IPEの果樹園2014
今週のReview
5/5-10
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Piketty人気の理由 ・・・欧米の移民の将来 ・・・国家ではなく都市の成長 ・・・ロシアの侵略と国際システム ・・・アメリカ外交とアジア ・・・中国社会の変化 ・・・QEの政策協調体制 ・・・イギリスの「失われた10年」 ・・・ポーランドの10年
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global
Times (China), The Guardian, NYT: New York
Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, Yale Global そして、The Economist
(London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l Piketty人気の理由
NYT APRIL 24, 2014
The
Piketty Phenomenon
David Brooks
多くの左派は貧しい人々に関心がある.しかし,民主党が議論してきたのは,貧しい人々ではなく,中産階級であった.あるいは,ウォール街占拠運動のような進歩派も,1%の富裕層に関心を向けた.
それは当然だろう.学者,活動家,メディア関係者,芸術家,など,明敏な専門職の人々が率いる現代の左派は,沿岸部の都市に住んでいる.彼らは本当の貧困や,不平等の生の経験を持たないからだ.かつてフランスの社会学者Pierre Bourdieuが階級闘争を描いたように,それは,文化的資本の富裕層と,金融的資本の富裕層との闘争なのである.
Thomas Pikettyの本が大きな注目を集めたのはこうした状況だった.彼は,不平等は人的資本によって生じるのではない,と主張する.専門職の人々が子供にいくら教育を受けさせても,不平等はなくならない.
彼の本は面白いで,普通,エコノミストはしないようなことをしているのが弱点だ.将来に関する予言である.今世紀の成長率は低くなるとか,資本に対する利回りは高いだろう,とか,富裕層の家族に資産がさらに集中する,とか.
彼が提案する対策,グローバルな資産課税は「ユートピア」である.それはPikettyも認めている.しかし,進歩派や左派はその世界観や改革案を示す好機なのである.それに対抗して,穏健派や右派には何が主張できるだろうか?
1.富の集中や相続税に関する不満を認める.2.成長,貯蓄,投資に対する報酬を重視した改革案を示す.3.歴史が証明したように,不平等を緩和するのは底辺の人的資本が改善できるときであり,頂点を引き下げることではない.
私が好ましいと感じるのは,Pikettyが文化を論じているところだ.それは,マルクス主義風の,教育を受けた階層内部に存在する「階級対立」である.
NYT APRIL 24, 2014
The
Piketty Panic
Paul Krugman
Pikettyの本“Capital in the Twenty-First Century”がベストセラーになったことは,研究者の思考方法における転換であり,保守派の恐慌を生じている.James Pethokoukis(the American Enterprise Institute)はPikettyを論駁しなければならないと主張している.それは政治経済学を作り変え,将来の政策論争を変えてしまう,と.
なぜ彼の『21世紀の資本論』がこれほど大きな衝撃を与えたのか? 彼が指摘したことは,以前から知られていた.不平等は拡大してきたし,人口の大部分は所得が増えていない.
そうではなく,保守派の愛する神話,大きな富を得ることのできる能力主義の社会,というイメージを彼が破壊したからだ.
富裕層は勤勉で,能力が高く,特に,人々を雇用する重要な役割を担っている,という理由で正当化できるだろうか? Pikettyは,富裕層が仕事ではなく,ますます資産から多くの所得を得ていること,企業からではなく,相続によって資産を得たことを示している.西側社会は,第1次世界大戦前に世襲の富裕層が支配する寡頭体制であったが,現在,それが再生しつつあるのだ.
保守派はPikettyに反論するというが,成功していない.彼らはただ,Pikettyをマルクス主義者と呼んで,罵倒するだけだ.
お金は重要だ.しかし,アイデアも重要だ.アイデアは,われわれが社会について何を語るか,ナノをすべきか,を決める.Pikettyの与えた衝撃は,保守派にアイデアがないことを示した.
