IPEの果樹園2014
今週のReview
7/14-19
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世界市場統合 ・・・世界秩序の観方 ・・・アジアの秩序 ・・・アメリカ外交 ・・・安倍政権 ・・・ユーロ圏の危機 ・・・インドネシア大統領選挙 ・・・ドルの世界支配 ・・・ヨーロッパと国際政治
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l 世界市場統合
The Guardian, Monday 7 July 2014
The
best of capitalism is over for rich countries – and for the poor ones it will
be over by 2060
Paul Mason
OECDが2060年の世界経済を予測した.発展途上の世界が,教育や都市化によってキャッチアップする効果が減り,世界の成長率は3分の2になる.中産階級の職場で自動化が進み,高所遠くの職場が増えて,所得格差が拡大する.スウェーデンが今のアメリカになる.
それが意味するのは,裕福な諸国における資本主義の黄金時代は終わった,ということだ.貧しい諸国にとっては,今,経験している工業化の輝きが2060年までに終わる.そして,より高い成長にはより大きな所得格差がともなう.
しかも,その中心的な予測の前提では,技術革新を活かすために,今から2060年にかけて,欧米諸国は5000万人の移民を吸収し,その他の開発世界が3000万人の移民を吸収する.それをしなければ,労働力や課税ベースが減少し,国家が破たんする.
OECDの処方箋は,グローバリゼーション,民営化,緊縮財政,より多くの移民,そして資産課税,である.ロサンゼルスやデトロイトはマニラのようになり,摩天楼の周りにスラムが広がる.イギリスの労働者は白人の老人と若い移民たちになり,中産階級は消滅する.
スマートフォンで武装した,高い人権意識を持つ人々が,より大きな平等を求めるだろう.
l 世界秩序の観方
YaleGlobal, 3 July 2014
From
the Unipolar Moment to a Multiplex World
Amitav Acharya
新しい世界秩序は,一極でも,多極でもない.多重性multiplexである.かつてJoseph Nyeは3次元のチェスボードにたとえた.軍事力,経済力,非国家主体によって各次元は構成される.しかし,現実は複合型映画館a multiplex cinemaに似ている.各次元,たとえば,軍事力と経済力は複合しているのだ.しかも,チェスのような戦いだけでなく,現代の世界には多くの協力が存在している.
だから,一つの巨大な映画館で,いくつもの映画が同時に上映されている.それは貿易に集中して,パワー・ポリティクスや海外植民地争いを展開したヨーロッパとは違う.現代の主要諸国は,貿易だけでなく,金融や生産ネットワークなど,多くの分野で複雑な形の相互依存を保持しており,テロや気候変動のような超国家的脅威にも直面している.
新興の諸大国は思い通りに世界を支配できないだろう.彼らは互いに分裂し,対立している.平等や正義を主張しながら,ロシアや中国は彼ら自身がルールを破り,近隣諸国との対立を招いている.国際秩序への貢献なしに,その地位が承認されることはない.
権威や指導力は多層的な姿を取るだろう.地域の役割が重要になる.しかし,それは19世紀ヨーロッパの地域ブロックに戻るのではない.今日は「オープン・リジョナリズム」の時代である.ますます多くの資源や秩序は地域において組織されるだろうが,それは国連によるユニバーサリズムを否定しない形で行われる.
l アジアの秩序
Project Syndicate JUL 3, 2014
Asia’s
Military Revolution
YOON YOUNG-KWAN
中国の軍備拡張が注目されている.しかし,中国や近隣諸国やアメリカと衝突するのは宿命ではない.一般に国際平和は3つの方法で達成された.国際的相互依存,民主化,国際制度,である.
しかし,東アジアの指導者たちは,残念ながら,権力政治に頼り,1世紀前のヨーロッパを思わせる危険な勢力均衡ゲーム向かっている.1997年のアジア通貨危機で深まった経済的相互依存にもかかわらず,平和と協力に向けた政治的動きは高まっていない.
I.カント以来.国際関係論では民主主義が戦争を避けることを議論してきた.ウッドロー・ウィルソンのように,アメリカは世界の民主化を広めてきたが,最近まで,中国を西側の民主主義に取り込むことで平和を維持しようと考えていたようだ.
