IPEの果樹園2014
今週のReview
9/1-6
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アートとしての金融政策 ・・・人種差別を見るとき ・・・ユーロ圏の成長 ・・・中東世界の秩序 ・・・NATOの改革 ・・・ロシアとの合意 ・・・秩序ある世界へ ・・・ユーロ圏の改革 ・・・アベノミクスの退潮 ・・・不平等と成長
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign
Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, Yale Global そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l アートとしての金融政策
FT August 22, 2014
The
rules of central banking are made to be broken
By Barry Eichengreen
ジャクソン・ホールに集まった中央銀行家たちには,失われた時代へのノスタルジアがある.それは,中央銀行家が伝統的な金利の変更だけで金融政策を実施できた時代だ.
特に,中央銀行家たちはゼロ金利が長引く時代を早く抜け出したがっている.中央銀行が担保付証券やコマーシャル・ペーパーを購入する量を減らしたいのである.こうした操作は金融市場に介入し,好ましくない副作用を生んでいる.アメリカでも,イギリスでも,ユーロ圏でも.
しかし,彼らは危険な心情に流されている.金利の目盛を1つか2つ動かせば,正しい結果をもたらす,という理想化された過去を求めているのだ.高血圧の患者を前にした医者のように.中央銀行は常に,財務省証券だけでなく,コマーシャル・ペーパー,その他の企業のいろいろな債券を購入してきた.
中央銀行業を簡潔な公式に集約する試みは,それが金本位制下の為替レートであれ,最近のようなインフレ目標であれ,他の問題と摩擦を生じた.たとえば,インフレや産出が変化したとき金利を動かす方法について,連銀を縛るテイラー・ルールだ.
なぜ中央銀行家たちはこのような機械的な金融政策の間違いを犯すのか? その一つの理由は,1970年代,80年代の金融政策が続けて失敗したことだ.政策担当者たちの裁量が信頼できないから,彼らを単純なルールに縛りつけた.
もう一つの理由は,分析モデルや分析方法が高度に洗練されたことだ.連銀スタッフたちが最初に1970年代にエンジニアリングからそれらを導入した.他の中央銀行もそれに続いた.もし経済の構造が一連の固定的な数式で表現できるなら,金利をファイン・チューニングすることも容易であろう.
ミルトン・フリードマンはそうした流れに属するが,モデルを文字通りに受け取ることはしなかった.経済構造の不確実性は大きすぎるからだ.しかし,こうしたテクニックの見せ掛けの正確さと,それがもたらす偽りの科学主義が,最適なフィードバック・ルールを実施するのが自分たちの仕事だ,という中央銀行家の信念を強めた.アイスボックスの中身が溶け始めたら冷却装置を動かすスイッチを押すだけだ.
そのような理想の世界はかつて存在したことがないし,これからも存在しないだろう.世界がますます金融的に洗練されると,貨幣と信用との間に線を引く政策決定の困難は増す.
中央銀行は金融的な安定性だけに責任を持って経済を規制し,他の政府機関と切り離す,というのは非現実的である.問題は,どこに線を引くか,である.
第1に,中央銀行の専門的な対応力がある分野に対して(繊維産業を復活させることは中央銀行にできない),第2に,金融政策にとって重要な意味を持つ問題について(ECBのように,財政赤字の削減ではなく),第3に,物価と金融の安定性を維持する視点を失わない限り(改革を促すために金融緩和を抑えるECBは間違い),中央銀行は諸問題のウェイトを判断するしかない.
中央銀行の仕事は,今も,科学ではなく芸術である.
l 人種差別を見るとき
The Guardian, Friday 22 August 2014
Ferguson’s
black community must not be given the same ‘justice’ as Trayvon Martin
Gary Younge in Ferguson
ミズーリ州,ファーガソンのすぐ外で,水曜日の午前10時に,30歳代の黒人男性が,8人の白人警察官に停止させられ,質問を受けた.彼は極めて慎重にポケットが空っぽであることを示し,非常にゆっくりと移動して彼らに叫んだ.それは純粋な憤懣の独白であった.彼を逮捕した男たちに対してだけでなく,彼らが代表するシステムに対して.
