IPEの果樹園2014

今週のReview

8/4-9

 

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非合法移民という問題 ・・・民主主義の実験室 ・・・国際政治とEUの不在 ・・・ガザ戦争の終わりに ・・・ロシアへの制裁強化 ・・・不動産バブルの処方箋 ・・・社会が豊かになるには ・・・米中関係の正しい理解 ・・・中国の変化 ・・・1次世界大戦の教訓

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  非合法移民という問題

Bloomberg JUL 28, 2014

Let Central Americans Send Their Money Home

By James Gibney

中米からの非合法移民を抑えるために,移民たちの送金に課税しろ,というのはひどいジョークだ.その意見によれば,移民たちが送金できなくなれば,そもそも移民しなくなるだろう,というわけだ.

アメリカの企業や家計が非合法移民を雇って価格を下げ,貯蓄できることを思えば,なんと恥知らずな意見か.

まじめな話,移民や送金に課税するのは,非効率や不道徳なだけでなく,グローバルな経済発展に大きく役立っている移民を妨げることである.彼らを「バナナ共和国」にとどめたいなら,彼らの送金がもっと効果的にその経済発展を促すものにするべきだ.

現在,送金の多くのは消費に支出されており,店を開き,タクシー運転手になる,といった投資にはあまり利用されていない.もし送金をもっと効率的に行えれば,より多くの投資が促せるだろう.


l  民主主義の実験室

NYT JULY 24, 2014

Left Coast Rising

Paul Krugman

かつてブランダイス判事が指摘したように,各州は民主主義の実験室である.たとえば,オバマケアはマサチューセッツ州で2006年からロムニーケアとして成功した.最近では,カンザス州が富裕層への減税を含むすべてのサプライサイド政策を実践した.それが好景気を刺激すると思ったからだ.しかし,好景気は起こらず,財政赤字が爆発した.

その反対に,それほど過激ではないがカリフォルニアが実験した.カリフォルニアは政治が麻痺しており,しかも極端な共和党員たちが多数派の民主党員を妨害する予算ルールがあったので,住宅バブルが破裂した後,財政危機に陥った.2012年,漸く民主党多数派が混乱を鎮め,Jerry Brown知事は穏健でリベラルな政策を実施した.増税,支出増,最低賃金の引き上げだ.また,オバマケアにも精力的に取り組んだ.

言うまでもないが,保守派は破滅を予言した.これは経済的な自殺行為であり,人々の保険料が跳ね上がる,と.

実際は何が起きたか? 破滅の兆候は何もない.カリフォルニアから雇用が流出したのではなく,過去18カ月で,その雇用は3.6%増加し,アメリカの平均値2.8%を超えている.医療保険に関して,確かに,健康で病気にならず,補助をもらうほど貧しくない若者には,市場型の保険より支払が増えた.これはわかっていたことだ.しかし,全体として,医療保険改革のコストは予想より少なく,加盟者数は増大した.サンフランシスコでは予想の3倍以上である.

推定では,カリフォルニアの未加入者はすでに半分になった.それは今後,保険会社が市場に参入してくるから,さらに加盟者を増やすだろう.

もちろん,予算も黒字になった.

破滅を予言した保守派は,その間違いを認めるより,カリフォルニアの成功を小さく見せることに忙しい.たとえば,雇用の増加はテキサス州に比べて遅い,というのだ.それは正しい.しかし,その違いは税率によるものではない.

2つの州の最も大きな違いは,石油・天然ガス部門の大きさを別にすれば,その税率ではなく,住宅価格である.バブルの破裂後も,カリフォルニアの住宅価格はアメリカ平均の2倍しており,テキサスは平均より30%低かった.だから多くの人が,賃金や生産性がカリフォルニアより低くても,テキサスに移住した.

住宅価格の違いは,両者の地理と人口にあるが,カリフォルニアの土地利用は高度に規制されており,規制は州政府ではなく,地方が設けている.他方,テキサスは規制を嫌う風土である.

