IPEの果樹園2014
今週のReview
3/17-3/22
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言語と軍備 ・・・ウクライナ危機 ・・・不安定な日本 ・・・中央銀行の秘史 ・・・中国と国際秩序 ・・・民衆の抗議 ・・・狡猾な狐のように ・・・内戦と「政治共同体」 ・・・アメリカ外交の失敗 ・・・ヨーロッパのデフレ不安
[長いReview]
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l 言語と軍備
FP MARCH 6, 2014
Putin's
Reich
BY MICHAEL MORAN
1939年9月1日,午前4時45分,ドイツの軍艦がダンチッヒ(グダニスク)を砲撃した.そこはポーランド統治下のドイツ人が圧倒的な飛び地であり,第一次世界大戦以降,ドイツから分割されていた.
それに先立つ時代,アドルフ・ヒトラーは,ドイツ語を話す人々が住む土地を切り離すように近隣諸国を脅していた.ラインラント,オーストリア,ズデーテンランド.しかし,ダンチッヒこそ,ヒトラーの脅迫を拒んで軍事力を行使された土地だった.
クリミアでも,ドネツクでも,まだ砲撃は行われていない.しかし,国境を越えてエスニック集団の権利を強制することは戦争を引き起こす.特に,それらの集団が崩壊した帝国の末裔である場合は.
西側によるリビアやコソボへの軍事介入をロシアの行動の先例とみなすプーチンは,ロシアに接する14カ国に対して非常に危険な状態を創り出すことを理解しなければならない.近隣諸国の多くに自称ロシア人が多数居住している.しかしロシアは,韓国人,モンゴル人,ウィグル人,そして人口過密で資源の乏しい国から,多数のエスニック集団が満たしており,その境界を再編するかもしれない.
theguardian.com, Friday 7 March 2014
Global
military spending is now an integral part of capitalism
Richard Seymour
軍備拡大は,一般に,資本主義システムの一部である.資本主義は本質的にグローバルなシステムであり,その生産や高官は国家の境界を越えて拡大する.しかし同時に,資本の各単位(企業など)は国民国家の内部に集中する傾向がある.そこにおいてインフラや労働力,投資の主要な部分がなされる.グローバリゼーションの過程は国民国家の投資や活動の前提となるのだ.企業が複数の国家と深く結びつけば結びつくほど,グローバルな競争において企業は国家に頼るようになる.軍事的優位を維持することは,こうした国家の本能の一部なのだ.
l ウクライナ危機
FT March 7, 2014
States
are born by accident but sustained by ardour
By Timothy Garton Ash
ウクライナの事件を異なった視点で理解すれば,それはヨーロッパが自ら進める脱植民地化過程の1章である.20世紀末のソ連邦解体も,オーストリア・ハンガリー帝国やオスマン帝国の解体も,ユーゴスラヴィアやチェコスロヴァキアも.
帝国の解体は困難な作業だ.それはレゴの城ではない.どの人間集団が,どの土地を得て,国家になるのか? 文化,言語,エスニシティ.歴史の共有,すべて重要だ.長く忘れていたような国際外交協定や,帝国内部の領土分割,各地の政治的意志,指導力.中でもとくに重要なものは,歴史的幸運である.幸運が事態の半分を決める,とマキャヴェリは書いた.
リベラルの思想は,平等な主権と,個人の持つ自主権という,原則を組み合わせる.しかし,現実の人々に当てはめることができるか? コソボに自決権があるなら,なぜクルドにはないのか? スコットランドが独立できるのなら,カタロニアもできるのか? パダニアPadaniaはどうか? それは北イタリアの独立を主張する人々が付けた国名だ.・・・われわれはあなたの国では少数派だが,われわれの国ができればあなたが少数派だ.
FT March 9, 2014
The
imperial presidency is quietly striking back
By Edward Luce
50年前,Arthur Schlesingerは「帝国的な大統領制」と呼んだ.それは大統領執務室がパワーを拡大したからだ.今,そのパワーは失われていくと言われる.国内では議会が大統領に従わず,海外ではNiall Ferguson が“geopolitical taper”と呼ぶような外交の後退が目立つ.プーチンの挑戦に反応するオバマの貧血症は,帝国的大統領制が終わった時代を示している,というわけだ.
