IPEの果樹園2013
今週のReview
10/7-/12
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国際犯罪を裁く ・・・イランとアメリカ ・・・中国の新しい影響力 ・・・アメリカの金融政策 ・・・シリアと中東秩序の再編 ・・・アメリカの政府閉鎖 ・・・イギリスの社会主義 ・・・嵐の前の静けさ ・・・日本の消費税引き上げ ・・・指導国の消えた世界 ・・・分離か,統合か?
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)
l 国際犯罪を裁く
NYT September 26, 2013
50-Year
Sentence Upheld for Ex-President of Liberia
By MARLISE SIMONS and ALAN COWELL
ハーグの国際法廷において,リベリアの元大統領,チャールズ・テイラーCharles G. Taylorは50年の禁固刑判決を受けた(さらに,弁護側の不当な主張に対して,判決は80年に延長された).人道に反する戦争犯罪に対して下された画期的判決である.テイラーは,1990年代,北の隣国,シエラレオネにおける内戦において,残忍な反政府軍の展開,殺戮,強姦,子ども兵士,手足の切除,ダイヤモンドと武器の交換,を支援した.
NYT September 29, 2013
Nixon
and Kissinger’s Forgotten Shame
By GARY J. BASS
バングラデシュの最高裁判所は,イスラム主義の指導者Abdul Quader Mollahに死刑判決を出した.1971年,バングラデシュ独立にかかわる戦争犯罪である.2月に出た終身刑の判決に対して,数万人が抗議デモで死刑を要求した.その後,100人以上が,死刑要求とそれに反対するデモで死亡している.
バングラデシュの現在の問題は,1971年の独立時の悲劇につながっている.そして,それは独立派を殺戮した軍事政権を支持した,当時のニクソン大統領とその顧問,キッシンジャーにも関係している.
1947年のインド独立時に,イスラム教徒はパキスタンとして分離,独立した.パキスタンは反イスラム教のインドの両側に存在する分離国家であった.しかし,1970年,ベンガル人のナショナリストたちが東パキスタンで選挙に勝利し,西パキスタンの軍事政権は東の独立によって支配を失うことを恐れた.そして1971年3月25日,パキスタン軍は東部のベンガル人を弾圧し始めた.アメリカ政府の報告でも死者20万人,難民は100万に達した.
最近,極秘文章が公開され,ニクソンとキッシンジャーは将軍たちの背後から強く弾圧を支持していたことが明白になった.アメリカはパキスタン政府と親密な関係を持ち,彼らが弾圧する武器を提供していた.しかし,ニクソンらは軍が民衆に発砲することに対して警告せず,選挙結果をアメリカ国民に伝えず,権力のシェアリングを促さなかった.虐殺を続ける軍事政権に対して,非難も,関係断絶も迫らなかった.
むしろ,ニクソンたちの会話テープは,冷戦の思考に固まって,インドやベンガルを感情的に攻撃している.バングラデシュの貧困は厳しく,政治状況も現在まで困難なままであるが,それは独立時の多くの犠牲,インフラの破壊,政治の過激化,によって増幅されたものだ.
キッシンジャーが謝罪することは期待できないだろうが,せめて,アメリカ人はニクソンとキッシンジャーが行ったことを記憶しなければならない.
l イランとアメリカ
FT September 27, 2013
Iran-US
relations: Behind the smiles
By Geoff Dyer and Najmeh Bozorgmehr
握手するべきか,せざるべきか? アメリカとイランとの関係は,この1週間で大きく変わった.
両国は,1979年のイラン革命以来,初めて緊張緩和に動き始めた.これは中東の政治を根本的に変える可能性がある.しかし,交渉は始まったばかりであり,冷戦終結やニクソン訪中に比べて騒ぐより,その困難を予想しなければならない.
確かに合意への動機は強い.イランのロウハニは,制裁解除と経済再生を掲げて大統領に当選した.また,オバマ大統領も,核の合意を得られれば,彼の任期中にイランとの戦争に踏み出すか,あるいはイランの核武装を受け入れて共和党から非難され,カーターと同じ不名誉を強いられるか,苦しい選択を避けられる.
アメリカは,確かに交渉に関わることで,サウジアラビアやイスラエルの反発を買うが,シリア内戦の解決や,中東和平を進め,さらにタリバンやアルカイダと協力して戦うことができる.この和解のチャンスを逃すなら,それはイラク進攻に等しいアメリカ外交の大失策になるだろう.
