IPEの果樹園2014

今週のReview

1/6-11

 

*****************************

アメリカの不平等 ・・・靖国参拝とアジア ・・・移民排斥 ・・・職場を奪うロボット ・・・オリンピックのボイコット ・・・アメリカの覇権 ・・・中国の改革:金融システムと毛沢東 ・・・苦汗工場・奴隷労働 ・・・ラトビアのユーロ採用 ・・・2014年を占う ・・・「特化」というアイデア ・・・1914年の教訓 ・・・ヨーロッパの政治と経済

 [長いReview]

******************************

主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  アメリカの不平等

NYT December 26, 2013

The Fear Economy

By PAUL KRUGMAN

100万人を超える失業したアメリカ人は最悪のクリスマス・プレゼントを受け取った.失業手当を削られたのだ.共和党員の考えでは,何か月も仕事を探して見つからないとしたら,それは彼らの努力不足だ,というのである.

雇用というのは,単に,何かを売り買いする契約ではない.雇用には権力関係が含まれている.ボスは命令するのだ.それが嫌なら辞めるしかないが,労働市場が悪化しているとき,新しい仕事は見つからない.だから辞める人は少なくなる.それは労働者のパワーを失わせる.

こうして,政府は雇用を重視しなくなった.企業の収益は金融危機後に急減したが,その後,速やかに回復して,今も回復しつつある.しかし,利潤の回復がどこまで労働者を搾取すること,なぜなら労働者たちは失業を非常に恐れているから,何でも受け入れる,という事情に拠るかは明らかでない.しかし,それthe fear factorが含まれていることは間違いない.

さらに私は,政治家たちが雇用を優先的な議題から外してしまったのも,労働者のパワーが失われたからだ,と考える.完全雇用を実現することは,ポピュリズムの主張ではない,という者もいるが,完全雇用は労働者の政治力を高める.労働市場が悪化するとき,富裕層は政治を支配し,職場の問題を無視できる.

FT December 29, 2013

Apple, Google and Facebook are latter-day Scrooges

By John Plender

なぜアメリカのハイテク世界企業(Apple, Microsoft, Google, Cisco, Oracle, Qualcomm and Facebook)は莫大な余剰資金を保有して投資しないのか? その保有資金は2011年末に5兆ドルに達したと推定されている.まるでバルザックの小説に出てくる吝嗇な資産家のようだ.

アメリカ企業は,35000億ドルも外貨準備を保有した中国や,企業の投資不足に苦しむ日本と同じ,過度の貯蓄家なのか? 彼らはますます世界の不均衡の源泉として批判されている.政府が貯蓄を強いた国営企業や,利潤の得られる投資機会の乏しい日本企業に比べて,アメリカのハイテク企業は先端的な技術に依存している.こうした企業は,ほとんど融資を必要とせず,内部資金で投資している.

世界金融危機の後需要が落ち込み,不確実さが増して,企業は投資を控えた.こうした状況を1930年代のJ.M.ケインズも懸念していた.そして,経済が企業家の本能(不確実さへの不安,弱気)によって支配されることを嫌った.

現代の企業は,むしろ,ナルシシズムである.金融危機以来,貯蓄を増やすことは企業のプライドを高めた.同時に,グローバリゼーションの急速な進展は,競争的な技術開発に死活的条件を見る企業にとって,現金が与える柔軟性が必要だった.アメリカ企業の株式が2種類に分割され,企業統治に占める創業企業家の経営権を保護していることも関係あるだろう.

しかし,企業が貯蓄を増やす最も重要な理由は,金融資本ではなく,人的資本に依存するからだ.Googleなど,ハイテク企業は,資本集約的な企業と極度に反対の傾向を示す.たとえ資本集約的な製造工程があっても,Appleのように,それを全てアウトソーシングしている.こうして現代資本主義を動かすこうしたハイテク企業群は,投資に吸収しきれない莫大な貯蓄を保有する,という新しい問題を生じている.

Project Syndicate DEC 31, 2013

Which Policies Reduce Income Inequality?

