IPEの果樹園2014

今週のReview

5/12-17

 

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5次世界大戦 ・・・オバマの弱腰外交 ・・・中国の時代 ・・・ユーロ圏の改革 ・・・不平等な世界 ・・・イギリス緊縮策の間違い ・・・インドのブルジョア革命 ・・・ウィグル人の父 ・・・タイ王国の瓦解 ・・・分離主義の時代 ・・・Alibabaの上場

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, Yale Global そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  5次世界大戦

FP MAY 1, 2014

Ukraine's Mob War

BY MARK GALEOTTI

プーチンが始めたのは,モッブ,ギャングによる戦争である.それは非対称的な戦闘の一つである.彼らが町を掌握している.モスクワは,組織犯罪者たちを国家が戦場でどのように利用できるか,を示した.

ロシアの特殊部隊や諜報工作員がウクライナ東部で活動しているのは疑いない.しかし,その数を正確に知ることはできない.建物を占拠し,道路を封鎖し,政府軍と衝突しているのは,地元の特殊警察やロシア系住民,国境を超えてきた募集兵を加えた,多くは身分を隠したロシア兵である.

民兵組織,あるいは軍閥の,若い指導者たちが現れ,彼らはギャング組織と政府とを一体化しようとしている.ウクライナ国家の犯罪集団化,という傾向は,歴代の政権において見られたことだ.ロシアと同様に,1990年代,ウクライナでも組織犯罪が急増し,その当時の政治・経済システムは脆弱で対抗できなかった.町を支配するギャングの増大は,政治.経済から犯罪に関わる企業によって富を得た新興エリートの登場と同時期であった.しかし彼らは,ロシアと違って,一体化しなかった.組織犯罪は国家の中枢を占めることなく,政治の背後で活動した.

現在のウクライナの危機では,こうした犯罪集団が,腐敗した官僚やビジネス富裕層だけでなく,政治指導者として現れ,しかもロシアとの緊密な犯罪ネットワークを利用している.クリミアの新首相Sergei Aksyonov,通称"Goblin"は,1990年代のギャングであり,その一人にすぎない.

反政府デモで追放されたヤヌコヴィッチ大統領の権力は,Donetskの犯罪組織であった.2006年,キエフのアメリカ大使館からの電報で,ヤヌコヴィッチのParty of Regionsa "haven for Donetsk -based mobsters"である,と知らせている.他の地域でも,犯罪者たちはロシアと結び付いている.黒海の港,Odessaは,ロシアのグローバルな密輸,人身売買における中継地として有名だ.アフガニスタンのコカインが,コーカサス経由で,ヨーロッパに輸出される.

ヤヌコヴィッチ大統領に対する抗議デモは,こうした顕著な腐敗,犯罪国家に対する不満の爆発であった.彼らの理想が権力を握るとき,旧秩序から利益を得ていた犯罪者たちがそれを嫌うのは当然だろう.大統領選挙に向けて,各地の犯罪組織は候補者たちに接近している.さらに,地域の政治家たちが犯罪組織との関係を切ることは容易でない.Gennady Kernesは,ウクライナ東部の都市Kharkovの市長であった.彼は犯罪者で,ヤヌコヴィッチの熱烈な支持者であったが,最近,キエフ政府との関係を結ぼうと試みていた.428日,彼は誰かによって路上で射殺された.

ロシアの新しい非対称的戦争は,多くの非政府の戦闘員を動員する.新政府が,地域のギャングや政治家と,過激主義に対する戦いの同盟を模索する可能性はある.しかし,犯罪者たちはロシアとの同盟により大きな基盤を見出す.

The Guardian, Friday 2 May 2014

The EU's response to Ukraine has been a betrayal

Ian Birrell

Project Syndicate MAY 2, 2014

Europe’s Precarious New Normal

ERIK BERGLOF

10年前に,10か国がEUに加盟した.今日,新たな10か国(Cyprus, the Czech Republic, Estonia, Hungary, Latvia, Lithuania, Malta, Poland, Slovakia, and Slovenia)が加盟する.それは,1989年のベルリンの壁崩壊から続くEU拡大であり,ヨーロッパの新しい常態(new normal)となる.

