IPEの果樹園2014

今週のReview

8/4-9

 

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非合法移民という問題 ・・・民主主義の実験室 ・・・国際政治とEUの不在 ・・・ガザ戦争の終わりに ・・・ロシアへの制裁強化 ・・・不動産バブルの処方箋 ・・・ドル体制の次に ・・・社会が豊かになるには ・・・米中関係の正しい理解 ・・・中国の変化 ・・・日本の積極外交 ・・・第1次世界大戦の教訓

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, Yale Global そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  非合法移民という問題

YaleGlobal, 22 July 2014

Illegal Immigration Illogic

Joseph Chamie

入国許可を持たない移入民に関して,強制的な措置のあり方をめぐる各国の意見は分裂している.雇用者は弾力的で,低コストの労働者を歓迎するが,労働者や納税者は限られた職場や公共資源に対する競争について憤慨する.

しかし,1200万人の非合法移民を抱えるアメリカの国境線に,保護者のいない子供たちが,新しい移民の波となって増大したことは,このジレンマを増幅している.彼らを,家族の引き取りもなく,審査もしないまま,強制的に国外退去させることは人道に反することであるだけでなく,国際法にも反する.しかし,彼らの入国を許すことは法の支配を損ない,非合法な移民流入から国境線を守る法体系も弱める.

政治,経済,特集利益団体,人口変化の,世界的な組み合わせが不安定化し,圧力を生じて,多数の非合法移民が政府に挑戦し,法を動揺させ,エスニック集団を不安にしている.

公式の政策は明確である.非合法移民は強制的に国外退去させる.しかし,実際は,非合法移民の多くが,広く,論理に反して,政府により許容され,国外退去せずに居住権を得ている.強制送還には費用がかかり,戻ってくるし,非合法移民を見つけ出すことが難しい.要するに,何とか入国できれば,隠れて過ごすうちに,滞在できるだろう,というわけだ.

エルサルバドル,グアテマラ,ホンジュラスから,非合法の子供の移民が急増したことは,両方に原因がある.この問題は2012年から始まった.まず,国際法(Article 13 Universal Declaration of Human Rights)は,移民の出国と帰還の権利を認めている.しかし,もちろん,それは子供を家族やコミュニティーから引き離すものではない.また,「非合法」や「許可書の無い」という表現は,移民たちの人権を無視し,差別するために使用されている.

こうした諸国の貧困,失業,社会サービスの不足,政治的不安定,紛争が,移民流出とその非合法化を促している.しかし,明らかに,非合法移民は,犯罪,暴力,などの悲惨な条件で暮らす人々が問題を解決する現実的な政策ではない.

他方,アメリカ政府は非合法に入国した子供の滞在を許すだろう,という噂,広く行き渡った確信がある.それは彼らの希望だけでなく,非合法移民の仲介組織が広めたものだろう.また,一部は,オバマ政権が2012年に導入したthe Deferred Action for Childhood Arrivals programや,その後の移民に対する滞在許可を与えた政策も関係している.

このような問題は世界中で起きている.たとえばスペインでは,2005年,70万人の非合法移民を合法化した.世界の非合法移民は少なくとも5000万人いる.国民は一般に合法移民に,特に家族や必要な労働者の入国に肯定的である.しかし,非合法移民による国境線の管理不能,滞在や労働に関する法の無効化に対して憤慨している.

Bloomberg JUL 28, 2014

Let Central Americans Send Their Money Home

By James Gibney

中米からの非合法移民を抑えるために,移民たちの送金に課税しろ,というのはひどいジョークだ.その意見によれば,移民たちが送金できなくなれば,そもそも移民しなくなるだろう,というわけだ.

アメリカの企業や家計が非合法移民を雇って価格を下げ,貯蓄できることを思えば,なんと恥知らずな意見か.

まじめな話,移民や送金に課税するのは,非効率や不道徳なだけでなく,グローバルな経済発展に大きく役立っている移民を妨げることである.彼らを「バナナ共和国」にとどめたいなら,彼らの送金がもっと効果的にその経済発展を促すものにするべきだ.

現在,送金の多くのは消費に支出されており,店を開き,タクシー運転手になる,といった投資にはあまり利用されていない.もし送金をもっと効率的に行えれば,より多くの投資が促せるだろう.

中米諸国が受け取る移民送金は,経済援助額の4倍,直接投資額の3倍に達する.それは2013年にネットで149億ドル,グアテマラ,エルサルバドルのGDP10%,ホンジュラスのGDP18%である.この数字は,世界的に見れば異常な数値ではない.中国が受け取る移民送金は710億ドル,タジキスタンの送金額はGDP48%である.