しかし,2008年の金融危機から,権威主義的な開発についての中国の自信がさらに強まった.自由貿易と規制緩和の「ワシントン・コンセンサス」より,重商主義的な「北京コンセンサス」の方が優れていると考えるようになった.それは,19世紀後半に,衰退するイギリスと新興のアメリカとが,文化や価値を共有して,協力できたことと異なる状況だ.
中国の指導者たちは,アメリカが巧妙に,人権や政治的自由を問題にして,中国の政治的安定性を破壊しようと試みている,と疑う傾向がある.こうしたイデオロギー的な分割こそが,アジアにおける地域制度の発展を遅らせたものである.
19世紀のヨーロッパには,持続的な国際同盟を築く政治指導者たちがいた.しかし,今のアジアの指導者たちは狭い国益に囚われている.たとえば,中国の指導者たちは,2008年の金融危機と2つの戦争で,アメリカの国際的指導力は失われた,と考える.それは尖閣諸島の紛争にも攻撃的な外交をもたらしている.
しかし,アメリカの関与を試すのは危険な行為だ.1世紀前に,イギリスが海軍力の優位をドイツに譲らなかったように,アメリカは西太平洋における優位や東アジア諸国への保護を投げ出したりしないだろう.
他方,アメリカは地域の政治情勢に関する理解を欠いている.アメリカが日本の事実上の再軍備を支持し,外交的な白紙委任状を与えるなら,アメリカ自身が日本の利害に囚われ,結果的に日本はアジアの平和よりも,その破壊者になるだろう.
l アメリカ外交
NYT JULY 8, 2014
Is
Obama’s Foreign Policy Too European?
Clemens Wergin
長い間,私はドイツの外交政策を批判してきた.アメリカの外交に追随するだけで,アメリカが独自に行動するとこれを誇大に非難した.過去の事実を分析することにばかり多くの時間を費やし,将来において正しいことを行う方法はあまり考えようとしない.行動よりも言葉で済ませようとした.だから私は,アメリカが何かするとき,それを好意的に支持した.問題に積極的に対応する国がアメリカしかいないからだ.
しかし,シリアに関するオバマ大統領の演説を聞いて,私はにわかにその問題を理解できた.この大統領はドイツ外交の欠陥を共有しているのだ.道義的には憤慨するが,結果をもたらすような行動はとらない.オバマはヨーロッパ人になった.
2008年に,バラク・オバマが初めて大統領になったとき,旧大陸全体がヨーロッパの果樹生徒価値観を持った大統領として彼を熱烈に支持した.オバマの外交は,ソフトパワーと非介入主義として,前政権のブッシュ外交と違うものだった.しかし5年経って,ソフトパワーはハードパワーの代わりにならない,という陰鬱な理解が残った.逆に,現実の軍事力によって,しかもそれを行使する政治的意志によって支えられているときだけ,ソフトパワーは外交政策の補完的な手段になるのだ.
指導者の外交の評価は,素晴らしい演説の数ではなく,自分のやり方で事態を変えたかどうか,で決まる.オバマ外交の評価は低い.アメリカが事態から身を引くなら,その空白を埋めるために多くのアクターが登場するからだ.バシャール・アル・アサド,ヒズボラ,イラン,ロシア,など.彼らはヨーロッパとアメリカの利害を損なう.
オバマはアメリカがヨーロッパのソフトパワー・アプローチから学ぶことを求めた.しかし,ヨーロッパ人は認めたがらないが,それはアメリカのハードパワーがあるときしか機能しなかった.だから,事態に巻き込まれることを嫌い,ヨーロッパ的になったアメリカの友人が学ぶべき教訓は,アメリカの次にその役割を担う者はいない,ということだ.
l 安倍政権
Project Syndicate JUL 4, 2014
Abe’s
Long March
IAN BURUMA
安倍晋三は憲法解釈を変更して,集団的自衛権を認める閣議決定を行った.これで日本も戦闘に参加する.しかし,それを縛る様々な制約はまだ多い.憲法改正を行わずに軍事力行使を認める道はまだ遠い.
