IPEの果樹園2014

今週のReview

1/6-11

 

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アメリカの不平等 ・・・靖国参拝とアジア ・・・職場を奪うロボット ・・・アメリカの覇権 ・・・中国の改革:金融システムと毛沢東 ・・・ラトビアのユーロ採用 ・・・2014年を占う ・・・「特化」というアイデア ・・・1914年の教訓 ・・・ヨーロッパの政治と経済

 [長いReview]

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l  アメリカの不平等

FT December 29, 2013

Apple, Google and Facebook are latter-day Scrooges

By John Plender

世界金融危機の後需要が落ち込み,不確実さが増して,企業は投資を控えた.こうした状況を1930年代のJ.M.ケインズも懸念していた.そして,経済が企業家の本能(不確実さへの不安,弱気)によって支配されることを嫌った.

現代の企業は,むしろ,ナルシシズムである.金融危機以来,貯蓄を増やすことは企業のプライドを高めた.同時に,グローバリゼーションの急速な進展は,競争的な技術開発に死活的条件を見る企業にとって,現金が与える柔軟性が必要だった.アメリカ企業の株式が2種類に分割され,企業統治に占める創業企業家の経営権を保護していることも関係あるだろう.

しかし,企業が貯蓄を増やす最も重要な理由は,金融資本ではなく,人的資本に依存するからだ.Googleなど,ハイテク企業は,資本集約的な企業と極度に反対の傾向を示す.たとえ資本集約的な製造工程があっても,Appleのように,それを全てアウトソーシングしている.こうして現代資本主義を動かすこうしたハイテク企業群は,投資に吸収しきれない莫大な貯蓄を保有する,という新しい問題を生じている.

Project Syndicate DEC 31, 2013

The Strange Case of American Inequality

J. BRADFORD DELONG

上位10%の富裕層はますます生活を改善したが,残りの90%はそうではなかった.1980年代,90年代と,北大西洋圏では政治的な反動が進んだ.

民主的な政治とは,われわれの考えでは,寄生的な支配階級の権力が膨張するのを抑えるものだ.特に,彼らの影響力のせいで,政府が経済的繁栄,しかも共有された繁栄を高めることによって完全雇用を実現するという使命を損なうとき,彼らのパワーをチェックするものである.

結局,19世紀のイギリスで,産業革命がもたらした大幅な不平等は,中産階級や労働者階級の利益を守る様々な規制に向かった.そして裕福な地主から富を奪い,実質所得の均等化を促したのだ.同様に大恐慌は,改革や変化に向けた強烈な政治的圧力を生じた.

なぜ現代のアメリカには同じような運動が起きないのか? これは,アメリカの不平等と同じく,アメリカの民主主義の質について,多くの市民たちが心配する重要な理由である.


l  靖国参拝とアジア

NYT December 26, 2013

Risky Nationalism in Japan

By THE EDITORIAL PANEL

安倍首相の靖国参拝について,中国と韓国は直ちに批判し,アメリカ政府も失望を表明した.そのような行為は近隣諸国との緊張を悪化させる,と.

なぜ,今,安倍氏は靖国に参拝したのか? 逆説的ではあるが,その理由は靖国参拝で生じる中国と韓国からの圧力が安倍の計画を有利にするからだ.日本が管理する岩礁に対する中国の好戦的な圧力は,日本国民に中国の軍事的な脅威を確信させた.この問題が関心を集めるほど,安倍は他のシグナルを無視し,彼の日本の軍事力を領土内に厳しく限定する憲法の枠組みを変えて,どこでも軍事力を行使できる形に変える計画を進める口実となる.靖国参拝はこの計画の一部である.

昭仁天皇は,靖国神社を参拝しないし,安倍の憲法改正にも政治的な支持を与えない.天皇は80歳の誕生日に,戦後の憲法が「平和と民主主義の貴重な価値」を維持するために起草されていることに「深く感謝」した.

BLOOMBERG Dec 29, 2013

How to Prevent a War Between China and Japan

By Kishore Mahbubani

野田が決定する2日前に,当時の胡錦濤主席はわざわざやめるように警告した.中国から見て,日本が「事実上」占領している島の主権には紛争があった.日本政府がそれを民間から「購入」することは,「法的」所有に移したことを意味する.中国国内のナショナリストは断じて弱い姿勢を受け入れなかった.