ラテンアメリカ,カリブ海域の所得水準で下位40%の人々は,その25%しか銀行口座を持っていない.


l  民主主義の実験室

NYT JULY 24, 2014

Left Coast Rising

Paul Krugman

かつてブランダイス判事が指摘したように,各州は民主主義の実験室である.たとえば,オバマケアはマサチューセッツ州で2006年からロムニーケアとして成功した.最近では,カンザス州が富裕層への減税を含むすべてのサプライサイド政策を実践した.それが好景気を刺激すると思ったからだ.しかし,好景気は起こらず,財政赤字が爆発した.

その反対に,それほど過激ではないがカリフォルニアが実験した.カリフォルニアは政治が麻痺しており,しかも極端な共和党員たちが多数派の民主党員を妨害する予算ルールがあったので,住宅バブルが破裂した後,財政危機に陥った.2012年,漸く民主党多数派が混乱を鎮め,Jerry Brown知事は穏健でリベラルな政策を実施した.増税,支出増,最低賃金の引き上げだ.また,オバマケアにも精力的に取り組んだ.

言うまでもないが,保守派は破滅を予言した.これは経済的な自殺行為であり,人々の保険料が跳ね上がる,と.

実際は何が起きたか? 破滅の兆候は何もない.カリフォルニアから雇用が流出したのではなく,過去18カ月で,その雇用は3.6%増加し,アメリカの平均値2.8%を超えている.医療保険に関して,確かに,健康で病気にならず,補助をもらうほど貧しくない若者には,市場型の保険より支払が増えた.これはわかっていたことだ.しかし,全体として,医療保険改革のコストは予想より少なく,加盟者数は増大した.サンフランシスコでは予想の3倍以上である.

推定では,カリフォルニアの未加入者はすでに半分になった.それは今後,保険会社が市場に参入してくるから,さらに加盟者を増やすだろう.

もちろん,予算も黒字になった.

破滅を予言した保守派は,その間違いを認めるより,カリフォルニアの成功を小さく見せることに忙しい.たとえば,雇用の増加はテキサス州に比べて遅い,というのだ.それは正しい.しかし,その違いは税率によるものではない.

2つの州の最も大きな違いは,石油・天然ガス部門の大きさを別にすれば,その税率ではなく,住宅価格である.バブルの破裂後も,カリフォルニアの住宅価格はアメリカ平均の2倍しており,テキサスは平均より30%低かった.だから多くの人が,賃金や生産性がカリフォルニアより低くても,テキサスに移住した.

住宅価格の違いは,両者の地理と人口にあるが,カリフォルニアの土地利用は高度に規制されており,規制は州政府ではなく,地方が設けている.他方,テキサスは規制を嫌う風土である.

カリフォルニアの復活は,政府の役割に対する非難を止めるべきだ,ということを示している.増税は自殺行為ではないし,オバマケアのように,人々の役に立つ政府支出は有益である.アメリカ政治は余りにもイデオロギーに支配されている.


l  国際政治とEUの不在

WP July 24, 2014

The E.U. is the world’s great no-show

By Fareed Zakaria

ウクライナ危機が示しているのは,ヨーロッパが戦略や目標を持たないことである.

この紛争にアメリカは対応したが,ヨーロッパを欠いては何もできない.EUは,突出して,ロシアの最大の貿易相手である.ロシア企業の最大の投資家であり,ロシア資金の最大の受入先である.オバマの批判者は,プーチンをもっと批判せよ,と言うが,プーチンが心配しているのはアメリカではなくEUだ.

何年にもわたって,EUのウクライナに対する政策は曖昧だった.キエフに対してEUへの加盟を促すことはなかった.それはEUを支持する人々を失望させ,ロシアを憤慨させ,すべての者を混乱させた.2008年にモスクワがグルジアに侵攻すると,EUは東に向けて「友好関係」を主張したが,言葉だけだった.EUは,モスクワがEUに対抗してユーラシア同盟を目指していると知りながら,ウクライナに対する協定では改革に関する厳しい要求ばかりで,利益を約束しなかった.モスクワは,有利な天然ガス契約を提示し,ウクライナの東西分裂を刺激している.

