IPEの果樹園2014

今週のReview

6/2-7

 

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ヨーロッパの模索 ・・・タイのクーデタ政治 ・・・天安門後の中国共産党 ・・・Modi首相 ・・・金融富裕層 ・・・グローバルな秩序と軍事力 ・・・陸軍士官学校の卒業式 ・・・戦没者追悼記念日 ・・・オバマ外交の欠陥 ・・・ベトナムの反中国デモ

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ヨーロッパの模索

NYT MAY 22, 2014

Crisis of the Eurocrats

Paul Krugman

ヨーロッパのプロジェクトは,民主主義と繁栄により平和をもたらすはずであったが,深刻な問題に陥った.

1に,経済が低迷している.ユーロは共通通貨として,大陸規模の経済統合に向かうはずであったが,南欧への資本流入とバブル,その後の危機を生じた.債務諸国は失われた競争力を回復するために,何年も大恐慌並みの失業水準を強いられている.

さらにユーロの問題は,財政緊縮という間違った政策で悪化した.危機が放漫財政のせいにされて,不況にもかかわらず野蛮な緊縮策を強いられたのだ.ECBが「ユーロのために何でもする」と宣言し,政府債を購入することで,漸く危機は鎮静化した.しかし政府と有権者との乖離はさらに広がった.

間違った政策を正す穏健な批判派がいない.その結果,ナショナル・フロントのような集団が「欧米の金融寡頭制に奉仕するテクノクラート」を批判して,票を得るのだ.

テクノクラートではなく,ユーロは政治とイデオロギーの産物である.経済分析はユーロが最適通貨圏でないことを知っていたし,緊縮財政にも反対した.しかし,政策は変わらなかった.エリートたちは優れた専門能力によって指導する正当性を得るはずであった.それは完全に失敗したのだ.テクノクラートとして,ECBは危機やデフレと戦い,かろうじてユーロを守っている.

余りにも多くのヨーロッパ人が,民主主義の価値を拒み,物価の安定や財政再建に奉仕していることが心配だ.

FT May 23, 2014

Why Europe works

Simon Kuper

ある日,私はパリで子供たちを朝830分に学校を送り,昼前にはロンドンでコーヒーを飲んでいた.こうした経験はヨーロッパでますます普通のことになっている.

西欧は世界の歴史で最も結びついた地域である.その緊密さこそ,多くの反対意見とは逆に,この地域が成功している理由である.

西欧は,温暖で,降雨に恵まれた,肥沃な土地であった.それが人々を異なる言葉を話しながら,地球上のどこよりも,密接に暮らすことを許したのだ.しかもヨーロッパには海があった.他の大陸や亜大陸に比べて,陸地に対する海岸線の比率が高いのだ.16世紀,17世紀の科学革命のように,人々はラテン語を共有して,知識を交換し,刺激を与え合った.

6年に及ぶ経済危機の後でも,むしろ,これほどわずかの人々しか極右に共感していないのは素晴らしいことだ.多くの人々は,ヨーロッパ議会や主流の政治党派を批判するために,極右に投票したのだ.ヨーロッパの夢は安定している.中国でも,ロシアでもない.アメリカのような超富裕層による政治支配もない.

FT May 23, 2014

Being German

By Stefan Wagstyl

ドイツには約1000万人の移民がおり,その子供たちがドイツを変える.

私は,新しいドイツ人に会うため,ベルリンの語学学校Berlitzにやってきた.6か月の集中コースで,最も若い生徒は28歳のシリア難民,最高齢はウクライナからのおばあさんだ.かつて一時雇用の外国人しか受け入れなかったドイツが,移民たちの新しい母国になっている.人口8000万人のドイツ人の1000万人,13%が移民である.それはヨーロッパ最大規模だ.

Project Syndicate MAY 27, 2014

Europe and Anti-Europe

HAROLD JAMES

ヨーロッパ議会選挙の結果は,EUについて再考を迫っている.ここには2つのヨーロッパがある.1つは,統合のロジックが政治システムや社会秩序に深く体現されたヨーロッパである.もう1つは,主権をプールするという基本的な前提を拒むヨーロッパだ.