しかし,こうした議論はまるで無意味である.
オバマが中東や黒海で軍事力を行使しないのは当然だ.彼は戦争を止めるために大統領に選ばれたのであり,クリミアを戦場にするつもりはない.オバマが望むなら,議会に断ることなく,アフガニスタンに無限に軍を置くことができる.2008年,グルジアにロシアが侵攻したとき,ブッシュ大統領もそれを静観した.アメリカは,自国や条約を結んだ同盟諸国が直接の脅威を受けない限り,核保有国との紛争に関与しない,という主流派の原則を守っているだけだ.
対照的に,オバマは従来の軍備と異なる新しい攻撃能力を手に入れ,彼がそれを望めば執務室の外には何の断りもなく,行使してきた.ドローン,特殊部隊,サイバー攻撃,である.兵力も44万人に削減すると言うが,それはタカ派の非難するような「全面撤退」ではない.2001年に海兵隊1人当たり1年間の装備は2300ドルであった.今は2万ドルである.民間部門と同じように,ダウンサイジングは生産性の増大を意味するのだ.しかも,ペンタゴンはロボットを利用する.
帝国的な大統領制を示す最大の成長分野は,情報収集複合体である.諜報機関の影のネットワークと民間の契約者とが,議会や裁判所の管理できない規模で活動している.それはアメリカの「深層国家機構」である.オバマは言葉でそれを利用したくないと示しながら,実際はその行動で逆のことを示している.NSAがユタ州に建設している情報収集センターは,500 quintillion(quintillionは1000倍のtrillion)という容量を持ち,だれの電子的な情報交換も追跡できる.
見えない部分で,オバマは史上かつてない大きなパワーを握っている.情報収集複合体を支配するリチャード・ニクソンを想像するべきだ.
FT March 10, 2014
Ukraine
is a test case for American power
By Gideon Rachman
ロシアと衝突することが持つ意味は,将来,中国と衝突する可能性を考えさせる.ロシアにダメージを与えれば,西側の自分たちの経済もダメージを受けることを政治家たちは知っている.ヨーロッパ人やアメリカ人はそれを受け入れるだろうか?
グローバルな金融・貿易システムから排除する,というイランへの制裁は,その成果を示した.しかし,イランは代替できないような何物も西側に供給していないからだ.皮肉なことに,イランの石油はロシアに代替された.
ロシアははるかに難しい.アメリカはロシアとの貿易が少ない.だから経済制裁にはヨーロッパの参加が必要だ.しかし,ドイツはロシアの天然ガスを輸入し,イギリスは金融センターを提供し,フランスはロシア海軍に12億ユーロの軍艦を輸出する契約を結んだ.それらを破棄できるのか?
ロシアのケースは中国にとって先例になる.もし中国の指導者が「プーチン」と同じように,日本と紛争中の釣魚島を軍事力で奪えば,アメリカと同盟諸国はどうするのか? ウクライナと違って,日本はアメリカと正式な安全保障条約を結んでいる.他方,中国は,ロシアと同様に,アメリカが核保有国との紛争を避けるとみているだろう.特に,この紛争点は地球の反対側にある無人の岩礁である.
しかも,ロシアよりはるかに難しいのは,中国が世界第2の経済大国であることだ.アメリカは中国製品の輸入を禁止できるが,中国もそれに報復する手段を多く持っている.アメリカ企業のサプライチェーン,アメリカの財務省証券,など.「オバマの弱虫」論は単純すぎるが,世界政治に重要な意味を持つ.
NYT MARCH 10, 2014
Crimea,
a Pyrrhic Victory?
By VALI R. NASR
ウクライナの危機が終わって,今やロシアはアメリカの友人でないことがはっきりした.両国はルビコン川を渡ったのだ.ロシアを抑え込む新しいゲームを始めねばならない.
イラク戦争のころ,2003年にライス国務長官はその方針を語った.「フランスは罰する.ドイツは無視する.ロシアを許す.」
ロシアがクリミアを奪った今,ロシアを許せない.新しい冷戦ではないが,ロシアの生じる問題を管理する.ヨーロッパのエネルギーに関するロシア依存を解消する天恵はイランだ.アメリカはイランとの関係を改善しつつある.イランはロシアに代わる天然ガスを保有している.
