IPEの果樹園2014

今週のReview

6/23-28

 

*****************************

ISISの侵攻 ・・・中東の国境再編 ・・・ロボットと労働者 ・・・富裕層の寄付政治 ・・・中国の諸問題 ・・・中国と南シナ海 ・・・専制支配への支持 ・・・北朝鮮の崩壊 ・・・ネルー的社会主義 ・・・日本の改革に不安 ・・・経済学への不満

 [長いReview]

******************************

主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, Yale Global そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ISISの侵攻

NYT JUNE 12, 2014

The Big Burn

David Brooks

2003年にアメリカがイラクに侵攻したとき,事実上,イラク政府を破壊した.それが失敗であったことをアメリカはゆっくりと学んだ.その後の8年間を国家再建の作業に大きく費やしたからだ.

自立できる,安定したイラクを残して去ることができるのか,われわれには決してわからない.しかし,イラクに準備ができていないうちに,オバマ政権は軍を帰国させる.多くの関係者や反対は,イラクの穏健派が,米軍の撤退に反対している.

内戦状態への悪化はシリアと連動している.スンニ派とシーア派との宗派争いが激化し,両国が断層線となって暴力を広め,地域に不安が高まっている.

死者は急増しているが,アメリカは何もしない.ISISの楽園となって,組織を拡大し,要員を補充している.アメリカ国民は,左派も右派も,世界から身を隠そうとしている.

過激派よりも15倍のイラク国軍がいるのに,イラクの国家は消滅しつつある.ISISはアルカイダでさえまだ十分に過激でなかったと思うほど,政府の建物を破壊し,監獄を解放し,無数の人々を殺害して,路上に放置している,という.

オバマ政権は,初期のブッシュ政権と同じ失敗を侵しつつある.方向は逆向きだが.

シリアの穏健派を支援するのは,まだ手遅れではない.宗派争いを緩和する具体的な政策と交換に,マリキを支援する.イラク政府の権限を,その実情に合わせて地方に分散させる.マリキは軍を再整備し,憲法の定める任期を守る.

そのためには,アメリカがもっと世界の将来を見定めるべきだ.

FP JUNE 12, 2014

Jihadist Gains in Iraq Blindside American Spies

BY SHANE HARRIS

FP JUNE 12, 2014

The Battle for Iraq Is a Saudi War on Iran

BY SIMON HENDERSON

サウジアラビアやその他の湾岸諸国は,シリアのアサド体制に反対するスンニ派の聖戦主義者を支援してきた.

サウジアラビアのアブドラ国王はマリキをイランの密告者でしかないと見なし,バクダッドに大使を送ってこなかったし,他の湾岸諸国にも同様に無視するように求めた.国内にアルカイダのような脅威を抱えていながら,これらの諸国,特に,クウェートやカタールは,国民が過激派に寄付するのを許している.

FP JUNE 13, 2014

Withdrawal Symptoms

BY KORI SCHAKE

オバマの「責任ある撤退」が見違いであった.

輝かしい勝利を収めたのはイランである.地域の影響力を格段に広めた.アメリカにとって,ブッシュ政権が目指したような,ドイツ,日本,韓国と結んだ,民主主義を強化し,地域の同盟国にする,2国間の軍事基地使用の地位協定は失敗に終わった.

オバマは21世紀に新しい戦争を始めない,と言ったが,まず戦争を終わらせる必要がある.

FP JUNE 13, 2014

Blame America

BY GORDON ADAMS

イラクで起きていることは,警告であり,悲劇でもある.

その教訓とは,撤退が早過ぎたということではない.地位協定が成立していないということでもない.国家安全保障に関するチームを解任するとか,誰を任命するかということでもない.反政府勢力を止めるのに空爆が有効かという問題でもない.

アメリカは世界のどこにでも救出に向かう,という楽天的な前提に警戒せよ.アメリカは十分な財源と善意,専門家,装備,訓練された兵士を持っているから.世界中の問題地域で治安を回復できる,という前提に警戒せよ.

アメリカは,しばしばそれを引き受けて,努力するけれど,その失敗のコストまで支払っている.それは悲劇である.2003年以来,アメリカは250億ドル以上を費やして,イラク軍を整備し訓練した.政府を支援して,アメリカの納税者が支払った額は1兆ドル以上であり,5万人以上の死傷者を出した.その額にはアメリカ兵の蒙った精神的・肉体的な損傷を補う費用は含まれない.50万から100万の間のイラク人が,一時雇用治安要員として生活費を得ている.