LAURA TYSON

アメリカは発展した経済において最も不平等な国だとわれわれは思っている.しかし,驚くことに,課税や所得移転前の所得分配で見た不平等は,平等主義で有名なスウェーデンやノルウェーなど,他の発展した諸国と変わらない.他国に比べて税制が累進的でない,ということもない.アメリカの不平等は,所得移転が少ないことで起きている.市場経済がもたらす不平等を緩和するために,政府はもっと再分配を重視するべきだ.また経済成長を高め,雇用を増やすべきである.

オバマは財政刺激策を提案しているが,議会はこれを認めないだろう.しかし,最低賃金の引き上げは,支持運動が強く,議会を通過する可能性がある.

Project Syndicate DEC 31, 2013

The Strange Case of American Inequality

J. BRADFORD DELONG

上位10%の富裕層はますます生活を改善したが,残りの90%はそうではなかった.1980年代,90年代と,北大西洋圏では政治的な反動が進んだ.

民主的な政治とは,われわれの考えでは,寄生的な支配階級の権力が膨張するのを抑えるものだ.特に,彼らの影響力のせいで,政府が経済的繁栄,しかも共有された繁栄を高めることによって完全雇用を実現するという使命を損なうとき,彼らのパワーをチェックするものである.

結局,19世紀のイギリスで,産業革命がもたらした大幅な不平等は,中産階級や労働者階級の利益を守る様々な規制に向かった.そして裕福な地主から富を奪い,実質所得の均等化を促したのだ.同様に大恐慌は,改革や変化に向けた強烈な政治的圧力を生じた.

なぜ現代のアメリカには同じような運動が起きないのか? これは,アメリカの不平等と同じく,アメリカの民主主義の質について,多くの市民たちが心配する重要な理由である.

FT January 1, 2014

Much ado about rising inequality


l  靖国参拝とアジア

NYT December 26, 2013

Risky Nationalism in Japan

By THE EDITORIAL PANEL

安倍首相の靖国参拝について,中国と韓国は直ちに批判し,アメリカ政府も失望を表明した.そのような行為は近隣諸国との緊張を悪化させる,と.

なぜ,今,安倍氏は靖国に参拝したのか? 逆説的ではあるが,その理由は靖国参拝で生じる中国と韓国からの圧力が安倍の計画を有利にするからだ.日本が管理する岩礁に対する中国の好戦的な圧力は,日本国民に中国の軍事的な脅威を確信させた.この問題が関心を集めるほど,安倍は他のシグナルを無視し,彼の日本の軍事力を領土内に厳しく限定する憲法の枠組みを変えて,どこでも軍事力を行使できる形に変える計画を進める口実となる.靖国参拝はこの計画の一部である.

昭仁天皇は,靖国神社を参拝しないし,安倍の憲法改正にも政治的な支持を与えない.天皇は80歳の誕生日に,戦後の憲法が「平和と民主主義の貴重な価値」を維持するために起草されていることに「深く感謝」した.

だから,もし歴史を問題だと思うなら,中国や韓国の指導者は東京に同盟者を見いだせるし,安倍に会うべきだ.会談を拒むことは,安倍を有利にしている.そして,日本の軍事的な冒険主義はアメリカが支持しなければ不可能であることを思い出してほしい.アメリカは安倍の計画が地域の利益を損なう,と表明している.

NYT December 26, 2013

With Shrine Visit, Leader Asserts Japan’s Track From Pacifism

By HIROKO TABUCHI

ケリー国務長官やヘーゲル国防長官が靖国ではない戦没者の慰霊碑を進言したが,安倍は戦後のアメリカによる秩序そのものを嫌っている.経済再生に集中した方が良いという助言にもかかわらず,安倍にとって憲法改正や平和主義の放棄が目標であることに変わりない.

WP Saturday, December 28

Japanese prime minister’s visit to war memorial was provocative act

By Editorial Board

中国が宣言した防空識別圏に対して,アメリカはB52を派遣して無視することを表明した.それはアメリカと日本,韓国が協力して安全保障を確保するための条件を整えたはずだった.日本の安倍首相が沖縄における米軍基地の移転計画を前進させたのも,その重要な一歩であった.しかし,安倍の靖国参拝は日本の国際的地位と安全保障を弱めるものだ.

