IPEの果樹園2014
今週のReview
4/14-19
*****************************
難民・移民 ・・・中国経済の次の課題 ・・・日本の安全保障・貿易 ・・・素晴らしいデジタル新世界 ・・・ルワンダ虐殺から20年 ・・・ロシアと対峙する ・・・オバマ外交の崩壊 ・・・経常収支不均衡の理解
[長いReview]
******************************
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l 難民・移民
theguardian.com, Wednesday 2 April 2014
America
has resettled 121 of Syria's 2m refugees. We must do better – now
Eleanor Acer, Human Rights First
「シリアに帰っても,われわれには何もない.」と,2人の子供を持つ父親は言った.「家も,店も,自動車も,全て破壊された.そこには何も残っていない.」
危機は4年目に入り,人々の苦しみは尋常ではない.それは地域に広がっている.国内避難民は650万人.260万人以上が国外に難民となっている.58万7000人がヨルダンへ,64万9000人がトルコへ,約100万人がレバノンへ流入し,レバノンでは人口の4分の1に匹敵するのである.
アメリカだけでなく,ヨーロッパ諸国もシリア難民を受け入れようとしない.イギリス政府は500人の難民受け入れを表明したが,それは映画スター達からの批判を受けてからだった.ヨーロッパ諸国はシリア難民の流入を阻止しようとしている.人道的な破局が起きているとき,国際法を満たす難民たちに対して国境を開放し続けるのが,主要国として模範を示すことである.
国際社会は,難民危機に対する包括的な対応策を計画しなければならないが,その重要な一部が難民受け入れ責任の共有である.
アメリカは世界最富裕国として,また,人道に対する保護を自負する国として,毎年,少なくとも1万5000人を受け入れるべきだ.アメリカはさらに,難民キャンプの外でも彼らの生活を助け,受入社会のインフラ整備に資金援助するべきだ.アメリカはまた,紛争に関係する諸国に圧力を強めて,シリア国内の避難民にも救援の手を及ぼすべきだ.そして,それを妨げているのがだれなのか,明確にするべきだろう.
ヨルダンで,シリアを逃れてきた20歳の母親に会った.「どうかアメリカの人々が私たちのことを忘れないようにしてください.」 そう彼女は言った.私たちは忘れない.
l 中国経済の次の課題
Project Syndicate APR 2, 2014
Reforming
China’s State-Market Balance
JOSEPH E. STIGLITZ
これまでの改革は,資源配分を支配する国営企業のような存在を,もっと市場の役割を拡大することによって抑えることであった.しかし今,環境汚染,所得や資産の不平等,汚職が大きな問題になっており,食品の安全性も損なわれている.
中国の改革は,アメリカの浪費的な物質主義をまねることではない.それは中国だけでなく,世界にとっても破滅である.医療保険制度にも,過剰生産力を抱える産業再編でも,急速な都市化(公共輸送システム,学校,病院,公園,など)でも,市場は,社会的な利益に照らして,円滑な調整を実現できない.2008年の世界金融危機は,市場が自己規制力を持たないことを示した.
規制緩和は,その程度だけでなく,結果が重要である.アメリカは規制緩和によって,公共インフラを崩壊させ,S&L危機を生じ,消費者や銀行の破壊的な行動を促した.中国は,アメリカが進んだ道を選択してはならない.発展の水準にあった公的規制を実現するべきだ.
そのためには,地方政府が財源を得ることだ.今の財政は土地の販売に大きく依存し,経済過程を歪め,それに関わる汚職を誘発している.炭素税を含めて,環境汚染に課税し,包括的な累進的所得税,資産課税をするべきだ.また,政府は配当を介して,国有企業の経営者支配を減らし,政府所有割合を増やす.
中国政府は,債務の膨張,世界需要の減少,産業の過剰設備削減に取り組まねばならない.その成功のカギは,都市化,医療,教育にもっと多く政府が支出し,そのために課税を増やすが,成長と環境改善と不平等の抑制を,同時に実現することだ.
FT April 8, 2014
Chinese
savers can scorch the world
By Martin Wolf
中国の総国民貯蓄額は5兆ドルに近付いた.アメリカの総国民貯蓄は3兆ドルである.もし中国政府がその計画通り,資本勘定の自由化をすれば,外国人は中国に投資し,中国人は外国に投資して,世界の金融を創り直すだろう.
