IPEの果樹園2013
今週のReview
12/30-1/4
*****************************
資本主義システムをめぐって ・・・プーチンとEU ・・・クリスマスに寄せて ・・・国際政策協調への期待 ・・・プーチンとヤヌコヴィッチの合意 ・・・中国の政治体制 ・・・移民法の改革 ・・・「ユーロ回復圏」提案 ・・・イギリス労働者の危機 ・・・領土紛争と靖国参拝 ・・・もしドイツが第1次大戦に勝利していたら ・・・冷戦の復活
[長いReview]
******************************
l 資本主義システムをめぐって
The Guardian, Friday 20 December 2013
Why
outer space really is the final frontier for capitalism
Richard Seymour
先進資本主義が衰えている間に,中国が月面探査を行った.中国政府は人類の進歩に貢献しているわけだ.
人類の宇宙移住はあまりにも遅かった.月の地下資源を探査するのは,その意味で,やる気が出る.例えばヘリウム3は,同位元素として,潜在的に石油や天然ガスに代わるエネルギー源だ.月を開発して,地球を救える.
なぜ今までそうしなかったのか? 宇宙を植民地化すればよかっただろうに.その答えは,資本主義が弱く,臆病であるからだ.
資本主義的国家は,戦争でも,暴力的な土地囲い込みでも,何でもやってシステムを維持した.民間部門の企業に任せている限り,人類は月に決して到達しないだろう.ただし国家も,利潤に課税して行う以上,投資への見返りが必要だ.だから常に,国家は宇宙船よりも軍備に多く投資する.火星で休日を過ごすより,アフガニスタンを爆撃する.しかし,宇宙服が原子炉の作業服に応用されるように,地球外の植民にもさまざまな戦利品があるのだ.
つまり,われわれに必要なのは国際社会主義体制である.レーニンにならえば,社会主義=ソビエト権力+惑星間移動,である.資本主義の精神を救うため,宇宙資源開発や宇宙旅行産業を計画する.
The Observer, Saturday 21 December 2013
Without
morality, the market economy will destroy itself
Malcolm Brown(director of mission and public affairs for the Church of England)
勝利した資本主義は慈善の精神を失った,とDavid Simonは書いた.資本主義にマルクスを加える試みや,神を加える議論が起きている.ローマ法王Pope Francisが,資本主義は貧者を無視している,と問題視したとき,Rush Limbaughは法王を「マルクス主義者」と非難した.
若い牧師として,30年奉仕した教区を市場経済が作り変えてしまったとき,私は疑問を感じた.1980年,ケント州,Sevenoaksの裕福な中産層は,自分たちの豊かさを美徳の証とみなして,道義心を忘れた.Southamptonのインナーシティに移ってすぐ,私は「市場諸力」が創り出す商業世界のアパルトヘイトを知った.人々は市場の信念を内部に取り込み,醜い現実について何も感じなくなった.
Friedrich Hayekは,かつて,市場について不満を言うのは,天気について不満を言うのと同じだ,と述べた.しかし,イギリス気象庁は人々の魂までも奪わない.
FT December 23, 2013
Capitalism:
In search of balance
By John Gapper
繁栄から多数の人々が切り離され,これほど格差が拡大しているのは,市場の自律性や金融的投機を擁護するイデオロギーのせいだ,とPope Francisは不平等を批判した.それは多くの人に共感を生んだ.
しかし,世界を見るとき,この主張は2つの意味で間違っている.所得分配はより平等になったし,資本主義がその手柄を自慢できる.確かにグローバルな資本主義はアメリカやヨーロッパから工場や職場を奪ったが,同じ力がインドや中国に豊かさと雇用を生み出しているからだ.それは西側経済を不平等にしたが,世界のバランスを平等にした.
ウォール街占拠運動や,アメリカと中国の間の貿易・通貨摩擦,グローバル企業への課税要求,など,それこそが「われわれの時代の挑戦だ」とオバマは語る.その変化をもたらす力を逆転することは難しい.同じ力が,中国やインド,ブラジルの増大する中産階級によって支持されているから.