良いニュースは,多くの諸国が前者に属していることだ.そして,悪いニュースは,最大規模の2か国が後者に属していることだ.すなわち,イギリスとフランスである.

ヨーロッパをめぐる論争は,単に政治制度の統合に関するメリットとデメリットではない.政治的協調の問題に技術的な解決策もない.それは,グローバル化する世界で社会をどうやって組織することができるか,という問題だ.これまでは制度のデザインが強調された.しかし,社会的なダイナミズムや革新は重視されなかった.

ヨーロッパを支持する意見では,選挙によって,ヨーロッパ規模の新しい民主主義が誕生するはずだった.ヨーロッパ懐疑派の意見では,新しい政治秩序は機能せず,人々は投票をEU批判として利用するはずだった.

楽観も悲観も,ともに正しくなかった.ヨーロッパの新しい指導者は現れなかったし,反EUや統合への幻滅がまとまった流れを意味することもなかった.むしろ,多くの国で,経済危機にもかかわらず有権者は自分たちの政府やヨーロッパを支持した.スペイン,イタリア,ポーランド,オランダで,反EUは支配的な地位を阻止された.

しかし,英仏海峡とライン川を渡ると,その様子は大きく変化する.フランスとイギリスでは,ポピュリスト政党が勝利したのだ.両国とも,政権政党であるイギリス保守党とフランス社会党が敗北した.しかも,第3位だ.

この選挙結果は,両国の示すヨーロッパとは異なる構造を示したものだ.ともに19世紀の帝国を築いた伝統で行動しており,経済構造が21世紀の,グローバル化し,緊密に統合した世界に適合していない.イギリスは金融サービス部門に極端に依存している.フランスには大企業への極度の依存がある.ドイツやスペインのような活発な中小企業や自営業が育たない.

英仏とも,経済モデルの転換を激しく論争している.ドイツの徒弟制を模倣する試みもある.英仏の経済が過去のモデルによって生き残ることはできないだろう.その改革は,EUの壊れた,複雑な政治秩序を修復するのと同じくらい,重要な課題である.


l  天安門後の中国共産党

FT May 23, 2014

China cannot follow America’s route to world leadership

By Adam Tooze

測り方によっては,中国の経済規模がすでにアメリカを超えた.しかし,アメリカの歴史は,単に経済規模だけで世界の指導的な地位がその国に与えられたわけではないことを示している.

1次世界大戦が,アメリカを引き上げただけでなく,その世界的な指導的役割を創ったのだ.それは中欧と東欧の王朝間で続く教区争いのようなものだった.しかし,結果的にユーラシア全体の政治を作り変えた,1917年から2年間で,ロシア帝国の解体がウクライナなどを生んだ.日本と現代の中華人民共和国との闘争が世界的関心事となったのも,このときからだ.中国は,唯一,ヴェルサイユ条約に調印しなかった.それは大規模な抗議デモが起きて,遼東半島のドイツ権益を日本が得るという条件を,中国政府は受け入れることができなかったからだ.

1次世界大戦による世界再編の核心は,アメリカが超大国として台頭したことだ.ヴィクトリア朝の英国は広範な影響を駆使し,ドイツに対抗する同盟を組織した.しかし,それは帝国によるものであって,アメリカが独自に行動することで経済規模を失った.

他方,アメリカは,1870年代に経済規模では世界最大になったが,国民経済の基本的な制度も整っていなかった.世界経済の辺境に位置し,高関税率に頼り,金本位制の維持も疑わしかった.1913年まで,中央銀行もなかった.ヨーロッパが自殺に等しい大戦争をしたことで,その正当性は失われ,アメリカの指導力が認められた.

ヨーロッパの軍事力が消耗しつくすという理想的な背景において,アメリカの工業力と金融力は高められた.1916年,ソンムで撃たれた弾丸の3分の2はアメリカとカナダで製造された.戦争があったから,保守的な南部で人種差別の法律を支持したアメリカのウィルソン大統領が,進歩主義の世界的な指導者として認められた.

中国にはこうした条件が無い.その工業力と金融力は20世紀初めのアメリカに及ばず,地域の主要諸国とも敵対している.中国が独自の近代化を目指す世界の指導者になるとは,まったく考えられない.安易な歴史的類推は,紛争を意味するだろう.