The Guardian, Friday 25 April 2014
Super-rich
perfection anxiety? It can't be worse than poverty ennui
Rhiannon Lucy Cosslett
FT April 25, 2014
Lessons
from a rock-star economist
Gillian Tett
私はフランス人エコノミストに会いに行った.しかし,その会場the Graduate Center of the City University of New Yorkは大変なことになっていた.チケットは完売し,聴衆は隣接する公会堂でも討論の中継を観ていた.本はベストセラーになり,財務省やホワイトハウスも,主要なニュースも,このフランス人のことを語っている.余りの関心の高さに,ニューヨークの高級ファッション雑誌が彼を“Rock-Star Economist”と呼んだ.
1か月前まで,アメリカでは誰も聞いたことがないフランスの左派知識人に,なぜこれほど人気が出たのか?
それはPikettyがアメリカ人の自己認識に関する不安を明確に指摘したからだ.アメリカ建国から2世紀半を経て,ヨーロッパの世襲貴族の伝統を拒否し,地主の富を否定した,と彼らが誇る国はどうなったのか? 厳しい労働,能力,競争で,富を得ることができると考えていたアメリカ人の社会は,何か違うものに変わった,という不安である.
アメリカン・ドリームは起業の好ましい波をもたらし,社会のまとまりを高める者であった.しかしPikettyの本は,それがますます神話でしかなくなった,という.現在のアメリカの富は,ヨーロッパや世界のどこよりも不平等に分配され,富裕層の富はますます稼いだものではなく世襲されている.あたかも現代のトクヴィルとして,Pikettyはこの現実を明らかに示したのである.
The Observer, Saturday 26 April 2014
The
American Dream is now just that for its middle classes – a dream
Michael Cohen
theguardian.com, Sunday 27 April 2014
Thomas
Piketty is a rock-star economist – can he re-write the American dream?
Heidi Moore
FTが「ロックスター・エコノミスト」と呼んだように,Joseph Stiglitz and Paul Krugmanという2人のノーベル経済学賞受賞者と並んでニューヨーク市立大学の討論会に参加した.あまりに多くの聴衆が3つの教室に入れず,溢れ出た.Pikettyを現代のトクヴィルと呼ぶ声もある.
頁に及ぶ歴史の統計やグラフが主張しているのは,資本主義が能力主義であるというのは,とんでもない嘘っぱちだ,ということである.そして,アメリカン・ドリームは実現できない,と主張します.それは高い成長が,常に,大きな利潤によって阻まれているからである.成長は富裕層の利益だけを増やすのだ.
厳しい労働を続けても,私たちは豊かになれない.それは富裕層に近づく道ではない.富裕層は多くの富を持つからますます裕福になっている.Pikettyは市民の関心を集めることに成功した.彼の目標は,不平等が政治を動かすことだ.富の分配の在り方を変えねばならない,と考えている.
FP APRIL 28, 2014
France
Is Not Impressed with Thomas Piketty
BY CLEA CAULCUTT
VOX, 29 April 2014
How
to address inequality
Jeffrey Frankel
アメリカは,南北戦争後の金メッキ時代the Gilded Ageに似た不平等な社会になった,という問題が関心を集めている.上位1%の富裕層が支配する富は,1980年の8%から2012年に19%へ上昇した.それは1928年以来の最高で,おそらく世界で最も高い.
不平等は,成長を損ない,浮動性・不安定性を高め,妬みや不幸をもたらし,経営者たちの間の競争で報酬を極端に高める.それは政治において政策や制度を買収し,寡頭制を築く.こうした主張には多くの真実がある.
アジアにおける土地改革は,その後の成長に役立っただろう.他方,働いた成果を残せないことや,貧困家庭に住宅融資を補助する政策は,間違いだった.
アメリカにとって効果的な是正策は,可処分所得の減税(EITC)を拡大し,低所得層の給与税を免除し,高所得層の課税の抜けアナを廃止し,高率の相続税を復活させることだ.こうした政策によれば,総所得を相対的に減らさず,不平等を効率的に是正できる.
不平等を減らして成長に役立つ政策はある.すなわち,国民全体に初等教育や医療保険を与える政策だ.そして,たとえば,化石燃料への補助金撤廃や,法人税の抜け穴をふさぎ,ストック・オプションに課税して,財源を得るのが望ましい.他にも,貧困を緩和するという理由で,ほとんど効果のない,間違った政策がある.農業補助金,住宅融資補助,などはやめるべきだ.
