IPEの果樹園2014

今週のReview

8/11-16

 

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安倍政権の外交・安全保障 ・・・第1次世界大戦の考察 ・・・ロシアとの戦争 ・・・アルゼンチンと禿鷹ファンド ・・・ガザ戦争と空爆 ・・・不平等と経済政策 ・・・スコットランド独立論争 ・・・中東からの離脱

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  安倍政権の外交・安全保障

YaleGlobal, 29 July 2014

Hindi-Nippon Bhai Bhai?

Harsh V. Pant

日本とインドとの関係は,安倍とモディとの個人的な関係も加わって,アジアの秩序を変える重要な意味を持つ.もちろん,中国はインドとBRICSの仲間として緊密な関係を築こうとしている.しかし,中国の反対にもかかわらず,インドはアメリカや日本も多国間の海上演習に招待するようになった.安倍は太平洋とインド洋とのリンクを提唱している.モディは,特に,日本企業によるインドへの投資を望んでいる.地下鉄や鉄道網なども含めて,日本の政府援助やインフラ投資が積極的にインドの開発を助けている.

中国の外相は,東シナ海・南シナ海で領土をめぐる紛争を厳しい姿勢で応じる一方,インドとの国境線では問題解決に積極姿勢を示している.

Bloomberg AUG 1, 2014

Japan's Weak Yen Woes

William Pesek

アベノミクス,円安は有利か? いつもそうとは限らない.スカイマークはエアバスの購入をあきらめた.国内市場は人口減少で停滞し,日本企業は海外投資に積極的である.しかし,円安は原発停止によるエネルギー輸入で貿易赤字をさらに増やしている.ソフトバンク,ローソン,楽天,など,海外展開を円安が阻むことになる.

円安は続くが,工業生産は前月より落ち込んだ.たとえ企業収益が改善しても,重役たちの高報酬は労働者たちの貧困と釣り合わない.

Project Syndicate AUG 6, 2014

Japan’s Self-Defense Defense

JOSEPH S. NYE

安倍が自衛権を広く追求するのは理解できる.日本は,高い緊張状態から紛争が起きる可能性の高い,危険な地域にあるからだ.ヨーロッパと違い,東アジアでは対立する諸国の和解が進まず,日米安保条約に依存するだけで,地域制度は発達していない.2011年.アメリカはアジア旋回を表明し,日米安保同盟をアジア安定化の基礎にすると合意した.

その宣言のより大きな目標は,アメリカ,日本,中国の間に,均等でなくても,安定した関係を築くことだった.日本は,北朝鮮の核武装や中国の台頭と軍備強化など,打汎を感じる状況にある.南シナ海もシーレーン防衛として日本の防衛気にとって重要だ.

中国の政治的発展が経済成長にともなっていないことも問題を複雑にしている.政治参加を抑え,社会的な世億圧が続く中国では,競争的なナショナリズムが広まるかもしれない.中国が攻撃的な姿勢を示せば,インドやオーストラリアなど,アジア諸国が日本とともに対抗するだろうが,現状で封じ込めを主張するのは間違いである.それは中国の敵意を育て,敵対関係を固めてしまう.

より効果的な方法は,アメリカと日本が協力して,この不確実さに対応できる地域統合を促すことだ.防衛能力を高めつつ,中国がアジアの統合に参加する誘因を与えるのだ.


l  中国のハイテク保護主義

NYT JULY 31, 2014

China Harasses U.S. Tech Companies

By THE EDITORIAL BOARD

中国は政治的な動機で,アメリカのハイテク企業Microsoft and Qualcommを反トラスト法違反で捜査している.しかし政府の意図はわからない.それは秘密に行われ,しかも多くの政府機関が競争した意図と方針で行っているからだ.この問題は,米中間での諜報・スパイ活動に関する論争や,習近平による,外国企業への技術依存を低下させ,自国産業を強化する必要がある,という発言と関係がある.

すでにGoogleは香港に去り,NYTの英語版も閲覧が遮断された.アメリカ企業は中国で利益を上げられたが,これからは違うだろう.中国には法の支配がない.


l  1次世界大戦の考察

FT August 1, 2014

War: In history’s shadow

By Niall Ferguson

かつても今も,危機は国家の支援するテロとして始まった.ロシアが暴漢たちを支援し,オランダ政府が国民の多くが犠牲となった土地に入ることを拒んだことは,かつてオーストリア政府がセルビアに最後通牒を与えたことに似ている.