FT May 26, 2014

China’s very success could cost the regime dearly

By MinxinPei

198964日,人民解放軍は平和的な民主化運動を弾圧した.しかし,中国共産党CCPは天安門事件から25年間を生き延びた.それどころか,さらに権勢を高めている.

多くの人が中国共産党の生命力に目を見張る.問題は,それが共産党をどのように変えたか,である.その生き残り戦略は4つの支柱によって実現した.成長,弾圧,ナショナリズム,エリートの共謀,である.

その成功は「権威主義体制の生命力」という説明を生んだ.一党独裁体制は(複数政党制や民主制に比べて)天安門事件のような反政府行動に対して強い抵抗力がある,というのだ.

しかし,彼らは決定的な事実を見逃している.中国共産党に広がる汚職・腐敗によって,支配的な制度としての政党が腐食してしまったことだ.急速な成長と民主化の弾圧という条件が,汚職にとって最適の状態を創り出した.エリートたちには汚職を抑える制約がない.

すでにBo Xilai裁判などで,われわれは汚職の激しさを聞いている.政治エリートたちは支配的なネットワークを形成して「家族」となり,不動産開発,エネルギー.通信,資源,などで暴利を得ている.国有企業は彼らが私腹を肥やすための器官である.この利権政治の犠牲となったのは中国民衆だ.国家は私物化され,ある意味で,「共有財の悲劇」が起きている.

新世代の共産党員は,共産党への忠誠を欠き,パトロンたちに尽くすだけだ.利権があるのに私腹を肥やさないとしたら愚か者である.実際的な彼らは,共産党の支配はすぐに終わるだろう,と知っている.

こうして天安門事件以後の25年間は,中国の体制を植民地化する機会主義者の2世代を生み出した.かつての強力であった中国共産党を,空っぽのリヴァイアサンに変えてしまった.

習近平は,ソ連崩壊に際して,一党支配体制を欠いたからだと悔やんだ.しかし,次の天安門事件を,中国共産党も生き延びることはできないだろう.


l  Modi首相

FP MAY 23, 2014

Faster, Stronger, Worse

BY JAMES TRAUB

インドについて何より理解しておくべきことは,アメリカと同様に,両側を海に囲まれた,敵対する強力な外国がない,大陸国家であることだ.インドは中国やパキスタンとの関係よりも,国内の貧困,政治腐敗,カーストに関心を集中する.外交は主要な政策にならず,慣性が働く.

Modiのインフラ投資を重視する姿勢からも,インドは日本を重視するだろう.インフラ投資は日本が最大のプレーヤーであり,ニューデリーからムンバイ,チェンナイからバンガロールに至る高速道路の建設でもパートナーだ.しかし,インドの姿勢は,Modiの下で,より重商主義的になるだろう.

ヒンドゥー・ナショナリズムによるBJPの指導者として,Modiはパキスタンとの関係を重視し,シン前首相と違い,テロには厳しく対抗するだろう.しかしBJPの前首相Vajpayeeがパキスタンとの和解を図ったように,Modiがインドのニクソンになる可能性はある.

Modiは,2002年のグジャラート暴動で,彼に対するビザ発給を禁止したアメリカ政府の措置を嫌っているから,対米関係は重視しないだろう.デリーのエリートたちは,オバマがインドを見下した態度を取った,と憤慨している.インドは新興世界で民主主義の指導的国であるが,中国やロシアに民主化を求める考えはない.国連安保理の投票でも,リビアやシリアに関して棄権した.国際秩序の維持よりも,主権を重視する.

Modiは西側にとって,全体に,マイナスだろう.ビジネスに適した投資環境を用意し,規制緩和する,グジャラート・モデルをインドに拡大して成長することが彼の主要な目標であり,アメリカもこれに協力することだろう.


l  グローバルな秩序と軍事力

NYT MAY 23, 2014

A Great-Power Outage

Vali R. Nasr

プーチンの攻撃的な姿勢は,ウクライナ東部を超えて,国際政治に影響を広げている.それは世界の4大戦略国家の誤算と行動を通じて2014年の危険な状況を創り出す.