しかし,このイラク軍は嵐の中で差す安物の傘だ.

他国における安全保障の介入で,アメリカは100年前のフィリピン以来,失敗を繰り返している.1930年代以来のニカラグアでも,20世紀の初期から1990年代までのハイチでも,成功していない.最悪の悲劇はベトナムだ.国民に支持されていない,腐敗した政府を支援するために,7500億ドル以上を支出し,アメリカ兵が15万人以上負傷し,58000人も死んだ.

アメリカが努力すればするほど,確実に反政府勢力が誕生する.占領は抵抗を生むのだ.ブッシュ政権はイラクに侵攻し,その政府を倒した.しかし,それは良くも悪くも,彼らの政府であった.その後,宗派間の内戦が起きた.

ブッシュ政権は,治安,経済,政府に関して何の支援計画も持たなかったから,必要に迫られて支援を増やした.内戦状態は,軍事支援を増大させた.しかし高価な訓練にもかかわらず,数千の反政府勢力が侵攻した北部では,政府軍が4個師団も逃亡した.今やISISが,われわれの与えた武器やトラック,弾薬を手にしている.

治安で重要なことは,強い軍ではなく,政治的指導力と効果的なガバナンスである.腐敗し,非効率で,実効性のない,分裂した,無責任な体制が治安を維持できないことは,サダム・フセインが示したはずだ.

オバマ大統領はウェスト・ポイントの演説で,新しい50億ドルの「対テロ・パートナーシップ基金」を提案した.対テロ戦争の前線に立つ諸国に訓練や装備を与え,機能するように助ける.しかし,その具体的な中身はまだ何もない.

この数十年で,われわれはすでに2000億ドルを支出し,100か国以上でそれを行った.今も,マリ,ナイジェリア,パキスタン,イエメン,など,80か国以上で続けている.しかし現実には,次の腐敗した政府と武装勢力を育てているのだ.

NYT JUNE 13, 2014

Fears About Iraq Continue to Push Up Oil Prices

By STANLEY REED

NYT JUNE 13, 2014

Obama, McCain and Maliki

NYT JUNE 14, 2014

5 Principles for Iraq

Thomas L. Friedman

慎重に対応を考える必要がある.クルドを除けば,誰もアメリカの価値を共有していない.5つの原則がある.

1.敵の敵は,敵である.アメリカはだれも助けたくない.マリキも,包括的な政府ではなく,宗派間戦争を選んだ.

2.アラブの春は,なぜ,アメリカが最も助けなかった土地だけで成功したのか? チュニジアと,イラクのクルド人地区だ.彼らが実践したのは,「勝者はなく,征服されることもない」という原則であった.和解は彼ら自身が行うことだ.

3.イランと革命防衛隊は間違っている.確かに彼らはシーア派に武装させ,マリキを取り込み,アメリカ兵も多く殺した.彼らは地域の覇権を求めている.しかし,今や戦争状態はシリア,レバノン,イラクに拡大した.イランの軍事的関与は過度に膨張し,アメリカが去った後の収拾を担う.アメリカはイランとの非核化交渉を続け,イランの敵にも支援できる.

4.政治指導力が重要だ.キルクークは,長い間,クルド人,アラブ人,トルコ人の戦場だった.しかし今,クルド人の市長Najimaldin Omar Karim の下で,新しい道路や公園が建設され,経済が繁栄している.「道路を改善し,交通渋滞や病院,学校の悲惨な状態を改善した」という.電力の供給は4時間からほぼ全日になった.トルコ人,アラブ人からの支持を得て再選された最初の市長になった.正しい指導力があれば,人々は一緒に暮らすことができる.

5.われわれの価値,われわれの利害を共有するのが誰か? その安定が我々を脅かすのではないか? われわれは誰を助けることができるか? それが明白になるまで,支援はやめたほうがよい.

FT June 15, 2014

An abrupt awakening to the realities of a recast Middle East

By Richard Haass

オバマは方針を見直すべきだ.旧い中東は消滅し,新しい中東情勢が現れつつある.政策を決めるのはカレンダーではない.