ウクライナに対しても,MA17の撃墜に対しても,EUは紛争から身を引き,明確な,迅速な行動を示さない.ロシアに対して強い圧力をかけるべきであるのに,EUはそれを行わない.EU内の制裁リストを作るだけでも,2週間で用意できない.もっと長期の計画として,EUはロシアのエネルギーに依存することを止め,軍事支出を増やすべきである.しかし,たとえば,NATOはGDPの2%を目標としているが,ドイツはその目標を達成しようとしない.

問題は,28カ国からなるEUが一貫した姿勢を示せないことだ.EUには世界の問題に関する戦略が無いし,その内部で各加盟国が自分たちの狭い関心だけを重視している.リベラルで,開放的な,ルールによる国際秩序が動揺し,侵食されているという懸念がある.アメリカを超えて,その人口や市場規模で,世界最大の政治・経済単位であるEUが国際政治に登場しないことが,その重要な背景にあるのだ.

FT July 28, 2014

Europe should confront its enemies as one citizenry

By Thomas Wright


l  ガザ戦争の終わりに

The Guardian, Friday 25 July 2014

The Guardian view on the causes of the fighting in Gaza

Editorial

ガザ地区で戦うイスラエルもハマスも,非常に速い勝利宣言をするだろう.しかし,その主張は空疎で,中身のない勝利だ.

イスラエルは,多くのトンネルを破壊し,ロケット発射台を破壊し,その他の軍備を破壊したと言うだろう.そして多くの戦闘員を殺害した,と.イスラエルがテロと呼び,ハマスが抵抗と呼ぶ,物質的なインフラが無駄になって,イスラエルへの攻撃が再発することは,かなりの期間,あるいは永久に,不可能である,と言う.

ハマスは,イスラエルからの譲歩を得るために戦ってきた,と言うだろう.貿易や移動の自由だ.ガザの占領を打破し,イスラエルの軍事的優位をハマスの戦士たちの勇気が無効にした,と.

両方が正しく,両方が間違っている.なぜならどちらもそれを達成しないから.そのような言葉は,過去8日間に破壊されたガザの学校,病院,住宅で失われた人命に照らして,意味があると思えない.

戦闘を止められないことは不条理である.しかし,その説明を何度も聞いた.イスラエルはトンネルの破壊がまだ終わらない.ハマスはイスラエル(とエジプト)が強制する経済封鎖から解放されるまであきらめない.アメリカのケリー国務長官は停戦を模索しているが,根本問題を解決しない限り,停戦に意味はない.

因果の連鎖はアリエル・シャロンにたどり着く.シャロンは西岸からの撤退を認めたが,それは西岸の将来に関する包括的な交渉を避け,PLOを弱体化するための戦術であった.彼は平和の栄光を得て,アメリカを含め,イスラエルに交渉の主導権を認めさせた.それは巧妙で,内外の政治を動かす勇敢な決断であったが,皮肉な,究極的には非生産的な方針であった.

それは,シャロンがガザ地区を決して自由にしなかった点で明らかだ.イスラエルは制空権を支配し,沿海部を支配し,イスラエルとの人の移動や国境地帯を支配し続けた.つまり,ガザ地区は占領されたままだったのだ.イスラエルの分割統治政策は,PLOの過激な敵対的集団を助長した.

イスラエルがガザを撤退したのは,暴力的な紛争を起こりにくくしたのではなく,むしろそれを制度化したのだ.ガザを分離した者たちは,それを寛容な譲歩であると称しながら,その意味を誤解したことは決してなかった.一方的な分離は,ガザの穏健派を衰退させ,イスラエル政府との和平交渉を難しくするだろう.現在,ネタニヤフが主張しているように,和平交渉の条件としてイスラエルの安全を主張し,事実上,(紛争の制度化で)交渉の進展は不可能になる.

遠隔操作のガザ占領は続くだろう.

The Observer, Saturday 26 July 2014

Israeli-Palestinian crisis: why this latest conflict cannot be considered a sideshow

Rosemary Hollis

アラブ諸国は,第1次世界大戦後の19165月,フランス人Mark Sykesとイギリス人Georges Picotが作ったサイクス=ピコ条約の下で共存してきた.その条約では,イギリスはパレスチナとイラクを支配し,フランスはシリアとレバノンを支配することを1948年まで認めた.その後も,民族自決や民主主義の理想と関係なく,この英仏による支配の分割線が継承された.パレスチナ人の運命は,この1916年以来,中東における権力闘争で相対的に弱い地位が決めている.

しかし,2003年,米英はイラク侵攻で,この地域秩序を改善できると考えた.しかし,実際は,エジプトのムバラク体制が崩壊するなど,パンドラの箱を開けたのだ.