確かに,富裕層,関係団体,反対派の影響力が強いことで,政治は不平等を促している.特に政治家たちは再選されるために広告を増やそうとし,莫大な資金を必要としているから,彼らの影響に負けてしまう.有権者がこうした選挙広告を無視することは,優れた解決策だが,難しい.新聞の論説で説得しても,この問題で関係ある低所得層は新聞を読まない.
より優れた対策は,何が正しい是正策か,それを支持している政治家はだれか,有権者に知らせることである.
FT April 30, 2014
The
nine stages of the Piketty bubble
Robert Shrimsley
Project Syndicate APR 30, 2014
The
Right’s Piketty Problem
J. BRADFORD DELONG
その内容は5点に要約される.それらは複雑であり,反論もある.しかし,保守派はマルクス主義やフランス人であると非難している.
その内容の大部分は,私たちも同意できる,正しいものである.
FT May 1, 2014
Bad
news for western jobs as ideas are also made in China
Gillian Tett
Bloomberg MAY 1, 2014
Demise
of the Trickle-Down Delusion
By Barry Ritholtz
l イスラエル
NYT APRIL 24, 2014
Israel's
Sustainable Success
Roger Cohen
Bloomberg APR 29, 2014
Is
Israel an Apartheid State?
Jeffrey Goldberg
l 欧米の移民の将来
YaleGlobal, 24 April 2014
Differing
Approaches to Immigration on Two Sides of the Atlantic
Michael Mandelbaum
大西洋の両側で移民に対する反対の声が高まっている.しかし,それは奇妙なことである.世界は財や資本の移動について,その利益を受けようと各国が争っている.ヨーロッパでは人口が減少し,多くの移民を必要としているのだ.世界で,2011年に2億1500万人の人が,生まれた国以外で暮らしている.移民をどう扱うかが21世紀の,重要な,そして激しい政治論争になる.
移民を恐れる声が上がるのも不思議ではない.彼らは労働者であるだけでなく,人間として社会を形成する一部である.大規模に移民が来ることで,その社会が変化することを恐れる人が増えるのだ.その政治論争の結果次第で,将来の移民の流れやあり方も変わるだろう.
ある国では移民たちを住民から分離している.他の国では「多文化主義」を唱えているが,言語や宗教の違いを長く残してしまう.同化を促すアメリカでも,文化の変化が加速して,政治的な反動を生じている.独自の文化を奪われ,社会で同じ市民としての資格を得られない移民たちも,不満と怨嗟を積もらせる.
2010年に,ドイツ連銀総裁Thilo Sarrazinが本を書いて,その中で移民の増加に反対する意見を述べた.ドイツの価値が破壊されている,というのだ.本はベストセラーになって,共感を生んだが,政界の主流派はこれを許さなかった.ユダヤ人差別とホロコーストの歴史を反省したドイツ政治が,移民に対しても差別しない姿勢をEU内で明確にしなければならない,と考えたからだ.Thilo Sarrazinは職を失った.他方で,非主流の政治党派が反移民をあからさまに主張し,より大きな勢力を得ている.
アメリカの2大政党は,それぞれの内部で意見が対立している.民主党議員は多くのヒスパニックが支持してくれることを期待し,移民を歓迎する.しかし労働組合は,移民が賃金を下げる,と反対している.共和党議員も,法律を破って入国する非合法移民に反対するが,ビジネス界は移民労働者を雇用したいと考えている.
大西洋の両岸で,今後,移民は異なる経過をたどりそうだ.アメリカは移民を受け入れた長い歴史を持つ国だ.ヒスパニックの移民が減る傾向もあって,移民の受け入れを合法化し,同化を積極的に進めるだろう.他方,ますます人口減少による経済移民を必要とするヨーロッパであるが,イスラム圏からの移民が増える傾向は続き,今後,文化摩擦が政治をさらに混乱させるだろう.
l 南アフリカ
FT April 25, 2014
Apartheid,
just less black and white
Simon Kuper
l アリババ
FT April 25, 2014
Alibaba
founders turn to philanthropy
By Josh Noble in Hong Kong
NYT APRIL 30, 2014
Alibaba
I.P.O. May Open U.S.-China Tech Rivalries
Farhad Manjoo
FT May 1, 2014
China’s
internet champions dash for breakneck growth
By Richard Waters
l 国家ではなく都市の成長
FT April 25, 2014
Cities,
not countries, are the key to tomorrow’s economies
By Arif Naqvi
21世紀の文明を築くのは,国家ではなく,都市である.毎日,多くの人が田舎から街へ出てくる.世界には,毎年,ニューヨークが8つ生まれている.
