IPEの果樹園2014

今週のReview

2/3-8

 

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不平等の解決策 ・・・アルゼンチンと新興市場の不安 ・・・アジアと日中関係の悪化 ・・・ウクライナの戦場 ・・・イギリス経済の回復 ・・・アメリカの退場 ・・・1次世界大戦と現在 ・・・スコットランド独立 ・・・日本病の伝染 ・・・グローバリゼーションの限界 ・・・中国の債務危機 ・・・金融危機後の世界

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  不平等の解決策

NYT JAN. 23, 2014

The Populist Imperative

Paul Krugman

「われわれが生きる経済社会の顕著な欠陥は,完全雇用を実現できないことと,富と所得の恣意的で不公平な分配である」と,1936年,J.M.ケインズは書いた.

それは今も正しい.われわれの世界はそうした理想をはるかに下回っている.もしオバマ大統領が一般教書演説で不平等を取り上げるなら,皆が歓迎するだろう.

しかし,もちろん,議会は歓迎しない.彼らは叫ぶだろう.所得分配を問われるとすぐに反発が起きる.「階級戦争だ!」 しかもオバマは間違った目標を選んでいる,と批判する.雇用が重要であるのに,分配の不平等を取り上げる,と.

彼らは間違っている.拡大する不平等が危機を招いた,また,不平等が危機後のスランプを長引かせ,特に家計が債務から抜け出せない,というのはもっともな主張である.高失業率が労働者の交渉力を奪い,職に就いている者でも所得が抑えられている.

それ以上に,不平等はマクロ政策と切り離せない.政治家たちは債務の不安を利用して,特に貧困層の生活を守る社会的給付を削減してきた.ところが,雇用を破壊する緊縮策を攻撃すべきであるのに,オバマは政治的な妥協に流れている.

アメリカ人は富裕層や不平等を気にしない,というのは間違いだ.確かに彼らは成功したものを妬まないが,不平等は彼らを苦しめている.F.D.ルーズベルトもそうであったが,不況の時には財政赤字を増やすべきである.均衡化は不況を悪化させるだけだ.

不平等,社会的不正義,その通りだ.財政赤字を非難するヒステリーに対抗せよ.

FT January 24, 2014

A way for Obama to really tackle inequality

Roger Altman

議会の行き詰まりは打開できず,オバマの支持率も低迷している.2014年は中間選挙の年であるから党派争いは激しくなるだろう.オバマが不平等の干渉を訴えても,立法措置を取る見込みはほとんどない.

しかし,大統領は不平等に関する論争の構図を変えることで,課題に応える機会を高めるべきだ.特に,成長と不平等の解消とは,アメリカの多くの人が思うような,2つの対立する目標ではなく,正しい政策によって達成できる同じ目標である,と強調するべきだ.そうすることで,革新派も保守派も,不平等を新しい視点で見ることができる.

金融危機後のアメリカ経済は,歴史的な趨勢よりも低い成長しか実現していない.その差はGDP16000億ドル,約7%であり,1200万人の雇用が少ない.この差を埋める政策を取ることが,不平等を減らすのだ.

最重要な政策は,教育の改善である.オバマは一貫して,正しく,世界市場競争が求める新しい熟練・技能を持った労働者の必要を訴えてきた.第2に,インフラの劣化を解消する,民間部門によって実行されるインフラ銀行の設立だ.第3に,アメリカの需要を支える家計の所得が減っていることだ.オバマケアが成功することで,貧困層の数百万人が生活を安定できる.

こうした「成長に向かう戦略」は,アメリカ社会の広い支持を得られるだろう.

Project Syndicate JAN 24, 2014

The Decline of Upward Mobility

RICHARD N. HAASS

不平等の問題は,富者に課税することでは解決できない.市民がどのように裕福になるのか,その過程を妨げている障害を取り除くべきだ.すなわち,社会的な上昇を確保することだ.

