IPEの果樹園2014

今週のReview

9/8-13

 

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フランスの内閣改造 ・・・スコットランド独立と通貨 ・・・外交と秩序 ・・・ウクライナ危機 ・・・中国の国内問題 ・・・NATOの再生 ・・・香港の選挙 ・・・ECBの量的緩和 ・・・モディと安倍 ・・・チャーター・シティ

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  フランスの内閣改造

The Observer, Saturday 30 August 2014

France is in turmoil as advocates of austerity and investment fight it out

Will Hutton

先週の月曜日,Manuel Valls首相が辞任した.オランド大統領は,党内左派との共存を放棄し,左派・反ドイツ・反グローバリゼーションのArnaud Montebourgを,ビジネス界の好むロスチャイルド風ソーシャル・リベラル派のEmmanuel Macronに交替させた.こうして露骨にビジネス寄りの第2Valls内閣を指名したのだ.

1930年代型の不況を克服することによって第2Valls内閣の評価が決まることは明らかだ.EU,ドイツ,ECB,銀行家,金融界に対する非難が高まっている.それは経済の問題にとどまらない.ドイツの再統一により,それ以前は西ドイツとのパートナーシップがフランスに重要な政治的優位を与えていたEU運営の条件は失われた.

右派の分裂も左派に劣らない.その中で,フランスの次の大統領が,極右・国民戦線のマリー・ル・ペンMarine Le Penになる可能性がある.VallsMacronの内閣が景気回復に失敗すれば,ル・ペンの率いるフランスがEUを離脱し,EU崩壊に至るだろう.そのときヨーロッパは,近隣窮乏化政策に走り,競争的切り下げ,保護貿易,不況を激化させる.ユーロ懐疑論者たちが,勝利という破滅を実現する.

内閣の辞任は,先週のArnaud Montebourgによる演説が発端であった.彼は大統領候補者選挙で3位になった実力者である.彼は,フランス製品のための戦いを唱え,若い投資家たちを「第3次産業革命のサンキュロット」と呼んだ.彼らを自由貿易や無慈悲な金融界の「見えざる敵」から国家が守り,育てるべきだ,と.そしてルイ14世の宰相にちなんで,「参加型コルベール主義」"participative colbertism"を唱えた.

経済大臣の我慢は147日で切れた.論敵たちが唱える,ヨーロッパを停滞に閉じ込めている「ドイツ右派」の緊縮信仰に,Montebourgは立ち向かってきた.これに対してVallsは「彼か,自分か」という選択をオランドに求めた.新しく経済大臣になったMacronは,社会党の「週35時間労働」のような主張をまじないとして軽蔑していた.2年前に,「金持ちは嫌いだ」,「真の敵は金融界だ」と言っていたオランドの変化は驚くほどである.

フランスにはイギリス以上に多くの多国籍企業があり,その経営者たちが世界市場でフランスのシェアを拡大している.旧技術に企業は投資しない.不確実さも多い.労働市場の弾力性を求めて労働組合と衝突し,あるいは,参加型コルベール主義を試みても,投資は起きない.それは停滞に終わる.

VallsMacron2つのことをしなければならない.そのEU寄り,ドイツ寄りの姿勢を利用して,ドイツにECBの金融的拡大策を支持させること.ECBは銀行システムを再建し,政府の財政刺激策を支援する.また彼らは新サンキュロットを支援する洗練された方法を開発しなければならない.雇用や解雇は必要に応じて行えるが,労働者や企業家のリスクを緩和することだ.要するに,福祉システム,労働市場,技術革新システム,それら全てを改革することよって,資本主義的で,しかも労働者にやさしいシステムを実現することだ.

社会的なリベラリズムとは,そういう意味である.


l  スコットランド独立と通貨

Project Syndicate SEP 3, 2014

Should Scotland Leave the Pound Zone?

HAROLD JAMES

住民投票によりスコットランドが独立すれば,イギリスとヨーロッパの政治体としての構成に革命を起こすだろう.それはカタロニアから北イタリアまで,さまざまな分離独立運動を大きく刺激する.しかし,独立の経済的な衝撃ははるかに不明瞭だ.

独立推進派は,主にスコットランドが別個のアイデンティティを持つと強調する.しかしスコットランドの歴史と伝統は,もちろんそれ自身のものだが,イングランドやイギリス諸島の他の部分と何世紀も交流してきたことで形成された.