もし安倍が本当にエスカレートを避けたいなら,一方的に旧状への復帰を行うのがよい.すなわち,この島を民間の財団や環境保護グループに「売却」するのである.そして,環境保護のために開発を行わない.

さらに大胆な行動を示すこともできる.安倍は,韓国との紛争も含めて,国際裁判所に委ねる決定をすることだ.中国が同意することはないだろうが,その姿勢は日本に道義上の優位を与えるだろう.そして,主権に関する紛争があることを認めて,習近平主席と前提条件なしに会談を求める十分な妥当性を示せる.

theguardian.com, Monday 30 December 2013

Japan: land of the rising foreign relation tensions

Andrew Hammond

沖縄の仲井真知事が安倍首相に普天間基地移転承認を表明した直後に,安倍は首相として靖国神社に参拝した.安倍は,米軍基地の移転が,靖国参拝に関するアメリカの非難を和らげる,という政治的な計算をしたようだ.この参拝は,彼を支持する日本のナショナリストを喜ばせるために,選挙から1年という節目に行われた.

中国指導部の世代交代,安倍の政権獲得,アメリカのアジア旋回,といった重要事件がこの地域で起きた.流動的な環境で,地政学的な変化における優位を得るための各国の行動が続く.

FT January 1, 2014

Shunning Yasukuni would be one way for Shinzo Abe to say sorry

By David?Pilling

安倍首相は靖国神社Yasukuni war shrineを参拝した.その前の週に,政権を執って1年目の安倍首相が,戦時の日本の行為を真摯に反省し,日本は2度と戦争しない,と誓う談話を発表しても,だれも信用しないだろう.

日本の首相たちは戦時の行動について何度も謝罪した.しかし,その誠意は疑わしい.教科書には詳しい言及がない.安倍も含めて,政治家には何人も日本の「侵略」という事実を言い逃れする者がいる.日本の公式な謝罪としては,村山首相の言葉にだけ詳しい中身がある.

西ドイツのブラントWilly Brandt首相は,1970年に,ポーランドのワルシャワ・ゲットーを訪ね,そこで亡くなったユダヤ人犠牲者の記念碑前で膝をついて悔恨の情を示した.日本の首相や天皇が,南京大虐殺や満州の731部隊があった場所で悔恨を示すことは未だにない.

しかし,イギリスやアメリカに比べて,日本の謝罪が劣っているわけではない.イギリスのキャメロン首相は,1919年のアムリットサル事件で1000人に及ぶ市民をイギリス軍が虐殺したことに対して謝罪を拒んだ.アメリカの大統領はだれも,ベトナム戦争で死んだ300万人に達するベトナム人,カンボジア人,ラオス人に対して謝罪していない.サマンサ・パワー国連大使は「アメリカは最も偉大な国であり,謝罪することはない」と説明した.


l  職場を奪うロボット

FT December 27, 2013

The robots are coming and will terminate your jobs

By Tim Harford

1984年の映画「ターミネーター」では,1997829日に,アメリカの核兵器を管理するコンピューター・システムが自己認識し始めた.恐怖に陥ったオペレーターがシステムを停止しようとしたが,脅威を感知した<スカイネット>は核兵器を発射し,人類をほとんどすべて死滅させる.そして,ロボットが支配する世界になった.

経済学はその可能性を深刻に考えている.それは,ムーアの法則があるからだ.コンピューターの処理能力は18か月ごとに倍増し,爆発的に増えてしまう.ゲーム機の能力はかつてのスーパーコンピューターを超えている.そのとき人間の職場はどうなるのか? 多くのエコノミストたちは“job polarisation”に似た問題を予想する.ロボットとそのアルゴリズムが労働市場を侵食するのだ.弁護士のような仕事と(バーガーを焼くような)簡単な仕事burger flippersだけが残る.タイピストも,秘書も,旅行代理店も,銀行の受け付けも,全てロボットが人間に交代しつつある.農業も,建設現場も,製造業でも,ロボットが広がっている.製造業の職場は中国に移転された,と思うかもしれない.しかし,中国でも,労働者はロボットに職場を奪われることを恐れている.

将来,ますます高まるコンピューターとロボットの能力に見合って,われわれ人間は労働者としても経済的な価値を保てるのか? 10年後,はるかに安価で,強力なロボットの普及に応じた制度を開発できるかどうかにかかっている.

