IPEの果樹園2013

今週のReview

10/7-/12

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イランとアメリカ ・・・中国の新しい影響力 ・・・アメリカの金融政策 ・・・シリアと中東秩序の再編 ・・・アメリカの政府閉鎖 ・・・嵐の前の静けさ ・・・日本の消費税引き上げ ・・・指導国の消えた世界 ・・・分離か,統合か?

 [長いReview]

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l  イランとアメリカ

FP September 30, 2013

America's Empty Gestures Toward Iran

Posted By Stephen M. Walt

FTに載ったRichard Haassの論説を読むべきだ.Haassは交渉の障害をいろいろ指摘しているが,イランが核開発計画を放棄する代わりに,アメリカが与えるものを示している.経済制裁の解除だ.

しかし同時に,Haassは,アメリカが体制転換を意図していない,ということ,また,イランがNPTの認める核の平和的利用を行う権利を受け入れる,ということをアメリカの「善意」として提示しているのだ.これは,アメリカ外交にのみ見られる交渉姿勢である.アメリカは様々な外交手段を選択できるから,強硬策を取り除くことを「善意」や「ギフト」と考える.(イランが,アメリカの体制転換を考えない,とわざわざ宣言するだろうか?) NPTのような国際条約の認める基本的権利に関しても,アメリカだけは,自国の選択として行う(許し,与える)と考えている.そして,アメリカは多くの譲歩をしたが,相手国からは何も得ていない,と感じる.

結局,イランの譲歩に対して,アメリカは何も示していないのだ.


l  中国の新しい影響力

FT September 27, 2013

Jack Ma, the mogul heading to Wall Street

By Jamil Anderlini

香港市場の規制に憤慨して,アリババの創業者であるジャック・マーはウォール街への進出に切り替えた.その宗教に近い強烈な企業文化,攻撃的な経営者の支配は有名だ.

ジャック・マーは,文化大革命が始まった頃,1964年,杭州市の東部で生まれた.中国のインターネット販売を広め,シリコン・バレーの巨大企業とも戦った,すでに伝説の企業家である.彼は企業の長命を考えた末に,スティーブ・ジョブズと違って,企業の経営を支配し続けることにした.

マーの両親は伝統的な講談師であったが,マーは2度受験に失敗した後,大学に入学する.卒業後,英語を教え,翻訳の会社を設立,アメリカへ旅行する.このときインターネットに出会い,杭州市のアパートの部屋で,17人の友達から集めた6万ドルにより,アリババを設立した.すぐに,Goldman Sachs と日本のSoftBankからも投資を得た.Yahooとは企業の分割をめぐって訴訟になったが,最終的に,Yahooが敗訴し,マーに持ち株を売却する.それでも10億ドルの投資に対して200億ドルを得ただろう.

FP OCTOBER 1, 2013

Appetite for Destruction

BY DAMIEN MA, WILLIAM ADAMS

中国人の胃の腑を満たすことが,世界の肥料生産や豚肉処理工場への投資を大いに刺激している.中国経済の驚異的な拡大により,2012年,世界の石炭の約半分を消費し,鉄鋼の46%,アルミニウムの43%,セメントの60%を生産した.2013年に成長を減速したのは,政府がこのような資源消費型の成長を維持できないと認めたからだ.

GDPが増大し,所得が増え,生活水準が改善するほど,中国の国内食糧供給は不足する.人類の20%の胃袋を,世界の耕作可能な土地のたった8%,世界の一人当たり淡水利用料のわずか30%で満たさねばならない.さらに政府は穀物の安全保障として輸入を禁じ,ほとんど自給を強いている.

アメリカ人よりも肉を多く食べる中国の中産階級は,現在,人口の10%14000万人であるが,2020年までに人口の40%になると予測されている.残念なことに,ポーク・チョップは木にならない.肉を自給することは,穀物を自給するよりはるかに困難だ.日本や台湾と同様に,中国でも,都市化によって農地が失われ,所得の上昇で食糧消費の多様化,農村人口の減少が進み,次第に農産物輸入が増えるだろう.

これは世界の農業生産に重要な意味を持つ.中国で新しい緑の革命が起きるのは難しそうだ.中国はいやいやながら世界の食糧市場に参加するだろう.そして,それはアメリカのような食糧輸出国にとって利益である.しかし,中国の工業ブームが,世界中の石油,石炭,鉄鋼正規の値段を引き上げたように,この先,食糧価格がアメリカでも世界の他の地域でも上昇するだろう.中国は世界の食糧需給を変えるのだ.