緊急の問題は貨幣だ.独立したスコットランドはイギリスのポンドを使用できるのか,するべきか? 住民投票のこの数か月の議論で,スコットランド,英連邦,ヨーロッパの貨幣が,独立の経過によって大幅に変化しうることが分かった.

独立派はポンドを維持できるという.しかし,イギリスのGeorge Osborne大蔵大臣はAlex Salmondの通貨同盟案を明確に否定した.

しかも,ナショナリストたちの考えはユーロのマイナス・イメージと重なる.単一通貨は共通の金融政策を必要とする.通貨同盟全体で経済条件が異なれば,ときに,個々のメンバーが不当な政策に従うことになるだろう.

例えば,2000年に入って,建設ブームが起きていたアイルランドやスペインはもっと緊縮的な金融政策,高金利と融資/資産の比率を持つべきであった.しかし,ユーロ圏加盟国として,政府も民間部門も低金利を利用できた.金融危機の後,政策担当者たちは銀行に融資を再開させようとしたが,不良債権処理を進める財源はなかった.

今,英連邦は同じジレンマに直面している.ロンドン圏の不動産ブームは金融引き締めを必要としている.しかし,弱弱しい景気回復の中で金利を引き上げることは,経済全体に破滅的な影響を及ぼす.

さらに,ロンドンはドイツに似て,巨額の経常黒字を維持している.それは,ドイツの黒字がユーロ圏の他の部分にデフレを強いているように,潜在的ながら,深刻な問題を意味する.

通貨の変動は,ある特定の強力な,そして,支配的な部門に従う.イギリスの場合は金融部門だ.2007-08年の急激なポンドの減価は,輸出競争力を介して,イギリスに非常に貴重な経済的刺激を与えた.ユーロ圏加盟国にはない金融政策の弾力性が,英連邦にはある.

しかし,金融部門が回復すると,ポンドの価値は2008年に18%も回復し,輸出競争力を失った.シティにとって良いことは,必ずしも,経済の他の部分にとって良くないのだ.

スコットランドをロンドンから切り離すことは,間違った主張をもたらす.確かに,Adam Smithが認めたであろうが,ロンドンの商人組合はイギリスの経済政策を歪めている.しかし,スコットランドが独自の通過を得ても,北海油田や天然ガスへの強い経済的依存により,石油によって変動する通貨になる.石油価格が上昇するとき,スコットランドの他の部門は通貨の増価に苦しむだろう.競争力を失った産業は赤字を出し,破綻する.経済活動はますます集中し,特化する.

調整の負担を為替レートに頼ることは間違いだ.スイスやノルウェーのような開放型の小国は,世界金融危機の際に通貨の大幅な増価に苦しんだ.スイスは,ユーロに対する為替レートの変動に上限を設けたのだ.

したがってスコットランドはより大規模な通貨圏,より多様化した経済に結びつくことを求めるだろう.ユーロを採用することを考えてはどうか?

The Guardian, Thursday 4 September 2014

Scottish independence: A yes vote will produce a leaner, meaner Scotland

Simon Jenkins

この半年は民主主義の祭典だった.政治的討議に,何の壁も通行禁止の標識もなくなった.投票率は80%に達するだろう.それ自体が勝利である.重要な問題について,政治参加が失われていなかった.

イングランドの支配者たちは,スコットランドの半分,アイルランドの大部分が嫌悪と不信を示していることに衝撃を受けただろう.独立反対派のキャンペーンは資金をつぎ込んだ「恐怖作戦」であった.独立とは,ポンドを失い,王室を失い,核ミサイルを失い,頭脳を失い,BBCを失い,その代わりに,貧困とテロリストを得るだけである,と.

双方が継承と約束を並べたが,投票が終われば,その主張は事実上それほど大きな違いをもたらさない.より明確なスコットランドであるが,イングランドにも近い.共通の市民権,境界の開放性,共通通貨,合同銀行,福祉・安全保障・税制・放送に関して制度が合意される.

独立は,北海油田と財政移転がほぼ相殺し,エネルギー消費者からの補助金を失い,1000億ポンドの債務を管理しなければならない.しかし,スコットランドの投票は経済的な脅迫に屈しないだろう.通貨の問題は政治家たちが解決せよ.

反対運動の並べる統計も,賛成派のSalmondが描く空想的な社会主義も,正しくない.金融危機がギリシャ型の不況からSalmondの失脚をもたらせば,スコットランドは保守党が政権を得て,オフショア資本主義に変わる.

