IPEの果樹園2014
今週のReview
3/24-3/29
*****************************
プーチンとクリミア危機 ・・・景気は改善するか? ・・・トニー・ベン ・・・中国と内外の新局面 ・・・TPPとグローバリゼーション ・・・日本の歴史教科書と福島 ・・・国際移民政策 ・・・国際通貨の交代理論
[長いReview]
******************************
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l プーチンとクリミア危機
The
Guardian, Friday 14 March 2014
Let
Georgia be a lesson for what will happen to Ukraine
Mikheil Saakashvili
非合法な「住民投票」の後,ロシアは独立を承認し,ロシア軍が入る.さらに軍を増強し,プーチンは本格的な攻撃を開始する.・・・なぜ知っているか? 私がグルジアで経験したからだ.
今,プーチンとそのチアリーダーたちは,ロシアがウクライナに正当な利害を持つと主張している.ロシアがグルジアを攻撃する前に,ロシア人の保護を主張したように.しかし彼らは事実を無視しているようだ.ウクライナ東部では1930年代,スターリンの支配下で,人工的な飢饉,いわゆるGolodomorにより700万人を殺害したのだ.反抗的な住民を,より忠誠心に富む住民に入れ替えるためだ.クリミアでは,ロシアは現地のタタール人を追放し,ロシア人の数が増加した.たとえタタール人が父祖伝来の土地を回復することがあったとしても,歴史的な多数派には戻れない.
もし西側がグルジアの危機に正しく対処していたら,ウクライナの危機は起きなかっただろう.
ロシア・グルジア戦争のすぐ後に,ドイツのイニシアティブでEUは調査委員会を設けた.それはロシアとのビジネスを再開するために行われた,というのが事実であろう.
振り返れば,プーチンは同じような軍事的冒険をヨーロッパの中心部に向けて行った.西側では,ウクライナの危機もビジネスが回復すれば吸収できる,と願うものが多い.しかし,宥和のサイクルは急速に早まるのだ.プーチンが政権にある限り,不安定化は増す.彼は領土的な征服を権力の若返り,長寿の手段にしている.
SPIEGEL
ONLINE 03/14/2014
Parallels
to 1914?
What
History Teaches Us About the Ukraine Crisis
By Christopher Clark
地政学的な状況は全く異なる.1914年は,ヨーロッパの中心に2つの大国(独仏)と,東西の周辺に3つの帝国(英露オーストリア)があった.今は,西側と中欧諸国が同盟し,ロシアのウクライナ介入に抗議している.また1914年の野心的なドイツ皇帝と,今のEUとは全く異なる.
1853-56年のクリミア戦争は比較に適している.少なくとも「西側諸国」がロシア帝国の冒険に反対した.しかし,過度の類推は間違いだ.当時,西側諸国は,ロシアによるオスマン領の略奪が中東や中央アジアを不安定化し,英仏の世界帝国の安全保障を損なうと心配した.しかし今や,すでにオスマン帝国は存在しないから,帝国間の不安定化メカニズムは作用しない.ロシアとかつての衛星国との孤立した紛争でしかない.
1654年以降,次の1世紀半をかけて,ロシアのウクライナ東部とコサック領の併合は進むが,それはピョートル大帝から続く南下政策の一部であった.ロシアの領土拡大は何世紀もかけて行われた.現在のウクライナで起きている統治不能の革命や市民反乱は,それと全く異なる現象だ.それはむしろ1640年代のイギリス市民革命に多くの類似点がある.自信を強めた議会に国家の最高権力者が挑戦された.チャールズ1世が逃亡したように,ヤヌコビッチも行方不明になった.
現在の危機の深刻さは,こうした全く異なるナラティブ(物語・説明)が併存していることにある.さらにソビエト連邦崩壊後の複雑な事情が加わる.EUはウクライナの民主化に深く関与してきた.それに反して,グローバルな勢力均衡に集中して安定化を目指す軍事同盟としてのNATOは,クリミアの紛争を1850年代の紛争と同じように見ている.2008年,グルジアとウクライナのNATO加盟をアメリカ,ポーランド,バルチック諸国が提案したが,独仏が反対した.それは1854-5年の反ロシア同盟にプロシアが参加を拒んだことに似ている.