中国が資本勘定を閉じていることは,国内にも,世界にも,利益がある.中国は国内の金融問題を容易に処理できる.また,中国の成長減速と債務危機は,世界の金融システムに波及しない.
長期的には,中国の金融機関が世界最大の資産保有者になるだろう.そして中国国内の金融ショックは,1930年代にアメリカの大恐慌がそうであったように,また2000年代になってアメリカの大不況が世界経済に影響を及ぼしたように,世界を変える事件となる.
2012年に中国人民銀行は報告書を出し,資本自由化が中国の対外資産保有を改善し,人民元取引を増やし(人民元の国際化),中国企業の事業再編成を促進する,と結論した.また,資本規制は効果を失ってきた,という.中国の銀行システムは,資産も負債も人民元建であり,対外債務は短期に限られている,また,国内不動産市場や資本市場の混乱は管理できるから,自由化はリスクではない,と考えている.
しかし,我々は何度も中国の銀行システムが抱える問題を主張してきた.銀行のバランス・シートは悪化している.1998年にIMF副専務理事であったStanley Fischerは,成功の条件を示した.安定したマクロ経済条件,健全な銀行システム,発達した金融市場,である.
IMFの研究は,自由化によって中国のGDPの15-20%が海外資産の保有に向かい,GDPの2-10%が国内資産の外国人保有になるから,中国人の純国際資産保有額はGDPの11-18%になると予測する.それは中国が世界金融の主要な担い手になることを意味する.
金融自由化は,機会だけでなく不慣れな状況をもたらし,深刻なモラル・ハザードを生じる.インドネシア,メキシコ,韓国,など,多くの国で危機をもたらした.中国は,まず,金融改革に取り組むべきであり,その後で,金融を自由化するべきだ.理想的には,パートナー諸国と緊密に話し合って進めることだろう.
NYT APRIL 8, 2014
China’s
Coming Economic Crisis?
最近,中国は次のリーマンブラザーズなのか? と,John Cassidyが問いかけた.
Loren Brandt ・・・民間と政府において債務が急速に増えていることから見て,金融危機の危険がある.金融当局は1990年代だけでなく,何十年も知識と経験を積んできた.しかし,金融当局には,金融システムの効率性を高めることと,政治的な道具として利用すること,の間に矛盾がある.1980年代,90年代の高度に循環的な成長の変動は,これを反映したものだ.
Ann Lee ・・・中国の債務は2008年の危機の条件ではない.異なるものだ.「影の銀行」がGDPや融資に占める割合も,レバレッジの率も,市場による値洗いも,国内流動性も,リーマン・ショックの条件に見られたような脆弱性は示していない.政府当局は,銀行からの資金流出を止める様々な手段を持っている.また,それらを積極的に使う姿勢を示している.
Albert Park ・・・危機は起きない.債務はすべて不良ではない.住宅の多くは実際に改革の成果で価値を高めている.日本や韓国の水準になるまで,中国経済にはまだ成長の潜在力が多く残されている.危機に対する政府の対応能力は十分にある.9兆ドルのGDPに対して5兆ドルの債務があるとしても,政府が保有する外貨準備は3.9兆ドル,国有企業の資産価値は7.4兆ドルである.マクロ経済の改革(金利,為替)や資本自由化,要素移動(戸籍,土地所有権の売買),国有企業の株式を分散化し,競争を促すこと,で雇用と所得の上昇は実現できる.
NYT APRIL 9, 2014
Cultural
Revolution Nostalgia
Yu Hua
文化大革命のとき,Zhang Hongbingは16歳だった.その年,家族が議論する中で,彼の母は毛沢東のカルト的な性格を批判した.彼と父親は,それが「反革命的」であると判断し,そのことを当局に報せた.同じ日,彼女は逮捕された.
Zhangは,今も,逮捕された母の姿を思い出す.2か月後,母は銃殺された.
1980年になって,毛沢東は死に,文化大革命は終わった.彼の母は無実であったことを裁判所が宣言した.Zhangと父はこのことに触れなかった.父は退職するとき,当時の大人として,そうした事態についての責任を認めた.59歳になったZhangは,今でも夢に母親の姿を観る.彼が跪いて謝罪しても,彼女は何も応えない.それは私への罰なのだ,とZhangは言う.
