IPEの果樹園2014

今週のReview

1/20-25

 

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ヨーロッパの経済改革 ・・・第1次世界大戦に寄せて ・・・インドとアジア政治の将来 ・・・アイスランド危機と回復 ・・・安倍政権の危うさ ・・・過激派とナショナリズム ・・・機械との競争 ・・・グローバル・インバランスの解消 ・・・世界金融市場とバーナンキ ・・・シリア停戦を求めて

 [長いReview]

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l  ヨーロッパの経済改革

The Guardian, Sunday 12 January 2014

Europe's left has seen how capitalism can bite back

Leo Panitch

20世紀の大部分において,「改革」という言葉は資本主義的な市場競争がもたらす破壊的な効果に対する国家の保護を提供することを意味した.しかし今日,そのもっとも通常の意味として,保護を解体することを指す.ヨーロッパ諸国は労働コストを下げるために,熱狂的に労働者の職場における保護を解体している.

かつて,左派には,改革か革命か,という論争があった.それが時代遅れになったのは,単に革命的な変化の見通しや可能性が無くなったからではない.「改革」という言葉が,1世紀前の社会民主主義者が使った意味と全く違うからだ.改革とは,革命の痛みを生じない,漸進的な社会改造であった.しかし,それも市場に抗して社会的連帯を促すためにデザインされたのだ.

民間投資を妨げることは何もするな,という思想は,信じられないほど強くなった.これこそが社会民主主義の政治家を臆病にさせている.しかし,改革を目指す政府は資本流出を阻止しなければならず,必要な改革の余地を得る止めに金融機関を社会化しなければならない.

ギリシャのSyriza党は,ポピュリズムではなく左派として,それを主張している.

theguardian.com, Thursday 16 January 2014

Why has Europe's economy done worse than the US?

Mark Weisbrot

大不況後の回復が,顕著に,ヨーロッパに比べてアメリカにおいて進んでいるのはなぜか?

最も重要な点は,金融政策の違いである.アメリカ連銀は2008年にセロ金利にして,そのまま継続している.ECB20127月に,新しいドラギ総裁が「何でもやる」と約束するまで,トロイカ(欧州委員会,ECBIMF)の財政引き締めを推進していた.

ヨーロッパのこれらの機関は,アメリカに比べて,住民に対する責任を負っていない.特に犠牲となる諸国(スペイン,ギリシャ,アイルランド,イタリア)の住民は無視されている.それどころか,ヨーロッパの経済当局は危機を利用して,自分たちのお気に入りの「政治課題」を達成しようとした.すなわち,財政再建や社会福祉・公的サービスの削減である.

長引く危機で20カ国以上の政権が交代し,財政再建はようやくそのスピードを抑え始めた.しかし,雇用水準が正常に戻るまでどれくらい時間がかかるか,だれにもわからない.これがユーロ圏の経済問題に関する民主主義の実態だ.あまりにも遅い.


l  1次世界大戦に寄せて

SPIEGEL ONLINE 01/08/2014

Disaster Centennial

The Disturbing Relevance of World War I

By Klaus Wiegrefe

5つの大陸から6000万人以上が戦争に参加し,6人に1人が死んだ.数百万人が負傷し,体の一部を失って帰国した.

多くの国で様々な式典が計画され,記念出版が続く.ドイツだけでも約150冊だ.イギリスのキャメロン首相は,政府の資金による生徒たちの西部戦線見学を始めた.平和主義のドイツでは考えられないことだ.

1次世界大戦は,ヨーロッパの歴史上,最も戦死者の多い戦争である.だから今も「大戦争」"The Great War"と呼ばれる.それはさまざまな新兵器(戦車,飛行機,化学兵器)が利用された新しい時代の戦争であった.戦争の結果,アメリカは世界の警察官となり,フランスはドイツに対する偏見を持ち,バルカン半島ではエスニックな敵意が激化し,中東には恣意的な国境線が引かれた.それは今も,平和的な共存を阻んでいる.

戦争の恐怖を記憶するだけでは,かつての敵が和解するより,昔の傷を思い出すだけかもしれない.その意味では100周年には悪いタイミングである.5月にはヨーロッパ議会選挙が予定されているため,多くの国でナショナリストの運動や反ドイツ感情が高まっている.