カリフォルニアの復活は,政府の役割に対する非難を止めるべきだ,ということを示している.増税は自殺行為ではないし,オバマケアのように,人々の役に立つ政府支出は有益である.アメリカ政治は余りにもイデオロギーに支配されている.


l  国際政治とEUの不在

WP July 24, 2014

The E.U. is the world’s great no-show

By Fareed Zakaria

ウクライナ危機が示しているのは,ヨーロッパが戦略や目標を持たないことである.

問題は,28カ国からなるEUが一貫した姿勢を示せないことだ.EUには世界の問題に関する戦略が無いし,その内部で各加盟国が自分たちの狭い関心だけを重視している.リベラルで,開放的な,ルールによる国際秩序が動揺し,侵食されているという懸念がある.アメリカを超えて,その人口や市場規模で,世界最大の政治・経済単位であるEUが国際政治に登場しないことが,その重要な背景にあるのだ.


l  ガザ戦争の終わりに

The Guardian, Friday 25 July 2014

The Guardian view on the causes of the fighting in Gaza

Editorial

ガザ地区で戦うイスラエルもハマスも,非常に速い勝利宣言をするだろう.しかし,その主張は空疎で,中身のない勝利だ.

イスラエルは,多くのトンネルを破壊し,ロケット発射台を破壊し,その他の軍備を破壊したと言うだろう.そして多くの戦闘員を殺害した,と.イスラエルがテロと呼び,ハマスが抵抗と呼ぶ,物質的なインフラが無駄になって,イスラエルへの攻撃が再発することは,かなりの期間,あるいは永久に,不可能である,と言う.

ハマスは,イスラエルからの譲歩を得るために戦ってきた,と言うだろう.貿易や移動の自由だ.ガザの占領を打破し,イスラエルの軍事的優位をハマスの戦士たちの勇気が無効にした,と.

両方が正しく,両方が間違っている.なぜならどちらもそれを達成しないから.そのような言葉は,過去8日間に破壊されたガザの学校,病院,住宅で失われた人命に照らして,意味があると思えない.

戦闘を止められないことは不条理である.しかし,その説明を何度も聞いた.イスラエルはトンネルの破壊がまだ終わらない.ハマスはイスラエル(とエジプト)が強制する経済封鎖から解放されるまであきらめない.アメリカのケリー国務長官は停戦を模索しているが,根本問題を解決しない限り,停戦に意味はない.

因果の連鎖はアリエル・シャロンにたどり着く.シャロンは西岸からの撤退を認めたが,それは西岸の将来に関する包括的な交渉を避け,PLOを弱体化するための戦術であった.彼は平和の栄光を得て,アメリカを含め,イスラエルに交渉の主導権を認めさせた.それは巧妙で,内外の政治を動かす勇敢な決断であったが,皮肉な,究極的には非生産的な方針であった.

それは,シャロンがガザ地区を決して自由にしなかった点で明らかだ.イスラエルは制空権を支配し,沿海部を支配し,イスラエルとの人の移動や国境地帯を支配し続けた.つまり,ガザ地区は占領されたままだったのだ.イスラエルの分割統治政策は,PLOの過激な敵対的集団を助長した.

イスラエルがガザを撤退したのは,暴力的な紛争を起こりにくくしたのではなく,むしろそれを制度化したのだ.ガザを分離した者たちは,それを寛容な譲歩であると称しながら,その意味を誤解したことは決してなかった.一方的な分離は,ガザの穏健派を衰退させ,イスラエル政府との和平交渉を難しくするだろう.現在,ネタニヤフが主張しているように,和平交渉の条件としてイスラエルの安全を主張し,事実上,(紛争の制度化で)交渉の進展は不可能になる.

遠隔操作のガザ占領は続くだろう.

Project Syndicate JUL 28, 2014

The Gaza Trap

SHLOMO BEN-AMI

圧倒的な軍事的優位のある非対称な戦争では,勝利の定義が難しい.ハマスは生き残るだろう.ハマスを完全に滅ぼせば,ジハードのアナーキーができてしまう.パレスチナのソマリアだ.