1948-67年にかけて,イスラエルは周辺のアラブの土地を奪って拡大し,パレスチナ人は自決権の要求としてではなく,難民の問題になった.アラブナショナリズムに代わって,イランのイスラム革命によりリビジョニストのイスラム原理主義が強まった.イランはレバノンのヒズボラ,ガザのハマスを支援した.他方,オスロの平和交渉が第2インティファーダの中でとん挫し,911以後の英米はパレスチナ人をテロ問題の一部として見るようになった.

サイクス=ピコの崩壊は聖戦主義(ジハード)グループの登場と関係があり,その拡大はイラク戦争によるものだった.さらにアラブの春が起きて,チュニジア,エジプト,イエメン,リビアの体制が崩壊した.政府軍と反政府軍が戦い,ジハード戦士が加わった.

アメリカが中東地域で,もはや支配的影響力を行使できなくなっていることも重要だ.アメリカは長期の同盟関係にあったサウジアラビアなどに行動を促せなくなった.アメリカがエジプトのムバラク体制の崩壊と,その後のムスリム同胞団が権力を握る過程を容認したことで,サウジアラビアは不満を高めた.同じスンニ派であっても,ムスリム同胞団はサウジのような王朝支配を否定する集団であった.

他方,オバマ政権はイランの核開発問題を交渉で解決しようと決断した.それはイランの大統領選挙で,アフマディネジャドに代わってローハニが当選した結果,実現しつつあり,サウジアラビアをますます孤立させている.

さらに問題を複雑にしているのは,ISISが攻勢を強めて,シリアとイラクに及ぶイスラム国家の建設を目指していることだ.

パレスチナ人は20世紀の地域秩序を構成するエスニック集団の一つであったが,受け入れられなかった.しかし,地域の保護者たちはパレスチナを支持するというよりイスラエルに反対しており,地域秩序の再編を2国家間によるパレスチナの大義実現に向けるだろう.

Project Syndicate JUL 28, 2014

The Gaza Trap

SHLOMO BEN-AMI

圧倒的な軍事的優位のある非対称な戦争では,勝利の定義が難しい.ハマスは生き残るだろう.ハマスを完全に滅ぼせば,ジハードのアナーキーができてしまう.パレスチナのソマリアだ.

国際的な非難を受けずに,ハマスを黙らせる,と言うが,それは難しい.イスラエルはガザをどうしたいのか? パレスチナ問題にどう位置づけるのか? それは軍事的次元だけでなく,外交,地域政治,正当性,国際法,など,イスラエルが支配できない問題につながる.

イスラエルは認めるしかない.政治的闘争は軍事的に解決できない.ハマスは,アッバスの外交戦略の敵として,パレスチナ解放の前衛となった.ネタニヤフの考えとは逆に,イスラエルの生存にとって脅威は,核武装したイランより,パレスチナ問題でイスラエルの国際的な立場が苦しくなることである.

イスラエルの正当性は民主主義であるが,このまま2国家案の交渉を遅らせれば,イスラエルが内戦状態の単一国家を引き継ぐのか?

ガザの犠牲者を考慮すれば,その目標は大きな和平の枠組みでなければならない.ガザ地区のインフラを整備し,社会条件を改善するマーシャル・プランだ.封鎖を解除してガザと世界をつなぐ.ハマスは,国際監視下で,ガザの非武装,非軍事化を認める.パレスチナ政府がエジプトやイスラエルとの国境を管理する.

The Guardian, Thursday 31 July 2014

Gaza needs the world’s help

Sami Abdel-Shafi in Gaza City

FT July 31, 2014

Sanctions can help break the spiral of war

Jeffrey Sachs

ウクライナ,シリア,イラク,ガザ,その他,どこでも,制裁で問題は解決できない.交渉だけが解決につながる.シリアの体制転換を条件にしてはならない.イスラエルもハマスと交渉するべきだ.

1次世界大戦の5年前,1909年に,Norman Angellは戦争を「大きな幻想」と呼んだ.近代の戦争では経済的・政治的目的を達成できない,と主張した.軍事力の行使に対する制裁は,交渉による解決に向かう圧力を生じる.


l  ロシアへの制裁強化

FT July 25, 2014

Vladimir Putin: Collision course

By Kathrin Hille

FP JULY 25, 2014

Keeping Putin's Hands Off Argentina's Oil

BY SPENCER ABRAHAM

マレーシア航空機の撃墜に先立って,プーチンはラテンアメリカを訪問した.アメリカはロシアに,アルゼンチンの石油・天然ガス開発(西半球最大)を許してはならない.それはアメリカの重要な戦略的関心を否定するものだ.