確かに,経済を一部の縁故者が支配し,汚職・腐敗が蔓延するような場合,富裕層の富を再分配することが不平等の解決に役立つだろう.しかし,それは例外である.正しい対策は,経済的機会に関する人種,宗教,ジェンダーによる差別をなくすこと,だれでもビジネスを始められる融資が受けられることである.

教育も非常に重要だ.それはより大きな支出を意味するのではなく,教育の質を改善することだ.優れた人材を集め,教師を訓練しなければならない.そして能力を欠く教師を排除することだ.カリキュラムはコミュニティ・カレッジによる職業訓練,雇用者との協力を取り入れるべきだ.

最低賃金の大幅引き上げのような,再分配政策は,むしろ雇用を妨げる.

NYT JAN. 25, 2014

The Myth of Industrial Rebound

Steven Rattner

アメリカに製造業が返ってくる,と絶賛されているが,それは正しいか? かつて中国に流出してしまったTV工場がデトロイトに復活した,と騒いでいる.これは新しい産業革命であり,‘Made in America’の新時代なのか?

最も重要な点は,中国や他の低賃金諸国と競争するために,こうした工場は医療保険や年金を削減し,工業諸国の労働者が歴史的に獲得してきた利益を享受できないことだ.

メキシコの生産性上昇に対抗して,一層の技術革新を実現することは,多くの雇用を生み出す職場を減らすだろう.R&Dのために製造業は重要である.しかし,雇用を増やすという過度の期待は持つべきではない.製造業の割合を維持する補助金も間違いだ.

NYT JAN. 25, 2014

What Drives Success?

By AMY CHUA and JED RUBENFELD

エスニック集団にとって,アメリカン・ドリームは今も健在だ.インド人,イラン人,レバノン人,中国人の社会的上昇は特に優れている.最も優れているのはナイジェリア系アメリカ人だ.アメリカ黒人人口の1%にも満たないナイジェリア人が,ハーヴァード・ビジネス・スクールの黒人学生の4分の1を占め,ナイジェリア系アメリカ人の4分の1が,アメリカの白人の11%しか持たない大学卒業資格や専門学位を持つ.

しかし,社会的上昇を決めるのはエスニックではない.アジア系を超えるヒスパニック系の移民や,同じエスニックでも時代によって上昇に変化が起きる.文化的な要因が重要である.3つの要因を組み合わせてTriple Package,急速な上昇は起きている.すなわち,自分たちは優れているという確信,将来への不確実性,衝動の抑制(将来の目標のために現在の犠牲をいとわない),である.

NYT JAN. 26, 2014

Paranoia of the Plutocrats

Paul Krugman

1%の富裕層を攻撃する人々を,まるでナチスのユダヤ人狩りKristallnachtだ,と非難する意見がウォール・ストリート・ジャーナルに載った.こうした意見は異常に思えるが,富裕層には珍しくない.ブラックストーン・グループの会長兼CEOであったStephen Schwarzmanは,2010年に,ヘッジファンドやプライヴェート・エクイティ・ファンドの経営者たちに対する脱税の抜け穴を防ぐ提案を,「1939年にポーランドへ侵攻したヒトラーのようだ」と語った.

産業界の大資産家のことを言うのではない.大金を使って汚い金儲けをする資産家たちである.彼らがどんな価値を追加したのか,まったく疑わしい.そして,彼ら自身もそれを説明できる自信がないから,批判に対してこれほど激昂するのだろう.

theguardian.com, Tuesday 28 January 2014

Americans expect Obama to deliver on income inequality

Ana Marie Cox

FT January 29, 2014

Obama is failing to extend new opportunities for the poor

Glenn Hubbard

不平等ではなく,機会の不足が問題だ.大統領は不平等を強調することで,政策論議を難しくした.失業手当を延長したり,富裕層に増税したりすることは,不平等を減らすかもしれないが,失業者が仕事を得る助けにならない.


l  アルゼンチンと新興市場の不安

FT January 24, 2014

Argentina woes weigh on EM currencies

By James Kynge, Jonathan Wheatley, Ralph Atkins in London and Jonathan Gilbert in Buenos Aires

金曜日,アルゼンチン・ペソの下落から,Turkey, Brazil, South Africa, India and Russia,新興市場の通貨が一斉に売られた.アメリカの金融緩和終了と中国経済の減速が各地に影響を広げている.