バルカンが第1次世界大戦の発火点となったようなシナリオは,現在,存在しない.
NYT MARCH 15, 2014
The
Three Faces of President Obama
Thomas L. Friedman
クリミアからウクライナ東部にプーチンが危機を拡大するのを防ぐには,何よりもキエフ政府が統一していることだ.EUを目指す者とロシア語を話す人々が分裂している限り,ロシアはウクライナを利用する.だからオバマは3つの重要問題に答えねばならない.1.ロシア政府の性格を変える,2.イランの核保有を防ぐ,3.南シナ海での中国と日本の軍事衝突を防ぐ.
ロシアに関して考える.その答えは,NATO拡大ではない.なぜなら今も,アメリカはロシアとの協力によって解決すべき重要問題を抱えているからだ.ロシアがソ連復活を目指すのは歓迎しないが,ロシア人の偉大さは回復されるべきだ.プーチンはその目標と方法を間違っている.米欧は協力して,時間はかかるが,プーチン主義の母乳であるヨーロッパのロシア石油依存を減らすだろう.
最も重要なことは,われわれが民主主義を機能させることだ.アメリカの衰退や民主主義の機能不全という話は,世界が模倣するべき理想として,民主主義の魅力を消してしまう.政治学者のLarry Diamondが言うように,アメリカが民主主義を改革しなければ,それはグローバルな問題になる.
FT
March 16, 2014
Crimea
crisis is moment of truth for Europe’s global ambitions
By Peter Spiegel in Brussels
戦後の国際システムにおいて,EUは日本と同じように,戦略的な行動を取れなかった.危機が来たときは英米に決断をゆだね,軍事行動はアメリカの指揮下でNATOが行った.
クリミア危機はEU官僚たちを覚醒しただろう.グローバルな秩序再編において,短期の経済的利益を犠牲にしても長期のシステムを守る(そして築く)べきだ,すなわち,積極的に戦略的な行動を取るべきだ,と考え始めている.
かつてジャン・モネは,ヨーロッパが「危機において融合される」と述べた.それはユーロ危機で何度も言われた警句である.ヨーロッパが誕生するまでに数百万人が職を失うしかない.しかし,その前にウクライナの危機がそれを実現できるかもしれない.
FP MARCH 17, 2014
Don't
Poke the Russian Bear
BY GORDON ADAMS
アメリカの政治家やニュースや民主化の支援者が,アメリカにロシアとの対決を求めている.
しかし,これは民主主義の問題ではないし,併合でもない.攻撃や新冷戦でもない.ロシアがヨーロッパや中国やアメリカをどう見ているか,境界線の不安定性の問題である.
ウクライナ危機は国際システムにとって現実の一部である.特にユーラシアでは,400年以上もそうだった.しかし,多くの人々は情緒的に現実を観ないで投資する.
現実とは,ロシアがその周辺部で起きることに関心を持つ,ということだ.皇帝たちの時代から,侵略,占領,併合,転覆,何でもやった.大国がその周辺でやったことはよく似ている.
モスクワは冷戦を望んでいない.政府の形態が何であれ,近隣諸国が友好的であることを望む.プーチンは隣国をいじめるが,狂人ではない.「生存圏」を築くために大量虐殺を実行する独裁者ではない.
現実には,ウクライナがヨーロッパやアメリカの戦略的な同盟国になるのを,プーチンは受け入れない.狂気,攻撃的,汚い,と非難しても.アメリカ史を190年さかのぼれば,同じことが見つかる.西半球に新しい植民地を作るな,とヨーロッパに求めた.そしてメキシコ,カナダ,キューバなど,近隣諸国に介入し続けた.
同じような道義性を責められるのではないが,大国は地域に介入する権利を持っていると考える.しかも,親切や愛情によるのではなく,軍事力で介入する.
クリミア独立に対してアメリカやヨーロッパはほとんど何もできない.プーチンが権力を失うときが来たらと思う.ロシアがヨーロッパを受け入れて,ユーラシア全体が協力と統合化によって平和と経済的な調和のゾーンになるのを私も見たい.
しかし今は,それがどれほど醜いものであっても,現実に生きることだ.
