IPEの果樹園2014
今週のReview
5/12-17
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第5次世界大戦 ・・・オバマの弱腰外交 ・・・中国の時代 ・・・ユーロ圏の改革 ・・・インドのブルジョア革命 ・・・タイ王国の瓦解 ・・・分離主義の時代
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l 第5次世界大戦
FP MAY 1, 2014
Ukraine's
Mob War
BY MARK GALEOTTI
プーチンが始めたのは,モッブ,ギャングによる戦争である.それは非対称的な戦闘の一つである.彼らが町を掌握している.モスクワは,組織犯罪者たちを国家が戦場でどのように利用できるか,を示した.
ロシアの特殊部隊や諜報工作員がウクライナ東部で活動しているのは疑いない.しかし,その数を正確に知ることはできない.建物を占拠し,道路を封鎖し,政府軍と衝突しているのは,地元の特殊警察やロシア系住民,国境を超えてきた募集兵を加えた,多くは身分を隠したロシア兵である.
民兵組織,あるいは軍閥の,若い指導者たちが現れ,彼らはギャング組織と政府とを一体化しようとしている.ウクライナ国家の犯罪集団化,という傾向は,歴代の政権において見られたことだ.ロシアと同様に,1990年代,ウクライナでも組織犯罪が急増し,その当時の政治・経済システムは脆弱で対抗できなかった.町を支配するギャングの増大は,政治.経済から犯罪に関わる企業によって富を得た新興エリートの登場と同時期であった.しかし彼らは,ロシアと違って,一体化しなかった.組織犯罪は国家の中枢を占めることなく,政治の背後で活動した.
現在のウクライナの危機では,こうした犯罪集団が,腐敗した官僚やビジネス富裕層だけでなく,政治指導者として現れ,しかもロシアとの緊密な犯罪ネットワークを利用している.クリミアの新首相Sergei Aksyonov,通称"Goblin"は,1990年代のギャングであり,その一人にすぎない.
ヤヌコヴィッチ大統領に対する抗議デモは,こうした顕著な腐敗,犯罪国家に対する不満の爆発であった.彼らの理想が権力を握るとき,旧秩序から利益を得ていた犯罪者たちがそれを嫌うのは当然だろう.大統領選挙に向けて,各地の犯罪組織は候補者たちに接近している.さらに,地域の政治家たちが犯罪組織との関係を切ることは容易でない.Gennady Kernesは,ウクライナ東部の都市Kharkovの市長であった.彼は犯罪者で,ヤヌコヴィッチの熱烈な支持者であったが,最近,キエフ政府との関係を結ぼうと試みていた.4月28日,彼は誰かによって路上で射殺された.
FT May 5, 2014
Ukraine’s
revolution still deserves our support
Gideon Rachman
ウクライナ暫定政府の39歳の首相Arseniy Yatseniukは,先週,私の質問に対して,「地獄よりもっと悪い」と応えた.「われわれはロシア軍に直面し,そのテロに対峙する.経済は支払い不能である.ウクライナ軍は装備もなく,警察は解体している.前の政府が何もかも奪った.」
翌日,ウクライナ政府は東部の占拠された建物や領土を奪い返す攻撃を始めた.彼らがそうしなければ,このまま失われてしまう,と恐れたのだ.しかし多くの市民の犠牲者が出たことは,特に,西部においてオデッサで,キエフ政府の残虐性が非難された.それはロシアの思うつぼである.ウクライナは分裂している.ロシアが保護しなければならない,と.ロシアは「平和維持」のために軍を送る.
ロシアとの戦争は考えられない.ウクライナに対するロシア空軍の優位は80倍だ.アメリカやNATOが飛行禁止空域を設けてくれる,という幻想など役に立たない.アメリカがロシアの戦闘機を撃ち落すはずがない.
ロシアで最も裕福な,国際派のビジネスマンであるVictor Pinchukは,ロシア軍がキエフまで侵攻することなど「SF小説だ」と言う.プーチンが望むのは,5月の大統領選挙や,EUとの接近を阻止するために,いつでも十分なカオスを創り出せる,ということだ.
ウクライナは腐敗し,自国民を殺すような,分裂した国だ,というイメージを広めることはロシア政府にとって好都合だ.ロシアのメディアは,キエフがファシストや反ユダヤ主義によって動かされている,と宣伝している.そのイメージはウクライナ東部やEUの一部に広まっている.