NYT December 28, 2013

In Textbook Fight, Japan Leaders Seek to Recast History

By MARTIN FACKLER

BLOOMBERG Dec 29, 2013

How to Prevent a War Between China and Japan

By Kishore Mahbubani

アジアで最強の2国,中国と日本との関係がますます悪化している.安倍首相は14人のA級戦犯を含めて戦没者を祀った靖国神社に参拝した.

どちらの側も和解に関心がないようだ.しかし,安倍は事態を悪化させた行為に関係がない.それは野田元首相が行った政府による尖閣諸島の購入であった.野田は中国を刺激したいから購入したのではなく,逆に,極端なナショナリストの政治家,当時の東京都知事,石原慎太郎がシンボリックな購入計画を進めていたことを事前に阻止したのだ.

野田が決定する2日前に,当時の胡錦濤主席はわざわざやめるように警告した.中国から見て,日本が「事実上」占領している島の主権には紛争があった.日本政府がそれを民間から「購入」することは,「法的」所有に移したことを意味する.中国国内のナショナリストは断じて弱い姿勢を受け入れなかった.

もし安倍が本当にエスカレートを避けたいなら,一方的に旧状への復帰を行うのがよい.すなわち,この島を民間の財団や環境保護グループに「売却」するのである.そして,環境保護のために開発を行わない.

さらに大胆な行動を示すこともできる.安倍は,韓国との紛争も含めて,国際裁判所に委ねる決定をすることだ.中国が同意することはないだろうが,その姿勢は日本に道義上の優位を与えるだろう.そして,主権に関する紛争があることを認めて,習近平主席と前提条件なしに会談を求める十分な妥当性を示せる.

theguardian.com, Monday 30 December 2013

Japan: land of the rising foreign relation tensions

Andrew Hammond

沖縄の仲井真知事が安倍首相に普天間基地移転承認を表明した直後に,安倍は首相として靖国神社に参拝した.安倍は,米軍基地の移転が,靖国参拝に関するアメリカの非難を和らげる,という政治的な計算をしたようだ.この参拝は,彼を支持する日本のナショナリストを喜ばせるために,選挙から1年という節目に行われた.

安倍の靖国参拝は,中国による一方的な防空識別圏設定や,韓国の対抗措置,フィリピンとの領土紛争に国連の仲介を中国が拒否したこと,あるいは,南シナ海で中国の艦艇とアメリカの戦艦が衝突するような状況に陥ったこと,は同時に起きている.

中国指導部の世代交代,安倍の政権獲得,アメリカのアジア旋回,といった重要事件がこの地域で起きた.流動的な環境で,地政学的な変化における優位を得るための各国の行動が続く.2014年にも多くの紛争地点で,外部の重要な集団,たとえばEUが,すべての関係者に冷静な対応,エスカレーションの抑制を求めるべきだ.

FT December 30, 2013

Japan is no longer a backwater for investors

By Trevor Greetham

NYT December 30, 2013

A Troubling Move on Arms Exports

安倍政権は日本の武器輸出を解禁しようとしている.それは「平和主義の放棄」を唱える安倍の計画の一部である.日本はその経済・技術力に依拠した潜在的な武器輸出大国である.

FT January 1, 2014

Shunning Yasukuni would be one way for Shinzo Abe to say sorry

By DavidPilling

安倍首相は靖国神社Yasukuni war shrineを参拝した.その前の週に,政権を執って1年目の安倍首相が,戦時の日本の行為を真摯に反省し,日本は2度と戦争しない,と誓う談話を発表しても,だれも信用しないだろう.

日本の首相たちは戦時の行動について何度も謝罪した.しかし,その誠意は疑わしい.教科書には詳しい言及がない.安倍も含めて,政治家には何人も日本の「侵略」という事実を言い逃れする者がいる.日本の公式な謝罪としては,村山首相の言葉にだけ詳しい中身がある.

西ドイツのブラントWilly Brandt首相は,1970年に,ポーランドのワルシャワ・ゲットーを訪ね,そこで亡くなったユダヤ人犠牲者の記念碑前で膝をついて悔恨の情を示した.日本の首相や天皇が,南京大虐殺や満州の731部隊があった場所で悔恨を示すことは未だにない.

