IPEの果樹園2014

今週のReview

3/31-4/5

 

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プーチンのクリミア併合 ・・・国民国家と安全保障 ・・・ユーロ圏の改革 ・・・中国の難しい転換点 ・・・安倍と黒田 ・・・国際紛争の早期仲裁システム ・・・グローバリゼーションの不確かさ

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  プーチンのクリミア併合

FT March 21, 2014

Look to China for wisdom on dealing with Russia

Kishore Mahbubani

西側の地政学的な失敗がこの10年間を通じて目立っている.イラクとアフガニスタンに膨大な軍事的・金融的資源を費やしたにもかかわらず,その介入は失敗であった.3年前,オバマは,「シリア国民のために,アサド大統領は辞任するべきだ」と語ったが,今もアサドは権力を握っている.今度はロシアを追い詰めて,中国に近づけてしまう.

オバマ大統領の声明は失敗の理由を示している.彼は「ロシアが歴史の間違った側に立っている」と述べた.そして,西側が正しい側に立つ,というわけだ.本当にそうなのか? これからの数十年で,西側の衰退ははっきりするだろう.世界の人口や経済力でその影響は低下し,政治的にも軍事的にも衰退していく.

西側は,自分たちの衰退をどのようなうまく管理できるか,それを考えるべきである.第1に,イデオロギー的な民主化の十字軍を止めることだ.ウクライナの混乱は,街頭の反政府運動が政治的妥協を受け入れないような励ましを受けたことによる.キッシンジャーが認めるように,ロシアがウクライナに対して持つ死活的な利害関係を求めるべきである.

2に,もっとロシアを受け入れることだ.西側メディアはロシアやプーチンの権力乱用ばかりを伝えるが,西側はゴルバチョフにNATOを東に拡大しないと何度も約束したが,それを破った.今,ロシアの指導者が,クリミアに西側の艦隊を入れない,という約束を信用しないのも当然だ.そして,台頭する中国に対して,ようやくバランスを取って譲歩するようになった西側も,ロシアに対しては何も認めずに制裁を科す.その姿勢がロシアを中国の側に追いやるという大きな失敗を招いている.西側の地政学的思考はこれほど失われたのだ.

3に,西側はもっと中国から学ぶことだ.中国の台頭は,世界秩序を脅かすことなく,2大国の1つになった.中国は南シナ海,東シナ海,インド洋で紛争を抱えているが,戦略的に自制している.何より,世界で最も軍事衝突を懸念されている台湾海峡を,平和的に管理してきた.

衰退する側こそが自制を必要とするにもかかわらず,台頭する中国が自制を行うのは皮肉である.西側はもっと自制を学び,地政学的な失敗を減らすことだ.

Project Syndicate MAR 21, 2014

Reckoning with Russia

CHRISTOPHER R. HILL

外交をマニ教的な善悪2元論で判断してはいけない.ここは道義的な判断を下すところではない.

第1に,ロシアが自国のクローニー資本主義を守るためにナショナリズムを利用した.プーチンは国民を扱うのにポピュリズムへ傾き,もっと明確に世界市場に統合する選択肢を取らなかったのだ.今のロシアは資本主義と国家主義の両方のマイナス面を合わせて示す.エネルギー資源も,構造改革の機会から「呪い」に変わった.

ロシアがベネルクスや北欧諸国になるとは思わないが,西側との関係で,自国のアイデンティティを指導者は問われている.

ウクライナにも責任がある.主権国家は,国民を豊かにする有能な政府と政治システムを持たねばならない.ところがキエフは,ソビエトから独立して,23年間も汚職と政治危機を繰り返した.豊かな自然資源と人口があるにもかかわらず,ウクライナの経済は停滞している.

ロシアが隣国であることは,難しい関係をうまく維持する必要を増すだけで,失敗の理由にはできない.クリミアの複雑な歴史的経緯も,ロシア人が過敏になる重要さも,ウクライナはよく知っていたはずだ.

EUが結ぼうとした条約や,アメリカの外交専門家たちが関与した中身は,問題を悪化させる拙劣なものであった.自分たちの国内政治で判断することは,ウクライナのためにならない.