ロシアは自国を罠にかけた西側の陰謀を憎むが,戦争を嫌い西欧は経済的な利益によってプーチンに理性的な行動を回復できると期待する.世界の警察官として疲れを感じるアメリカも,経済制裁でロシアに応じたいが,主要な関心はアジアに向かう.そこでは経済的に膨張する中国の存在がアメリカのビジネスや同盟諸国を脅かしている.

すなわち,世界の戦略国家がその目標や戦略を全く異なった仕方で理解し,それゆえ紛争は解決しにくくなった.パワー・ポリティクスと相互依存に関して,大国が衝突する危険は高まったのだ.

NYT MAY 24, 2014

Deterrence Revisited

By DAVID E. SANGER

伝統的に,West Point陸軍士官学校における演説はアメリカが防衛政策を説明し,あるいは,方針転換する重要な機会であった.オバマは,アフガニスタンやイラクから撤退した後,大統領とアメリカが海外における軍事力行使を嫌うときも,どのように敵を抑止できるか,説明しようとした.

オバマ政権の内部でも,方針転換が大き過ぎて,アメリカの敵や独裁者にグローバルな秩序を無視させ,変更を求める動機を与えたのではないか,と懸念する声がある.彼らはアメリカの行動を恐れなくなった,というわけだ.

抑止とは,もちろん,パワーの概念そのものだ.敵は,アメリカがその利益に反する行動に対して,軍事力で,策略で,経済的孤立化で,報復することを確信しており,それゆえ再考するのである.オバマは「軽歩戦略」“light footprint” strategyを採用した.大規模な軍隊を派遣することはなく,多数のドローンを外国で使用し,グローバルな諜報能力を高め,特殊部隊による暗殺を指示する.

しばらくは,オバマが新しい抑止力の支配者になった.しかしドローンの効果は限られ,その政治的な問題が悪化した.6000人の諜報部隊もシリア内戦やリビアの国家崩壊においては役に立たず,プーチンの軍事圧力にも対抗できなかった.

元側近も認めるように,それはオバマの長期思考と関係がある.オバマは,プーチンと違って,事態の先を読む.クリミアを併合したプーチンは,経済制裁の長期的なコストを味わう.中国の行動は,近隣諸国をますますアメリカ側に追いやる.オバマは孤立と過剰拡大との中間地点に位置することができる,と考える.


l  戦没者追悼記念日

NYT MAY 24, 2014

Memorial Day 2050

Thomas L. Friedman

気候変動の現実性は高まっており,そのコストは明白に意識できる.しかし,将来世代が味わう苦しみを現在の政策に反映するのは難しい.特に,多くの人は温暖化に懐疑的で,毎日の暮らしにコストが追加されることを嫌っているのだから.

オランダの哲学者Thomas Wellsは,将来世代,まだ生まれていない人々が,われわれの政治に参加できる仕組みを考えた.すなわち,公務員,寄付団体,環境保護運動,無党派のシンクタンク,が「信託統治者」として,将来世代を代表するのだ.例えば,「経済の脱炭素化」について,有権者の10%に相当する投票を行える.

非現実的だ,と言うかもしれない.しかし,私たちの世代の選択が将来世代にコストを転嫁しているのは現実に起きている問題である.地球環境は有限なのだ.

世代を超えた問題は環境に限らない.われわれが自由な社会に住めるのは,かつて人々が自由を守るために戦ったからだ.われわれの親の世代は,自由を守って共産主義を「封じ込め」た.われわれは都市,国家,地球の環境が回復する力を守らねばならない.

2050年の戦没者追悼記念日Memorial Dayに,彼らはわれわれの戦いを記念し,先行する世代が払った犠牲に感謝して,その決断を称えるだろう.


l  オバマ外交の欠陥

FP MAY 27, 2014

What Obama Should Say at West Point, But Won't

BY STEPHEN WALT

オバマの外交に欠けているのは,一貫性であり,明確な優先順位である.確かに彼は2008年の金融危機を処理しなければならなかったし,イラクとアフガニスタンでの戦争を終わらせる必要があった.オバマもその顧問たちも戦略を立てる余裕はなかった.

