(前半から続く)
l 永続戦争
FP JANUARY 24, 2014
The
True Forever War
BY MICAH ZENKO
The Observer, Saturday 25 January 2014
Religious
difference, not ideology, will fuel this century's epic battles
Tony Blair
l アメリカの退場
NYT JAN. 24, 2014
Distrust
in America, War in Syria and Protests in Ukraine
By SERGE SCHMEMANN
オバマ大統領は「めまいがするほどのスピードで変化する世界」とその課題について演説した.それはNSAをめぐる複雑な問題となり,シリアやウクライナに対する関与の在り方である.
Project Syndicate JAN 24, 2014
Absent
America
JEFFREY FRANKEL
アメリカ議会はIMFの長く望まれてきた改革(分担金の再調整)を,不注意にも拒否した.それだけでも十分に愚かであるが,これはむしろアメリカがグローバルな指導力を自ら損なう,今世紀に入って行った一連の決定の最新例である.
IMFは分担金の出資に応じて発言力を得る.この原理が他の国際機関(例えば,国連総会)とは異なる,実質的なパワーを強めている.アメリカ自身が,オバマ大統領の指導力によって,2010年のソウルにおけるG20サミットでIMF改革の合意を形成したのだ.当然,ヨーロッパはパワーの低下を嫌っていた.
この苦心の国際合意を議会が拒んだことは,1世紀前の1919年,議会の孤立主義を説得できずに,ウィルソン大統領がアメリカの国際連盟参加に失敗したことを思い出させる.議会は1948年にITOを拒否し,1979年にSALT IIを拒否し,1997年に京都議定書を拒否した.
1980年代以降,アメリカの覇権は失われるという議論があった.財政赤字,世界GDPに占めるシェアの低下,国際的な債権国から債務国に転落したこと.歴史的に,帝国の過剰な拡大が関心を集めた.
しかし,主要な問題は財布ではなく意志の欠如である.アメリカの国内政治は過度の孤立主義と介入主義との間で,短期的な事件を契機として,激しく変動を繰り返した.推定で4兆ドルを費やしたイラクとアフガニスタンでの戦争が失敗した以上,アメリカが孤立主義に向かうのは明らかだ.政府閉鎖にまで及ぶ議会の愚か者たちが,少しはアメリカのグローバルな指導力に及ぼす損失を意識するよう,誰でも望むわけだ.
新興諸国,特に,中国の台頭は現実である.それはツキディデスが描いたように,国際関係を不安定化する.国際秩序に既得権を持つ諸国が,新興諸国のために調整の余地を開けることが平和を維持するカギになる.中国の習近平は,ペロポネソス戦争やヨーロッパの戦争を再現しないために,他国との協力を唱えた.
債務国でありながらアメリカがグローバルな指導力を維持できたのは,アジアが分裂しているという幸運に助けられた.日本,韓国,中国の間の領土紛争が,またヨーロッパの財政・金融危機が,アメリカの存在を歓迎させている.
FP JANUARY 25, 2014
Goodbye
to All That
BY JAMES TRAUB
FT
January 27, 2014
Congressional
impasse on IMF shows the tight spot Obama is in
By Richard McGregor in Washington
議会はIMFの改革を党派争いの人質にとった.欧米が影響力を低下させ,中国やインドなどの影響力を高めることで,IMFは救われる.そうしなければ新興諸国はIMFから離れるだろう.しかし,オバマの政治基盤は弱まり,議会の紛糾は終わらない.
FP JANUARY 27, 2014
Course
Correction
BY DAVID ROTHKOPF
NYT JAN. 28, 2014
The
Diminished State of the Union
By THE EDITORIAL BOARDJAN
過去3回のオバマによる一般教書演説は,その提案がすべて議会によって無視された.銃器購入者の経歴チェック,移民政策,最低賃金引き上げ,税制の公平化,国民全体への幼児教育.
議会が賛成しなければ,立法措置を必要としない大統領の権限でしか行えない.貧しい家族の支出を助けることは市場に購買力を足すことになり,経済を回復させる,とオバマは議会に訴えた.何ら官僚的な仕組みは必要ない.一緒にアメリカを浮揚させよう.
NYT JAN. 28, 2014
Why
Kerry Is Scary
Thomas L. Friedman
NYT JANUARY 28, 2014
Obama’s
Magic Three
By FRANK BRUNI
The Guardian, Wednesday 29 January 2014
State
of the Union: platitudes of a post-imperial presidency
Simon Tisdall
アメリカの退場,孤立主義だ,という囁きは2008年にオバマ大統領が誕生したときからあった.火曜日の一般教書で,その囁きは絶叫に変わった.