しかし,彼女が罰したいのは息子ではない,と思う.彼女は罪が他の者たち,当時,権力を握っていた者たちにあることを知っているから.文革で亡くなった多くの人々と同じように,彼女も権力者たちが謝罪するのを待っている.しかし,44年が経った.
中国は日本と釣魚島の領有を争っている.2012年9月には,50の都市で反日抗議デモが起きた.日本式レストランや日本車が破壊され,日本企業は放火された.日本の侵略に関する多くの中国の映画やテレビドラマが流された.
日本政府の歴史に対する姿勢が国民を憤慨させたのだ.しかし,中国政府も同じように歴史を顧みない.われわれは日本政府に,歴史の失敗を繰り返すぞ,と警告する.同じことを中国政府にも言うべきだろう.
物質主義がはびこり,政治とビジネスが癒着する現実に,人民は憤慨している.文化大革命は時期が間違っていた.今こそ,文化大革命が必要だ,という声が上がる.彼らの不満に火が付く前に,政府は文革について謝罪せよ.
l 日本の安全保障・貿易
FP APRIL 4, 2014
When
is a Rock Not a Rock?
BY KEITH JOHNSON
フィリピン政府がたとえ法廷で勝利しても,中国はそれに協力しないと表明している.中国には自分たちの領土を守る権利がある,という.判決を強制することはできない.中国が不利な判決を変えるために,紛争を激化させる懸念もある.
しかし判決により,フィリピンや他の諸国は自分たちの主張に高い公的評価を得るだろう.中国政府は周辺海域だけでなく,もっと離れたインド洋などでも安全な航行を求めている.地域の支配圏を要求するか,それとも国際法を守るか,中国に選択を迫るものになる.
NYT APRIL 5, 2014
U.S.
Response to Crimea Worries Japan’s Leaders
By HELENE COOPER and MARTIN FACKLER
今のところ,アメリカはロシアに対する軍事的報復を考えていない.ウクライナの非核化と安全保障を約束したアメリカとの合意the Budapest Memorandumは,今回のクリミア分割で,日本とアメリカとの長期に及ぶ防衛パートナーシップにも影響するだろう.同じことが日本に起きたら,アメリカは行動するのか?
アメリカの姿勢が,尖閣諸島の中国による軍事的奪取を刺激しただろう,と考える分析官もいる.同盟関係を損ないたくないから,日本政府はそれを公に非難することはしない.もしアメリカが尖閣諸島で行動しないなら,アメリカの基地は日本からなくなる.そうなれば,アメリカは太平洋の大国ではない.アメリカはそれを知っている.
FP APRIL 8, 2014
China
Might Actually Seize Japan's Southern Islands
BY JAMES HOLMES
中国の防衛大臣は,ヨーロッパの大きな国と,太平洋の小島は違う,と指摘した.中国は釣魚島の主権を主張している.軍は,命令さえあれば,いつでも集結し,戦いに勝利できる,と述べた.
尖閣から見て,わずか80マイルのところに琉球列島がある.そこには180万人が住み,米海兵隊と空軍の基地もある.中国の視点で,琉球諸島を奪うことは,わずかな軍事行動でアメリカを西太平洋から追い払う,という非常に大きな利益をもたらす.
中国の指導部が東シナ海の支配を求めたときから,軍は考えられないことも考える姿勢に変わった.米日の同盟に挑戦し,アメリカ中心のアジアのシステムを排除することも検討している.アメリカ太平洋司令部の情報スタッフは,人民解放軍が日本との「迅速,かつ,短期の戦闘」を演習している,という.
合理的な対抗策は,日米が沖縄の海と空に対する防衛力を高めて,中国にとって征服のコストを高めることである.
l 素晴らしいデジタル新世界
The Guardian, Friday 4 April 2014
Now
it's the middle class's turn to feel the employment earthquake
Christina Patterson
限界費用がゼロになる世界に住むとはどういうことか? 大地震によって,中産階級の専門職が集まる分野でも,雇用の基礎が失われる.
素晴らしいデジタル新世界にようこそ!
2013年の Oxford Martin report(The Future of Employment)は,アメリカの職業の47%がコンピューター化する,と予想している.すでに非常に多くの者が「自営業」と回答している.以前のような雇用がないから,そうするしかないのである.
