IPEの果樹園2014

今週のReview

7/28-8/2

 

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日豪同盟 ・・・国際秩序と中国 ・・・イスラエルのガザ侵攻 ・・・世界貿易とアメリカ ・・・民間航空機MH17の撃墜 ・・・世界金融の民族誌 ・・・所得格差 ・・・スコットランド独立 ・・・欧米の経済成長格差 ・・・中国の政治社会変化

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, Yale Global そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  日豪同盟

YaleGlobal, 17 July 2014

Chinese Challenge: Australia’s Japan Choice

Evelyn Goh

オーストラリアのトニー・アボット首相はキャンベラで日本の安倍晋三首相を迎えた.安倍首相は就任以来,憲法改正や,中国の攻勢に苦しむ東アジア諸国の支援に熱心である.安倍政権になって日本の武器輸出に関する規制が緩和されたことで,日本はオーストラリアに潜水艦の技術を移転する協定を結んだと思われる.安倍政権が「集団的自衛権」の解釈を変えた結果,オーストラリアは日本の準同盟国になった.こうしてアメリカの軍事力「再配置」で始まったものが,中国「封じ込め」に変わった.

アボット政権が安倍との同盟関係を重視したことで,戦略転換期における東アジアの3つの問題が明確になった.

1.中国の成長から最大限の利益を得ながら,どうすれば中国の攻撃性を抑えることができるか? アメリカの優勢と抑止力を維持ながら,どうすれば中国を平和的に地域秩序の中に取り込めるか?

オーストラリア政府は,これまで常にアメリカ側に属してきたので,このジレンマを強く意識したのは遅れた.アボット政権は,前政権が中国寄りの姿勢を示したことに反対し,逆に再びアメリカや日本との関係を重視している.中国の成長は重要だが,オーストラリアから中国への非流動的な資産への投資は限定的であり,輸出についても中国以外の輸出先がある.オーストラリア経済は中国の人質になっていない,と考えている.

2.東アジアにおける増大する戦略的な複雑性を,地域の諸国がより重要な役割を果たすことで緩和できるか? 

安倍首相は,最初,「自由と繁栄の弧」を唱えて,インド,オーストラリア,アメリカ,EUとともに民主主義圏の同盟を目指した.しかし,それに応える国はなく,今回,オーストラリア政府が応じたのだ.また安倍は,中国の攻勢に苦しむ東南アジア諸国に,沿岸警備や軍事予算拡大を支援している.こうした状況でアボット政権が安倍との同盟を表明したことは,その他のアジア諸国がアメリカと中国との間で選択をしない姿勢と違って,アメリカと日本の同盟に参加することである.

オーストラリアと日本の同盟は,この20年間,東アジア諸国が採ってきたこれまでの米中「ユニバーサル・ヘッジング」を終わらせる.しかしそれは,中期的に見て,アメリカの軍事的な関与なしには抑止力を持たない同盟である.

3.これは東アジアの「日本問題」に至る.第2次世界大戦後,日本の講和条件は,こうした地域的な国際協力制度やパワーバランスを妨げるものであった.アメリカが日本とアジア諸国,特に中国,との間に立って,双方に安全を保障してきた.敗戦国日本は,平和憲法で戦争を放棄し,安全保障をアメリカに依存した.また,アメリカ軍の存在が日本への軍事的脅威を抑えた.

この取引は破綻したのだ.中国は,日米同盟が日本の軍事力を抑えるとは見ていない.むしろ,アメリカは日本の軍備増強を促し,協力して中国を封じ込めると見ている.他方,中国は日本との歴史問題を政治的に利用し,領土紛争を激化してきた.その結果,日本は,アメリカの抑止力が効果を失った,と考えている.こうして安全保障のジレンマが再現したのだ.

