IPEの果樹園2014

今週のReview

6/16-14

 

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イラク戦争の再開 ・・・アジアの地域安全保障 ・・・EUの政治空間 ・・・D-Dayからの変貌 ・・・歴史的転換 ・・・帝国主義のパラドックス ・・・温暖化のアメリカ政治 ・・・日本の変貌 ・・・民主主義の解体と再生 ・・・旧ソ連圏の変化 ・・・中国の変化 ・・・ブラジル・ワールド・カップ

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, Yale Global そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  イラク戦争の再開

FT June 5, 2014

Strongmen are back to dash hopes of the Arab spring

By Roula Khalaf in London

シリアではアサド大統領が再選された.これで7年間の任期を得て,和平交渉が断たれた.エジプトのシシ将軍,イラクのマリキ首相,など,「アラブの春」が倒したはずの強権支配体制が再生してしまったのはなぜか?

シリアの国民は本当にアサドを支持したのか? エジプトではイスラム原理主義を排除する,アラブ産油諸国から援助を受け取る政府だけが支配できるのか? イラクの反政府勢力を抑えられるのか?

強権支配体制が再生するとしても,その基礎は大きく変化している.

NYT JUNE 10, 2014

The Real War of Ideas

Thomas L. Friedman

モスルがスンニ派の過激派によって占領された.彼らはシリアの国境を越えてやってきた.それは東地中海に広がる2つの思想の戦いである.しかし,あなたが考えているような思想ではない.

イラクで選出されたNouri al-Malikiマリキ首相は,スンニ派過激集団と対抗する独裁者である.マリキが刺激したシーア派の好戦論も,スンニ派の好戦論と同様に,思想の敗者である.選択するべき思想は,スンニ派やシーア派の過激思想the extremistsではなく,環境保護派the environmentalistsである.

過激派も環境保護派も,シリア,イラク,トルコ,レバノンの国境を失くして,単一の政治システム,あるいは,エコシステムに統一されることを求めている.もし過激派が勝利すれば,実際に勝利しつつあるが,この地域は人的かつ環境的な惨禍に苦しむ地域となる.もし環境保護派が勝利すれば,それは人々がこの空間を共有していることを学ぶからであろう.彼らは互いに破壊し合うか,「母なる自然」によって滅ぼされることを知る.

クルディスタンの環境保護派と会って話した.そして,目が覚めた.中東は諸国家によって分割されているが,全ての住民は水力・生物的なエコシステムに生きている.それがますます脅かされているのである.

1990年代に,イラクのクルド人地域は二重の制裁に苦しんだ.国連によるイラク制裁とイラク政府による制裁だ.その結果,クルドは燃料として燃やすために森林を伐採してクルド・オークの森林やその生態系を破壊し,ペルシャ・レオポルドのような巨大生物が危機に瀕している.

環境保護派のAzzam Alwashは述べた.世界の多くの人はイラクを,石油,砂漠,戦争と思っている.しかし私にとってのイラクは,雪に覆われた北部のクルド山地である.そこから続く谷に水と耕地がイラク南部にまで広がっている.われわれが食べる物は,クルドの山脈が与えたミネラルによってできている.

ティグリスとユーフラテスの主要な源は,トルコ東部とイラクに住むクルド人の山岳地域である.しかし,干ばつが増え,ディーゼル・ポンプによる取水が増え,トルコの農業や人口増加,イラクの石油産業が多くの水を必要とする.トルコはすでに20か所に巨大ダムを建設し,数百の堰を設けている.またトルコはイラクやシリアにおけるクルド人の反政府勢力や,シリア政府とも敵対している.

過激派にとって国境は存在しない.モスルを占領したように,スンニ,シーア,クルドの過激派が国境を越えて戦争する.環境保護派にとっても国境は存在しない.統合された河川や水体系が問題だ.

環境保護派は「コモンズ」から出発する.すべての者が豊かになり,すべての者が共有する.過激派は「排除」で始まる.すべての者が恐怖を感じる.東地中海の未来は,他のすべてのイズムを否定し,環境保護派の思想を支持している.