FT January 24, 2014

Emerging markets suffer a developing hangover

By John Authers

新興市場はこうしたパニックを繰り返してきたが,重要な点はそれではない.その引き金を引いたのが発展した諸国の投資家や中央銀行である,というのが重要だ.

1990年代後半にも新興市場は資本流出を経験した.1994年,メキシコのテキーラ危機が起きたからだ.メキシコはそれまで資本流入で過剰な支出を楽しんでいた.しかし,アメリカ連銀がインフレを抑えるために金利を引き上げ,それはメキシコの過大評価されていたペソの価値を破壊した.今週の動きもそれに似ているが,新しい点は,アメリカの金融引き締めだけでなく,中国経済の影響が加わったことだ.

NYT JAN. 24, 2014

Argentina Eases Currency Controls, but Citizens Are Not Reassured

By SIMON ROMERO and WILLIAM NEUMAN

中国経済の減速などで,アルゼンチンの輸出に対する需要が減るという懸念から,アルゼンチン・ペソは今週,ドルに対して大きく下落した.人々は安全さと高い利回りを期待してアメリカに投資を移しつつある.

人々のドル購入を阻止する政策は機能しなかった.闇市場におけるドルの価値が暴騰したことで,アルゼンチン政府は資本規制を緩和し,為替レートの変動を拡大することになった.

中央銀行の元総裁Aldo Pignanelliは述べた.「この声明は不確実性をもたらした.それは経済にとって最悪のものだ.」 アルゼンチンの不安は他国にも伝染した.

FT January 26, 2014

The strength of Buenos Aires is the weakness of Argentina

By WalterMolano

通貨からの逃避はきれいな形で終わらない.特にアルゼンチンでは.ペソの価値は急激に減少し,経済運営に対する信頼が失われた.警報が点滅し,それは忍耐の限度を超えたのだ.

資本規制や価格統制の迷路を経て,昨年,中央銀行は通貨防衛に295億ドルを費やし,外貨準備の4分の1を失った.すでに1月の最初の3週間で10億ドルを失っている.2001年の危機の記憶が人々の脳裏によみがえる.

しかし,今,アルゼンチンに危機は起きないはずだった.特別なブームも過剰消費もなく,バブルは起きていない.財政収支も経常収支も健全だ.むしろ国際資本市場に復帰することで外貨準備を得ることができただろう.ところが,ポピュリストの言辞を弄する政府は,投資家たちと敵対し,それを台無しにした.

国際機関の協力を得て市場の鎮静化を図るどころか,政府はかたくなに投資家との妥協を拒み,対外債務の組み換えについて債権者との交渉にも入らなかった.それどころか政府はマクロ経済データを操作して,完全に無意味になるほど改ざんした.外国企業の投資を奪う国はほかにもあるが,アルゼンチンは今その報いを受けている.

資源も人材も豊富なこの国がなぜこれほど機能しないのか? 私の答えは,その地理のせいである.アルゼンチンは西のアンデス,北のブラジル,南のパンパに囲まれた三角地帯で経済活動を行ってきた.その出入り口はパラナとウルグアイの2つの川しかない.この川と港を通じて商業は行われ,富と権力をブエノスアイレスが支配した.アルゼンチンの200年は,地方とブエノスアイレスとの闘いの歴史である.

ペロニスト党は,社会運動ではなく,すべての権力を中心が握るための制度であった.そこでは常に,国民全体の利益や政治原理の追求より,パワーの最大化が問題になる.この国の通貨危機は,軍部のクーデタや,国際機関による介入で処理できるかもしれない.しかし,それではアルゼンチンのガバナンスが冒された病気を治すことができない.