イスラエルは認めるしかない.政治的闘争は軍事的に解決できない.ハマスは,アッバスの外交戦略の敵として,パレスチナ解放の前衛となった.ネタニヤフの考えとは逆に,イスラエルの生存にとって脅威は,核武装したイランより,パレスチナ問題でイスラエルの国際的な立場が苦しくなることである.

イスラエルの正当性は民主主義であるが,このまま2国家案の交渉を遅らせれば,イスラエルが内戦状態の単一国家を引き継ぐのか?

ガザの犠牲者を考慮すれば,その目標は大きな和平の枠組みでなければならない.ガザ地区のインフラを整備し,社会条件を改善するマーシャル・プランだ.封鎖を解除してガザと世界をつなぐ.ハマスは,国際監視下で,ガザの非武装,非軍事化を認める.パレスチナ政府がエジプトやイスラエルとの国境を管理する.


l  ロシアへの制裁強化

FT July 29, 2014

EU’s sanctions on Russia will fail to be a knockout blow

By Christopher Granville

EU諸国はロシア制裁の「レベル3」を実行することに合意した.レベル1は心情の変化によって市場圧力を生じる.それは個人や重要でないビジネスへの制裁であった.しかし,ロシア企業は次第に対外債務の借り換えが困難になり,保険ができなくなった.資本流出やルーブルの下落,投資が減少していた.

アメリカは716日に第2の制裁に移行した.それはMH17が撃墜される前日だった.その意図は,ロシア経済の金融的な生命力を枯渇させることである.アメリカ単独でも,ドルの金融市場を通じて実現できたが,EUもこれに同意した.ロンドンは重要な役割を担っている.ロシアは当然,輸入代替を試みるだろうが,それには(健全な経済でも)時間がかかる.

ただし,ここでの予想は双方が致命的な行動はとらないことを前提している.冷戦時代の核による相互確証破壊が抑止をもたらしたように,ロシアがヨーロッパ向けのエネルギー輸出を止めるとか,アメリカがイランに課したような石油禁輸の制裁などは,ここで採用されないだろう.

その結果,急激な落ち込みは避けられるが,ロシアの歴史が示すように,特に外国の敵に直面したとき,ロシア人は指導者の下に団結する.

Project Syndicate JUL 31, 2014

China’s Victory in Ukraine

DMITRI TRENIN

唯一の例外は中国だ.中国は,アメリカが指導する制裁に加わらない.ロシアはますます中国との貿易に依存するだろう.中国はロシアのエネルギー,その他の資源,軍事技術を利用できる.

中国はこの紛争から学んだだろう.中国は,アメリカの圧力に対するロシアの敗北や,分裂もグローバルな大国化も望まない.ロシアは中国の後背地であり,天然資源の倉庫である.

中国はロシアを支援するが,同盟国として,その負担を引き受ける意図はない.イデオロギーや指導者と関係なく,ロシアはヨーロッパである.同時に,ロシアの中世史が示すように,西側の侵略に対抗できた指導者St. Alexander Nevskyは,モンゴルの支配者に忠誠を示した.


l  不動産バブルの処方箋

FT July 25, 2014

High tide for house prices is engulfing our economy

By Adair Turner

ロンドンの不動産価格は過去1年間で20%も上昇した.しかし,これは世界的な傾向である.Pikettyが指摘したような,所得に比べた資産の増大も,不動産価格の上昇で説明できる.

これは富裕化の自然な傾向でもある.人々は豊かになると住宅に支出を増やし,良い立地は限られているから,その価格は競争的に上昇する.IT革命で多くの財が安価になったが,土地の価格は上昇した.

地価の上昇が期待されて土地の購入を刺激すると経済は不安定化し,土地は一種の金融資産になる.ロンドンなど,主要都市の住宅が,住むためではなく富を増やす手段として売買される.土地が融資の安全な担保とみなされることも,この傾向を助長する.不動産融資は価格をますます不安定化する.

不動産価格のブームとその破裂が,近年の金融危機において中心的な役割を演じてきた.2008年の危機後,景気回復が遅い理由もそれである.

