温暖化ガスの排出削減とは矛盾しない.その結び付きは切れた.

一方で,再生可能エネルギーの技術が,2000年以降でも,急速に前進した.経済成長しても,再生可能エネルギーの割合が増えることで温暖化ガスは抑えられる.さらに,温暖化ガスの排出削減と経済成長はプラスの関係がある.例えば,中国の大気汚染を減らすことは,医療コストを減らし,生産性を高める.

Project Syndicate SEP 19, 2014

Cleaner, Greener, and Richer

CHRISTIANA FIGUERES and GUY RYDER

気候変動を緩和するために行動することは,雇用を増やす.アメリカではすでに,1月以来,120万人の「クリーン」ジョブが増えた.中国では,170万人以上が再生可能エネルギー部門で雇用されている.世界では,直接・間接に570万人が雇用されており,2030年までに3倍に据えるだろう.

南アフリカ,インド,ブラジルで,温暖化防止の政策が社会的な弱者の支援にも貢献している.

FP SEPTEMBER 25, 2014

Environmentalism Is Dead

BY KATE GALBRAITH

たとえニューヨークのデモ参加者が氷河の消滅と海面上昇に警告しても,気候変動を抑える国際合意は実現しないだろう.過去のデータは,こうした合意がますます成立しなくなったことを示している.しかも,その理由の一部は,アメリカがそれを指導しなくなったからだ.


l  エボラ・ウィルス

YaleGlobal, 18 September 2014

How to Fund the Ebola Fight

Paula Kavathas

西アフリカで感染が拡大するエボラ・ウィルスに対する緊急会議が国連で開かれた.』この地域には医療のインフラやスタッフが欠けている.それを支援するために,航空運賃に少額の課徴金を付加する提案がなされた.それは世界全体を益するものだ.


l  スコットランド独立は否決

FT September 19, 2014

UK will grapple with the unsolved problem of greater autonomy

By Richard Haass

スコットランド独立の住民投票が否決されたことに安どのため息を漏らした.

しかし,住民の半数近くがイギリス分割を望んだことは重要だ.分裂すれば,アメリカは重要な同盟国を失くし,ヨーロッパはますますアメリカ外交で重要な意味を持たなくなっただろう.独立はしないが,今後の分権化と政治混乱は避けられない.

各地の分離独立も刺激されている.アメリカはこれまで1世紀にわたって,ヨーロッパを最も重視してきた.しかし,ヨーロッパにはナショナリズムが復活し,拡大した中東圏やアジアの方が重要になる.アメリカとヨーロッパには,世界の問題に関して,能力と意思の合意が失われた.

そして,大西洋の両岸で,国家規模のガバナンスは困難の度合いを増している.重大な挑戦や問題に直面している状況で,世界は解決策を見いだせない.

NYT SEPT. 20, 2014

Three Cheers for Pluralism Over Separatism

Thomas L. Friedman

一つの反応は,おめでとう,だ.多数派は独立を拒んだ.もしイギリスが分裂したら,アメリカは世界の端を守る重要な同盟国を失っただろう,

もう一つの反応は,アメリカ万歳,だ.アメリカには多くの強みがあるけれど,そのもっとも重要な資産は,多元主義pluralism,だ.さまざまな文化がまじりあって発揮する,一緒に働くことができるという強みである.

黒人の大統領を2度も選挙で勝利させる国があるだろうか? 彼のミドル・ネームはフセインであり,彼の祖父はイスラム教徒である.私は確信するけれど,生きているうちに,イギリスでパキスタン系の首相が登場したり,フランスでモロッコからの移民の大統領が登場したりすることはないだろう.

それは政治にとって重要であり,技術革新にとっても重要だ.

The Guardian, Sunday 21 September 2014

Let’s not fear the F-word or the C-word: we should move to a federal Britain in a confederal Europe

Timothy Garton Ash

われわれが必要としているのは,イギリス連邦王国である.それは同盟関係によって制度化されたヨーロッパに含まれた,人口に応じて注意深く統合された,民主的な提案である.