しかし,両国には強い不信の積み重ねがある.アメリカはイランの専制的なパーレヴィ王政を支援していたし,民主的な首相であるモサデクが,1953年,石油会社を国有化したとき,クーデタに英米で加担した.アメリカにとって,1979-81年のアメリカ大使館人質事件は忘れられないし,1983年のベイルートにおける米軍兵舎爆破テロもイランが関与した.
どれほどの善意を集めても,食い違った立場に関して,どちらが何をするか,合意するのは非常に難しい.それは特に,国内政治に強硬な反対派がいるとき,合意を実行することができないからだ.
「最も困難な交渉は,オバマとロウハニの間ではなく,オバマと議会,ロウハニとハメネイとの間に行われるものだ.」 この35年間,突破口を期待する者は,その希望をすべて壊されてきた.
FP SEPTEMBER 27, 2013
The
Test We're Giving Iran Is Rigged
BY JAMES TRAUB
NYT September 28, 2013
Iranians
Welcome President With Protest
By THOMAS ERDBRINK
FT September 29, 2013
A
diplomatic dance will be no waltz for either Iran or America
By Richard Haass
FP SEPTEMBER 29, 2013
Why
Bibi Should Rest Easy
BY AARON DAVID MILLER
SPIEGEL ONLINE 09/30/2013
Reaching
Out
Obama's
Ambitious Mideast Diplomatic Offensive
By Dieter Bednarz, Matthias Gebauer and Holger Stark
オバマは軍事介入をやめ,中東和平とイランの核問題を解決する外交に転換した.しかし,中東世界にその準備があるか?
歴史的瞬間は周到に準備されていた.国連安保理の常任理事5カ国に,ドイツを加えて,午後4時に会合が持たれた.15分後に,ホストのEU外交代表アシュトンが,イラン外務大臣Mohammed Javad Zarifを安保理議長に紹介した.
Zarifは長くニューヨークに住んでおり,通常の挨拶はなしだった.彼は,少しの時間も無駄にしたくない,最近の選挙でイランは大きく変わった,と述べた.1年以内に解決できる,とも語った.その後,ケリー国務長官と話し合った.
FP September 30, 2013
America's
Empty Gestures Toward Iran
Posted By Stephen M. Walt
FTに載ったRichard Haassの論説を読むべきだ.Haassは交渉の障害をいろいろ指摘しているが,イランが核開発計画を放棄する代わりに,アメリカが与えるものを示している.経済制裁の解除だ.
しかし同時に,Haassは,アメリカが体制転換を意図していない,ということ,また,イランがNPTの認める核の平和的利用を行う権利を受け入れる,ということをアメリカの「善意」として提示しているのだ.これは,アメリカ外交にのみ見られる交渉姿勢である.アメリカは様々な外交手段を選択できるから,強硬策を取り除くことを「善意」や「ギフト」と考える.(イランが,アメリカの体制転換を考えない,とわざわざ宣言するだろうか?) NPTのような国際条約の認める基本的権利に関しても,アメリカだけは,自国の選択として行う(許し,与える)と考えている.そして,アメリカは多くの譲歩をしたが,相手国からは何も得ていない,と感じる.
結局,イランの譲歩に対して,アメリカは何も示していないのだ.
FP OCTOBER 1, 2013
Trust,
but Clarify
BY DENNIS ROSS, DAVID MAKOVSKY
theguardian.com, Wednesday 2 October 2013
Iran
is genuinely committed to peace. We are optimistic that America is too
Massoumeh Ebtekar
Project Syndicate 02 October 2013
Why
Iran Blinked
Ana Palacio
軍事的には,アメリカが何をできないか,と議論されてきた.しかし,アメリカは外交的に,多角主義において,こうしたことができるのだ.
l 中国の新しい影響力
FT September 27, 2013
Turkey
to buy $4bn air defence system from China
By Daniel Dombey in Istanbul
FT September 27, 2013
Jack
Ma, the mogul heading to Wall Street
By Jamil Anderlini
香港市場の規制に憤慨して,アリババの創業者であるジャック・マーはウォール街への進出に切り替えた.その宗教に近い強烈な企業文化,攻撃的な経営者の支配は有名だ.