よりスマートなスコットランドは,Denmark, Norway, Ireland or Slovakiaのように,俊足の企業家たちにとっての理想郷になるべきだ.

1922年にアイルランドが分離したとき,英連邦は終わったのだ.スコットランド人は民主主義の本質を議論しているのであり,誰が支配するべきかを問う.それは憲法の議論であって,収支表ではない.ヨーロッパ各地で人々はより大きな地域の自治を求めている.中央政府がそれを聞かないときだけ,ユーゴスラビアのように分裂する.


l  外交と秩序

FT August 29, 2014

Chooseenemiescarefully but be less picky aboutallies

By Philip Bobbitt

キッシンジャーと毛沢東が笑顔で握手する写真は,外交誌上で最も繰り返し参照された.キッシンジャーが共産主義国同士の対立に乗じるために手を組んだことはもちろんだ.中国が滅ぼそうとしてきた国家システムに毛沢東を招き入れた.

独裁者とも対話するべきか? もちろん,いつもそうしてきた.アフガニスタンでは,タリバンを追い出すために各地の軍閥と手を組んだ.ではISISを倒すために,シリアのアサド政権とも手を組むべきか? われわれはアサドを国民に対する残虐行為で非難し,退陣を要求してきた.

F.ローズベルトは共産主義を抑えるために中米の独裁者と手を組んだ.ファシズムとの戦いでは,悪魔とも手を組んだ.それはスターリンだった.1941年,ヒトラーがソ連に侵攻したことは決定的瞬間であった.そのときチャーチルは語った.「もしヒトラーが地獄に侵攻するなら,私は下院に悪魔を特別参考人として招待するだろう.」

国家の第一の義務は,それを生み出した社会の生存を守ることである.


l  ウクライナ危機

NYT SEPT. 3, 2014

A Way Out for Ukraine and Russia

By ANATOL LIEVEN

プーチンの権力はあまりにも深くウクライナの戦略に関わっているから,キエフ政府が軍事的に勝利することを許すことはない.西側がウクライナで勝利する見通しは必ず失敗に終わり,モスクワとの合意だけが事態を鎮静化できる.

もし分離独立派を抑えるほどキエフ政府への軍事的な支援を強化すれば,それはロシアの軍事介入を招き.西側も軍事力を投入しるしか阻止できないが,西側介入の可能性はない.

プーチンのウクライナ戦略が高い支持を得ているのは,アメリカが支援したキエフにおける政権転覆は,西側による反プーチンの陰謀であり,ロシアの死活的な利益を否定したものと理解されているからだ.歴史を少しでも知る者は,ロシアがウクライナを保護下に置く関心の強さは,西側の関心とまるで違う.

その意味では,クレムリンの姿勢は抑制されている.ウクライナの攻勢に対して,ロシア軍はKharkov and Odessaまで支配を拡大することができたはずだ.またモスクワはポロシェンコの大統領選出を承認した.クリミア同様,ウクライナ全体を西側の友好国からロシア側に引き戻すことを求めた1年前より,要求を後退させている.

NATOがウクライナ防衛のために軍事行動を取る意思がないことは明白である.選択すべきは,ウクライナが完全な西側の国(EU/NATO加盟)になるか,ロシアの領土の一部として消滅するか,ではない.ウクライナの独立を維持したまま,Donbass地域に高度の自治権を認めるか,半分凍結された軍事紛争を抱えたまま,ウクライナがその他の発展の可能性を損なうか,である.

前者の場合,ウクライナの西側との関係は深まり,民主主義や成長を模索できる.


l  香港の選挙

Bloomberg AUG 29, 2014

To Save the Rich, China Ruins Hong Kong

By Nisid Hajari

香港の選挙制度は,民主主義の問題であるだけでなく,資本主義の問題でもある.選挙を経なければ,資本家たちの利益をどうやって守るのか? 香港の資産の60%は数人の富裕層によって支配されているが,彼らは銀行や不動産で富を得た,この分野は政府との関係が重要である.

北京政府はチベットでも新疆でも地域の自治権を否定し,テロリストの拡大を招いた.香港もさまざまなエスニックを受け入れた自治区であり,民主主義を許し,富裕層の金儲けを許すことで,政治的な安定化を目指すモデルである.今のところ北京はその発展に失敗しているが.