ロシアは外の世界に向けて,ウクライナが1991年に独立したばかりの国で,「本来の」国家ではない,と主張する.
事実を確認しておくべきだろう.1991年,91%の市民が独立を支持した.すべての地域で多数を占めた.数百万人のウクライナ人が1930年代のスターリンによる飢饉で死んだ.今年の初め,抗議デモでは100人以上が犠牲になった.彼らは「ファシスト」政権を望んだのではない.腐敗を終わらせ,EUに加盟することを求めたのだ.その目標は価値があり,達成可能である.カオスや暴力を超えて,支持されるべきだ.
NYT MAY 5, 2014
Why
Germans Love Russia
Clemens Wergin
21世紀に「ソフトな侵攻」でロシアがクリミアを併合するなんて,想像もできなかった.しかし,さらに驚いたことに,ドイツのテレビには,元政治家や公的な指導的人物が次々と登場し,ロシアの行動を擁護する発言をしたのだ.
元首相Gerhard Schröder and Helmut SchmidtはNATO拡大を非難した.国民の多数がそれに同意する.ここには大っぴらな偽善がある.ドイツ人は国際法を理由にアメリカのイラク侵攻を非難した.今や,新しいリアリストたちが,ロシアによる近隣諸国の主権侵害を正当化する.
ドイツは,冷戦によって西側に属した.しかし,その前の伝統に帰りつつある.それは東西の中間に立つものだ.ドイツ政治の左右両側から,こうした反西側の姿勢が現れている.左派は元から反米的である.さらに右派も,反ユーロの政党Alternative für Deutschland Partyが登場した.彼らは西側の価値や自由市場資本主義を西側文明の堕落と呼ぶプーチンに似ている.
ロシアに同情するのは,ドイツが第2次世界大戦でロシアに与えた犠牲を負い目に感じるドイツ人がいるからだ,という.しかし,戦争の始まりを思い出しておくべきだ.ドイツが西からポーランドに侵攻し,数日後に東からソ連が侵攻した.ドイツとソ連は,秘密裏に,東欧を分割することで合意していたのだ.ドイツの指導者が,ウクライナは本当の国家ではない,というロシアの宣伝を繰り返し,東欧諸国を劣った主権の二流民族とみなすようなとき,古い記憶がよみがえる.
ドイツはファシストの過去を清算し,その教訓を学ぶことに何十年も費やした.しかし,今,他国に権威主義的な指導者が現れ,エスニック・ナショナリズムを掲げて侵略することにより国内体制を強化している.その対応が試験であるなら,ドイツ人の多くは落第した.
FP MAY 5, 2014
How
Putin Is Reinventing Warfare
BY PETER POMERANTSEV
オバマ大統領は,冷戦や19世紀の思考法を非難したが,クレムリンの行動を詳しく見るなら,彼らの方が21世紀の戦争,地政学のアヴァンギャルド(前衛主義),グローバリゼーションの地下世界を開拓している.
プーチンに近い政治顧問の一人,Vladislav Surkov は,"non-linear war"と呼んだ.彼はロシアの「管理された民主主義」を発明し,次には外交にも手を付けた.Nathan Dubovitskyという偽名で,クリミア併合の数日前に,論説を発表していた.それは,「第5次世界大戦」の後の,未来のディストピアを描いたものだ.
「それは最初の非線形戦争"non-linear war"だった.19世紀や20世紀の原始的戦争では,戦闘がたった2つの側で行われた.2国間で,あるいは,2つのブロック間で.しかし今は4つの協力関係がある.しかも2対2や3対1ではない.すべてがすべてに対峙する.」
EUとアメリカの同盟に,ロシアが対峙するのではない.EUもNATOも21世紀では重要でなくなる.むしろいかなる軍事同盟に対してよりも,BP, Exxon, Mercedes, and BASFのような企業に対峙する方が愚かである.西側諸国はロシアの腐敗した資金が自国に流入するのを歓迎している.
しかも,クレムリンは西側のメディアを操作する. 20世紀にクレムリンがしたような,西側の左派のスポークスマンだけを通じて宣伝するのはない.全く異なる集団により,矛盾した,隠ぺいされたメッセージを送る.ヨーロッパの極右・ナショナリストたち.アメリカのヘゲモニーと闘う極左集団.同性愛者を嫌うアメリカの宗教的保守派.クレムリンは,PR 会社 KetchumがHuffington Postに載せた論説,ウクライナの独立広場におけるデモを批判したイギリスの歴史家,ドイツの有力な政治コンサルタント,などに繋がっている.