なぜドイツは191484日に攻撃したのか?

フランスはドイツの軍備拡大に遅れたことを恐れ,ロシアを使って圧力をかけた.ドイツの軍部は,長期的に,ロシアが優位に立つことを恐れた.つまり,即座に攻撃するべきだった.ドイツ皇帝はイギリスが態度を変えることを恐れていた.イギリスはドイツ帝国がイギリスを超えることを恐れていた.

それは壊れやすい,複雑なシステムであった.その運営には慎重さと先見性が必要だった.歴史家Christopher Clarkは,1914年の意思決定にかかわった王族,大臣,軍人,外交官,を数百人と推定した.しかし,彼らはあまりにも高齢であり,その多くが貴族であった.

Project Syndicate JAN 13, 2014

1914 Revisited?

JOSEPH S. NYE

それは再現されるだろうか? 現在のアメリカと中国の関係は,当時のイギリスとドイツンに似ているのか? 中国が平和的に台頭することは不可能か?

しかし,ときには有益だが,歴史を類推するのは間違っている.特に必然だと主張してはいけない.第1次世界は不可避ではなかった.現代は1914年と異なっている.核兵器は,政治指導者たちに戦争の結果を予測させる.1914年に,皇帝たちは戦争の結果を予測できなかった.イデオロギー対立は少ないし,米中ともに限定戦争を考えていない.判断の間違いは起こりうるが,エネルギー,気候変動,金融安定化,など,米中間には協力によって守るべき大きな利益がある.

1914年のドイツに比べて,現在の中国はまだアメリカよりも軍事・経済・ソフトパワーで大きく遅れている.つまり,冒険的な行動は中国の利益を内外で損なうのだ.アメリカにはイギリス以上に新興国との関係を管理する時間がある.しかし,大きな恐怖は自己実現的である.戦争が避けられないという考えは,戦争の原因の一つになる.

FT January 14, 2014

Failing elites threaten our future

By Martin Wolf

今もエリートたちの失敗は繰り返されているが,それは幸い,戦争ではなく,平和を管理することである.もっとも目につく失敗として,3つを挙げる.

1.先走った金融自由化の結果を理解できなかった.金融市場は自己安定化が働くと間違って考えた.債務の増大を支持した.そして罪を犯した者を救済するために納税者が犠牲を強いられた.

2.グローバルな経済金融エリートが誕生した.彼らは国家との結び付きを弱め,同時に,民主主義を結びつける市民の概念を弱めた.財閥政治は,民主主義が市場経済に依拠して以来,常に存在したが,人々が経済エリートによって政治が利用されていると思うなら,社会は解体する.

3.ユーロ圏の建設で,ヨーロッパ人は自分たちの運命を握る貨幣を手放した.貨幣の管理をめぐって人々は対立した.失業,移民,債務,など,ユーロ圏はその立憲的な秩序を失い,赤字諸国の人々はパワーを否定されている.


l  インドとアジア政治の将来

BLOOMBERG Jan 14, 2014

Urban Villagers Are Asia’s New Force

By Pankaj Mishra

インドのデリーに現れたArvind KejriwalAAP(「普通の人の党」),イタリアのBeppe Grillo,インドネシアのJoko Widodo,トルコのRecep Tayyip Erdogan,など,政治的な主流から外れた者が未来の政治を決める.彼らを動かすのは,工業化,都市化,自由化,グローバルな市場統合化,人口増加,・・・それらが新しく流動化した人々の力だ.Thaksin Shinawatraはその代表である.旧式のトップ・ダウン政治は拒まれる.

彼らは都市から送金し,文化やアイデアを伝え,出版物や選挙戦,職場の移動,携帯電話によって,国全体の政治を変化させる.インドの人口変動は静かに起きているが,タイよりも激しい.

近代化論は,都市中産階級の形成が民主化を促すと考える.左派は,労働者階級による革命という目標を捨てないだろう.しかし,20世紀の思想は捨てるべきだ.


l  アイスランド危機と回復

SPIEGEL ONLINE 01/10/2014

Out of the Abyss

Looking for Lessons in Iceland's Recovery

By Guido Mingels

アイスランドの金融崩壊も劇的であったから,その回復はまさに印象的である.

