前半から続く)


l  Ha-Joon Chang

FT November 29, 2013

Lunch with the FT: Ha-Joon Chang

By David Pilling

Ha-Joon Changは,精力的に経済学を叩き切って,ベストセラーを書いた.23 Things They Don’t Tell You About Capitalism (2010) and Bad Samaritans: The Guilty Secrets of Rich Nations and the Threat to Global Prosperity (2007)

Changは数学を使わない.経済学がそれほど狭い学問であるとは考えないからだ.「多くのエコノミストは私をエコノミストとは思わない.」 経済学は物理学をまねた科学を目指し,複雑な数学を使うほど尊敬されるが,Changはそう考えない.むしろ経済学とは,多くの領域の知識を駆使して現実の経済を理解する学問なのだ.生物学が,さまざまな異なる方法で研究しながら,現実の生命体が複雑であることをよく理解しているから一つの学問であるように.

Freakonomics (2005)を書いた Steven Levitt and Stephen Dubnerが成功したのは,彼らが人間行動を利己的で合理的と仮定し,主流派経済学者たちも受け入れたからだ.しかし,たとえ個人が合理的であっても,人間は集団的に非合理な結果をもたらす.バブルがそうである.

・・・経済学は複雑な数学と統計でできた科学になり,エコノミストは専門技術者や中央銀行家のための聖書をラテン語から翻訳する大司教になった.私は主流派経済学者のように真実を独占していると思わないが,現実の異なる側面を指摘する.

Changが生まれる2年前,韓国の一人当たりGDP82ドルで,ガーナの179ドルより少なかった.その頃,軍事クーデタで権力を握った朴正煕は,鉄鉱石もコークス用石炭もない韓国に,製鉄業を設立すると決めた.朴は独裁者であったが,いくつかの鋭敏な選択を行った.経済学や比較優位を完全に無視して,彼は製鉄業を成功させ,韓国経済の成長を導いたのだ.熱帯の島でバナナを植えても,貧困からは抜け出せない.

Changは産業政策を研究した.もちろん,産業政策が失敗したケースも多くある.彼は,保護が必ずしもその産業の成功を意味しない,と応える.「われわれは市場を何か自然な存在と信じているが,それは間違いだ.市場とは政治の産物である.」

スミス,マルクス,シュムペーターにとって,経済学は,常に,倫理学を含んでいた.


l  破滅への経済戦略

Project Syndicate NOV 30, 2013

Turning Good Economic Luck into Bad

RICARDO HAUSMANN

ある国々が非常に優れた経済から最後は大混乱で終わるのを説明するのを正しく理解するのはしばしば難しい.まるで地下室から飛び降りて自殺を図ったみたいに.

その典型は,輸出品の高価格を扱いそこなったアルゼンチンとヴェネズエラだ.彼らは経験から学ぶことなく,自殺のような政策を繰り返した.

すべてはインフレ(もしくは,為替レート,電力,水道,ガソリン,など,重要商品の価格上昇)を生じる圧力で始まる.政府は価格を低く管理し,さらに不足させるのだ.

最もひどいのは為替管理だ.財政と金融が緩和されすぎて貨幣の洪水をもたらすとき,中央銀行が供給できる以上のドル需要が発生する.政府は通貨の減価を嫌って,為替を管理し,「本当に」ドルを必要とする人々のために,「人民」を苦しめる「投機家たち」を阻止する,と言うのだ.

為替管理と,しばしばそれにともなう価格管理は,二重の為替レート(合法と非合法)を生じる.それは裁定による大きな利益をもたらすのだ.輸入は過大に申告され,輸出は過少に申告される.生産の誘因が歪み,不足が生じる.このとき輸出からの税収に財政を依存している政府は,さらに財政赤字とインフレを進めてしまう.