ウクライナはこの道を外れるのか? 新しい状態がその国にとって何を意味するのか,考えるべきだろう.「鉄のカーテン」がなくなって,ヨーロッパのつながりが回復した.貿易が増大し,この世界最大の市場であるEUに向かう.投資は逆に,EUから資本の乏しい各国に向かった.

ポーランドとウクライナを比較すればよい.1989年に,両国の生活水準はほぼ同じであった.現在,ポーランドの方が3倍豊かである.ポーランドと西欧との所得格差は,1500年以降で最小になっている.

新しい常態には,民主主義と尊厳が含まれる.EU加盟はポーランドの制度改革を大いに促進した.ウクライナと同様,ポーランドも共産主義体制の崩壊直後は汚職がひどかった.しかし,EUの規制やルールを苦労して取り入れ,1990年代後半までにヨーロッパ国家の基準を満たすようになった.その事実は,ウクライナがその賄賂や縁故主義を克服する手がかりを与える.

ポーランドはさらに,この10年で,EUから920億ユーロ(1280億ドル)以上の資金を得た.民間部門の拡大も著しく,特に直接投資を惹きつけて,それは多くの長期プロジェクトになった.企業は知識を伝え,国際的に見て最高の経営手法を伝えた.

ウクライナに新しい常態をもたらすことは,大規模な社会変化を始める力になる.もしEUを逃せば,それはウクライナだけでなく,中東欧諸国の大きな損失である.すでにロシアへの経済制裁の影響が現れ始めており,軍事予算も増額されて「平和の配当」を失うだろう.

FP MAY 2, 2014

The Bad Old Days Are Back

BY STEPHEN M. WALT

今から振り返れば,ビル・クリントンは1992年の大統領選挙キャンペーンで最悪の予想をしたものだ.彼はこう言ったのだ.「独裁ではなく,世界に自由が広まる.冷笑的なパワー・ポリティクスでは要するに計算できないのだ.パワー・ポリティクスは新しい世界に似合わない.」

クリントンの言うことは,スイスやコスタリカ,モナコについてなら正しいだろう.しかし,ロシア,中国,イラン,イスラエル,日本,など,パワーと領土を重視する国は多くある.

パワー・ポリティクスの終焉を主張するのはアメリカの伝統だ.Woodrow Wilson, Franklin D. Roosevelt, George W. Bush, and Barack Obamaが,旧世界の地政学が終わり,民主的で,グローバル化した,市場に導かれる,制度に依拠した,利益をもたらす世界秩序について,美辞麗句を並べた.もちろん,アメリカがそう言うのは簡単だろう.世界最大の軍隊を持ち,隣接する敵対国はなく,何千発もの核兵器を持っているのだから.

冷戦が終わってから,アメリカの外交専門家たちのコミュニティーでは,パワー・ポリティクスの消滅がしきりに論じられた.ネオコンも,国際派のリベラルも,アメリカが世界で積極的な役割を果たすため,そのアイデアを好んだからだ.ネオコンにとっては,歴史が終わり,民主主義やアメリカが勝利したのだから.国際派のリベラルにとって,アメリカのパワーや富や威信を使って,民主主義,自由,人権を世界中で実現できる.中国が台頭して,アメリカの好む秩序に組み込んで「社会化」できるだろう.

アメリカ外交のテーマは,もはや,大国間の戦争に至るパワー・ポリティクスではなく,協調と世界公共財であり,それを邪魔する,大した力もない「無法国家」や,大量破壊兵器の拡散,テロ組織であった.

しかし,5つの現実が彼らの夢想を破ったのだ.1.自信過剰によるNATO拡大.2.中国の台頭.3.ロシアの復活.4.アメリカの同盟諸国のただ乗り.52008年の金融危機.

アメリカ一極の世界は終わった.パワー・ポリティクスが戻ってきたのだ.アメリカもパワー・ポリティクスを学び直して,明確な優先順位を示し,それを揺るがさないことだ.個々の状況に振り回されず,優先順位に従って世界情勢に関与する.競争国はアメリカを重視し,同盟諸国はただ乗りを止める.なぜなら,アメリカには他国が無視できない多くの優位があるからだ.