あるいは,ロボットに奉仕する者だけが生き残る.


l  アメリカの覇権

FP DECEMBER 27, 2013

The Year of Living Hegemonically

BY DANIEL W. DREZNER

アメリカの覇権が国際関係の基本であるとわれわれは考えてきた.覇権安定論に拠れば,リベラルな超大国が市場を開放し,紛争の拡大を防ぐときのみ,平和と繁栄が維持される.もしMead Robert Kaganが正しいとすれば,アメリカは世界を安定化する意志も,能力も失った.

しかし,思想的な傾向の全く異なるThinkProgress とイギリスの雑誌Spectatorとが,同様に,アメリカの衰退した2013年を歓迎した.なぜなら主要な指標,幼児死亡率,感染率,一人当たり所得,は改善したからだ.世界の貧困人口は最も小さな割合になった,Spectator誌は,「世界が毎日,あらゆる面で,より豊かに,より安全に,より賢くなっている.」と書いている.

アメリカのパワーが衰えているのに,どうしてこのようなことが起きるのか? 無秩序の不安を唱える者は,2つの点で間違っていた.第1に,中国,イラン,ロシアなどは既存秩序を書き換える,と考えた.しかし,そうではない.彼らは互いに争いながら,既存秩序の下で,その主権を守り,影響圏を拡大しようとしている.彼らはむしろ世界経済に参加することを熱望しているのだ.2008年の世界金融危機後は,新興市場が既存の世界秩序を転換する,と懸念した.しかし,彼らはそれを守っている.

2に,より大きな間違いは,アメリカの軍事力が今も国際秩序を維持する上で支配的役割を果たしていることだ.アメリカは確かに中東で軍事力を行使するのを嫌うようになった.しかし,それは,イランへの圧力,中央アフリカへの介入,フィリピンの災害に対する救援,など,アメリカの軍事力の重要性を否定するものではない.


l  中国の改革:金融システムと毛沢東

NYT December 27, 2013

Markets on Edge as China Moves to Curb Risky Lending

By NEIL GOUGH and KEITH BRADSHER

中国の金融システムは「大き過ぎて潰せない」状態になる危険がある.

中国の銀行危機は1930年代のアメリカにおける取付けとは異なるだろう.中国政府は取付けや無秩序な銀行閉鎖を防ぐ決意を表明している.むしろ,預金者が次第に銀行から去ってしまうだろう.これまではインフレ率を下回る規制された金利でも預金が集まった.その結果,銀行は国有企業や政治的コネを持つ有力者に対する巨額融資を行えなくなる.それは旧ローンの支払いに必要なものだ.

これまで中国の銀行システムは高速道路の料金所のようなものであった.銀行は眠っていても儲かった.帰宅した頭取の席に,たとえ犬が座っていても.

FP DECEMBER 27, 2013

China's Angry Spirits

BY LIZ CARTER

毛沢東の生誕120周年で,習近平主席はその業績をたたえた.同じころ,日本では安倍首相が戦犯を祀った靖国神社に参拝した.有名な作家で活動家のLi ChengpengSina Weiboに書き込んだ.すなわち,亡霊たちに低頭する人々は,数百万人が餓死し,家族が引き裂かれた悲劇に対して,美談をでっち上げている,と警告したのだ.

Liは意図的に誰とは示さなかったために,日本の占領下で死亡した1500万から2000万人のことか,毛沢東の大躍進期に死亡した1800万から4500万人のことか,わからない.ある匿名のユーザーは,日本人が他国民を殺戮した愚者を尊敬するのに比べて,われわれは自国民を殺戮した愚者を尊敬している,と書いた.


l  ラトビアのユーロ採用

NYT January 1, 2014

The Euro Adds Latvia, but Further Growth Is Uncertain

By LIZ ALDERMAN

ラトビア市民にはユーロ採用に反対する者がいる.「ユーロは自分たちの貨幣ではない.」 しかし,ヨーロッパの指導者たちはラトビアの参加をユーロ圏拡大のしるしとして喜んでいる.問題はユーロ圏の経済成長が十分に回復するかどうか,である.

チェコ,ポーランド,ハンガリーはユーロ採用の目標年を延期した.デンマークやスウェーデンも,ユーロ危機によって採用への支持が低下している.イギリスには採用計画がない.キャメロン首相はEUとの距離をもっと取るつもりだ.そしてEU離脱を問う国民投票を準備している.

