IPEの果樹園2014

今週のReview

4/28-5/3

 

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ロシアの帝国イメージ ・・・Pikettyの資本主義批判 ・・・中国・インド・インドネシアの成長 ・・・オバマ来日とアジア ・・・ユーロ圏の危機克服 ・・・ラナ・プラザ崩壊から1

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ロシアの帝国イメージ

The Guardian, Sunday 20 April 2014

Ukraine crisis: Putin should know we mess with Europe's borders at our peril

Chris Huhne

外交・防衛政策の最も重要な問題は,国家の行動の本当の動機を知ることである.

しかし,ロシアの行動は,プーチンも含めて,だれにもその動機が分からない.国際法を尊重し,プーチンがロシア語の住民の権利を守るように望むが,ジュネーブ合意は,その言葉の意味も分からない.非合法な武装集団の占拠を排除し,武装解除するのは,誰なのか? 表明された憲法に従うプロセスとは,連邦制のことか,EU加盟のことか?

クリミアが国境を変更したのは1954年であったが,ウクライナ東部についてもロシアがそれを主張するのであれば,1920年代,ヨーロッパと中東のすべてで国境線に関する紛争を発火させる.ドイツ,オーストリア・ハンガリ,オスマンの諸帝国が,パリ講和会議でバラバラに分割されたのだ.アメリカのウィルソン大統領癌持ち込んだ「(民族)自決権」は,危険であり,限界があった.孤立したイギリスや,大陸規模のアメリカを除いて,ヨーロッパのエスニックと言語がパッチワークとなった土地では明瞭な境界線を引けなかったからだ.

ドイツ語を話す住民はベルギー東部,イタリアの南チロルにいる.ハンガリー語の住民はスロヴァキアやルーマニアに,ロシア語の住民はウクライナやバルト諸国に,フィンランド語の住民はロシアにいる.ヨーロッパの87民族を考えても,その33だけが自国で多数派になっている.77000万人のヨーロッパ人口のうち,1500万人が「(各国における)マイノリティ」である.

国家の境界線に明確な基準や答えはない.プーチンはヒトラーではないが,ウクライナに彼が求めた国境の原理をヨーロッパに適用するなら,混乱と流血のレシピである.プーチン自身が,チェクニアに対する苛烈な弾圧によって,その原理を否定したのである.

The Observer, Sunday 20 April 2014

As Ukraine stares into the abyss, where is Europe's leadership?

Dmitri Trenin in Moscow

反対の立場でありながら,アメリカとロシアには明らかに共通の利害がある.それは彼らに協力を促すのだ.他方で,ヨーロッパは相変わらず,後部座席だ.ロシアを除けば最大の国が分割されようとしているのに.すでにウクライナは破たん国家である.大国間外交の餌食になる.

ワシントンから見て,ウクライナが西洋型民主主義とアメリカの同盟クラブに参加することは良いことかもしれない.しかし,その過程は長く,混乱した,問題の多い,特にロシアとの衝突を生じる危険のあるものだ.さらに重要なことは,それがオバマの優先目標ではないということだ.

クレムリンから見て,ウクライナがユーラシア関税同盟に参加することは,その人口,工業,農業の潜在能力からみて,決定的な最低基準を満たすために必要だ.しかし,ウクライナは親ロシア派だけでなく,反ロシアの地域を持つ国だ.ウクライナのすべてを統合することは,経済的に意味がなく,しかし西側地域を切り離すことは不可能だ.

Project Syndicate APR 21, 2014

The End of the New World Order

CHRISTOPHER R. HILL

アメリカはその挑戦を理解し,長期的な安全保障の国際構造を築くべきだ.ロシアは過去25年に西側が提供してきた利益を失うだろう.そして,ポーランドが誰よりもそれを理解しているはずだ.ロシアとの経済的利益を捨てても,西側の安全保障を主張する.75年前に,イギリスとフランスが条約に背いてポーランドを見捨てたことを覚えているからだ.ドイツが侵攻したとき,両国は何もしなかった.そしてポーランド人は5年間も国を失ったのだ.

FP APRIL 21, 2014

Putin's Empire of the Mind

BY MARK GALEOTTI, ANDREW S. BOWEN

1999年,プーチンが権力の座に就いたとき,彼はイデオロギー的ではあったが,合理的に語っていた.彼はロシアの愛国主義者であった.同時に,それが利益になると思えば,西側との協力を望んでいた.