今後の10年間で起きる経済成長の半分は,世界の400都市で起きる.新興市場,などと呼ぶのはやめた方が良い.都市の消費者は,1990年に10億人であったが,2025年に40億人になる.世界を国民経済の集合と見る伝統的な方法は,これを正しく理解できない.国家ではなく都市が成長の主体であり,都市化の流れは止まらないだろう.
ローマからアテネ,イスタンブールと北京からダマスカス,都市の中心は常に人間の活動を惹きつけた.地政学においても,経済や文化においても,都市の恒久性は目立っている.ソ連崩壊や,最近のクリミア分割が示すように,都市の盛衰よりも,国家の境界線の変化は早い.都市こそが繁栄の基礎である.すでに人類の半分は都市に住むが,2050年までに70%が都市化するだろう.人は国家に投資するのではなく,都市に投資する.リスクや機会を探すとき,特に消費に関連するビジネスなら,彼らは都市を選ぶ.
世界の成長経済は,都市の大企業と人口に集中している.例えばインドネシアは,年6%で成長している.多くの西側経済が停滞する中,それは素晴らしいが,実際の政策や投資にとって重要な数字ではない.なぜならその数字は,ジャカルタが年14%で成長していることを隠すからだ.インドネシアの多数の島々は,この成長のエンジンである首都から離れるほど,成長できなくなる.ナイジェリアのラゴスもそうだ.
政府は2つのことをしなければならない.1つは,都市と農村をつなぐ道路を建設することだ.そしてもう1つは,都市と世界市場とを結ぶ橋を建設することだ.
経済発展のダイナミズムを都市に見るなら,投資家たちはますます開発された諸国の外に多くの機会を発見するようになる.
l アラブ世界
Project Syndicate APR 25, 2014
The
Arab World’s Options
MARWAN MUASHER
l ロシアの侵略と国際システム
VOX, 25 April 2014
Russia’s
tit for tat
Peter A.G. van Bergeijk
NYT APRIL 25, 2014
Ukraine’s
Activists Are Taking No Chances
Sylvie Kauffmann
theguardian.com, Sunday 27 April 2014
What
are Russia's real motivations in Ukraine? We need to understand them
Ruth Deyermond
ロシアの行動を,他国よりも攻撃的でルールを守らない国だから,と考えることは間違いだ.
ウクライナでロシアが目指していることは,自分たちが世界の大国である,と示すことである.しかし経済基盤は小さく,人口は減少し,国内の治安は悪化しており,他の先進諸国ほど安定せず,新興諸国ほどダイナミックでもない.ロシアが大国であると主張するのは,核の保有,国連安保理の常任理事国・拒否権,そして,地域もしくは旧ソ連邦の中で支配的な地位,を持つからだ.
しかし,世紀の転換期から,アメリカとEUは,ロシアのこうした優位を損なってきた.ロシアは反対したが,コソボとイラクに軍事介入し,2008年にはコソボを独立国にした.国連安保理の地位は損なわれた.アメリカは,そのミサイル防衛システムをポーランドやチェコ共和国にも設置しようとした.ブッシュ政権はグルジアやウクライナをNATOに加盟させようとした.そして2013年,EUはウクライナと包括的な貿易・投資協定を結ぼうとした.
これらは地域におけるロシアの地位を脅かすものだった.ロシアは外交的・軍事的手段でこれに抵抗した.グルジアと戦争して領土の一部を分割し,NATO加盟を阻止した.2014年,クリミアを分割・併合したのは,ロシアにとって常に戦略的に重要であった黒海周辺を,実質的に支配し続けるためだ.