しかし,イギリスやアメリカに比べて,日本の謝罪が劣っているわけではない.イギリスのキャメロン首相は,1919年のアムリットサル事件で1000人に及ぶ市民をイギリス軍が虐殺したことに対して謝罪を拒んだ.アメリカの大統領はだれも,ベトナム戦争で死んだ300万人に達するベトナム人,カンボジア人,ラオス人に対して謝罪していない.サマンサ・パワー国連大使は「アメリカは最も偉大な国であり,謝罪することはない」と説明した.

日本人の多くが中国を犠牲者ではなく対抗者とみなすようになって,謝罪に誠意があると中国と韓国が思うようなことをする可能性は低い.せめて,靖国神社ではなく,千鳥ヶ淵の戦没者墓苑で追悼式を行うことだ.

靖国からA級戦犯14人を分祀することも検討されたが,靖国はあまりにも軍国主義,人種差別主義のカルトと重なっている.

The Guardian, Thursday 2 January 2014

China and Japan: the pot and the kettle

Editorial

中国と日本は東アジアの覇権を争った.およそ20年にわたる両国間の戦争は,アメリカ,ヨーロッパ,ソビエト連邦を巻き込み,両国の本土に甚大な被害をもたらした.1931年の満州事変,1945年の広島,長崎における原爆投下,1949年まで続く中国の内戦.

日本が犯した侵略の事実は疑いないが,中国の主張はそれを非難することにとどまらない.東アジアとその海域を支配するという考え方が,中国と日本の紛争を20世紀のはじめと同じように解決不可能にする.

FT January 2, 2014

A year in a word: Abenomics – a term still in flux

By David Pilling


l  移民排斥

The Guardian, Friday 27 December 2013

How Labour can stop itself worrying about immigration

Peter Wilby

FP DECEMBER 27, 2013

Ragged Edges

BY ANNA BADKHEN

NYT December 29, 2013

The Death of a Family, and an American Dream

By VIVIAN YEE and JEFFREY E. SINGER

スネークヘッドによってアメリカに入国した男がニューヨークで親類の家族を惨殺した.

The Guardian, Wednesday 1 January 2014

Scapegoating migrants for Britain's crisis will damage us all

Seumas Milne

新年を迎えて,右翼の政治家と新聞は,この日こそ移民の防波堤が破れる日だ,とわれわれに告げてきた.ルーマニア人,ブルガリア人がイギリスで働くことに規制がなくなる.乞食とゴミ集めの者たちが玄関に集まるだろう.移民たちがイギリスにあふれかえる.

しかし,その日が来たけれど,何も起きていない.その理由は簡単だ.2007年から,ルーマニア人,ブルガリア人はEU諸国に移住できたからだ.イギリスに15万人,イタリアとスペインには200万人が住んでいる.今年になって就労規制を解除した国は,フランス,ドイツを含む7カ国だ.

実際,政治家が見せ掛けに騒いでいるだけで,EU移民を管理することはできない.彼らはスケープゴートがほしかったのだ.生活水準が低下し,公共サービスが削られ,住宅供給は不足している.選挙で有権者を横取りする独立党UKIPからの脅威を受けて,保守党とそれを支持する新聞は外国人排斥に訴えた.

しかし,それは独立党の支持を高めるだけだろう.また社会生活の悪化や景気回復の妨げになる.しかし,政府にとって,大規模移民を経験する人々が苦しむ危機の原因に対処するよりも,移民を非難する方がずっと簡単である.ルーマニア政府の顧問は,イギリスが「ロマの物乞い」より,「何十億ポンドも奪う銀行家たち」のことを心配すべきだ,と発言した.

大規模移民が増えたのも,30年に及ぶグローバリゼーションを進めた企業システムの一部である.それは国家の内外で不平等を拡大した.それはまた,15年に及ぶアフガニスタンやソマリアにおける西側の戦争や軍事介入によっても強められた.そして東欧においては1989年以後のネオリベラルな改革モデルが低賃金労働者や熟練労働者の搾取と移民を増やした.

実質賃金が何年も停滞した末に,そのモデルは金融危機で崩壊したが,そのせいで,ヨーロッパ大陸で右派のポピュリスト政治家が影響力を拡大した.移民の増勢は,ある意味で,21世紀の所得政策になっている.雇用主は移民を残酷に搾取することで賃金水準を下げている.それはもちろん,グローバルな貿易や技術変化,労働組合の衰退など,さまざまな理由の一つである.しかし,反移民の偏見と人種差別と闘うことが重要だ.