しかし,それは以前のプーチンだ.今や,新しい指導者としてのプーチンがいる.ロシア政治に新しい要素が加わった.それは愛国心をクレムリンへの忠誠とみなすことだ.プーチンは2014年を「ロシア文化年」とした.そして,「われわれの文化のルーツ,愛国心,価値,倫理」を強調する.

プーチンは新しいロシア的な国家ナショナリズムを形にしようとした.それはロシアの古典的な二つの傾向,自律性とアナーキー,を再生している.プーチンはもはやプラグマチックに考えず,ロシア人が特別に優れており,『混沌の闇』に対してロシア文明を守らねばならない,という.


l  Pikettyの資本主義批判

NYT APRIL 19, 2014

Taking on Adam Smith (and Karl Marx)

By STEVEN ERLANGER

Thomas Pikettyは,ベルリンの壁が崩壊した1989年に,18歳であった.フランスにおける共産主義をめぐる知識人の論争が彼を損なうことはなかった.彼に強い印象を残したのは,1990年初め,友人とルーマニアを旅行した経験だ.ソビエトの帝国が崩壊した後,そこには何もなかった.それが怠惰な反資本主義のレトリックを拒むワクチンとなった.「私的所有や市場の制度が必要であるのは明らかだった.」

しかしPikettyは,マルクスの知的な伝統である,資本主義社会のもたらす経済的・政治的な不平等を批判する情熱を共有した.

Pikettyはフランスで優秀な成績を示し,富の再分配に関する論文を書いた.その後アメリカのMITでも経済学を学んだが,失望した.アメリカでは純粋な経済理論についてPH.Dを取った,それが一番簡単だったから.統計的な内挿に拠って結果を得るけれど,重要なことは何も問わない.考えることはないのだ.

彼は経済学の孤立を嫌い,統計を集めて歴史を描いた.文学からも学んだが,そこで富を得る方法が根本的に変化したことに気付く.かつては資産家との「結婚」であったが,今はそのような世襲の富が減った.しかし,再び富は集中し,過去の傾向が再生しつつある.この点で,彼はマルクスにも反対する.富の集中は革命をもたらさない.いつまでも続くのだ.そして,民主的な制度が機能しなくなる.

彼の提案であるグローバルな資産課税を批判する声は多い.しかし,Pikettyは論争を歓迎している.


l  中国・インド・インドネシアの成長

Project Syndicate APR 21, 2014

Asia’s Giants Under New Management

KISHORE MAHBUBANI

世界人口の3分の1が住む3か国,中国,インド,インドネシアで,新しい指導者たち,Xi JinpingNarendra Modi and Joko “Jokowi” Widodoが経済成長の取り組む.彼らはすべてプラグマティスとだ.経済成長に必要なら,国内の敵とも妥協し,海外から新しい技術を導入し,グローバル市場に向けたインフラを整備する.

それは世界の経済順位に関して,予想されている以上の急速な変化を生じるだろう.

習は主席になってから,注目すべき程度まで権力を集中してきた.中国の規模と複雑さを考えれば,その成果は目覚ましい.権力の集中は,困難な改革を進めるために必要だ.彼はまず,改革に向けた国内の合意を形成し,既得権を持つ反対派を制圧しなければならないから.独占を排し,規制を改善し,透明性を高め,税制を改革する.

西側諸国では,市場改革を支持しても,共産党の支配には反対する.「改革」といえば民主派を,たとえばソ連最後の大統領,Mikhail Gorbachevを考える.しかし,ゴルバチョフは改革と安定性とのバランスを取ることができなかった.習は中華人民共和国の最後の指導者になるつもりはない.共産党は,そのイデオロギーではなく経済成果によって,国民に支持されてきた.中国の指導者たちは近代化を進めるナショナリストであり,コミュニストではない.彼らが,過去30年間,より開放的な経済と自由な社会に向かう改革を実現した.


l  世界貿易システムの改善

NYT APRIL 19, 2014

This Time, Get Global Trade Right

By THE EDITORIAL BOARD

この20年間で,アメリカの製造業は500万人に近い雇用を失った.同時に,アメリカ人が支払うTシャツやテレビの価格が下落してきた.アメリカ製品はお店の棚から消えてしまった.

アメリカはメキシコとのNAFTA合意に,労働者の権利や環境規制を盛り込み,底辺に向けた競争を阻止するような仕組みを設けた.しかし,その制度で十分であったか,国民は不満を感じている.