かつても今も,危機はエスカレートしている.MH17が撃墜される前から,アメリカは制裁を主張していた.ロシアを経済的に苦しめ,プーチンを追い詰める.それは降伏か,紛争の激化か,という選択を迫るものだ.プーチンのような男にとって,前者の選択はありえない.

なぜ金融市場は落ち着いているのか? その責任は歴史家たちにある.彼らは第1次世界大戦の原因を20世紀初めのヨーロッパに特殊な事情であると考えている.帝国主義,軍国主義,ナショナリズム,秘密外交.今ではそのような心配はいらない.帝国主義は破滅し,ヨーロッパは軍縮に努め,ナショナリズムは抑制され,外交は電信ではなくツイッターに代わった.ドイツを観ればわかる.アンゲラ・メルケルと皇帝ヴィルヘルム2世との違いだ.

しかし,こうした説明は疑わしい.当時の人々は危機のこうした原因を見逃していた.ごく限られた例外を除いて,戦争は全くの驚きであった.

NYTはドイツ・フランス・イギリスがバルカン問題で宥和すると予想していた.1914年当時,最も国際情勢に詳しかったのはシティの銀行家たちであった.戦争が起きれば彼らは莫大な損失を被るからだ.しかし,ロスチャイルド家の通信も事態の重大さを完全に見損なっていた.

今も,中東はもちろん,東欧の悪いニュースを金融市場は話題にしている.しかし,かつても金融市場は危機の評価を間違った.誰も「8月の砲声」を市場に反映させていなかったのだ.今は,国連などの国際制度がある,という.しかし,ロシアは拒否権を持つ常任理事国だ.確かにEUはある.ロシア側に立つ小国はないだろう.しかし,かつて英仏が解決に失敗したように,今のヨーロッパもロシアから大規模にエネルギーを輸入している.

核兵器の存在がよく指摘される.しかし,ここでは当てはまらない.制裁について考えたとき,ヨーロッパの指導者たちは核やミサイルのバランスを考えなかった.通常兵器の問題であるとしても,正確には,それを使用する意志のバランスだ.ヨーロッパは軍縮し,アメリカの支援なしには戦えない.そもそもヨーロッパ人は戦争する意志を持たない.

1914年と2014年との違いを判定する他の方法はコンピューターでシミュレーションすることだ.高速コンピューターで戦略の結果を示す戦争ゲームが開発されている.1914年の危機を,第1次世界大戦という結果で終わらない形に再現することは,完全に可能である.歴史の教訓とは,大した価値もない,わずかな東欧の土地について,比較的小さな危機が世界規模の戦争に至ったのは,政治家たちが一連の大失策を生じたせいである,ということだ.

もし再現されるなら,私はロシアに対する制裁にその大失策を観る.


l  ロシアとの戦争

FP AUGUST 5, 2014

Tsar Vladimir the First

BY GAL LUFT

1次世界大戦の原因については多くの研究がある.しかし,結論は出ない.ロシアの資料が公開されるにつれて,ロシアの目的がセルビアを保護することだけでなかったこと,そして次第に,第1次世界大戦開戦に向けた役割が重視されている.

ロシアを行動に駆り立てたのは,ボスポラス海峡とダーダネルス海峡とを支配すること,得意に,ここをドイツのような敵に奪われないことであった.ロシアにとって年間を通じて利用できる不凍港のアクセスは常に戦略上の優先課題であった.1911-12年,イタリアとトルコの戦争で,オスマン帝国は海峡を封鎖し,ロシアの輸出収入を激減させた.

191312月,ロシア外相Sergey Sazonovは皇帝ニコライ2世に書いた.「2つの海峡を押さえておくことは,黒海と地中海へのカギであるだけでなく,小アジアを支配し,バルカン諸国にこけるヘゲモニーを確立するカギなのです.」

サラエボの暗殺事件後,ヨーロッパ諸国の軍が動き始めたとき,ロシアはジレンマに直面した.オーストリア=ハンガリー帝国がセルビアを敗退させるのを許し,ウィーンがエーゲ海とトルコの海峡を支配できるのを許すか,あるいは,ロシアが5万の兵力を動かしてドイツを攻撃し,ベルリンを西部戦線に向かわせるか,である.