革命に関する多くの書物の第1章は,権力がいかに腐敗し,人々がいかに惨めな状態で,苦しんでいるか,という叙述で始まる.それは心理学的な章である.人々は嫌がらせを受け,恐怖を味わってきた.しかし,彼らは恐怖を克服し,自由を得るのだ.
この2週間で何が達成されたのか,と疑う者は,これがそうだ,と言おう.軍のように武装した警察部隊に対して,数百の黒人たちが対峙する.彼らはこの不平等,不公平に焦点を向けた.警察に対して挑戦し,自分をさらす勇気を得た.
Michael Harrington が記念碑的な著作 The Other Americaで示したように,貧困は単に無視されているのではなく,見えないのだ.ファーガソンの白人エリートたちは,初めて黒人を見た.
世界のメディアが見守る中でも,近くの郡からきた警察官はセミオートマチックの拳銃を抗議する人に向けて言った.「おれはおまえを撃ち殺したくてしようがない.」 そのあまりの劣悪さに,治安維持をハイウェーパトロールが交代した.しかし,監視されている中でも行動を抑制できない警察が,監視されなければ何をするのか.
連邦政府は介入した.しかし,次はどうなるのか? 抗議活動は弱まっている.連邦警察は撤収する.裁判所が(Michael Brownを撃った)Darren Wilsonを裁くのだ.以前の例では,司法がこうした人物を無罪放免することもある.
NYT AUG. 24, 2014
A Funeral
in Ferguson
Charles M. Blow
Michael Brownの母は,涙を流しながら,その苦悩を語った.彼の父も,ストイックな,決意を込めた話し方だった.しかし,そこには空白の場が隠しようもない.
月曜日に,彼らは世界が見守る中で少年を埋葬することになっているからだ.
愛する者を失うのは悲しいことだ.しかも自分より若い者,それがまだ若い,少年であれば,親としての苦しみは深いはずだ.子供は自分より長く生きる.その定めがくるうからだ.
母親は,誰かが電話で(息子の死を)知らせてきた時のことを語った.父親は,彼らが息子に会わせてもらえず,自分たちだけにしてくれなかった,と言った.4時間半も放置されて,誰も,何も答えてくれなかった.
人が悪者によって殺されたのではなく,警察官に撃ち殺されたのである.それは明らかに疑問であり,答えを求めている.
悲劇にあって,息子に代わり,彼らは立ち上がり,真実と正義を求めて抗議するだろう.彼らのように強ければ.しかし,子供が死んだら,自分たちは取り残され,力を失うだろう.
だから,中部時間の月曜,午前10時.葬儀が始まるとき,悲嘆にくれる2人のことを想ってほしい.
SPIEGEL ONLINE 08/26/2014
'We're
Like Animals To Them'
An
American City's Daily Racism
By Markus Feldenkirchen
「彼らはわれわれを人間と思っていない.」 「シカを撃つように,われわれを撃つ.」
かつて,野球場では黒人の席が決まっていた.今ではそのような人種隔離規制は廃止された.しかし,席はそのままだ.
l ユーロ圏の成長
Project Syndicate AUG 22, 2014
A
European Lost Decade?
MICHAEL HEISE
インフレ率は0.4%にまで落ち,景気回復は弱い.ECBの金利はほぼゼロで,民間融資の伸びず,公的債務は増え続けている.ヨーロッパは日本の1990年代,「失われた10年」を経験しつつあるのか?
欧日の危機の経過は似ている.債務に依存した不動産投資とバブル,深刻なバランスシート不況.日本の諸銀行は担保価値の減少と不良債権の増加で,巨額の損失を自己資本で償却できなかった.支払い不能の企業に融資を続け,長期の,苦しい処理過程,低投資,低成長をもたらした.民間需要の減少を補うために政府は債務を増やして,15年間で2倍のGDP比230%に達した.
しかし,幸い,ヨーロッパが日本と同じ経過をたどる必然性はない.第1に,ヨーロッパの不動産バブルは日本より小さかった.その損失も少ない.
