IPEの果樹園2014
今週のReview
9/15-20
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ウクライナ危機とNATO ・・・成長と停滞 ・・・スコットランドの独立 ・・・オバマ外交 ・・・ヨーロッパのマクロ政策協調 ・・・香港の民主主義 ・・・ヨーロッパの移民政策 ・・・富裕層の政治支配
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT:
Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project
Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l ウクライナ危機とNATO
FP SEPTEMBER 4, 2014
NATO Owes Putin a Big Thank-You
BY
STEPHEN M. WALT
NATO本部の官僚たちがロシアによるウクライナ侵攻をひそかに喜んでいる,と考えてもそれほど皮肉な見方ではないだろう.
冷戦終結後もNATOが存続していることは例外的な状況であった.普通,軍事同盟は敵が消滅すれば解消される.NATOサミットで指導者たちが歴史的な偉業を称え,情熱的な共同声明が出されても,NATOの能力,重要性,結束力は弱まってきた.
NATOの域外への軍事行動は好ましい結果を出せなかった.1995年のボスニア介入,1999年のコソボ戦争,アフガニスタンの治安回復と復興は,彼らが認める以上に深刻な失敗であった.それはリビアの失敗につながる.アメリカはアジアに重心を移し,ブッシュの中東秩序再編という幻が残した混乱の事後処理に苦しんでいる.
ウクライナ危機が起きるまでに,NATOは絶滅危惧種になっていた.
しかし,1990年代に,戦略家たちが警告したように,NATOの東欧への拡大は失敗であった.それはロシアを孤立させ,NATOを強化することもないまま,弱小な諸国の防衛を負担するだけであった.グルジアとロシアの戦争が起きて,NATOは安全保障上の負担が大きいことに気付いたのだ.
それはアメリカの言葉に対する信頼感,NATOの防衛力に関わる問題である.NATOには,集合行為に関する古典的な問題があった.バルチック諸国やポーランドはアメリカが自国の防衛に関わることを望んだが,アメリカの約束が守られる保証はなかった.そのために自国の防衛力よりも,ワシントンでロビー活動に支出することを重視した.
地理的に見てヨーロッパには属さないアメリカにとって,NATOの重要性は状況によって変化する.ヨーロッパにおける脅威や競争相手が何であるか,アメリカの死活的利害が薄れていた.ウクライナ危機が示したロシアの脅威にもかかわらずヨーロッパ諸国は防衛負担を増やさない.
それゆえ,ウクライナについて,アメリカは外交による解決を求めるだろう.「外交」とは互いの原則を理解し,各集団が妥協しつつ,その目標を弾力的に取引することだ.ロシアはウクライナを政治的な関係に留めることを死活的利益とし,それを達成する多くの手段を持ち,西側との関係強化を破壊することができる.
それを好むものではないが,うれしくない現実を認めることが国家の行動を考慮する第1歩である.ウクライナにおけるロシア軍の行動を抑える約束は,アメリカの負担を限定するためにウクライナの行動を制限することが条件であり,台湾問題と似ている.
ウクライナはヨーロッパとロシアの緩衝国であると認め,NATOの軽率な拡大が招いた代償を支払うことだ.ウクライナの独立と統一を認めて,安定した状態を回復することは望ましい,とワシントンも認めるべきだろう.
NYT SEPT. 5, 2014
Why #RussiaInvadedUkraine Matters
By
CHRYSTIA FREELAND
プーチンは,2週間でキエフを陥落させると言い,和平を実施すると言う.そのジグザグな言動は西側を混乱させる.
情報戦争が再来した.ベラルーシ人が創ったツウィッター#RussiaInvadedUkraineは,ウクライナ人が数日で50万人近くに使用された.
ロシアの戦争はクレムリンによる偽情報,プロパガンダ,全くの詐欺,などからなるニュー・スピークだ.言葉のいい加減な使用は,愚劣な思考を広める.
ロシアの戦車が国境を越えたとき,オバマが「侵入」と述べたように.それは「侵略」と呼ばれず,それゆえ「撤退」の必要もない.プーチンは放免された.
これはウクライナ民衆が始めた権威主義体制に対する革命の一部である.彼らはリベラルな秩序,ヨーロッパの価値観を求めた.それに対してロシアが侵攻したのだ.