ロシアは後者を選択し,それが第1次世界大戦に帰結する.

100年たって,ロシアは同じような挑戦を観た.少なくともプーチンにとって,2014年のウクライナの革命は,クレムリンの同盟者をキエフから追放し,西側に親しい政府を樹立するものだった.今回の危機ではトルコの海峡ではなかったが,クリミアのセバストポールが問題になった.プーチンは,セバストポールが敵やNATOの手に入ることを許せなかった.

1914年以後,世界は大きく変わった.しかし,国際システムの基本には変わらないものもある.特に,地理だ.ロシアには地理的な不利駅があったから,モスクワにとって黒海へのアクセスの重要性は,ワシントンにとってのカリブ海や,中国にとっての南シナ海よりも大きい.アメリカはその支配海域をモンロー宣言で示した.

1次世界大戦の前と同じように,モスクワの意図を理解できない西側は,戦争に向かう夢遊病者に似ている.


l  アルゼンチンと禿鷹ファンド

NYT AUGUST 1, 2014

The Justice of Argentina’s Default

Joseph E. Stiglitz・・・禿鷹ファンドは債務国やその国民に何の関心もない.彼らは安価に債券を購入し,裁判に金を使い,問題を理解できない,同情的な判事を見つけて,全額を返済の判決を得る.

禿鷹は法の支配を求めているのではない.求めるのは彼らの強欲を満たすことだ.すべての債務者を同様に扱うルールも間違っている.経済が機能するためにも,破産や債務の組み換えは必要だ.しかし,残念ながら,政府の債務が支払えない事態を処理するシステムはない.

1980年代の債務危機は,主に銀行が債権者であり,まだ円滑に処理可能であった.資本市場が発達して難しくなった.CDSやデリバティブは事態を一層悪化させた.

アルゼンチン政府が債務を全額返済することは,貧しい国からわずかに超資産家に所得を移転するものだ.さらにこの判決は,グローバルな政府債市場に悪影響を与え,それに依存する新興市場や発展途上諸国にとって不利益だ.

FP AUGUST 3, 2014

A Short History of Vultures

BY SASKIA SASSEN

1977年に,Paul Singerが友人と家族から集めた130万ドルでElliott Associates L.P.を設立した.しかし1995年まで,Elliott Associatesは単なるヘッジファンドの一つであった.

199510月,Elliott Associatesは,約2870万ドルのパナマ政府債を1750万ドルの割引価格で購入した.パナマ政府が対外債務の組み換えを求めたとき,ほとんどの債権者はこれに応じたが,Elliott Associatesは拒んだ.そしてニューヨーク地方裁判所に債務の全額と,利子,手数料を支払うように訴えた.裁判はニューヨークの最高裁判所に移され,Elliott Associatesが勝った.パナマ政府は570万ドル以上を支払った.

それは対外債務のデフォルトに関する画期的な判決であったし,アメリカの地方裁判所がこうした(国際的な債務処理問題を)訴えを受け入れた点でも画期的であった.Elliott Associatesの勝利は,ウォール街で周知の方法となり,ほかにも同じ方法で利益を求める「禿鷹ファンド」が現れた.特に,エクアドルやロシアの政府債券が狙われた.こうして新しい投資分野と,その呼び名が確立されたのだ.

Elliott Associatesは,2001年のアルゼンチン政府債デフォルトにおいて,4800万ドルで,現在の63000万ドルの債券を購入した.パナマでやったように,彼らはそれに対して15億ドルの支払,しかも利子と手数料を含めて30億ドルに達する支払いを求めている.

1995年の判決は,これまでの国際銀行業を債権者とした債務組み換えと全く異なる処理方法であった.それまではIMFのような国際機関の特別融資で,(主に貧困諸国の)デフォルトが処理されていた.元来の債券保有者たちは債務処理のコストを負担できる財源を持っていた.しかし,それを処理する国際的なゲームのルールが明確でなかった.銀行家たちは国際法が国家間で強い力を持たず,そのような処理方法が国際システムや彼ら自身の長期的利益にとって必要なことを認めていた.また,民間債務と違って,政府債のデフォルトが経済の健全な部分も破壊することを重視した.