ドイツと違って,日本にはヒトラーがおらず,ナチスもなかった,そのため戦争犯罪の原因は,軍国主義や天皇崇拝,武士道,封建制の遺制,などに求められた.韓国と中国は安倍政権の決定を,軍国主義の復活,として非難している.実際,安倍のナショナリズムは愛国心を解き,戦前の体制を復活させる性格がある.
安倍の方針転換は,同時に,日本の外交・安全保障をますますアメリカに依存したものにする.日本は,台頭する中国と衰退するアメリカの間で,どのような戦略を取るべきか? 中国の選択が,パクス・アメリカーナによって利益を求めることではないとき,1914年のように,アメリカを戦争に巻き込むことになる.
l インドネシア大統領選挙
FT July 8, 2014
Indonesia
prepares for poll cliffhanger
By Ben Bland in Jakarta
インドネシア大統領選挙は水曜日に投票が行われる.優しく語りかけるジャカルタ知事のJoko Widodoと,元特殊部隊の将軍で,強権体制を信じるPrabowo Subiantoとが対決する.
現大統領のSusilo Bambang Yudhoyonoは,確かな成長と政治的安定性の時代を実現し,憲法の定める2機を終えて退任する.しかし,インドネシアの基本的な諸問題は解決できなかった.インフラの欠如,社会的不平等,医療.教育システムの欠陥,慢性的な汚職.
この選挙は,これまでにない激しい分裂を示している.対立候補のスタイルも世界のどこよりも対照的である.
Widodoは,小さな町の町長から,予想外にジャカルタ知事となり,国政に参加した.彼はマイクロマネージメントを重視し,下からの景気回復を目指す.他方,Subiantoは,スハルト専制時代の権力グループに属し,巨大計画を担った.人権を蹂躙した疑いをかけられている.
Widodo陣営のボランティアを主体にする運動に比べて,Subianto側は組織だった選挙運動と資金集めに優れ,Widodoはイスラム教徒ではない,というデマ情報を流して,両者の支持率が並んでいる.
l ドルの世界支配
FT July 7, 2014
French
fury and dollar dominance
1960年代にフランスのジスカール・でスタン大統領が「途方もない特権」を批判して以来,フランスの政治家たちはアメリカ・ドルに不満を述べてきた.
ユーロの誕生後も,公的外貨準備に占めるドルの割合は61%であり,ユーロの25%を大きく超えている.フランスのMichel Sapin財務大臣が,グローバルな決済システムにバランスを求める発言をした.しかし,人々が取引にどの通貨を使うかは市場が決めることである.ロシアや中国が政府による取引で自国通貨の利用を促進しても,その成果はわずかであろう.
むしろ,最近の発言はアメリカ政府によるBNP Paribasへの制裁金(90億ドル)要求がきっかけになっている.アメリカが取引を禁止するスーダンやキューバと取引したことが巨額の制裁金の理由である.アメリカ・ドルの利用に依拠してルールを強制する姿勢は,アメリカ政府が意識して行う国際的支配の金融的強制である.
しかしアメリカ政府は注意するべきだ.規制当局はそれが比例的で,しかも,透明であることを示さなければならない.
Project Syndicate JUL 8, 2014
What
Enabled Bretton Woods?
HAROLD JAMES and DOMENICO LOMBARDI
ノルマンディー上陸作戦と同じく,ブレトンウッズ会議も70周年である.それはIMFと世界銀行を創設した,同様に,平和的な世界秩序を(少なくとも30年間)維持した重要な国際会議であった.
制度の創設にはグローバルな安全保障システムが結びついていた.IMFの理事会は5大国が占めることになっていたからだ.それは国連安保理と同じ,アメリカ,イギリス,ソ連,中国,フランスであった.
しかし,44か国が交渉に合意することは困難であった.どのように実現できたのか? Keynesは,「単一の大国,もしくは,同じ気持ちの大国のグループ」が指導することを重視した.他方,Hayekは,持続的な秩序を交渉によって実現することは不可能であり,それは(市場から)自生する,と考えた.
ブレトンウッズの経験によれば,Keynesが正しく,英米が指導的な役割を果たした.その後も,大規模な金融外交においては,2国間交渉が重要であった.1970年代初めに固定レート体制は崩壊したが,その後の協定改正では,変動性を重視するアメリカと金を重視するフランスが交渉を支配した.