もしDonbassの戦いがほんとうに内戦であれば,それはだれにとっても重要であるが,国家の分裂はどこでも起きうる.ソビエト連邦,ユーゴスラビア,チェコスロヴァキア,英連邦でもそうだ.
しかし,ウクライナの紛争はそうではない.ある国が他の国を侵略した.それは,千栄的な境界線を侵さないというヨーロッパの秩序の基本を否定することだ.
Bloomberg SEP 5, 2014
Ukraine's Cease-Fire Is Putin's
Victory
By
Leonid Bershidsky
FP SEPTEMBER 5, 2014
Beware the Bear
BY
KEITH JOHNSON, JAMILA TRINDLE
FP SEPTEMBER 5, 2014
A Boy and His Toys
BY
JEFFREY LEWIS
NYT SEPTEMBER 8, 2014
Give Diplomacy With Russia a Chance
By
JACK F. MATLOCK Jr., THOMAS R. PICKERING and JAMES F. COLLINS
NYT SEPTEMBER 9, 2014
Should NATO Be Helping Ukraine Face
Russia?
NYT SEPTEMBER 9, 2014
Russia’s Next Land Grab
By
BRENDA SHAFFER
ロシアは南コーカサスでも紛争を刺激している.南コーカサスは西側から遠く,関係ないように見えるが,ロシア,イラン,トルコの国境地帯であり,ロシアを経由しないヨーロッパ向け石油・天然ガスのパイプライン拠点である.西側はモスクワによる紛争地帯化を放置できない.
FP SEPTEMBER 10, 2014
Ukraine Can't Afford the IMF's
'Shock Therapy'
BY
JOSH COHEN
FP SEPTEMBER 11, 2014
The Empire Strikes Back
BY
KEITH JOHNSON
l 成長と停滞
NYT SEPT. 4, 2014
The Deflation Caucus
By
PAUL KRUGMAN
ヨーロッパのデフレの脅威を認めたECBはようやく正しい政策を採る.アメリカはもっと早く始めたが,さらに大規模にするべきだった.なぜ抑制されたのか? それは国内の政治家や評論家,富裕層が反対したからだ.ドルの価値を奪う,インフレになる,と主張した.私は彼らを「デフレ党」と呼ぶべきだと思う.
彼らが不況期にも金融引き締め,低インフレを好むのは,それが共和党の利益だからである.政治的な右派はそのような主張で左派を攻撃する.また,債権者・資産家の利益であるからだ.インフレは債務を軽くするが,デフレは重くする.
金ぴか時代のアメリカで支配層がWilliam
Jennings Bryanを倒したように,今も「デフレ党」は権力を握っている.ヨーロッパで,富裕層がそれほど支配的でないにもかかわらず,ECBを抑制しているのは,ドイツなど黒字諸国のせいだ.
FT September 7, 2014
Bold reform is the only answer to secular
stagnation
Larry
Summers
1930年代にAlvin Hansenが唱えた長期停滞論は,十分な需要が維持できない問題であった.しかし,今や金利が低く,インフレ率も低く,高齢化が進む,という新しい条件で,需要とともに供給の側にも問題がある.
インフラ投資,移民政策,家族にやさしい,子育てを促す政策,エネルギー政策,法人税制,など,全ての改革が必要だ.
VOX 09 September 2014
Three new leaders face the challenge
of food and fuel subsidies: Sisi, Modi, and Jokowi
Jeffrey
Frankel
食糧とエネルギーに関する補助金ほど,経済学と政治学とが対立する政策は珍しい.経済学は補助金を強く批判し,政治学は大いに重視する.
なぜ経済学者はそれほど強く主張できるのか? 農産物やエネルギーの市場は,相対的に,完全競争の理想に近いからだ.需要側に多くの消費者,供給側にも多くの生産者がいる.価格を人為的に低く設定すると,消費者は喜ぶが生産者は意欲を失い,過剰な需要に割り当てを導入することになる.価格を人為的に高く設定すると,生産者は喜ぶが消費は抑制され,過剰な供給を,しばしば,政府が購入して無駄な備蓄になってしまう.どちらの政策も汚職につながる.