労働者階級はすでにそれを味わってきた.産業が中国に移転し,あるいは,完全に消滅した.サービス業も,最低賃金で奪い合う移民たちに渡すしかない.同じことが,中産階級にも起きる.
l ルワンダ虐殺から20年
FP APRIL 4, 2014
If
We Can Let Syria Burn, Have We Learned Anything at All from Rwanda?
BY JAMES TRAUB APRIL 4, 2014
今,ルワンダの虐殺を語るとき,われわれが考えるのは20年前の事件ではなく,現在のカガメPaul Kagame大統領によるルワンダ内外における反対派の殺害,コンゴの治安悪化である.
しかし,カガメの悪事によって,この20年間にルワンダ国民が達成した素晴らしい成果を見失ってはならない.虐殺を止めた後,カガメの組織した軍と政府は憎悪に駆られた報復が起きることを阻止した.カガメはフツ族に対して和解を求め,バルカンで起きたよりも濃密な虐殺でありながら,その加害者であったツチ族の社会的地位を,より多く守った.
ルワンダの虐殺の後,国際社会には,自国において住民の権利を保護しない政府に代わって,国際社会が保護する責任を認める“R2P(responsibility to protect)”が国連安保理で決議された.虐殺を阻止する迅速な国際介入について制度的な基礎を与えたのである.
しかし,シリアの虐殺を阻止する行動を世界は取らなかった.ルワンダの虐殺はあまりにも早く広まった.しかし,シリアの虐殺は,政府と国軍によるものであり,数年に及んでいる.ビル・クリントンも,ボスニアへの介入を認めなかった.1993年のソマリア介入が失敗に終わってから,彼は介入失敗の政治的コストを恐れたのだ.交渉による解決やヨーロッパの行動を求めたが,それは成功しなかった.オバマ大統領も,繰り返し,シリア介入を求める政治家や政権内部の声を拒んだ.
われわれには,絶望的な事態を変えるために行動することが,人道的な観点だけでなく,アメリカの利益である,と国民に説明する勇気のある大統領が必要だ.
FT April 7, 2014
What
we must learn from the horrors of Rwanda
David Miliband
ルワンダでは毎年,虐殺を記念し,その教訓を学ぶ行事がある.今年取り上げられたのは4つのテーマであった.1.難民キャンプのパラドックス.2.紛争を拡大する地域ダイナミズム.3.紛争後の社会を再建する困難.4.緊急事態と開発支援との区別が消滅したこと.
世界の貧困は,その半分が紛争地域と国家の脆弱さに関連している.ホロコーストについて主張されたことは,ルワンダでも言える.もし私たちが救わなければ,歴史そのものが滅んでしまう.
l ロシアと対峙する
Project Syndicate APR 4, 2014
The
Yalta Temptation
YULIYA TYMOSHENKO
クリミアがロシア軍によって分離され,併合されてから,われわれは「まやかしの平和」を生きている.ロシアとの平和的な解決を西側が望むのは理解できるが,「連邦制」はウクライナの東部と南部を実質的にロシアが併合するための見せ掛けにすぎない.
プーチンは1945年のヤルタ会談を求めている.そこではスターリンが,チャーチルとルーズベルトに,ソ連によるヨーロッパの東半分を分離・支配する計画に同意させたのだ.そして,その後の半世紀を奴隷状態にした.
FP APRIL 8, 2014
You
Can't Beat Putin, Because He's Already Won
BY DANIEL ALTMAN
プーチンはロシアを再び偉大で強大な国家にしたかった.それは彼を偉大で強力な指導者として記録させることになる.しかし,現状を変えるために大きなリスクは冒せなかった.ロシアは弱い.そこで,シンプルな3段論法を採用した.
1.好機を選ぶ.プーチンは,自分がよく知っている,勝つ状況でだけ戦った.2.現状維持を遂げる.3.敵に現状の変更を,彼らの損失を認めさせる.ウクライナの危機は,この意味で,プーチンの望むものだった.彼の支配や影響圏を拡大した.
ウクライナに金融的な好条件でロシアとの合意を求めたが,それを拒めばウクライナの状況は悪化し,不安定化する.ロシア系住民は政府に抗議し始めた.プーチンが望んだように,好機を利用してロシアはクリミアを分離,併合した.西側は軍事的対立を回避するとわかっていた.彼らはクリミアの現状変更を受け入れた.