なぜこんな戦略を取るのか? すべてのシステムには勝者と敗者がいる.アルゼンチンやヴェネズエラの勝者は,外貨を優先的に得る者,政府の赤字支出で利益を得ている者,マイナスの実質金利で借り入れている者,割り当ての商品を得るために長い行列に並ぶ必要がない者である.

そのようなシステムは広く支持される確信を強める.多くのビジネスが価値を創らず,為替の割り当てから不労所得を得ている.人々は容易に,市場は機能しない,と確信する.企業家は泥棒であり,政府は彼らを管理し,「公正な価格」を教えるべきだ,と.

Project Syndicate DEC 2, 2013

Lost in Transition

OTAVIANO CANUTO

FT December 4, 2013

Brazil slows down


l  もう一つの「アラブの春」

NYT November 30, 2013

The Other Arab Awakening

By THOMAS L. FRIEDMAN

「アラブの春」は2つある.あなたが聞いた革命は,安定した,社会を包摂する,民主的な秩序を築くのに失敗したTunisia, Egypt, Syria, Yemen and Libyaの「アラブの春」だ.

しかし,Saudi Arabia, Dubai and Abu Dhabiのような,湾岸諸国を見れば,そこにも指導者と人民との関係を次第に転換する動きが起きている.


l  イギリスの回復?

The Observer, Saturday 30 November 2013

Let no one be fooled: this is not the triumph of austerity, Mr Osborne

Will Hutton

The Guardian, Thursday 5 December 2013

Osborne's autumn statement was a study in pessimism. Who will offer hope?

Polly Toynbee

FT December 5, 2013

Autumn Statement 2013: Britain’s needlessly slow recovery

By Martin Wolf

問題は,回復とは何か,である.政府は,失われたものを回復するのはあきらめろ,と言う.その悲観的な見方を共有するものだけが,政府の緊縮政策がもたらした「回復」を見るだろう.

政府は財政再建だけを重視して,財政的支援の余地がありながらこれを削減した.それは民間投資にも影響したはずだ.

NYT December 5, 2013

British Finance Chief Hails Austerity’s Benefits

By STEPHEN CASTLE


l  賃金引き上げ

FT December 1, 2013

A higher minimum wage is the tonic America needs

By Edward Luce

この30年で初めて,ウォルマートやマクドナルドのような企業に,賃金引き上げの圧力が強まっている.最低賃金の引き上げは,貧血症のアメリカ経済が必要としている刺激策を,納税者の金を使わずに可能にするからだ.

FT December 1, 2013

What sports tells us about growth with redistribution

Mohamed El-Erian

NYT December 1, 2013

Better Pay Now

By PAUL KRUGMAN

NYT December 1, 2013

A Swedish Retailer Promises a Living Wage

By THE EDITORIAL BOARD

theguardian.com, Thursday 5 December 2013

I've worked at McDonald's for 5 years and have 4 kids. Any questions for me?

Laurentina

theguardian.com, Thursday 5 December 2013

Poverty wages in the land of plenty

Amy Goodman

NYT DECEMBER 5, 2013

Making Low Wages Livable


l  中国の国内改革

FT December 1, 2013

Beijing must pull off a mix of Mao and markets

By Robert Zoellick

中国の三中全会は,毛沢東と市場を組み合わせた.中国の指導部が,成長モデルの構造転換が必要だ,と認めたことは良いニュースである.ネット規制など,政府批判を許さない姿勢を見れば,習は,鄧小平の優先順位と毛沢東の手法を学んだのだ.

さらにもう一つ,国内改革とWTO加盟交渉を組み合わせたZhu Rongjiの手法である.