わずかな希望としては,アルゼンチンが禿鷹ファンドとの戦いを,ニューヨークの地方栽やアメリカ最高裁ではなく,ハーグの国際司法裁判所で争う姿勢を示したことだ.


l  ガザ戦争と空爆

FP AUGUST 4, 2014

How to Fix It

BY JIMMY CARTER, MARY ROBINSON

学校や病院を爆撃するイスラエル自衛軍の行動には正当性が何もない.また,双方が市民への攻撃を行っている.それは戦争においても犯罪行為だ.国際社会は,まず,7年に及ぶガザ地区の封鎖を解くことを目標にするべきだ.ガザからエジプト,イスラエル,海への人やモノの移動は完全に自由にする.

イスラエルの隣にパレスチナ国家が成立し,エルサレムに平和が続くことを,双方は目標にするべきだ.まず,ハマスを正当な交渉相手と認めるべきだ.

Project Syndicate AUG 5, 2014

Why Bomb Civilians?

IAN BURUMA

2009年のガザ侵攻で,当時のイスラエル外相Avigdor Liebermanは,アメリカの日本との戦争にたとえた.地上軍の投入は必要ない.敵は空からの爆撃で降伏する,と.

しかし,なぜ学校や発電所,病院,モスク,人口の密集した地区を爆撃するのか? 政府は,そこにパレスチナのミサイルが隠されている,と説明する.しかし,イスラエルの指導者は,こうした爆撃によってパレスチナ人の戦意をくじくことができる,と考えているようだ.

これは「戦略爆撃」という概念である.敵の「致命的なセンター」を破壊することで,人々の意志を破壊できる,と言うのだ.1920年代に,イタリアのGuilio Douhet,アメリカのWilliam Mitchell,イギリスのHugh Trenchard,などが実行した.その頂点は,アメリカが広島と長崎に原子爆弾を使用したことである.Avigdor Liebermanが意図したのはこれであろう.

ナチス・ドイツはイギリスの諸都市London, Birmingham, and Coventryを,日本は1930年代に中国の都市Shanghai, Chongqing, and Hankowを,1940年,ドイツはロッテルダムを,空から破壊した.1943年以降,イギリスのArthur “Bomber” Harrisは,ドイツのほとんどすべての都市を空爆し,夜はイギリス空軍,昼はアメリカ空軍が爆撃した.

日本の都市に対する空爆はさらにひどかった.広島・長崎に先立って,Curtis LeMay将軍率いるアメリカ空軍USAAFは日本の主要都市を焼夷弾で焼き尽くした.

戦略爆撃は「全体戦争 “total war”」から導かれた概念である.その場合,市民は戦闘員であり,戦闘な攻撃目標である.1965年,LeMayは北ベトナムを空爆し,彼らを「石器時代に戻す」と恐喝した.

問題は,戦略爆撃が一度も成功しなかったことである(すでに政府が降伏していたロッテルダム以外).ロンドン,ベルリン,東京,ハノイの戦意は挫けなかった.むしろ市民たちは,たとえ嫌われていた指導者であっても,彼らを保護するために何かできる,自分たちの指導者を支持した.

なぜ効果のない戦略が使用され続けるのか? 指導者の冷酷さ.あるいは,敵ではなく,自分たちの国で戦意を高めるために.

空爆の利点はほかにもある.それは自国の犠牲を生まないことだ.第1次世界大戦の犠牲者の多さを記憶していた人々は,第2次世界大戦で自国兵士を失わずに敵を攻撃できることを重視した.多くのイギリス軍パイロットが亡くなったけれど,地上軍の侵攻はもっと多くの死者を出しただろう.空軍の優位は,1920年代のメソポタミアでも,1945年の日本でも,大量殺戮をコストなしに実行した.

かつてチャーチルが述べたように,空爆は「安価に」帝国を治安維持する方法であった.はるか上空から,十分に多くの人民を殺戮することで,反乱を停止できる.今,オバマがアフガニスタンやパキスタン,イエメンでドローンを使用するのも,同じ原理だ.