ジャック・マーは,文化大革命が始まった頃,1964年,杭州市の東部で生まれた.中国のインターネット販売を広め,シリコン・バレーの巨大企業とも戦った,すでに伝説の企業家である.彼は企業の長命を考えた末に,スティーブ・ジョブズと違って,企業の経営を支配し続けることにした.
マーの両親は伝統的な講談師であったが,マーは2度受験に失敗した後,大学に入学する.卒業後,英語を教え,翻訳の会社を設立,アメリカへ旅行する.このときインターネットに出会い,杭州市のアパートの部屋で,17人の友達から集めた6万ドルにより,アリババを設立した.すぐに,Goldman Sachs と日本のSoftBankからも投資を得た.Yahooとは企業の分割をめぐって訴訟になったが,最終的に,Yahooが敗訴し,マーに持ち株を売却する.それでも10億ドルの投資に対して200億ドルを得ただろう.
FT September 27, 2013
Rethinking
equity after Alibaba
2013-09-28 (China Daily)
Rebuilding
APEC consensus
By Wang Yuzhu
FP OCTOBER 1, 2013
Appetite
for Destruction
BY DAMIEN MA, WILLIAM ADAMS
中国人の胃の腑を満たすことが,世界の肥料生産や豚肉処理工場への投資を大いに刺激している.中国経済の驚異的な拡大により,2012年,世界の石炭の約半分を消費し,鉄鋼の46%,アルミニウムの43%,セメントの60%を生産した.2013年に成長を減速したのは,政府がこのような資源消費型の成長を維持できないと認めたからだ.
GDPが増大し,所得が増え,生活水準が改善するほど,中国の国内食糧供給は不足する.人類の20%の胃袋を,世界の耕作可能な土地のたった8%,世界の一人当たり淡水利用料のわずか30%で満たさねばならない.さらに政府は穀物の安全保障として輸入を禁じ,ほとんど自給を強いている.
アメリカ人よりも肉を多く食べる中国の中産階級は,現在,人口の10%,1億4000万人であるが,2020年までに人口の40%になると予測されている.残念なことに,ポーク・チョップは木にならない.肉を自給することは,穀物を自給するよりはるかに困難だ.日本や台湾と同様に,中国でも,都市化によって農地が失われ,所得の上昇で食糧消費の多様化,農村人口の減少が進み,次第に農産物輸入が増えるだろう.
これは世界の農業生産に重要な意味を持つ.中国で新しい緑の革命が起きるのは難しそうだ.中国はいやいやながら世界の食糧市場に参加するだろう.そして,それはアメリカのような食糧輸出国にとって利益である.しかし,中国の工業ブームが,世界中の石油,石炭,鉄鋼正規の値段を引き上げたように,この先,食糧価格がアメリカでも世界の他の地域でも上昇するだろう.中国は世界の食糧需給を変えるのだ.
チャイナ・プライスとは,これまで,工業製品の破格の安さを意味していた.しかし将来は,食糧品の破格の高値を意味するようになるだろう.
l アメリカの金融政策
Project Syndicate 27 September 2013
Don’t
Cry for Me, Ben Bernanke
Simon Johnson
「バーナンキさん,どうかQEをやめる時期を考えるとき,私たちアメリカ以外の経済のことも考えてください.」・・・というのは無理だろう.
アメリカが,1998年秋,アジアやロシアの危機に対して,「世界救済委員会」のような金融緩和を行ったのは本当だ.より最近も,金融危機に苦しむ新興諸国や,特にECBに対して「スワップ」を提供した.しかし,FOMCの金融政策決定に外国の経済事情を考慮する,というのはありえない.
もちろん,FOMCはドルの世界的な役割を知っている.1944年のブレトンウッズ会議以来,アメリカはドルの国際的な利用を促してきた.1971年以前は,金と結び付けてドルの価値を保証していた.ニクソンがこの結び付きを切ってからも,民間投資家は安全な金融資産の保有をドルに集めている.
国際金融取引に占めるドルの重要性が低下する気配もない.ドルに変わる通貨は存在しないからだ.円も,ユーロも,まして,将来の経済・金融的安定性を予想できない中国の人民元では,ドルに代わることができない.
そこでアメリカは,嫌なら帰れ,というわけだ.あるいは,アメリカで買い物をして,ドルを使ってしまうことだ.どのような商品も,その発行国の市場価格で買えるというのは,準備通貨の条件である.IMFのSDRにはできない.