重要なことは,クレムリンが西側の広めたグローバリゼーションのイメージ,「グローバル・ヴィレッジ」を破壊しつつあることだ.クレムリンの視点では,グローバリゼーションとは「企業の乗っ取り」だ.ソビエト崩壊後に西側企業が行った暴力的な企業買収,ロシアで行われたさまざまな金儲けがグローバリゼーションである.少数株主となり,企業に乗り込んで,逮捕,マフィアによる脅迫,偽情報,誘拐,あらゆる手を使って支配する.ロシアのエリートは,ときおり,国家のことを「グローバリゼーションの少数株主」と呼ぶ.
l オバマの弱腰外交
NYT MAY 3, 2014
It’s
Not Just About Obama
Thomas L. Friedman
オバマの弱腰外交をなじる会議が大盛況だ.もしアメリカにも,シャツを着ずに馬にまたがった,トラと戦い,隣国に噛み付く大統領がいたら,われわれはもっと安全だと感じるだろうか? オバマを少し弁護してみよう.
アメリカ外交がこうなっているのは,オバマが知性的で,慎重で,情熱を欠くからか? アメリカが2つの戦争で疲弊し,不況に苦しむからか? 世界が多くの破たん国家と頼りない同盟国にあふれているからか? 私は後者の方が正しいと思う.
外交政策,すなわち,われわれが世界で行動する能力とやる気は,3つのことにかかっている.利益,価値,レバレッジだ.アメリカはシリアやクリミアに重大な利益を感じているか? われわれの重大な価値を侵しているか? もしそうであれば,われわれは負担できるような価格でそれらを持続的に実現できるか? レバレッジは2つのことにかかっている.われわれが持ち出せる経済的・軍事的資源と,その土地で協力するパートバーとわれわれの他の同盟諸国だ.
アメリカが軍事介入を避ける理由の多くは,これまでの政権がしたことの結果,アメリカのレバレッジが減ったからである.ブッシュⅠとクリントンはNATOを拡大して不満の種をまき,今のプーチン主義を創り出した.ブッシュⅡは,2つの戦争に失敗しただけでなく,アメリカの伝統を破って戦費のために増税せず,減税したことで財政を悪化させた.その戦争計画は大失敗で,実際の統治はさらにまずく,あまりに多くの協力者が腐敗しており,われわれが駐留していることを自分たちの詐欺の口実に使った.
われわれが,腐敗していない,本当に価値を共有できるパートナーを得たケースでは,アメリカの支援があまり無くても,彼らは成功している.誰も強調しないが,チュニジアやクルディスタンだ.
逆に,同盟者があまりに少なく,あまりに分裂していると,リビア,シリア,アフガニスタン,イラクのように,アメリカ軍は新秩序を実現するために長期の駐留,深い関与を要請された.安価な,空からの支援だけでよい,と言うのは全くの嘘である.また,オバマの用心深さが,女々しいコミュニティー・オーガナイザーであったからだ,というのもナンセンスだ.
外交政策で成功した大統領は大きな敵を取り上げた.しかし今,世界が不安定化しているのは動揺する諸国家のせいである.ではアメリカはいくつなら救えるのか? ウクライナの改革論者を救いたい.しかし,その負担は大きいだろう.なぜならウクライナの政治家たちが20年間も自国を略奪したのだから.変化をもたらすための債務救済が300億ドルでも,今のアメリカは負担したくない.
アメリカはアジア太平洋で中国にも対峙しなければならない.しかし,中国にアメリカは1兆3000億ドルの債務がある.プーチンのエネルギー独裁体制を弱めたいが,そのためにはアメリカ自身のエネルギー政策を変えねばならない.そもそもヨーロッパの同盟諸国はプーチンと対決する気がない.
しかも最大の問題はわれわれ自身とその政治的麻痺である.海外で国家再建を目指すなら,アメリカ国内の再建に模範を示すべきだろう.インフラ投資,炭素税,エネルギー利用の効率化,天然ガスの適切な採掘法,熟練の養成,移民法改革,長期の財政再建,など.そして堅固な,統一した協力の基礎を得たい.