FT December 1, 2013

An opportunity to take the guesswork out of investing in China

By John Authers

The Guardian, Monday 2 December 2013

The lies behind this transatlantic trade deal

George Monbiot

FT December 2, 2013

WTO: Up in the air

By Shawn Donnan

FT December 5, 2013

China signals shift towards plurilateral trade deals

By Shawn Donnan in Nusa Dua


l  バンコクの政治騒乱

NYT December 1, 2013

Thai Protests Turn Volatile as at Least 3 Are Shot Dead

By THOMAS FULLER

FT December 2, 2013

Lessons from Asia’s reversal of fortunes

By GwenRobinson

バンコクとヤンゴンは,現代アジアの「二都物語」である.今や,タイの経済成長は政治的混乱の中で陰りを見せ,その輝きはミャンマーの開放と民主化に移った.

NYT December 3, 2013

Economic Realignment Fuels Regional Political Divisions in Thailand

By THOMAS FULLER

FP DECEMBER 3, 2013

Lemon Law

BY DANIEL ALTMAN

Global Times | 2013-12-3

Thailand misreads essence of democracy

By Global Times

Project Syndicate DEC 5, 2013

Thailand’s Democratic Disorder

THITINAN PONGSUDHIRAK

選挙で成立したタイ政府が,反対する少数派のデモによって首都を占拠される事態は,民主主義そのものの正当性を破壊しつつある.タイ政治の分裂・両極化は深刻であり,妥協する余地はどこにもない.

新興諸国の民主主義では,しばしば,反政府運動が,選挙の少数派において,旧エリートたちの指導で組織される.社会の底辺層や不満を持つ人々が,ソーシャル・メディアで,反政府派に大衆的な基盤を与える.彼らは大義を掲げて街頭を占拠し,敵対勢力の権威を傷つけることができる.

多くの国で,民主主義の多数派と少数派のダイナミズムが機能しなくなっている.民主的な政府が権力を維持できる期間はますます短くなる.


l  ドイツとユーロ

BLOOMBERG Dec 1, 2013

Good-Bye to Germany’s Angela I, Empress of Europe

By Josef Joffe

NYT DECEMBER 2, 2013

State of the (European) Union

FT December 3, 2013

The right cure for the Dutch disease

Project Syndicate DEC 4, 2013

An Agenda to Save the Euro

JOSEPH E. STIGLITZ

ユーロはヨーロッパの成長,繁栄,団結を実現するはずだった.しかし,今は停滞,不安定,分裂を意味する.

ユーロの設計はネオリベラリズムに染まっている.すなわち,何よりもインフレを抑えること.成長や安定にはそれで十分だ.中央銀行の独立性があれば,それによってのみ,金融システムの信頼性は与えられる.債務を減らし,財政赤字を減らせば,ユーロ圏は中心の諸国に収斂する.貨幣と人が自由に移動する単一市場によって効率性と安定性が実現する.

こうしたことはすべて間違いだとわかった.もっと独立性の低い新興市場の中央銀行は,もっと危機を適切に処理した.スペインやアイルランドは危機前に債務も財政赤字も少なかった.資本と人の自由移動で,危機に陥った諸国は債務負担や空洞化,労働力の非効率な再配置を強いられた.

緊縮策によって景気を回復できた国はない.内的な切り下げが成功するなら,国際金本位制も,アルゼンチンも,崩壊しなかった.

Project Syndicate DEC 5, 2013

The German Scapegoat

DANIEL GROS

世界人口の1%でしかない,世界GDP5%にもならないドイツが,世界経済の不況に責任があるのか? アメリカ財務省の通貨操作キャンペーンは,欧州委員会も加わって,間違ったコーラスを奏でている.

ヨーロッパ経済内では,確かにドイツが重要であるが,ユーロ圏GDP30%EU4分の1)以下であり,決して支配的ではない.北欧・チュートン諸国は黒字を出しているが,ユーロ圏(ドイツ,オランダ),ユーロに固定(スイス),変動制(スウェーデン)のように,その制度的な違いは明白だ.