たとえロシアに制裁を科す議論が強くても,ロシアを国際社会に取り込む歴史的な課題は続けられる.シリアも,北朝鮮も,アメリカはロシアと協力するからだ.外交を動かす者には,善悪ではなく,賢明さが必要だ.

FT March 23, 2014

We require a strategy not just a reaction to Russia

By Philip Zelikow

クリミア危機に対してロシアに対する制裁が議論されている.しかし,これは戦略ではない.戦略とは,明確な目標を決めることから始まる.

西側の戦略は,クリミアをウクライナに取り戻すことを目標にしてはならない.アメリカの元モスクワ大使Michael McFaulは,1940年にソ連がバルト諸国を併合したケースに比べているが,それは賢明ではない.2つのケースは大きく異なる.

西側の専門家も,実際は,1990年代の合意が,黒海艦隊を守るための,表面的なものでしかなかったことを認めている.また,1954年のフルシチョフによる気まぐれな政策も,ソ連が支配する共和国間での,領土変更であった.クリミアがナチス・ドイツから解放されたときから,フルシチョフはその地域の共産党のボスとして,タタール人が追放された後に,ウクライナ農民をほしがっていた.

冷戦後の秩序を変えないという意味で,西側はこれ以上の東欧の領土変更を認めない,ということを目標にするべきだ.短期的には,非合法な行為,国際的規範からの逸脱がロシアに利益を与えないように制裁を科すべきだ.また,短期的には併合を承認しないだろう.しかし,長期的には,ロシアが共通の安全保障システムに戻るのをより大きな外交的理解の中で,承認するだろう.

ロシアとの合意? プーチンを信用できるのか? それはありえない,という議論が出る.しかし,これは信頼の問題ではない.ウクライナと近隣諸国の状況は悪夢である.安全保障の構造が樹立されねばならない.国境の理解がその中心になる.同時に,政治・経済・軍事面でウクライナを支援する.その際,ウクライナの情勢を厳しく調査するべきだ.

ウクライナを「中立化」,もしくは,「フィンランド化」する提案があるが,それはよくない.ウクライナの行動や性格に関する合意に諸大国は関与すれば,当然,条件が求められる.たとえば,「少数民族の権利」だ.そして,大国が緩衝する口実になる.

ロシアも,周辺諸国から孤立し,憎しみを高めたままより,関係を修復する国際合意を必要とする.国境だけでなく,核兵器,債務,資産,エネルギーに関して,安定した関係が必要だ.ウクライナもそれを望むだろう.

西側は将来の交渉テーブルを準備する.

Project Syndicate MAR 24, 2014

Ukraine and the Crisis of International Law

JEFFREY D. SACHS

アメリカも国際法を無視し,安保理決議によらずに戦争し,主権を無視して介入し,ドローンで外国における殺害を指揮してきた.国際法を実施する強制力はなく,そのようなものを信用するのはナイーブである,としばしば誰もが主張する.

しかし,大国間に均衡など成立せず,平和を大国に委ねることも極めてナイーブである.これまでも重要な資源をめぐって軍事介入するケースは繰り返され,何らかの法律がなければ事態は悪化し続ける.第1次世界大戦の100周年にあたって,国連による紛争解決だけが正しい答えであることを認める必要がある.

Project Syndicate MAR 24, 2014

Putin the Great

DOMINIQUE MOISI

将来,ロシアの町にウラジミール・プーチンの銅像が建つかもしれない.「クリミアをロシアに取り戻した.」 しかし,多くのヨーロッパの広場にもプーチンの銅像が建つだろう.そこには「ヨーロッパ合衆国の父」と記される.プーチンの迅速なクリミア併合劇は,2国間や複数国で繰り返される多くの懐疑よりも,ヨーロッパ諸政府の見解を調和させる上で有益であったからだ.

NYT MARCH 27, 2014

Obama’s Anemic Speech in Europe

Roger Cohen

オバマはブラッセルで演説し,ロシアが隣国に振るう暴力を抑えるためにも「断つことのできない」大西洋同盟の重要さを称えた.20世紀のヨーロッパを振り返り,米欧を結びつける自由とさまざまな思想を,専制や「野蛮な力」と対比した.プーチンにはグローバルなイデオロギーがなく,これは新しい冷戦に入ることを意味していない,と注意した.