FP SEPTEMBER 1, 2014

Democracy is Contagious

BY ISAAC STONE FISH

1982年,イギリス植民地であった香港について,当時の指導者,鄧小平がマーガレット・サッチャーと話し合った.「私は今日の午後にも香港に歩いて行って,すべての地区を取り戻せる.」それに対して,サッチャーは「あなたを止めることは何もできない.」と応えたが,さらに言った.「しかし世界は中国がどういう国であるかを知るはずだ.」

香港に普通選挙を認めれば,他の都市でも拒むことは難しくなる.たとえば,深センShenzhenが求めるだろう.さらに,香港の選挙で北京にとって好ましくない人物が当選し,香港の分離独立を主張したらどうなるか?

中国政府は台湾への影響を心配している.


l  ECBの量的緩和

FT August 31, 2014

Draghi approaches his Abenomics moment

By Stephanie Flanders

ジャクソンホールにおけるECBのドラギ総裁による演説は,ユーロ圏にアベノミクスが誕生したことを告げるものだった.

量的緩和QEが正しいかどうかではなく,理想の世界ではないユーロ圏で,QRがもたらす利益は悪化のリスクを超えたか,と問うべきだ.私はドラギがQEを支持すると考える.

QE反対論は,インフレ率が低下しても世界が終わるわけではない,と言える.確かに低インフレ率がもたらすユーロの増価は企業を苦しめている.しかし,他方で家計の消費は刺激される.

また,反対派はQEが構造改革を進めない,と主張する.確かに日本の経験は,成長を高めるのは金融政策ではなく,政府の行動が必要である,と示している.しかし,この点でインタリアに誕生したレンツィ政権は,改革を推進するが,停滞によってそれを阻まれている.

ECBはこうしたヨーロッパの政治状況において金融緩和を選択する.

FT August 31, 2014

More integration is still the right goal for Europe

By Karl Lamers and Wolfgang Schäuble

理想的には,ヨーロッパは政治同盟になるはずだった.しかし,1954年,フランス議会が欧州防衛共同体を批准しなかったとき,経済共同体への方針が定まった.ヨーロッパの人々が繁栄することで,この方針は正当性を得た.

1994年,われわれ(キリスト教民主同盟)はEUの将来について報告書を出した.その方針とは,1.基本的な憲法を定め,2.前進し続けるが,そのためには異なる速度で改革を進める弾力性を許すこと.ただし,統合を推進するEUのコア・グループを形成する.

共通通貨も,財政安定化の協定を付加したのに,それが2003年に独仏により無視され,他国もまねたのは失敗だ.統合化は多くの課題で前進を求められる.各国の予算も,それを拒否できる権限を欧州予算委員に与えることだ.EUの定めたルールを,それに適用な地域,国家,超国家の政府が実行する.ユーロ圏諸国には政策決定のための「ユーロ圏議会」を設ける.

前進するコア・グループを介して,一層の統合を実現せよ.

Project Syndicate AUG 31, 2014

Europe According to Draghi

JEAN PISANI-FERRY

ドラギは新しい爆弾を落とした.ワイオミングの講演で,3つのタブーを同時に破壊したのだ.1.金融政策と財政政策の非正統的な組み合わせを支持する.2.個別の国ではなく,ユーロ圏全体の総需要を問題にする.3.中央銀行は政府に融資してはいけないという常識を否定する.ECBが最後の貸し手として行動できないことは高い代償を求める.政府は脆弱で,財政政策の余地が狭い.

債券購入による拡大策は,条件付きのOMTさえドイツ連銀の反対にあった.各国の財政政策はドラギの期待に応えなかった.どうすればユーロ圏は適切な財政政策を採れるのか? リーマンショックのような,突然,明らかに需要を抑える,高度に対照的なショックの場合,政策協力は容易である.ヨーロッパの問題はそれと異なる.財政政策の余地が制限されているのだ.それが大きいドイツは近隣諸国のための財政刺激策を嫌う.

予算案に,自国の議会だけでなく,加盟諸国の多数(もしくはヨーロッパ議会)の支持を求める.あるいは,諸国間で,財政赤字を許可する権利を譲渡させる.あるいは,ユーロ圏の共通財政に合意する.それには時間がかかる.


l  モディと安倍

FT September 3, 2014

The latest special relationship in Asia

モディと安倍との間には,特別な関係がある.ともに改革派であり,経済の停滞感を払拭しようと主張する.両国は大きく異なった面があるけれど,補完的である.日本からの投資が急速に増えている.