スコットランド独立を阻止するうえで,連邦制,は優れた意味を持った.実際,それはブラッセルが設計しているヨーロッパに近い.連邦化するイギリスには,多くの先例がある.カナダ,オーストラリア,インドのような英語圏,EUに属するさまざまな連邦国.ロンドン都市圏の自治権要求は,ゴルバチョフを脅かしたエリツィンだ.

しかし,EUは連邦国家ではない.ドイツはテキサスではないし,ヨーロッパ合衆国は存在しない.

FT September 22, 2014

The strange revival of nationalism in global politics

Gideon Rachman

グローバリゼーションの時代に,なぜナショナリズムが各地に復活しているのか?

まず,グローバリゼーションの勝利を唱えた者たちはナショナリズムを過小評価していた.グローバリゼーションの効果そのものが国家による保護を強く求める人々を増やす.共通の言語や共通のエスニシティーは彼らの救いとなるのだ.

グローバリゼーションの下で,貧困や戦争は移民を増やした.そして,国境の意味を重視させるのに,移民増のパニックは何よりも重要である.

また,グローバルな秩序が動揺するとき,従来の地方分権や分離独立を求める運動は,これを利用する.さらに,残念ながら,ナショナリズムの高揚は外国人を敵視することと重なる.それは隣国のナショナリズムを刺激するのだ.

そのもっとも危険な傾向がアジアに現れている.


l  国際秩序の不安定化

Project Syndicate SEP 25, 2014

Grave New World

JAVIER SOLANA

グローバリゼーションは新しい条件ではないが,世界政治の変化を加速してきた.これから数十年は,深刻な不安定性をもたらす可能性がある.

サダム・フセインをクウェートから撤退させてから20年以上経つが,そのとき,国連安保理の決議と,34カ国の参加した,アメリカの指導する国連軍がそれを実現した.

1991年,ソ連崩壊によって,アメリカは唯一の超大国になった.しかし,今は違う.ロシアはクリミアを分割併合し,ウクライナを侵略している.

国際政治では,現実以上に認識が重要である.アメリカやヨーロッパは衰退し,新興勢力が現れている.彼らのユニークな世界観が国際情勢を変化させる.

この多極世界は不安定だ.主要国はグローバルな責任を引き受けようとしない.それは利害対立や軍事衝突を招く.強力かつ効果的な国際機関が各国の協力を促す必要がある.しかし,主要国の政治的な決意が欠けているときには,それができない.

地政学的な安定性は失われる.ロシアと中国がその焦点である.


l  再び中東への軍事介入

FP SEPTEMBER 19, 2014

Hacks and Hired Guns

BY STEPHEN M. WALT

アメリカの外交政策は,シンクタンクに豊富な資金を与える者や外国によって買収されているのか? シンクタンクをつかって,騙されやすいアメリカ人の考えを操作し,アメリカの世論を変えているのか?

外部資金に頼ることは,その研究機関の研究分野や対象を決定する.この問題を無視することは間違いだ.

透明性を高めて,誰からどのような資金を得ているのか,彼らの政治的な立場を明確にさせるべきだ.

Project Syndicate SEP 22, 2014

The Limits to Fighting the Islamic State

GARETH EVANS

中東における外国の軍事介入は,間違った考えや過剰な拡大によって失敗した長い歴史がある.オバマ大統領が決断した介入が,その目標が,時間,財源,人員で見た受け入れ可能なコストで達成できるのかどうか,明確ではない.

そこには3つの目標が混在している.1.イラクとシリアの市民を守る人道的目標.2.イスラム国家のテロから他国の市民を守る反テロ目標.3.地域内の諸国家の権威と安定性を回復する目標.

しかし,人道的目標だけが,現実に達成可能である.

西側の軍事介入だけで地域の諸国家を安定化することは不可能だ.かつて15万の米軍が派遣されていた時もできなかった.今では地域の感情も悪化し,軍事介入の政治的目的を疑われ,宗派対立はさらに激化している.