仏独英の金融政策協力は失敗したが,その後,仏独の意見がヨーロッパの通貨問題を実質的に支配した.また,1980年代半ばの為替レートの浮動性に対して,議会の保護主義を抑えるため,米日の協力が為替レートを安定化した.
現在,国際経済交渉はアメリカと中国に集中している.世界の経済システムが輸出指向の新興諸国による「再建ブレトンウッズ体制 “Bretton Woods II”」でよいのかどうか,論争されてきた.中国がそれを離脱し,アメリカは人民元の役割が増大することに合意するのか?
2国間交渉と安全保障との結び付きが,将来の国際秩序を誕生させる.さらに,そこにはアメリカ国内政治の要請が一致していた.モーデンソー財務長官は,ブレトンウッズ会議で,「世界にとって良いことであり,アメリカにとって良いことであり,民主党にとっても良いことだ」と,あいさつした.
世界の指導者たち,とくに米中の指導者が同様に重要な決定を行うには,同じくらい強い圧力が必要である.それは有利な可能性ではなく,緊急の必要であるだろう.中国のシャドー・バンキングシステムが崩壊する,グローバルな覇権争いが激化する,世界が保護主義に落ち込む危険が高まる,特に2国間やTPPのような地域協定である.
重大な危機が改革のエンジンを動かす.その意味では,まだ世界経済の危機が十分でない.
Project Syndicate JUL 10, 2014
The
Renminbi’s Grand Tour
BARRY EICHENGREEN
ロンドンとフランクフルトに人民元のオフショア・センターができた,と騒ぐのは過剰な期待である.すでにポンドやユーロを人民元に交換することはできる.その取引はドルとの取引に比べて非常に小さいが,それはドルに交換してから人民元を買っていることが多いからだ.為替市場の深さと流動性が不足している.
また,中国人民銀行から直接に人民元を供給できるが,中国の金融政策や,将来の金融危機に際しては資本規制が強化され,また,人民元建ての金融資産の取引はまだ限られている.
将来は,多元化する世界において,ドル中心の国際決済システムが後退し,ユーロや人民元を含む,多通貨による決済が可能になるだろう.しかし,それは金融システムの技術革新によって,直接決済が進むからであるだろう.
l ヨーロッパと国際政治
FP JULY 8, 2014
There's
No Partnership in Pivot
BY STEPHEN M. WALT
リアリストが考えてきたように,世界の物的なパワーの配置が国際秩序に影響する.中国の台頭が続くアジアは,世界の地政学者が目を離せない場所である.
その影響がNATOにどのような影響を及ぼすのか? アメリカは自分の利害から考えて中国によるアジアの覇権を阻むだろう.アジア旋回は中国抑止戦略だ.しかしヨーロッパにとって中国の台頭はどのような意味があるのか?
NATOとして中国に対抗する戦略は取らないだろう.中国の台頭に関して,ヨーロッパの戦略的な意味は小さいからだ.戦略が共有されるには,共通の脅威がなければならない.ソ連は,1.近接性,2.攻撃的軍事力,3.歴史的な秩序を見直すイデオロギー,がヨーロッパにとって重要であった.
しかし,中国はそうではない.中国はアジアの覇権を求めてアメリカの同盟諸国と摩擦を高めている.それはアジアの秩序を見直すことであって,ヨーロッパではない.また,ヨーロッパの第2の貿易相手国である.直接投資でも,ユーロへの支持でも,中国はヨーロッパの利益にとってプラスである.
もし米中紛争が激化し,アメリカがヨーロッパに中国への武器輸出を停止するように求めた場合,ヨーロッパは同意しないだろう.そもそもヨーロッパに,アジアの紛争に関わる軍事力はない.さらに,2008年のグルジア,2014年のウクライナで,NATO拡大は失敗だった,とヨーロッパは考え始めている.
ヨーロッパはすべきことは,その地域の平和を維持することだ.それがアメリカの負担を減らし,アジアの問題に集中できるから.大西洋の同盟関係はますます重要でなくなる.