FP JUNE 10, 2014

We Are Losing the War on Terror

BY DAVID ROTHKOPF

13年に及ぶ消耗する戦いを経てきたアメリカ人にとって,テロが広がっていることは受け入れがたいことだ.何が間違っていたのか? 今,何をすべきか? ウェスト・ポイントでオバマが述べたような,同盟諸国に頼ることだけで安全は確保できないだろう.

FT June 11, 2014

Fall of Mosul encapsulates tragedy of a failed state

Roula Khalaf

FT June 11, 2014

The nightmare emerging in Iraq

イラク第2の都市,人口200万人のモスルが,戦闘もなくイスラム過激派勢力the Islamic State of Iraq and al-Sham (ISIS)によって支配されたことで,イラクが統一国家として存続することさえも疑問になる.

政治的失敗は昨年,マリキ首相がスンニ派の指導者たちを政権から追放したことにさかのぼる.それが,指導者たちを穏健すぎると批判していたスンニ派の聖戦主義者たちに,復活の機会を与えた.昨年の死者数は8000人に達し,2007-08年のピークに戻った.

スンニ派の拠点であったが,アメリカ軍がベトナム戦争以来の激しい戦闘で支配したファルージャの再征服に,半年前,ISISは成功した.聖戦はユーフラテス渓谷北部を制圧し,バクダッドを目指す.

マリキは先月の総選挙で勝利したが,世論は分裂した.強権的な指導者としてマリキが不当な3期目を得た.隣国シリアの内戦が影響するのは確かであるが,イラクのスンニ派はシリアの過激派と結び付いていなかった.マリキの失策がISISを呼び込んだのだ.マリキ政府の防衛や治安能力は低く,組織は腐敗している.

ISISに効果的な圧力を加える必要がある.迅速さが重要だ.マリキがクルド地域の指導者とスンニ派に協力を求める必要がある.しかし,クルドンからの協力の申し出をマリキは拒否した.

FP JUNE 11, 2014

Iraq War III Has Now Begun

BY MICHAEL KNIGHTS

崩壊した軍・治安組織を立て直す必要がある.オバマは戦争を終えると約束したが,そのためには,今や軍事支援を拡大するときだ.世界で最も急速に輸出を伸ばす中東の油田地帯で,国家が不安定化している.

NYT JUNE 11, 2014

The Army Alone Can’t Save Iraq

By NUSSAIBAH YOUNIS

軍事力だけでは勝利できない.シーア派の指導する政府は,スンニ派の不満に対処しなければならない.それが失敗すれば,アメリカの武器は内戦を激化させるものでしかない.ISISがモスルに侵攻したとき,政府軍は軍服を捨てて逃げ去っていた.過激派はやすやすと,アメリカ軍が政府に与えた重火器や戦車を得たのだ.彼らは国境に展開し,シリアと武器を交換し,パイプラインも攻撃できる.

マリキは戒厳令を命じて権力を集中したが,情報管理や避難阻止などで,事態が悪化するだけである.以前から,排除されたと感じているスンニ派は,シーア派過激派の攻撃を恐れて,スンナ派の過激派を支持する方に向かっている.マリキの権力強化は,反対派の発言を抑えることにしかならない.

アメリカは支援を条件にマリキに要求するべきだ.テロに対する戦いに勝利するためには,反対派を政府に組み込まれねばならない.

FP JUNE 12, 2014

The Battle for Iraq Is a Saudi War on Iran

BY SIMON HENDERSON

Bloomberg JUN 12, 2014

Who's to Blame for Iraq? Wrong Question

Stephen L. Carter


l  アジアの地域安全保障

Project Syndicate JUN 5, 2014

A Chinese Monroe Doctrine?

JASWANT SINGH

中国の外相がインドを訪問する.Modiはどのような話をするのか? インドと中国という世界最大の人口を持つ国が結ぶ関係は重要な意味を持つ.