また,国によっては公的債務を増やす程度が異なっており,スペイン,ポルトガル,アイルランドの企業が負う過剰債務は,ドイツ,フランス,イタリアによって相殺されている.ヨーロッパ全体では債務削減は限られている.
最後に,ヨーロッパの資産価格の調整幅は小さく,株価はすでに2007年の水準を回復している.それに対して日本の株価は,4万円近くまで上昇した後,今でも1万5000円程度でしかない.
ヨーロッパには,日本の失敗から学ぶ,という利点もある.日本政府は経済成長を高める構造改革を進めることに失敗し,労働市場や銀行の不良債権処理も遅かった.金融緩和だけでは改革は進まない.1990年代の日本も,現在のアメリカも,大量の流動性を供給したが企業や家計は借り入れを増やさなかった.
ECBが量的緩和に進むべきだ,と主張するのは間違いだ.それは日本がやったことだ.超低金利も財政再建を政府が延期することにつながった.公的債務の累積と低成長,という日本と同じ状態にユーロ圏を陥らせる.
l 中東世界の秩序
FP AUGUST 28, 2014
The
New Arab Cold War
BY STEVEN A. COOK, JACOB STOKES, ALEXANDER BROCK
中東では多くの代理戦争が起きて,イラクやレバノンから北アフリカにまで広がっている.それは中東地域の指導権をめぐる諸国家間の汚れた戦争であり,暴力の蔓延である.
最近,エジプトとアラブ首長国連邦がリビアのイスラム過激派に行った空爆も,こうした戦争の一つである.オバマ政権は中東に関わることを否定し,撤退を進めてきたが,事態を放置すれば一層の混乱が拡大する.それを一つの秩序に向かわせる力はアメリカにしかないのである.
l NATOの改革
NYT AUG. 22, 2014
NATO’s
Second-Class Members
Slawomir Sierakowski
ポーランドは15年,バルチック諸国は10年,NATOに加盟してから経過した.それでも新加盟国には旧加盟国のようなNATO軍の基地がない.ロシアはウクライナで戦闘を支援しており,NATOの新加盟諸国に対する安全保障は疑われる.
特にドイツは,ロシアとの約束(新加盟国にNATOの軍事基地を置かない)を守り,「エスカレーションを避ける」ためにロシアを刺激してはならない,と主張する.しかし,それは1938年の,悪名高いミュンヘン会談,「宥和策」,によく似ている.
WP AUG. 22, 2014
Obama’s
legacy could be a revitalized NATO
By Anne Applebaum
残された2年間で,オバマ大統領はNATOが生まれ変わるための再交渉を進めて,それが単に冷戦の遺物ではなく,今も生き続けていることを示すべきだ.加盟国に防衛予算の増額を求め,明確な目標を定め,毎年の軍事演習に参加し,加盟国は他の加盟国の安全保障を担い,ロシアが示したような特殊部隊や情報戦争に備え,冷戦後の軍備縮小を交渉し,中距離ミサイルの制限・廃止を求める.抑止は機能したし,今後も機能するだろう.
指導者間の真剣な議論が必要だ.
l ロシアとの合意
Project Syndicate AUG 26, 2014
Endgame
for Putin in Ukraine?
ROBERT SKIDELSKY
プーチンの国内支持率は80%もある.それはいつまで続くのか?
ウクライナに介入したプーチンの地政学的な事情は理解できる.西側がロシアの共産主義体制崩壊後に味わった弱さを利用して,その歴史的な影響圏を侵食したのだ.モンロー宣言は現代の国際法と一致しないが,全ての大国はその戦略的利益を強制する.
また,人類の利益にとって,一極世界に代えて多極化を支持するプーチンの主張も理解できる.普遍的な主権を主張するほど賢明で,誰にも公平な,単独の国家は存在しないからだ.
しかし,上海協力機構やBRICSの銀行は,IMFや世界銀行に代わるものではない.たとえば中国が,台湾やチベット独立を支持する国に融資を認めるはずがないからだ.
また,ロシアは西側に強制できる力を持っていない.そのGDPは約2兆ドルであり,アメリカとEUのGDPは34兆ドルである.ロシアの人口は急速に減少している.つまり対立は,西側よりも,ロシアを大きく傷つけるのだ.