世界中の国はアメリカのドルにエクスポージャーを抱えているが,それが避けられない現実なのだ.だからブームのときも,ドル建ての債務を過剰に抱え込まないように個人や企業を抑制し,金融機関には十分な準備を求めるしかない.
Project Syndicate 27 September 2013
The
Taper and Its Shadow
J. Bradford DeLong
リスクの問題に答えなければならない.
WP September 28
The
Fed has become a creature of politics
By George F. Will
Project Syndicate 30 September 2013
The
Taper Chase
Martin Feldstein
VOX 27 September 2013
Is
there a dilemma with the Trilemma?
Michael W Klein, Jay C. Shambaugh
l シリアと中東秩序の再編
SPIEGEL ONLINE 09/27/2013
Video
Games and Cigarettes
Syria's
Disneyland for Jihadists
By Christoph Reuter
NYT September 28, 2013
Imagining
a Remapped Middle East
By ROBIN WRIGHT
国際秩序の政治・経済的な旋回軸である中東の地図がぼろぼろになっている.シリアの破滅的な戦争が転換点である.対立する信仰,部族,エスニシティ,それらはアラブの春の意図しない結果として強まった.こうした遠心力によって,ヨーロッパの植民地支配者たちが決めた地域,そして,その後は王族が管理した土地が,崩壊しつつある.
中東の異なる地図が,すべての者にとって戦略的なゲームを転換するだろう.同盟関係を変え,安全保障上の挑戦者を変え,世界の貿易とエネルギーの流れを変える.
シリアの優れた位置と軍事力が,この国を中東の戦略的な中心地にしていた.しかし,シリアは複雑な国家である.宗教やエスニシティが多様で,それゆえ,壊れやすい.独立後も多くのクーデタが起き,最後に,アサドが王制を敷いた.今や30か月の内戦を経て,国土が3つに分裂しつつある.第1に,アサドと少数派のアラウィートが支配するミニ国家,南部からHoms,Hamaを経て,北部の地中海沿岸部を支配する.第2に,北部のクルド人支配地域.第3に,スンニ派が支配する,最大の内陸部だ.
シリアの混乱は,隣国イラクに波及する.イラクはこれまで,外国の圧力,孤立する恐怖,契約の上では共有している石油の富,によって分裂を避けていた.しかしシリアのシーア派とスンニ派の内戦がイラクの政治にも影響しつつある.時が経つにつれて,イラクの少数派であるスンニ派は,特に西部で,シリアの東部で多数派のスンニ派と協力し始める.国境を越えた部族間の密貿易も盛んである.それは事実上,もしくは正式なスンニ・スタンとなり,南部にはシーア・スタンが現れる.
シリアとイラクの2つのクルド人に支配的な政党は異なっていたが,8月に国境が開放されて,5万人以上のシリア・クルド人がイラク側に逃れた.そして,国境圏のコミュニティーが形成されている.イラク・クルド人のMassoud Barzani大統領は,最初のクルド人会議を,4か国(Iraq, Syria, Turkey and Iran),40政党,600人で開催する計画を示している.
第1次世界大戦後に解体されたオスマン帝国が生き延びていたら,どうなったか? 地理的現実とアイデンティティを反映したら,どうなるか? アラブの春に火を点けたのは,王室による専制支配だけでなく,権力をより分散して,ローカルなアイデンティティに近づけ,資源に対する権利を握ることだった.
リビアの蜂起は,カダフィ大佐を追放するだけでなく,西部トリポリの支配に対する東部ベンガジの要求があった.部族が異なり,目指す世界が異なり,しかも東部の油田が80%の石油を産出してもそれを西部のトリポリが支配していた.だからリビアも2つか3つに分割されるだろう.
他の諸国も共通の財やアイデンティティを欠き,不安定である.民主主義と,新しい期待を持った有権者の要求とを一致させることは難しい.
イエメンは3月に国民対話を開催した.しかし,北部の反乱,南部の分離主義は収まらないだろう.連邦制や,南部の分離を問う住民投票が約束されるかもしれない.南部イエメンはサウジアラビアと統合する,と噂されている.同じスンニ派であり,双方に家族がある.アラブでも最貧のイエメン南部がサウジの豊かさを得られ,サウジはアラビア海への貿易の出口を得る.それはホルムズ海峡を実質的に支配するイランへの不安を軽減する.