「惜しみない連帯」,「経済学や金融から,人間を優先する倫理的なアプローチ」を法王は求める.しかし,どちらの人間を指すのか?
l クリスマスに寄せて
NYT DECEMBER 25, 2013
Liu
Ping’s Christmas in Jail
By DIDI KIRSTEN TATLOW
女性民主活動家の劉平(Liu Ping)は獄中でクリスマスを迎える.彼女がクリスマスに語るのは,信仰ではなく,政治である.中国共産党の腐敗に対して,200人の高官たちが資産を公開するように求めた.
49歳のLiuは,2009年にthe Xinyu Iron and Steel工場を強制的に解雇されたことから,政治家になった.工場からはわずか400元(66ドル)の年金を支給された.彼女は闘って,解雇された労働者たちとともに,月に数百元を追加させた.
地区の人民会議で候補者となるよう試みたが,役所に拒まれた.彼女の関心は政治的に最も扱いにくい問題に向かった.指導者たちの蓄財である.
l 国際政策協調への期待
VOX 20 December 2013
Overcoming
the obstacles to international macro policy coordination is hard
Olivier Blanchard, Jonathan D Ostry, Atish R Ghosh
国際政策協調というのは「ネス湖の怪獣」と似ている.よく話題になるが,だれも見たことがない.数十年前から,あるいは,さらにさかのぼれば戦間期から,協調の努力がなされてきた.
破局が予想される混乱期には,マイナスの効果が波及するのを避けるために,主要なプレーヤー間で自発的な協調が行われた.平穏な時期には珍しいが,プラザ=ルーブル合意のように,無いわけではない.
金融危機の結果,政府債務が増し,実質ゼロ金利で,国内政治が機能しなくなっている.政策担当者たちは,多くの目標を抱えながら,政策手段が限られている.それゆえ国際政策協調への期待は高まる.
波及効果の大きさや指標に関する不確実さと合意の欠如が政策協調の障害になっている.たとえば「通貨戦争」という非難も起きた.非伝統的な政策手段に関しては特に不確実さが強くなる.また国内における政策のトレードオフや,国際的な効果の非対称性も問題になる.
協調が成功するのは,一方的な各国の解決策に比べて,政策協調による改善の効果が大きく示せるときである.また,グローバルな結果に及ぼす各国の役割が明白なときも協調が実現しやすい.すべての国が同じ行動を取る場合(財政刺激策や競争的減価の抑制),協調の説明や実現が容易である.逆に,たとえ効果が大きくても,複雑な協調は実現しにくい.
波及効果を測定する「中立の査定者」が存在することは協調を容易にする.IMFはすでに各国の経済をサーベイしており,諸国間の結びつきを基に,波及効果を評価できる.確かに,大国が小国への効果を理由に政策を抑えることはない.それでも,標識や交通ルールがあれば,マイナスの波及効果を制限する助けになる.経常収支不均衡の極端な拡大,バブルをもたらす資本収支の逸脱は,警告や強制措置を合意することも可能なはずだ.
大国は,協調の利益がないときでも,その波及効果が小国に影響を及ぼしていることを認識し,改善策を考慮する責任がある.
l プーチンとヤヌコヴィッチの合意
VOX 24 December 2013
The
Ukraine-Russia deal
Charles Wyplosz
プーチンとヤヌコヴィッチの勝利に見えるが,この合意は両国を苦しめるだろう.
第1に,ウクライナはこれまでIMF融資に頼って改革を進めようとしたが,何度も条件を達成できず,デフォルトの危機にあった.ロシアとの合意はIMF融資条件を無視するものだ.かつて日本がアジア通貨危機の際にAMF(Asian Monetary Fund)を提案したが,アメリカ政府は直ちに反対した.IMF融資条件と競うものになるからだ.その融資条件はあまりにもソフトだ,とアメリカは見なした.しかし,その後,IMFは融資条件が厳しすぎたことを認めた.その経験から学んで,IMFは,ヨーロッパがEMSを作ったとき,ESMの融資条件が厳しすぎると批判した.
第2に,この合意の経済的な帰結は,両国にとってマイナスである.赤字支出,政治介入,横領は続くだろう.ウクライナ経済は悪化し,再び救済融資を求めるしかなくなる.ロシアがそれに飽きたら,ウクライナはロシアに対する債務をデフォルトにする.経済運営に失敗した国を他国が助けても,その結果は不幸なものである.