地方の制度が,単に中央への飛び石ではなく,重要な役割を果たすように,政治の根本的改革が必要だ.

FP JANUARY 27, 2014

Slip Slidin' Away in Argentina

BY DANIEL ALTMAN

アルゼンチン政府は,ようやく,ドルに対する人為的な為替レートを維持することはあきらめた.しかし,人々の混乱を避けるために大規模に市場に介入している.危機は終わるどころか,もっと酷くなるだろう.

高いインフレ率が続く限り,ペソの急落は避けられない.輸出による外貨収入を得た政府系投資信託を利用して,フェルナンデス政府は,政府部門の賃金を引き上げ,インフラ投資や,エネルギーその他への補助金を増やしただけだった.政府が支出を大幅に抑えなければ,ハイパーインフレーションと銀行の取り付けが起きても不思議ではない.

FT January 30, 2014

Emerging markets: Fear of contagion

By James Kynge


l  アジアと日中関係の悪化

FT January 24, 2014

China rejects Abe’s WW1 comparison with Pacific tensions

By Lifen Zhang in Davos

FP JANUARY 24, 2014

Japan and China Pick an Un-Davos-like Fight at Davos

BY JAMILA TRINDLE

2014-01-24 (China Daily)

Abe still self-contradictory

BLOOMBERG Jan 26, 2014

The End of Childhood in Asia

By Pankaj Mishra

中国,日本,韓国,台湾から来た若者たちと,香港の映画祭で会った.彼らは伝統的な人生の成功とは異なる人生を示した映画に熱狂的な反応を示した.

アジアの若者たちは,親とは全く違う世界に住んでいる.そこは不安定な資本と貿易のフローで満たされており,他国の競争相手に関する情報があふれている.彼らは10代後半から20代の初めで,狂気のように自己改造を始めるのだ.

かつてスターリンが「人間の魂をエンジニアリングする」と語ったが,この数十年が真にグローバルなユートピアが人間改造を進めてきた.攻撃的な企業家精神,個人主義,教育と専門技能で無慈悲なまでに自己のポートフォリオを改善する試みだ.

かつてフランスの歴史家P.エリエスは,17世紀,18世紀のヨーロッパにおける公教育が,子供たちを大人の世界から切り離し,子供らしさを創造した,と論じた.しかし今,アジアの若者たちが熱中する語学教育やキャリア形成は全く逆のことを実現した.子供たちは早期に大人の社会にさらされ,その課題や責任を通じて子供らしさを破壊するのである.

この開発世界を抜け出た社会の問題を最も感じているのは日本人だ.日本は,中国やインドよりもずっと早く,都市化,工業化,消費社会のユートピアを達成した.20年の経済停滞を経て,今や日本の書店には「子供をフリーターにしないために」という書物が多く並んでいる.フリーターの多くは,彼らの父親が「サラリーマン」として生きたつまらない人生などに興味がないのに.もっと個人の主体性と想像力を重視した生き方を求めているだけだ.

自動化と国際競争はますます激しくなり,どれほど教育を受けても若者たちの雇用が確保できる見通しは立たない.インドでは人口ボーナスが犯罪やアナーキーの悪夢に転化するかもしれない.永久化する失業と不平等が拡大する社会で,私たちは人生の多様な価値を切実に必要としている.

NYT JAN. 27, 2014

Insults Over Islets

By THE EDITORIAL BOARD

微小な岩礁をめぐる中国と日本の紛争は,国民的エゴの国際キャンペーンと化している.播・ポッターの童話を使ってまで口論しても,それが2国間の紛争を和解させることには役立たない.

アメリカを日本の安全保障問題に巻き込み,安倍は靖国参拝で歴史問題に広げ,さらに愚かにも,両国はアフリカへの援助で口論している.

誰も彼らのエゴに味方するつもりはない.もっと具体的な問題を解決するのが良い.