アメリカが地域内の同盟者を求めるのも困難である.それぞれの勢力が異なった目標を持っている.サウジアラビアと湾岸諸国は,アメリカがイランの核開発を認めることを恐れている.内戦で市民を虐殺しているシリアのアサド政権と協力するのは好ましくない.

反テロ目標は,西側諸国に受け入れられても,これまでの経過から,アラブ諸国が受け入れることはないだろう.さらに,シリア政府との合意なしに空爆を拡大することは,明らかに国連憲章に違反する.

住民を保護する責任を求めた国連決議に依拠して,人道的使命のみに限った軍事介入であれば成功する可能性がある.

FT September 23, 2014

Friendless Obama needs Middle Eastern allies of convenience

By Francis Fukuyama and Karl Eikenberry

アメリカには政治的結果を支配する知恵も資源もない。オバマは多くを約束しすぎた。イギリスの対ヨーロッパ政策の歴史に学ぶべきだ。

イギリスは恒常的な友好国を持たなかった。しかし、ヨーロッパをまとめる単独の国が現れて、イギリスに挑戦することを防いだ。ヨーロッパ内の勢力均衡を利用して、イギリスは経済力と海軍力を駆使し、覇権国として外交を支配した。

拡大された中東地域の秩序を亜安定化するために、オバマが実行すべきは、こうした政策だ。

Project Syndicate SEP 23, 2014

Obama Versus the Islamic State

ANNE-MARIE SLAUGHTER

オバマ大統領のイスラム国家に対する新戦略は、成熟した、一貫した外交政策を示していると思う。

3つの理由がある。新戦略は、軍事力と外交とを組み合わせている。新戦略は、アメリカの軍事行動のタイプと範囲を明確に条件づけている。新戦略は、広範な中東諸国の連携を求めており、アメリカが世界の警察官であることは前提しない。

イラク政府は新しい首相の下で宗派間の協力を求めなければならない。イランには言及していないが、イラクはシーア派の主要な国家になっており、その政府を守るアメリカの空爆を意識するはずだ。シリア政府はISISと同じような残酷な市民や子供たちの虐殺を続けており、アメリカによる空爆の目的が人道的な住民の保護である以上、自分たちに及ぶことを明確に意識するだろう。

オバマは重大な国益が侵されていない、とシリアへの軍事介入を拒んだ。しかしアメリカは、20万人のシリア国民が虐殺されても放置し、2人のアメリカ人ジャーナリストが斬首されたから介入した、というのでは、アラブ民衆の心をつかめない。

つまり、この新戦略は、中東の政治ゲームをただちに転換する戦略として、重要な意味を持つのである。

農夫の運命が、王の運命に対して直接、重大な影響を与えるのだ。


l  香港民主化デモとウィグル

FT September 25, 2014

Beijing needs to talk to the Uighurs

Ahmed Rashid

中国の学者Ilham Tohtiが終身刑の判決を受けたことは、憎むべき不正義であり、法の支配と矛盾するものだ。Tohtiはウィグルでもっとも著名な学者のひとりであり、阻害されたムスリム・ウィグル少数派と、漢人・中国コミュニティとの間に橋をかけて、暴力の連鎖を終わらせることに生涯をささげてきた。

中国はウィグルの政治・宗教指導者たちと対話する必要がある。新疆の暴動は鎮圧できないものではない。しかし若者たちが信仰や文化を否定され続けるなら、その憤慨は増すだろう。

対話や和解を求めるウィグル人を終身刑に貶めるより、彼らと協力するべきだ、というのは常識である。誰も中国の中央アジアがテロの蔓延するパキスタンやアフガニスタンになることを望まない。

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The Economist September 13th 2014

UK RIP

Fighting Islamic State: The long haul

Confronting Islamic State: The next war against global jihadism

Bello: Memory is not history

Free exchange: No country for old money

(コメント) 記事はスコットランド独立に反対しています。残ったイギリスは世界における地位を失います。EUからも離脱するでしょう。独立派の唱える繁栄は幻想です。しかし過去の追認ではなく、スコットランド、ウェールズ、イングランド、北アイルランドの想像的な関係を人々は求めています。