パンクしたタイヤを,壊れたジャッキと軟弱な地面で交換するのは難しい.
l 中国の時代
Bloomberg MAY 5, 2014
China
Buys Friends and Influences Nations
William Pesek
中国が恐るべき基準でインフラ投資銀行を設立するのは,アメリカ人,ヨーロッパ人,日本人が支配している既存の国際機関を改革する重要な理由になる.
中国がアジア諸国にインフラ投資を増やしているのは,日本の影響力を殺ぐのが目的だ.これまでインフラ投資を求めるアジア諸国は,直接に,あるいはアジア開発銀行を介して間接に,日本の投資を求めてきた.中国が500億ドルでアジアインフラ投資銀行を設立すれば,アジア開発銀行や世界銀行は仕事がなくなる.インドネシアの港,マニラに空港,タイで電力不足,・・・いいとも.請求書を送りなさい.
中国は道路や橋だけでなく,国際収支赤字にも融資してくれる.ベトナムが赤字に苦しむとき,IMFの求める透明性など気にしなくても良い.融資の代わりに中国が求めるのは,競争相手に対して中国の立場を支持することだけだ.日本のナショナリストや,台湾,チベットの分離主義者.もしミャンマーやモンゴルに金融危機が起きたら,直ちに金融スワット・チームを派遣する.そして,小切手帳を出す.
その魅力に従う前に,アフリカの経験を知っておくべきだろう.この10年,中国の開発銀行はアフリカでエネルギーと影響力を得るために投資してきた.問題は,北京の「見ざる聞かざる」アプローチが,スーダンやジンバブエなどで,無法国家を強化したことだ.経済を多様化する努力も放棄させた.その結果,中国が資源を略奪するだけの新植民地主義だ,という批判を受けている.ラテンアメリカでもそうだ.
私は現状維持を支持するのではない.それどころか,日本はもっと中国をADBの重要な地位に就けるべきだし,アメリカはIMFや世界銀行に,G7に,もっと発展途上諸国の声を取り入れるべきだ.そうでなければこうした機関は衰退する.ミャンマーは腐敗を抑え,フィリピンは各地のエコシステムを守り,バングラデシュは子供を働かせない,という条件など消えてしまう.
中国からの資金が求めるのは地政学だ.化石燃料を安くし,台湾を孤立させ,紛争地を中国が支配する.4兆ドルの外貨準備で,多くの友人を買うことができる.それよりむしろ,中国を国際機関に招き入れることだ.
l ユーロ圏の改革
Project Syndicate MAY 8, 2014
Europe’s
Big Bang at Ten
DANIEL GROS
10年前に,EUは10か国を加えて,加盟国の数が15から25になった.当時,東欧の移行経済諸国は旧加盟国よりも大幅に貧しく,しかも大きな農業部門の雇用を抱えていた.EU財政は貧困地域と農業にもっぱら支出されていたから,こうした拡大が財政負担を増大させると懸念されたのだ.
問題はEU的な妥協によって解決した.財政支出は規模を削減したのだ.そして7年に1度だけ予算を決める.また,農業は消滅し,今では重要テーマではない.加盟諸国の成長と生活水準を高めることがEU加盟の主要な目的であれば,それは成功であった.新加盟諸国の所得はEU水準の3分の1から3分の2にまで上昇した.
こうした収斂が起きたせいで,懸念された労働者の移動による労働市場の混乱は抑制されたのだ.グローバルな競争力の点でも,新加盟諸国に対する直接投資が増え,企業は労働集約部門を移転し,受け入れた各国は渇望していた投資や雇用,知識を得た.
東欧諸国のEU加盟は,ロシアに接近することになった.EUが示した民主主義と繁栄は,ウクライナにもEUへの加盟を望む声を生じたが,ロシアはそれを阻止した.EU拡大は予想された内部の問題を解決してきたが,予想していなかったロシアとの対峙を解決しなければならない.
l インドのブルジョア革命
Project Syndicate MAY 6, 2014
India’s
Bourgeois Revolution
SHASHI THAROOR
インドの政治は中産階級や高等教育を受けた専門家,知識人を排除してきた.インドの政治家とは,政治家の家族から,選挙地盤を継承し,地域のボスに認められ,多額の資金を使って,当選するものだった.
しかし,この選挙は違う.たとえば,Infosys の共同創設者であるNandan Nilekaniが,インドのハイテク中心地Bangaloreで,BJPに対抗する議会派の候補として出ている.
ムンバイでは,Aam Aadmi (Common Man’s) Partyが,the Royal Bank of Scotland の支店長であったMeera Sanyalを候補に立てている.Chennaiでは,議会派が電子技術者であるS.V. Ramaniを立候補させる.