NYT JANUARY 27, 2014

Anxiety Rising Over Relations Between Japan and China

By ANDREW ROSS SORKIN

国際政治学者Ian Bremmerは語った.今週,ダヴォスでの収穫は,中国と日本の関係はわれわれが思った以上に深刻であり,彼らが貿易を破壊して互いに経済を損ないリスクは現実にある,と分かったことだ.

Project Syndicate JAN 28, 2014

Sorry is the Hardest Word

GARETH EVANS

日本はもっと,その謝罪に見合う中身を示すべきである.

Project Syndicate JAN 29, 2014

Assured Mutual Dependence

ALEJANDRO LITOVSKY & MICHAEL SCHAEFER

FT January 30, 2014

Asia enters an age of increasing uncertainty

Kurt Campbell

NYT JAN. 30, 2014

United Against China?

By THE EDITORIAL BOARD

インドと日本は協力関係を深める.それは対中国の連携であるが,中国への敵意を共有しているわけではない.両国にとって好都合であるからだ.

日本の天皇,防衛大臣,首相がインドを訪問した.日本は中国への投資,借款,技術提携,デリーの地下鉄や,高速道路の建設計画,で協力する.両国はともに中国との領土紛争がある.

しかし,インドの姿勢は異なるし,アメリカは中国との安定した関係をもっと重視する.


l  ウクライナの戦場

FT January 24, 2014

Ukraine: On the front line

By Neil Buckley and Roman Olearchyk

反政府デモは暴力的な衝突によって少なくとも5人の死者を出すに至った.まるで戦場のようだ.爆弾が火を噴き,歩道は剥がされ,投石された.ウクライナ議会を守る暴動鎮圧部隊は,これに対してスタン擲弾,催涙ガス,ゴム弾を使用した.

「平和的なデモだった.しかし雰囲気は完全に変わった.政府にはわれわれの声を聴く気がない.妥協はあり得ないだろう.」

2008年のロシアとグルジアとの戦争以来,EUとアメリカは,ロシアと対抗している.もし暴動をYanukovichが鎮圧できなければ,ロシアがウクライナ政府に強力な支援を行い,欧米の反発は強まるだろう.1990年代の旧ユーゴスラビア内戦以来,ヨーロッパの国で,これほど長期に,暴力的な政治不安が続いた国はない.

先週,議会は反プロテスト法を成立させ,デモを非合法化した.ウクライナはますますロシアの権威主義的従属国家になっている.

VOX 25 January 2014

Meeting Russia’s challenge to EU’s Eastern Partnership

Thorvaldur Gylfason, Per Magnus Wijkman

WP January 25, 2014

Ukraine shows the ‘color revolution’ model is dead

By Anne Applebaum

下院はその法案を議論するどころか,おそらく読みもしなかった.およそどのような群衆もデモとして弾圧し,どのような政府批判も犯罪とみなせる.ギリシャ正教の資金を受けても外国団体となるのだ.こんな法律を下院は深夜,挙手で成立させた.

「カラー・リボリューション」の神話を捨てるときだ.それは,平和的なデモが,西側のメディアによる訓練もわずかに手助けによって湧き上がり,1991年以後の,旧ソ連に従った腐敗した寡占支配体制を,非暴力的に倒すことができる,という信念である.2004年から現在までのウクライナの「オレンジ革命」の歴史は,この信念が間違いであることを示した.

ロシアの資金と政治技法によって支援された腐敗した寡占支配体制は,実際,予想を超えて強力である.議会に賄賂をばら撒き,選択的に暴力を行使したのは,ソビエト時代のシニシズムがあったからだ.1人か2人を殺害してデモを黙らせ,1人か2人を逮捕して企業家たちに支配者の力を示し,メディアを操作し,西側の資金援助を阻み,威嚇のメッセージを送る.西側の経済衰退や文化的退廃を宣伝する.

脱冷戦の秩序にヨーロッパやアメリカが関与する,という信念も神話の一部である.しかし,EUによるウクライナの改造は失敗した.ロシアによる貿易のボイコットや軍事的威嚇,大小の賄賂(安価な天然ガス),プロパガンダが成功した.他方で,アメリカの反応はわずかなものだ.