中日の対抗関係と,米中日の間のジレンマを解くことが,地域の安定性にとって決定的に重要だ.中国に対抗して日本との同盟を選択することは,アメリカの地域における指導力を支持することと質的に異なる.オーストラリアと東アジア諸国は,より大きな戦略を理解しなければならない.


l  国際秩序と中国

Global Times 2014-7-17

Beijing can take guiding role in BRICS

By Zhao Minghao

FT July 20, 2014

Commerce becomes a casualty of Sino-Japanese political spats

By Henny Sender in Hong Kong

Bloomberg JUL 20, 2014

China Is Driving the BRICS Train

By Pankaj Mishra

BRICSの示した西側の国際システムに代わる試みは,彼らの政治経済が新しいモデルを示すにはまだまだ不十分な状態である点で,指導者たちの政治的な防壁でしかない.

NYT JULY 24, 2014

A Chinese Gold Standard?

By KWASI KWARTENGa Conservative member of Parliament

1944年のブレトンウッズ会議はアメリカ・ドルを国際通貨制度の中心に据えた.しかし今,戦間期にアメリカがイギリスの支配的地位を奪ったように,巨額の債務とその削減圧力に苦しむ西側に代わって,中国の台頭,その他の経済からの挑戦に世界金融が変化を迫られている.

19世紀,イギリスのポンドは金と固定し,世界の「準備通貨」であった.第1次世界大戦でイギリスは金本位を離脱したが,その後,1925年に復帰した.しかし,イギリスの物価や賃金は競争力を維持するために10%も下げる必要があった.他方,アメリカは農産物や工業製品の輸出が伸びて,ドルが実質的にポンドに代わった.ワイマール共和国の債券に融資したのは,ロンドンではなく,アメリカの銀行家であった.

ブレトンウッズ会議のとき,世界の金の60%がアメリカにあった.金1オンスは35ドルに固定され,他の通貨は,たとえ直接に金と交換できなくても,ドルと固定レートを取った.1971年にアメリカが金との交換を否定してから,国際金融システムは安定性を失った.

アメリカは17.6兆ドルの債務を負い,巨額の貿易赤字を出している.莫大な外貨準備を持つ中国や湾岸諸国の不満にもかかわらず,国際通貨制度の改革は進まない.アメリカ人自身はドルの価値を疑っている.

4兆ドルの外貨準備を持つ中国は,将来,イギリスのように人民元をドルに固定し,アメリカに代わって国際通貨制度を組織するかもしれない.しかし,今は重商主義的な政策で輸出を加速してきた成長パタンを転換する課題に取り組むのが精一杯である.イギリスの歴史家,A.J.P.テイラーは,19世紀のイギリスは,均衡財政と金本位制なしにははね以できない,と信じていたという.ケインズ以来,西側はそれを否定し,赤字財政による繁栄,「人工」貨幣と政府は破産しないという信念に依拠してきた.

成長モデルの転換に成功すれば,中国は金によって価値を保証した人民元を持ち,財政も均衡に近いだろう.そのとき,ニクソン以後の変動レート制よりも,もっと確実な国際通貨制度を築くかもしれない.


l  イスラエルのガザ侵攻

NYT JULY 17, 2014

How the West Chose War in Gaza

By NATHAN THRALL

ハマスはイスラエルの都市にロケットを発射し,イスラエルは空爆した後,ガザ地区」に地上軍を送った.しかし,今回の戦争でもっとも重要な原因とは,イスラエルと国際社会の多くが,6月初めに形成されたパレスチナ「国民合意」政府の進路に禁止的な妨害物を設けたことだ.

国民合意政府は,ハマスが絶望し,孤立したことで結成された.ハマスとシリアやイランとの同盟関係は崩壊し,エジプトのムスリム同胞団は軍事クーデタで弾圧された.シシ将軍がエジプトとのトンネルを封鎖したことは,ガザへ入る物資や税収を失わせた.

中東でも,市民の基本的な必要物資を供給できない指導者は大衆的な抗議を受けており.ハマスは権力を失うより,ガザの支配権を放棄した.2006年の選挙に勝利したが,その権力をラマラのパレスチナ自治政府に譲ったのだ.