イラクに支援を限定することはできない.新しい戦争を国民が嫌っても,空爆をするべきだ.アフガニスタンのすべての米軍を撤退させるのは間違っている.

今やシリアのアサド体制以上に,ISISがアメリカの利害にとって大きな脅威だ.イラン,ヨーロッパ諸国,ロシアとも話し合うべきだ.

FT June 16, 2014

The west cannot fix the puzzle of Iraq through war

Gideon Rachman

良い仲間はいない.良い選択肢もない.

ISISを抑えるためにはマリキのイラク政府を支援するべきだ.しかし,マリキが最も頼りにするのはイランだ.シリアでは,ISISがアサド政権と戦う西側の仲間だ.ISISを抑えるために,西側はイラン,シリア,ロシアと手を組むのか? しかしウクライナ危機で,アメリカとロシアの関係は最悪だ.

確かにアサドは,アメリカの安全保障を脅かしていない.しかし,アサドが行っている内戦の非人道的な暴力は,協力関係を困難にする.リベラルな民主主義は,利害だけでなく,西側の価値がその強さでもある.

アサドとISISに対してリベラルな穏健派を支援することが望ましい.しかし,彼らが権力を握る可能性は全くないだろう.イラクから,リビア,エジプトが示すように,西側に協力的なリベラル派は一掃された.

完全に冷徹なリアリズムを採用するべきだ,という気分になる.モスクワ,北京,テルアビブがしているように.唯一の問題は,われわれの国益は何か,である.

社会の複雑さを理解することがいかに少ないかを想えば,こうした立場も受け入れたくなる.しかし,「われわれの利益」(国益)というのは,簡単に決められない.テロを抑える,という場合も,介入主義者は,テロを育てるのは破たん国家と戦争状態の長期化である,という.だから地域の安定化が必要だ,と.他方,反介入主義者は,西側が中東情勢に関与すれば,それがテロを生むだろう,という.しかも,治安に限定する超リアリストは反介入主義者と同じ意見だ.テロは諜報とドローンだけで抑える.

西側の政策には,3つの原点がある.すなわち,国益を守り,人道主義を掲げ,謙虚でなければならない.主要な国益は聖戦主義者の掃討だ.人道主義の目標も,イランやシリアで行われる虐殺を止めることだ.これらはテロの阻止で一致する.

しかし,人道主義者は介入の結果について慎重である.この点で,アメリカは謙虚でなければならない.軍事介入が,速やかに,持続的な政治情勢をもたらすことはない.それを忘れていない点で,オバマは正しい.

NYT JUNE 16, 2014

Who Will Win in Iraq?

By STEVEN SIMON

FP JUNE 16, 2014

Pivot to Persia

BY TRITA PARSI

FP JUNE 16, 2014

The U.S.-Led International Order Is Dead

BY EMILE SIMPSON

ISISの侵攻と,ナイジェリアの女子生徒誘拐とは,アメリカの例外主義を終わらせた.

2次世界大戦後,世界の運命はアメリカの運命でもあった.国際秩序は,アメリカの経済・軍事・文化的な影響力によって成立していた.

しかし,オバマ演説が示したのは,それが終わったということだ.アメリカは今も「不可欠の国」であるが,世界各地に軍を派遣することはないだろう.276人の女子生徒を誘拐したボコ・ハラムに対する抗議を喚起したミシェル・オバマが示したのは,アメリカの理想が喚起する個人の共感だ.それは他方で,中央アフリカ共和国やシリアで続く虐殺を止めるためにヴェイ軍が行くことを意味しない.

アメリカ国民は感謝されないことに不満を感じている.トルーマン大統領は,植民地諸国に「発展」という名を与えて,アメリカの支援を用意した.それは成功したが故に,もはや機能しない.アメリカは,その理想に共感する個人や家族を世界中に持っている.

アメリカの宿命は西側の宿命であるが,バクダッドに介入した戦後の国際秩序は終わった.

FP JUNE 16, 2014

The Kurdish Are Coming

BY MOHAMMED A. SALIH

FT June 17, 2014

Selling terror: how Isis details its brutality

By Roula Khalaf and Sam Jones

FT June 17, 2014

Status of Kurds takes on extra significance in regional tumult

By David Gardner in Mardin, Turkey

FT June 17, 2014

Unite to stop the Isis crisis engulfing the Muslim world

Ahmed Rashid

スンニ派の過激派であるISISはイスラム圏全域でシーア派の聖地やモスクを破壊することを目指している.アメリカはイラク侵攻においてこうした諸都市のモスクが破壊されないように配慮した.アルカイダでさえ,シーア派の神殿を破壊しようとはしなかった.