もっとも空想的な意見では,サウジアラビアがバルカン化する.8車線の高速道路で威勢を示しても,異質な文化,部族アイデンティティ,宗派の対立が,特に東部の石油地帯において,激しくなっている.何千人もの王子を抱えるサウド家の世代交代は紛争をはらむ.
ナショナリズムの重要性を決めるのは論理ではなく,帝国の嗜好と貿易である.紛争と過酷な移行期において,伝統的なアイデンティティとナショナリズムのどちらが強いのか? シリアのナショナリズムは多元化し,クレンジングの恐怖があり,銃が違いを強めている.宗派による分割は近代の中東になかった現象だ.
しかし,他の要因が中東を紛争から救い出すかもしれない.すなわち,グッド・ガバナンス,優れた公共サービスと治安,公正さ,雇用と資源の公平な分配,あるいは,共通の敵である.国家とは,ミニ同盟の集積である.シリア内戦が長引くほど,地域は不安定化する.
FT September 30, 2013
How
things could go right in Middle East
By Gideon Rachman
l アメリカの政府閉鎖
FP SEPTEMBER 27, 2013
Absurdistan,
D.C.
BY GORDON ADAMS
連邦議会の予算劇はますます複雑で,興味を引き,厄介なものになっていく.最初の悲劇は,2011年8月,非民主的な手続きを生んだ予算案の通過であった.防衛予算や行政の予算を無責任に削ったのだ.
今,われわれは新しい芝居を見ている.共和党が,もし「オバマケア」の財源を削減しなければ,政府を閉鎖するぞ,と脅したのだ.しかし,そんなことは不可能だ.その多くは規制による行政手続きで,裁量的な部分ではない.また,いわゆるオバマケアとは,オバマが決めたものではなく,大部分,議会が作ったのだ.世論調査は,政府閉鎖が起きた場合,その責任は共和党にあると見ている.彼らは怖気づいた.
次の場面では,債務上限が議論されている.財務長官のJack Lewによれば,それは10月17日に起きそうだ.過去に決めた20もの法案を投げ出すことになる.
この芝居はなかなか終わりそうにない.その根本的理由は,観客が偏っていることだ.選挙区の果てしない改定で,一部の共和党員はティーパーティーの反発を恐れるようになった.彼らは政権と決して妥協しない.民主党にも問題はあるが,この件に関しては共和党の責任だ.
われわれはジャン・ポール・サルトルが『出口なし』で描いた実存主義的な状況にある.ドラマは進む.
FT September 29, 2013
The
Republican lost cause – bringing Barack Obama down
By Edward Luce
失われた大義のために尽くす南部の心情を理解するためには,風と共に去りぬ,を観なくてもよい.議会を観ることだ.
社会主義的で,市民社会を圧倒するものとして,ダイ・ハード型の共和党員たちは針路に横たわって勇気を示そうとする.それが栄光ある死なのだ.
しかし,その筋書きには問題がある.第1に,「オバマケア」と呼ばれるACA(the Affordable Care Act)は,反対派が主張するようなものではない.それは市場に依拠した,アメリカの医療保険システムに関する,比較的穏健な改革である.共和党員もそれを知っている.
第2に,しばしば誤解されているが,共和党が大騒ぎするような政府の大規模化とも関係ない.
最期に,オバマケアを阻止することは,どのような政治的観点でも,共和党の得点にならない.国民の多数は,共和党がオバマケアを債務上限に結びつけたことに反対している.
では,一体,なぜ共和党員はオバマケアに固執するのか? 要するに,それはティーパーティーがオバマに向ける憎しみである.
2009年8月の反対集会で,サウス・カロライナのJim DeMint上院議員は,医療制度改革を「オバマのワーテルロー」と呼んで,勝利をつかむ寸前であった.今,ヘリテージ財団の会長となった彼は,高貴な敗北を帳消しにするため,白人や高齢者たちに働きかけている.このシステムは,官僚制が老人に鳴らす「死の鐘」だ,というのである.
オバマは繰り返し,債務上限に関して,このような間違った取引には応じない,と表明している.責任ある大統領として当然だ.彼らの提案に最初から交渉の余地はないからだ.
NYT September 29, 2013
Rebels
Without a Clue
By PAUL KRUGMAN
債務上限を引き上げなければアメリカ政府がデフォルトになる.しかし,その金融的な破滅を共和党員たちは理解しないか,全く気にしていない.