これは単なる領土拡張のための新帝国主義ではない.旧ソ連圏の他の諸国を併合する政治的・経済的コストを負ってまで,ロシアが領土を拡大したがっているとは思えない.他の手段によって,地域の支配的な地位を得られるからだ.ロシアはウクライナが西側の制度に取り込まれるのを許せなかった.しかし,その行動はロシア自身が望まなかった抗議デモを激化させ,よりラディカルな,西側志向の,反ロシア政府を生んでしまった.その後のロシアの行動は,こうしたウクライナにおけるロシアの地位を回復する作戦なのだ.
それは欧米にとって,プラスとマイナスの意味を持つ.プラスの意味は,プーチンがヒトラー型のヨーロッパ征服を目指しておらず,もっと限定的な,合理的行動を取っている,ということだ.すなわち,地域の安全保障と大国の地位である.そうであれば西側は交渉によって危機を解決できるだろう.
マイナスの意味は,西側の経済制裁が効果を発揮しない,ということだ.プーチンにとってウクライナへの影響力はもっと重要な目標であり,アメリカが軍事的なエスカレーションを考えない以上は,妥協するしかない.ウクライナの危機は,本来,国内問題である.
FT April 27, 2014
Punishing
an aggressive Russia is a fool’s errand
By Thomas Graham
ワシントンは,ロシアの「封じ込め」が愚かな議論であることを知るべきだ.それは機能しないし,アメリカの利益を損なうだけだ.
経済的に見て,ロシアを孤立させることはできない.世界第6位の経済規模,EUが必要とする石油と天然ガスの3分の1を供給している.政治的にも,ワシントンは他国を説得もしくは強制する力を持たない.アメリカは軍事介入に失敗し,ヨーロッパは域内の問題に関心が向かっている.
より重要なことは,ロシア封じ込めがアメリカの利益を損なうことだ.世界はもはや2極でも1極でもない.アメリカは重要な利益を実現するために,ロシアや(将来は)中国と協力しなければならない.
ウクライナ危機に関するアメリカの利益は,これ以上の領土変更をロシアに認めず,ヨーロッパの戦後秩序の安定性を守ることだ.ワシントンはそのためにロシアを宥和するべきだ.NATOによる集団的安全保障を確かめ,軍備を配置し,演習を行わなければならない.しかし,NATOや経済制裁でロシアがウクライナの支配をあきらめることはなく,ウクライナの安定化も実現できない.
ロシアはウクライナにエネルギーを供給し,貿易の3分の1を占める.ウクライナはEU市場に工業製品を輸出できないだろう.歴史的にも,人脈も,エスニックも,ロシアはウクライナを動かす大きな影響力を保持している.すなわち,ウクライナの安定化はアメリカ・EU・ロシアが協力しなければできない.
すでにロシアの要求はわかっている.ウクライナを西側の同盟に加えない.政治制度を地方に分権化する.ロシア語も公用語にする.それらの細部を交渉するのはこれからである.そこでアメリカは,ウクライナの立場を支援する.ワシントンが望むような親米的なウクライナは得られないし,モスクワの影響力は強く残るが,その地政学は変わらない.アメリカは背後で,ウクライナの政治的競争に参加するのである.
NYT APRIL 27, 2014
Putin
Rival Takes Message to East Ukraine
By ALISON SMALE
FP APRIL 27, 2014
'What
Is Happening in Ukraine Is Dangerous for Russia'
BY DAVID PATRIKARAKOS
NYT APRIL 27, 2014
The
War on Truth in Ukraine
By KEITH A. DARDEN
SPIEGEL ONLINE 04/28/2014
Foreign
Minister Steinmeier
'Russia
is Playing a Dangerous Game'
Interview Conducted by Nikolaus Blome
最近の数か月は,あらゆる意味で,ヨーロッパが不気味な,重大な分岐点にあることを示している.戦争が起きることを多数のヨーロッパ市民が恐れているのを知っている.ベルリンの壁が崩壊してから25年間で,われわれが達成した平和と繁栄の成果を,全てを失う危険にさらされている.
ロシアは危険な火遊びをしている.すでに金融市場は怯えており,モスクワの債券や株式の価格は下落している.