FT May 5, 2014

Ukraine’s revolution still deserves our support

Gideon Rachman

ウクライナ暫定政府の39歳の首相Arseniy Yatseniukは,先週,私の質問に対して,「地獄よりもっと悪い」と応えた.「われわれはロシア軍に直面し,そのテロに対峙する.経済は支払い不能である.ウクライナ軍は装備もなく,警察は解体している.前の政府が何もかも奪った.」

翌日,ウクライナ政府は東部の占拠された建物や領土を奪い返す攻撃を始めた.彼らがそうしなければ,このまま失われてしまう,と恐れたのだ.しかし多くの市民の犠牲者が出たことは,特に,西部においてオデッサで,キエフ政府の残虐性が非難された.それはロシアの思うつぼである.ウクライナは分裂している.ロシアが保護しなければならない,と.ロシアは「平和維持」のために軍を送る.

ロシアとの戦争は考えられない.ウクライナに対するロシア空軍の優位は80倍だ.アメリカやNATOが飛行禁止空域を設けてくれる,という幻想など役に立たない.アメリカがロシアの戦闘機を撃ち落すはずがない.

ロシアで最も裕福な,国際派のビジネスマンであるVictor Pinchukは,ロシア軍がキエフまで侵攻することなど「SF小説だ」と言う.プーチンが望むのは,5月の大統領選挙や,EUとの接近を阻止するために,いつでも十分なカオスを創り出せる,ということだ.

ウクライナは腐敗し,自国民を殺すような,分裂した国だ,というイメージを広めることはロシア政府にとって好都合だ.ロシアのメディアは,キエフがファシストや反ユダヤ主義によって動かされている,と宣伝している.そのイメージはウクライナ東部やEUの一部に広まっている.

ロシアは外の世界に向けて,ウクライナが1991年に独立したばかりの国で,「本来の」国家ではない,と主張する.

事実を確認しておくべきだろう.1991年,91%の市民が独立を支持した.すべての地域で多数を占めた.数百万人のウクライナ人が1930年代のスターリンによる飢饉で死んだ.今年の初め,抗議デモでは100人以上が犠牲になった.彼らは「ファシスト」政権を望んだのではない.腐敗を終わらせ,EUに加盟することを求めたのだ.その目標は価値があり,達成可能である.カオスや暴力を超えて,支持されるべきだ.

NYT MAY 5, 2014

Why Germans Love Russia

Clemens Wergin

21世紀に「ソフトな侵攻」でロシアがクリミアを併合するなんて,想像もできなかった.しかし,さらに驚いたことに,ドイツのテレビには,元政治家や公的な指導的人物が次々と登場し,ロシアの行動を擁護する発言をしたのだ.

元首相Gerhard Schröder and Helmut SchmidtNATO拡大を非難した.国民の多数がそれに同意する.ここには大っぴらな偽善がある.ドイツ人は国際法を理由にアメリカのイラク侵攻を非難した.今や,新しいリアリストたちが,ロシアによる近隣諸国の主権侵害を正当化する.

ドイツは,冷戦によって西側に属した.しかし,その前の伝統に帰りつつある.それは東西の中間に立つものだ.ドイツ政治の左右両側から,こうした反西側の姿勢が現れている.左派は元から反米的である.さらに右派も,反ユーロの政党Alternative für Deutschland Partyが登場した.彼らは西側の価値や自由市場資本主義を西側文明の堕落と呼ぶプーチンに似ている.

ロシアに同情するのは,ドイツが第2次世界大戦でロシアに与えた犠牲を負い目に感じるドイツ人がいるからだ,という.しかし,戦争の始まりを思い出しておくべきだ.ドイツが西からポーランドに侵攻し,数日後に東からソ連が侵攻した.ドイツとソ連は,秘密裏に,東欧を分割することで合意していたのだ.ドイツの指導者が,ウクライナは本当の国家ではない,というロシアの宣伝を繰り返し,東欧諸国を劣った主権の二流民族とみなすようなとき,古い記憶がよみがえる.

ドイツはファシストの過去を清算し,その教訓を学ぶことに何十年も費やした.しかし,今,他国に権威主義的な指導者が現れ,エスニック・ナショナリズムを掲げて侵略することにより国内体制を強化している.その対応が試験であるなら,ドイツ人の多くは落第した.