問題は,その命題が真実ではない,ということではない.アメリカとヨーロッパは今も,貧しい,孤立した社会にとっての理想である.イラク戦争の方がいくらか擁護できる,ということでもない.問題は,オバマがもっと正直になるべきだ,ということだ.

ヨーロッパで膨れ上がる失業者,ヨーロッパ議会に登場する移民排斥の極右政党,ユーロ危機とその封じ込めに失敗し,動けなくなったヨーロッパの統合計画,分配の不平等,各地に広がる中産階級のディストピア,公平さを欠いた選挙プロセス,両極分解したアメリカ民主主義,数週間で8000億ドルを稼ぐアメリカの重役たち,労働者たちの賃金の低落,可能性を閉ざされた若者たちの失望感,など.

オバマは政権内で軽視されたヨーロッパへの関心を回復し,アメリカとヨーロッパの民主主義を復活させるために,どうすればよいかを示すべきだった.


l  国民国家と安全保障

FT March 21, 2014

Has the nation state had its day?

By Gillian Tett

週末に休暇でアルプスのいとこを訪ねた.スイスのカントンGraubündenにある,Val Müstairという村に住んでいる.そこでは国民国家など無意味だった.

私のいとこの元来の言葉はロマン語だが,叔父と叔母はフランス語で会話し,だれもがドイツ語とイタリア語を上手に話す.その家は技術的な意味でスイスだが,オーストリアとイタリアにも近く,道を少し行くとイタリアの村になる.

複雑なエスニックの背景から戦争が絶えなかったが,近年はうまくいている.それはスイスが裕福で,小さく,通商の要路であるからだろう.そして決定的なことは,ここではだれも「国家」がエスニックなアイデンティティや言語の伝統を必要だとは考えないからだ.「スイスは国民国家ではなく,利益の協力体制だ」と叔父は言う.

実際,国民国家という考えは歴史的に最近の変異である.人々は歴史上,さまざまなエスニックを含む帝国や都市国家に組織されていたし,あるいは,小さな地方国家や,中央アジアのような部族によって分かれていた.19世紀になって,「国家」は「民族」によって分割するべきだ,という考えが現れた.

社会学者Ernest Gellnerは,「民族」が偶発的な現象であり,普遍的な必要物ではない,と主張した.歴史家Eric Hobsbawmは,「国家」が「民族」を創ったのであり,逆ではない,と述べた.要するに,世界地図を観れば,国民国家など役に立たないとわかるはずだ.

解決策はあるのか? ・・・それは,国民国家などに囚われず,マルチ・エスニックな政治構造を創ることだろう.連邦制により,意思決定をさまざまなレベルで適切に分ける.多くの場合は国民国家より小さな地域で民主的に決めるのが望ましい.問題によっては,グローバル化したビジネスの時代に応じて,サイバー・コマースのように国民国家よりも大きな国際機関で決める.

しかし21世紀の皮肉は,ますます国境線が無意味になるのに,ナショナリズムが強まっていることだ.ロシアでもウクライナでも,ナショナリズムが拡大主義を強めている.そして,マルチ・エスニックで成功しているスイスのような国は,極めて珍しい.

FP MARCH 24, 2014

Would You Die for That Country?

BY STEPHEN M. WALT

支援することと,安全保障の約束をすることは,全く違う.ウクライナが西側に入りたいと強く願うなら,欧米は彼らを支援し,融資し,通商協定を結び,EUNATOに参加させるべきだ,と議論する.それは,同盟,を誤解している.

同盟とは,安全保障を共有することだ.軍事力や外交政策で協力し,互いの安全保障を高める.NATO条約の第5条は,アメリカが他国を守るために市民を派遣し,その国の防衛のために命を懸けると述べている.他国がアメリカによって防衛されることを望むかどうかではなく,アメリカがその国を守る利益を認めるかどうか,が問題だ.

それゆえ,アメリカは同盟国を慎重に選んだ.他国の戦争に巻き込まれるのを避けることが重要だった.アメリカは(ヨーロッパと違い)他の大国から離れており,北アメリカに能力を集中することが正しかった.唯一,ユーラシアで勢力均衡が破壊されたときだけ,主要な同盟国を守るために戦争に加わった.