しかし,その勝利は幻である.市民を殺せば,新しい反徒を生むからだ.ネタニヤフがそれを知らないとしたら愚かであり,それを知って空爆を続けるなら,全ての平和が無駄だとあきらめているのだろう.


l  不平等と経済政策

FT August 5, 2014

The inequality debate avoids asking who is harmed

By Adam Posen

不平等が関心を集め,富裕層や再分配,相続税,規制強化が論争されている.しかし,誰が,どのように,苦しめられているのか? そのことを議論しなければ,不平等に関する政策だけで彼らの問題を解決することはできない.

重要なことは,不安定な雇用や,人種,性別,宗教,などによる社会的な排除である.アメリカでは黒人が白人よりも多く失業し,貧困に苦しみ,ヨーロッパのイスラム教徒,特に,若者たちは社会から排除されている.アメリカでも地理的な移動性は低下しており,住む地域によって雇用機会や教育,長期的な健康まで影響される.


l  スコットランド独立論争

FT August 7, 2014

Thetruth and lies of Scottish and EU secessionists

By BillEmmott

討論は,政治家たちの弁舌を駆使した魅力とともに,その選択の予測できない将来を確実に見せる意味では陰鬱なものであった.スコットランド独立のコストとベネフィットも,EU加盟国として残れるかも,不確実なものだ.

なぜなら結果は何十年もかけて長期的に変化して決まるのであり,それは各人の戦略的な方針によるものである.2020年代,30年代,40年代,イギリスやスコットランドがどのような経済状態,安全保障,グローバリゼーションと保護主義にあると思うか.それによって判断は変わるだろう.

しかも,政策の変化や分離の条件もわからないのだ.

イギリスのEU離脱に関する国民投票もそうだ.サッチャーは,イギリスがブラッセルの官僚制に支配されるのを決して受け入れなかった.何としてでもEUを変える.しかし,イギリスはヨーロッパの中で生きる.その意味は,EUが選択の問題ではないこと,そして,戦略が問題だということだ.


l  中東からの離脱

FP AUGUST 7, 2014

Do No (More) Harm

BY STEPHEN M. WALT

しかし,中東情勢はアメリカの死活的な利益ではなく,アメリカの安全保障を脅かさない.アメリカ人にほとんど意味のない中東で,わざわざアメリカが兵士や財源を投入して事態を悪化させているのは,愚かなことである.

2次世界大戦後,単一の勢力によって石油豊富なペルシャ湾岸が支配されるのを阻止するのがアメリカの戦略的目標であった.しかし,今,混乱を深める中東を支配できる勢力など考えられない.

外交の目標に,さまざまな地域の民衆を助ける道義や,大量破壊兵器の拡散を防ぐ戦略的必要を説く者もいる.しかし,過去20年間の介入は,むしろそれらを悪化させた.アメリカの軍事介入がなければ,ISISのようなイスラム国家の運動や,イランの核開発計画などは,今よりも弱く,抑えられただろう.

アメリカは中東から身を引くべきである.これは孤立主義ではない.戦略的な離脱,関与の抑制,である.アメリカ外交における優先順位を下げるのだ.中東地域は各国の好きなようにさせるが,もし彼らが助けを求めてきたら,厳しい条件を付けて,アメリカの外交方針によって判断すればよい.

それは,アメリカが中東和平からも身を引くことを意味する.アメリカ国内で政治家たちがイスラエルの関心を否定できないのであれば,アメリカはイスラエルの見方として外交を制約されている.たとえ善意からでも,アメリカはそのまま中東和平でも立場を制約され,仲介は失敗する.むしろアメリカは,中東各国が独自に行動し,イスラエルが望むなら「大イスラエル」主義を許すことだ.それが民主主義を破壊し,新しいアパルトヘイトとして国際社会で孤立しても,それはアメリカの利害を侵すものではない.アメリカは,エジプト,イスラエル,その他,いくつかの諸国に対する経済援助を廃止する.

アメリカの関与が,中東における混乱をさらに悪化させることは避けられる.それはアメリカの兵士や財源を守り,アメリカに対するテロを減らすだろう.また,人道的な目的で,特定の介入や支援を行うことは続ける.