FP MAY 5, 2014

How Putin Is Reinventing Warfare

BY PETER POMERANTSEV

オバマ大統領は,冷戦や19世紀の思考法を非難したが,クレムリンの行動を詳しく見るなら,彼らの方が21世紀の戦争,地政学のアヴァンギャルド(前衛主義),グローバリゼーションの地下世界を開拓している.

プーチンに近い政治顧問の一人,Vladislav Surkov は,"non-linear war"と呼んだ.彼はロシアの「管理された民主主義」を発明し,次には外交にも手を付けた.Nathan Dubovitskyという偽名で,クリミア併合の数日前に,論説を発表していた.それは,「第5次世界大戦」の後の,未来のディストピアを描いたものだ.

「それは最初の非線形戦争"non-linear war"だった.19世紀や20世紀の原始的戦争では,戦闘がたった2つの側で行われた.2国間で,あるいは,2つのブロック間で.しかし今は4つの協力関係がある.しかも2231ではない.すべてがすべてに対峙する.」

EUとアメリカの同盟に,ロシアが対峙するのではない.EUNATO21世紀では重要でなくなる.むしろいかなる軍事同盟に対してよりも,BP, Exxon, Mercedes, and BASFのような企業に対峙する方が愚かである.西側諸国はロシアの腐敗した資金が自国に流入するのを歓迎している.

しかも,クレムリンは西側のメディアを操作する. 20世紀にクレムリンがしたような,西側の左派のスポークスマンだけを通じて宣伝するのはない.全く異なる集団により,矛盾した,隠ぺいされたメッセージを送る.ヨーロッパの極右・ナショナリストたち.アメリカのヘゲモニーと闘う極左集団.同性愛者を嫌うアメリカの宗教的保守派.クレムリンは,PR 会社 KetchumHuffington Postに載せた論説,ウクライナの独立広場におけるデモを批判したイギリスの歴史家,ドイツの有力な政治コンサルタント,などに繋がっている.

重要なことは,クレムリンが西側の広めたグローバリゼーションのイメージ,「グローバル・ヴィレッジ」を破壊しつつあることだ.クレムリンの視点では,グローバリゼーションとは「企業の乗っ取り」だ.ソビエト崩壊後に西側企業が行った暴力的な企業買収,ロシアで行われたさまざまな金儲けがグローバリゼーションである.少数株主となり,企業に乗り込んで,逮捕,マフィアによる脅迫,偽情報,誘拐,あらゆる手を使って支配する.ロシアのエリートは,ときおり,国家のことを「グローバリゼーションの少数株主」と呼ぶ.

アメリカの制裁リストに含まれる政府職員の1人であるSurkov は,自分にとってアメリカについての関心とはTupac Shakur(ポップ音楽家), Allen Ginsberg(詩人), and Jackson Pollock(抽象画家)である,という.彼らの作品を楽しむのにビザは要らない.

Project Syndicate MAY 6, 2014

Russia and the Silk Road Approach

ANA PALACIO

ウクライナの危機は,西側外交の3つの課題を示した.1.孤立したロシアの危険.2.中国の超然とした姿勢.3.新しいアイデアの枯渇.

制裁によって孤立したロシアの方が危険である.ロシアを国際システムに復帰させるには,むしろ中国との関係が重要だ.EUと中国とのシルクロード・プロジェクトthe Silk Road projectは,アジアとヨーロッパの市場を結びつけ,その利益はルートに沿って中央アジアやヨーロッパの諸国,そしてロシアに及ぶ.

冷戦はバルカン化ではなく,共通の繁栄,人々の交流によって協力が促せる.他方,中国は単独でも2国間関係を重視して公共プロジェクトを融資できる.しかし,それは国際秩序に対する挑戦とみなされる危険があることを,中国の指導者たちは考えるべきだ.広い視野から,金融を多様化し,所有を国際化し,さまざまなアクターを入れて組織を効率化することの重要性を認めるべきだろう.

SPIEGEL ONLINE 05/06/2014

Cold Turkey

How Germany Could End Russian Gas Dependency

By Frank Dohmen and Alexander Jung

ロシアからの天然ガスに依存している状態を変えることは可能だ.しかし,代償が求められる.液化天然ガス.パイプラインの拡大・新設.シェール・ガス.バイオ燃料.