Bloomberg MAR 17, 2014
Putin's
Eurasian Fantasy
By Pankaj Mishra
1945年以降の緊密な日米関係には,その不十分さや怨嗟が刻まれている.日本は非西洋世界でキャッチアップに成功した最も優れた例であるが,日本の役割やアジアにおける使命について,愛国主義的な考え方が,西洋風に見えても,安倍晋三のような政治家に示されている.
ロシア中心の見方であるユーラシア主義は,ロシアを西でも東でもない,モンゴルに起源をもつ国であると考える.あるいは,大ロシア民族主義.
9・11以上に衝撃的なことはないと思っているのだろうが,もし拡張する新ユーラシア主義が核武装したロシアに現れたら,イスラム原理主義も子供だましだったと思うだろう.
l 景気は改善するか?
NYT MARCH
13, 2014
Fear
of Wages
Paul Krugman
数か月前,西側世界の,影響力のある人々が,財政赤字は生存を脅かす危機であり,今すぐに解消するべきだ,と主張して緊縮策を支持した.あるいは,全ての人々が,まるで失業など見えず,労働市場がひっ迫して賃金が上昇したかのように,インフレを許すより今すぐに金利を上げろ,と話し始めた.
そもそも,賃金上昇は何が悪いのか? それを恐れる人々は1979年を考えている.当時は賃金と物価の悪循環が起きた.銀行家たちが好む,サド・マネタリズムの神髄だ.
しかし,今は違う.金利を今すぐあげるのは間違いだ.そんなことをしたら,10年の不況に至る,日本化は避けられない.賃金上昇が確かなら,それを歓迎するべきだ.
l トニー・ベン
The
Guardian, Friday 14 March 2014
Tony
Benn knew the rules but would not play the game
Gary Younge
彼は単に「何か」を信じたのではない.彼が明確に信じた何か,すなわち,社会主義を信じたのだ.彼は強者に抗して,弱者のために主張した.富者に対して貧者のために,資本に対して労働のために主張した.彼はわれわれが人として一緒に働くとき,個として敵対しながら働くときよりも効率的になると信じていた.そうした原則は,イギリス政治において長く絶滅の危機にさらされていたのだが.Bennはそれを生きながらえさせるために大いに貢献した.メディアの攻撃を受け,政治では隅に追いやられたが,彼は勇敢であった.そして,そうすることで,彼はわれわれを勇気づけたのだ.
l 中国と内外の新局面
FT
March 17, 2014
China
admits its ills but faces an unpalatable cure
By Minxin Pei
先週,李克強首相が,個々のケースでデフォルトが発生するのは避けられない,と記者会見で質問に応えた.しかし,それが孤立したケースにとどまるという楽観論を共有する者は少ない.過去5年間で,融資は年20%の増加を示し,成長率の約2倍であった.2008年以来,14兆ドルという途方もない額が,インフラ,不動産,工場に投資された.その大部分が投機的な不動産開発,無駄なインフラ,過剰な生産力であろう.
中国のマクロ経済は悪循環に陥っていた.低成長が過剰生産力を,さらに投機的な商品の価格下落を,甘い見通しで行われた成長を持続させるための大規模投資を増やすだけで,清算を先延ばしにしてきた.首相の答弁は,これまでのような政府の保証がなくなることを示す.
NYT MARCH
17, 2014
Beijing’s
Propaganda Crisis
By MURONG XUECUN
先月初め,Dongguan東莞市のセックス産業を中国中央テレビCCTVが特集した.隠しカメラを使って,ホテルやサウナ,酒場を映し,売春の天国であることを示した.放送の真の意味は,政府によるセックス産業の取り締まりだった.
しかし,その反響は非常に大きかった.選別的な報道,政府とのつながり,セックス産業の労働者に同情する声だった.「魂を売る者たちが,いつも,体を売る者たちを見下している.」
CCTVは国民の信頼を失ったことを認めた.しかし私は,国民がかつてのような国家によるプロパガンダを受け入れなくなったのだ,と思う.国民の目は開かれ,不満を述べることも恐れなくなった.インターネット時代には,政府の宣伝にますます多くの疑問が生じるだろう.