明日のウェスト・ポイントにおける演説で,最も聞きたいのは,オバマがアメリカの安全保障上の脅威として何を重視しているのか? アメリカ国民の一層の安全と繁栄をもたらす機会として何が重要と考えるのか? どの問題を優先し,どの問題を先送りするのか?

すなわち,核拡散,アルカイダ,中国,中央アフリカ,気候変動,女性の地位改善,シリア,中東和平,それらの中のどれを優先しているのか?

FP MAY 28, 2014

Clean Up on Aisle One

BY DAVID ROTHKOPF

ウェスト・ポイントでのオバマの演説を要約すれば,彼は,新しい低コスト低リスクの,アメリカの指導力を見つけたいのだ.ウォルマート式外交政策である.その演説の大部分は,彼が行動しなかったこと,彼が多くの行動をしなかったこと,彼が効果的な行動をしなかったことの説明にあてられた.良い選択肢がないとか,間違った選択肢にこだわってはならない,とか.

オバマは外交の「成功」を語り,そのミニマリズムを正当化した.つまり,行動の幻想を維持しながら,できるだけ行動を小さくすることだ.オバマには中規模の戦略がない.だからロシアにも,中国にも,それに対抗する行動を取らない.

Bloomberg MAY 28, 2014

Obama's Real Foreign-Policy Problem

Jeffrey Goldberg

オバマ外交の矛盾をRobert Kaganが示した.国民はアメリカが海外で軍事力を行使することを望まない.悲惨な状況にあっても外国は自分で問題を解決すべきなのだ.アメリカの外交は狭く国益に限定するべきである.オバマはアメリカ国民が望む外交を実現している.しかし,国民はそうした外交を誇りに思わないし,それを実現するオバマにも感謝していない.

FT May 29, 2014

Obama has to stop prevaricating on foreign policy

By Richard Haass

オバマはアジア旋回という重要な戦略について語らなかった.これは単なる修辞的な転換で,中身はないのか? オバマは地域自由化協定についても語らなかった.アメリカは保護主義や孤立主義を避けねばならず,世界にとって不可欠の国であるという.

しかし,アメリカ国民や同盟諸国は,それに対してどのような負担を求められているのか? 明確な,予測可能な形で,それを示さねばならない.


l  ベトナムの反中国デモ

FT May 28, 2014

Vietnam: Ready to rumble

By Michael Peel

ベトナムの主要都市に広がった反中国暴動は,中国の海底油田開発に抗議したものであるが,ベトナムのグローバル・サプライ・チェーンとしての地位を危険にさらす.ベトナム国内にも成長や政策に対する不満の声があり,賃上げや民主化,市民社会を求める声がある.政府にも反体制派にも,ナショナリズムを政治的に利用する誘惑がある.

労働条件は悪く,労働者たちは不安定化に対してストライキを容易に起こす.煮え立った油の中にいるようだ.教育のある専門家はオーストラリアへの移住を考えている.このまま政府が成長を維持できるかどうか,疑わしい.

ベトナムとの関係が好転していたにもかかわらず,なぜ中国は海底油田開発を始めたのか? オバマのアジア歴訪に対抗した? 海軍や沿岸警察の増強が紛争を無視させる?

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The Economist May 17th 2014

Europe goes to the polls

Charlemagne: The eastern blockage

Europe and the euro: A troubled union

Defending Japan: Collective insecurity

Japan and America: Closer allies

India’s new government: Kick-starting India

(コメント) ヨーロッパ議会選挙,ウクライナ危機,ユーロ危機(3冊の書評)が取り上げられています.また,日米安保条約の改定,インドのModi政権と合わせて,いずれも興味深いです.ただし,この雑誌が以前に比べて,グローバル資本主義の英語圏機関紙という姿勢を強め,平板な理解になったかもしれない,と思いました.

ヨーロッパ議会は縮小し,各国議会によって市場統合と民主主義を回復すること(フランスは嫌うが?),ウクライナ危機はロシアに対する強い姿勢でEU外交を実現すること(ドイツは嫌うが?),ユーロ圏は財政・政治統合よりも政府間の競争を促すこと(EU官僚・エリートは嫌うが?),を掲げます.