確かに,ソビエト連邦と対峙した冷戦下で,他国が戦争を遂行する能力を欠いているとき,アメリカが安全保障を一方的に担うことがあった.それでもアメリカの指導者たちは,George Kennanがヨーロッパとアジアにおける工業力の基軸と呼んだ国に,に同盟関係を限定したのだ.しかも,同盟国に対して,その外交政策の変更を強いたり,説得したり,強い圧力をかけたりした(英仏帝国支配の破棄,イスラエルのスエズ危機,西ドイツ・韓国の核武装阻止).

冷戦終結により,アメリカの指導者は,外交や安全保障を慈善活動のような感覚で誰にでも拡大した.NATOの新しい同盟国が,安全保障や経済的利益をアメリカにもたらさないことも無視した.そして,アメリカ市民たちは,遠くの,混乱した国で,共通の安全保障を維持するために命を懸けることについて,尋ねられなかった.

ウクライナは,破たんした経済に苦しみ,重要な資源を持たない,エスニックの分断が深刻な,腐敗した政治システムを持つ国である.アメリカにとって何も戦略的な重要性を持たない.そして長期的に見て,ウクライナはロシアとの重要な関係を安定しなければならない.それはロシアにとっても利益である.アメリカにとって,本当に重要な,安全保障上の挑戦国は中国であり,中国の戦略家たちはワシントンの自滅を笑っているだろう.


l  ユーロ圏の改革

VOX 21 March 2014

TARGET balances, Bretton Woods, and the Great Depression

Michael Bordo

ユーロ圏内の国際収支不均衡を維持するTARGETは,何に向かうのか? 1968-71年のブレトンウッズ体制崩壊に似ている? 体制内の1967年のポンド切下げに似ている? あるいは,大恐慌期1933年のアメリカ銀行危機に似ている?

ブレトンウッズ体制とユーロ圏とが決定的に異なるのは,中央銀行間の決済システムTARGETが制度化されたことだ.ケインズが同様の決済システムを望んだが,拒まれた.もしそれがあれば,ブレトンウッズ体制は異なる経過をたどっただろう.

むしろ,ユーロ圏内の不均衡は,大恐慌のアメリカで南部や西部から金が東部に流出した危機と似ている.それは何千という小規模な銀行を倒産させ,東部のマネー・センター,特にニューヨークの地位を確立した.それはF.D.ルーズベルトの銀行休日によって終わった.TARGETはこの歴史的教訓から学んだ制度であり,その成果である.


l  中国の難しい転換点

FT March 25, 2014

China’s struggle for a new economy

By Martin Wolf

今年のChina Development Forumに参加して,中国政府が経済の減速を管理する力を持ち続けることは難しい,と感じた.

成長モデルのさまざまな限界が明らかになっている.The “Decision on Major Issues Concerning Comprehensively Deepening Reforms”を政府は決めて,高成長経済の転換を進めている.それはすべて西側の参加者も認める内容である.しかし,中国の不均衡は極端に大きい.国内消費はGDP35%でしかなく,成長は投資に頼ってきた.それは過剰生産力と過剰債務をもたらしている.中国の経済規模からみて,貿易で緩和することもできない.成長を減速する過程でそれらを整理するが,不動産バブルなど,円滑に管理することは難しい.


l  安倍と黒田

FT March 24, 2014

Japanese debt: Still climbing

By Ben McLannahan

ファンドマネージャーであった藤巻健史は,日本の国債累積がハイパーインフレーションになる,と予告する.しかし安倍晋三首相は,債務を返済するにはデフレを脱し,成長が必要であるから,刺激策に転換すると主張した.つまり,債務を増やし続けている.

債券市場がいつまでこれを許すのか? 黒田日銀総裁が銀行に資金を流し込む限り? では,2%のインフレ率を達成したら,どうなるのか? 財政再建は中長期の計画だが,その目標を政府は守れなかった.1945年には戦争であったが,今では社会保障費を支えるために,政府は中央銀行を利用している.


l  国際紛争の早期仲裁システム

The Observer, Sunday 23 March 2014

Our war-torn world needs a new mediating body to resolve conflicts

Gabrielle Rifkind

制度が,戦争を決めたり,人を殺したりすることはない.それは個人がすることだ.権力や資源に関する紛争の起源を知るには,人間行動を知らねばならない.