NYT JUNE 17, 2014

Don’t Fight in Iraq and Ignore Syria

By ANNE-MARIE SLAUGHTER

外交専門家たちが,私も含めて,シリアに軍事力を行使するべきだと何度も主張してきた.しかし,大統領はそれを,アメリカの死活的な利害ではない,と無視してきた.

突然,ISISの脅威が政府に空爆の可能性を検討させている.この態度の逆転とは何なのか? シリアのISISを無視し,イラクに入ったISISを死活的利害に関わるというのはなぜか? 戦争状態は,シリアから,レバノン,ヨルダン,そして,イラクに広がったのではないか?

ホワイトハウスは3つの理由を挙げると思う.1.イラクでアルカイダが加わった.2.イラク政府が介入を要請している.3.アメリカはすでにイラクで多大のコストを支払った.イラクを去る時に,これまでのコストを無駄にしたくない.

いずれも間違いだ.最後の理由は,特に,世界を2つの飛行機のように分けている.個人が苦しむ人道的世界と,政府の利害が関わる戦略的世界だ.そこでは指導者たちのチェスゲームがあり,国家や非国家のアクターでアメリカの利害を脅かす者を阻止している.

しかし実際は,2つの飛行機がつながっている.政府は,化学兵器,燃料爆弾,飢餓で住民たちを虐殺している.それを阻止しなければ,暴力,強制移住,狂信,が広まる.ISISよりシリア政府がましだ,というのは間違いだ.シリアも,マリキ政府も,住民たちを虐殺し続けている.

オバマ大統領は,同じ問題に答えねばならない.短期的,長期的に,住民たちの利益とは何か? 安定した政府,平和と繁栄を実現するには,どうすればよいか?

その答えには,シリアでもイラクでも,軍事力の行使が含まれている.アルカイダのメンバーだけでなく,虐殺に加わるすべての者に対して,十分な軍事的報復を行うことによってのみ,彼らは交渉のテーブルに就くのだ.十分な軍事力の行使だけが,賢明な指導者に権力を確保する余地を与えるのだ.

これは国連安保理が創設された趣旨に沿うものだ.ロシアや中国が反対するなら,コソボのように,アメリカは多国間の協力で軍事力を行使し,それに対する国連総会の支持を求めればよい.国連憲章は国家権力の道具ではなく,世界の人々に平和を創り出すためのものだ.

これは単に人道的な思考ではなく,戦略的な思考でもある.オバマが2年前にシリアを空爆していたら,シリアやイラクの現状を避けられただろう.

FP JUNE 17, 2014

The Ghosts of Religious Wars Past Are Rattling in Iraq

BY JAMES STAVRIDIS

theguardian.com, Wednesday 18 June 2014

My Iraqi city is falling, but America's occupation unraveled all hope for unity

Najim Abed al-Jabouri

The Guardian, Wednesday 18 June 2014

More US bombs and drones will only escalate Iraq's horror

Seumas Milne

Project Syndicate JUN 18, 2014

Iraq’s Sectarian Nightmare

CHRISTOPHER R. HILL

NYT JUNE 18, 2014

Saudi Arabia’s Duplicitous Legalism

By EMAN AL NAFJAN

FP JUNE 18, 2014

Buyer's Remorse

BY YOCHI DREAZEN, JOHN HUDSON

FT June 19, 2014

Obama to send 300 ‘military advisers’ to Iraq

By Geoff Dyer in Washington

FT June 19, 2014

Jihadist dream comes true if US backs Maliki with air power

By David Gardner in Beirut

FP JUNE 19, 2014

How Maliki Ruined Iraq

BY ZAID AL-ALI

FP JUNE 19, 2014

Striking Distance

BY DANIEL BYMAN


l  ナショナル・フロント

FP JUNE 12, 2014

The Return of the Bonapartes

BY ROBERT ZARETSKY

Marine Le Penのナショナル・フロントはファシズムではない.フランスのボナパルティズムがよみがえったものである.


l  中東の国境再編

The Guardian, Friday 13 June 2014

Iraq doesn't have to fall apart. It can be reformed

Toby Dodge

シリア,イラク,など,ヨーロッパの帝国主義者たちが作った似非国家を一掃して,全てのイスラム教徒を単一の共同体に変える,とISISは主張している.この過激な主張に,欧米の政策評論家たちが長期の問題を一気に解決する妙案として共感を示す.彼らはもっと小さな,信仰やエスニックについて同質的な単位へ,地域をバラバラにして,1914年以前のオスマントルコ帝国と同じような姿が広く支持される,と考える.