Project Syndicate APR 28, 2014
Europe’s
Act in Ukraine’s Tragedy
JOSCHKA FISCHER
NYT APRIL 28, 2014
Putin’s
Useful Idiots
Slawomir Sierakowski
NYT APRIL 28, 2014
Saving
the System
David Brooks
平和と秩序の部品が至る所でゆるんでいる.ロシアとウクライナの指導者は世紀末的な非難を浴びせている.スンニ派とシーア派との対立はシリアでもイラクでも混沌を深めている.中国は太平洋の周辺で重みを増す.
イエール大学に来る前,国務省のスタッフとしてアメリカの戦略を形成してきたCharles Hillは,それについての質問に応えてくれた.
われわれは,既存の秩序が優れた,永久に進歩と世界の改善をもたらすものと信じていた.それは‘category error’であるとわかったのだ.そんな考えは墓場に入った.
大戦略の歴史を観れば,既存の国際システムが悪化し始めると,指導者たちは秩序を無視し,自分のしたことを忘れて,自己満悦に耽る.プーチンも,中国も,中東のセクトも,新しい秩序が地域に現れることをめぐる覇権の争いである.「アメリカの世紀」や,過去300年余りも支配した「近代」という時代は終わり,新しい時代が誕生する.それは近代的ではないし,快適でもないだろう.
近代の秩序は国家間システムであった.1648年のウェストファリア条約で,支配的な勢力は境界を確定し,その内部で多様性を守った.ナチズムやコミュニズムはこのシステムに挑戦し,敗北した.
今,そのシステムは単一の帝国によって攻撃されているのではなく,多数の大小の敵によって傷つけられている.地政学の復讐だ.中国,ロシア,イランは,異なった価値を持つが,このリベラルな国際協調体制に反対している.アメリカは無数の傷によって死ぬことを恐れている.シリアでも,ウクライナでも,どの亀裂に大量の資源を投入したところで,近代のシステムは回復しない.個別の攻撃ではなく,その集合体がシステムを殺すのだ.
John Gaddisは,George Kennanの洞察が今でも有効だ,という.冷戦において,彼はモスクワが内部から崩壊するのを待つべきだ,と説いた.モスクワは内部の秩序を維持するために外部に敵を求める.それは彼らの弱さである.彼らの攻撃に応じるより,われわれは過剰な拡大を控えるべきだ.プーチンも,内部から破滅する.
しかし,われわれは待つことで勝利できないだろう.そのような外交に,国内の支持は得られないからだ.地球の裏側でリベラルな秩序を守ることを,有権者たちに説得できない.特に,無数の敵が小さな傷からシステムを損なうときは.共和党はグローバルな議論をあきらめ,民主党は軍事費を削る.
リベラルで,多国間の協調によるシステムを守るには,より高度な同盟関係,逸脱を阻止する,より明確な行動基準,そして,政治・金融・軍事的な威嚇手段を準備しなければならない.
FT April 29, 2014
Ms
Merkel goes to Washington
FT April 29, 2014
A
prolonged crisis in Ukraine spells trouble for all
Mohamed El-Erian
FP APRIL 29, 2014
Kicking
Putin off the Island
BY ANDREW FOXALL
FP APRIL 29, 2014
Get
Real, Nick Kristof
BY CHRISTIAN CARYL
Bloomberg APR 29, 2014
Where's
the Rule of Law in Global Politics?
Mohamed A. El-Erian
重要な問題がある.地政学的な秩序と,経済的な秩序の,2つが収斂するのはいつか? どのようにしてか?
ウクライナ危機はその一つでしかない.アフリカ,アジア,ヨーロッパ,中東,世界中に同じ問題が現れている.仲裁する適当な第3国は存在しない.アメリカでさえ,その影響力を保持するのに苦労している.
しかし,経済分野では違う.景気回復は怪しく,失業率も高いが,保護主義の高まりはない.むしろ自由化に向けたスーパー地域統合の合意が交渉されている.
その違いは,第1に,政治や外交に比べて,経済分野には効果的な国際機関が存在する.WTO,IMFは,透明で,検証可能なルールを示して,各国に参加を促している.それらは世界の成長を組織するほど協力ではないが,その防御において重要だ.