チャイナ・プライスとは,これまで,工業製品の破格の安さを意味していた.しかし将来は,食糧品の破格の高値を意味するようになるだろう.


l  アメリカの金融政策

Project Syndicate 27 September 2013

Don’t Cry for Me, Ben Bernanke

Simon Johnson

「バーナンキさん,どうかQEをやめる時期を考えるとき,私たちアメリカ以外の経済のことも考えてください.」・・・というのは無理だろう.

アメリカが,1998年秋,アジアやロシアの危機に対して,「世界救済委員会」のような金融緩和を行ったのは本当だ.より最近も,金融危機に苦しむ新興諸国や,特にECBに対して「スワップ」を提供した.しかし,FOMCの金融政策決定に外国の経済事情を考慮する,というのはありえない.

もちろん,FOMCはドルの世界的な役割を知っている.1944年のブレトンウッズ会議以来,アメリカはドルの国際的な利用を促してきた.1971年以前は,金と結び付けてドルの価値を保証していた.ニクソンがこの結び付きを切ってからも,民間投資家は安全な金融資産の保有をドルに集めている.

国際金融取引に占めるドルの重要性が低下する気配もない.ドルに変わる通貨は存在しないからだ.円も,ユーロも,まして,将来の経済・金融的安定性を予想できない中国の人民元では,ドルに代わることができない.

そこでアメリカは,嫌なら帰れ,というわけだ.あるいは,アメリカで買い物をして,ドルを使ってしまうことだ.どのような商品も,その発行国の市場価格で買えるというのは,準備通貨の条件である.IMFSDRにはできない.

世界中の国はアメリカのドルにエクスポージャーを抱えているが,それが避けられない現実なのだ.だからブームのときも,ドル建ての債務を過剰に抱え込まないように個人や企業を抑制し,金融機関には十分な準備を求めるしかない.


l  シリアと中東秩序の再編

NYT September 28, 2013

Imagining a Remapped Middle East

By ROBIN WRIGHT

国際秩序の政治・経済的な旋回軸である中東の地図がぼろぼろになっている.シリアの破滅的な戦争が転換点である.対立する信仰,部族,エスニシティ,それらはアラブの春の意図しない結果として強まった.こうした遠心力によって,ヨーロッパの植民地支配者たちが決めた地域,そして,その後は王族が管理した土地が,崩壊しつつある.

中東の異なる地図が,すべての者にとって戦略的なゲームを転換するだろう.同盟関係を変え,安全保障上の挑戦者を変え,世界の貿易とエネルギーの流れを変える.

シリアの優れた位置と軍事力が,この国を中東の戦略的な中心地にしていた.しかし,シリアは複雑な国家である.宗教やエスニシティが多様で,それゆえ,壊れやすい.独立後も多くのクーデタが起き,最後に,アサドが王制を敷いた.今や30か月の内戦を経て,国土が3つに分裂しつつある.第1に,アサドと少数派のアラウィートが支配するミニ国家,南部からHomsHamaを経て,北部の地中海沿岸部を支配する.第2に,北部のクルド人支配地域.第3に,スンニ派が支配する,最大の内陸部だ.

シリアの混乱は,隣国イラクに波及する.イラクはこれまで,外国の圧力,孤立する恐怖,契約の上では共有している石油の富,によって分裂を避けていた.しかしシリアのシーア派とスンニ派の内戦がイラクの政治にも影響しつつある.時が経つにつれて,イラクの少数派であるスンニ派は,特に西部で,シリアの東部で多数派のスンニ派と協力し始める.国境を越えた部族間の密貿易も盛んである.それは事実上,もしくは正式なスンニ・スタンとなり,南部にはシーア・スタンが現れる.

シリアとイラクの2つのクルド人に支配的な政党は異なっていたが,8月に国境が開放されて,5万人以上のシリア・クルド人がイラク側に逃れた.そして,国境圏のコミュニティーが形成されている.イラク・クルド人のMassoud Barzani大統領は,最初のクルド人会議を,4か国(Iraq, Syria, Turkey and Iran),40政党,600人で開催する計画を示している.

1次世界大戦後に解体されたオスマン帝国が生き延びていたら,どうなったか? 地理的現実とアイデンティティを反映したら,どうなるか? アラブの春に火を点けたのは,王室による専制支配だけでなく,権力をより分散して,ローカルなアイデンティティに近づけ,資源に対する権利を握ることだった.