イギリスに比べてラトビアのような小国が独自通貨を維持することは多くのコストをともなう.同時に,ヨーロッパ合衆国にはならないだろう.50年後にユーロ圏がどうなっているか,単純に現状から予想できない.


l  2014年を占う

Project Syndicate DEC 30, 2013

Unrealpolitik in Russia and China

DOMINIQUE MOISI

第一次世界大戦の起源に関するMargaret MacMillanの近著(The War That Ended Peace)によれば,唯一つ確実に言えることは,指導者が重要だ,ということだ.誰も戦争を望まなかったが,それを止められなかった.1914年のヨーロッパに,ビスマルクOtto von Bismarckのような指導者はいなかった.最近のロシアと中国の行動にも,指導者の不在は明らかだ.

ロシアがウクライナを影響圏に留めたとしても,プーチンは昔からのヨーロッパ問題に直面する.隣国を支配する負担は大きすぎるが,ロシアの野心を満たすには小さすぎる.支援で生き延びるウクライナは,ロシア以上に腐敗し,機能不全を起こしている.その国土はフランスよりも大きく,人口は4500万人に達し,ヨーロッパの地政学的な均衡を維持する要所である.18世紀に3度の分割で消滅したポーランドと違い,ウクライナをEUとロシアが東西に分割することは不可能だろう.

同じ問題に中国は東シナ海と領空で直面する.中国も文明の優越性を信じ,長期の利害に関して,自制できないのか? その中国の姿勢は,ベトナム,インドンネシア,フィリピンの連携や,アメリカへの支援を求める動き,そして日本の安倍政権による軍備増強につながった.

イデオロギーの時代は去り,国益を冷静に計算する時代になる.しかし,その移行期には,外交よりも戦争が大きく変化する.外交ゲームの要点は古典的なものだ.相手国の利益と認識をよく理解すること.穏健さと自己抑制を外交の本質として発揮できること.それはロシアと中国に欠けるものだ.

オバマはどうか? ビスマルクが平和を維持した冷静な権力政治 calm power-politicsを学ぶべきだ.

Project Syndicate DEC 31, 2013

Slow Growth and Short Tails

NOURIEL ROUBINI

2013年の世界経済は再び困難な年であった.2014年もさらに成長率は低下し,特に新興市場には壊れやすい諸国がある,・・・India, Indonesia, Brazil, Turkey, South Africa, Hungary, Ukraine, Argentina, and Venezuela.内外における不均衡,成長の減速,インフレ率の目標以下への低下,選挙を迎える政治的緊張.

ユーロ圏の回復リスク,安倍晋三のアベノミクスによるデフレ脱出,・・・


l  「特化」というアイデア

Project Syndicate DEC 30, 2013

The Specialization Myth

RICARDO HAUSMANN

直観的で,明確なアイデアは,強い説得力がある.しかし,真実とは限らない.その1つは,特化Specializationである.

国家の比較優位による特化,貿易の利益.しかし,それは非常に間違った,危険なアイデアだ.

それはあるレベルでは正しいが,他のレベルでは間違っている.個人がその能力について特化するのは,より高いレベルで多様性をもたらす.個人や企業が特化することで,都市や国家は多様化する.例えば,特化した医者が多くいる病院がそうだ.

同じ人口規模の都市を比較すると,多様化した都市の方が裕福である.成長が早い都市の方が多様化している.それは内部市場が豊富であるだけでなく,輸出も多様であるからだ.

国家については,さらに多様性が重要だ.オランダ,チリ,カメルーンはほぼ同じ人口規模である.しかし,オランダはチリの3倍,チリはカメルーンの10倍,豊かである.輸出を観れば,オランダはチリの3倍,チリはカメルーンの3倍,多様である.

発展の過程で,都市や国家は特化するのではなく,多様化する.それらは単純な産業構造を多様化していく.そのためには協力の問題を解決しなければならない.なぜなら新しい産業が起きるには,それまでなかった経験を持つ労働者,納入業者が必要だから.そのために政府は積極的に介入する.

都市や国家が既存の産業の中で少数の分野に特化することは危険である.それは多様な能力を失い,新しい産業を開拓する新興ビジネスの能力を奪うだろう.バリュー・チェーンのグローバル化によって,納入業者・下請け業者は急速に「脱植民地化」されていく.都市も国家も新しいバリュー・チェーンでの役割を開拓する必要がある.