市場の見えざる手を疑う者は,特に環境と不平等を問題にして市場に介入する.しかし,実際には補助金の多くを手に入れるのは貧困層ではない.エジプトの食料補助金の20%しか貧困層に届かない.インドでは地方における液体燃料の補助金の0.1%しか所得階層の下位4分の1に与えられず,52.6%を得るのは最富裕層である.
補助金が導入されると,それを廃止することは非常に難しい.国民は補助金に慣れ,価格上昇から政府が守ってくれると考える.市場価格が上昇するとき,補助金の無い国は価格変動に対応するが,補助金のある国では国民が街頭デモで政治的な圧力を生じる.
絵ネル義問題や貧困を解決する効果的な手段は開発されている.巧妙な政治家は,財政危機に強いられる前に,権力を得てすぐ脱補助金を削減するものだ.しかし,この点で優れているのはエジプトのシシである.インドのモディは,その選挙が大勝であり,市場改革派の評価を得ているが,実際には補助金に手を付けていない.
Project Syndicate SEP 11, 2014
Parallels to 1937
ROBERT
J. SHILLER
1929年の株価暴落も,その後の8年間は不況が続き,漸く,第2次世界大戦の提供した巨額の需要によって回復した.しかし,それは6000万人の死者とヨーロッパやアジアにおける破壊をともなった.
世界の現状は,特に1937年と似ている.人々は長期に及ぶ失業感,将来への不安に苦しむ.
IMFによれば,2008年の金融危機前,2002-07年の5年間で,ウクライナとロシアはGDPが52%と46%も増大した.他方,昨年の一人当たり実質GDP成長率は,それぞれ0.2%と1.2%でしかない.こうした失望や不満はウクライナの分離独立主義を刺激し,ロシアのプーチン大統領にクリミア併合や分離主義への支援を決断させる背景になったはずだ.
人々は,必ず自分と他者とを比較し,社会階層を上昇したいと考えている.成長への社会的な期待と失望が結果に影響するのである.希望は平和を促し,寛容さを育てる.ロシアへの制裁は,ヨーロッパを不況にし,ロシア人,ウクライナ人,ヨーロッパ人の不満を強めるだろう.
制裁を早期に解除し,ロシア(とウクライナ)を世界経済に包摂すること,同時に経済拡大策を採用することが望ましい.
Bloomberg SEP 11, 2014
Russia Sanctions Are a Race to the
Bottom
Leonid
Bershidsky
l イスラム国家
FP SEPTEMBER 4, 2014
How the Islamic State Could Kill the
Two-State Solution
BY
AARON DAVID MILLER
FP SEPTEMBER 5, 2014
Everything You Know About Israeli
Settlements Is Wrong
BY
ELLIOTT ABRAMS, URI SADOT
NYT SEPT. 7, 2014
Who Killed the Israeli Left?
Shmuel
Rosner
Project Syndicate SEP 8, 2014
Can Palestine Win the Peace?
DAOUD
KUTTAB
l スコットランドの独立
The Guardian, Friday 5 September
2014
If Britain loses Scotland it will
feel like an amputation
Jonathan
Freedland
「森に火が放たれるだろう.」
独立支持派の陣営にはすでに煙が匂う.かつて投票したことがない人も,役所に登録の列をなしている.記録的な投票率になり,独立支持派が勝利する,と言われている.
反対派は,まだ何も起きていない,と言う.しかし,保守党の失敗だ,と嘆く.政府は最初から間違っていた.スコットランド人に,政府支出削減,民営化,所得の最高税率を下げ,その代わりにベッド・タックスを課した.それでも支持すると思うのだろうか?
一貫性のないネガティブ・キャンペーンも失敗だった.初めから,あれはうまく行かない,これもうまく行かない,と言い続けた.
Alex
Salmondは住民投票の言葉として「独立independence」を決めた.それは仕方ないが,反対派のAlistair Darlingは,そのまま「独立」に反対し,ナショナリストの戦略に合意はできなかった.しかし彼らは,「独立」ではなく,「分離secession」や「分裂break-up」に反対するべきだった.