NYT MARCH 19, 2014
Sharing
Power With China
By HUGH WHITE
もしアメリカが日本と一緒に戦わないなら,日本政府はアメリカとの同盟関係に失望し,独自の防衛政策を求めるだろう.あるいは,中国の地域的覇権を受け入れることになる.また,その場合,他のアメリカの同盟諸国も自分たちの選択肢を再考し,アメリカの指導力は失われる.
オバマ大統領がアメリカの新しい方針を明確に示すしかない.オバマは何を言うべきか?
無条件に日本の主張を支持することは,アメリカに制御できない,そしておそらく勝利もできない戦争に巻き込まれる.逆に,単に中国が引き下がるとも思えない.中国はアメリカとの戦争を望まないが,有利な条件を手に入れたいと考える.アメリカの守るアジアの秩序を変えようとしている.中国にもハト派はいるが,彼らでさえ,中国はアジアの大国になると主張し,アメリカが優位を独占することを受け入れない.
どちらにしてもアメリカには良い選択肢がない.オバマが沈黙しているのもわかる.アメリカにとって尖閣をめぐって中国と戦争ことには意味がない.しかし,日本との同盟関係は維持したいし,アジア地域全体に対する指導的な地位を維持することも重要だ.
そこで,第3の道を考える.現状維持でも,中国の覇権でもない,新しいアジアの安全保障を制度化し,そこにおいて指導力を中国と共有するのである.しかし,それを通じて中国のパワーと均衡を取り,その行動をチェックする.紛争を解決するために軍事的な威嚇や戦争を許さない,という規範もそれに含まれる.
このような制度が実際にどのように機能するか,中国との交渉が必要であるが,歴史的にヨーロッパがそれを示している.1914年までの100年間,「ヨーロッパの協調the Concert of Europe」が平和を維持したのだ.それは主権の平等と,大国間のパワー・シェアリングによって築かれていた.
l TPPとグローバリゼーション
NYT MARCH 15, 2014
On
the Wrong Side of Globalization
By JOSEPH E. STIGLITZ
グローバリゼーションの間違った道へ向かう貿易協定を目指してはならない.アメリカ政府がTrans-Pacific Partnership, or TPPの合意を模索している.
TPP交渉は秘密に行われている.しかも,ファスト・トラック(早期一括)交渉権が与えられている.つまり,議会にはすべての是非以外にまったく交渉の余地がない.
TPPは,すべての者を犠牲にして,グローバルな富裕層だけに利益をもたらす懸念が強い.なぜなら,関税はすでに低いから,交渉の目的が各国の規制を撤廃することに向けられているからだ.多国籍企業は規制が非効率で,コストを強いる,と不満を述べる.しかし,たとえ不完全さを増しても,それには各地の理由(労働者,消費者,経済,環境の保護)があり,民主主義(市民の民主的な要求)に基づいている.
それは,単に,ハーモナイゼーション,国際的に規制を調和させると主張される.しかし,効率性を増すというより,それが企業によって進められるとき(つまり,大企業の利益を優先する政治家たちの秘密交渉),その結果は「底辺への競争」になる.環境規制,喫煙の規制,企業への補助金,金融危機の最も重要な原因となったデリバティブの販売,特許権によるジェネリック薬品の規制,など,多国籍企業が悪用するケースはすでに懸念されている.貧しい国だけでなく,アメリカ国民にとっても不利益になるだろう.
これは現代のアヘン戦争である.戦争によって,西洋列強は中国にアヘン市場の開放を続けさせた.彼らは中国にアヘンを売らなければ巨額の貿易不均衡を是正できなかったからだ.
それにもかかわらず,エコノミストの大多数を含めて, TPPや自由貿易を情熱的に支持する多くの人がいる.この偽物の,破たんした理論が流通し続けている理由は,それが最富裕層の利益になる,ということだ.
経済学は,貿易が勝者と敗者を生み,敗者に補償することで,皆が利益を受ける,と主張する.この結論は多くの仮定に基づいており,その多くが現実に反している.
リスクを無視し,労働者の滑らかな職場移動を仮定し,完全雇用を仮定し,グローバリゼーションで低生産性部門から高生産性部門へ労働者は移動すると仮定する.しかし今,アメリカには,フルタイムの雇用を望みながら,それを得られない労働者が2000万人いる.数百万人は雇用を探すことをあきらめた.