しかしイスラエルは,直ちに,ハマスの指導者とガザ住民から,合意の主要な利益を奪うことで,この和解を破壊しようとした.すなわち,43,000人のハマス政府(そして新政府)で働く公務員たちへの給与支払い,そして,ガザ市民たちが外の世界とつながる唯一の通路である境界の封鎖をイスラエルとエジプトが緩和する措置,である.

和解によるパレスチナ新政府は,多くの点で,イスラエルにも利益をもたらす.ハマスの影響は失われ,何より,アメリカやヨーロッパ諸国が求めていた3つの条件を受け入れたことだ.それは,非暴力,過去の合意に従う,イスラエルの承認,である.

しかし,イスラエルはアメリカが新政府を承認することに強く反対し,パレスチナの統一を脅威とみなして,どのように小さな前進も国際的に孤立させようとした.イスラエルの安全保障関係者や2国家案への反対派は,パレスチナ指導部の統一を破壊したがった.

それでもイスラエル政府はパレスチナ自治政府への税収を代理徴収して移転できたはずだし,アメリカやヨーロッパは境界の封鎖緩和に向けてエジプトを説得できたはずだ.しかし,彼らはそうしなかった.その結果,和解後にガザ市民の生活は悪化したのだ.

政府職員への給与はカタールが提供してきた.アメリカは,政府職員にハマス(アメリカがテロ組織とみなす)のメンバーが含まれている場合,アメリカの法が支払いを禁止することを指摘し,また,それを回避する国連による給与の支払も,受け入れなかった.

ハマスは,平和的な権力移譲によって得られなかったもの(ガザ市民の生活改善)を,暴力によって求めているのだ.イスラエルは現状維持を求めている.しかし,現状とは,18時間の電力,飲めない水,詰まった下水,燃料不足,通りにあふれるゴミ,そして,エジプトの病院に行くにも3000ドルの賄賂が必要だ.

こうした現状を受け入れないハマスや,その支持者でない人々も,変化を求めてミサイル攻撃を支持する.

政府職員への給与支払,エジプトとの境界開放,を含まない停戦は持続できない.和解によるパレスチナ統一政府を認めなければ危機の出口は見えない.

FP JULY 17, 2014

The Slaughter of Innocents

BY DAVID ROTHKOPF

無辜の民が死ぬとき,戦争を政治的な打算で始めた指導者たちの幻想が破壊される.

ガザの海岸で遊んでいた4人の少年たちが生きていたときの方が,イスラエルは優位であっただろう.ウクライナ東部の分離独立派を支援し,特殊部隊による戦争を進めたプーチンは,民間航空機の撃墜に関する責任を問われるかもしれない.

theguardian.com, Friday 18 July 2014

As a father who lost his children in Gaza, I call for an end to this bloodshed

Izzeldin Abuelaish

FP JULY 18, 2014

The False Front of the Gaza Invasion

BY GREGG CARLSTROM

NYT JULY 19, 2014

Who’s Right and Wrong in the Middle East?

Nicholas Kristof

The Guardian, Sunday 20 July 2014

How the occupation of Gaza corrupts the occupier

Owen Jones

イスラエルは,占領を続けるうちに,パレスチナ人への感情移入を拒み,どのような攻撃も受け入れるようになった.それはどこでも言えることだ.イギリスもアイルランドを支配したとき,その住民たちを非人間的に扱った.歴史が示す,ユダヤ人の集団的なトラウマが,パレスチナ人への攻撃を正当化する.

ガス室で殺された多くのユダヤ人がいたという記憶によって,イスラエルが強すぎることはありえず,ユダヤ人が弾圧者になることはありえない.

theguardian.com, Monday 21 July 2014

In a hospital. At the beach. Hamas, Israel tells us, is hiding among civilians

Richard Seymour

FP JULY 21, 2014

A War We Didn't Want

BY MICHAEL HERZOG

侵攻前の10日間で,ハマスとガザの武装集団は厄400発のミサイルをイスラエルの至る所に向けて発射した.数百万のイスラエル国民がシェルターに避難した.