この問題に特効薬はない.


l  社会が豊かになるには

Project Syndicate JUL 26, 2014

The Real Raw Material of Wealth

RICARDO HAUSMANN

貧しい諸国は資源を輸出し,豊かな諸国はもっと複雑な加工製品を輸出する.だから,貧しい国が豊かになるには,資源の輸出ではなく,それを加工して輸出するべきだ,と主張される.

しかし,そうではない.

フィンランドを観ればよい.人口は少なく,森林が多い.木材を輸出しても豊かになれないか?  フィンランドは木材を輸出し,確かに,製紙や家具製作も発展したが,それは輸出の20%でしかない.フィンランド人は,木材を切り出すことに魅力を感じないので,これを機械化した.さらに,さまざまな切断の機械を開発し,作業を自動化することで機械産業が発展し,製品を輸出している.それが今ではNokiaに代表される.

原材料がなければどうするのか? 結局,スイスにはココアがないし,中国は先端的なメモリーチップを作らない.それでもスイスはチョコレートの輸出国であり,中国はコンピューターの輸出国だ.鉄鉱の鉱山があってもオーストラリアは鉄鋼の輸出国ではなく,鉄鉱山の無い韓国が鉄鋼の輸出国だ.

グローバルな輸送システムが整備された世界では,原材料の近接性は重要でない.各地の部品を集めて優れた財・サービスを生産する能力と,新しい能力を追加し,転換する能力が重要だ.

イギリスの炭鉱が果たした最も重要な役割は,石炭の供給ではなく,水をくみ上げる蒸気機関を開発したことだ.それは産業革命をもたらした.今,アメリカにはシェール革命が起きている.しかし,1973年の石油禁輸でエネルギー産業が衰退していたことが逆転されるだろう.それは安価なエネルギーとして産業界を有利にするより,その能力を失う条件ではないか?


l  米中関係の正しい理解

FT July 27, 2014

China’s perilous tangle of military and economic fortunes

By Robert DKaplan

中国に関して,全く異なる2つの議論がある.1つは,中国の攻撃性について.もう1つは,中国経済の脆弱性について.

すなわち,中国は無敵であり,同時に,中国経済は内部崩壊の直前にある.

中国が既存秩序に従わないなら,封じ込めるべきだ,と主張される.このまま中国が軍事を増強すれば,アジアにおけるアメリカの同盟諸国は中国と個別に条約を結ぶしかない.アメリカの地政学的な地位は大きく後退する.

より冷めた見方では,中国経済の30年間に及ぶ高成長は,軍事力の増大につながって当然だ.アメリカは地域における中国の役割を受け入れるべきだ.

しかし,そうではないかもしれない.中国の成長は続かない.第2の見方では,むしろ経済危機が迫っている.10%を超える成長は永久に続かないし,沿岸部の成長は特に大きく減速する.

しかも信用の膨張と住宅バブルがある.特に2008年以降,成長は絶えざる刺激策によって高められていた.この傾向を未来に延長して予測するのは間違いだ.確かに,統制の文化や4兆ドルの外貨準備があるから,問題を回避する政府の能力は高いだろう.しかし,指導力は危うい均衡だ.中国の権威主義体制が改革を妨げている.

2つの意見が見落としているのは,中国が深刻な問題を回避するかどうかは,中国内部のエスニック対立,政治・経済紛争に依存している,ということだ.ナショナリズムを強化して封じ込める,という意見もあるが,成長の減速や経済危機はそれを困難にする.

ここにおいて,南シナ海や東シナ海の論争と,中国経済の崩壊という論争とが,交差している.経済危機は軍事衝突の危険を高めるだろう.それは経済的な弱さの関数だ.

中国の経済崩壊は,その周辺諸国に及び,世界経済も不況に陥る.他方,軍事的緊張を回避できれば,中国の成長が軍備拡大を続けても,それは東アジアにおける繁栄の関数だ.


l  中国の変化

FT July 29, 2014

Xi Jinping takes risky path in disposal of ‘tiger’ Zhou Yongkang

By Minxin Pei

政治局員で国内治安警察のトップであったZhou Yongkangが汚職に関する操作を受けている,という発表があった.