インドと中国の関係は,特に経済に関して改善している.ただし,中国の黒字に傾く貿易不均衡が,インドには不満である.他方,安全保障では,両国の間に世界で最も大きな国境紛争を抱えている.昨年,中国軍がインドの支配地域に侵入して築いた拠点も,まだ残ったままである.中国の姿勢は,言葉の上では穏健であるが,その行動は攻撃的で,周辺の多くの国と紛争を激化させている.

Modiは,地域の安全保障システムを築く話し合いにおいて,双方の利益をもたらす解決策があると考える.しかし,中国がその覇権を地域的に確立する以外の解決策を受け入れない,というのが問題だ.

FP JUNE 6, 2014

Cambodia Sleeps With the Fishes

BY KEITH JOHNSON

東南アジア諸国は,中国の攻撃的な言動に対して,協力して対抗しようとしている.しかし他方で,互いの利害を脅かす計画も進んでいる.

水力発電を目的としたラオスの野心的なダム建設計画は,ベトナムやカンボジアにおける食糧供給に対する深刻な脅威になるだろう.

FT June 9, 2014

Keep the lid on Pandora’s box or Asia will pay dearly

Gideon Rachman

1970年代の末から,アジア諸国は戦争することを考えなくなった.ビジネスの競争に徹して,豊かになったのだ.しかし今また,警戒すべき朝貢が一斉に現れている.軍事演習,異常接近,監視艇や漁船の衝突.安全保障会議では互いの防衛担当者が非難を浴びせている.

アジアはパンドラの箱を開けてしまったようだ.

なぜアジアなのか? そのもっとも注目される理由は,中国の経済成長によって,経済規模が日本を超え,アメリカに匹敵するようになったことだ.この中国の興隆に対して,日本は警戒し,防衛力を強化し,アメリカも国際システムを守ろうとする.

しかし,その紛争となっている無人島や岩礁は,歴史的に見て,戦争の原因となるには最も微小なケースである.各国は紛争を交渉・調停によって解決するべき理由がある.それを妨げているのは,何よりも中国が一切の交渉を拒否していることだ.「中国人民の偉大な再興」を掲げる政府は,「9つの点線」を譲るつもりがない.国民はそれを教育によって確信している.

他のアジア諸国は,国際的な法やルールを重視するが,国際司法裁判所の役割を中国は認めていない.また,アメリカも海洋法を批准しておらず,日本政府は紛争の存在を認めない.

しかし,各国が交渉と取引による解決の余地を受け入れることから,アジアの紛争調整メカニズムを生み出す条件を整備するべきだ.

Bloomberg JUN 9, 2014

China and India, Made for Each Other

By William Pesek

FT June 10, 2014

Conflict looms in ‘Asia’s cauldron’

煮えたぎる「アジアの大釜」を冷やすには,国際法が十分な答えとならないだろう.中国の台頭を永久に抑えることはできない.西太平洋のパワー・バランスが変化したことを吸収する仕組みを求められている.

東アジア・サミットは,その役割を重視し,もっと信頼醸成のための制度も強化するべきだろう.災害の救助や海賊対策など,中国の利害を反映することもできる仕組みを作って,その参加を促すべきだ.

最も効果的な解決策は,中国を,日本,インド,アメリカなど,他のアジア諸国と同じ地域安全保障ネットワークに組み込むことである.何年,何十年もかかるかもしれないが,非常時のホットラインや情報交換から始めることだ.

Bloomberg JUN 10, 2014

Asia's New 'Axis of Reform'

William Pesek

Global Times 2014-6-10

China in need of diplomatic innovation


l  和平から西岸併合案へ

NYT JUNE 5, 2014

Don’t Annex the West Bank

Shmuel Rosner

ヨルダン川西岸をイスラエルに併合する計画が次第に公式に議論されている.それは国際社会による反発や,パレスチナ人の人口比率を高めてイスラエルがユダヤ人の国でなくなる危険をもたらす.しかし中東和平が進展しないまま,計画が動き出すかもしれない.

NYT JUNE 8, 2014

Peaceful Nonreconciliation Now

By DANI DAYAN

欧米が数十年も正しいと認めてきた2国家案は中東和平の失敗で終わったが,それに代わるものがない.