1995-96年に,クリントン政権で政府の閉鎖が起きた.しかし,重要な行政サービスが維持されたし,そのときは経済が好調で,深刻な悪影響は残らなかった.今は経済状態が悪い.
議会が債務上限の引き上げを拒む場合,政府は即座に,大規模な支出削減を行わねばならず,景気が一気に悪化する.それ以上に,アメリカ政府は既存の債券に対する支払いができなくなる.それは恐るべき金融恐慌につながるだろう.
金融市場は,アメリカの政府債券を安全な資産として扱ってきた.特に,Treasury bills短期国債は,融資の絶対安全な担保として,世界中の投資家から需要がある.その重要な役割が,突如として,システム全体への不信を広めるものになる.金融危機は,5年前のリーマンブラザーズ父さんによる危機の規模を超えるだろう.
正気の政治システムなら,こうしたリスクを冒さない.しかし,われわれの政治システムは正気ではないのだ.共和党のラディカルな党員たちは,気候変動の化学的な証拠も,進化論も信じない.彼らは,単に,デフォルトも信じない.
問題は,共和党の指導者が彼らの怒り(そして離党)を恐れていることだ.彼らの心を変えるのはだれか?
救いは,この危機が発生した場所からやってくるだろう.それはウォール街だ.共和党員たちはウォール街からの資金に頼っている.
まったく狂った状況であるが,狂気は我々の政治家たちと彼らを当選させた有権者たちの心の中にある.
WSJ September 29, 2013
An
Obama-Cruz Shutdown
theguardian.com, Monday 30 September 2013
Thank
the GOP for the shutdown and holding the economy hostage
Dean Baker
緊縮派は,アメリカでもヨーロッパでも,勝手な言葉で勝利を宣言している.
BLOOMBERG Sep 30, 2013
The
Republicans Fighting Obamacare Aren’t Crazy
By Ramesh Ponnuru
FT October 1, 2013
America
flirts with self-destruction
By Martin Wolf
アメリカの医療保険制度は,OECD諸国と比較して,GDPに占める割合が高く(カナダより100%高く,イギリスより150%も高い),しかも,国民が得ている健康水準は低い.誕生時の平均余命,幼児死亡率,成人の死亡率で見て,大幅に悪い.改革を求めるのは当然だろう.
民主党は,オバマケアと呼ぶ,医療制度の改革を廃止するように求めている.しかし,これはかつて共和党のロムニーがマサチューセッツ知事の時に導入した制度に似ている.民主主義は選挙で勝つことで法律を変える.政府を閉鎖する,デフォルトになる,という脅迫によって決めてはならない.
私も,ウィンストンチャーチルと同じく,楽観的である.アメリカは最後には正しいことをする.ただし,他のすべての選択肢を尽きるまではしない.
FT October 1, 2013
Obama
must bring a swift end to the US shutdown
By Edward Luce
NYT October 1, 2013
John
Boehner’s Shutdown
By THE EDITORIAL BOARD
NYT October 1, 2013
Our
Democracy Is at Stake
By THOMAS L. FRIEDMAN
WP October 1, 2013
Mission
accomplished: The tea party shutdown
By E.J. Dionne Jr.
WSJ October 1, 2013
A
GOP Shutdown Strategy
Project Syndicate 01 October 2013
America’s
Endless Budget Battle
Kenneth Rogoff
アメリカが毎年の債務上限で紛糾するのを投資家が観るのはすでに3度目だ.すでに再選を気にする必要のないオバマは,共和党との妥協の余地を残していない.憲法の定める議会と大統領の権力が,こうして争うのでは,将来の重要な政策決定に関して,政府の能力を損なうだろう.
確かに世界中で,多くの国の政府が機能不全を示している.しかし,アメリカの場合,オバマの残す経済再建より,連銀の政策が重要だ.政府債券のデフォルトは,それを通じて,世界経済に著しいダメージを与える.もし連銀がQEの終息をほのめかしたことで,金融引き締めが国際市場で起き,それが新興諸国の経済に深刻な損害を与えたのなら,アメリカのデフォルトが意味することは何だろうか?
アメリカ自身が長期的に受ける影響も深刻だ.ドルは今も世界の主要な準備通貨である.それによってアメリカに資金が集まり,政府債券だけでなく,全ての金利が安くなっている.その利益は年間1000億ドルになるだろう.1800年ころ,イギリスが同じような利益を受けていたが,外国の金融市場が発達し,特に第1次世界大戦で,その利益を失った.アメリカも今は競争する通貨がないけれど,デフォルトは今後の数十年で,アメリカの公的・民間債務に数千億ドルの金利負担を増やすだろう.