NYT MAY 6, 2014

Go Big, Get Crazy

Thomas L. Friedman

FT May 7, 2014

German industry should speak hard truths to Putin

By Markus Kerberdirector-general of the Federation of German Industries

ドイツ産業は1850年代からロシアと貿易してきた.1970年代のデタントの前から,鉄のカーテンを通して交易があった.今やドイツからロシアに,機械,設備,自動車,薬品などが350億ユーロ輸出され,ロシアからはエネルギーや原料が輸入されている.経済学の教科書通りに比較優位の分野で特化が進み,双方の利益が実現している.

国際法を無視してロシアがクリミアを併合したことは許せない行為だった.ソ連崩壊後に築かれた国際的なガバナンスに対する攻撃である.経済制裁は双方に痛みを生じる.しかし,西側の固い決意を示すために必要だ,それがプーチンに国際法を守らせる唯一の道だ,とメルケル首相が決断するのであれば,われわれは従うだろう.

冷戦終結後の世界について,2人の変化はその意味を考えさせる.1人は東ドイツの若い科学者であったが,今や西に行ってドイツ首相になった.もう1人は,ドレスデンでKGB職員であったが,東に行ってロシア大統領になった.メルケルは自由と民主主義の機会を生かし,他方,プーチンはソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼ぶ.

プーチンの行動は,ベルリンの壁が崩壊した根本原因を正しく理解しないことから起きている.壁は西側によって倒されたのではない.東から倒れたのだ.数百万の人々が,素手で,壁を倒した.彼らは西側の自由な社会に参加したいと願った.

この紛争は交渉のテーブルで解決されねばならない.ジュネーブ条約は明確な道である.ロシアは怒りを抑えて,その利益を対話と条約によって実現しなければならない.ドイツ産業界の経営者たちはロシアの経営者たちにそう話すだろう.われわれは,ロシア嫌いでも,ロシアびいきでもない.この四半世紀の前進が失われるリスクがある.それはだれにとっても大きな損失だ.

FT May 8, 2014

German angst is leading Europe back to Yalta

Philip Stephens

メルケル首相が,ヨーロッパを再び大国の勢力圏に分割してはならない,と言うとき,それは大国間の交渉で国境線を変えても良い,という意味なのか? ベルリンが制裁に消極的であるのは,本当は,彼女がヤルタ会談の地政学を受け入れているからなのか?

プーチンは暴力に拠ってウクライナを解体し,ドイツはその最大の被害者であるはずだ.1945年,クリミアのリゾート地であるヤルタで開かれた会談で,事実上,西側がポーランドをソ連の側に渡した.そして,それがのちのドイツ分割へ向かう道を決めたのだから.

FT May 8, 2014

Time to turn the tables on Putin

WP Friday, May 9, 2014

Vladi­mir Putin’s new world order with the West

By Lilia Shevtsova


l  オバマの弱腰外交

FP MAY 1, 2014

America's Peace Crisis

BY CHRISTOPHER HOLSHEK

アメリカ外交は資金不足で,拡大し過ぎており,失敗するばかりだ.平和を構築するためには,もっと根本的な資源の組織化,再配置を必要としている.平和を構築することは戦争に勝つよりもはるかに難しい.それは古来,東西の優れた戦略家たちが認めていることである.

FP MAY 2, 2014

A President Lying to the American People, and to Himself

BY JAMES TRAUB

もしシリアに介入するとしたら,パウエル・ドクトリンを再生するしかないだろう.圧倒的な戦力を最初に投入することだ.イラク戦争のように.オバマは,アメリカ大統領になれば軍事力を行使して問題を解決できる,という人々の夢想を拒む大統領だ.

NYT MAY 3, 2014

President Obama and the World

By THE EDITORIAL BOARD

オバマはイラクとアフガニスタンの戦場から兵士を帰還させると約束して大統領になった.イランの核開発問題を平和的な解決し,世界の核廃絶に向けて行動すると主張した.

クリミア危機でオバマ外交を非難する者は大騒ぎしたが,オバマは十分によくやっている.