しかし,その絶望を受け入れるだけでは正しい政策は導けない.何よりも,西岸(Judea and Samaria)のパレスチナ人はもっと生活を改善できるし,それがふさわしい.

10年位及ぶテロの圧力で,安全保障の壁はイスラエルと西岸とを切り離した.しかし,パレスチバ人は生活するためにイスラエルの職場を必要とする.労働者からエンジニアまで,イスラエルの工場で雇用されている.

壁や検問所をすべて廃止し,パレスチナ人もユダヤ人も自由に移動できるようにする.双方の警察と軍は,これまで通りに安全保障を担当する.パレスチナ政府やパレスチナ人の生活を破壊することはイスラエルの利益ではない.パレスチナ人は,都市の計画や建築委員会に,同等の資格で参加する.イスラエルとパレスチナのインフラ整備における大きな格差は,国際社会の支援を受けて縮小させる.

西岸の難民キャンプを再生する.その5世代に及ぶ暴力と貧困を終わらせる.暴力を一切許容しない.入植者への暴力も含めて,停止する.アラブとイスラエルとの間にある領土紛争はゼロサムである.しかし,パレスチナ人の生活改善はそうではない.

恒久的な和平ではないが,和解を促す条件だ.


l  EUの政治空間

SPIEGEL ONLINE 06/05/2014

Europe's Juncker Bond

By Jan Fleischhauer

Jean-Claude Junckerはドイツの友人ではない.彼は緊縮策に批判的であり,ユーロ圏を融資同盟に転換しようとする諸国から支持を得た.

ドイツが支援には厳しい財政規律を求めると主張したとき,ユンカーは述べた.「ユーロの問題になると,なぜドイツは他国の国内政策を決定する権限があるなどといつも思うのか? ドイツは,ユーロ圏を自国のチェーン店のように思っているのではないか?

FP JUNE 5, 2014

Britain's Great Unraveling

BY ANDREW HAMMOND

イギリスは,世界人口の1%にも満たず,世界GDP3%ほどでしかない.しかし,その国際的影響力は,イギリスが帝国を失ったにもかかわらず今も重要である.将来のイギリスの繁栄と国際的な地位を大きく失わせる問題が起きている.それは,スコットランド独立とEU離脱である.

スコットランドの独立は,残された北アイルランドやウェールズとの連邦にも影響するだろう.また,スコットランドのEU支持率は高いから,スコットランド独立がEU離脱を有利にする.イギリスがEUを離脱することは,EU改革にとっても損失だろう.

スコットランドがEUに加盟できるという保証はない.すべての加盟国が承認しなければならないが,少なくとも,カタロニア問題を抱えるスペインは承認に反対している.たとえ加盟できても,イギリスが得ている条件よりも不利になり,EUの重要な決定には参加できない.他方,スコットランド独立は,イギリスへの直接投資を損ない,イギリスの財政基盤を減らして,緊縮策を強化する条件となる.

財源問題はイギリスのトライデント潜水艦や核基地の整備問題をさらに困難にする.スコットランドにある核施設をイングランド内部に移設するには巨額の費用が掛かる.

スコットランド独立は,さまざまな国際会議におけるイギリスの発言力を失わせる.G7/G8G20NATO.国連安保理の改革を進めるとき,イギリスは常任理事国の地位を失うかもしれない.強固な,統一された,実効性のあるパートナーとして,イギリスが統一を保ち,EUに加盟していることをアメリカ大統領も求めた.

NYT JUNE 6, 2014

France’s Ticking Time Bomb

By FRANÇOISE FRESSOZ

Project Syndicate JUN 11, 2014

Democracy in Europe

KEMAL DERVIŞ

欧州委員会の人事をめぐって,メルケルは問われている.どうすればEUはその統合化にふさわしい政治空間にまで拡大できるのか?


l  D-Dayからの変貌

FP JUNE 5, 2014

D-Day's Going to Be a Bit Awkward This Year

BY ROBERT ZARETSKY

The Guardian, Friday 6 June 2014

Why Britain still wants to fight Europe on the beaches

Jonathan Freedland

イギリスは出て行け,とフランスのロカルノ元首相は言った.イギリス人は,結局,チャーチルが主張したヨーロッパ合衆国の必要を認めないのだから.