その演説には偉大な世界目標がない.崇高な世界観もない.戦略的な外交政策もない.対抗する国の無い,超大国としてのアメリカの,責任も理想もない.帝国を捨てた大統領の時代が,ここに始まる.
アフガニスタンの住民がどれほど厳しい無秩序にさらされるか,それが予想されているにもかかわらず,アメリカ軍は撤退する.シリアの人道的な悲劇と地域の不安定化は国際社会による介入を求めているが,それでもアメリカは行動しない.
オバマにとって外交だけが新しい万能薬だ.中国の圧力を恐れるアジア諸国にも,アフリカでも,ウクライナでも,与えるのはリップ・サービスだけだ.慎重に遠くからドローンで攻撃し,NSAによって情報を集め,アメリカ企業に利益を与える.
FT January 29, 2014
Obama’s
State of the Union: A well crafted but hypothetical agenda
By Edward Luce in Washington
素晴らしい演説と負傷した兵士の登場する感動的な場面もあった.しかし,その内容は,敵対する議会に対して自分の無力さを認めるだけである.
FP JANUARY 29, 2014
Daft
Prez
BY DAVID ROTHKOPF
FP JANUARY 29, 2014
Keeping
His Powder Dry
BY DAN LAMOTHE
FP JANUARY 29, 2014
Recycled
BY JAMILA TRINDLE , KEITH JOHNSON
NYT JAN. 29, 2014
The
Incredible Shrinking Presidency
Charles M. Blow
l 第1次世界大戦と現在
SPIEGEL ONLINE 01/24/2014
'We
Saved the World'
WWI
and America's Rise as a Superpower
By Hans Hoyng
中国の台頭を第1次世界大戦前のドイツに例えるのは不安を高める.第1次世界大戦でアメリカは覇権を握った.しかし,彼の理想主義はわずか20年で次の戦争によって否定された.理想主義と現実主義の対立として,ウィルソンの教訓とは何か?
ウィルソンは戦争に参加する目的を,「バランス・オブ・パワー」の回復ではなく,「コミュニティー・パワー」の確立とみなした.「敵対者を組織する」のではなく,「共通の平和を組織する」と唱えた.「勝利のない平和」だけが,ヨーロッパで戦争を終わらせる,と.
ニクソンとキッシンジャーが戦争ではなく軍縮を唱えたとき,ウィルソンの理想はその力を発揮し,ヨーロッパの冷戦は終結する.
The Guardian, Monday 27 January 2014
Never
again? The loss of trust in the European project holds great dangers
Frank-Walter Steinmeier, German foreign minister
20世紀初めのヨーロッパはグローバリゼーションを経験していた.しかしその外交には,異なる利害を平和的に均衡させる意志と手段を欠いていた.むしろ,相互の深い不信感と秘密が支配した.紛争を解決する国際機関はまだ発達していなかった.
立場を性急に選択しないこと,妥協の余地を常に探すことが,外交の基本である.
Project Syndicate JAN 29, 2014
The
Great War’s Long Shadow
JOSCHKA FISCHER
オスマン帝国が崩壊し,イギリスとフランスの帝国がパワーで描いた国家の平和は,外部からのパワーで維持された.中東からアメリカ軍が撤退すれば,パワーの真空に様々な勢力が侵入する.他方,バルカンの平和はアメリカの介入とEU,ヨーロッパ諸国が帝国モデルを捨てたことで達成された.しかし正直に言えば,バルカン諸国がEU加盟を有利と見て望む限り,彼らは暴力に及ばないだけなのだ.
1914年の危機は東アジアにおいて議論されている.核兵器,中国の台頭,領土・国境をめぐる紛争,朝鮮半島の分断,歴史的な怨嗟,地位と尊厳に対する執着,協力のためのメカニズムは機能しない.
楽観的な面を観れば,世界人口は1914年の20億人と違って70億人に達し,情報通信革命は緊密化した世界を協調的に管理しなければ生きて行けないことを政府に教えている.アメリカな地域の安定要因である.核兵器は戦争が相互に完全な破滅を意味することで平和を維持するだろう.