第3に,IMFの融資条件はウクライナ政府の補助金を減らすことだった.ウクライナは市場価格を支払えず,大幅な割引でエネルギーを得ることで負担を減らす.ロシア政府はそれを企業に補てんしなければならない.国際価格が回復すれば,ロシアの負担はさらに増える.ロシアは割引価格を続けないだろうから,そのとき,ウクライナ経済は破たんする.一層大きな危機だけが残る.
l 中国の政治体制
NYT December 25, 2013
China
Must Purge Mao's Ghost
By GAO WENQIAN
木曜日,毛沢東の誕生120周年を祝った.その遺産を祝福する指導部の姿勢には,警戒すべきものがある.
毛沢東の死後,鄧小平が改革開放を進めて,毛沢東の間違いについても認めるようになった.現在の共産党指導部は,民主的とは決して言えないが,集団的な意思決定に従い,個人の独断では動かない.だが今,経済が減速し,指導者たちは共産党による権力独占を守る必要を感じている.そのため,中国の「栄光ある」歴史を称えるとき,毛沢東の遺産は都合の良い道具になる.
目覚ましい成長にもかかわらず,農民たちは土地所有を認められず,経済変化の中で翻弄され,都市への出稼ぎで汚染された環境に苦しんでいる.誰もが国営企業に守られていた時代,“iron rice bowl”や,左派の毛沢東主義を懐かしがる.国民は地方の腐敗や不正を糾弾して中央に向かい,経済的な公平さや法の支配を求めている.
今や,神話を捨てるときだ.毛沢東のカルトは中国の社会変化を拒んでいる.昔を懐かしむことは現在の必要な改革から目をそらすことだ.現代に文化大革命を再現するのではなく,法の支配を確立せよ.
l 「ユーロ回復圏」提案
Project Syndicate DEC 21, 2013
Rescuing
Europe from the Ground Up
Hans-Werner Sinn
EUは平和を実現した.自由貿易によって人々に繁栄をもたらした.全体主義体制の復活を許さず,人々に自由な移住をもたらした.すべての加盟諸国において,市民は法の下に平等である.
しかし,不思議なことに,彼らの称賛は共通通貨には与えられない.逆に,ユーロは南欧諸国とフランスを深刻な経済危機に陥れた.私は今までこれほど多くのカギ十字やドイツを憎むスローガンを聞いたことがない.
通貨・財政同盟を実現するには,ヨーロッパ合衆国が必要だった.すべての市民が平等に代表を選び,共通の法体系を持つ.何よりも,共通の軍隊と外交政策を持つことで,安全と安定性を相互に保障する,本来の,長期的に持続する相互保険同盟である.しかし,フランスはヨーロッパの共通国家を受け入れないため,中間的な段階でユーロ圏を保持し,安定化する必要があった.そのためには,厳格な予算制約に基づく弾力的なユーロ圏加盟システムを導入することだ.
第1に,債務会議を開く.南欧諸国の政府に対する債権者,銀行が,債務の一部を免除する.それには,今,民間債権者に入れ替わっているECBも含まれねばならない.
第2に,物価や賃金を引き下げて競争力を回復しなければならない諸国が,あまりにも長期に及び,厳しい条件であるなら,彼らが一時的にユーロ圏を離脱する.離脱のショックを緩和するために公的融資を行うし,新通貨の価値を切り下げることで急速に競争力を回復する.この「ユーロ回復圏」 a “breathing eurozone” は,離脱と再加盟を明確に許容し,規制する仕組みである.ヨーロッパはドルとブレトンウッズのような固定レート制との中間形態を必要としている.
第3に,「ユーロ回復圏」の国は,中央銀行に厳格な予算制約を課す.特に,金もしくはそれに等しい安全な支払い手段で決済する国際収支の上限が制約となる.
最後に,国家の破産処理を明確に行う.これによってしか,南欧諸国を破滅させたような資本流入は防げない.
l イギリス労働者の危機
The Guardian, Sunday 22 December 2013
There's
a new jobs crisis – we need to focus on the quality of life at work
Ha-Joon Chang
キャメロン首相は否定するだろうが,イギリスの労働者たちは生計費の危機a "cost of living crisis"にある.物価の上昇に賃金が追い付かず,2008年の水準に戻るのは2018年かもしれない.われわれは失われた10年にある.