2008年から2011年に,史上最悪の金融危機と回復を経験した.人口わずか32万人の小国が,かつてない資本流入を扱い,短期間に失った.しかも最速の回復として記録を達成し,2011年には成長し始めた.

ポール・クルーグマンはアイスランドの危機対策を絶賛し,そのモデルを他国が真似するべきだ,と主張した.すなわち,損なわれた民間銀行は倒産させよ.自国の通貨があれば切下げよ.資本流出を管理せよ.対外債権者には支払うな.

それは非常に利己的な対策に見える.そして,そうなのだ.アイルランドは莫大な公的資金を政府が民間銀行の債務支払いに費やした.アイスランド人は2度の国民投票でそれを否定した.高金利を求めてアイスランドンに投資した強欲な外国投資家のために支払うことはできない,と.

アイスランドは新しい機会を発見している.高い教育水準による,漁業,観光,地熱資源の再発見だ.

金融危機はアイスランド人に自分たちのアイデンティティを求めさせた.編み物とインターネットによるデートがブームになった.家族との時間を大切にし,アイスランドの出生率はヨーロッパで最も高い.35歳以下の人口が多い「第3世界型の人口」である.アイスランドでは育児が国家によって担われる.女性の雇用率は78%で世界最高だ.


l  安倍政権の危うさ

FT January 15, 2014

This will be a crunch year for the Japanese economy

By DavidPilling

長い間,中国の成長がアジアで唯一重要な要因だった.しかし,2014年は違う.日本だ.

日本のアベノミクスは,2014年にその成果が問われる.アベノミクスの最も過激な実験はQQE(量的質的緩和)である.それは消えてしまうのか,破局(インフレ率の急上昇,金利の急騰,資本流出)に向かうのか,成功するのか? 日本の資金供給は巨大であり,アメリカの金融緩和終了を埋めるかもしれない.

消費税の引き上げは狂気の沙汰だと首相の顧問が述べた.消費者物価の上昇は重要だが,それだけで問題がすべて解決するわけではない.すなわち,人口減少だ.紙幣は印刷できても子供は印刷できない.

theguardian.com, Thursday 16 January 2014

Fukushima is an ongoing warning to the world on nuclear energy

Amy Goodman

194595日,アメリカが原子爆弾を使用した日本の町,広島に入ったジャーナリスト,Wilfred Burchettは,世界に向けた警告としてthe London Daily Expressに記事を書いた.「広島は空襲を受けた町のように見えない.それはあたかも巨大な蒸気ローラーが圧力をかけて,その存在を押しつぶしたように見える.」

66年を経て,2011311日,その600マイル北の土地を東日本大震災と津波が襲った.19000人が亡くなるか行方不明になった.さらに福島第一原発でシステムが次々に停止し,原子炉6つのうち3つがメルトダウンを起こした.34万人が原発難民となり,故郷や家畜を捨てた.Atsushi Funahashiは記録映画"Nuclear Nation: The Fukushima Refugees Story"を監督した.

政府はFunahashiに許可証を発行せず,自宅に2時間だけ戻る家族の撮影を認めようとしなかった.これは,震災以来,重視されるようになったもう一つの問題,秘密,と結び付く.保守派の安倍政権は秘密保護法を成立させたが,秘密を定義するのは恣意的で,政治指導者の自由である.これを反原発運動にも監視の手段に使うことができる.

広島の惨禍を観てBurchettは書いた.「人間が創り出したこの破滅に対して胸が虚ろになるだろう.」


l  過激派とナショナリズム

Project Syndicate JAN 13, 2014

Education is a Security Issue

TONY BLAIR

13年ぶりに,11月,国連安保理で講演した.私はその変化に驚いた.20009月とは全く違う.ベルリンの壁が崩壊してから,われわれは新しい安全保障の秩序を築こうとしている.

しかし,暗い側面として,宗教的な違いや対立から世界中で紛争が起きている.過激派が若者たちに浸透するためのグローバルなネットワークを駆使し,学校を破壊している.彼らは敵を「神の敵」として暴力を広める.