ただし1914年の夏にも,だれ一人破滅が迫っているとは考えなかったが.
l シリア内戦
The Guardian, Sunday 26 January 2014
Geneva's
endless peace process plays into Bashar al-Assad's hands
Rime Allaf
FT January 28, 2014
Ending Syrian carnage requires a rapid deal with Iran
By David Gardner
Project Syndicate JAN 28, 2014
Forsaken
Syria
ANA PALACIO
l 文化大革命
NYT JAN. 26, 2014
Confessions
of the Cultural Revolution
By XIAO HAN
l スコットランド独立
The Guardian, Monday 27 January 2014
Scotland
and England: we need each other, in sickness and in health
Martin Woollacott
The Guardian, Thursday 30 January 2014
Pound
or euro? It's not what Scottish voters are talking about
John Curtice
FT January 30, 2014
England
must reject currency union with Scotland
By Martin Wolf
イングランド銀行のMark Carney総裁は,スコットランドが独立した場合,ポンド・スターリング圏にとどまり通貨を使用し続けるなら,その財政・金融の独立性は厳しく制約される必要がある,と注意した.
この問題は,最適通貨圏だけでなく,現在のユーロ危機からも学ぶべきである.通貨同盟が成功するためには2つの条件が必要だ.第1に,銀行同盟,すなわち,共通の監視基準,最後の貸し手となる中央銀行の流動性供給,破たん銀行の共通の処理メカニズム,信用できる預金保険制度,である.第2に,財源や財政制度を共有すること.預金保険はしっかりした財源を擁する.また,モラル・ハザードを防ぐ制度が必要である.
どのような通貨同盟も可能だ,と主張するスコットランド政府のパンフレットは正しく理解していない.スコットランドのGDPは英連邦の共通市場で10%にしかならない.その意味で,スコットランドは財政に制約を受けるだろう.特定の産業や李鵬の利害と金融政策を結びつけないという意味で,スコットランドがイングランド銀行の政策に発言することはできない.このような不均等な条件で通貨同盟を組むことに,独立後のスコットランド国民が同意することは思えない.
l 日本病の伝染
Project Syndicate JAN 27, 2014
America’s
False Dawn
STEPHEN S. ROACH
アメリカ経済の回復についてダヴォスで合意が広がっているが,それは正しいか?
GDP成長率は持続不可能な在庫の増加によって高くなった.バランス・シート不況は消費者を窒息させ続けるのか? 今回の大不況では,急激な消費の減少だけでなく,その後も消費が伸びていない.それは,かつて日本の不況についてリチャード・クーが示したように,不動産と信用膨張のバブル崩壊後,損なわれたバランス・シートを回復するために消費が抑えられる現象,「日本病」the Japanese diseaseである.
それだけでなく,Richard Caballero, Takeo Hoshi, and Anil Kashyapが示した,日本の「ゾンビ企業」による成長の停滞が,アメリカ経済にも起きつつある.
Project Syndicate JAN 30, 2014
Is
America Turning Japanese?
J. BRADFORD DELONG
1980年代後半に,日本経済を診断し,その将来を予測したエコノミストたちは全く間違っていた.まったく素晴らしい成果を示したはずが,バブル崩壊によって消費が減り,競争も減り,生産性は上昇せず,予測より40%も小さくなった.日本は成長の潜在力を低下させて,そのままアメリカの水準に追いつくことはなかった.
アメリカ経済の金融危機後の変化も同じような兆候を示している.エコノミストたちの予測は繰り返し間違う.
l グローバリゼーションの限界
FT January 27, 2014
Growth
and globalisation cannot cure all the world’s ills
By Gideon Rachman
ダヴォスに集まるグローバリゼーションの信奉者たちは,資本主義とグローバリゼーションが紛争の裁量の解熱剤であると考える.しかし,中東では紛争が激化し,東アジアでは中国と日本が,最大の貿易相手国や投資国でありながらナショナリズムによる対立を深めている.また,西側の経済成長はしばしば所得格差を拡大し,社会対立が激化している.
治安に優れたスイスの山上で,高級なワインをすする超資産家たちには,外国人排斥など無関係であり,「戦争するより金儲けだ」というのは有効なスローガンだ.外国人は,彼らにとって敵ではなく顧客である.しかし,成長が次第に対立の緩和剤として効き目を失っていることも知った方が良い.
NYT JAN. 28, 2014
Capitalism
vs. Democracy
Thomas B. Edsall
l 中国の債務危機
FT January 27, 2014
China’s
debt-fuelled boom is in danger of turning to bust
By Ruchir Sharma
アルゼンチンではない.2014年の大事件は中国の債務危機である.中国の成長は回復するという意見が多いが,少数派は歴史を味方にしている.中国のほどの信用ブームを経験した発展途上国は過去に5つある(Thailand, Malaysia, Chile, Zimbabwe and Latvia)が,そのすべてが債務危機と減速を経験した.
2008年までの5年間の生産拡大のうち信用に依存している割合は, 71%という衝撃的な数字である.
BLOOMBERG Jan 27, 2014
China
Should Have Seized Its 'Lehman Moment'
By Willie Pesek
中国も「大きすぎて潰せない」問題に直面する.アメリカのLTCMやリーマンブラザーズの経験から学ぶべきだ.