労働組合の復権,最低賃金の引き上げ,賃金補助より生活賃金闘争,労働条件の悪化を競う海外移転の阻止,など,それ自体が必要なことである.しかし移民に付与される非難を払しょくするため,これらが必要だ.

The Guardian, Thursday 2 January 2014

If you want to curb immigration, pay workers a living wage

Polly Toynbee

Project Syndicate JAN 2, 2014

Sympathy for the Migrant

KOFI A. ANNAN

移民にもっと同情を示すべきだ.1951年の難民法は,国境を越えて非難する権利を認めた.国境を封鎖することばかりに関心を強めても,問題は解決できない.


l  職場を奪うロボット

FT December 27, 2013

The robots are coming and will terminate your jobs

By Tim Harford

1984年の映画「ターミネーター」では,1997829日に,アメリカの核兵器を管理するコンピューター・システムが自己認識し始めた.恐怖に陥ったオペレーターがシステムを停止しようとしたが,脅威を感知した<スカイネット>は核兵器を発射し,人類をほとんどすべて死滅させる.そして,ロボットが支配する世界になった.

1997年に,現実の世界で,コンピューターは自己認識を得ていない.しかし,2014年は違うだろう.少なくとも,Boston Dynamicsを買収したGoogleはそう考えたようだ.「ターミネーター」には場違いだが,さまざまな軍事用ロボットの試作品,“BigDog”, “WildCat” or “Petman”を生産している.またロボットはemailを処理し,インターネット検索を行い,電話をつなぐ作業で,私たちの生活でも活躍している.

経済学はその可能性を深刻に考えている.それは,ムーアの法則があるからだ.コンピューターの処理能力は18か月ごとに倍増し,爆発的に増えてしまう.ゲーム機の能力はかつてのスーパーコンピューターを超えている.そのとき人間の職場はどうなるのか? 多くのエコノミストたちは“job polarisation”に似た問題を予想する.ロボットとそのアルゴリズムが労働市場を侵食するのだ.弁護士のような仕事と(バーガーを焼くような)簡単な仕事burger flippersだけが残る.タイピストも,秘書も,旅行代理店も,銀行の受け付けも,全てロボットが人間に交代しつつある.農業も,建設現場も,製造業でも,ロボットが広がっている.製造業の職場は中国に移転された,と思うかもしれない.しかし,中国でも,労働者はロボットに職場を奪われることを恐れている.

将来,ますます高まるコンピューターとロボットの能力に見合って,われわれ人間は労働者としても経済的な価値を保てるのか? 10年後,はるかに安価で,強力なロボットの普及に応じた制度を開発できるかどうかにかかっている.

あるいは,ロボットに奉仕する者だけが生き残る.


l  「金融化」の間違い

FT December 27, 2013

Zero rate zone powers US stocks rally

By Henny Sender

Project Syndicate DEC 31, 2013

Looking Up in 2014?

MARTIN FELDSTEIN

The Guardian, Wednesday 1 January 2014

Finance's hold on our everyday life must be broken

Costas Lapavitsas

英米のように成熟した現代経済を称して「金融化financialisation」と呼んだりする.危機には,金融機関を救済するために政府の公的資金を使い,流動性を供給し,金利を引き下げて対応した.この銀行家に対するおびただしい寛容さは,同時に,それと並ぶ緊縮策によって労働者の生活状態を困窮させた.しかし巨大金融機関は生き残り,「金融化financialisation」は甚大な社会的コストを生じながら維持された.

金融化した資本主義は,このように,非常に不平等なシステムである.それはバブルと金融危機に陥る傾向がある.「金融化financialisation」は人類の進歩では決してないし,これを保存することは間違っている.


l  オリンピックのボイコット

FT December 27, 2013

Why the west has not boycotted the Sochi Olympics

By Christopher Caldwell

オリンピック開催は政治家が提供できる最高のサーカスだ.核兵器を保有するのと似て,オリンピック開催国は容易に制裁を受けない.