NYT MAY 3, 2014

It’s Not Just About Obama

Thomas L. Friedman

オバマの弱腰外交をなじる会議が大盛況だ.もしアメリカにも,シャツを着ずに馬にまたがった,トラと戦い,隣国に噛み付く大統領がいたら,われわれはもっと安全だと感じるだろうか? オバマを少し弁護してみよう.

アメリカ外交がこうなっているのは,オバマが知性的で,慎重で,情熱を欠くからか? アメリカが2つの戦争で疲弊し,不況に苦しむからか? 世界が多くの破たん国家と頼りない同盟国にあふれているからか? 私は後者の方が正しいと思う.

外交政策,すなわち,われわれが世界で行動する能力とやる気は,3つのことにかかっている.利益,価値,レバレッジだ.アメリカはシリアやクリミアに重大な利益を感じているか? われわれの重大な価値を侵しているか? もしそうであれば,われわれは負担できるような価格でそれらを持続的に実現できるか? レバレッジは2つのことにかかっている.われわれが持ち出せる経済的・軍事的資源と,その土地で協力するパートバーとわれわれの他の同盟諸国だ.

アメリカが軍事介入を避ける理由の多くは,これまでの政権がしたことの結果,アメリカのレバレッジが減ったからである.ブッシュⅠとクリントンはNATOを拡大して不満の種をまき,今のプーチン主義を創り出した.ブッシュⅡは,2つの戦争に失敗しただけでなく,アメリカの伝統を破って戦費のために増税せず,減税したことで財政を悪化させた.その戦争計画は大失敗で,実際の統治はさらにまずく,あまりに多くの協力者が腐敗しており,われわれが駐留していることを自分たちの詐欺の口実に使った.

われわれが,腐敗していない,本当に価値を共有できるパートナーを得たケースでは,アメリカの支援があまり無くても,彼らは成功している.誰も強調しないが,チュニジアやクルディスタンだ.

逆に,同盟者があまりに少なく,あまりに分裂していると,リビア,シリア,アフガニスタン,イラクのように,アメリカ軍は新秩序を実現するために長期の駐留,深い関与を要請された.安価な,空からの支援だけでよい,と言うのは全くの嘘である.また,オバマの用心深さが,女々しいコミュニティー・オーガナイザーであったからだ,というのもナンセンスだ.

外交政策で成功した大統領は大きな敵を取り上げた.しかし今,世界が不安定化しているのは動揺する諸国家のせいである.ではアメリカはいくつなら救えるのか? ウクライナの改革論者を救いたい.しかし,その負担は大きいだろう.なぜならウクライナの政治家たちが20年間も自国を略奪したのだから.変化をもたらすための債務救済が300億ドルでも,今のアメリカは負担したくない.

アメリカはアジア太平洋で中国にも対峙しなければならない.しかし,中国にアメリカは13000億ドルの債務がある.プーチンのエネルギー独裁体制を弱めたいが,そのためにはアメリカ自身のエネルギー政策を変えねばならない.そもそもヨーロッパの同盟諸国はプーチンと対決する気がない.

しかも最大の問題はわれわれ自身とその政治的麻痺である.海外で国家再建を目指すなら,アメリカ国内の再建に模範を示すべきだろう.インフラ投資,炭素税,エネルギー利用の効率化,天然ガスの適切な採掘法,熟練の養成,移民法改革,長期の財政再建,など.そして堅固な,統一した協力の基礎を得たい.

パンクしたタイヤを,壊れたジャッキと軟弱な地面で交換するのは難しい.

FT May 4, 2014

Uncertainty, not China, is replacing US power

Edward Luce

購買力でみた中国の経済規模はアメリカを抜いた,というニュースが流れた.中国の台頭は世界秩序にとってまだ重要な意味を持たない.中国はアメリカに代わって世界秩序を維持する役割を望まないからだ.アメリカの衰退が問題だ.アメリカの一極支配から,多極世界になるのは確実だ.

国際機関がそれを補うが,アメリカは世界に秩序を押し付ける力を失っても,それを分かち合う気がない.IMFのガバナンス改革をアメリカ議会は拒み,気候変動にもまるで同調する気がない.アメリカ政治の機能マヒや不平等は,アメリカの築いた国際システムをさらに損なうだろう.