ロシアはイスラム教徒の問題で西側以上に深刻な状態にある.
シリアの化学兵器を管理することにロシアは仲介したが,アサドの殺戮を止める政治解決には何もしない.アメリカはシリアにいてもロシアとの関係を解消するべきだ.
ロシア抜きで国連の決議は得られないが,それはかつてコソボでNATOが解決した.
FP MARCH 11, 2014
Sorry,
Putin Isn't Crazy
BY JEFFREY TAYLER
プーチンは狂人か? 西側の政治家や評論家たちはそう思っているようだ.19世紀型の軍事的な侵略.別世界の住人.冷戦の遺物.
しかし,アメリカの行動は,プーチンがキエフの独立広場の背後で工作している,と確信するような過去の例を豊富に示している.たとえば国務省のVictoria Nulandは,1991年にウクライナが独立する際,アメリカが50億ドル以上も「支援」したことを認めている.
ソ連が崩壊してもアメリカの軍事予算は増えており,2011年に7000億ドルに達した.アメリカはヘゲモニーを拡大し,ロシアはその犠牲になったのだ.19世紀型の行動を非難できるだろうか? 1994年,ハイチ侵攻,1999年,コソボ空爆,2001年,アフガニスタン侵攻,2年後にはイラク侵攻,2011年,リビアの政権転覆.すべてアメリカがしたことだ.
カダフィと同じように,ヤヌコビッチも失脚してロシアに逃げた.プーチンが,西側の目指す世界覇権体制を予想し,ロシアの体制がアメリカによって破壊されると懸念するのは当然だ.プーチンは歴史の教訓を学んだのだ.冷戦のチェスボードでものを考えている,とプーチンを非難するアメリカが,ロシアのチェスボードを削り取ってきた.
オバマがやるのであれば,プーチンも破滅的な挑戦をあえてやるだろう.
NYT MARCH 13, 2014
Getting
Ukraine Wrong
By JOHN J. MEARSHEIMER
オバマはロシアに対する強硬姿勢を取り,ロシアへの制裁と,ウクライナ新政府への支援を強化すると決めた.これは大きな間違いだ.問題を悪化させるだろう.
ホワイトハウスとワシントンの主要な人脈が理解するところでは,アメリカはこの危機に何の責任もない.プーチンの国際法違反だ.しかし,それは間違っている.アメリカ政府は聴きに主要な役割を果たし,プーチンの行動は,アメリカを含む大国間の地政学に依拠したものだ.
危機の始まりはNATOの拡大であり,ワシントンがウクライナをモスクワの軌道から外して西側に組み込もうとしたことだ.ロシア人は強く嫌っていたが,NATOは東欧やバルト海諸国に拡大された.しかし,2008年にグルジアとウクライナを加えようとしたとき,ロシアはレッド・ラインを引いた.両国は単なる隣国ではなく,ロシアの玄関口であるからだ.グルジアとの戦争は加盟を阻止した.
ヤヌコビッチがEUとの協定を拒んでロシアからの融資を受け入れたとき,西側に近い,モスクワを嫌う,西ウクライナの反政府デモが起きた.オバマ政権はここで重大なミスを犯した.抗議の群衆を支援して,彼らがヤヌコビッチを追放し,キエフに西側寄りの政権が成立するのを助けたのだ.
プーチンは,もちろん,これをロシアの戦略的な利益を損なうと考えた.その通りではないか? 結局,冷戦型のNATO拡大を進めたのはアメリカなのだ.アメリカこそ,旧式のモンロー・ドクトリンを守っている.それも知らずに,彼らはプーチンがクリミアを占拠すると驚いた.
これは法の問題ではなく,地政学上の紛争である,とプーチンは応えた.なぜなら国家を守ってくれる世界政府はないのだから.大国は,特に国境周辺の脅威に敏感であり,潜在的な危険を強力な方法で排除することもある.安全保障が脅かされるとき,国際法も,人権も重要ではない.
l 不安定な日本
Project Syndicate MAR 7, 2014
Sorry
for Nothing
IAN BURUMA
日本政府は,従軍慰安婦に関する公式の謝罪を取り下げるために委員会を設置した.なぜ安倍首相は近隣諸国,特に韓国や中国の反発を招くようなことをするのか? このような行動に,何かまともな理由があるのだろうか?