労働者たちの危機はさらに深刻だ.社会に必要とされない感覚は彼らの尊厳を奪う.失業者はより高い率で心臓病を患う,という研究がある.
この数十年で,多くのイギリス人は,労働者ではなく,消費者として自分を認識するようになった.自由市場イデオロギーが,高い所得による消費を人生の究極の目標として信じさせた.労働組合は衰退し,人々は「労働者であること」を時代遅れの存在を見なしたのだ.
良い人生とは何か? 人々は起きている時間の半分以上を職場や通勤で過ごす.所得や消費だけで,労働を無視した生活の評価はやめるべきだ.
l 領土紛争と靖国参拝
FT December 26, 2013
Shadow
boxing in the western Pacific
無人の岩礁をめぐる日中間の紛争が過熱している.
中国は,2012年に日本政府が島を「国有化」したことを非難している.それは日本の右翼政治家が島を買って開発する動きを封じるためだった.中国政府はこの説明を受け入れない.
さらに,日本政府が1970年代の主権棚上げ論を否定したことは事態を悪化させている.1895年以降,中国が日本の主権を認めた,という主張は受け入れがたい.双方は聴く耳を持たず,罵倒し合っている.こう着状態は危険である.事故の可能性,あるいは,急進派による地上(上空,海上)での計画的な挑発も起きかねない.双方の妥協を拒むタカ派指導者や強硬派集団がいる以上,そのような事態が生じた場合,エスカレートする.
中国政府は,わずかな岩礁を守るために米兵を犠牲にしてまで,アメリカ政府が日米安保条約を守るとは思っていない.その方針は日米間にくさびを打つことに成功している.アメリカは,中国の設定した防空識別圏を民間航空機も無視する,という日本の政策に従っていない.
事態が制御不能になるのを防ぐために,3つのことをなすべきだ.1.日本政府は,その主権を譲らないが,1970年代に棚上げ論があったことを正直に認め,旧情に復する.2.中国政府は,紛争を国際裁判所にゆだね,その決定に従うと提案する.
しかし,双方が自分たちの正しさを道義的に譲らず,相手を信用しないなら,せめて,両国間にホットラインを設置し,事故が危機に向かうのを防ぐべきだ.
3.両国の指導者は,前提条件を付けずに会談するべきだ.これを拒む習近平は間違っている.もし安倍との会談を拒むなら,解決の見込みはなく,軍事衝突に向かう.
BLOOMBERG Dec 26, 2013
China
and Japan’s Useless Posturing
By the Editors
1978年に14人の戦争犯罪者を靖国神社が「祀って」から,日本の政治家が靖国参拝することは近隣諸国をまさに憤慨させている.天皇も参拝しなくなった.
しかし,だから安倍は参拝した.日本が北東アジアで道義的な指導者の地位を回復した,と見せたいからだ.同様に敵対的な姿勢を示す中国の習近平に応じたわけだ.
中国政府は,日本や韓国との紛争がある島の上空を含めて防空識別圏を一方的に設定した.それは中国が近隣諸国を虐げる覇権を求めているという不安を強める行為だ.
安倍と習の行動は,単に,国内経済の困難な改革に取り組むため,保守派を黙らせるための戦略として,強硬姿勢を示しただけだ,と解釈する者もいる.しかし,彼らは間違っている.構造改革は言葉だけで,進んでいないからだ.中国の指導者は銀行間資金市場を抑え込もうとして,銀行破たんのショックを招く不安が生じた.日本では大規模な金融緩和と円安が企業の利潤を増やしたが,労働者は諸遠くが増えず,レストランや商店は苦しんでいる.対外的な紛争は,日本や中国の政府に必要なエネルギーと関心を奪ってしまう.
習や安倍の意図とは逆に,攻撃的な姿勢が国を強くすることはない.ただ地域や世界に危険をもたらしているだけだ.
l もしドイツが第1次大戦に勝利していたら
The Guardian, Wednesday 25 December 2013
What
if the Germans had won the first world war?
Martin Kettle
第1次世界大戦は単に「混乱の極み」であったのか,あるいは,「何か意味のある歴史」なのか,意見が分かれている.確かに,全ての立場ですべての人々が,自分は正しいと信じていた.しかし,これはまた帝国間の戦争であった.その帝国の違いを冷静に分析できれば,何かがわかるだろう.反事実的考察がそれを助ける.