Project Syndicate JUL 10, 2014
The
Old World’s New Roles
JOSEPH S. NYE
中国の台頭によって,ヨーロッパの国際政治に占める指導的役割は失われた,といわれることがある.東アジアで重要な変化が起きても,ヨーロッパはそれに影響する経済力も軍事力も持たないだろう,と.
しかし,大西洋の同盟関係を軽視することは間違いだ.オバマ大統領が「アジア旋回」や「リバランス」を唱えたのは,この点を明確に示したものだ.中国の経済力は,人権は言うまでもなく,技術革新においても,EUの持つ重要性を否定するわけではない.
中国のように,急速に台頭する新興勢力は深刻な紛争を招く危険がある.かつて,イギリスの工業生産をドイツが上回ったときもそうであった.1990年代に,ビル・クリントン大統領はこの問題を考え,中国に対する封じ込めを主張する意見を拒んだ.中国との貿易を望む近隣諸国と,反中国同盟を組むことは不可能であり,封じ込め策は将来の中国を確実に敵にしてしまう.
クリントンが選択したのは,「統合化と安全確保」である.アメリカは中国のWTO加盟を支持し,同時に,日本との安全保障条約を強化した.
もし中国が「平和的な台頭」を続けるなら,近隣諸国は中国との関係を強化する.しかし,その経済力を軍事的な圧力として紛争を刺激するなら,アメリカは中国に対する対抗力としてアジアに関与するだろう.その場合,ヨーロッパは重要な監視,判定者であり,安全保障の規範を高めるとともに,国際秩序を多角化する役割を担うのだ.
気候変動,テロ,世界的な感染,スパイ活動,など,米中間で多くの複雑な問題が議論され,国際秩序の転換が進行しつつある中で,中国との協力が必要であり,EUはその交渉で重要な役割を果たす.
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The Economist June 28th 2014
The third arrow
Abenomics picks up speed: The battle for
Japan
Higher education: Creative destruction
Migration to the United States:
Under-age and on the move
Special report: Poland
(コメント) The Economistの記者が見るほど,安倍政権の改革が進んでいるとは思いません.しかし,金融政策と財政刺激策は一定の効果があったのであり,改革を進める準備にはなったはずです.私は日本病の構造的性格を,一括して,ABCDFIPY(2010年11月22日のReview)と名づけました.
何より衝撃であったのは,中米からアメリカを目指す子供たちです.この事件が,まるで「ベルリンの壁の崩壊」に見えます.何が起きているのか?
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IPEの想像力 7/14/14
土曜日の晩は,平野の杭全神社夏まつりで,だんじり(地車)を観てきました.
私は子供のときからだんじりを観て育ち,だんじりが大好きです.だんじりが無かったら,平野の町はなんてつまらない,当たり前の密集した人家に過ぎなくなるでしょう.だんじりは人々をつなぐエートスなのです.
だんじり,というのは綱を付けて曳きまわす,移動式の神社か仏壇・神殿,というものでしょう.移動式図書館みたいな.
昼のだんじりは,魔除け,商売繁盛,子供の健康や長寿を祈願する,地域の守り神です.
私が子供のころ,この時期,学校は短縮授業になっており,あわてて家に帰ってカバンを置くと,そのままだんじりを探して町を走り回りました.当時は子供の数も多く,長い綱が付いていて,子供たちが握る場所を奪い合ったわけです.
だんじりの綱を持って歩くと,怪獣を連れているかのように,勇ましく感じました.「オーイオイ」と町中の人に呼び掛けて,だんじりが来た,神様の怪獣を連れてきた,と知らせるわけです.
小さな子供たちは,大人以上に,自分と比べて世界を観るでしょうから,だんじりの大きさ,重量,音響,その震動,そして,走るときの速さは,まさに絶叫する魔神そのものです.
だんじりは,遠く,その姿が見えないうちに,早くから感知されます.その鐘と太鼓の音が聞こえるからです.あるいは,人々がだんじりを探して移動しているからです.だんじりがいる方向へ,子供たちが走り,だんじりが通り過ぎた町では,隣近所の人が家の外へ出て話し合っています.
だんじりは狭い通りを,家々の軒先をかすめて,実際,ときには軒先や看板にぶつかりそうになるのを何とか避けて,町の中を移動し続けます.