リビアの蜂起は,カダフィ大佐を追放するだけでなく,西部トリポリの支配に対する東部ベンガジの要求があった.部族が異なり,目指す世界が異なり,しかも東部の油田が80%の石油を産出してもそれを西部のトリポリが支配していた.だからリビアも2つか3つに分割されるだろう.

他の諸国も共通の財やアイデンティティを欠き,不安定である.民主主義と,新しい期待を持った有権者の要求とを一致させることは難しい.

イエメンは3月に国民対話を開催した.しかし,北部の反乱,南部の分離主義は収まらないだろう.連邦制や,南部の分離を問う住民投票が約束されるかもしれない.南部イエメンはサウジアラビアと統合する,と噂されている.同じスンニ派であり,双方に家族がある.アラブでも最貧のイエメン南部がサウジの豊かさを得られ,サウジはアラビア海への貿易の出口を得る.それはホルムズ海峡を実質的に支配するイランへの不安を軽減する.

もっとも空想的な意見では,サウジアラビアがバルカン化する.8車線の高速道路で威勢を示しても,異質な文化,部族アイデンティティ,宗派の対立が,特に東部の石油地帯において,激しくなっている.何千人もの王子を抱えるサウド家の世代交代は紛争をはらむ.

ナショナリズムの重要性を決めるのは論理ではなく,帝国の嗜好と貿易である.紛争と過酷な移行期において,伝統的なアイデンティティとナショナリズムのどちらが強いのか? シリアのナショナリズムは多元化し,クレンジングの恐怖があり,銃が違いを強めている.宗派による分割は近代の中東になかった現象だ.

しかし,他の要因が中東を紛争から救い出すかもしれない.すなわち,グッド・ガバナンス,優れた公共サービスと治安,公正さ,雇用と資源の公平な分配,あるいは,共通の敵である.国家とは,ミニ同盟の集積である.シリア内戦が長引くほど,地域は不安定化する.


l  アメリカの政府閉鎖

FP SEPTEMBER 27, 2013

Absurdistan, D.C.

BY GORDON ADAMS

連邦議会の予算劇はますます複雑で,興味を引き,厄介なものになっていく.最初の悲劇は,20118月,非民主的な手続きを生んだ予算案の通過であった.防衛予算や行政の予算を無責任に削ったのだ.

今,われわれは新しい芝居を見ている.共和党が,もし「オバマケア」の財源を削減しなければ,政府を閉鎖するぞ,と脅したのだ.しかし,そんなことは不可能だ.その多くは規制による行政手続きで,裁量的な部分ではない.また,いわゆるオバマケアとは,オバマが決めたものではなく,大部分,議会が作ったのだ.世論調査は,政府閉鎖が起きた場合,その責任は共和党にあると見ている.彼らは怖気づいた.

次の場面では,債務上限が議論されている.財務長官のJack Lewによれば,それは1017日に起きそうだ.過去に決めた20もの法案を投げ出すことになる.

この芝居はなかなか終わりそうにない.その根本的理由は,観客が偏っていることだ.選挙区の果てしない改定で,一部の共和党員はティーパーティーの反発を恐れるようになった.彼らは政権と決して妥協しない.民主党にも問題はあるが,この件に関しては共和党の責任だ.

われわれはジャン・ポール・サルトルが『出口なし』で描いた実存主義的な状況にある.ドラマは進む.

FT September 29, 2013

The Republican lost cause – bringing Barack Obama down

By Edward Luce

失われた大義のために尽くす南部の心情を理解するためには,風と共に去りぬ,を観なくてもよい.議会を観ることだ.

社会主義的で,市民社会を圧倒するものとして,ダイ・ハード型の共和党員たちは針路に横たわって勇気を示そうとする.それが栄光ある死なのだ.

しかし,その筋書きには問題がある.第1に,「オバマケア」と呼ばれるACAthe Affordable Care Act)は,反対派が主張するようなものではない.それは市場に依拠した,アメリカの医療保険システムに関する,比較的穏健な改革である.共和党員もそれを知っている.

2に,しばしば誤解されているが,共和党が大騒ぎするような政府の大規模化とも関係ない.

最期に,オバマケアを阻止することは,どのような政治的観点でも,共和党の得点にならない.国民の多数は,共和党がオバマケアを債務上限に結びつけたことに反対している.