シリアの紛争は3年に及び,死者約12万人,難民250万人,国内避難民は650万人に達する.Kofi Annanが仲介者を送ったとき,死者は6000人だった.Lakhdar Brahimiが到着したとき,3万人が殺されていた.それでも人々は和解を求めるより,血の報復を求めた.

戦争の暴力は社会の精神を侵す.恐怖,激怒,恥辱がすべての合理的な判断を妨げ,感情を支配する.人々は合理的に,感情を抑えて,最善の利益を実現することができなくなる.こうした感情が精神を支配する前に,早期の仲介が重要である.もし国際紛争に,早期の警戒と仲裁を行う包括的なシステムがあれば,権力政治と個人的感情の複雑さは抑えられるだろう.

仲介者が正当性を得るために,彼らは信頼される独立したグループで,仲裁する諸国を代表しており,政府の意思決定にもフィードバックできる人々である.彼らは政治的な地位に縛られておらず,積極的に対話し,公式の官僚制度や法に縛られず,迅速に行動できる.

新しい仲裁機関は,異なる競合したナラティブの存在を認める.それは外交的な奇跡ではなく,紛争が両極化する前に,グローバル・オンブズマンとして,舞台裏で行う静かな作業である.


l  グローバリゼーションの不確かさ

FT March 27, 2014

How the best of times is making way for the worst

By Philip Stephens

グローバリゼーションに不可避のものなど何もない.第2次世界大戦後のように大国間の平和が維持されると思えば,ロシアのような武力による国境変更を許してしまう.中国と近隣諸国との紛争は,経済的相互依存がナショナリズムを抑制するという望みを打ち消した.

あれほど祝福されたグローバリゼーションが,新しい不安と戦争の源になっている.1914年から100年を経て,第1次世界大戦の始まりを学ぶ者が再び考察する,移行期における国際システムの不安定性である.そこには楽観と悲観が併存する.世界の貧困を数億人も減らしたが,グローバル・パワーの再配分は国際システムを動揺させている.

礼儀正しい会話には出さないが,中国の脅威に対して日本や韓国が核武装するのは時間の問題だと思われている.しかし,1914年のドイツは,2014年の中国の行動を説明できない.むしろ,中国は,カリブ海からイギリス海軍を追い払ったセオドア・ルーズベルトに近いだろう.

国際システムには重大な移行,パワーの再配置,が重なって起きている.20世紀の初めにも,帝国が解体し,エスニックなナショナリズムが広まった.グローバル・パワーがヨーロッパからアメリカに移行した.グローバリゼーションは経済的保護主義に代わった.

今も,パワーは大西洋から太平洋へ移行し,西側は200年のヘゲモニーを失っていく.また国家の内部で,政府やエリートから民衆にパワーが移行する.グローバルな中産階級や,情報通信革命が政府に対抗する力になる.予測可能なシステムから,アンカーの無いシステムに移行する.グローバリゼーションで経済競争が激しくなるほど,政治は攻撃的なナショナリズムを利用する.

すべては決められたものではなく,われわれが選択する.

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The Economist March 15th 2014

The new age of crony capitalism

Russia, Ukraine and Crimea: Asymmetric wars

Russia and Ukraine: The home front

The South China Sea: Troubled waters

(コメント) 新興諸国では金ぴか時代のアメリカが再現され,旧世界にもグローバリゼーションの超富裕層が増えました.彼らが動かすのは政治的なコネクションで保護や独占を富に換えるクローニー資本主義である,と批判します.しかし,アメリカがそうであったように,それは改革運動によって終わるだろう,とも.

ロシアは,クリミアを併合し,ウクライナを弾圧することで,ロシア自身の改革する道を閉ざしてしまいます.記事はウクライナやロシアの改革を促すミニ・マーシャル・プランを求めますが,それこそ安全保障の安売り,慈善活動ではないか,と戦略家たちの非難が起こりそうです.両者の対立は,時間の長さではないか,と思いました.