ロシアとの対立は終わるだろう.プーチンはクリミアとウクライナ東部のロシア系住民とを手放さない.これらを認めるような西側との関係正常化を求める.それは西側の追加制裁をもたらす.天然ガス輸出の規制,WTO資格の停止,ワールドカップのボイコット.
ロシア国民の反応は,指導者への強い支持である.しかし,プーチンの支持率は高いが,議論を経たものではない.彼の政策が国民にもたらすコストを考えるなら,支持は失われるが,メディアを統制し,反対派を弾圧している.
妥協案は合意可能である.ウクライナの中立性を保障する,憲法の枠内で地方自治を拡大する,暫定的な国際監視下でクリミアの住民投票を行う.
しかし,問題はこうした提案をプーチンが受け入れるかどうかではない.そもそも西側はプーチンの言うことを信用できなくなった.提案することが無意味である.指導者は皆,嘘をつくし本心を隠すものだが,クレムリンの情報操作は限度を超えている.西側はプーチンと合意できない.
外交における冒険が失敗に終わった指導者は,結局,国内でも権力を失う.プーチンのパワー・エリートにも分解が始まっている.辞任圧力は高まるだろう.プーチンとともにロシアが滅びる必要はない.
数か月前には想像できなかったウクライナ危機の収束過程が始まるだろう.われわれが思っているより,プーチン時代は早く終わる.
NYT AUG. 28, 2014
The
Other Big Mac Index
By MASHA GESSEN
1991年春,モスクワのプーシキン広場にある世界最大のマクドナルド店に入る行列へ,私は初めて入った.その当時はまだソビエト連邦の時代で,1年前に開店したが,まだ独自の空間だった.それは人々が私的な会話を楽しむ,モスクワで唯一の公共空間であり,他のカフェやレストランと対照的に,店員が丁寧にサービスを提供していた.
私は暗い霧雨の中,行列に20分もいた.なぜならNGOを組織したいという若者にあって話し込んだからだ.それ以前,私が行ったインタビューは,常に2つの場所であった.官僚の事務室か,誰かのアパートのキッチンだ.西側では当たり前の公共空間がなかったのだ.
若者は,全く新しい何かを始めようとしていた.マクドナルドは,ファーストフード店だけでなく,未来の使者でもあった.
先週,ロシアの消費者庁は,モスクワのこの店を含む,いくつかのマクドナルド店を閉鎖した.
l 秩序ある世界へ
NYT AUG. 23, 2014
Order
vs. Disorder, Part 3
Thomas L. Friedman
中米の崩壊した諸国から殺到する子供の難民たち,西アフリカに広まるエボラ・ウィルス,イラクとシリアに生まれたイスラム国家,ロシアによるウクライナの侵食,国連が報告した第2次世界大戦後初めて5000万人を超えた難民の時代.
秩序ある世界と秩序を失った世界が対峙している.それは単なる私達の空想ではなく,一つのロジックがあるからだ.
3つの趨勢が収斂しつつある.1.「非自由な人々」が増加する.2.「秩序ある世界」は弱く,分裂している.3.秩序ある世界の人々を包括するアメリカの力が失われる.
ベルリンの壁が崩壊し,アラブの春が起きても,世界の持続的な秩序をもたらす法律や制度は容易に築けなかった.人々は専制支配や暴力「からの自由」を得たが,民主主義や豊かさ「への自由」を求めても得られないままである.すなわち,思ったことを話し,自分の人生を選択する自由,政党を組織し,ビジネスを立ち上げ,どの候補にも投票でき,幸福を追求する自由,性別,信仰,政治的立場が何であれ,自分がありのままでいること.
2つの自由のギャップは拡大し,所得の不平等と並んで,人々の不満を強めている.
世界各地で「秩序ある世界」を築くには,いくつもの国家建設を同時に必要とする.それはだれにも負担できない.オバマはそれを知っている.しかし,「秩序ある世界」の協力・連携も組織できない.国内の政治が分裂するアメリカは,国際的な連携を組織する意欲も能力も失う.
l ユーロ圏の改革
FT August 24, 2014
The
euro is a scapegoat for the blunders of politicians
By Martin Sandbu
EUはこれから先の5年間で何を目指すべきか? 対立する意見がある.