FP MAY 6, 2014

Sorry, America, the New World Order Is Dead

BY ERIC A. POSNER

ソ連崩壊後のリベラルな国際秩序は,1.国際裁判所,2.人権,3.国際的正義,特に,拷問や虐殺にかかわった国家の指導者を裁く,4.自由な貿易と投資,であった.4.を除いて,うまく行かなかった.リベラルな秩序は,実際は,西側の価値であり,アメリカの力で強制したものであった.

それが虚構であったことは明らかだ.今や,アメリカ,中国,ロシア,ヨーロッパが秩序を競う.中国が近隣諸国との紛争を国際法廷で解決したいとは考えない.なぜならこれは,中国が近隣諸国に対する支配を拡大する行為であるからだ.19世紀秩序を拒むときではない.アメリカ,ロシア,ヨーロッパも,それに追いつくはずだ.

FT May 8, 2014

Benghazi probes reveal parallel worlds of US politics

By Geoff Dyer in Washington

Project Syndicate MAY 8, 2014

America’s Enduring Leadership

BRUCE JONES

FP MAY 8, 2014

The Lies We Tell Ourselves

BY AARON DAVID MILLER


l  中国の時代

FT May 2, 2014

China: On top of the world

By Martin Wolf and David Pilling

Martin Wolf ・・・今週,中国はアメリカを超えて世界最大の経済国になった.アメリカは1870年代初めからその地位にあったから,交代の重要性がわかる.しかし,中国はまだ一人あたりの水準で非常に低い.非貿易財の価格差を考慮しても,一人当たり所得水準はアメリカの5分の1である.購買力で見た一人当たりGDPは世界の99位でしかない.貿易量も莫大であるが,輸出に比べて輸入は少なく,外貨準備が4兆ドルもある.それは強さと同時に弱さを示すものだ.

アメリカはグローバルな金融市場の中心であり,技術革新による影響力もある.それは世界的規模の軍事的優位をまだしばらく維持するだろう.アメリカは巨大な島だが,中国は強力で嫉妬深い近隣諸国に囲まれている.文化など,ソフト・パワーもアメリカが大きい.

David Pilling・・・中国は,この交代を重視していない.単なる通過点だ.世界最大の輸出国,製造業,炭素排出量,など.予測を超える速さで達成している.しかし,2030年までにアメリカとEUを合計したよりも大きくなる.その衝撃を感じているのはアジア諸国だ.日本は尖閣・釣魚島で紛争を抱えている.ベトナム,フィリピンもそうだ.中国はすでに秩序を転換し始めている.

NYT MAY 2, 2014

China’s Censored World

By EVAN OSNOS

NYT MAY 2, 2014

Plying Social Media, Chinese Workers Grow Bolder in Exerting Clout

By DAN LEVIN

theguardian.com, Saturday 3 May 2014

The world has nothing to fear from the US losing power

Mark Weisbrot

アメリカが力を失っても,中国に帝国を築く意図はない.アメリカと違って,中国は海外に基地を持たない.アメリカ人は,軍事力の行使を控えるオバマに同意しているだろう.それでもアメリカには強烈な例外主義のイデオロギーがある.

18世紀には,アメリカのような,国王がいない世界をディストピアとして描くことで,革命思想を排除していた.西側の外交政策専門家たちも,アメリカの衰えを秩序の崩壊とみなす.しかし経済の趨勢は避けられない.国内の政治システムが何であれ,国際政治の舞台に参加する国が増えることは民主的なガバナンスをもたらす.それは国際法を重視し,戦争を減らし,社会的・経済的な繁栄をもたらす.

中国の台頭を恐れることはない.

Project Syndicate MAY 5, 2014

China is Still Number Two

JEFFREY FRANKEL

実際は,まだかなりの差を保って,アメリカが世界最大の経済国である.

30年に及ぶ中国の高成長を軽視することはできないが,購買力平価の為替レートで換算した中国の一人当たりGDPは, まだアルバニアの水準である.アルバニアが新聞のトップ記事になることはない.中国には13億人がいる.