他国の民主主義では,中産階級の価値観や信念が重視され,教育ある専門家が政治活動の中心になっている.インドでは,キャリアを妨げるものとして,中産階級は政治を避けた.その結果,政治はますますポピュリストに偏ってきた.
この選挙で中産階級が政治に登場することは民主主義を救い,インド政治を変えるだろう.
l タイ王国の瓦解
FT May 8, 2014
The
elite cannot turn back the tide of Thai politics
By Duncan McCargo
タイの政治的混乱は2001年にタクシンThaksin Shinawatraが政権を得てから始まった.彼はバンコク周辺に住む数百万人の貧しい人々の声を初めて政治に取り込んだ.しかし,2006年に軍事クーデタで政権を追われ,ドバイに逃れた.
その後,選挙によって何度もタクシン派の政府が成立したが,旧政治エリートたちは王室のネットワークとシステムの支配的地位を利用して,タクシン派の政府を妨害した.反タクシンの運動は,極端にタクシンの個人攻撃に偏り,頑なに自己主張を繰り返す.9年に及ぶ政治危機は,国民の間に深刻な亀裂を生んでしまった.
問題の根本にはタイという国家の正当性がある.この国は憲法に依拠した民主主義国なのか? 法律や選挙より,王室や君主を愛する者がタイについて考えることで動く王国なのか?
l 分離主義の時代
Project Syndicate MAY 5, 2014
The
Post-National Mirage
SHLOMO BEN-AMI
ドイツの哲学者Jürgen Habermasは,「脱民族アイデンティティの時代」と呼んだ.プーチンはどう言うだろうか?
現在のグローバリゼーションが示す大きな逆説は,同質性への要求がエスニックや宗教の共通性を求めることだ.統合されたヨーロッパ内でも,地域的ナショナリズムや外国人嫌いは全く消滅していない.
1990年のバルカン戦争は,何世紀も郷土を共にし,同じ学校に通った人々が互いに殺し合った.フロイトの分析に当てはめれば,ナショナリズムは小さな差異への偏愛・ナルシシズムだ.
ナショナリズムは近代の政治的な発明であり,共通の歴史や共有された記憶という姿で現れる.しかし国家はしばしば遠い過去についての集団的な嘘でできたグループにすぎず,過去というのはしばしば,あまりにもしばしば,現在の必要に応じて書き換えられる.
エスニック的な忠誠心が国境線と一致することもめったにない.多くのエスニックからなるユーゴスラビアを分割したけれど,今でもスロヴェニアとセルビアのマイノリティーは人口の20%から30%を占めている.
EUという民主主義に依拠した政治共同体は,国民国家を終わらせる目的ではなく,民主主義が多文化・多宗教を和解させ,協力と政治的統一を実現することを目的に建設された.各集団は分離主義に向かわず,立憲主義的な愛国心を支持し,政治決定の分権化を進めている.
最近,ケベックの分離派が選挙で敗北した.多年に及ぶ憲法の混乱は企業がケベックから離脱する傾向を強め,モントリオールを企業のハブから衰退に向かわせたからだ.スコットランドやカタロニアも同様のリスクを冒している.ウクライナの危機も,その腐敗した民主主義が持続的な国家を建設することに失敗したから起きた.
対照的な例は,イタリアが併合した南チロルである.それは第1次世界大戦後,住民に問うこともなく,ヴェルサイユ会議で決まった.しかし今,南チロルは憲法上の自治を拡大し,完全な文化的自由を持ち,財政の90%は自分たちで決めている.バイリンガルで平和的な共存を実現する姿勢は,硬直的な中央政府も,非現実的な分離主義運動も,学ぶべきである.
スコットランドが独立に成功しても,すでに内部で,Shetland, Orkney, and the Western Islesが独立国家にとどまるかどうか,自決権を求めている.エディンバラ政府は今のウェストミンスターと同じような反対運動を始めるはずだ.
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The Economist April 26th 2014
A billion shades of grey
Demography, growth and inequality: Age
invaders
Labour unrest: Danger zone
Migration in Australia: The promised
land
Energy and the Amazon: Drilling in the
wilderness
(コメント) 老人たちが空から降ってくる絵が愉快で,深刻さを紛らしてくれます.日本は,高齢化による停滞や,金融政策の超緩和,主要通貨の財政破たんリスク,という時代の先端的実験室になっています.高等教育を受けた労働者は引退を遅らせる,というわけですが,知識や技術の内容が変化するほど,むしろ早期の引退を迫られるように思います.