では,一体,なぜ共和党員はオバマケアに固執するのか? 要するに,それはティーパーティーがオバマに向ける憎しみである.

20098月の反対集会で,サウス・カロライナのJim DeMint上院議員は,医療制度改革を「オバマのワーテルロー」と呼んで,勝利をつかむ寸前であった.今,ヘリテージ財団の会長となった彼は,高貴な敗北を帳消しにするため,白人や高齢者たちに働きかけている.このシステムは,官僚制が老人に鳴らす「死の鐘」だ,というのである.

オバマは繰り返し,債務上限に関して,このような間違った取引には応じない,と表明している.責任ある大統領として当然だ.彼らの提案に最初から交渉の余地はないからだ.

NYT September 29, 2013

Rebels Without a Clue

By PAUL KRUGMAN

債務上限を引き上げなければアメリカ政府がデフォルトになる.しかし,その金融的な破滅を共和党員たちは理解しないか,全く気にしていない.

金融市場は,アメリカの政府債券を安全な資産として扱ってきた.特に,Treasury bills短期国債は,融資の絶対安全な担保として,世界中の投資家から需要がある.その重要な役割が,突如として,システム全体への不信を広めるものになる.金融危機は,5年前のリーマンブラザーズ父さんによる危機の規模を超えるだろう.

救いは,この危機が発生した場所からやってくるだろう.それはウォール街だ.共和党員たちはウォール街からの資金に頼っている.

WP October 2, 2013

Permanent Republican minority

By Harold Meyerson

1994年に,共和党が上下両院を制したとき,南部白人が指導部を握っていた.共和党史上,初めて,代議士の指導者が南部連合諸州の議員であった.そこにはマイノリティーや労働者の権利を否定する伝統があった.

1995年以降,人口的・文化的な変化はアメリカを変え,共和党はマージナルな存在になった.ラティーノやアジア系の人口が増え,彼らは民主党を支持した.共和党が,国レベルの政策に関わるためには,2つの方法がある.1つは,マイノリティーの権利や,経済分野における政府の正当な役割を受け入れることだ.さもなければ,共和党は少数派のパワーを最大限利用し,連邦政府を妨害して,共和党の立場を受け入れるよう迫るだろう.

FT October 3, 2013

Why have markets ignored Washington risk?

by Gavyn Davies

金融関係者のリスク委員会は,短期的な政府の閉鎖を問題にしていない.しかし,政府債務のデフォルトは重大だ.深刻な混乱と,政府に管理できないような事態を続発させるだろう.

ただし,投資家たちは,問題が政治的なものであり,アメリカが「支払えない」のではなく,「支払わない」ことであるのを知っている.また,アメリカの政治システムは,合意できれば問題を処理できるのであり,多くの異なる国家からなるユーロ圏とは異なる.投資家たちは,こうしたことを過去の閉鎖の経験で学んだ.

それ故,政治はますます最期の瞬間まで金融市場の圧力を受けずに紛糾し続ける.それは,本当の最期になって生じる危機を拡大する.政治と金融パニックとの結び付きではなく,もう一つのフィードバック,すなわち,政治と有権者との関係が,市場のパニックの前に起動しなければならない.


l  日本の消費税引き上げ

BLOOMBERG Oct 1, 2013

The Threat of ‘Abegeddon’ From Taxes in Japan

By William Pesek

財政健全化は必要であるが,安倍の消費税引き上げは,橋下竜太郎の景気回復失敗と同じ結果になるだろう.

ドルに対して20%の円安は,日本が原発事故で弁量を輸入しなければならなくなったとき,進んだ.この重荷は,日本が成長しないままインフレに向かう,スタグフレーション,もしくはAlexander Friedmanが「アベゲドン」と呼んだシナリオになるだろう.増税が日本の債務比率を下げるのではなく,上げるとしたらどうだろうか?


l  指導国の消えた世界

FP OCTOBER 1, 2013

Pre-Existing Condition

BY DAVID ROTHKOPF

アメリカは傷ついている.その多くは自分の責任だ.誰も,われわれ自身が傷を負わせるほど,われわれにダメージを与えることはできない.多くの傷は,少なくとも今のところ,表面的だ.

世界はアメリカをどう見ていたか? 2度の世界大戦に勝利し,冷戦に勝利した国.世界を帝国的に設計し,援助と嫌がらせの全てが,アメリカの強さから生じていた.