ドイツの黒字が減っても,南欧の赤字諸国はその利益をほとんど受けないだろう.むしろ黒字諸国(ロシア,中国,日本)がさらに黒字を増やす.ドイツを責めるのは,合わせて8000億ドルの経常収支赤字を出すアメリカ,イギリス,英連邦諸国,という「アングロ・サクソン」貯蓄不足諸国である.

ドイツを責めても問題は解決しない.


l  アメリカの指導力

FP DECEMBER 1, 2013

The President Who Went Nuclear

BY DAVID KENNER

Project Syndicate DEC 2, 2013

The Great American Losing Streak

SHLOMO AVINERI

Project Syndicate DEC 3, 2013

Who Should Lead the Global Economy?

HAROLD JAMES & DOMENICO LOMBARDI

世界経済を牽引するのはだれか? 16世紀のスペイン,19世紀のイギリス,20世紀のアメリカ.次は? 中国? EU?

1に経済規模である.経済が大きいほど,システムに与える影響が大きく,国際的な意思決定にも重要な役割を占める.アメリカ(16.7兆ドル),ユーロ圏(12.6兆ドル),中国(9兆ドル)には,いずれもその資格がある.

将来の見通しも重要である.誰もユーロ圏が高成長するとは予想しない.中国のGDP2020年にアメリカを抜くかもしれないが,その人口抑制策の影響で成長が低下するだろう.それ故,アメリカが優れている.

また,貿易,通貨,金融の国際システムに果たす役割も重要である.この点では中国よりもユーロ権威資格がある.

さらに,真の指導国は,他の諸国や市場が機能するようなグローバルな経済構造を形成し,結びつける必要がある.それこそアメリカが過去70年間行ってきたことだ.

現在,アメリカは世界の基軸となる国際通貨を供給し,さまざまなシステムを結び付けている.貿易赤字が続いても,危機を生き延びてきた.アメリカの赤字は,輸出によって成長するドイツや日本,中国にとって必要でもあった.

世界経済は,融資条件を決めるという意味で,黒字国によって指導されるのがふつうである.中国やヨーロッパが次の指導国になるとすれば,19世紀のパックス・ブリタニカに似た,長期の資本供給国になる.しかし,さまざまなショックを乗り越え,グローバルで複雑な金融システムの中心が機能するほど,まだ,どちらの国内制度も十分に準備されていない.

FP DECEMBER 3, 2013

Augustine's World

BY ROBERT D. KAPLAN

聖アウグスティンの時代,ローマ帝国は絶頂を極めてから,およそ500年で滅んだ.帝国は崩壊し,全てが変化して,各地に文明の廃墟から<部族>の支配が誕生した.現代は,もっと早いだろう.

チェコ系イギリス人の社会人類学者,Ernest Gellnerは<近代>を,部族主義がほろんだ結果,中央集権化した権力が成立した時代,と定義した.しかし,現在,逆のことが進行している.四輪駆動車,衛生電話,プラスティック爆弾,携帯型ミサイルが,古代末期と21世紀の<部族>支配を結び付ける.

FT December 4, 2013

India is out of the woods but a long way from safe

By DavidPilling

NYT December 4, 2013

The President, the Pope and the People

By CHARLES M. BLOW

FP DECEMBER 4, 2013

Linked Out

BY CHARLES KENNY

FP DECEMBER 4, 2013

The Linchpin

BY TIM ROEMER

Project Syndicate DEC 5, 2013

Governance in the Information Age

JOSEPH S. NYE


l  日本の転換点

BLOOMBERG Dec 2, 2013

Japan’s Secrets Bill Turns Journalists Into Terrorists

By William Pesek

2013-12-02 (China Daily)

Time Japan owned up its war crimes

By Martin Sieff

NYT December 2, 2013

Japan in a Post-Growth Age

By NORIHIRO KATO

小泉元首相が発言してから,日本のメディアは月原発を好意的に伝え始めた.なぜ彼は変心したのか?