自国の歴史の暗部を隠す国はほかにもある.ロシアはスターリンによる粛清を語らず,中国は天安門事件を認めない.
政治指導者は国際社会の反応など気にしない.特にナショナリストの右翼はそうだ.韓国人や中国人がどう思うかではなく,自分の政治顧問の助言を重視する.戦時の行為に関する日本国内の意見が分裂していた.アメリカは占領政策で日本社会を変えようとした.憲法も,教育も,東京裁判も.
日本の政治で左翼の力が失われる中で,ナショナリストたちは戦争の歴史が虐殺として誇張されていると主張した.さらに日本風のポピュリズムが加わった.日本人はアジアの解放者であった.南京大虐殺や従軍慰安婦は「東京裁判史観」である.左翼は中国や韓国,アメリカのプロパガンダを広める売国奴だ.・・・
l 中央銀行の秘史
Project Syndicate MAR 7, 2014
The
Secret History of the Financial Crisis
HAROLD JAMES
アメリカ連銀は,ドルを無限に発行できるが,IMFは加盟国の分担金に制限されている.アメリカは意図的にIMFの役割を限定した.ニューヨークの銀行家たちが,例えば1920年代のドイツを二流とみなすような事態を避けるために,IMFは普遍的な保険メカニズムとして設立された.
現代でも,IMFがギリシャを救済するとき,多くの新興諸国は強く反対した.それはヨーロッパの金融機関を救済するだけであり,偏っていたからだ.IMFの融資が優先的に返済されることにも,貧しい新興国は反対した.はるかに裕福な諸国に返済するために自分たちは緊縮策に耐えねばならない,と.
l 中国と国際秩序
FT March 10, 2014
International
treaties can once again help China advance
By Robert Zoellick
中国の元首相である朱鎔基は,20年前,WTO加盟交渉を利用して,中国の市場に競争を取り入れ,その国際基準をシステムに導入した.それは次の10年の成長と世界貿易における重要な役割を実現したのだ.
再び,国際交渉を国内改革の前進に利用する機会が中国に現れた.アメリカやEUと投資協定を結ぶことだ.協定は,外国企業が中国の市場で公平に競争するのを助ける.透明性を高めて,汚職を取り締まる.そのようなルールは中国企業も助けるだろう.協定は中国人に海外投資の機会を与える.それは西側に雇用をもたらす.
Project Syndicate MAR 10, 2014
Back
to the Future in Ukraine and Asia
JAMIE METZL
地政学的な意味で,ロシアと中国は19世紀的なナショナリズムと強固な国家主権とを軍事力で主張する規範を示している.アメリカにとって,それは1945年に終わったはずの秩序である.アメリカの戦後秩序再建は,過度のナショナリズムを排し,国際法,国連,自由貿易を整備した.同時に,安全保障に関してはEUやASEANの設立を助けた.
しかし今,中国が台頭し,グローバル・パワーは再分配され,アメリカは長期の戦争に疲れて信用を失い,戦後の国際秩序が動揺している.
l 民衆の抗議
FP MARCH 9, 2014
The
Streets Ain’t What They Used to Be
BY CHRISTIAN CARYL
アラブの春を祝った人々は民主化の将来を楽観した.しかし,その後,ウクライナ,ヴェネズエラ,トルコ,タイの状況はあまりにも混乱している.
汚職.腐敗,経済管理の失敗,官僚の過剰な介入,など,世界中で人々が政府に憤慨する理由はよく似ている.各地に民主化の「感染」が広まって,新しい民主化の要求が世界に普及するのか? もしあなたが夜のテレビ・ニュースで政府に抗議する群衆の姿を観れば,あなたの最初の反応はこうだろう.「なぜここでも起きないのか? やってやろう.」
現代は,独裁者と民主化とが対峙する時代ではない.「リベラルではない民主政治」や「ハイブリッドな政治体制」が主要な特徴である.タイの自称「民主派」は暴力的に投票を阻止することもあるのだ.民主化運動の広がりは,今や,白でも黒でもない.
l 内戦と「政治共同体」
Project Syndicate MAR 10, 2014
Duties
Without Borders
JOSEPH S. NYE
オバマはどうすればよいのか?