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IPEの想像力 3/31/14

日本の政治指導者として,安倍首相が,大企業に賃金の引き上げを求めても,女性の地位向上を唱えても,アフリカへの援助増額や,東北と福島の被災者に対する国の責任を強調しても,私は喜べません.彼が労働者の味方で,女性の権利を高めたい,アフリカの貧困や内戦を終わらせたい,被災者の苦しみを分かち合い,原発事故の反省を政策に生かしたい,と考えていないからです.「羊の皮をかぶった狼」を思わせます.

民主主義の国である日本は,指導者を交代させるべきだ,と思います.

安倍晋三が自民党の総裁となり,首相となったことは,これまでの首相交代と違う意味を帯びていました.そのときから,強靭国家化や憲法改正による中国との対決姿勢,愛国心教育や靖国参拝・史観で戦後日本の体制転換志向,アベノミクスによるデフレと債務依存の克服意欲,などが非常に明確になりました.

安倍首相の存在は,内から見た愛国主義と外から見た軍国主義とが重なり合い,経済改革によって日本国家の改造を始めることになりました.それが選挙による有権者の願いであったとは思いません.しかし愛国心の強調は支持され,中国の脅威は注目され,経済改革は,少なくとも,これまでの不満を吸収したと思います.

安倍首相の再登場に見る積極的な意味は,日本が国家として何を担い,何を目指すのか,という問題を明確に政治の主要テーマとしたことです.内外の環境が根本的に変化しているとき,政治が機能するためには,この問題を議会において代表たちが積極的に議論し,国民に合意形成を促すことが重要です.

しかし,大きなマイナス面があった,と思います.彼は議論を促すより,首相の地位を利用して自分の理念を実現すればよい,他の問題や条件を道具として利用することは正しい,と考えているからです.NHKの会長人事が示すように,政治は私物化され,国会がクリミアのように見えます.

日本の首相が安倍晋三でなければ,政治や外交は多くの新しい選択肢を得るでしょう.ベルリンの壁が倒されたときのように.

多くの点で,安倍内閣の姿勢は間違っていると思います.日本の軍国主義を非難されたとき,指導者がこれに正しく応えなければ,軍国主義を擁護する者として,その復活を懸念されるでしょう.戦後の平和国家としてのイメージを根本から損なった内閣が,軍備強化や憲法改正による戦争の復活を「積極的な平和主義」と呼ぶのは矛盾しています.真剣に議論しなければならない重要な問題が,こうして言葉を封じられていくと思います.それゆえ,首相を交代させるべきです.

彼でなければ,日本は,もっとアジア諸国に対して共感や友好関係を育てる姿勢に転換できます.従軍慰安婦や南京大虐殺が責められるとき,それを歴史上の事件として,現在の日本人と区別するなら,戦争においても国際法や人道的な規範を逸脱した者を厳しく糾弾することができます.また当時の政府が関与した政策や制度を,アジア諸国とともに検証し,理解を得ることもできます.

彼でなければ,日銀はもっと国際協調を重視し,アジアでも中国や韓国と一緒に金融システムの改善を図れるでしょう.為替レートの安定的な調整や,バブル,金融危機の回避に,日本が中央銀行間の協力を呼びかけることができるはずです.アベノミクスという愚かな俗称が,マクロ経済政策や社会保障システムの改善,財政再建をめぐる国民の対話を阻んでいます.

郷土愛や愛国心,利他主義,公共心,は重要ですが,他国の愛国心にも同じ敬意を払うことができます.日本の軍国主義や植民地支配に対して戦った人々に,新しい指導者が,哀悼のために,真摯な気持ちで献花してはどうでしょうか?

アメリカが日本のために共通の安全保障を守ることは,ポーランドやウクライナで議論されているように,基本的な価値や共有する利害を守ることだ,と国民同士が納得しなければなりません.安倍首相が普天間基地や日米安保同盟,TPPを大きく前進させるとしても,アメリカはそれを喜ばないでしょう.それは,彼の戦争にアメリカを巻き込むからです.

彼は,現実の世界を自分の理念でしか見ていないから,この破滅的な状況に歓喜するのです.

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