1918年11月,Compiegne近郊でドイツ軍が降伏して,第1次世界大戦は終わった.1918年の春に,もしLudendorffがパリを征服し,ドーバー海峡を渡っていたら,20世紀のヨーロッパはどうなったか? ・・・実際,それはもう少しで成功したのだ.
もちろん,ドイツが支配し,ドイツが改造したはずだ.しかし,どのドイツが? それは,ビスマルクが創った軍国主義的,保守的,抑圧的なドイツか? あるいは,20世紀初めのヨーロッパで最大の労働運動を育てたドイツか? また,ドイツが勝利しても,ポツダム和平会談では,ヴェルサイユでフランスがしたような賠償金請求や憤りを与えなかっただろう.その結果,ヒトラーは権力を握らなかった.ホロコーストもなく,第2次世界大戦も起きず,ユダヤ人は生き残ってシオニズムが広まることもなかっただろう.中東の現代史は全く異なっている.
皇帝のヨーロッパではフランスにファシズムが育つが,アルザス・ロレーヌをドイツが支配しているから軍事的な脅威にはならない.敗北したイギリスは海軍を捨て,中東や湾岸の石油利権をドイツに譲らされ,インドのナショナリズムも抑えられない.大英帝国は解体し,現在のイギリスは北欧の社会民主主義的な共和国,王子様のいないデンマークに似ているだろう.
ところでアメリカは,ドイツの勝利によって戦争に参加せず.孤立主義を強めて,国際秩序を強制する国にはならなかっただろう.F.D, ルーズベルトは 1930年代の経済問題に取り組み,日本とは戦争したとしても,ヨーロッパでは戦争しなかっただろう.ソビエトは,強力なドイツの隣国として慎重にふるまい,不安定要素ではあっても,1941年に侵略されることはなかっただろう.第2次世界大戦は起きず,冷戦も存在しない.
しょせん「茶飲み話」か? もちろん.だが2014年の私たちは,国家間の対立する見方を超えて,戦争をより客観的に,より深く学ぶ必要がある.
l 冷戦の復活
WP December 26, 2013
China
and Russie bring back Cold War tactics
By Anne Applebaum
これは冷戦か? いや,そうではない.欧米がロシアや中国と対立しているわけではない.代理戦争を続けているわけでもない.世界は民主主義圏と共産主義圏とに分割されていない.
しかし,中国は東アジアで防空識別圏に従うよう他国に強いた.アメリカ海軍の駆逐艦に進路を変更させた.それは冷戦や戦争の始まりではないが,中国が現状維持を好まず,アメリカの同盟諸国が不安を高めるように仕向けている.
ロシアも,スウェーデン,バルチック諸国,フィンランドの空域を侵し,航空機を妨げ,貿易を選別的に禁じた.長距離ミサイルがドイツに向けられることを示唆した.ロシアも戦争を望まないが,NATOの信頼,アメリカの軍事的保障,西欧諸国の連帯を損なおうとしている.
中国とロシアは協力しているわけではない.相互に好む相手でもない.しかし,両国ともリベラルな民主主義を嫌う.それが北京やモスクワに及ぶことを阻止する決意である.西側のメディア,思想,資本主義が彼らの経済圏を侵すと考えている.その権威主義的な寡頭体制を守るために,彼らはますます高価な代償を覚悟している.
われわれが好まないとしても,歴史は繰り返す.
******************************
The Economist December 14th 2013
Invictus
India: Would Modi save India or wreck
it?
Minimum wages: The logical floor
The Volcker rule: Hedge-trimming
Singapore: Trouble in Little India
Immigration: The Polish paradox
The journey of an Indian onion: Lords of
the rings
(コメント) 南アフリカの資本主義を破壊せず,継承することにしたマンデラと,議会派の停滞に応じてインド政治を変えるナレンドラ・モディのヒンズー至上主義が注目されています.
アメリカは「最低賃金」と「ボルカー・ルール」によって,その資本主義の底辺と頂点を是正する試みに手を付けます.他方,シンガポールとイギリスの移民をめぐる記事が興味深いです.
インドの玉ねぎ価格が高騰し,あるいは暴落する背景を見るとき,テスコ,カルフール,ウォルマートが唱える,市場を機能させるグローバリゼーションの使命を知るのです.