私がスコットランド人なら,賛成に投票しただろう.しかし,投票日の翌朝,連邦が否定され,私はそれを悲しく思うだろう.スコットランドを失ったイギリスは,全く違うものになる.国土の3分の1,人口の10分の1を失い,スコットランドの山と湖は同じであるけれど,それは外国のものだ.
21世紀は相互依存interdependenceの時代ではなかったか? 連邦は主権を共有し,資源やリスクを共有する.しかし,賛成投票はそれを放棄した.
The Guardian, Friday 5 September 2014
Debate has intoxicated Scotland.
People have seen the chance to seize power
Deborah
Orr
ナショナリズムではない.民主主義の問題だ.ウェストミンスターは,9月19日,スコットランドの声を聞く.
FT September 5, 2014
Scotland independence: From No to
borderline
By
Mure Dickie
NYT SEPT. 5, 2014
Why Scotland Should Stick With
Britain
By
GORDON BROWN
なぜスコットランドは独立を問うのか?
グローバリゼーションと相互依存はすでに古い.しかし,今もナショナリズムは消滅しない.スコットランドでも,からロニアでも,フランダースでも,小さな独立国家を再興して大きな適応力や同質性を回復する,という政治運動が盛んだ.彼らはそれが経済的な成功や社会正義を高めると主張する.
しかし,英連邦は国民のエスニシティを同質化しようとしなかった.スコットランドは決して「北イギリス」にならなかった.
変化したのはグローバリゼーションの要求だ.スコットランドは世界の工場の一つからサービス経済に変わった.世界の船の4分の1を供給していた造船所,労働者の40%以上を雇用していた製造業と鉱山はわずか8%しか雇用しない.
スコットランドは新しい技量,職場,産業を探した.その戦いはグローバリゼーションに向けられるべきであり,イングランドではない.しかし,産業革命のときと同じように,成長の不均等さ,不平等さに対して,コミュニティーを守るナショナリズムが高まった.グローバリゼーションの不確実さに対して,伝統的なアイデンティティの周りに資源を動員するのである.
スコットランド人もそうしたが,問題はイギリスを指導する保守党だ.保守党はEU加盟の是非を国民投票にかける準備をするが,社会保障を削り,グローバルな時代にイギリスを統一する計画を示せなかった.
イギリスはエスニシティではなく,アメリカやフランスのような価値や理念でもなく,常に,実際的な統合を選択し,制度を共有した.王室や,軍隊,議会,BBC,など.そして国民医療保険,教育,社会福祉,工場基準,をスコットランド,イングランド,ウェールズ,北アイルランドに保障したのだ.アメリカよりも,EUよりも,われわれは社会的・経済的権利を共有している.
英連邦が達成した成果は印象的だ.ミシシッピの中位の家計所得は,ニューハンプシャーの60%でしかなく,ベルギーの平均所得はルクセンブルグの9%でしかない.しかし,典型的なスコットランド家族とイングランド家族の所得は等しいのだ.
それゆえ,英連邦は複数のエスニックを含む20世紀のモデルである.21世紀のグローバリゼーションという挑戦にも,アイデンティティを失わず,国境を越える資本移動を利用して,ローカルにも,グローバルにも,繁栄を実現しなければならない.それにはスコットランドの助けも得て,イギリスがさらに連邦国家に向かうことが考えられる.
連邦こそ,スコットランドが世界に飛躍する最良の基盤である.
The Observer, Saturday 6 September
2014
We have 10 days to find a settlement
to save the union
Will
Hutton
10日間で,スコットランド独立派のキャンペーンに勝つには,議会が革新的な,想像力に富む提案をすることで,彼らの運動を吸収してしまうことだ.それができなければ,スコットランドは300年の連邦を解体するだろう.それは21世紀の不吉な兆候になる.
独立賛成派の主張とは,スコットランドがイングランドに隷属するのは宿命でなく,変えることができる,ということだ.
スコットランドはイングランドのトーリー的な夢想を共有しない.それは社会や相互の義務を否定するリバタリアニズムだ.公共政策の正義も公平さも廃棄した.公共サービスも,公共住宅も,企業も不動産も,市場の名のもとに売却してきた.それらはビジネスに,富裕層に解放された.そうやってできたのは略奪的資本主義,巨大な不平等,上位1%のために組織された社会だ.国家は社会関係を建設し,確信し,再投資する必要がある.独立スコットランドはこの方針を肯定した.