まだ小さな子供に,だんじりを見せようと,お父さんやお母さんは悪戦苦闘します.自転車の前や後ろに子供を積んで,だんじりを探して走ります.夜など,すっかりくたびれて寝てしまった下の子供を抱いたお父さんが,それでも他の子供たちとだんじりを見上げています.
遠くに,他の町のだんじりが見えるとき,子供たちは興奮します.それはまるで,大地から現れて,対決の瞬間を待つ怪獣たちの姿を思わせるからです.
もちろん,世話人と警官がトランシーバーで連絡を取っており,激突するわけではありません.遠くのだんじりが対決を避けて曲がっていくと,何か少し残念ですが,子供たちは自分が勝利したかのように満足します.
炎暑の中,当然,何度も停止して休憩します.そんなときはアイスクリームやジュースを配ってもらえることがあります.だんじりの末尾には,大きな桶やポリ容器に,甘い氷水が入って,柄杓で飲むこともできます.
夕方まで曳くと,だんじりは所定の位置に戻り,世話人のおじさんがアイスクリームやお菓子の袋を配ってくれました.最後だけ来て,お菓子をもらう子供がいたとしても,私たちは無視しました.それは卑劣で,愚かな行為です.子供たちの神様であるだんじりが,それを知らないはずはないのです.大量の汗を流して,半日,知らない町を歩き通した者だけに,大きな満足感がありました.
だんじりは寄付で運営されます(おそらく).それぞれの町で寄付を募り,まとまった寄付をすると,その店の前にはだんじりがやって来て,鐘と太鼓を鳴らし,特有の節回しで声を上げます.
だんじりの曳行範囲は,その前方と後方で,長い竹の先に提灯を載せて示します.この間に入るのは,だんじりが来る危険,を意味します.だんじりはこの提灯が示す空間で前後に動くことがあるからです.いつでも軒下や脇道へ逃げる準備が要ります.
だんじりを動かすのは,町の若者たちです.彼らは腹にさらしを巻き,町名を示す揃いの法被を着て,足袋を履いています.だんじりの後方から,4,5人がだんじりの周りに廻らせた棒に肩を入れて動かします.
平野のだんじりは「やり回し」をしません.緩やかな曲がり道では,片方から肩を入れた若者たちが,声をかけてだんじりを何度も押して,その進行方向を変えます.しかし,90度の曲がり角では停まります.そして,周りから肩を入れた若者たちが,だんじりを持ち上げるようにして全体を回して行きます.
この力のいる作業に入るとき,だんじりでは鐘と太鼓の調子が早くなって,異なるリズムを打って彼らを励まします.そして,周りにいる人に危険を知らせます.
だんじりの屋根には何人かが乗っています.彼らは単に踊っているだけではなく,役割があります.だんじりと軒先や看板との衝突を避け,電線の接触や切断を防ぐのです.上から屋根を叩いて,避けるように合図し,ときには看板などを足で押しのけます.
祭りにおいては,既存の社会秩序,階層制,企業の中の地位や,学校での成績評価が消滅します.祭りには祭りの誇りがあり,英雄がいるのです.筋力や体力を競い,勇気を示します.世界各地で,祭りは疑似革命である,と言われます.
日が暮れると,だんじりの提灯には電燈が入り,夜の町に輝きます.それは時代を超えて,まるで歴史的な不変の祭りに参加しているような,異空間を創造します.・・・そうだ,この町に帰ってきた.自分が生まれ,子どものときに追いかけた,だんじりがここにいる.自分たちの町に戻ってきた.
政治は祭りのようなものだ,とある政治家が言いました.だいぶ前のことです.そのとき,私は政治の論争と合意形成の機能,(国家を超えた)政策選択のための仕組みを求めていたので,その政治家の言葉に不満でした.しかし,なるほど,政治は祭りなのでしょう.
このエートスを現代に生かすのは,誰なのか? コミュニティーの結束.社会的な共感によって,子どもたちのために犠牲を受け入れる精神.今も,新しい仕組みによって,政治社会が生まれ変わるのか? 幼い子供を抱いて,だんじりを見上げる父親の姿が忘れられません.
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