日本政府が「集団的安全保障」を認めて安保条約の行動基準を改定し,地域安全保障に積極的に関与することも(対米依存?),インド政府が成長を加速するために改革を実現するのも(市場改革?),その国内・地域の政治経済構造に関する警戒を欠かせません.

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IPEの想像力 6/2/14

首相や政権党が交代する中で,これから数年かけて,国会での討論が重要になります.軍事力が国際システムの調整にとって無意味になる時代を,日本の私たちが,これから開くことになるからです.

アジアの安全保障会議では,紛争海域における中国の行動に対して,各国が抑制を求めました.安倍首相は憲法解釈を変更して「集団的自衛権」を認める方針を閣議決定したいと考えます.

戦争に敗北した日本が,平和主義に傾き,国際システムに従うことで繁栄を共有できる道を模索したのは理解できます.そして,中国の工業化と成長が軍事力の強化をともない,国際システムの転換につながる過程で,安全保障システムの見直しや日本の積極的な関与が重要になることも,政治家は国民に説明しなければなりません.

野党は,憲法9条を維持したまま,集団的自衛権を認める,という方針を主張してほしいです.そして,安倍首相の戦争・歴史観,国家論,皇室,靖国神社,対米関係,対中外交,などを詳しく問い,何度も答弁させる中で,日本人が目指すべき国際システムを展望し,具体的なイメージで国民に示してほしいです.

NYTThomas L. Friedmanは,戦没者追悼記念日に関して,環境破壊を抑える行動に向けた将来世代の声を反映する仕組みを考えました.しかし,冷戦に勝利したことで過去の世代に感謝するなら,第3次世界大戦,あるいは,第2次太平洋戦争を回避することで将来の世代から感謝されることを,もっと考えたいです.

戦争のコストは甚大であり,それゆえ,経済制裁によって平和を実現することができる,と信じるには,それ(経済制裁と戦争のコストを考慮した決定)が確実に実行されると,制度が保証しなければなりません.

互いに自国と相手国の生命線を破壊できる選択肢を示して,相手国の安全保障会議に代表を参加させ,制裁の決断を実行できることにしてはどうでしょうか? 経済的な「相互確証破壊」です.

・・・相手国の代表は,会議の他の委員たちを説得できるが,他のすべての委員が「生命線の破壊」を承認し,相手国の代表のみが反対した場合,それぞれ数日の交渉時間をおいて,3度の審議と投票を経て,全会一致原則は放棄され,その最終決定に従う.すなわち,相手国の生命線を破壊する.

もちろん,この経過を知る相手国は,それと同時に,同じ3度の投票手続きを経て,この国の生命線を破壊できます.国際社会はその審議と交渉経過を,細部にわたって知ることができます.経済戦争後の国際システム再建において,主要国や歴史家がその内容を評価するでしょう.

こうして経済戦争が始まりますが,軍事力は行使されません.経済的な活動水準は一気に低下し,大量失業や金融危機,激しい不況が起きるでしょう.しかし,たとえ(ギリシャのように)苦境によって餓死や自殺が生じても,死傷者の数は戦争に比べて大幅に限定されるはずです.

経済戦争の激化が軍事力の行使を導かないように,平和時において,軍備縮小や国際平和維持軍による境界線の警備,軍事行動の監視体制を強化します.

関係する諸国は,経済戦争からの影響を避けるために,「生命線の破壊」を審議する諸国との経済取引を抑制し,こうした諸国を経由しない形で貿易や決済が可能になる協力関係を築き,国際機関の機能充実を支持するでしょう.

・・・それは,すでにEU(ドイツ)とロシアとの間に,あるいは,中国とアメリカ,日本と中国との間に,ほとんど実現していることではないのか? 投資や企業の生産拠点,貿易が重視されるなら,なぜアジア諸国は企業団体の政策提言を受け入れて,もっと緊密な協力機関の構築と,国家の軍事行動を制限しないのか?

NHKBS1スペシャル「ヤンキー原発閉鎖」を観ました.運動が成功したのは住民の行動があったからです.国民が優れた報道番組を求め,国会討論を聞き,政治家たちが国民の声を十分に恐れるなら,軍事力の「封じ込め」もできると思います.

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