その理由は,総需要の不足や,銀行が投機的な利益を求め,中小企業に十分な融資を行わないからである.また,グローバリゼーションは間違って運営され,アウトソーシングによって雇用を貧しい国に輸出している.それが主要な理由で,アメリカの男性フルタイム労働者の実質所得は40年前よりも低くなっている.
自由化の勝者は敗者に補償せず,逆に奪うことが多い.貿易協定で成長が高まるという証拠もない.私は2点を繰り返し主張する.1.過去30年間にアメリカの不平等が拡大したのは,政策や制度,法律の結果である.TPPもこうした不平等をもたらすものだ.2.トリクル・ダウン経済論は間違っている.TPPで企業の利潤が増えても,底辺層どころか,中間層の所得も増えない.
NYT MARCH
15, 2014
The
Rise of Anti-Capitalism
By JEREMY RIFKIN
技術革新,特にインターネットが資本主義にもたらすパラドックスとその未来はまだ理解されていない.音楽の交換など,費用ゼロの生産や消費が増えている.その衝撃は,エネルギー,製造業,教育,なども再編成を始めている.再配分の限界費用がゼロに近い.
未来を決めるのは,市民社会の非営利組織・活動だろう.われわれはシェアし,コミュニティーを作る.ソーシャル・コモンズが増えるだろう.資本主義システムと,私的所有ではなく,シェア・アクセスとの協力関係が発達する.労働市場は大きく変化し,コンピューターと競うより,社会インフラとして非営利活動が重要になる分野に多くの労働者が参加する.
われわれは,部分的に,市場を超えた世界に入りつつある.相互依存型,協調的,グローバル・コモンズの中で生きる方法を学ぶのだ.
l 日本の歴史教科書と福島
FT
March 17, 2014
How
wars can be started by history textbooks
By Gideon Rachman
政治指導者が過去を書き換え始めたら,未来に起きることを恐れるべきだ.ロシア,ハンガリー,日本,中国で,最近,政治的な歴史教科書の書き直しが進むが,これはナショナリズムが高まるしるしであった.
イギリスでもそれはある.しかし重要な違いを2点,忘れてはならない.1.政治家は過去の事実を否定しない.2.政治家は,一つの見方を押し付けない.異なった見方があり,その論争を促すべきであって,教科書を使って自分の好む歴史を教え込むのは洗脳の始まりである.
NYT MARCH
16, 2014
Unskilled
and Destitute Are Hiring Targets for Fukushima Cleanup
By HIROKO TABUCHI
「仕事がない? 住む場所がない? 行くところがない? 食べるものがない?」 と宣伝は続く.「福島へいらっしゃい.」 これは原発事故後の廃棄処理労働者を確保する難しさを示す末期的な兆候だ.
l 国際通貨の交代理論
VOX,
17 March 2014
One
or multiple international currencies? Evidence from the history of the oil
market
Livia Chiţu, Barry Eichengreen, Arnaud Mehl
金融危機にもかかわらず,国際市場におけるドルの支配的な地位は変わらなかった.しかし,グローバルな石油市場のように同質的な分野でも,ドル以外の通貨が利用される余地はある.ネットワーク効果も,商品の同質性も,歴史的にアメリカの石油供給が重要であったことも,決して決定的な条件にはならない国際通貨理論が必要だ.
******************************
The Economist March 8th 2014
Kidnapped by the Kremlin
Ukraine: The end of the beginning
Charlemagne: Disarmed diplomacy
China’s restless West: The burden of
empire
Euroepan bank rescues: Cyprus one year
later
(コメント) ウクライナを新しい冷戦と見るのは間違いかもしれません.しかし,新しいベルリン空輸や東西デタントである,というのは真実に近いと思います.軍事力をともなわない外交を見直すべきだ,とメルケルに忠告するのは,時代錯誤に思いました.
中国の9・11として昆明集団殺戮を取り上げるときに,記事は,中国がウィグル自治区の同化政策を改めるようになるはずだ,と指摘するのは正しいでしょう.アメリカもそうであったように,政治経済問題の「民族化」は,深刻な後遺症をもたらすと各地の政府が自覚するからです.
******************************
IPEの想像力 3/24/14
テーマが思いつかない,というときは,新聞ですね.