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The Economist July 26th 2014

A web of lies

Israel and Gaza: Stop the rockets, but lift the siege

Energy in Central Asia (1) Mi CASA no es tu CASA

Energy in Central Asia (2) Power failure

Argentina’s debt saga: Unsettling times

Charlemagne: Alone at the top

(コメント) ロシアのプーチンが張りめぐらせた「嘘の網」.ヨーロッパにおけるアメリカの地位を得たドイツの将来.イスラエル.中央アジアにおけるエネルギー戦略の展開.日本が良い意味で話題になれるでしょうか?

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IPEの想像力 8/11/14

国民の中から数名が,国家の権力を担い,その官僚制や軍備,通貨や税制を駆使して,国民のために内外の秩序を描きます.安倍政権に「日本問題」が解けるでしょうか?

『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2014No.8に載った,2つの論説の紹介に興味を持ちました.ジェニファー・リンド「日米同盟の古くて新しい試金石」,アンドリュー・エリクソン,オースチン・ストレンジ「中国の人工島造成戦略の意図は何か」です.

リンドは,中国のサラミ戦略(アメリカが軍事支援するには小さな領土を少しずつ侵食し続けることで,アジア諸国にアメリカの関与について不信感を高める戦略)への対抗策をベルリン危機から学びます.ソビエトやドイツ政府は,孤立したベルリンに至るアウトバーンの通行許可書を発行する東ドイツの押印を論争していました.正しい対応は,ケネディー政権のように,双方に原則を示し,軍備強化で関与を高めることです.

アメリカは「(通行許可を示す)ゴム印のために戦争」しない.しかし,米軍はベルリンにとどまり,そのアクセスを確保することが中核的利益であり,それを守るために行動する,と.では,東シナ海や南シナ海で,アメリカの「中核的利益」とは何か? アメリカが軍事行動を起こすレッド・ラインをどこに引くのか?

他方,エリクソンとストレンジは,200カイリの国際ルールを逆手に取った人工島の建設・要塞化(「強靭化」)が諸国でエスカレートすることを指摘します.それは,中国の利益になるとも限りません.海洋の強靭化競争が,アジアの秩序を求めます.

日本は,アメリカを目標として,工業化や成長,生活水準の上昇に努めてきました.しかし,日本がアメリカになることはないでしょう.むしろ中国がアメリカに似ています.中国の開放型成長を助け,合意されたルールの制度化と各国の国内制度改革が進めば,アメリカに代わる世界経済の中枢になる可能性がアジアにあります.

アベノミクスは難しい局面に至りました.

英米(中国も)では住宅バブルが懸念され,金融引き締めに転換しつつあります.日銀が金融政策の質的・量的緩和が続けることも難しくなるでしょう.日本企業が生産拠点を国外に移転してしまい,円安にしても輸出が伸びない.貿易赤字が増大しているからです.

消費税引き上げ(同時に,法人税引き下げ)と,デフレを抑えるために財政刺激策を繰り返す,という発想は,GDPに対して高まる債務依存を解決できません.デフレ解消のためには,増税より成長が必要であり,成長のためには消費や民間投資が欠かせません.

アベノミクスは,円安や株価上昇,そして,幸運にも決まった東京オリンピックなど,公共投資と地価上昇でデフレを脱出し,TPPASEANによる貿易拡大,法人税引き下げによる(海外からの)投資(国内回帰)を促進する戦略でした.

それに比べて,焦点の定まらない,信念を欠いた,上からの<構造改革>は,見せ掛けの論争,野党・改革派の封じ込め策だと思います.

安倍首相の政治的信念は,他の事件によって明らかです.中国との関係悪化,ナショナリズムの奨励,軍備拡大,外交・防衛政策の積極的展開,NHKなど,メディアの政治支配,さらに愛国心教育,戦後民主体制・平和憲法の改正です.

もう1つの論説(キース・ゲッセン「漂流するロシアの自画像」)が,プーチンと安倍首相との親近感を示していると思いました.それは帝国という過去へのノスタルジアです.

「ロシアの政治エリートたちは,結局のところ他の国々も罪を犯しているわけで,『過去の罪のために自国を責めすぎるのはやめよう』と決意したようだ.」

ドイツは,第2次世界大戦後の「ドイツ問題」を,東西分割ではなく,EUとソ連崩壊によって解決しました.ユーロ危機やプーチンのロシアは新しい挑戦です.しかしアベノミクスには,その最初から,日本の具体的な成長イメージ,国民を励ます内外の理想的秩序が欠けています.

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