FT January 28, 2014
China
is biggest risk to emerging markets
By Henny Sender
FP JANUARY 29, 2014
The
Great Debtscape
BY ARTHUR KROEBER
Ruchir Sharmaの警告にもかかわらず,中国は何度も破滅の予言を翻してきた.その理由は3つある.1.金融引き締めと成長減速のキャンペーンを続けている.2.債務危機は封じ込めることができる.3.民間部門のダイナミズムを過小評価してはいけない.
l 脱炭素の時代
Project Syndicate JAN 27, 2014
Deep
Decarbonization
JEFFREY D. SACHS
人類は脱炭素の時代に入った.もし地球と和解できなければ,人類の繁栄は消滅する.
FT January 28, 2014
Europe
still sets the standard for a low-carbon future
Jeffrey Sachs
l エジプト
NYT JAN. 27, 2014
The
Egyptian Disaster
Roger Cohen
FP JANUARY 27, 2014
The
General Rises
BY GREGG CARLSTROM
FP JANUARY 28, 2014
Sisi
and the Strong Man
BY MAX STRASSER
l 金融危機後の世界
FT January 28, 2014
The
challenges of a post-crisis world
By Martin Wolf
Project Syndicate JAN 28, 2014
When
Easy Money Ends
RICHARD COOPER & RICHARD DOBBS
バーナンキの退任は,いつ,どのように,連銀が量的緩和QEを終わるか,についての推測を刺激した.しかし,QEがいつ終わるか,よりも,EU終結の影響が国によって異なることが重要だ.
QEは,アメリカ連銀,ECB,イングランド銀行,日本銀行により,4兆ドル以上の流動性を経済に供給した.この政策が終わるとき,政府,新興経済,企業,は脆弱になるだろう.準備しなければならない.この超低金利は政府や銀行,企業の負担を減らし,利潤をもたらしているからだ.新興経済では資本流出が起きる.住宅,保険会社,銀行も,資産(特に不動産)バブルに頼っている.QEが長引けば,こうしたリスクが高まる.
QEが金融危機に対する重要な安定化の役割を担った.しかし,それは次第に中毒性の鎮痛剤に変わってしまう.
VOX 28 January 2014
The
PADRE plan: Politically Acceptable Debt Restructuring in the Eurozone
Pierre Pâris, Charles Wyplosz
ユーロ圏は,その高い債務比率を下げるために何十年も苦しむのか,それとも,債務を組み替えることができるのか? 債務組み換えの選択肢は機能するし,より望ましい,という報告書が出た.(Geneva Special Report on the World Economy)
その計画PADREはシンプルだ.債務はECBのシニョレッジを証券化して削減する.ユーロ圏の成長率が金利を超えることで,シニョレッジは発生し,ECBを通じて債務を削減する源泉となる.
FT January 30, 2014
Poor
corporate credit is holding back Europe’s recovery
By Sarah Gordon
l サンドイッチの世代
FT January 28, 2014
Sandwich
generation: From the cradle to the grave
By Emma Jacobs
l 移民法改革
FT January 28, 2014
Politicians
should show leadership on immigration
By Gus O’Donnell
FT January 29, 2014
Elite
migrant workers must be welcomed, not attacked
By John Gapper
l 自由貿易の推進
NYT JAN. 29, 2014
Obama’s
Free-Trade Conundrum
By DAVID E. BONIOR
FT January 30, 2014
US
Democratic trade divide will reverberate worldwide
By Shawn Donnan in London
l 技術革新
FT January 30, 2014
Free
innovators from the state’s deadening hand
By Edmund Phelps
ヘンリー・フォードの低コスト自動車やスティーブ・ジョブズのiPhoneは,だれも考えられなかった方法で,多くの人々の生活を豊かにした.その天才的な力は,既存の科学を新しい方法で利用したことにある.それは国家が助成できるものではない.
******************************
The Economist January 18th 2014
Coming to an office near you
The future of jobs: The onrushing wave
Tech Startups
Skills and youth: All hands on deck
Defence in Japan: Don’t look back
Japan and America: Surrounded by sharks
Japan: Sitting tight
(コメント) 技術革新が雇用を減らすときでも,それはより豊かな人々のもたらす需要によって,新しい職場を創り出す,とエコノミストは考えます.しかし,今起きている技術革新は,新興諸国の労働者が世界市場に参加したことと並んで,豊かな諸国の雇用を奪い,賃金を低下させている,と広く認められるようになりました.中産階級の消滅は,政治社会秩序にも重大な影響を及ぼします.