ロシアはスノーデンをかくまい,イラン制裁に反対し,シリアのアサド体制を支持した.それゆえLindsey Graham上院議員はオリンピックのボイコットを要求したが,アメリカ・オリンピック委員会は直ちに反対した.「われわれは1980年にモスクワ・オリンピックをボイコットしたが,それに関わる紛争はボイコットで解決しなかった.しかし,オリンピックを生涯のチャンスと考えて練習に打ち込んできた,この国を代表する多くの選手たちは機会を奪われたのだ.」 それは国民の多くの気分を表している.


l  トルコとイラン

Project Syndicate DEC 27, 2013

Turkey’s Iran Strategy

SINAN ULGEN


l  アメリカの覇権

FP DECEMBER 27, 2013

The Year of Living Hegemonically

BY DANIEL W. DREZNER

2013年はアメリカの覇権が終わった年だった.Walter Russell Mead the "Central Powers"と呼ぶChina, Iran, and Russiaは,アメリカの築いた秩序に穴をあけ,空洞化した.アメリカの世論は世界のことよりも国内問題に向かった.

中国はカリブ海域の市場に進出し,ASEAN諸国をいじめ,東シナ海に防空識別圏を設定した.ロシアはスノーデンをかくまい,シリアのアサド政権を支援し,特に,ロシア周辺の諸国を経済的に支配した.イランは新大統領が国際社会に復帰し,同時に,シリア内戦への介入とサウジアラビアへのサイバー攻撃を行った.

アメリカの覇権が国際関係の基本であるとわれわれは考えてきた.覇権安定論に拠れば,リベラルな超大国が市場を開放し,紛争の拡大を防ぐときのみ,平和と繁栄が維持される.もしMead Robert Kaganが正しいとすれば,アメリカは世界を安定化する意志も,能力も失った.

しかし,思想的な傾向の全く異なるThinkProgress とイギリスの雑誌Spectatorとが,同様に,アメリカの衰退した2013年を歓迎した.なぜなら主要な指標,幼児死亡率,感染率,一人当たり所得,は改善したからだ.世界の貧困人口は最も小さな割合になった,Spectator誌は,「世界が毎日,あらゆる面で,より豊かに,より安全に,より賢くなっている.」と書いている.

アメリカのパワーが衰えているのに,どうしてこのようなことが起きるのか? 無秩序の不安を唱える者は,2つの点で間違っていた.第1に,中国,イラン,ロシアなどは既存秩序を書き換える,と考えた.しかし,そうではない.彼らは互いに争いながら,既存秩序の下で,その主権を守り,影響圏を拡大しようとしている.彼らはむしろ世界経済に参加することを熱望しているのだ.2008年の世界金融危機後は,新興市場が既存の世界秩序を転換する,と懸念した.しかし,彼らはそれを守っている.

2に,より大きな間違いは,アメリカの軍事力が今も国際秩序を維持する上で支配的役割を果たしていることだ.アメリカは確かに中東で軍事力を行使するのを嫌うようになった.しかし,それは,イランへの圧力,中央アフリカへの介入,フィリピンの災害に対する救援,など,アメリカの軍事力の重要性を否定するものではない.

確かに,アメリカ国内政治は収拾できない混乱状態を示している.しかし,2013年にアメリカの財政赤字は急速に減少し,エネルギー部門への投資,成長や雇用を回復して,経済の高い再生能力を示した.オバマ大統領が2014年をアメリカ経済の成長加速の年と見るのも肯ける.だから2014年も,モスクワ,北京,テヘランの戦略家たちは,アメリカの構造的な強さに屈するだろう.

theguardian.com, Sunday 29 December 2013

I worked on the US drone program. The public should know what really goes on

Heather Linebaugh

The Observer, Sunday 29 December 2013

Which will be the big economies in 15 years? It's not a done deal

Will Hutton

未来学者,事業戦略家,エコノミストたち,各国の外務省が没頭している難問がある.それは,現在の上位10カ国中,今後15年間で,経済的に最も成功する,あるいは,最も失敗する国はどこか? というものだ.

2013年,アメリカは1位で,2位の中国の2倍,3位の日本の25倍の規模がある.4位のドイツ以下,GDP1兆ドルを切る諸国が競い合う.5位フランスが6位イギリスをわずかに上回り,その次に7位ブラジル,8位ロシア,9位イタリア,10位カナダが続く.ルピーの下落でインドは10位を外れ,11位になった.