しかし,今やガバナンスの要求を満たせない.アメリカ政治が落ち込む政府閉鎖や債務上限の問題は,アメリカがもっと真剣に取り組むべき重要な問題を無視している.投資,教育,革新,気候変動,平等,持続的な成長.これらを解決して,アメリカは世界の指導的な国にふさわしい自分を取り戻すべきだ.

シリアも,イランも,アメリカの弱さが交渉選択の条件であった.彼らは,以前よりも今の取引の方が有利になる,と考えているのだ.その弱さとは,アメリカが首尾一貫した,効果的な対応を示さないこと,エジプトの危機に対しても指導力を発揮しなかったことだ.アフガニスタンからの撤退も,われわれがこれまで排除してきた勢力の拡大につながるだろう.

新しく台頭する諸国があり,特に中国はこの数十年で世界最速の成長を実現する震源地となるだろう.アメリカの子供たちは算数や化学ができない.ヨーロッパにおける同盟諸国は弱体化した.アメリカによる情報収集の結果,同盟諸国や他の諸国はアメリカへの信頼を失った.

われわれは自分自身の失策や判断ミスでやけどを負い続けてきた.911,イラク,アフガニスタン,金融危機は,われわれにPTSDの苦しみを与えている.顔をしかめ,これ以上のリスクから身を避けようとしている.

オバマ政権が交渉に向かったのは,大統領がためらった後である.議会も,アメリカ国民も,軍事行動を支持しなかった.今までにも増して,アメリカは本当の非常時にしか行動しない,と分かった.われわれは強い立場から交渉するのではない.誰もが,アメリカは長期的に中東から撤退することを知っている.弱さから弱さへ,アメリカは国内だけでなく国際政治でもさまよっている.

こうしたことは変えられる.アメリカは立ち上がることができる.シリアでもイランでも,アメリカが扉を開けば,人々は集まってくる.地球上で最も豊かで,最も強い国であり,国家の再生はアメリカのDNA,アメリカ憲法に組み込まれている.世界もアメリカの指導力を,政治取引に縛られない,明確な国益に関するビジョンと,指導力が意味するリスクに対する姿勢とを,期待している.

Project Syndicate 03 October 2013

The Paradox of Central-Bank Cooperation

Harold James

1920年代後半に,大西洋の両側には常に緊張があった.アメリカの金融政策がヨーロッパで借り入れコストを引き上げ,成長を損なったからだ.1927年,ニューヨーク,ロングアイランドの秘密会議で,ヨーロッパの指導的な中央銀行家たちはアメリカ連銀に金利引き下げを説得した.これは短期的にヨーロッパの信用条件を安定化したが,アメリカで投機的なバブルを生み,1929年の株価暴落につながった.

国際協力にはジレンマがある.危機はグローバルな公共財として金融安定化への中央銀行間の協力を求めるが,特に安定化の介入によって財政赤字が増えるから,協力のコストは劇的に増大する.それ故,危機のたびに金融協力の魅力は消え,破局となるのだ.


l  分離か,統合か?

FP OCTOBER 3, 2013

The Case for Canamerica

BY J. DANA STUSTER

中国の企業が,10年かけて,次第にカナダの銀行や採掘会社に浸透する.ロシア政府と組んで,カナダの北極圏の石油も採掘する.中国の港湾ネットワークは,北西航路の全域に及んで,カナダの安全保障と軍事力を無効にする.こうしてカナダは,実質的に,北京とモスクワを頂点とした家父長的な新植民地主義に頼る奴隷国家になる.・・・

アメリカは外国から原油を買い,アジアから安価な商品を買い続ける.そして,アメリカの製品を買ってくれる諸国を守る.・・・カナダには戦略が必要だ.

国家間にも,企業間で生じる,合併のシナジー効果がある.安全保障,投資,労働力の移動.カナダ北部の石油や天然ガスを開発するため,雇用をもたらす新しいマーシャル・プランとして,インフラ投資が必要だ.国家間の合併には,さまざまな方法があるだろう.ルイジアナの買収,資源ファンドの設立と国民への配当,アメリカの新しい州として加盟,イギリス連邦,東西ドイツの再統一,スイス型,EU型,・・・朝鮮半島の潜在的な再統一.

統合は,経済的に意味があるけれど,政治的には無視される.多くの意味で,アメリカとカナダの統合はすでに実現している.300万人のカナダ市民がアメリカ側に住み,100万人のアメリカ市民がカナダ側に住む.それは氷河の移動に似た,緩やかな主権の移動である.