確かに,イギリス人はEUを,自分たちが抱えていない問題の解決策だ,と見ている.フランス人は旧秩序への信頼が失われ,ドイツ人は国民のアイデンティティーを失った.イギリス人から見て,ヨーロッパは間違った側に立った人々と彼らに一掃された人々だ.

ロカルノは,ヨーロッパが単なる貿易以上の問題であった,という.しかし,ヨーロッパは30年間に2度も激しい戦争をし,それに代わる協力を目指したはずだ.だからイギリス人はブラッセルや官僚制の肥大化を嫌う.ユンカーの欧州委員会委員長就任に反対する急先鋒だ.

1939年からヨーロッパを観るなら,再び新しいヒトラーが登場している.

Bloomberg JUN 6, 2014

Putin and Obama Don't See D-Day the Same Way

By Marc Champion


l  ECBのデフレ対策

FT June 6, 2014

Draghi has pulled another rabbit out of his hat

Martin Wolf

今回の危機は,ユーロ解体ではないが,デフレに落ち込む危機である.今回も,ドラギは「何でもする」覚悟だ.


l  サマーズの改革案

FT June 6, 2014

Lawrence Summers on ‘House of Debt’

Larry Summers

FT June 8, 2014

The rich have advantages that money cannot buy

Larry Summers

1%,0.1%,0.01%の富裕層が占める所得や資産に関心が集まっている.税制の抜け穴をふさぎ,累進性を強化する理由は多くある.同時に,そのような政策が,中産階級や貧困層の所得,成長を損なうことも注意しなければならない.

再分配政策だけで貧困問題を解決できない.貧困に影響するのは,所得以外に,医療と教育機会である.過去の2世代で,富裕層と貧困層との間の子供が示す教育成果の差は2倍に拡大した.その大きな理由は追加の読書時間や教育機会である.


l  歴史的転換

FT June 6, 2014

Reflections on the upheavals of 1989

25年を経たポーランドと中国との対照は著しい.特に,中国の成長と政治的な抑圧とは,このまま続くとは思えない.権力を維持するためにナショナリストの感情が刺激されるのはアジアの大きな不安材料だ.共産党は,商売,旅行,インターネットの自由を享受するだけで十分だと思っているようだが,それはどうか?

SPIEGEL ONLINE 06/06/2014

Fahrenheit 1989

China Erases Memories of Tiananmen

By Bernhard Zand in Beijing

FT June 10, 2014

Three events that shaped our world

Martin Wolf

今年は,第1次世界大戦開始から100年,ノルマンディー上陸作戦から70年,ソ連圏崩壊と天安門事件から25年,である.

歴史は繰り返さないが,韻を踏む.グローバリゼーションは世界の貧困を減らし,中国とインドの素晴らしい成長をもたらしたが,世界金融危機はその逆転を示唆し,世界の政治には新興国との緊張が高まっている.核兵器は戦争の発生を抑えるが,紛争はなくならない.

この100年間の教訓は,人類が協力する運命にあるが,人類は今も非常に部族的な生活に縛られている,ということだ.協力と抗争との緊張関係は続く.


l  帝国主義のパラドックス

Project Syndicate JUN 6, 2014

America’s Late Imperial Dilemma

IAN BURUMA

オバマの姿勢は左右から批判されている.アメリカは世界にその意志を押し付ける特別な地位にある,と彼らは考えるからだ.左派は民主主義や人権を理由に挙げるが,右派は英雄など求めない.アメリカが最強の国であるからだ.