イスラエルは地上軍の派遣を嫌ったが,空爆だけではミサイルを止めることはできなかった.鋼鉄のドームで被害は抑えられたから,作戦を決める十分な時間があった.しかし,ガザは密集した狭い土地であり,攻撃目標は民間施設に隠れていた.

空爆だけでは,ハマスを持続的な停戦に応じさせる圧力として不十分であった.しかも,トンネルのネットワークを使って,彼らは武器や物資を取引し,イスラエル兵を誘拐し,殺害していた.ガザに残る軍事施設を完全に破壊するには,地上軍の派遣が必要だった.

しかし,長期の駐留が問題を解決することはできない.その場合,イスラエルがハマスを破壊した後で,ソマリアのような混乱状態になるガザ地区と停戦を合意することは難しいだろう.それゆえ,ロケットとその発射台,そしてとくにトンネルを目標に絞った.

停戦でハマスに政治的な報酬は与えない.停戦によってハマスは弱体化し,ガザ地区の再軍事化を阻むことができてから,ガザの封鎖を解く.境界を越えて人道的・経済的支援が届くし,パレスチナ政府を通じて,ハマスではなくガザ市民がそれを得る.

FT July 22, 2014

A pointless Gazan war that neither side wanted

By David Gardner

FT July 22, 2014

Israel, Hamas and the rockets

FP JULY 22, 2014

The Endgame in Gaza

BY AARON DAVID MILLER

NYT JULY 22, 2014

Darkness Falls on Gaza

By MOHAMMED OMER

FT July 23, 2014

Hamas’s struggle has receded as a priority in the new Arab world

By Roula Khalaf

最新の中東戦争について,何か変化が起きている.683人のパレスチナ人と31人のイスラエル人がすでに死亡した.しかし,アラブ世界から起きるいつもの憤慨の声は低い.

パレスチナの大義がアラブの問題でなくなったというのではない.しかし,中東地域全体に広がる混乱がパレスチナ人の犠牲を以前ほどショックな形に示さず,ハマスなどイスラム主義のグループに同情が集まらなくなっている.エジプトやサウジアラビアの国営メディアは,イスラエルだけでなくイスラム主義グループについても,暴力の行使を責めている.

それはイスラエルにとって有利であるが,停戦を求めることが難しくなる.ガザ地区は,初めて,特にエジプトとカタールにより,地域の勢力争いに巻き込まれた戦場になった.

シリアではすでに民間人が15万人も死亡し,わずか2日間でも700人が死んだ.また,ハマスの主要な敵がエジプトのシシ大統領になっている.クーデタで権力を得たシシは,ハマスの支援者であったムスリム同胞団をエジプト国内で弾圧している.

エジプトの停戦案をハマスは直ちに拒んだ.地域の紛争激化により,ガザ戦争を止めるのはますます難しくなった.

FT July 24, 2014

Gaza, Ukraine and antisocial media

Gary Silverman

SPIEGEL ONLINE 07/24/2014

Ex-Israeli Security Chief Diskin

'All the Conditions Are There for an Explosion'

Interview Conducted by Julia Amalia Heyer

FP JULY 24, 2014

An Eye for a Tooth

BY DANIEL BYMAN


l  世界貿易とアメリカ

Project Syndicate JUL 18, 2014

The Trade Delusion

ADAIR TURNER

2008年以来,世界貿易の増加率は世界GDPの成長率より低い.しかし,保護主義が広がったわけではない.65年間で,すでに工業諸国の関税率は大きく下がっている.貿易が成長を超える理由はない.

特に,豊かな国では所得の多くがサービスに支出され,その多くは非貿易財である.また,中国における実質賃金の上昇は,国際的な賃金格差を縮小している.情報技術の急速な進歩は機械化を進め,オフショアの製造業の多くがその消費国に回帰するだろう.生産性の上昇は貿易を増やすものではなくなる.