新しい起業家の時代が始まった.それは,生物が一斉に誕生した2億4000万年前のカンブリア紀に例えられます.他方で,大学教育は若者の失業に対する有効な対抗策になっていません.
日本の防衛問題は,安倍首相によって,偏ったナショナリズムや,歴史の見直し,中国,韓国,アメリカの反対する靖国参拝と結びつきます.日本のルールが,3年前に経験した3重苦,震災,津波,原発事故でも決して変わることがなかったのはなぜか,FTのジャーナリストは考えます.
******************************
IPEの想像力 2/3/14
韓国の教育熱,留学熱と,受験戦争,大卒者の高失業率,などを解消するため,チェボルを解体するか,もっと新興ビジネスを奨励・育成するか,という論争に加えて,大企業が高卒者を優先して大量に採用する,という議論が起きているそうです.
大学とは何か? 大学教育は,これでよいのか? 誰も言わないだけで,「王様は裸だ!」と叫ぶ声が森の穴の中にたくさん埋まっている,と思います.
グローバリゼーション,技術革新,コンピューター化,単純作業から複雑な工作,流通,サービス,法律や会計,介護などにまで広がるロボット,若年失業者,派遣労働者,貧困,所得格差,アウトソーシング,インターネット・ビジネス,などが関心を集めます.同時に,教育への投資,教育による社会的な移動性が注目されています.
それは教育のもたらす革新です.特に,職業訓練(企業と教育プログラムの連携),幼児教育(誕生から4歳まで),専門知識(ハイテク化された情報力を駆使し,ロボットが扱わない分野を探す),想像力・革新性(芸術家的なセンス),市民としての教養・文化(ケインズが描いたような週15時間しか働かない世界).
かつてロナルド・ドーアは『学歴社会』という優れた日本研究を書きました.工業化や知識・文化の輸入に大きく依存するキャッチ・アップ型の社会に,「学歴インフレーション」が蔓延することを説得的に描きました.その中で教育は,能力(何かができる)のため,資格(公務員など)のため,楽しむために,社会的な役割を果たしている,と分類しています.
現在の混乱した大学像は,将来,1.もっと小さな,先端的,高度専門家集団になるか,2.語学・資格のための受験準備機関になるか,3.社会人のリフレッシュや視野拡大,起業家や社会運動家たちが戦略転換を議論する越境・触媒機能を果たすか,あるいは,4.富裕層や退職者の楽しみ,市民としての豊かさ・文化的充実を助けるサロンになるでしょう.
現在の大学は,1.であるかのような理想や外観を競い,2.3.4.の役割を非公式に取り込み,しかし全く異質な学生層,不適応な教員群を蓄積しています.イメージ化するため,学生と教員の割合を各分野に分けると,学生(1.2%,2.50%,3.0.1%,4.1%,その他),教員(1.50%,2.10%,3.1%,4.20%,その他)ではないでしょうか? その結果,2.の関心が強い学生の多くにとって,大学の提供する知識は「無用」と感じるのです.
総合大学,有名・伝統・ブランド校,政策拠点校,は自ら変態し,これらの機能を重なって実行するかもしれません.しかし,4つの機能には矛盾した面があり,参加者の資格も異なります.もっとダイナミックに,個々の分野で新興教育機関が育つ方が社会は活気づくと思います.
予備校や塾,専門学校がもっと重視され,文化教室・社会人クラスがもっと体系的に組織・評価され,政策・社会運動のシンクタンクがもっと民間資金を集めて活発に設立されて競争する.幼児教育に特化し,あるいは,社会人や高齢者の要求に応じた機能が,インターネット・サービスとして独自に整備され,重要な国家資格のほとんどが安価に学習できる(もちろん取得は難しいでしょうが).そんな時代が来るはずです.彼らが,従来の有名伝統校も含めて「大学」を淘汰・駆逐する,ゴースト・バスターになるでしょう.
しかし,必要な能力,課題に見合った才能・適性を欠く学生や教員を,どのように退場・解雇・離職させるのか? もしそれが,失業の恐怖で,若者や教育機関を改造・支配しようという政治家や権力者の「陰謀」でなければ,これはすべての人にとって共通の,失業ではなく転職を助け,促す問題です.その答え自身が,教育の革新に含まれている,ということに気づきます.
学歴もデフレ,「失われた20年」を経たと思います.大企業が投資のための大規模な銀行融資を必要としなくなったように,大卒新規採用もますます必要としなくなりました.もう大学なんて要らない.学生も,親も,企業も,そう言うべきです.物質的にも精神的にも,豊かな社会の教育機能は,全体系を見直す時期が来たのでしょう.
******************************