紛争をなくすには,その根源を断つべきだ.われわれは教育によって過激派に対抗できると考える.学校は安全保障の砦になる.異なる文化・宗教の若者たちを,世界中で話し合いに参加させるプログラムが広まっている.

FP JANUARY 14, 2014

National Stupidity

BY STEPHEN M. WALT

世界情勢を変える最も強力な力とは何か? 多くの候補があるけれど,ナショナリズムはその強い候補である.それは,すなわち,2つの考え方が合わさったものだ.人類はさまざまな「民族nations」に分かれている.こうしたさまざまな民族は自分たちの「国家states」を創る資格がある.植民地体制が放棄されて独立し,多くの帝国は解体された.

それは必ずしも悪いことではない.ナショナリズムには良い面がある.集団行動のジレンマを克服する.共通の善のために犠牲を払う.宗教など,他の違いを超えて協力する.軍事的に見ても,忠誠心に欠ける傭兵よりも,愛国心に燃える兵士の方が激しく戦う.

しかし,ナショナリズムにはマイナス面もある.自民族の優れた点を強調し,他民族の劣った点を誇張する.自国の歴史を華美に修正する.かつてKarl W. Deutschは,民族とは「過去の間違った見方と近隣諸国への憎しみを共有する人間集団」と定義した.彼らは同じことを全く違う見方で理解している.

極端なナショナリズムは過剰な自信を生む.自分たちは優れており,他国民は劣っている.戦争によって他国を敗退させることは容易である,というわけだ.最悪の場合,過激なナショナリズムは国家の長期的な利益を損なう.ドイツのナチズムや日本の軍国主義がそうであった.現代の国民的な愚かさを示す例として,中国の南シナ海における領土要求.安倍晋三は,中国と尖閣諸島を争うだけでなく,アジアで友好国を増やすことが望ましいはずだが,韓国とも島をめぐって紛争を刺激し,従軍慰安婦を否定し,靖国神社に参拝する.イスラエルのシオニズムによる支配領域拡大.アメリカの「例外主義」がもたらす愚かな自信,アメリカが最善の政府モデルを輸出できる.多文化国家として他の地域では文化的な違いがもっと深刻な意味を持つことを無視する.


l  機械との競争

NYT JAN. 11, 2014

If I Had a Hammer

Thomas L. Friedman

オランダ人のチェスの名人Jan Hein Donnerが,どうやって次のコンピューターとの対戦に備えるのか? と質問されたとき,こう答えた.「金づちを持っていくよ.“I would bring a hammer.”

自動操縦の自動車,ロボット化された工場,高度な知識を駆使する予約マシーン,・・・ブルー・カラーだけでなく,ホワイト・カラーの職場も,チェスの名人も,コンピューターに仕事を奪われる.MIT2人の研究者Brynjolfsson and McAfeeによれば,われわれは「第2の機械化時代」に入ったのだ.

「第1の機械化時代」は18世紀の産業革命で始まった.蒸気機関が人間の筋力を補ったのだ.機械はますます多くのパワーを得たが,それは必ず人間の管理や意思決定を必要とした.機械化は人間の労働を「より価値のある,重要な」ものにした.その意味で,労働と機械は補完的であった.

2の機械化時代はそうではない.機械はますます認識能力や管理能力をも高めている.人間とソフトウェアによるロボットは互いに代替するものになっている.ムーアの法則が働くなら,人間はその勝負に勝てないだろう.

われわれの世代は,世界を改良するより大きな力を持つだろう.それはますます少数の者が,ますます高度な技術を利用するからだ.しかし,同時に,われわれは社会契約を真剣に再考しなければならない.労働することは,人間のアイデンティティや自尊心,社会の安定性にとって重要だから.それゆえ,デジタル労働に比べて人間労働を有利にするように減税するべきだ.また,「機会との競争」に人間が勝てるように,教育システムを革新するべきだ.新産業や雇用をっもたらす企業家を育成するべきだ.またアメリカ国民すべてにベイシック・インカムを保証すべきかもしれない.