競争は非効率な企業や産業を消滅させる.政府の仕事は彼らの死滅を手伝うことではない.部分を超えた全体の拡大に役立つ,新しい活動,新しい生産能力を追加することで,凝集・複合体agglomerationの経済利益を生み出すことである.


l  1914年の教訓

FT January 1, 2014

Reflections on the Great War

1914年の元旦.誰もヨーロッパの指導者たちが戦争を始めるとは思っていなかった.

各国の首都で,人々は他のことに関心があった.しかし628日に,サラエボでオーストリア皇太子が暗殺され,それから1か月も経たずに各地で戦闘が始まった.

2014年が1914年と同じ時代を変える破局に向かう理由はないが,当時と今が似ている不安な点はある.その教訓を考えれば,

1.紛争の偶発的な原因と,より根の深い国際関係の緊張状態,戦争に至る各国の国内情勢とを区別しなければならない.テロを未然に防ぐことは難しいが,グローバルな軍事・政治・経済の緊張状態を解決するのは政治家の仕事である.受け入れられた国際ルールの範囲内で行動する責任があり,国家間や民間の競争には秩がなければならない.

2.敵対するナショナリズム,それを煽る誇り,野心,歴史的な悲しみの無視,執着,は戦争を起こす条件になる.新興の大国によって,また,旧大国の衰弱によって,国際システムが再編されるとき,戦争のリスクは高まる.ある種の際立った脅しは国際関係において不可避であるが,相手国の動機や合法的利害を評価することが重要だ.

3.戦争は短期に,被害を抑えて,管理されたものにとどまると前提することは間違いだ.1914年に,ヨーロッパは半世紀前のドイツやイタリアの統一戦争を想定した.2003年,イラクに侵攻したアメリカとイギリスもそうだ.どちらも全く間違いだった.

4.戦争が起きた場合,戦後の平和を維持する結末にしなければならない.1919-23年のヴェルサイユ講和会議はそれに失敗した.1939年,その代償が1914年よりもさらに大きいことを知る.


l  ヨーロッパの政治と経済

FT January 2, 2014

To revive trust in Europe, rebuild faith in democracy

By Tony Barber

たとえ景気や雇用が2014年に回復しても,EUやユーロに対する信頼は容易に回復できない.人々は社会が外部の力によって,その間違った処方箋で解体されることを憤る.ドイツ,グローバリゼーション,銀行家たち,ブラッセルの官僚.ヨーロッパ市民の社会契約が,その核心として守ってきた福祉国家さえ壊されてしまった.

ユーロ圏は,その現実に合わせて政治家や市民がもっと変化しなければならない.「マーストリヒトの正当性」,すなわち,マーストリヒト条約の中身を忠実に実行すれば,南欧諸国のEU支持派は力を失い,経済は破滅状態で,ユーロ圏や民主主義への信頼も失われた.指導者たちは,ユーロ圏に参加したことの意味,その利益と責任を,市民たちに教育しなければならない.

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The Economist December 21st 2013

Look back with angst

The Economist’s country of the year

Curse of the mummyji

A Tale of Two Rushes: There’s gold in them there wells

(コメント) 1914年と2014年で類似している点として,「自己満足」を指摘します.ビジネスマンは金儲けに忙しい.政治家はナショナリズムを安易に煽る.しかし,大規模な戦争に至るのを防ぐには,1.潜在的な危険を抑えるシステム,2.積極的なアメリカの関与(アメリカ外交),が必要だ,と考えます.理性が広まると信じるだけでは,戦争を防げない.

The Economistが選んだ2013年の優れた国家は,ウルグアイ,です.ウルグアイが優れたモデル,優れたシステムを採用し,広めたからです.すなわち,同性婚,軽い麻薬の合法化,さらに,率直で慎ましい,しかし大胆でリベラルな,Jose Mujica大統領を選んだことです.

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IPEの想像力 1/6/14

なぜ新年を祝うのか?

収穫の祭や,教祖・国父の誕生を祝う,というのは,まあ,わかります.しかし,旧年の最後の1秒と,新年の最初の1秒に,何も祝うことは含まれていません.世界中の年越し行事,カウント・ダウン,年越しのパーティー,除夜の鐘,超高層ビルや議事堂を染める花火,初日の出を,炬燵の中で観ました.