ウクライナ東部で,同じことが起きている.西側は,ロシアが次第に交渉に応じる姿勢に変化することを評価し,そのうち制裁も解除する.ウクライナ政府も,ロシアが東部から撤退することを勝利と呼ぶ.
Project Syndicate APR 10, 2014
The
West’s Financial Arsenal
HAROLD JAMES
ウクライナの革命とロシアによる違法なクリミア併合は,ヨーロッパの安全保障に危機をもたらした.しかし,西側の指導者は,これに対して新しい金融戦争を準備している.それが状況をさらに悪化させるだろう.
l オバマ外交の崩壊
FT April 6, 2014
Obama’s
attention deficit diplomacy
By Edward Luce
アメリカが抱える危険とは,中国がアメリカの地位にとって代わることではない.中国はまだそれを望まない.むしろ,アメリカがその役割から放免されないことである.ウラル山脈から南シナ海まで,多くの兆候はアメリカの力が衰えていることを示している.
オバマ外交は焦点を欠き,ワシントンの政治は行き詰まっている.かつて世界のために国連やIMFという国際機関を作ったが,ワシントンがIMF増資を拒否したことに,主要諸国が憤慨している.そして,アメリカに改革できなければ,他のどの国にも改革できない以上,世界には,地域の攻撃的な大国と,衰弱する覇権国しかいなくなる.
l 経常収支不均衡の理解
Project Syndicate APR 8, 2014
A
Surplus of Controversy
KENNETH ROGOFF
アメリカ財務省がドイツの経常収支黒字を批判したとき,そこには重大な意見対立があることを理解していなかった.黒字批判は,ドイツに世界需要を増やすように求めた.しかし,ドイツは自分たちの黒字がヨーロッパの安定にとって欠かせない,と考えた.
一国の輸出と輸入に生じる差額は,多くの要因が関わっている.景気純化,人口動態,投資機会,分散投資,さらに政府の財政黒字に対する執着,など.
アメリカの政策担当者たちも,2000年代になって初めのころは,アメリカの投資機会に世界の貯蓄が集まる,と経常収支赤字を正当化していた.しかし,その後は,分散投資の欲求,安全性,流動性が,グローバルな資産として優れているからだ,と主張した.それでも過度の債務による家計の消費は危険な兆候を示していた.
欧州委員会はこの問題で報告書を作成したが,黒字の要因を特定できず,それでもドイツに政府及び民間の投資増を説得した.北欧諸国が小売業の規制を緩和すれば,不均衡の是正に効果があるはずだ.
ドイツが自分たちの黒字をヨーロッパの安定化に重要だと主張するのも正しい.もしドイツの黒字が無ければ,ECBの決断も市場を安心させることはなかっただろう.
要するに,不均衡は監視しなければならないし,その要因を分析することは重要だ.しかし,過度の単純化は,刺激策も緊縮策も万能薬ではない.不均衡の背後には,債務,硬直性,低投資,競争力,などに問題がある.
******************************
The Economist March 29th 2014
Rise of the robots
Robots: Immigrants from the future
Banyan: On the antlers of a dilemma
The economy: On cloud nine trillion
Free exchange: Pricing the surge
100 years after 1914: Still in the grip
of the Great War
(コメント) 表紙に描かれたロボットたちの活躍する世界を読めると思いましたが,中身は違いました.ポイントは,ロボットが普及し始めた,ということでしょう.何より,人間型の多機能ロボットが,スタンダードの組立式になって安くなる.ロボット工学の専門家でなくても,だれでも新しい利用方法を開拓できる.GoogleやAmazon,個人の富裕層が積極的に投資を始めた.戦争におけるDrone,日本における介護ロボット,なども活躍している.「未来からの移民たち」と私たちが共存する社会のルールは,まだ,何もわかりません.
台湾の馬英九総統のジレンマが紹介されています.韓国や日本も共感するでしょう.そして,貯蓄過剰の,「リーマン・モーメント」を議論されている中国経済に関して分析が続きます.