貿易交渉は秘密に進められて,国民にはそれを議論することができない.他方で,通商代表部を通じて,アメリカの大企業は交渉の情報を得て,政府と緊密に連携している.この偏った姿勢は,合意内容についての不信を高めている.特殊な利益が重視され,企業は自分たちに不都合な規制や政策を阻止する力を得るものである.

合意は,アメリカの雇用や不平等に関して何を意味するのか? 通商協定があっても,相手国の通貨価値の操作を許しているのではないか? 中国の参加を促し,貧しい諸国や,日本など,自国産業を保護する諸国にも,世界の貿易システムを改善する合意として推進するためには,アメリカ国民にもっと支持される必要がある.


l  オバマ来日とアジア

FT April 21, 2014

Asian diplomacy: Pivotal moment

By Richard McGregor and Jonathan Soble

安倍首相の顧問は,アメリカが世界の外交問題から後退している,と批判する.中国の攻撃的な姿勢に対して,シリアやウクライナなど,アメリカの反応が不満なのだ.アメリカのパワーが支配的な時代は終わった.

日本の側にも地殻変動が起きている.日本の政治システムが安倍によって旋回しつつあることだ.非核3原則のような,戦後の自制的な日本の防衛政策は転換された.日本は,中国の台頭に刺激されて,アメリカへの依存だけでは安心できなくなっている.

一方では,アメリカとの相互の安全保障同盟を深めること.他方では,自ら核武装して,アメリカの同盟関係から離脱すること,を議論し始めた.中国が「防空識別圏」を一方的に宣言したとき,アメリカの反応は日本政府を怒らせた.中国がニューヨークやワシントンを攻撃できる核ミサイルを持つとき,日本への攻撃に対して,アメリカが反撃することを信用できるか,と日本のある防衛関係者は指摘する.

アメリカ政府の側は,靖国参拝,従軍慰安婦,など,安倍がアジアで不要な摩擦を生じていることに不満を持っている.韓国の朴クネ大統領は,歴史問題は安全保障と同じであることに,アメリカは気づくのが遅れた,という.中国政府はこの機会をとらえ,韓国とともに日本の軍国主義を非難する.

FT April 21, 2014

Obama’s Asia policy is distracted and ambiguous

Gideon Rachman

オバマ政権の「アジア旋回」は間違っていたのか? 中東やヨーロッパを無視して,アジアの時代という常識を借りただけの浅薄な発想か? シリア内戦や,ロシアのクリミア併合はそれを示した,と反対派は主張する.しかし,長期的に見て,アメリカに挑戦できる唯一の国であり,世界最大の経済国になる中国の台頭を扱うために,戦略がアメリカにとって最も重要だ.

中国をどのようにして国際秩序に参加させるのか,具体的な政策が欠けている.それが軍事面に偏っていることは,「封じ込め」であるという反発を生じている.しかし,中国の支配する地域内の衛星国にされる,という不安を感じている諸国にとって,アメリカが中国に軍事的な地抗する姿勢は欠かせない.

オバマの外交は,さかさまのセオドア・ルーズベルトである.「優しく語り,大きな棍棒を持つ」ではなく,「声高に語り,小さな棍棒しかない.」 TPP交渉でも,アジア諸国が第一の貿易相手にしている中国を排除しているのは,奇妙でしかない.

FP APRIL 21, 2014

Don't Be a Menace to South (China Sea)

BY JIM STEINBERG, MIKE O'HANLON

オバマ大統領のアジア諸国(日本,韓国,マレーシア,フィリピン)訪問は,アメリカ外交のアジア旋回だけでなく,ウクライナ危機にも関係している.アメリカはこの地域の友好国や同盟国に,台頭する中国の一方的行動を,どのように抑えることができると示すのか?

アジア旋回には2つの意味がある.1.アメリカは東アジアの平和と安定性に長期的に関与する.2.アメリカは台頭する中国と,協力的,建設的な関係を築く.

中国が成長すれば,不可避的に,関係が不安定化することを避ける戦略が必要だ.アジアの条件は,ウクライナよりも複雑だ.アメリカはウクライナと条約を結んでいないし,ロシアは明らかにウクライナの主権を侵した.アメリカが明確に日本やフィリピンの立場を支持すれば,それは中国の冒険主義的な武力行使を誘発するかもしれない.米中間の対決姿勢が,中国を近隣諸国との外交交渉に向かわせるとも言えない.しかも,そうした冷戦状態を,中国との経済的な相互依存関係が深まっている,アメリカの同盟諸国は好まない.