これは歴史的にも社会学的にも間違いだ.

モスルに勢力を持つISISが北部イラクの諸都市に拡大したのは,イラク政府の失敗であり,侵攻の遺産であった.

マリキNouri al-Maliki20064月に,アメリカのライス国務長官とイギリスのストロー外相との取引で成立した,侵攻後の内戦中に,民主主義を守るという装飾であった.その後,マリキは強権を利用して反対派を弾圧した.選挙で世俗派ナショナリストのIraqiyya敗北したが,英米は予測可能性と秩序維持を優先して,マリキの権力獲得を支持した.

2013年,マリキは人気のあるIraqiyya実力者,Rafi al-Issawi蔵相を,テロに加担したという理由で解任した.それに抗議するデモがイラク北西部で起きたが,彼らは軍や政府を信用しなくなっていた.

アメリカがイラク政府に武器を与えても問題は解決しない.イラクの政治制度を改革するべきだ.

FT June 13, 2014

Iraq’s implosion reflects Syria’s lost national narrative

By David Gardner

イラクが内部崩壊に向かっている理由は4つある.1.シリアのアサド政権に対する反政府活動が,西側やサウジアラビア,カタールから反政府派へ支援を与えたが,それは原理主義者にも流れた.2.シーア派のイスラム主義者であるマリキ首相が,アメリカの保護から今はイランに頼るようになり,スンニ派を弾圧し始めた.クルドやスンニ派との権力共有という合意を破壊しつつある.3100万人のイラク軍は,アメリカから300億ドルの武器を提供してもらいながら腐敗が激しく,物資を売ってしまった.4ISISの戦術が変わった.攻撃して逃げるだけでなく,旧サダム・フセインの軍や政府関係者を加えて,支配とブラックホールの恒久化を図っている.

NYT JUNE 14, 2014

The End of Iraq

Ross Douthat

911の後,中東の地図はどうなるか,というアイデアが交換された.アメリカの侵攻,革命,反革命,宗派間戦争,アラブの春と聖戦主義者,など.100年前に英仏の帝国主義者が合意した国境線は書き換えられる,という予想があった.

サウジアラビア,パキスタン,クルディスタン,などが再編され,イラクの分割により,スンニ派とシーア派の共和国が生まれる.アラウィート派やガザなど,いくつかの新しいマイクロ国家も加わり,リビアも分裂する.

それがアメリカの意図なのだ,と非難された.しかし,アメリカは常に現在の国境線を支持してきた.今の国境線が理想的であるからではない.むしろ,エスニシティや信仰で一層政治的に分断された中東の方が,長期的に,より安定的で調和的になるという大きな見込みがある.

20世紀のヨーロッパ大陸では,そのような分割で大陸が平和になる可能性が過小評価されていた.そして,エスニック・クレンジングと強制移住,2度の大戦により,単一のエスニック集団がそれぞれ一つの国家を持つ,という野望や攻撃性が高まって,帝国主義,ファシズム,ヒトラーに至った.

中東の国境を書き直す試みがもっと平和的に行える,と予想する理由はない.だからアメリカが,さまざまな新国家よりも,現状の国境線を優先したのも当然だった.イラク侵攻の最も野心的な設計でも,それは優先されていた.サダム後のイラクとは,むしろ民主主義と発展のマルチエスニック・モデルであった.

その戦略が完全に失敗した今,イラクは3つに分裂している.クルド,シーア,スンニ.それに聖戦主義者が支配するシリアとの国境地帯.イラクは,レバノンにおけるヒズボラの領土から,内戦状態のシリアを経て広がる,弧状の紛争地帯でしかない.

今,アメリカは何をすべきか? 3年前のオバマと違って,アメリカは直接の諸勢力に対するレバレッジを大きく低下させた.地域の戦争状態が深まり,空爆でそれを止めることもできない.