一つは,政府債務危機が示したように,ユーロ圏18か国がより深い統合を実現することだ.財源と政策決定をより集中した管理下に置くのである.もう一方は,5月のヨーロッパ議会選挙が示したように,有権者の意識を超えて進められた統合化を逆転させ,政策の権限を各国議会に戻すことである.
対立を無視し,不協和音を高めつつ政策を全く逆に転換し,さ迷うことや,「よりヨーロッパ的な」答えを求めるふりをして,実際は統合を阻むことは,人々の利益を追求する民主的な選択を無視することである.その結果,ユーロ懐疑論が強まり,自分たちの無為を「ヨーロッパ」のせいにする.
言い換えれば,ユーロはだれにとっても都合の良いスケープゴートになってしまった.ユーロ圏であれ,自国通貨であれ,多くの改革は実行できる.最初の対応のまずさが,EUの諸国民に大きな苦痛を与え,不満を高めた.
緊縮策を求めるのはユーロがあるからではない.緊縮策を実行する国は実行し,それ以外の国が需要を補う拡大策を実施すればよかった.政府債務危機も,支払い不能の銀行や諸国には債務削減を認め,民間銀行の債務を政府・納税者に転嫁しないことができたはずだ.債務処理の機関を整備する必要があった.
より深い統合が解決を容易にするとは言えない.「意志のある諸国で進む」(有志連合)は,欧州委員会の「共同体的解決」方針で拒まれてきた.しかし,後発の国に参加する途を開くなら,有志連合が協力を進めるのは解決を促すだろう.エネルギー分野から陜慮奥を進めるべきだ.
ユーロ債の発行も,ドイツが支持しなければ成功しないわけではない.民間市場でも需要があれば,ユーロ債を発行すればよい.
l アベノミクスの退潮
FT August 25, 2014
Abenomics:
Off target
By Jonathan Soble
アベノミクスが景気回復に成功したかどうか,投資家も国民も不安を強めている.構造改革を意味する第3の矢には効果がない.
日銀は2%のインフレ目標を掲げて金融緩和を続けたが,賃金はなかなか上昇しない.高賃金を得ていたベビーブーム世代が引退していく代わりに,パートタイムや非正規雇用,女性が低賃金で雇用を増やしているからだ.
アベノミクスが支えた安倍の高い支持率も下がりつつある.集団的自衛権の憲法解釈,原発再稼働,など,さまざまな政策で国民の反対を刺激した.消費税引き上げの第2弾が迫っている.
円安にもかかわらず国内投資は伸びず,輸出もそれほど伸び追ない.震災後の原発停止でエネルギー輸入が増えている.輸出競争力の高い日本企業は生産拠点を海外に移転してしまった.
内閣改造やAPECにおける習近平との会談,など,安倍首相にとっての難しい課題が続く.
l 不平等と成長
Project Syndicate AUG 26, 2014
Good
and Bad Inequality
MICHAEL SPENCE
「旧」理論では,不平等を課税による再分配で是正することは「誘因」を損ない,それゆえ成長を低下させる.しかし,不平等と成長との関係は多次元で複雑だ.さまざまな影響とフィードバックがあるから,断定できない.
アメリカと中国は高成長の国であるが,不平等も拡大してきた.世界の高成長諸国は,国際的な不平等を緩和したが,国内的には不平等を拡大している.
不平等な経済は,政治的・社会的な合意形成,改革のための政策転換が難しい.また不平等を拡大する政治的介入が行われる.そして,社会的な結束が失われる.
経済危機の深刻な影響を受けた貧困層に支援策を増やすべきだ.同時に,公共部門,特に教育システムに投資して,不平等の影響を緩和することが重要だ.
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The
Economist August 16th 2014
Illegal
immigration: Europe’s huddled masses
Migration
into Europe: A surge from the sea
LinkedIn:
Workers of the world, log in
Schumpeter:
Replacing the board
(コメント) イスラム国家もエボラ出血熱も心配ですが,ヨーロッパに向かう移民の流れが特集されています.その理由は,いろいろあるでしょうが,やはり中東におけるイスラム国家の戦争拡大,秩序崩壊,アフリカにおけるエボラ・ウィルスや暴力の蔓延です.