成長を抑えているのは,先進諸国の過重債務であり,発展途上諸国のインフラ不足や教育システムの不備である.しかし,これまで急速なキャッチアップに成功した諸国が製造業の輸出に依存したように,今後も発展途上諸国の成長は貿易の拡大に依存する.先進諸国が貿易自由化の利益を重視しなくなっていることは,発展途上諸国の成長にとって苦しい条件だ.

FT July 22, 2014

The errors of conservatives obscure the case for trade

By Adam Posen

NAFTAをスケープゴートにして貿易自由化の地域協定に反対するのは間違っている.NAFTAはアメリカ国内の企業が行う投資や雇用を増やした.NAFTAは賃金や失業に影響していない.NAFTAは,締結後のメキシコ経済を支持し,合法・非合法の移民流入を減らした.NAFTAが労働者の権利を損なうとか,福祉国家の拡大に向かう,というのは間違いだ.

Project Syndicate JUL 24, 2014

The Onshoring Myth

FEDERICO DÍEZ and GITA GOPINATH


l  民間航空機MH17の撃墜

theguardian.com, Friday 18 July 2014

The MH17 crash images show us what war in Europe looks like in 2014

Jonathan Jones

The Guardian, Friday 18 July 2014

Sifting through the wreckage of MH17, searching for sense amid the horror

Jonathan Freedland

FT July 18, 2014

Putin is facing his moment of truth

民間航空機MH17の撃墜は,シリアのアサド体制支援,クリミア分割・併合,など,ほかにも国際的な評価を損なう行動とともに,改めてプーチンに対して国際社会の非難が高まるだろう.

ウクライナ政府の西側への接近を阻止するため,武器を供給してウクライナの分離主義者を政府軍との戦争へ刺激する介入政策を終わらせるべきだ.

FP JULY 18, 2014

The Shoot-Down Heard 'Round the World

BY SERGEY RADCHENKO

NYT JULY 18, 2014

Putin’s Deadly Doctrine

By TIMOTHY GARTON ASH

1994年,私はセント・ペテルスブルグで眠たい会議に出ていた.背の低い,ずんぐりした,ネズミのような顔の男が,市長の横から口をはさんだ.彼はロシアの不満を述べたのだ.ロシアは自発的にソ連の旧共和国を手放したのだ,と.元からロシアの領土であったクリミアやカザフスタン北部も,またカリーニングラードのような土地も手放した.もし2500万人のロシア人を外国に委ねることはできない.世界はロシア国家の利害,偉大な民族であるリオシア人の利害にもっと敬意を払うべきだ,と.

このイライラした男の名前が,ウラジミール・プーチンだった.20年後,セント・ペテルスブルグの副市長は,全ロシア人の無冠の帝王である.軍事力でクリミアを奪い,東部ウクライナを暴力的な混乱に陥れた.19世紀の民族国家を21世紀に実行する.

彼の言うロシア人を守る責任は,東欧やユーラシアの近隣諸国だけでなく,第2次世界大戦後の国際秩序を破壊する主張である.例えば,もし,過去に起きたように,東南アジア諸国で少数派の中国人が差別や不満の標的になった場合,中国が母国として彼らを守る責任を主張することを考えてみればよい.

現在,われわれは国際秩序の下で,他国においてもその安全や権利を守られている.それはパスポートに書かれているように,われわれの母国が他国の市民を守る責任でもある.

金曜日,マレーシア航空17便がロシア製の対空ミサイルによって撃墜された.それは明らかにウクライナ東部の不満ロを持つシア人が支配する地域で起きた.しかし,プーチンは,ウクライナ領であることを責任として主張する.

正規軍であれば,民間航空機が33,000フィート上空を飛んでいることを知っており,軍用機と区別できる.奪ったものにせよ,ロシア軍が与えたものにせよ,民兵がこうした技術を知ることはないから,ミサイル発射を訓練した者がいたはずだ.プーチンが創り出した「自国民を保護する責任」とは,こうしたあいまいな者たちを野放しにするのである.