こうした新しい真実が人々に理解されるまでに時間がかかった.しかしウクライナ人は,理想が死んだこと,それを生き返らせるすべはないこと,を理解した.これがその結果である.暴力によってしか体制は変えられない.

最悪のシナリオを免れる可能性はある.大きな忍耐と深い思考が必要だ.すなわち,ゆっくり,深く,文化的な変化をウクライナに起こすことだ.既存のものに代わる政治組織,新しいメディア,労組,学校,を築く.体制に依存したビジネスを変える.

ヨーロッパ人もアメリカ人も,本気で,ウクライナやロシアの腐敗を攻撃する.プロパガンダに対抗し,実質的な経済制裁を行う.われわれは失敗を正直に認め,この氷の街頭に戻るのだ.

FT January 27, 2014

Protest city at the heart of uprising in Ukraine

By Neil Buckley in Kiev

FT January 27, 2014

Europe’s fear of Russia is a rerun of Soviet mistakes

By Igor ShuvalovRussia’s first deputy prime minister

EUBelarus, Kazakhstan and Russiaのユーロシア経済同盟を敵視するが,それは間違いだ.この同盟の目標はソ連の復活ではなく,むしろEUと同じである.財・サービスや資本の取引を盛んにし,政策を調和させ,単一の労働市場を整備して人の移動を促す.国境を越えたビジネスが起きるだろう.

40年前に,ソ連は西ヨーロッパの統合を信じず,その制度を無視した.今度はヨーロッパがソビエトと同じ間違いを犯すのか?

SPIEGEL ONLINE 01/27/2014

'Prepared to Die'

The Right Wing's Role in Ukrainian Protests

By SPIEGEL Staff

FP JANUARY 27, 2014

Mercury Rising

BY HARRIET SALEM

反政府運動の指導者たちは能力を抑えられるのか? ウクライナは長期に及ぶゲリラ戦争を始めるのか?

BLOOMBERG Jan 27, 2014

Will Ukraine Be the Next Yugoslavia?

By Leonid Bershidsky

反政府デモとViktor Yanukovych大統領の間に高まる敵意は,4600万人の国を新しいユーゴスラビアにしつつある.

NYT JAN. 28, 2014

What the West Must Do for Ukraine

By JOHN E. HERBST, WILLIAM GREEN MILLER, STEVEN K. PIFER and WILLIAM B. TAYLOR Jr.

Yanukovychは譲歩を示した.先に通過させた法律を廃止することも含まれる.しかし,1か月前なら,せめて2週間前なら,これが役に立っただろう.今では遅すぎる.首相の辞任も,抗議デモを鎮静化できないだろう.

アメリカとヨーロッパは,1Yanukovychに対して,デモ鎮圧の暴力を自制するよう求める.2.ビザと金融制裁の解決を求める.3.反政府派に自制を求める.4.政府高官を派遣して高次の情報交換を緊密に行い,キエフ情勢の監視を強化する.5.モスクワに協力を要請する.西側はプーチンに対して自分たちの行動を透明化し,ウクライナ情勢が悪化すれば,プーチンが望むソチ・オリンピックに悪影響が出ることを理解させる.

NYT JAN. 28, 2014

Ukraine’s Uncertainties Include Its Financial Lifeline

By ANDREW E. KRAMER

The Guardian, Wednesday 29 January 2014

In Ukraine, fascists, oligarchs and western expansion are at the heart of the crisis

Seumas Milne

NYT JAN. 29, 2014

Love and Hatred in Kiev

By YURI ANDRUKHOVYCH

NYT JAN. 30, 2014

Time for a Deal in Ukraine

By THE EDITORIAL BOARD

ウクライナの政治危機は決定的な分岐点にある.土曜日,大統領はキエフの独立広場the Maidanを占拠する反対派に重大な譲歩を示した.反政府運動の指導者に2つの閣僚ポストを与える,と提案した.火曜日,大統領に親しい政治同盟者である首相が辞任した.議会は,先の法律の大部分を廃止する,と票決した.木曜日,法案に署名しないまま,大統領は病気のために欠席した.