アルゼンチンには2度目のデフォルトが迫っている.もし政府がデフォルトを選べば,米欧の金融市場はアルゼンチンを締め出し,そのときロシアが,アルゼンチンとの融資や資源開発契約を得るかもしれない.アルゼンチンは中国とも交渉している.

FT July 27, 2014

The west risks collateral damage by punishing Russia

Wolfgang Munchau

SPIEGEL ONLINE 07/28/2014

Stopping Putin

The Time Has Come for Europe to Act

A DER SPIEGEL Editorial

FT July 29, 2014

EU and US toughen sanctions on Russia

By Peter Spiegel in Brussels, Geoff Dyer in Washington and Sarah Gordon in London

FT July 29, 2014

EU’s sanctions on Russia will fail to be a knockout blow

By Christopher Granville

EU諸国はロシア制裁の「レベル3」を実行することに合意した.レベル1は心情の変化によって市場圧力を生じる.それは個人や重要でないビジネスへの制裁であった.しかし,ロシア企業は次第に対外債務の借り換えが困難になり,保険ができなくなった.資本流出やルーブルの下落,投資が減少していた.

アメリカは716日に第2の制裁に移行した.それはMH17が撃墜される前日だった.その意図は,ロシア経済の金融的な生命力を枯渇させることである.アメリカ単独でも,ドルの金融市場を通じて実現できたが,EUもこれに同意した.ロンドンは重要な役割を担っている.ロシアは当然,輸入代替を試みるだろうが,それには(健全な経済でも)時間がかかる.

ただし,ここでの予想は双方が致命的な行動はとらないことを前提している.冷戦時代の核による相互確証破壊が抑止をもたらしたように,ロシアがヨーロッパ向けのエネルギー輸出を止めるとか,アメリカがイランに課したような石油禁輸の制裁などは,ここで採用されないだろう.

その結果,急激な落ち込みは避けられるが,ロシアの歴史が示すように,特に外国の敵に直面したとき,ロシア人は指導者の下に団結する.

Bloomberg JUL 29, 2014

Russia’s Argentine Debt Tango

Mohamed A. El-Erian

FT July 30, 2014

Canny Merkel plays the long game with Putin

By Beth Pond

ロシアに対する経済制裁を遅らせてきたドイツのメルケル首相が,ロシアのプーチンに対する姿勢を変えたのはマレーシア機MH17撃墜事件ではない.ヨーロッパが69年間も避けてきた領土変更として,ロシアがクリミアを併合したときだ.

それ以来,このヨーロッパの事実上の指導者は,日夜,3つの聴衆を説得してきた.平和と安全保障がヨーロッパ経済の関心より優先される.ヨーロッパは金融的な犠牲を求められる,と.

313日の議会演説で,メルケルは率直に述べた.「ヨーロッパ諸国の関係は,何世紀にもわたって,対立,同盟関係の再編,そして繰り返された戦争であった.」 この暴力と恐怖が,半世紀を超えるヨーロッパの統合を実現したのであり,平和,自由,繁栄,それらは素晴らしい成果である.EUも,アメリカも,ロシアも,21世紀を自己校の利益だけで考えることはできない.そのような結果は早晩明らかであり,ロシアの行動は明白な国際法違反である,と.

1に,メルケルはプーチンを説得した.メルケルはプーチンと会話できる唯一の西側指導者である.メルケルは,プーチンがウクライナ塗油部に対して行っていることは,ルールに依拠した平和のシステムというヨーロッパの主要目標を否定し,暴力によって国境線を変更するものだ.西側はより強い経済制裁を行うし,それがドイツの損害になるとしても,ドイツには犠牲を払う用意がある.それ以上にロシア経済を破壊するだろう,と.

2に,ドイツのビジネス界にも同じことを述べた.すでに企業家の間でも安全保障が重要であることは認められている.MH17の撃墜は,ロシアによる分離主義者の支援や兵器の供与がもたらした深刻な影響であると見なされている.

3に,EU加盟諸国に対して,ドイツの企業が犠牲を受け入れる以上,イギリスの銀行,フランスの軍需産業,イタリアの石油企業も,犠牲を拒めないはずだ.

アメリカの評論家たちは,ロシアのエネルギーや貿易に大きく依存しているから,ドイツが強い制裁に同意できない,と非難してきた.しかし,彼らはメルケルがロシアの暴走を抑え,ウクライナ軍の再建に必要な時間を与えたことを見逃している.