一人当たり所得が重要な指標でもない.それはアメリカと同じ国がMonaco, Qatar, Luxembourg, Brunei, Liechtenstein, Kuwait, Norway, and Singaporeであることからもわかる.

他にもいろいろな視点がある.多国籍企業(投資先や市場として),グローバルな金融市場(人民元),IMFなどの国際機関(財源や発言力),南シナ海で紛争を抱える諸国.

Bloomberg MAY 5, 2014

China Buys Friends and Influences Nations

William Pesek

中国が恐るべき基準でインフラ投資銀行を設立するのは,アメリカ人,ヨーロッパ人,日本人が支配している既存の国際機関を改革する重要な理由になる.

中国がアジア諸国にインフラ投資を増やしているのは,日本の影響力を殺ぐのが目的だ.これまでインフラ投資を求めるアジア諸国は,直接に,あるいはアジア開発銀行を介して間接に,日本の投資を求めてきた.中国が500億ドルでアジアインフラ投資銀行を設立すれば,アジア開発銀行や世界銀行は仕事がなくなる.インドネシアの港,マニラに空港,タイで電力不足,・・・いいとも.請求書を送りなさい.

中国は道路や橋だけでなく,国際収支赤字にも融資してくれる.ベトナムが赤字に苦しむとき,IMFの求める透明性など気にしなくても良い.融資の代わりに中国が求めるのは,競争相手に対して中国の立場を支持することだけだ.日本のナショナリストや,台湾,チベットの分離主義者.もしミャンマーやモンゴルに金融危機が起きたら,直ちに金融スワット・チームを派遣する.そして,小切手帳を出す.

その魅力に従う前に,アフリカの経験を知っておくべきだろう.この10年,中国の開発銀行はアフリカでエネルギーと影響力を得るために投資してきた.問題は,北京の「見ざる聞かざる」アプローチが,スーダンやジンバブエなどで,無法国家を強化したことだ.経済を多様化する努力も放棄させた.その結果,中国が資源を略奪するだけの新植民地主義だ,という批判を受けている.ラテンアメリカでもそうだ.

私は現状維持を支持するのではない.それどころか,日本はもっと中国をADBの重要な地位に就けるべきだし,アメリカはIMFや世界銀行に,G7に,もっと発展途上諸国の声を取り入れるべきだ.そうでなければこうした機関は衰退する.ミャンマーは腐敗を抑え,フィリピンは各地のエコシステムを守り,バングラデシュは子供を働かせない,という条件など消えてしまう.

中国からの資金が求めるのは地政学だ.化石燃料を安くし,台湾を孤立させ,紛争地を中国が支配する.4兆ドルの外貨準備で,多くの友人を買うことができる.それよりむしろ,中国を国際機関に招き入れることだ.

FT May 7, 2014

China labour activism: crossing the line

By Tom Mitchell and Demetri Sevastopulo

FT May 7, 2014

Chinese and Vietnamese vessels face off in South China Sea

By Demetri Sevastopulo in Hong Kong

FP MAY 7, 2014

The World's Most Dangerous Water Fight

BY KEITH JOHNSON

ベトナムの主張する領海で,海底油田が推定される海域を中国が一方的に採掘しようとして,激しい衝突を起こした.

中国との激しい領土紛争は,ベトナムがロシアから,潜水艦など,兵器購入を増やす理由である.両国は,防衛問題に関する深い協力関係を築いている.

アメリカ国務省は,中国の攻撃的な行動に強い警告を発した.

NYT MAY 8, 2014

China’s Monroe Doctrine

Roger Cohen

John Mearsheimerの新版『大国パワー・ポリティクスの悲劇』は,中国の台頭がアジアで戦争を起こすことを強力に論じている.

それはアメリカが19世紀に西半球からヨーロッパの勢力を追い出したモンロー・ドクトリンと同じである.アメリカとベトナムとの関係は,安全保障から貿易や投資,留学生まで,全てに及ぶ.それは中国がベトナムに与える不安の強さを示す.

ベトナムはTPPにも参加する.冷戦では不可能であったが,相互依存の深まりは,競争的な協力,という関係も可能である.

NYT MAY 8, 2014

Tensions Rise Between China and Vietnam Over Disputed Waters

By JANE PERLEZ


後半へ続く)