FP JULY 18, 2014

The Missile That Will End the War

BY MARK GALEOTTI

FT July 20, 2014

Putin’s next move – invade eastern Ukraine?

Philip Stephens

FT July 21, 2014

The Kremlin’s Machiavelli has led Russia to disaster

Gideon Rachman

数か月前にはプーチンの天才的な戦略が賞賛されていた.アメリカの右派の論客たちは自分たちの大統領の弱腰と比べていた.Charles Krauthammer,元ニューヨーク市長Rudy Giuliani,イギリス独立党Nigel Farage,など.Farageは世界で最も尊敬する指導者とまで言った.

MH17が撃墜された今,彼らがどれほど愚かであったか,よくわかる.プーチンは天才的戦略家ではなく,根っからの賭博好きであり,その偏執狂と政策はロシアを政治的経済的に孤立させてしまった.

西側やNATOへの怨嗟だけに囚われて,自国のメディアにはナショナリズムを過熱させ,中国に頼って対抗しようとするが,ロシアにとって最大の戦力的な脅威は中国の台頭である.中国への資源輸出合意は,すでに従属国家に成り下がっている.

SPIEGEL ONLINE 07/21/2014

The Tragedy of MH17

Attack Could Mark Turning Point in Ukraine Conflict

By SPIEGEL Staff

FP JULY 21, 2014

The Perils of an Itchy Twitter Finger

BY STEPHEN M. WALT

MH17便が撃墜されたニュースを聴いて,私が書いたTwitterの言葉に対して,激しい非難が起きた.それは,論争に関わってきたこれまでの経験でも感じたことがないような悪質な内容であった.

この悲劇は,アメリカとEUがウクライナを西側に引き入れようとしなければ起きなかっただろう.また,ロシアとウクライナの中立性に関して積極的に合意をすれば避けることができただろう,と考えた.・・・「US&EUがウクライナを,潜在的なEU/NATO加盟国ではなく,ロシアとの緩衝国家と認めれば,悲劇は起きなかった」.

1に,Twitter,その他のソーシャル・メディアは,こうした論争を喚起するのに適当な手段ではない.特に,強い感情的な流れが存在するときには.第2に,悲劇的事件や邪悪な行動について,冷静な思考を維持するのは困難だ.しかし,それでも現実に起きたことを,われわれが回避できた可能性は検討しなければならない.ところが,多くの評論家は初めからロシアを非難し,プーチンのソ連復活を攻撃するばかりである.

ロシアの動機と行動は不思議なものではない.大国の行動は良く似ている.彼らは死活的な利益を侵されたと考えるとき,非常に醜い行動も辞さないのだ.西半球でアメリカが取った行動にも,キューバの経済封鎖や中米への介入,そして民間人を大規模に殺戮した独裁者への協力があった.それがウクライナの紛争に比べて優れていたとは思えない.その動機がどれほど理想的であっても,また,その国の国民にとって良いことだと考えたにしても,アメリカのイラク侵攻は莫大な破壊と犠牲,秩序の崩壊をもたらした.

われわれは紛争を避けるべきだし,もし紛争が起きた場合は早急にこれを鎮静化するべきである.その場合,それが好ましくも,同意できるものでもない他国の行動について,正しく理解しておくことは重要なのである.しかし,アイデアをTwitterに流すのは後の方が良い.

Project Syndicate JUL 22, 2014

Putin’s Tipping Point?

NINA L. KHRUSHCHEVA

NYT JULY 22, 2014

Putin’s Crime, Europe’s Cowardice

By BERNARD-HENRI LÉVY

FT July 23, 2014

Containing Russia requires economic and political measures that impose real costs

Ivo Daalder

NYT JULY 23, 2014

Turkey Can Teach Israel How to End Terror

Mustafa Akyol

FT July 24, 2014

Europe needs a cold war lesson in deterrence

Philip Stephens


l  東南アジア

FT July 18, 2014

Troubled waters: the Mekong River crisis

Pilita Clark

FT July 21, 2014

Asean: Long on optimism

By Jeremy Grant


後半へ続く)