第2に,経済・金融のグローバリゼーションにより,経済関係は多次元で,多国間に広がっており,生産者や消費者がシステムにおいて重要な諸国の間に相互の利益を結び付けている.だから保護主義は多くのコストをもたらし,しかも相互にコストが拡大する.
第3に,多くの企業にとって国際的な販売の重要性が増しており,生産過程の一部は海外にある.彼らは保護主義に反対し,ロシアへの制裁にも反対する.
最後に,公正かつ自由な貿易を支持する学問的な合意が浸透している.
こうした条件は地政学的な紛争に当てはまらない.各国は過去について全く異なった理解を示し,それは当然,未来についても対立を生じる.人々は感情に流され,政治家たちはそれを利用する誘惑に従う.
そこで考えるべきは,1.経済と地政学の分割を放置することは好ましくない.2.それが相互に影響するときは,地政学が経済を破壊する恐れが強い.3.指導者たちは,地政学も含めて,紛争を解決するグローバルな制度を強化するべきだ.
それを信じない者たちは,ウクライナ危機による世界不況を観ることになる.
SPIEGEL ONLINE 04/29/2014
War
in Europe?
Ukraine
and the Threat of Wildfire
By SPIEGEL Staff
NYT APRIL 29, 2014
Challenging
Putin’s Values
Thomas L. Friedman
The Guardian, Wednesday 30 April 2014
It's
not Russia that's pushed Ukraine to the brink of war
Seumas Milne
今,ウクライナ東部で起きていることは,数か月前にキエフで西側がしたことの裏返しである.アメリカとEUは経済制裁を準備し,ロシアを国際システムの「パリア国家」にしなければならない,と主張する.
Bloomberg APR 30, 2014
Can
Putin Fix the Mess He Made in Ukraine?
Leonid Bershidsky
SPIEGEL ONLINE 04/30/2014
Little
Love for Sanctions
Ukraine Crisis A Tightrope Walk for German Businesses
By SPIEGEL Staff
FP APRIL 30, 2014
Can
Radek Sikorski Save Europe?
BY MICHAEL WEISS
FP APRIL 30, 2014
It's
Not a Russian Invasion of Ukraine We Should Be Worried About
BY EMILE SIMPSON
NYT MAY 1, 2014
Russia’s
Weimar Syndrome
Roger Cohen
ロシアの外交専門家Sergei Karaganovがプーチンのナショナリズムについて論評した.
「西側は,ソ連崩壊後,冷戦の終結を事実上あるいは法的に拒んだのだ」とKaraganovは述べた.その結果,ロシアは極度の侮辱と包囲に苦しんできた.・・・西側は,不断に,軍事的・政治的・経済的な影響圏を拡大したのだ.ロシアの利益や反対は無視された.われわれは敗戦を認めなかったが,彼らはあたかも敗北した国家であるかのようにロシアを扱った.それはソフトなヴェルサイユ条約であった.第1次世界大戦後のドイツのように,領土の分割や賠償を求められたわけではなかったが,ロシアは世界の中でおとなしい役割を果たせと命じられた.それは偉大なロシア人の尊厳と利益を砕き,ワイマール症候群を生んだのだ.
西側は,共産主義帝国の復活を恐れる諸国に安全保障を提供したし,ロシアをG8に迎え,NATOもロシアとパートナーシップを築こうとした.確かに,欧米には,大西洋同盟と同じような,ヨーロッパ同盟を築く用意はなかった.すなわち,Karaganovの言うような,ヨーロッパのソフト・パワーと技術,ロシアの資源とを結び付けて,政治的意思と軍事力を持つ同盟を築くことは,当時,考えられなかった.しかし,それを西側によるロシアの拒否や包囲とするのは,欧米と全く違う見方である.
プーチンの煽るナショナリズムとロシアの強硬姿勢は,国内問題を何も解決しないだろう.しかし,アメリカの弱さは危機を悪化させる.オバマが尖閣諸島で集団防衛を明言したのは,新しいレッド・ランイであり,その約束を守るか,疑われている.アジアでも,東ウクライナでも,一発の銃声が真実を教え,混乱が広がるかもしれない.
YaleGlobal, 1 May 2014
Sanctions
Will Not Deter Russia, Concerned About Its Security Interests in Ukraine
David R. Cameron
(後半へ続く)