中国のストライキも年金を要求します.オーストラリアに渡って中国人が町を建設する話,エネルギー開発と自然環境や原住民の保護とを両立する話,も面白いです.
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IPEの想像力 5/12/14
マイケル・サンデルの白熱教室で「日中韓の未来の話をしよう」を少し観ました.
日本人の女子学生(エリコ?)が,自分は中国人(韓国人?)の話を聴いて,日本人がしたことを謝った,という発言を,サンデルは積極的に取り上げました.そして学生たちに意見を求めました.
・・・なぜ彼女は,自分が過ちを犯したわけでもないのに,謝るのか? それは正しいのか?
責任や犯罪,特に,戦争犯罪,というものが個人と社会の関係をどのように前提して成り立っているのか,サンデルは問題にしたかったのかもしれません.
もし個人がコミュニティーに帰属していると感じるなら,同じコミュニティーのメンバーが犯した罪に対して謝罪するでしょう.なぜなら,それはある程度,コミュニティーとして犯した罪でもあるからです.
しかし,戦争には人為的な,政治的に創り出される,「他国民を殺さなければならない,それが自国民を守ることだから,殺人は正しい」,と主張する状況・心理があります.
映画「戦場のピアニスト」を観て,もちろん映画ですから,事実とは限りませんが,兵士たちが次々に無防備な市民を殺害する場面から,残酷だとか,恐ろしい,というより,戦場においては生死の理屈が全く変わってしまう,と思いました.
・・・「どうしてあんなことをしてしまったのか?」と後悔し,泣き続ける女性が,列車を待つユダヤ人たちの中にいました.周りの者は迷惑に感じていますが,彼女の嘆く理由を知っているから,そのまま許しています.事情を知らない女性が,あの女はなぜいつまでも同じことを悔やむのか,騒がしい,と不快感を示しました.
・・・誰かが,彼女は自分の赤ん坊を殺してしまったのだ,と教えました.ナチがユダヤ人を探しているとき,彼女の赤ん坊が泣きだしたのです.一緒に隠れているユダヤ人たちは発見されるのを恐れ,彼女も赤ん坊の口を押さえました.そして,気が付けば,赤ん坊は死んでいたのです.
沖縄の戦場でも,同じような話を聴いたように思います.戦争は,人間同士が殺し合い,それ以外の理屈を無視します.母親が赤ん坊を殺しても,仕方ないことだった,と周りの者は思うでしょう.
サンデルは,異なる問題も学生たちに投げかけています.エリコは罪を犯した人間ではなく,さらに,戦争の時代に生きたという責任もない.それでも,謝ることに意味はあるのか? 同じコミュニティーに属している(罪を感じる)というだけでなく,何か積極的な効果を期待できるのか?
エリコの答えは深く考えさせるものでした(少し違うかもしれませんが).・・・自分は,過去の日本人が犯した罪について,謝るべきだと感じた.その話をした中国人は,日本人が与えた傷に今も苦しんでいる(そのことに自分も共感する)のだから.自分が同じ日本人として謝ることで,私たちの間に何か道徳的な(人間的な)感覚を回復できるかもしれない,と思った.もし相手の傷を癒してあげられるのであれば,私は罪を犯した日本人が本来すべきである謝罪を,代わって行うことに意味があると思った.
このエリコの答えに,中国人の学生も,韓国人の学生も,肯いたように思います.
私は,第3の質問があると思いました.それは,コミュニティーではなく,政治の責任です.中国人のリン(?)が,罪を犯した者は自分たちのコミュニティーにおいても罰せられるべきであることを示すために,謝るのだ,と述べました.
最も悪辣で,無慈悲な性質を持つ個人が,コミュニティーを口実にして自分の犯す罪を免れ,その上,自分がコミュニティーを守る愛国者である,と主張するような政治を生むのも戦争である,と思います.戦場であっても,コミュニティーの規範や自浄能力を維持しなければ,状況に圧倒されて,全ての理屈を変えてしまうでしょう.
母親が赤ん坊を殺さなくても良いような,平和な時代を求める運動が始まります.日本人や,韓国人や,中国人としてではなく,人として生きるために協力し,互いに尊敬できる世界で生きるために,私たちがやることは多くあります.
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