日本人は,「失われた20年」を悔いる気持ちから,2011年の大震災と津波,福島原発事故を経て,もはや過去の政党の時代は再現できない,成長の時代は終わったのだ,という気持ちに変わり始めた.

2012年の選挙は,それを問いながら,自民党がアベノミクスを掲げて勝利した.20年間の停滞は打破できる,というメッセージが多数を占めたわけだ.しかし,いよいよアベノミクスが実行されてみると,輸出による高度成長が回復する,という幻想は現実と合わなくなっている.

小泉は,自民党の若手政治家たちのために,アベノミクスが瓦解した後の自民党支配を築く方針を示そうとしたわけだ.

FT December 5, 2013

To grasp Japan, you need to step through the looking-glass

By Peter Tasker

アベノミクスをイギリスの1970年代と比べてみたくなる.イギリス政府が,当時,労使双方を呼んで,サンドイッチを食べながら合意を促した.

安倍政権は,資本規制によって資本逃避を阻止したりせず,むしろ巨大な年金基金に海外投資を促して円安を進めた.賃金引き上げ要求を抑えるのではなく,むしろ賃金引き上げを促した.その政治的な計算は明白だ.円安によって輸出企業が儲け,金融ビジネスも儲かっている.しかし,労働者たちの賃金は低いままだ.その上に,政府は消費税を引き上げる.

日銀による量的緩和も,債券市場の予想では0.5%のインフレしか実現できない,と2%の目標にはほど遠い.しかし,日本の人口は減少し,大規模な移民も拒んでいる.労働市場は次第に賃金を引き上げるだろう.イギリスの所得政策は願いをかなえなかったが,安倍には労働市場が味方する.

FP December 5, 2013

In Japan’s State Secrets Law, Shades of Red, White and Blue

Posted By Catherine A. Traywick


l  キャメロンの中国外交

FT December 2, 2013

Cameron’s zigzag approach to China

The Guardian, Tuesday 3 December 2013

Britain and China: the wheel turns

Editorial

FT December 5, 2013

A painful lesson in how not to deal with China

By Philip Stephens


NYT December 3, 2013

The Poor Need Cheap Fossil Fuels

By BJORN LOMBORG

Project Syndicate DEC 4, 2013

Plugging in Green Tech

EDWARD JUNG


l  豊かな国の停滞?

Project Syndicate DEC 4, 2013

What’s the Problem With Advanced Economies?

KENNETH ROGOFF

成長は減速したのか? 投資不足や技術進歩の減速が問題ではなく,債務削減の仕組みを示さなかったことが問題だ.政府による支出と乗数に期待するより,民間投資を促すほうが重要だ.

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The Economist November 23rd 2013

The man who used to walk on water

Special Report: America’s foreign policy – Time to cheer up

Afghanistan after 2014: Harder than it should have been

Reforming China’s state-owned firms: From SOE to GLC

The Balkanisation of banking: Putting Humpty together again

(コメント) オバマ政権のアメリカ外交に関する考察が興味深いです.オバマは,ブッシュの負の遺産から解放されて,アメリカの軍事力や経済力における優位を,地域の安定化や現実の秩序再編に結びつける戦略を持たなければなりません.アメリカの利益として,また,各国が参加することを望む理想的な基準として,外交を駆使し,国際機関を再び活性化するでしょう.

アフガニスタンがアメリカ軍やNATOの活動を受け入れる条約は,日米安保条約に似ているな,と驚きました.莫大な費用と人命を費やして,戦争に勝利した側は占領し,秩序の再建に関与しなければならないのです.

中国の国有企業改革と,先進諸国の銀行改革に,グローバルな市場圧力と制度の革新を模索するエリートたちの苦闘を想います.

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IPEの想像力 12/9/13

日曜日の朝,テレビを点けると,「新報道2001」で,最近の論争点から,数人が議論していました.面白いな,と思ったのは,桝添要一が,「集団的自衛権」の理解を,自民党幹事長の石破茂に質し,石破がそれに応えたときです.それは,必ずしも厳密に以下のような会話ではありません.しかし,それを基に,多分,こんな主張であったかな,と思いました.