政治集団が小さいとき,Benedict Andersonが「想像の共同体」と呼んだように,指導者は人々が帰属する共同体を意識して選択できる.しかし,グローバリゼーションは多くの人に多元的な帰属意識を与える.人々の共同体は重なり合って,主権がもはや絶対的なものでなくなった.オバマの姿勢を,Barbara Kellerman,は世界に対する孤立した無関心,と批判する.
世界市民としての国境を越えた道義的責任を感じていても,政治指導者が自国民にそれを要求することはできない.完全な答えはなく,その両方の間に連続する選択肢がある.指導者はその能力を高め,そして,選択しなければならない.
l アメリカ外交の失敗
FP MARCH 10, 2014
Condemned
to Repeat It
BY STEPHEN M. WALT
アメリカの外交が失敗する理由は,外交のエリートたちが歴史を学ばないことだ.数年前に,ハーヴァードで元国務長官のヘンリー・キッシンジャーが質問に答えた.優れた外交官となるには何を学ぶべきか? 彼は,哲学と歴史だ,と答えた.厳格な思考と,広い状況認識を得られるからだ.見通しと限界について,明晰に考えることができる.
歴史を知れば,素晴らしいアイデアも実際は機能しないことを知る.何が特異で,重要で,何が新しいかを知る.他者が過去をどう見ているかを知り,誤解を避けられる.過去の出来事は競合することなった説明や物語によって成立している.複雑な歴史過程について,単純な「真実の」説明はない.ヒトラーとのミュンヘン会談に関する,過去の間違った類推と教訓を避けられる.
オバマ大統領は,外交の顧問に歴史家を増やすべきだ.
l ヨーロッパのデフレ不安
Project Syndicate MAR 13, 2014
Good
Governance and Economic Performance
KEMAL DERVIŞ
人々が才能を伸ばせるか,革新を進めるためにエネルギーを費やすか,雇用を増やせるか,あるいは,レント・シーキングに走り,政治的保護を求めるロビー活動に向かうか,それを決めるのはガバナンスである.エジプトは悪い例であり,チュニジアは良い例だ.憲法を改正し,妥協を維持し,安定性が市場の機能を高めて,投資や観光による成長をもたらす.
中国は,複数政党の民主制と経済成長を結ぶ関係に対する重要な反例である.しかし,民主制にはいろいろある.中国はエジプトのように一人の人間がすべての権力を握る独裁制ではない.共産党の内部には競争があり,かなり包括的で,能力主義的な制度を確立している.
経済的な成功をもたらすのは,単なる経済学ではない.なぜある社会は独立した司法や規制当局を維持する妥協が達成でき,他の社会には党派的で,勝者がすべてを独占するやり方に基づき,ガバナンスが公共政策や民間部門の自信を損なうのか?
ドイツの成功は,こうした左右の社会的妥協を成立させる優れた政治にあるだろう.
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The Economist March 1st 2014
Ukraine: The February revolution
Social mobility: A memo to Obama
What’s gone wrong with democracy?
Immigration: No country for poor men
(コメント) ウクライナの2月革命が進む様子,その分析が興味深いです.そして,その内容は民主主義のエッセーに結びつきます.
民主化が世界に及ぶ,と楽観した時代は短く,むしろ「西側」の民主主義体制にも限界が明らかになっています.記事は,世界金融危機と中国の台頭が,民主主義への疑念を生み,アメリカ自身の政治的な混乱が失望を生んだ,と考えます.
上から(グローバリゼーション),下から(IT革命と直接民主主義),内側から(有権者の政治意識),民主主義が危機を迎える中で,その解決策は,専門家委員会への権限委譲と,直接民主主義(タウン・ミーティング)の復権です.
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IPEの想像力 3/17/14
これは,どういう世界なのでしょうか? 統一世界市場の形成と無政府性,軍備拡大競争.