MH17の撃墜は制裁に関する合意形成に役立ち,メルケルの選択余地を拡大した.メルケルは,ヨーロッパの戦略を指導する地位も確立するだろう.

theguardian.com, Thursday 31 July 2014

Why nothing will dent Vladimir Putin’s soaring popularity at home

Marc Bennetts

Project Syndicate JUL 31, 2014

China’s Victory in Ukraine

DMITRI TRENIN

1世代にわたり,アメリカとロシアの関係は歴史をめぐるものであった.冷戦終結後,ロシアは次第に世界の周辺へ落とされた.しかし,その時代が終わった.

ウクライナをめぐるアメリカとロシアの紛争は不均衡である.ロシアは世界を支配するつもりはない.しかし,ウクライナの将来は重要だ.ヨーロッパ最大の国家,その経常,政治秩序,外交には,アメリカとロシアの関係が重要な影響を及ぼす.

ウクライナにはさまざまな可能性がある.ウクライナの紛争は,東欧やバルチック諸国,中・西欧,EUにとっても重要だ.

日本は,中国に対抗するロシアとの関係強化をあきらめた.日米同盟関係の強化と,韓国や朝鮮半島の問題でも,ロシアの協力は期待できなくなる.アメリカはヨーロッパでもアジアでも,同盟諸国に対する関係を強化できる.

唯一の例外は中国だ.中国は,アメリカが指導する制裁に加わらない.ロシアはますます中国との貿易に依存するだろう.中国はロシアのエネルギー,その他の資源,軍事技術を利用できる.

中国はこの紛争から学んだだろう.中国は,アメリカの圧力に対するロシアの敗北や,分裂もグローバルな大国化も望まない.ロシアは中国の後背地であり,天然資源の倉庫である.

中国はロシアを支援するが,同盟国として,その負担を引き受ける意図はない.イデオロギーや指導者と関係なく,ロシアはヨーロッパである.同時に,ロシアの中世史が示すように,西側の侵略に対抗できた指導者St. Alexander Nevskyは,モンゴルの支配者に忠誠を示した.


l  インドネシア

FT July 25, 2014

The small-town Mr Clean turned ‘accidental’ president

By Ben Bland


l  不動産バブルの処方箋

FT July 25, 2014

High tide for house prices is engulfing our economy

By Adair Turner

ロンドンの不動産価格は過去1年間で20%も上昇した.しかし,これは世界的な傾向である.Pikettyが指摘したような,所得に比べた資産の増大も,不動産価格の上昇で説明できる.

これは富裕化の自然な傾向でもある.人々は豊かになると住宅に支出を増やし,良い立地は限られているから,その価格は競争的に上昇する.IT革命で多くの財が安価になったが,土地の価格は上昇した.

地価の上昇が期待されて土地の購入を刺激すると経済は不安定化し,土地は一種の金融資産になる.ロンドンなど,主要都市の住宅が,住むためではなく富を増やす手段として売買される.土地が融資の安全な担保とみなされることも,この傾向を助長する.不動産融資は価格をますます不安定化する.

不動産価格のブームとその破裂が,近年の金融危機において中心的な役割を演じてきた.2008年の危機後,景気回復が遅い理由もそれである.

この問題に特効薬はない.

BISが主張したように,物価上昇が見られなくても,不動産価格の上昇を抑えるために金利を上げることができる.しかし,金利を上げても地価上昇の利益を期待する売買は止まらないし,それを阻むほどの金利引き上げは他の分野に大きな影響を与える.

土地に関するマイクロ・プルーデンシャル規制は重要だが,それは現金で購入する者を抑える効果はない.しかも,そのような規制は融資を受けて購入する人々を,投機的でなくても,購入できなくする.すでに不動産を保有する富裕層は,そのような規制と関係なく売買し続ける.

もし好ましい土地が稀少であることにより問題が起きるのであれば,その解決策は規制を緩和し,より多くの住宅を供給することだ.しかし,建設ブームも万能薬ではない.アイルランドの規制緩和はバブルを抑えられなかった.稀少な立地と競争する土地を増やす政策にも反対が強い.豊かになった人々は田園や森林の保存を求める.

しばしば税制や融資がバブルを強化する.しかし,急激な変更は価格の不安定化をもたらし,特定の人々に不公平な負担を強いる.

富裕化による不動産価格の上昇には,さまざまな政策を総合して取り組むしかない.


後半へ続く)