東アジアの地殻変動を促す,包括的なアプローチが求められる.領土紛争を孤立して扱うのではなく,台頭する中国を扱う基本的な姿勢を確立することだ.習近平主席は,それを「新しい大国間関係」と呼んだ.しかし,どのように信頼を築くのか,その中身を欠いている.不確実な状況で最悪の事態を予測し,構造することは,それ(戦争)を実現してしまう.

FT April 23, 2014

Obama’s Asian allies need to give something back

By Clyde Prestowitz

要するに,オバマ大統領は,最近,救出を拒んだシリア,アフガニスタン,ウクライナと違って,日本,韓国,フィリピン,マレーシアは重要だ,と説得するのか? それは正しいのか?

なぜなら,TPPを通じてわれわれの経済は一体化するのだから?

むしろ逆である.アメリカ第7艦隊は横浜に拠点を置き,韓国には3万人,日本には5万人のアメリカ軍が駐留している.しかもアメリカ軍は彼らを守るが,彼らはアメリカを守らない.なぜワシントンはこんな同盟諸国を必要とするのか? 日本と韓国は互いに嫌っており,アメリカを介して対話するだけだ.フィリピンは弱すぎる.マレーシアは戦略的な価値をほとんど共有していない.彼らは経済を重商主義的な政策に依存しており,保護主義と通貨操作によってアメリカに対する貿易黒字をため込んでいる.

何のためにアメリカが彼らの防衛を担うのか? その端的な理由は,中国の台頭である.

「アジア旋回」とは奇妙な呼び名である.それは中国への依存,投資,技術移転を続けるための婉曲話法である.実際,中国にはアメリカを威嚇する意図はない.中国はアメリカを侵略しないし,アメリカ経済の混乱も望まない.世界に危険なイデオロギーを輸出するわけでもない.

さらに,アジア諸国はアメリカに中国に対する軍事的な対抗を求めているけれど,彼ら自身は可能な限り急速に中国との貿易や投資を増やしている.戦略家たちが言うほど,TPPがアメリカに大きな利益をもたらす,という予測はない(2025年までにGDP0.5%).

アメリカが,日本の尖閣諸島紛争や,フィリピンの紛争を支援して,中国との軍事衝突に入るだろうか? 答えは,No,だ.尖閣のためにアメリカ兵が死ぬことは,ウクライナのために死ぬほど重要ではない.

大統領はアジアで,自国を防衛してくれるのか,と問われたら問い返すべきだ.あなたたちはアメリカに何をしてくれるのか?

FP APRIL 23, 2014

Pay No Attention to that Panda Behind the Curtain

BY STEPHEN WALT

アメリカが約束を守るのか,アジア諸国は疑っている.オバマは訪問する国々で質問されるだろう.アメリカが何をしても,アジア諸国は心配する.

しかし,率直に言って,そんな質問はばかげていると思う.アメリカはまだ将来も世界最強の国である.アジアの勢力均衡が失われることを心配するのは早すぎる.しかも,アジア諸国がそれを疑うなら,なぜ自分たちで軍備を拡大しないのか? それは彼らの軽武装に対する言い訳でしかない.

アメリカは自国の利益に従ってアジアの勢力均衡を維持しているのであって,彼らがそれを心配する必要などない.アジアで中国が急速に軍事力を強化することは,アメリカの利益を損なう.なぜなら論理的に考えて,強力な中国はアジアの勢力均衡を変えて,他の分野でも独自に主張するだろうし,他の地域における勢力均衡を破壊しようとする.それはアメリカの利益にならないのだ.アジアにおいて中国の力が強くなり過ぎないようにアメリカは行動するのであって,それを中国の指導者たちが「封じ込め」と思うのは正しい.

さらに,もしアメリカの関与を疑うなら,アジア諸国はアメリカの安全保障に頼らず,独自に核武装するだろう.それは核の拡散を抑えるアメリカの今の方針から否定されることだ.

だからオバマは,明確に,自国の利益に従って,アメリカはアジアの勢力均衡を維持するために必ず行動する,と説明することができる.それを疑う必要はない.しかし,アジア諸国は文句を言い続けるだろう.アメリカが他地域で介入すれば,アジアを忘れている,と言い,アメリカがアジアで軍事力を強化すれば,新しい冷戦を煽っている,と言う.

オバマは,アメリカがアジアの平和と安定を保ち,そこでは全ての国が豊かになれるし,地政学的な発想は前世紀のものだ,と主張する.しかし,少し視点を変えて,さらに彼らに問う方が良い,と私は思う.アジアの勢力均衡を維持したいなら,自分たちでもっと支出したらどうか? そのコストは甚大であり,アメリカとしてはもっと信頼できる軍備を持つ同盟諸国のネットワークを指導したい,と.