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The Economist September 21st 2013

The weakened West

America, Russia and Syria: Style and substance

Lexington: The American Dream, RIP?

Monetary policy after the crash: Controlling interest

Latvia lessons: Extreme economics

(コメント) オバマはどうなっているのか? アメリカが変だ? という失望とも不安とも言えない感覚を持ちつつ,シリアのすぐ後に,イランとの外交的な和解,ワシントンDCの政府閉鎖,リビアとソマリアにおける特殊部隊の同時展開,・・・ なんだかわけのわからない様相に驚きます.

だからこそ指導的な国のグランド・ビジョンが重要な意味を持ちます.アメリカは,そして,中国やロシア,ドイツ,日本,ブラジル,インド,などは,どのような戦略をもとに行動しているのでしょうか?

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IPEの想像力 10/7/13

風邪をひきました.おもしろい話は書けません.中東秩序の分裂と再編,中国人の胃袋,カナダのアメリカ併合,この3つの話に共鳴して書き始めました.

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統合か,分裂か? 帝国でも,戦争でもなく,インフラと産業政策の共有によって.あるいは,企業の吸収合併と同じ視点で,国家が政治統合の相手を探す時代になったようです.

今週のReviewに言及された国家改変のケース(歴史的・仮想的)は,エジプト,リビア,スーダン,シリア,イラク,イラン,サウジアラビア,イエメン,トルコ,インド,パキスタン,バングラデシュ,スコットランド,カナダ,中国,ロシア,ドイツ,アメリカ,韓国,北朝鮮,を含みます,

たとえばカナダは,資源,安全保障,開発,などについて,中国とロシアの浸透と圧力を恐れ,アメリカとの合併を望みます.しかし,アメリカやヨーロッパから遠く離れたオーストラリアの場合は,統合相手に困るでしょう.

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日本には,アメリカとの統合化を主張する意見は少ないように思います.市場は統合化しても,アメリカの新しい州になるには,政治や文化が全く異なるからでしょう.

日本には,中国との統合化を主張する意見もほとんどありません.歴史や文化では共有するものが多いはずです.しかし,厳しい戦争の経験が歴史として共有されていません.

日本には,朝鮮半島との連携を模索する声がもっとあってよいはずです.もし日本が国家を連結・共有するとしたら,それは韓国でしょう.アメリカ合衆国でも,EUでもない,東アジアの統合モデルを模索するときが,すでに来ていると思います.

まるで南北戦争のように,ワシントンの政府機関を閉鎖してしまうまで対立するアメリカの政治家たちは,なるほど,移民とフロンティアの国だな,と感じます.

日本は,イギリスやドイツの経験からも多くを学ぶべきでしょうが,同じ姿にはなりません.帝国主義によって国力を高め,植民地拡大のために戦争を重ねて,ついに敗北し,天皇制を残し,アメリカから安全保障と産業技術だけでなく,ドルや経済政策,民主主義の多くのブロック,その他,何でも輸入しました.

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国家とは,いわば,戦争と世界戦略です.

それは領土と人口を持ち,単一の権力システム,支配集団・階層が,法律や制度に守られた正当な強制力を独占しています.支配層は,投票や能力による選抜だけでなく,さまざまなネットワーク・派閥,富や市場を通じた影響力から形成されます.歴史的な感覚や伝統・文化,共通の言語,教育・メディアが,帰属する国民の一体感を醸成し,幻想の共同体を築きます.

国家が,ナショナリズムや,人種差別や,軍備拡大(そして,工業力,技術力,文化)競争によって刺激され,強大化を目指す装置になるより,もっと多様な市民にふさわしい,小さな容器の集積であればよいのに,と思います.

それは,幾分,レゴで作った城に似ています.EUに参加する小国は幸せそうに見えますが,さらに分裂を続けるのか,という懸念があります.

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現代の国家も,内部でさまざまなブロックが形成・変形され,連結されて,薄れるアイデンティティに抗して,独自の政治意識や仕組みを維持しています.

しかし,平和な時代が続いても,日本は東アジアの連邦制を指導する役割を,未来に向けて,明確に描けませんでした.こうした問題を真剣に,内容豊かに,議論できない政治家や知識人,メディアの水準を問うべきでしょう.

未来の平和とは,異なるガバナンスの自由な競争と,都市間の移民によって実現される世界のことかもしれません.

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