太陰暦から太陽暦になっても,なぜか各地の暦や季節の行事とバラバラな新年は残ったわけです.時間の感覚が異なる世界で,新年には新しい意味が与えられます.宇宙旅行が日常化する時代には,新年を測る基準も変わっているのでしょう.

u  大晦日は紅白歌合戦の一部を観ました.この番組は魅力がなくなった,と思います.「レコード大賞」や「かくし芸大会」がなくなるように.時代と音楽が変わったことを実感します.そこで,私がもしNHKの神様なら,紅白歌合戦を懐古版と回顧版に分けます.懐古版は,以前の紅白を愛する世代の人気投票で歌手を決め,以前のように演出します.回顧版は,今年1年のグローバルな音楽シーンを振り返るカテゴリー別の音楽評と,歌手・タレントたちの時間分担・独自演出です.

u  ようやく年賀状を投函.遅すぎましたが,ともかく年内です.郵政民営化で,年賀はがきの発行枚数や配達枚数がチェックされました.

u  元旦は映画「ボーン・スプレマシー」,「ボーン・アルティメイタム」,夜には「相棒」を観ました.NSAにより世界中の電話やメールが盗聴されていること,また,広く読まれたナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』が伝えるように,テロリストの精神を破壊する研究を米軍がカナダで行っていたこと,ブッシュ政権がアメリカ国外の基地でテロ容疑者から情報を得るために拷問を繰り返していたこと,など,日常に及ぶ戦争行為の凍りつくような事実を知ったうえで,これらの映画を観るのは,ちょっと心臓に悪いほど,これは現実にかなり近いのか,という不安を生じます.

u  歩いて長弓寺に初詣.しかし,天理教の教会本部までランニングする,というのは1か月ほど鍛え直してからにします.私は宗派を問いません.神様というのは,善意や誠意を育てる集団的な条件,あるいは,他者の幸せを喜ぶ心ではないでしょうか? 幼い子どもをほめる母のような.

u  2日,3日は箱根駅伝です.学生たちの力走に,三浦しをんの『風が強く吹いている』をまた読みたくなりました.東京と箱根とをつなぐ,駅伝,予選会,シード制などのルールにも魅力があります.株式会社や金融市場のルールを変えたら,もっと人々が参加し,金融危機を抑えることもできるのでは?

u  2日に少し観た「瑛太が挑む世界最長の大河シリーズ第2集」も面白い内容でした.番組解説には,「“地球上で最も過酷な大地"を行く.」とあります.・・・アフリカ最古の独立国.コーヒー発祥の地.瑛太は少女の水汲みに従います.絶壁を4時間かけて登った洞窟に,エチオピア・キリスト正教の教会があります.こうした洞窟教会を100以上も作っている,ということです.厳しい生活,病気や死.密教的な祈祷と衣装.おそらく,戦乱・殺戮や離散,奴隷の歴史.これらが畏怖と救済の神様を生む土壌です.

u  3日,自分でも9.7キロをゆっくり走りました.なぜ関西でも,春の六甲駅伝とか,秋の琵琶湖周回駅伝がないのでしょうか? 自転車で知床から桜島・沖縄まで,ツール・ド・ジャポン2800キロを開催してほしいです.「強靭国家」より,よほど元気が出るでしょう.

u  あべのハルカスを建設した近鉄グループの「いてまえ精神」に感服しました.金融危機後の世界では,投資機会の不足,アニマル・スピリッツの必要,がしばしば議論されています.都市再開発,住宅建設,新興産業,・・・ハルカスはぜひ成功してほしいです.

u  トム・ロブ・スミス『チャイルド44』を読み始めました.凄惨なディストピア小説です.・・・戦争で国家に食糧をすべて奪われ,夫を失い,教会の鐘も奪われた.村中が飢え,死に瀕している.オクサーナの10歳の息子が,ネコを見つけた,と知らせます.猫を狩りに行った兄弟を待つ彼女の元に,弟だけが返ってきます.そして,弟の話を聴いて,オクサーナは教えます.「おまえの兄さんはもう死んでしまった.今頃はもう,誰かに食べられている.」・・・「神様,お願いです.息子を返してください.」

2014年が1914年と少しでも似ているなら,新年を祝うより,恐れることが多いはずです.靖国神社参拝,毛沢東生誕祭,新防衛大綱,米中の艦艇が東シナ海で異常接近,グローバリゼーションもユーロも楽観ではなく悲観を広めます.

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