月曜日の日経新聞を読みました.「ヤマト,中国全土に宅配」・・・すごいな.そして,「『自民党2.0』の危うさ」,夕刊には「中韓『歴史』で再び圧力」,など,興味深い記事があります.
日本の国内市場を宅配便が変えたのは,どこでも翌日配達という,今では当たり前ですが,黒猫ヤマトの物流革命でした.まさに,世界中でインターネットが広めた情報と民主化革命のように.だから,もし日本の市場がさらに中国と,少なくとも,上海地域や主要都市圏と緊密に統合されれば,その革命はもっと強烈な力を発揮するように思います.
為替レートや関税の処理が宅配業者によって代行され,消費者に定着するなら,そして,スマホの普及で学生だけでなく,中小企業の経営者も,労働者も,高齢者も,日本と中国の都市圏居住者が,まったく同じ画面で,同じサービスや商品を,同時に利用し始めます.TPPよりすごいな! と感動します.
もしヨーロッパの統合に第2次世界大戦後の50年を要したのであれば,アジアは5年で実現できるでしょう.政治が担う制度化や調整の役割も,一気に,そのレベルを高めねばなりません.
そこで芹川洋一の「自民党2.0」です.1994年の政治改革(小選挙区・政治資金規制・政党交付金)と2001年の橋本行革(官邸主導政治),そして,小泉純一郎の「自民党をぶっ壊す」が政治の制度的な圧力を大きく変えた,と指摘します.
その結果は? 芹川氏は,1.派閥の解体,2.政策追認機関,3.理念追求型政治,と考えます.自民党1.0が担ってきたさまざまな利害調整・政策チェックの機能が失われ,政党を率いる指導者の理念を実現する集団,あるいは,交付金の配分や人事権を官僚や官邸が独占するシステム,選挙ごとに大幅に入れ替わる,右往左往する新人議員集団に変わってしまった,と批判します.そこには時代を開く,新しいガバナンスが無い,というのです.
私はこれを読んで,旧い政治体質,すなわち,派閥の談合や政治献金による汚職,業界との癒着で決まった,よくわからない政治を変えて,成果を上げたのだ,と思いました.今後も,政策集団は積極的に情報収集や政策アイデアを競うことで生まれるでしょうし,多くの政治献金を集める個人や派閥より,国民の合意形成に優れた能力や言葉のセンスを磨くことが,政治指導者の条件となるからです.
他方,日中韓の歴史教科書問題は,政治家たちが正しい答えを出すというより,妥協や買収,脅迫で決めることはできない,という3国間合意を確立する方がよいでしょう.さまざまな対話プロセスを築いて,相互の理解や情感への歩み寄り,共感を広げる健全な交流プロセスを築くことが重要ではないでしょうか? 伊藤博文を暗殺した安重根が英雄であるかどうかは,植民地統治の歴史を全体として評価する中で,日本国民も理解することだと思います.
しかし,新聞をめくると,ウクライナ危機に対する欧州からの監視団派遣,台湾の行政院に侵入・占拠した学生たちの強制排除,フランス地方選で躍進する極右政党,という記事が並びます.中国とのサービス・貿易自由化協定が台湾から仕事を奪い,政治的な自由も奪うのでしょうか? それがクリミアのような併合や,それに対抗する過激な政治党派による政治の混乱を意味するとしたら,ヤマトの物流革命を抑えるべきでしょうか?
私は,この問題に,完全な答えはない,と思います.日本の政治が国民の合意形成を幅広い分野で生み出すものに変わるとしたら,さまざまな問題に積極的な外交を展開し,アジアの紛争激化より,平和的統合やルールを構築する役割を担える,と思うからです.日本が抱える多くの社会・政治・経済問題,そして平和憲法は,アメリカやヨーロッパよりもアジア諸国にとって優れた事例となるはずです.
アジアの超国家政治は,問題を解決せず,悪化させています.多角化も,軍備も,外交も必要でしょう.しかし同時に,日中韓で多くの問題を共有しつつ,解決のためのアイデアを競うことが,インターネットでつながる人々の商品やサービスの購入,物流・供給ラインのアジア規模での利用,観光客の流れで起きるかもしれません.それが,互いに賢く,豊かになる道です.
******************************