第1次世界大戦から100年を記念した本が多く出版されて,そのいくつか重要なものを紹介しています.「戦争」を考える視点が,複雑で,不完全で,相互に影響し合い,それを独自な,自分に有利な解釈として宣伝する者たちと事件に立ち向かう,歴史家たちの情熱を感じます.
******************************
IPEの想像力 4/14/14
週末なので,『グッバイ,レーニン』を観ました.東ドイツの崩壊を,逆から描いた作品です.
逆というのは,何とも不思議です.東ドイツは,その理想を実現した労働者の楽園であり,西ドイツの悪辣な資本主義に勝利します.西側の労働者たちを助けるために,東ドイツの指導者が西ドイツ難民たちに国境を開放したのです.労働者たちはベルリンの壁を倒して,西から東に流入します.
そんなバカな・・・? という作品ではありません.もちろん,現実にはベルリンの壁を壊して西側に吸収されたのは東ドイツでした.しかし東側で,主人公である青年の母親は,抗議デモに参加していた息子を観て,ショックで路上に倒れ,意識不明になります.その後,だれも予想しなかった,こうした事件が起きたため,壁が崩壊したことも知りません.意識を回復しても,強いショックを与えては命が危ない,と医者に警告されます.優しい息子は母がショックを受けないように,この変化を隠し,隠しきれなくなったとき,映画好きの友人と,タクシー運転手になっていた,国民的英雄の元宇宙飛行士に頼んで,東側の理想が勝利したニュースを彼女に見せました.
この話では,東西の社会が対照されています.たとえば,東の陳情書より,西の市場メカニズムの方が優れています.おそらく,そういう意味でしょう.母は熱心な共産党員で,理想を持ち,人々に代わって党に陳情書を書き送っていました.今では貨幣がそれを代弁します.東ドイツの店や工場はほとんど潰れてなくなり,母が好きだったピクルスも含めて,西から別の商品が流入し,彼のような,仕事の無い若者を西側の企業が雇います.
彼が西ドイツに行ったときに見た,強烈なポルノ・ショップもそうです.人間も,欲望も,何でも商品になる.そして(しかし),きれいな看護婦のポーラを彼は好きになり,やたらに騒々しい昆虫姿のロックバンドが目立つ店で初デートします.心は金で買えません.
西ドイツのマルクを得た人々の歓喜と楽観は,政治的なショーでした.しかし,母の貯蓄(ヘソクリ)をようやく見つけたのに,それが間に合わず,西ドイツのマルクに交換できなかったときの彼の落胆と悲憤.東ドイツの貨幣は紙くずになって,屋上で投げ捨てるしかありません.
東ドイツの元宇宙飛行士は名誉を失いました.おそらく,多くの善意の公務員や労働者も,貯蓄や社会的地位,職場を失ったのです.彼と友人が作ったニュース番組では,ホーネッカーが退任し,元宇宙飛行士が首相となります.彼は就任の挨拶として,宇宙飛行士の目からは国境など存在せず,私たちの理想は西の労働者たちと共有できる.国境を開放しよう,と呼びかけます.
・・・・・
Reviewを書きながら,東北に移民や難民が集まって,小さな,新しい町を建設する,という震災からの社会再建を考えました.日本各地の老人会も,元気な入植者を募集します.なぜなら彼らこそが,日本語,日本の習慣・社会的ルール,農業や水産業の基本を教えて,未来の世代のために,一緒に理想の社会を築くからです.
あるいは,内外の意欲ある若者たちを集めて,ロボットに関わるさまざまな新しいビジネスを起こす,ハイテク産業都市を東北に創ります.初等教育から,社会人教育まで提供し,日本を愛し,日本社会を信頼する,積極的な移民や難民の家族を定期的に(例えば,3年ごとに)受け入れます.紛争地域では,極端な貧困,学校・病院など,社会インフラの破壊,厳しい迫害に人々が苦しんでいます.日本で,彼らの生きる力を活かします.
・・・・
『ブレア回顧録』で,トニー・ブレアは書いています.「人々は機能する政府,とりわけ変革をもたらす能力を持つ政府を欲している.・・・開放的な心の持ち主は新しい考え方と変化を受け入れ,進歩のための可能性とみなす.」 「21世紀は,天性のものであるにせよ,教育によるものにせよ,変化する世界に対して開放的であり,近代化し,新しい考え方をする用意がある人のものだ.」
******************************