ヨーロッパはこれをどうしようとするのか? それは書いていません.ユーロ危機やウクライナ危機と同じように,EU諸国は国家間の違いによって意見対立が生じ,国内の強硬派や民族主義者にも政府が論争で勝てないようです.
世界労働市場をネットで統一し,企業の経営者を経営情報サービス企業によって置き換える,という記事は,その対極にある空想です.
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IPEの想像力 9/1/14
なんと脆い秩序でしょうか? アジアで戦乱や危機が生じたら,私たちの生活も数年で激変します.
タイでも,アフガニスタンでも,パキスタンでも,選挙に不正があったと反対派は主張します.抗議デモが起き,暴力的な衝突が繰り返され,軍や外国が介入しなければ平和を回復できません.
モスクワ,プーシキン広場のマクドナルド.その店舗が世界最大の規模であっただけでなく,市場が創り出す公共空間であった,と紹介されています.しかしプーチンはそれを閉鎖しました.
国際秩序は何を求めているのでしょうか? 冷戦でも,パックス・アメリカーナでもない,「秩序ある世界」が「秩序を失った(持たない)世界」と対峙します.私たちは,独裁やイデオロギーの強制「から自由」になったけれど,自分の人生を豊かにできる多くの可能性とリンクした世界「への自由」を必ずしも持ちません.
Thomas Friedmanは,「秩序ある世界」の理想を描いています.
「思ったことを話し,自分の人生を選択する自由,政党を組織し,ビジネスを立ち上げ,どの候補にも投票でき,幸福を追求する自由,性別,信仰,政治的立場が何であれ,自分がありのままでいること.」
・・・そうだ,本当に,そうであればよいのに.リベラルな社会秩序とは,政治や経済を自分のありのままの姿に合わせて選択し,仲間を集めて社会を変える力を持っている時代,それを共有する法的,制度的な保障,参加者の合意,規範なのです.
それを目指す勇気も能力も足りなかったな,と思いませんか? 人はその時代の社会モデル,支配的文化・イデオロギーを生きます.家族,学校,会社,日本の政治が,リベラルな理想と異なる現実の壁を築きました.
アメリカの小さな町,Fergusonについての論説に,リベラルな世界の異相を発見します.黒人が多数を占める町なのに,白人たちには「黒人が見えない.」白人ばかりの警察官は黒人を人と思っていない,と彼らは言います.「シカを撃つように,黒人を撃つ.」
また,ウォール街の広めた金融危機.ユーロ危機.中央銀行の量的緩和.アベノミクス.アルゼンチンのデフォルト再現.中国の不動産バブル.もっと貧困や失業の痛みと苦悩を緩和することができたはずです.しかし,そうした政策や制度は積極的に実現されません.
平和で豊かな国へ,豊かな町へ,人々は集まります.外国人,移民,難民,国籍,安全保障が国家によって定義されても,人はさらに国境を越えて秩序を求めます.それは,「秩序ある世界」と「秩序を失った(持たない)世界」との関係を,時代にふさわしい,人間的なものにする努力を基礎にして,作り変えます.
公共圏が消滅しつつあります.新聞・雑誌・出版,政治,社会団体が衰退し,テレビからインターネット,ソーシャル・メディアへ移行しています.それはリベラルな理想の実現より,ゲーム,メガ宗教団体,超富裕層,振り込め詐欺やテロ組織の道具になります.
世界のどこに生まれても,日本のどの地方の,小さな町や田舎で育っても,私たちは境界を越え,新しい政党を組織し,ビジネスを興して,公共圏に参加し,自分たちの望む秩序を作ることができる.将来は,そんな時代を生きるでしょうか?
スコットランド,ガザ,香港,あるいは,福島が,その将来を示します.原発事故で最大の被害を受けた人々が,その核開発を継続するために汚染廃棄物の貯蔵庫に変えられてしまうことに納得できるでしょうか? 沖縄もそうです.
問題は金(カネ)ではありません.人々は秩序を問うのです.
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