機械による労働市場の再編圧力は,18か月毎に2倍になる.


l  グローバル・インバランスの解消

Project Syndicate JAN 13, 2014

A Requiem for Global Imbalances

BARRY EICHENGREEN

グローバル・インバランスに関して心配し始めてから10年が経つ.幸いにも,その懸念は過ぎ去った.正しい教訓を学ぶときだ.

アメリカの経常収支赤字は,2006年にGDP5.8%であったが,今は2.7%に減った.中国の経常収支黒字はさらに大きく減少し,2007年のGDP10%から2.5%に減った.

2004年には2つの意見があった.1つは,楽観派で,新興経済のドル準備に対する需要はアメリカが供給すればよいだけだ,と考えた.安全な金融資産と安価な消費財との交換は幸せな均衡であり,永久に続けることができる.もう1つは,悲観派で,ある時点になれば,新興市場のドル需要は満たされる.アメリカの経常収支赤字は融資されなくなって,ドルの価値が急落する.

今,両方とも間違いであったことがわかる.中国は安全な資産への需要を満たすにつれて,それはリスクの高い海外投資になった.中国は貯蓄より消費へ,輸出より国内需要へ転換することで均衡を回復し始めた.

他方,アメリカは債務やレバレッジに頼ることの危険を知った.債務への依存を減らし,貯蓄を増すための手段を取った.支出のパターンが変化し,ドルは安くなり,より多く輸出するようになった.人民元は強くなり,それは中国人の消費を増やした.

米中間でインバランスは再現しないように見える.危機前の成長や支出のパターンに戻ることはない.シェールガス革命でアメリカの貿易収支は改善するだろう.新興市場は輸出超過が高成長を保証するわけではない,と学んだ.巨額の外貨準備も安定性を意味しない.金融機関のプルーデンシャル規制,不安定化する資本フローの管理,為替レートの調整を受け入れること,などが安定性を高めるのだ.


l  世界金融市場とバーナンキ

Project Syndicate JAN 14, 2014

Ben Bernanke’s Global Legacy

ARVIND SUBRAMANIAN

Alan Greenspanの評価についてもまだ意見が割れている.Ben Bernankeについてはまだこれからだ.しかし,アメリカ国内経済の弱さがその国際的指導力を損なった時代に,彼の国際的な役割の重要性を見逃してはならない.

金融危機後の5年間,連銀は2つの方法で世界経済に貢献した.1つは,長期資産の購入,すなわち,いわゆる量的緩和QEである.もう1つは,ほとんど無視されているが,国際流動性の供給である.

アメリカ連銀が果たした建設的な国際的責任は,国際流動性を積極的に供給したことだ.ブラジル,メキシコ,シンガポール,韓国の中央銀行にも,直接,ドルをスワップで供給した.彼らは1990年代の金融危機で,アメリカの道具としてのIMFから融資を得るために難しい交渉を経験した.そして,IMFよりもアメリカ連銀に対して,直接,交渉することを好んだのだ.その方が迅速かつ効果的であった.

同盟諸国も含めて,世界の主要国がすべてIMFの規模拡大を求めているのに,アメリカ議会は合意できない.アメリカの政治は機能マヒに陥っても,アメリカ・ドルはまだ市場で需要されている.それも永久には続かない.中国の成長によって人民元が対抗し始める.

アメリカの指導力が陰り始めた時だからこそ,Bernankeの建設的な国際的指導力が評価される.彼は「ヘリコプター・ベン」としてだけでなく,優れた「アンバサダー・ベン」であった.


l  シリア停戦を求めて

Project Syndicate JAN 15, 2014

A Syrian Farewell to Arms

VOLKER PERTHES

停戦が重要だ.戦闘状態は過激派の支配を広め,彼らは戦闘激化によってますます多くの支援を外部から集める.このダイナミクスを破らねばならない.

停戦が成立すれば,人道的な支援物資が届き,難民の流出が止まり,近隣諸国が安定する.穏健派による外交的な交渉が可能になる.紛争地域の政治的な移行過程が支持されるようになる.

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The Economist January 4th 2014

Europe’s Tea Parties

Europe’s populist insurgents: Turning right

NAFTA at 20: Deeper, better NAFTA

NAFTA at 20: Ready to take off again?