中国の成長,軍備拡大,攻勢に対して,両者は戦略的な視点が似ている.政治的な価値を共有し,ナショナリズムにも共感する.韓国に比べて,インド人は日本の戦争について「帝国主義からの解放」という大義を受け入れやすい.

アジアの安全保障に関して,長期的には「中国の影響圏」という見方に協力して反対する.しかし,どちらのナショナリズムにも危険な,孤立した面がある.国内経済の改革で成果を上げることが重要だ,という点も同じである.


l  チャーター・シティ

FP SEPTEMBER 1, 2014

Under New Management

BY MAYA KROTH

南北アメリカ大陸で最も貧しい国の貧しい地域で,Paul Romerが提唱した「チャーター・シティ」の実験が始まる.ホンジュラス政府は憲法を改正して,"zones for economic development and employment" (ZEDEs)の設立を認めた.深センのような貿易・輸出特区として直接投資を集めるだけでなく,「チャーター・シティ」は法律を定め,独自の裁判所を持ち,警察部隊を保持する.

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The Economist August 23rd 2014

What China wants

Essay China

Afforestation in China: Great Green Wall

Race relations in America: The lessons of Ferguson

(コメント) 中国の市場規模が世界最大になるから,国際的なルールも中国が決めるべきである.中国はアジアにおいて支配的な地位を回復する.領土も秩序も,中国の意見を聞くべきだ.アメリカがアジアに関して干渉するのは間違っている.

中国国内の強硬派が,特に金融危機以後,国際秩序の変化を確信するようになったが,それでも戦争を回避し,協力して新しい秩序を実現する途はある,と考えます.

The Economistの考察は,中国に関しても,アメリカに関しても,深みを欠くようになりました.

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IPEの想像力 9/8/14

対称的な映像に,「ゲームのルール」を考えました.一つは,災害や戦争.もう一つは,スポーツです.

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大震災から3年半を経て,NHKの特集が放映されているのを,何度か目に留めました.しかし,長く観ることはありませんでした.共感することや,協力し,支援できること,それが成果につながることは,自分の手に余る感覚が強かったからです.

人と,資源,情報をつないで,復興を語る.なるほど経営者は偉い,と思いました.京都の家庭農園を経営する企業が,被災地でトマト農園を支援する話でした.家族を亡くし,仮設住宅で暮らす亘理の人々とともに,働く場所を再生します.

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震災で,仲の良い妹・おと音を亡くした楓音ちゃんは,妹の新しいランドセルに触れませんでした.代わりに使ってやれ,という父の言葉を聞いても.

しかし,3年経って,そのランドセルで小学校に通うようになりました.

妹が死んだとは信じられなかった,と言います.このランドセルは妹のものだから.姉は,妹が帰ってくるのを待っていたのです.

今は,ランドセルを背負って,小学校へ通います.・・・妹を連れて行ってやれるか,と思うから.彼女の言葉の最後は,涙に消えました.

灯篭流しに,初めて姉は書きました.

「おと

元気にしているか?

幸せにしているか?

これからも ずっと 一緒にいようね.

いつでもまた,遊びに来てね.」

川に流された小さな灯篭には,妹に話す姉の言葉が揺れています.その言葉が妹に届き,多くの灯篭が流れる,とても美しい夜景とともに,彼女の慰めとなってほしい,と思います.

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錦織圭の全米オープン・テニスでの活躍に興奮しました.一つのコートで勝負する,たった2人のゲームが,これほど多くの人を魅了します.

しかし,タイガーウッズの年間収入や広告契約料と比較するのは,やめてほしい,と思いました.

南京ユースオリンピック大会に出場した選手たち(14~18歳)の真剣な表情,そして敗北したとき,17歳の少女が流す涙は,心が震えるような瞬間です.ひたむきな努力と弱さ,成長する強さ,厳しい勝負に臨む高揚感,繊細さを見たように思います.彼ら彼女らの明瞭な言葉を聞きながら,とても羨ましい,素晴らしい時間を生きているのだということを,私たちも実感します.

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企業も,スポーツも,人を活かし,成長する仕組みであり,文明という「ゲームのルール」だと思います.

秩序がないと感じるのは,不当に苦しむ者がいるからです.すべての子供の命が同じではなく,病気や貧困,戦乱によって亡くなった子供を,探し続ける母親の嘆きに応える者がいない,ルールがないからです.

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