ナショナリストも同じ方針である.その違いは,独立が擬制でしかなく,ポンドを使用するが厳しいルールに従い,財政の自由は活用できない.それは利点の無い似非連邦主義である,と説得することだ.
The Guardian, Sunday 7 September
2014
Whatever Scotland decides, the old
order is dead and buried
Owen
Jones
FT September 7, 2014
Scots who dally with separatists
invite a bitter divorce
By
George Robertson
NYT SEPT. 7, 2014
Scots, What the Heck?
Paul
Krugman
スコットランド独立の住民投票が来週行われる.賛成派が急速に多数を占めるようになったのは,「不安要素」を減らすことに成功したからだ.世界経済を単独で生き延びることは難しい.
しかし,賛成派はカナダが成功していることを例に,スコットランド独立も成功すると説得した.確かに,カナダは巨大な隣国であるアメリカ経済のそばで,より左派に寄った政治姿勢と,さまざまな優れた制度を守っている.
しかし,カナダは独自通貨を持っている.だから政府は銀行を救済できるし,財政的に資金が枯渇しない.スコットランドはそうではない.政治的独立と,他国の通貨を共有する,というのは,破滅のレシピである.
ここでスペインに似てくる.スペインはユーロを採用したが,ユーロ圏は政府も財源も共有しなかった.その違いはフロリダとの比較でよくわかる.両経済とも2000-07年に住宅バブルを経験し,それが破裂した.フロリダの銀行は連邦政府が救済し,不況による財政赤字によっても社会給付は維持された.他方,スペインの銀行は救済されず,財政危機は給付を削って,若者の失業率が50%に達した.
もしスコットランドの有権者が,通貨を持たない国になっても安全だ,と信じているなら,それはひどい誤解である.
theguardian.com, Monday 8 September
2014
England’s love-bombing of Scotland
is a pathetic afterthought
Suzanne
Moore
FT September 8, 2014
A bad campaign is not the real
unionist problem for Scotland
By
Janan Ganesh
重要な事件が小さな理由で起きることはない.戦争や革命が起きるときは,死活的な利害が衝突し,国家に対する積年の不満が爆発する.究極の原因は深く,構造的である.
同じことは,平和的で民主的な分離独立にも言える.
多くの意見では,独立反対派the
No campaignのドライな姿勢が支持派の優位を許した責任を負うべきだ,というわけだ.冷たい真実を並べ,独立の技術的な失敗を語るだけで,イギリスのロマンチックな情熱を伝えなかった.
しかし,有権者が連邦に背を向けたのはその基本的な条件が弱まったからだ.英帝国は消滅し,大陸の脅威,プロテスタンティズム,軍事力はかつてほど重要でなくなった.連邦は1945年以来,衰弱してきたのだ.
さらに,スコットランド人が豊かになって,それが彼らを自己主張と攻撃的姿勢に向かわせた.20世紀の半ばは低かった一人当たり所得が,イングランドと等しくなった.スコットランドは,ロンドンと南東部を除いて,イングランドより良い暮らしをしている.
有権者たちは,連邦の過去が失敗かどうかではなく,現在の存在理由を問う.もし連邦が存在しないとしたら,われわれは今それを発明する必要があるだろうか?
Darlingは,確かに,連邦主義の感情をかき立てなかった.有権者たちは,実験室で温度によって変化する受動的な分子ではない,しかし,スコットランド人が支持に向かったのは,Alex Salmondが魂を動かす超人であったからではないし,エジンバラが平和主義・エコロジスト的な社会主義の理想郷であったからでもない.
最初から,自治を好む実際的な議論があった.反対派はこれをつかみ損ねたのだ.
英連邦は自然の産物ではない.それは条件が変化すれば解体する,人間が設計したものだ.それは異常ではなく,歴史的な諸力により説明可能なものだ.
もし反対派が失敗の理由を,半世紀に及ぶ衰退ではなく,反対運動の指導者たちに求めるなら,政治的変動に対する理解と覚悟が足りない.