Local government debt: Counting ghosts

(コメント) ヨーロッパにおいて成長しているポピュリスト政党の影響力と将来性を考えます.他方,アメリカでは,安全保障や移民政策の議論が進まず,NAFTAも完全には成功しません.中国の地方政府が抱える債務は,正確に把握することも難しい.

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IPEの想像力 1/20/14

制度の背後にある社会的連帯を否定し,市場統合による富を強調することは,新しい超資産家とメディアを利用するポピュリスト政治家の躍進をもたらしました.富と権力は互換性を高め,さまざまな個性を通じて,支配体制を更新します.

豊かな北大西洋諸国,そして,日本では,中産階級の衰退が政治を不安定化しますが,他方,アジアやラテンアメリカ,中東,アフリカの巨大都市には「中産階級意識」が広まり,政治を活性化しています.

インドのAAPは,アジアにおける人口変化,都市化を反映します.貧困層の間にも通信メディアが浸透し,政治や社会の情報が生活に結びつくことを意識し始めて,自分たちも政治家を支援できることに気づきます.

「ヨーロッパのティー・パーティー」というThe Economistの記事を読んで,日本なら,石原慎太郎,安倍晋三,橋下徹,などを指すのだろうか? と思いました.彼らに共通するのは,攻撃の対象を選んで,民衆の不満を高めることです.

The Economistは,ポピュリスト政治のピークは近い,と考えます.彼らは本質的に,政治の周辺で不満を吸収するシステムの機能を担うからです.ポピュリストたちが主流の政治家に代わるためには,EUによる統合を支持する議論に参加しなければなりません.東欧からの移民や,イスラム教を含む信仰の自由も肯定するでしょう.

しかし,テロ事件や軍事衝突,秘密警察,などが契機となって,ポピュリストが社会・政治体制を掌握する土地もあります.2009年,Washington PostMoises Naimは「権力の新しい調理法」を描きました.

1.社会の最貧困層をよくかきまぜます.容赦ない分解促進運動.怨嗟や憎悪,経済的ポピュリズムを泡立たせ,調和のための潤滑油を除去して社会対立を沸騰させます.

2.民主的な選挙で権力を握ります.このとき,汚職をねつ造・暴露し,対立候補の信用を失墜させ,有権者を買収するチームが役立ちます.そして自分は腐敗追放を叫び,富裕層には奪われた富を回復すると約束します.

3.最初は選挙で勝つ.4.軍隊のトップ,5.裁判官と判事,を交代させる.6.国民投票によって憲法を変える.7.最貧困層に多くの権利を与え,実際は大統領に権限を集中する.8.反対派を買収・弾圧・暗殺する.9.メディアを支配する.

http://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2009/081009review.htm

権力や貿易は「見えざる戦争」という性格を持っています.石原や安倍,橋下の政治表現は,威嚇,優越,謀略を追求し,積極的に肯定します.それは恐竜時代の政治にもどる流れであり,アジアの混沌を共有します.言い換えれば,日本も,中国も,アジア乱流圏に呑み込まれて,政治の地形や方位を何度も書き直す作業を始めたのです.

侵略者を撃退し,工業化や制度改革において犠牲を受け入れる,ナショナリズムの優れた面と,愚劣な,あるいは,醜悪で,危険な面とを,政治家たちは操縦できると考えます.過激な表現を駆使しながら,自分だけは熱狂を冷ますこともできる,と錯覚します.

しかし恐竜たちの戦いでは,威嚇から戦争へ,恐怖の過激化と悪循環へ向かうでしょう.これを解決するには,戦争で疲弊し尽くすか,「世界市民による民主主義」を示すことだ,と思いました.ただし,グローバルな民主主義の学校を開くことです.

十分に時間を取って,適切な情報を用意し,主要な意見の説明を聞いて,質問し,話し合うことができたら,しかも,その判断を世界中の事件や歴史から「検証」し,繰り返し自分なりの反省と修正を試みることが奨励されるなら,私たちは重要な問題におおむね合意できるでしょう.そして互いの違いを理解したうえで,それでも共通する部分が多いことに満足すると思うのです.

政治を目指す者は,民族の誇りや富への熱狂・怨嗟に頼らず,偉大な文明を導くことが重要です.

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