2つの政権はともにしくじったのだ.ブッシュは無思慮であり,オバマは傍観した.20世紀のヨーロッパが現れ,流血によって地図が転換するしかない.

Project Syndicate JUN 17, 2014

The Middle East Balancing Act

JAVIER SOLANA

中東地域は長く不安定な状態を続けている.ISISの侵攻も,元イスラエル外相Shlomo Ben-Amiが最近指摘したように,イスラエルとパレスチナ,シーア派のイランとスンニ派のサウジアラビア,など,地域の均衡を反映して,EU,ロシア,アメリカの圧力で,中東地域全体の安全保障を再編する交渉で解決するべきだ.

国際関係に重要な役割を果たす諸大国,EU,ロシア,中国,など,は自国の問題を抱えている.彼らは中東情勢に関わることを嫌うかもしれない.しかし,中東の不安定化は彼らの問題を悪化させる.新しい,創造的なアプローチと,世界中の大国が参加して,世界にも,地域にも,安定したバランス・オブ・パワーを一気に創り出すべきだ.

NYT JUNE 17, 2014

What to Do With the Twins?

Thomas L. Friedman

イラクの解体を阻止するには,手遅れであるし,時期尚早でもある.もはや互いの信頼は完全に崩れ去った.しかし,別々に生きると決めた人々が,その結果,それほど苦しむか,兵岩的に共存する途を求めるかは,まだわからない.

何世紀も宗教戦争を続け,単一の同質民族を創るエスニック・クレンジングを経た後で,ヨーロッパは多元主義を受け入れた.ヨーロッパには啓蒙主義と宗教改革の時代もあった.

アラブのイスラム世界も同じ道をたどる必要がある.何を望み,いつ終わるのか,彼らが決めることだ.せめて穏健な島々,Tunisia, Jordan, the United Arab Emirates, Lebanon and Kurdistanが生き延びるように強化し,われわれが侵食されないように民主主義を強化しよう.

FT June 19, 2014

The EU offers a model for unifying the Middle East

By Ed Husain

ヨーロッパが今日の中東と似ていたのは,それほど以前のことではない.独裁者,政治的過激は,少数派への不寛容,国境線をめぐる絶え間ない紛争が2度の世界大戦になった.

ヨーロッパの過去と現在は,中東の現在と未来である.結局,全ての問題は,テロ,貧困,失業,宗派争い,難民,水不足,は地域的に解決されるしかないのだから.単独で自国の問題を解決できる国はない.

エジプトには安価な労働力がある.しかし若者の多数が失業している.リビアには過剰な資本があり,巨大なインフラ・プロジェクト計画がある.トルコには,空港,ビル,道路の建設に関わる専門家がいる.これらの点をつながねばならない.

中東地域は,千年以上も異なる諸王朝の下で統一されてきた.人,財,部族,アイデア,武器の自由移動が,共通の信仰を持ち,世界の他の地域に比べて,言葉は少なく,文化や歴史を共有している.EUに負けない,中東連合が提唱されてきた.

EUもアメリカも,その願いの実現を助けるべきだ.


l  ロボットと労働者

The Guardian, Friday 13 June 2014

A computer has passed the Turing test for humanity – should we be worried?

Giles Fraser

FT June 15, 2014

Managers wanted: must understand robots and humans

Andrew Hill

1次世界大戦の戦車より,卵を割ることなく何百万個もパックに詰めることができるロボットがあることに驚く.しかし,最も研究されていないのは,こうしたロボットの登場が人間の労働条件にどのような影響を及ぼすか,である.

経営者には特に巧妙さが求められるだろう.

2011年位,Foxconn 社のTerry Gouが人間の労働者をロボットに代えると宣言したとき,私は自動化がもたらす経営の複雑さを予告した.機械化をめぐる産業革命の経験は,労働現場と社会における軋轢を示すものだ.

人間とロボットとの調和を創り出す経営術が求められる.


l  富裕層の寄付政治

FT June 13, 2014

The whims of the super-rich can turn politics into a lottery

Gideon Rachman

Harry Potter(統合維持) versus EuroMillions(独立)・・・ 富裕層の政治キャンペーンに対する寄付が,スコットランド独立など,重要問題を左右する.


l  ベンチャー投資家の政府

Project Syndicate JUN 13, 2014

The Government as Venture Capitalist

LAURA TYSON


後半へ続く)