アメリカの指導を必要と考えるのは,他者に利益をもたらす警察が失われた世界はカオスに陥り,悪しき勢力が繁栄する,という前提があるからだ.Robert Kaganは,アメリカの指導力が失われると,独裁者の行動を刺激するだけでなく,民主的な諸国の同盟も難しくなる,と主張する.すなわち,東アジアでは,中国だけでなく,日本の行動もアメリカから離れて,独自に軍備を強化し始め,信頼できなくなるのだ.

こうした議論は,帝国の末期によく行われたものだ.20世紀のヨーロッパ諸帝国は,彼らの植民地の住民たちに,その独立を遅らせようとした.まだ早い.お前たちには独立できる準備がない.西側の支配者がおまえたちに責任を果たすことを教育してやるから,それまで待て,と.

これは帝国主義のパラドックスである.植民地である限り,彼らは支配的な地位から排除され,準備できないのだ.自分たちのことに責任を持とうが持つまいが,彼らは決定から排除される.

帝国は長期にわたって秩序と安定性を維持できた.しかし,帝国主義者たちは,今のアメリカのように,支配することに疲れ,植民地人は我慢できなくなった.帝国の秩序が衰退したとき,Kaganが指摘するように,混乱が訪れた.

1947年,イギリスが撤退したインドで,それが起きた.パキスタンが分裂し,ヒンズー教徒とイスラム教徒が殺し合って100万人が死んだ.しかしこれは,だからイギリスの支配を続けるべきだった,というのか? そうではない.むしろ彼らの緊張関係は植民地の分割統治がもたらした結果であった.

同じことは,ある程度,パックス・アメリカーナにも言える.「自由世界」の指導者は,民主的な諸国も,多くの独裁国家も,同じように従わせてきた.アメリカが「リベラルな秩序」を維持したのは,第2次世界大戦や冷戦の結果であった.こうしたことがいつまでも続くはずはないから,帝国のパラドックスが再生する.他国がアメリカに従う限り,彼らは十区の安全保障までアメリカに頼る.他方アメリカは,同盟国の事情から手を引こうとするが,彼らがいうことを聞かなくなるのは嫌がる.2009年に日本で政権交代が起きたとき,日本が対米・対中関係を見直すことをオバマ政権は邪魔した.

ウェスト・ポイントの演説で,オバマは東アジアにほとんど触れなかった.しかし,オバマの慎重な外交姿勢で最も利益を受けるのは東アジアである.オバマは正しい直観から,アメリカの軍事的な優位が低下することを認めているから,アメリカが次の不必要な戦争に巻き込まれないようにするだろう.それは帝国のジレンマを解決できないが,それでも東アジアにとって,彼の批判者たちが唱える軍事力の行使を抑える点で正しいだろう.

Project Syndicate JUN 10, 2014

Obama the Pragmatist

JOSEPH S. NYE

オバマへの批判が強いのは,その期待が大きかったからでもある.オバマは核兵器を廃絶し,アメリカの中東政策を変え,国際システムを作り変える大統領になると約束した.

しかし,困難な世界に直面して,オバマは修正を要した.よりプラグマティックな指導者に変わったのだ.それは改善されたというべきだ.オバマはアメリカの死活的な利益が脅かされたときには軍事力を行使するが,そうでないときは外交を重視する.それは孤立主義ではない.

軍事力の行使を抑制することを孤立主義とは呼ばない.効果的な外交には,国際関係や超国家的関係を理解するだけでなく,多くの国の複雑な国内政治を理解しなければならない.革命後の「国家建設」に関与することは,数十年に及ぶ予測が必要だ.

複雑さを考慮すれば,慎重な外交姿勢が重要である.誇大妄想による大胆な行動は,外交を極度に危険なものにした.ウィルソン,ケネディ,ジョンソン,そしてジョージ・W・ブッシュがそうだ.

外交の成功は単純なものではない.ジョージ・HW・ブッシュはそれを理解していた.

NYT JUNE 10, 2014

Arm Syria’s Opposition

By ROBERT S. FORD

NYT JUNE 10, 2014

A New Map, Defined by Gas

Vali R. Nasr


l  機械

NYT JUNE 7, 2014

The Ghosts in the Machine

By TIMOTHY H. EVANS


後半へ続く)