「集団的自衛」とは,自国が攻撃された場合も,他国が攻撃された場合も,集団で自衛するために戦争に参加する,という仕組みである.しかし,この地域でパワー・シフトが起きており,数年で中国の経済規模がアメリカを抜くかもしれない.日本もこれに対応しなければならない.石破の主張は従来の「集団的自衛権」と少し違うものだ.・・・

これに対して,石破の答えは,国民を説得することは難しい.中国にとって国境線は戦略的なものであり,移動するものだ,と主張しました.私たちの考えではそうではない.各国は国境を維持し,自由と民主主義を守っている.集団的自衛権によって,われわれはこうした政治体制を守る,ということだ.これを理解してもらう.・・・

桝添は,中国の行動を理解できるものとして示しました.中国から世界地図を見ると,日本は太平洋に向かう中国にとって,それをふさぐ障害に見える,と.それはどういうことか? 日本が尖閣諸島で中国と合意に達するのは難しく,たとえ合意したとしても,今後,中国の攻撃的な行動は続くだろう.・・・

これに応えて,石破は,よく知られているように,中国にとって望ましい国際関係は「朝貢」である,と指摘しました.「中国に従えば,悪いようにはしないよ」という主張を受け入れたことを,各国は「朝貢」という形で示すのだ.そうなるまで,中国は様々な圧力を強めてくる.だから集団的自衛権が必要であり,これまで反対した人々も含めて,国民に理解してもらうまで,自民党は丁寧に説明し,説得しなければならない.

そして,そのためにも,安倍首相の経済改革が成功しなければならない,と強調する.日本経済が弱ければ,アメリカも中国も日本の主張を重視しないだろう.・・・

石破茂の発言は慎重で,これまで防衛問題の専門家・利益代表者と思っていた以上に,政治家として合理的・現実的である,と思いました.たまたまゼミ生と話した「日本の大戦略」(R.サミュエルズ)に拠るなら,「富国強兵」に回帰するエッセンスを,この対話は伝えています.

公明党は反対しているようだが,と司会者に質されたとき,石破の発言が,国内の「朝貢」システムに似ているのは,理由のあることでしょう.国内の政治的秩序とは,概ね,地位や特権,経済力を,支配者によって配置するパワーや仕組みであるからです.中国の場合,おそらく,その国内の政治システムに従う形で,周辺の諸国が同じ,ただし下位のシステムに帰属することを許すのです.それは中国が経済的に繁栄し,政治の安定性や高尚な文明化の源泉であると認められる時代に成功したかもしれません.しかし,逆に,経済的な破滅や不安定化,野蛮な政治弾圧の時代には,この地域に不安定化と鎖国・隔離をもたらしたのです.

安倍や石破が,R.キャンベルの言う,21世紀型の国家ではなく,20世紀型の国家に拠って,集団的自衛権を考えているなら,冷戦思考という非難を日本も中国とともに受けるでしょう.そして,アメリカの特異な優位を利用した東アジアのバランス・オブ・パワーによって,日中ともに,この地域的な冷戦思考があだとなり,アメリカの利益に従って振り回されるのか,と思いました.

中国は,国内改革に安定した成果を上げるとともに,国際システムの改革・運営に必要な独自の手法とソフトパワーを習得しなければならないでしょう.アメリカは,地域のバランス・オブ・パワーを操作するにとどまるのではなく,既存の秩序に隠されたアメリカの特権を,市民の公平な視点から改革する積極的姿勢を強調しなければならないでしょう.

地域のバランス・オブ・パワーが変化を吸収して,平和を維持するでしょう.その過程を注視しつつ,中国の国内改革を支援し,アメリカの新しい国際秩序に積極的に参加するため,日本は資源を配置します.

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