******************************
IPEの想像力 12/30/13
年初から気の重い問題ばかりですが,一つ,興味深い提案に関心を持ちました.Hans-Werner Sinnが示したユーロの根本的解決策です.
ユーロ危機の長期化は根本的な疑問を生じています.・・・何のための通貨同盟なのか? なぜ通貨同盟を維持するのか? ・・・
WolfやKrugmanはドイツを批判しました.ユーロ圏の赤字諸国に緊縮を強いる融資は問題を悪化させている,と.デフレによって債務は減らず,増えるのです.すでに緊急融資は返済できる見込みがなく,債務の減額・再編を交渉すべきです.そして,ドイツはもっと景気を刺激し,賃金を引き上げ,赤字諸国の調整を助ける必要があります.こうした協力体制は,ユーロ圏が為替レートを失ったことの意味なのです.
また,WyploszやDe Grauweもドイツの消極姿勢を批判します.ECBはユーロ圏の中央銀行として,決済システムの不安を払しょくし,加盟諸国の政府債券が取引できないような状態を避けるために介入する,最後の貸し手でなければならない,と.ドイツはユーロ債の発行や,ECBが銀行同盟やESMに融資することにも反対します.ECBがユーロ圏全体の経済状態を見て,インフレ目標を高くし,ユーロ安とデフレの緩和を進めることにも反対です.
Hans-Werner Sinnは彼らに反論しました.ドイツではなく,赤字諸国がユーロ圏の合意を破ったのだ.ドイツは経済改革に成功し,赤字諸国も同様の改革を進めているのであり,融資を免除することで改革が進むわけがない.為替レートを失うとは,財政赤字を抑え,構造改革によって競争力を高める,という意味だ.それができない赤字諸国の政府債券をECBが保証し,あるいは,ユーロ債を発行して救済することは間違っている,と.
当然,ユーロ危機について,学生たちに質問されました.どうすればよいのか? と.・・・私は,多くの観察者と同じように,対称的な「調整政策」を支持し,ヨーロッパ経済の停滞は黒字国のドイツなどに責任がある,と考えました.ECBの立場が制約されているのも間違いです.不況地域への投資や財政移転が行われ,好況地域への労働力の移動が促進されることが共通通貨圏の意味だ,と思ったからです.
しかし,Hans-Werner Sinnの根本的な改革案は,ドイツの消極姿勢を逆転します.共通通貨圏には共通の国家が必要だ.むしろ,フランスがヨーロッパ国家を拒むから,ユーロ圏は中間的な段階にとどまっている,と.もしこの政治的な限界が変わらないのであれば,赤字国がユーロ圏を一時的に離脱しても,調整後に復帰できるような制度が必要です.すなわち,独自通貨と為替レートによる調整を利用できる「ユーロ再生圏」です.
BuiterやAslundはユーロ圏離脱から崩壊へのリスクと混乱,膨大な損失を警告してきました.ユーロによって契約されたさまざまな関係が,新しい独自通貨にどのように継承されるのか? アルゼンチンが対ドル固定制を放棄したときの混乱がどうであったか,参考になるはずです.少なくとも,アルゼンチン経済は崩壊しませんでした.あるいは,IMFの監視下で債務処理と為替レート切り下げを実行したアイスランドです.
固定レート制が維持できなくても,現状の変動レート制が望ましいとは思えません.私は,John Williamsonが唱えた中間的選択肢を支持しました.Hans-Werner
Sinnの「ユーロ圏の再生措置」は,ユーロ圏だけでなく,国際通貨制度の柔軟な再生を可能にする仕組みになる,と思います.異なるガバナンスの移行を平和的に受け入れ,そのコストを吸収するシステムに合意する,という新しい挑戦です.
しかし,Sinnの提案は,本当に実現するというより,実現できないからドイツの姿勢は正しい,という意味にも取れます.私たちは国家の政治指導者たちが共通通貨圏(共通の国家)を拒否し,あるいは,利用する局面を避けられません.それでも国際社会の統合化が進むとしたら,通貨圏と並行して,若い,勤勉な移民たちを歓迎する社会・政治システムの構築に向かうときでしょう.
アジアも,好戦的ナショナリズムの発作を鎮静化できるガバナンスを競い合ってほしいです.
******************************