中国の政治文化においては,全ての政治家や官僚が汚職の疑いを受けるだろう.次は自分が告発されるかもしれない,という不安が強まっている.それは習近平の政治支配を強め,大物の政治家を告発すれば国民からの支持率も高まる.

しかし,鄧小平以来の強い政治力を得た習近平も,次第にこのキャンペーンをソフトランディングさせる局面を模索しなければならない.国民は政府や共産党の中にも腐敗が蔓延していると思っているし,政治家や官僚は保身のために指導部との亀裂を深めるだろう.天安門事件以来,共産党が重視してきた党内の団結も失われる.


l  1次世界大戦の教訓

FP JULY 30, 2014

It's Not the Guns of August -- It's the Trenches of October

BY STEPHEN M. WALT

今週,第1次世界大戦開始から100周年になる.人類が起こした災厄の中でも,これほど重大な影響を与えた事件はほかにないから,なぜ第1次世界大戦が起きたか,繰り返し議論されているのは当然だ.

ロシアの強大化に対するドイツの懸念(そして予防戦争),バルカン危機のもたらし危険性,さまざまな誤算と誤解,それはB.タックマンの『8月の砲声』や,最近のChristopher ClarkによるThe Sleepwalkersが示した.

しかし,同じくらい重要であるのに,それほど言及されない問題は,なぜ第1次世界大戦があれほど長期に及んだのか? である.もし早期に終結していれば,あれほど深刻な結果は生じなかったかもしれない.

1に,3国同盟も3国協商も,決定的な打撃を与えることはできなかった.ドイツの西部戦線でも,東部戦線でも,戦闘が終わるような戦果をドイツ軍は得られなかった.西では最初の進軍でパリを陥落させることはできず,戦線は膠着したまま,双方に多大の犠牲を生んだ.東では,ロシアの広大な領土が,決定的戦闘の回避によって,ドイツ軍を苦しめた.

2に,主要な対立国が工業大国であり,人口も多く,経済が多様であった.各国は多くの戦場で敗北し,甚大な戦死者と負傷者を出したが,互いに膨大な弾薬を消尽し,経済封鎖を続けて,それでも戦闘を止めなかった.3国協商の方が資源全般では優位にあった(32)が,無差別潜水艦攻撃をしてアメリカが協商側に参戦して優位を拡大する(2.51)まで,ドイツ(3国同盟)の劣位はそれほど大きくなかった.

3に,戦争の終結は難しい.それは勝利した場合の戦利品(領土)を約束して他国にも参戦を促したからだ.ますます勝利は圧倒的でなければならず,敗北は受け入れがたくなった.

4に,戦争が長引くほど野心も大きくなった.それほど大きな犠牲が生じているからだ.完全に敗北するまで,受け入れられない条件を要求した.市民たちは勝利が近いと信じていた.それゆえ,交渉による戦争終結はまともに議論もされなかった.そのような主張は裏切りであった.「もし国民が真実を知れば,戦争は明日にも終わる.」と,ロイド・ジョージは述べた.

5に,現実の戦場や厳しい情勢を伝えず,戦果の宣伝や,敵国民を悪魔のように描くことが当たり前になった.政府は戦争を十字軍のように描いて,国民の支持を集めた.

最後に,軍隊も国民感情を操作できなかった.国民は勝利できると信じ,勝利意外に受け入れることはできなかった.

現代の政治指導者にとっての教訓とは,1.戦争は始めるよりも終わるのが難しい.2.戦争の起源や経過を予測することはできない.3.敵を悪魔のように描くことは間違いだ.

1次世界大戦で戦前よりも地位を高めたのはアメリカだけである.それはヨーロッパの戦場から遠く,最後に参戦して,戦争の期間が短かったからだ.

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The Economist July 19th 2014

Afghanistan’s election: A useful crisis

Europe’s future: Another fine mess

Charlemagne: Hail Helvetia

Free exchange: Bridge to somewhere

(コメント) アフガニスタンの大統領選挙が大規模な不正投票によって内戦に悪化するのを,ケリー国務長官の仲裁で回避すれば,さらに大統領権限を縮小し,内閣制や地方分権を制度化できるかもしれない,と分析します.