この傾向はイングランド人のナショナリズムによるEU離脱にも現れ,ロンドンの自治権拡大要求にも表れている.危機に直面するまで理解できないらしい.
FT September 8, 2014
A fight to the finish for Scotland
FP SEPTEMBER 8, 2014
Showdown in Scotland
BY
PETER GEOGHEGAN
The Guardian, Tuesday 9 September
2014
A yes vote in Scotland would unleash
the most dangerous thing of all - hope
George
Monbiot
FT September 9, 2014
Tricky questions for Scots lucky enough to have a vote
John
Kay
SNPが成功したのは1970年代,石油の富を強調したときからだ.多くの論争は経済に関わる.経済構造,通貨,債務,予算,北海油田.しかし,決定的な違いはない.小国として繁栄することも,クローニー資本主義や地域分権型社会主義も,可能性としてはあるだろう.政治が経済を決める.
FT September 9, 2014
A journey into Salmondville
By
John McDermott in Linlithgow
NYT SEPT. 9, 2014
Britain’s Leaders Put On Push to
Keep Scotland in Fold
By
STEPHEN CASTLE
月曜日,スコットランド人であるゴードン・ブラウン元首相は,独立を拒んだ後,より大きな政治権力をスコットランドに与える,と約束した.火曜日,3大政党も速やかな立法化に同意した.しかし,54歳のJane McGeachy夫人は感心しない.「なぜ彼は首相のときにそうしなかったのか?」
ここでは議会が遠くに感じられ,政治家たちの人気は低い.保守党は59人のスコットランド議会において1人だけだ.「保守党は強欲に憑かれた人たちのために社会を創った.」
「独立するとは,自国に誇りを持つことだ.」
NYT SEPT. 9, 2014
Why Does Scotland Want Independence?
It’s Culture vs. Economics
Neil
Irwin
The Guardian, Wednesday 10 September
2014
The SNP have become Scotland’s
Pollyannas
Carol
Craig
FT September 10, 2014
Scotland’s fateful choice
FT September 10, 2014
Britain needs greater unity not a
messy break-up
By
George Soros
離婚は常に乱れる.スコットランドの独立は両方を弱くし,独立後のスコットランドは財政不安を生じる.
同じことはイギリスのEU離脱にも言える.
FT September 10, 2014
How a Yes would make enemies and
alienate peoples
Chris
Giles
FT September 10, 2014
Paying the price to keep Scotland’s
love
Robert
Shrimsley
NYT SEPT. 10, 2014
Separatists Around the World Draw
Inspiration From Scotland
By
KATRIN BENNHOLD
FT September 11, 2014
IMF warns of market fallout from a
Scottish split
By
Robin Harding in Washington
FT September 11, 2014
The world is saying No to Scottish
separation
Philip
Stephens
NYT SEPTEMBER 11, 2014
What Does It Mean to Be Scottish?
By
HANNA KOZLOWSKA
NYT SEPTEMBER 11, 2014
R.B.S. and Lloyds Bank Say They’ll
Move if Scotland Votes for Independence
By
CHAD BRAY and JENNY ANDERSON
Bloomberg SEP 11, 2014
European Breakups Shouldn't Be So
Hard to Do
Leonid
Bershidsky
l キッシンジャー
FT September 5, 2014
Lionel Barber reviews Henry
Kissinger’s ‘World Order’
By
Lionel Barber
リアル・ポリティークの本質を示す言葉だろう.ウェストファリア体制とは「現実への適応であって,道義的な考察ではない.」
キッシンジャーは,オバマが軍事的拡大からの後退を急ぎ過ぎた,と考える.
l ギャンブル都市開発
NYT SEPT. 5, 2014
Atlantic City’s Next Gamble
By
NELSON JOHNSON
郊外リゾートの実験都市であったアトランティック・シティは,さまざまな試みが失敗して衰退した後,ギャンブルによって繁栄した.ギャンブルで得た大金は都市のインフラに向けられず,政治支援者への雇用と給与で消えた.政治のボス支配は,その後,新しい市長によって,レジャーの変化にともなう革新を実現し続けた.その成果として,ギャンブル以上の都市の魅力を発揮することで未来に存続できる.
(後半へ続く)