将来世代にとって,教育やインフラ,自然環境を心配するアメリカ人は,何よりも市民の政治的意思決定を残さねばならない.今や,効果的な政府の本質が損なわれる危機にある.
NYT October 2, 2013
The
Cost of the Shutdown
By THE EDITORIAL BOARD
NYT October 2, 2013
Minority
Rules
By CHARLES M. BLOW
NYT October 2, 2013
Excuses,
Excuses, Excuses
By NICHOLAS D. KRISTOF
プーチンやロウハニでも,われわれの国民的な福祉を脅かして譲歩を要求することはない.悲しいことに,この脅迫は国内の,かつてthe Grand Old Partyと呼ばれた政党の一部から起きている.
NYT October 2, 2013
Wall
St. Fears Go Beyond Shutdown
By NELSON D. SCHWARTZ and CHARLIE SAVAGE
WP October 2, 2013
Permanent
Republican minority
By Harold Meyerson
この20年間に3度の政府閉鎖が起きた.何が起きているのか? 議会の少数派が,多数派の決めた政策を破棄し,選挙で決めた大統領を追放しようとする? 共和党と国民との差は広がるばかりだ.ますます孤立し,ますます絶望的になる.民主主義が機能することを毒する最悪の組み合わせだ.
1994年に,共和党が上下両院を制したとき,南部白人が指導部を握っていた.共和党史上,初めて,代議士の指導者が南部連合諸州の議員であった.そこにはマイノリティーや労働者の権利を否定する伝統があった.
1995年以降,人口的・文化的な変化はアメリカを変え,共和党はマージナルな存在になった.ラティーノやアジア系の人口が増え,彼らは民主党を支持した.共和党が,国レベルの政策に関わるためには,2つの方法がある.1つは,マイノリティーの権利や,経済分野における政府の正当な役割を受け入れることだ.さもなければ,共和党は少数派のパワーを最大限利用し,連邦政府を妨害して,共和党の立場を受け入れるよう迫るだろう.
合理的には前者だが,合理性は現在の共和党を動かさない.孤立が問題だ.右派メディアは妨害行為を扇動する.このような行動は持続不可能である.しかし,彼らが破たんするまで,何度,政府は閉鎖されるのか?
FP OCTOBER 2, 2013
The
Walking Dumb
BY JOHN NORRIS
FT October 3, 2013
The
Republicans have a Tea Party problem
By Reihan Salam
FT October 3, 2013
Excess
self-esteem and the Tea Party
By Gary Silverman in New York
FT October 3, 2013
Why
have markets ignored Washington risk?
by Gavyn Davies
Martin Wolfは,アメリカの自爆行為,と非難したが,その日,株価は上昇し,金価格は下落した.なぜ政治的混乱は金融市場に無視されているのか?
2つの理由があるだろう.1つは,市場の性格だ.極端な事態は考慮されているが,実際に保険を掛けることはしない.自分だけが慎重な行動を取れば,それは競争に不利であるからだ.しかし,その態度は一気に変化する.大きな.極端なリスクが,直前に迫っていると感じたとき,彼らは動き出す.
金融関係者のリスク委員会は,短期的な政府の閉鎖を問題にしていない.しかし,政府債務のデフォルトは重大だ.深刻な混乱と,政府に管理できないような事態を続発させるだろう.
ただし,投資家たちは,問題が政治的なものであり,アメリカが「支払えない」のではなく,「支払わない」ことであるのを知っている.また,アメリカの政治システムは,合意できれば問題を処理できるのであり,多くの異なる国家からなるユーロ圏とは異なる.投資家たちは,こうしたことを過去の閉鎖の経験で学んだ.
それ故,政治はますます最期の瞬間まで金融市場の圧力を受けずに紛糾し続ける.それは,本当の最期になって生じる危機を拡大する.政治と金融パニックとの結び付きではなく,もう一つのフィードバック,すなわち,政治と有権者との関係が,市場のパニックの前に起動しなければならない.
NYT OCTOBER 3, 2013
Can
Obama Ignore the Debt Ceiling?
WP October 3, 2013
The
GOP endangers democracy
By Anne Applebaum
(後半へ続く)