たまたまNHK・BS「BIZ+サンデー:激変するスマホ最前線」を観て,驚きました.世界で販売されたスマホは10億台を超えて,12億台に向かっています.中国のHUAWEIは,25ドルのスマホを販売して世界3位に急浮上したようです.HUAWEIは3万件の特許を誇っていますが,そのスマホ内部の電子部品は,60%を日本企業が作っています.
新興市場がスマホの生産拡大を支えています.その競争は厳しく,価格の下落が続いている,と日経新聞は伝えます.OSでは,アップルのiPhoneが14%にとどまり,グーグルのアンドロイドが76%を占めています.韓国・サムソン電子のTizenは厳しい,と書いてありますが,日本やヨーロッパの企業は世界に普及するOSを開発できないようです.
販売台数・利用者を増やすには,スマホの交流・対話アプリが重要になっています.確かに私たちは,ますます多くの時間を通信に使っているのでしょう.韓国・日本のLINE利用者は1年間で2億人も増え,スカイプを抜いて3億5000万人に達した.というのに驚きます.2億人といえば,日本が2つ手に入ったわけです.しかも,来年はどうなるのか? どこかの新興企業がすべてを奪い取るかもしれません.中国のAlibaba,インドのInfosysやTata,ドイツ企業は何を目指しているのでしょうか?
実際,LINEが株式を上場するのを,Google,Facebook,Appleなどが狙っています.インターネット・ビジネスは異業種の混交や突然変異が頻発する世界のようです.Facebookが1.9兆円でワッツアップ(利用者4.5億人)を買収し,楽天も900億円でバイバー(利用者3億人)を買収します.こうした買収の値段や資金はどうなっているのでしょうか? 「自社株割り当て」によって買収する,と日経の記事は伝えています.いわば紙の上の資金(証券市場)です.
スマホのアプリケーションの種類は100万を超えているようです.利用者に選択してもらう,というのも,普通の意味ではありえません.まじめに選択する利用者が疲れるでしょう.どうやって選択してもらうか,そこに特別な戦略が必要です.当然,開発競争は熾烈です.数人で起業して,その開発リーダーは1秒でも早く市場に出す,と考えます.
しかし,LINEの人気は「スタンプ」の蒐集による,というのは妙な感じです.日本のアプリ市場が急速に拡大して世界最大になった,というのも「ゲーム」を購入し,さまざまなアイテムを売買するからです.急激かつ高度な情報通信技術の革新と,爆発的な資本市場の投資拡大能力,それらがまったく陳腐に見えるアイデアを一気に途方もない新興企業や買収に結び付ける・・・ そんな世界が広がっています.
インターネットやスマホに関連して起きる活発な投資が,社会の富の増大や分配について,また雇用の創出や再編,秩序の安定性について,何を意味しているのか?
たまたま観たWISDOMでは,日本の構造改革を議論していました.政府が音頭を取って企業に賃上げを求める,というのは,異質な印象を持つ,と討論者は語ります.生産性が上がらなければ賃上げは持続しない.労働市場の改革が重要だ,ということになります.
・・・サービス部門の雇用が8割を占めるのに,その生産性が低いままだ.ITの利用や労働者の移動を促して,もっと生産性を高めるために,日本は法律や制度をパッケージで変える必要がある.労働者と経営者はもっと協力しなければならない.女性の社会的進出や夫婦の役割分担,子育てを助ける企業や社会の仕組みも重要だ.つまり,それらはガバナンスと政治システムの問題に至ります.
自動車産業,ユニクロ,キプロス分割,IT革命とGDPとの関係,社会的移動性,人権,ジェノサイド,従軍慰安婦,サイバー攻撃,などが示す世界の分割・動態と,こうしたインターネット世界との対照には,異次元の流れがありますが,それでも一つの現実なのだ,と私は驚嘆します.
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加藤典洋のNYTに載ったコラムで,私は初めて「在特会(在日特権を許さない市民の会)」を知りました.ヘイト・スピーチや暴力,『アンネの日記』の肖像画を図書館で大量に破るという事件(犯人不明)の陰湿さに,言葉を失います.
郵便ポストに猪奥美里さんのビラが入っていました.奈良県の県会議員です.私は好感を持ちました.若い,元気な政治家が,いっぱい育ってほしい,と願って,私はメッセージを送りました.
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