イスラム国家に対するオバマ大統領の方針は非常に困難な戦いを意味しています。分裂した政治の中で、オバマは時間を必要とします。しかし、そのような忍耐こそ、アメリカ政治に欠けているものです。

チリでも、アルゼンチンでも、ラテンアメリカ諸国で政府は過去の政治的弾圧、虐殺を、歴史として記憶することを求めます。しかし、記憶と歴史は違う、と記事は注意します。右派は軍事的に勝利して支配したが、左派は敗北したのに、同じような虐殺を犯した者が、平和の時代に勝利して、都合のよい歴史だけを書きます。

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IPEの想像力 9/29/14

ゼミの合同合宿でディベートを行いました.下関市立大学,山川ゼミが主催です.

関門海峡の海は胸にしみるような濃い青色で,多くの船舶の影にも,維新の歴史を想起させるような,深い味わいを感じました.

経済学と国際政治経済学(IPE)は何が違うのか? 経済学は市場の圧力で改革を説明し,正当化します。IPEは政治が,ときに,市場の圧力を利用することを指摘します。どちらが正しいか、決めることはできません。

安全保障をめぐる不安が、投資や貿易を抑圧するのは確実です。政府の動揺や政策・規制の不安でさえ、景気回復を遅らせると議論されています。ウクライナ危機がロシア経済を破壊するのか、ウクライナ支援がユーロ圏やアメリカの維持する国際システムにとって深刻な足かせとなるのか。

記事Free exchange: No country for old moneyを読んで、スコットランド独立が通貨問題として考察されていることに興味を覚えます。

独立派は、何も変わらない、と主張しました。独立してもポンドを使用し続けるから。イギリスとは通貨同盟を組む。ユーロ圏と同じように。

しかし、為替レートや金利が同じというのは,貿易や投資を促しますが、必ずしも良いことではない、というのを「最適通貨圏」論でR.マンデルは示しました。スコットランドとイギリスは要素(資本と労働力)移動が高いけれど、景気変動が完全には一致しません。

一国内では地域間で財政移転がその影響を緩和しますが、ユーロ圏が示すように、それが不十分であったり、高齢化などによって将来の財政赤字が増したりすることを考えると、独立したスコットランドはギリシャのようになるでしょう。イギリスの主要政党とイングランド銀行は、スコットランドとの通貨同盟を否定しました。

通貨同盟なしに、スコットランドが一方的にポンドを採用することも可能です。世界中に、ドル化した諸国があります。しかし、新通貨の信用を維持するために多額の準備を維持しなければなりません。金融規制やイングランド銀行を失えば、スコットランドの金融ビジネスは生き残れず、ロンドンに本社を移転するでしょう。

独立国は、要するに、必ず独自通貨を印刷します。スコットランドはすでにその準備ができているから有利です。ソ連崩壊によって生まれた諸国も独自通貨を発行しました。エストニアはルーブルを新通貨クルーンに交換し、同時に、ドイツマルクへの交換も認めました。その改革は成功であった、とIMFも報告しています。

インフレ目標を定めて変動レートにするか、為替レートを固定するか、記事は貿易の重要性を理由に後者を支持します。また、財政赤字を抑制するような緊縮的政策を、(その公約に反して)スコットランド政府に勧めます。

経済の運営に関して、金融政策が重要になるほど、政治的な独立は独自通貨を支持する必要があります。それが政治的な独立の前提です.ところが、独立国家は金融政策の難しさから、これをルールによって限定し、あるいは主要国の政策に追随させます。結局、通貨を共有したほうがよい、と多くの独立国はヨーロッパとその周辺地域で考えたわけです。

安全保障の問題に戻れば、危機はナショナリズムを刺激し、他方で、国際的な軍事同盟に参加する必要を示しています。

繰り返せば、経済学は市場圧力の数理モデルや合理的な均衡条件の仮説を分類し,その検証を,現実の政治社会対立から隔離された効果と考えます.他方、IPEは,政治交渉や危機とその衝撃が波及する社会変化を理解しようとします。

この海峡がなくなることはないでしょう.しかし,渡る者はいます.

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