アジア諸国は,アメリカと自分たちのために,何をするのか?


l  ユーロ圏の危機克服

NYT APRIL 20, 2014

Sweden Turns Japanese

Paul Krugman

Sadomonetarismとは,金融政策の担当者や批評家が共有する,低金利やイージー・マネーを本能的に激しく嫌う態度である.失業率が高くても,インフレが低くても,関係ない.彼らの説明は,状況に応じて合理的なように見えるが,状況が変化しても,政策を変えずに説明を変えて,高金利を好み続ける.幸いアメリカ連銀は感染していないが,しばしば攻撃を受けている.

金融関係者には,貧しい債務者より裕福な債権者の利益を守る気持ちがあり,金融政策担当者たちは痛みを与えることのできる「タフさ」を競い合っている.

NYT APRIL 21, 2014

Euro-Zone Fiscal Colonialism

By PHILIPPE LEGRAIN

今もなお,ユーロ圏の銀行は危機にある.その処理メカニズムは複雑で機能せず,各国政府の拒否権に妨げられる.

金融市場の活気にもかかわらず,危機は続いており,南欧経済には死滅した銀行がいっぱいだ.賃金を削って,巨大な債務に耐え,増税と公共サービスの不足に苦しむ.多くの人々は未来への希望を失った.

危機の主要な原因は,ドイツやフランスの銀行がスペインやアイルランドの住宅所有者,ポルトガルの消費者,ギリシャ政府に対して,無思慮に貸したことだ.しかし,債務国の国民は銀行にすべての債務を返済するよう求められた.独仏の銀行が,ユーロ圏市民よりも優先されたのだ.

特にドイツは,銀行の不良債権を認めようとしない.破綻銀行を管理することを強く嫌うドイツ政府は,ECB,欧州委員会とともに,南欧の財政的な浪費を非難した.彼らが強制した財政緊縮策こそ,ヨーロッパ経済を深刻な不況にし,失業者を増やし,財政不安を広めたのだ.ユーロ圏は解体寸前になったが,ECBの介入で何とか生き延びた.

20105月,債務を免除するのではなく,独仏の銀行を救済するために,支払い不能のギリシャに対して融資を行った.この決定がユーロ圏を損なった.それは,他国の政府を救済しない,というユーロ合意の法的基礎を破壊した.メルケルはそれを知っているから,各国の財政を管理して健全化する,と南欧救済を嫌うドイツ国民に強調した.通貨統合が実現したはずの,財政的な自由は失われ,各国は財政的拘束衣に押し込まれた.

それは政治的にも有害であった.どこか遠くの,選挙で決めたこともない,だれにも責任を負わないブラッセルの官僚たちが,財政に関する各国有権者の選択を否定するのである.こうした民主主義の否定は,人々の心をEUの制度から離反させた.

ヨーロッパは団結して巨大銀行を制圧するべきだった.逆に,ユーロ圏は債権国と債務国に分断され,銀行の不良債権を返済することが政府間の約束になった.EUは,借金取りの代行機関になったのだ.

この金融混乱を抜け出すには,銀行を再編し,負担できないような債務は免除するべきだ.より多くの投資,大胆な改革で,生産性を高める.各国の財政は弾力性を回復し,市場の信頼とデフォルトの可能性がそれを制限する.他国を救済しない原則は回復し,政府債務の再編はルールによって行う.ECBは,最後の貸し手として,政府の支払が市場で止まらないよう保証する.

長期的には,ユーロ圏の財務当局が成立し,既存の政策や制度は破壊されるだろう.「ユーロの春」が来て,経済と政治はよみがえる.

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The Economist April 12th 2014

Leviathan of last resort

Essay: The slumps that shaped modern finance

China’s future: Enter the Chinese NGO

Angola: Still much too oily

Ukraine and Russia: Wearily back to the battlefield

(コメント) 金融危機が現在のような金融システムを創った.金融の本質は,優れた性質と危険な性質を併せ持っているために,危機を経験するたびに国家の保護や介入が増えて,まったく意図しない歪んだ制度になっている,と記事は指摘します.

5つの金融危機(17921825185719071929)の簡潔な説明と金融システムの変化は,とても有益だと思いました.

中国のNGOが,共産党政府のできないことを公的部門に代わって実現する可能性が面白いです.他方,アンゴラ経済の急激な成長や,ロシアの介入によって加速するウクライナの不安定化を,政治的に解決するためキエフが助けを求めるのはオリガークの連携政治であることも深刻です.