EU官僚の政治使命に対して具体的に候補を挙げる記事も,BRICS銀行に関しても,興味深いです.しかし,特にスイスから学ぶ,という指摘が関心を引きます.スイスのカントンは,それぞれがドイツ的であり,フランス的であり,北欧的であり,全体としては成功した通貨同盟でもあるわけです.

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IPEの想像力 8/4/14

NHKで,富山の「おせっかいさん」の話を少し観ました.

農家が多く,子どもは少ない.上手く話せないとか,自分に自信がないとか.若者もいろいろです.所得は少なく,不安定だ,と言います.なるほど結婚するのは難しい.

いろいろな人柄や生き方を,積極的に,肯定的に評価して,足りないものは夫婦で補い合って暮らせばいいでしょう,という姿勢は,正しい,と思いました.夫婦と家族は,どれほど巨大な,ハイテク社会になっても,その最小の基本単位です.

インターネットで情報が普及し,あるいは,間違った印象が広まり,当たり前の生活を,正直に,懸命に生きることが,あまり幸せだと思えなくなったのではないか,と感じました.農家の耕運機や軽自動車を整備する仕事は,とても重要だし,まじめに仕事をすれば皆から信頼されて,その共同体を担うような役割もある,と思います.

ツルベが歩きまわって,その街の家族と話す番組もあります.あまり好きになれませんが,出てくる人々を観るのは楽しいです.お昼のニュースの後にも,日本中の町と町自慢を紹介する番組に,多くの当たり前の仕事が映し出されます.また,外国の町を歩いて,人々に話しかけ,いろいろ教えてもらう,「世界街歩き」という番組も大好きです.

子供の頃,私は祖父と公園まで散歩しました.日曜日の朝,公園の手前でコロッケを買ってもらったことを覚えています.肉屋さんの揚げ立てコロッケでした.市場でコロッケを売る仕事,パン屋さん,ケーキ屋さん,魚屋さん,子どもの頃には,その作業を観て楽しい仕事が多くありました.しかし今,その仕事がすばらしいとしても,なかなか大学を卒業してコロッケを揚げようと思わないでしょう.

多くの若者たちにとって,高校卒業で働く方が良いと思います.大学進学率が高過ぎます.あるいは,働きながら学ぶ,転職するために,社会人として学ぶ,という方が良いでしょう.

サービス化や知識産業,IT化の時代です.若者たちは良い就職を求めて,大学へ行き,都会へ出て,新しい職業,新しい言葉,社会的なシンボルを目指します.

しかし,そのような職場は少ししかありません.小さな町では,ふつうの仕事が多いでしょう.もしふつうの仕事が軽視され,所得が減り,職場として,好ましくないと感じるなら,そのような社会は幸せではないでしょう.

面白い仕事,やりがいのある仕事を,増やすほうが社会は幸せです.つらい仕事,煩雑で無駄な作業,単調な,あるいは,過酷な労働条件,などを減らすほうが良いのです.

賃金が高い,というのは,何を意味しているのか? とんでもない高給を取るのは,よほど差別的な職場か,金融ビジネスのように巨額の取引を介して,薄く広く,莫大な利益を集めることのできるシステムを支配しているからではないでしょうか?

地方の町で暮らす楽しみを,もっと紹介し,もっと楽しくすることで,都市の虚栄を薄めることができると思います.誰もが大学を目指し,大企業を目指し,限られた流行の職場を目指すのは,社会の貴重な才能を浪費させているでしょう.

小さな田舎の町に住んで,美しい川があれば,仕事が終わってから釣りに行くこともできるでしょう.自転車に乗って,家庭や職場を移動し,休日には釣りざおも載せて,早朝から海釣りです.

子供たちと野草や昆虫,野生動物の研究をするために,小さな図鑑をそろえ,あるいは,天体や気象を観測して,学校の図書館へ調べに行きます.

誰もが最初は貧しく,懸命に働き,その仕事によって社会に貢献していることがわかる,当たり前の仕事で,小さな町に住み,結婚し,子どもを育てることを,もっと楽しみ,地域への愛着を育てる,そんな社会が公共政策の目標であるべきだ,と思います.

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