保守系のCentre for Economics and Business Research (CEBR)は,イギリス経済が復活することを予想したが,それはどうか.こうした議論を支持するような経済理論が破たんしている.減税,規制緩和,市場の効率性で成長を説明できるというのは単純すぎる.もしそうであれば金融危機など起きなかったはずだ.

革新,投資,生産性,成長を説明する要因について,より洗練された経済学が現れている.技術パラダイムの転換を説明する経済や社会の複雑な作用を理解し,その国の制度全体が織りなす相互依存関係を評価しなければならない.排除し,価値を奪うより,包摂し,価値を創造する資本主義へ向けて,企業や政府の再編成が求められる.

ユーロ嫌いのCEBRの予測には疑問がある.しかし私も,ティーパーティーを抑えることができれば,アメリカの1位には同意するだろう.イギリスがドイツに追いつくこともあるだろうが,そのためには効果的な産業政策を実施しなければならない.政府と産業は連携し,保守派の最小政府論はごみ箱に捨てるべきだ.何よりも,アジアやラテンアメリカの専制国家が永久に成長するとは思わない.

FT January 2, 2014

How China and American can keep a Pacific peace

Kurt Campbell

米中の艦艇が衝突しかかったことは,アメリカのケリー国務長官から中国政府に危機管理のルールを強く要請することになった.しかし,中国側に態度は不明確だ.なぜ中国は最低限のルールも嫌うのか?

いくつかの要因がある.中国側はアメリカンの軍事的優位を認めており,自分たちの弱点を知られたくない.両国間で,南シナ海におけるような,主権の認識が異なっている.中国国内で共産党と人民解放軍の間に軋轢がある.世界政治におけるソ連に代わる敵国として中国が見なされたくない.中国とアメリカは抑止に関する全く異なった姿勢を取っている.アメリカはときに軍事力を誇示して相手を抑え込むが,中国は不確実さを維持して他国に不安を醸成する.

しかし,米中が軍事衝突を避けることは世界の安定性にとって重要である.そのルールを合意しなければならない.


l  今年の人・ことば

FP DECEMBER 27, 2013

The Man of the Year

BY JAMES TRAUB

今年の人は,エドワード・スノーデンEdward Snowdenである.

ベイカーJames Bakerが国務長官のとき,Foreign Policyのパネル・ディスカッションで尋ねた.あなたが心配で眠れなくなるような問題が起きるとしたら,それとは何か? 彼の答えの1つが,NSAの情報漏れだった(the rise of China, the Arab Spring, the fallout from the financial crisis, the effect of budget cuts on defense spending, and the NSA leaks).彼はそれを「台頭する中国」と同じくらい恐れていたのだ.

スノーデンは明らかに法を犯したが,それが良心に従うものなら,理想の世界で,判決後に公共の務めを果たすという形を取るだろう.彼の技能を生かして改革に貢献する.

FT December 30, 2013

A year in a word: Airpocalypse – China is getting airy ambitions

By Jamil Anderlini in Beijing

今年の言葉.Airpocalypse(驚異的な水準に達した中国主要都市の大気汚染)

特に寒気の厳しい北部で暖房用に石炭を燃やすために発生する.北京でも1月と2月には汚染物質の濃度が健康に影響ないレベルの60倍に達し,政府が市民に外出を控えるよう警告した.

FT December 31, 2013

A year in a word: Taper – keeping the markets in expectation

By Robin Harding

今年の言葉.テーパー(漸減する)

FP DECEMBER 31, 2013

Presenting the Albies of 2013

BY DANIEL W. DREZNER

グローバル政治経済学で最良の本は何か?  Albiesとは,故Albert O. Hirschmanにちなむ賞である.2013年の第5回受賞作は,・・・1. Mark Blyth, Austerity: History of a Dangerous Idea.・・・2. Sarah Kendzior's Twitter feed (@sarahkendzior).・・・3. Nina Munk, The Idealist: Jeffrey Sachs and the Quest to End Poverty.・・・4. Hélène Rey, "Dilemma not Trilemma: The Global Financial Cycle and Monetary Policy Independence," Jackson Hole Symposium, August 2013.


後半へ続く)