Yanukovychは,権力が急速に失われていることを知っている.彼の生き残りはこの取引にかかっている.無能で,信用を欠いたが,Yanukovychは民主的な選挙で大統領になった.彼を反政府の抗議デモが一貫した計画もなく辞任させるなら,混乱はさらに深まり,危険な前例になる.

妥協するときだ.西側は金融危機を回避する援助を行い,積極的な仲裁に入ることだ.

FP JANUARY 30, 2014

How to Solve the Crisis in Ukraine

BY CHRISTIAN CARYL

反政府派は,Yanukovychの無条件降伏を求めるより,もっと違う政治的要求に向けて団結するべきだ.すなわち,ウクライナを議会制の共和国にすることだ.議会で多数を制した首相が率いる内閣によって統治する.


l  富裕層からの援助

FT January 24, 2014

Western vanities that do little to help the world’s poor

By WilliamEasterly

FT January 28, 2014

The world’s rich stay rich while the poor struggle to prosper

By JohnKay


l  イギリス経済の回復

FT January 24, 2014

The death and life of Britain’s market economy

By Janan Ganesh

金融サービスと消費によるイギリスの成長は,前衛的な製造業,生産性よりも弾力性に依拠した工作所,など,よりドイツ的なモデルへの移行を意味する.

外国の経済モデルに関する饒舌な解説には,「アングロサクソン」,「北欧」,「ドイツ」,「東アジア」,など,さまざまな選択肢がある.それは単にイデオロギー的な好みの問題になる.しかし難しいのは,真にふさわしいモデルを決めるのは,その国の歴史,文化,条件に拠るということだ.しかもそれには経路依存性があり,公共政策の選択と違って,いつでも一時的に変更できない.政治的に成熟することで,イギリスのモデルの特性がサービス,特に銀行業にあり,産業の先端分野にあることを認めるだろう.その競争的な優位は,開放性,ビジネスのしやすさ,優れた大学教育,英語,そして,官僚的な介入がないこと,である.

すべてのモデルのトレードオフがある.

FT January 24, 2014

The City and the European Union

The Observer, Sunday 26 January 2014

George Osborne's economic 'recovery' is built on sand

Will Hutton

オズボーンGeorge Osborne蔵相は上機嫌だ.IMFの警告やイングランド銀行の雇用不安予測を否定するような成長が見られたからだ.

しかし資本主義システムは循環的に変動する.この一時的な跳ね返りは2008年に予想されたことだ.むしろここに至る前に,当時の崩壊寸前であった銀行システムに加えて,政府の急激な支出・赤字削減が不況を悪化させ,多大な失業という代償を支払わねばならなかった.それが証明されたのだ.

驚いたのは新規雇用の増加である.ここには過小評価され,よく理解されていなかった強さがある.イギリス経済には高成長の,革新的,知識集約的な中小企業群が,自動車道路M40M4M3によりヒースローの周りに形成されている.ほかにもStansted and Cambridgeがそうだ.

大学に由来する高度技術,新興の中小企業群,住宅価格の上昇による融資増,国際空港による効果,全てが関連し合って,こうした地域に根差した多国籍企業本部に有利なものとなっている.これらは政治家と関係ない,自生的な成長だ.

雇用増には問題もある.パートタイム,失業を避けるための自営業の増加,非常に不安定な生活を強いられる人々がいる.またイギリス経済の統計は,GDP5%を超える経常収支赤字を示しており,長期的に維持できないものだ.

イギリス経済には深刻な機能不全が起きている.オズボーンは経済モデルの大改革から逃げてはならない.

theguardian.com, Wednesday 29 January 2014

Britain's economy is finally growing again. Three cheers for the coalition?

Jonathan Portes

FT January 29, 2014

David Cameron: Divided loyalties

By George Parker and Sam Fleming


後半へ続く)