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IPEの想像力 4/28/14

休日ですから,DVDを借りて『リトル・ダンサー』を観ました.ボクシングを習うために体育館へ通う少年が,バレエに魅せられる話です.なぜか,映画の背景はサッチャー首相による炭鉱労働者の弾圧であり,同性愛の友人であり,目標を見失った大人たちです.

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リアリストの主張は,国際関係と国内政治で異なっている,と思いました.どちらも価値・道徳観やユートピアニズムを排し,軍事力による優位,権力の掌握を目的に冷静な計算を行い,必要であれば価値・道徳観を無視して,敵とも手を組みます.

そこに差があると思ったのは,ブレアに対するクンナニArun Kundnaniの批判を読んだときです.ブレアはアメリカを支持し,ブッシュ政権と協力して,イラク侵攻に最初から加わりました.ネオコンの思想を信じてはいませんでしたが,アメリカが世界政治の頂点であったから利用した(された)のです.サダム・フセインを権力の座から降ろすことは,地域から深刻な脅威を取り除き,イラク国民にとっても良いことだ,と確信していた.少なくとも,ブレアは回顧録でそう説明します.

中東の民主化は,労働党の目指す人権擁護や貧困解消にも好ましい条件である.フセインのような独裁者を減らすことは,核や毒ガスのような大量破壊兵器の利用を許さず,そのために侵攻したのは,ブレアの唱える人道主義的な国際介入でした.

しかしクンナニは,ブレアがネオコンの愚かな戦争に加担しただけでなく,その目標を捨てて,今は独裁者と手を組むことを唱えている,と批判します.ブレアの中で重要性が変化したのです.独裁者が人権を無視し,国民を殺したり,飢えさせたりしているとしても,イスラム過激派との戦いでは重要な同盟者である,とブレアは考えます.彼ら(既存の権力者)の協力なしに,イスラム圏内部の闘争で,過激派を抑えることはできず,将来,穏健派が開放的な民主体制を築くこともできない.だから,専制的な王朝や独裁体制(シリアのアサド,ルワンダのカガメ)とも,西側は手を組むべきだ,と主張します.

そうだろうか? 中東やイスラム圏で民主化が成功するとしたら,それは外から軍事的に強制したからではなく,人々が民主化に参加し,自分たちの政府を機能させるまでに成熟したからです.ブレアがイスラム主義を極端に単純な仕方で2分割したことも,彼が支持する「オープン・エコノミー」(ネオリベラリズムの政策)も,民主化を成功に導く自生的な社会の発展を損なう点で間違っている,とクンナニは批判します.

国際関係では,価値や道徳を無視するリアリストが,国内政治では権力を正当化するために,ナショナリズムや理想を強調します.そして,ブレアが示すように,この違いは時期によって入れ替わり,権力の掌握が,その理想や経済政策の目標と矛盾します.

リアリストは,国際関係において理想を持ちません.他国に政策も強制しません.軍事的な優位と安全保障のために,だれとでも手を組みます.それをためらっていては,滅ぼされるリスクがあるからです.他方,国内では権力の掌握が,その理想や政策を実現するために必要です.リアリストは権力政治を勝ち抜いて,政敵を圧倒し,批判を許しません.そうして初めて,自分の理念や正しいと思う政策が思いのままに実現できる自由を得るのです.

もちろん,私はブレアだけでなく,プーチンやオバマ,安倍晋三のことを想いました.彼らは権力政治の世界を生きるプロです.私たちの常識や価値観では判断できません.そして,彼らが生きる現実は,彼らの主張が何であれ,冷徹なものです.

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『リトル・ダンサー』で,ビリーがバレエ・ダンサーとなって輝くのは,むしろ彼を支えた大人たちの生きる世界が厳しい地獄であったからです.母親は早く亡くなり,父親はストライキが続く中で子供たちに希望を示してやれず,兄は労組の活動家として逮捕されます.自分たちは終わりだが,ビリーの希望をかなえてやりたい,と父はスト破りを考え,兄に止められます.

お前なんか負け犬だ,と叫ぶビリーを,炭鉱町ダーラムのバレエ教師は王立バレエ学校に推薦しました.ビリーが父親に,ロンドンはどんな街か? と尋ねると,父は知らない,と応えます.行ったことがない.炭鉱はないから,と.豪華なバレエ学校の試験官たちは,最後に父親に言います.ストライキを応援します,と.

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