前半から続く)


l  アメリカとイランの外交

FP September 20, 2013

Is the Iranian President Sincere in Wanting a Nuclear Deal?

Posted By Stephen M. Walt

全ての指示するものから考えて,イランの新大統領はアメリカとの取引を望んでいる.しかし明らかに,あらゆる根拠から,アメリカとイスラエルの強硬派はこれに反対している.Hasan Rouhaniが当選した10分後から,羊の皮をかぶった狼だ,という非難が始まった.

しかし,タカ派のこうした主張は疑わしいところがある.なぜなら,彼らはアメリカやEUが強硬姿勢を取るべき理由を,圧力を加えることで平和的な交渉が成功する,と説明していたからだ.イランが交渉を求めるなら,それは強硬策の成果として願っていたことである.もしタカ派の論理が首尾一貫したものなら,この可能性を慎重に試すべきであろう.そうではなく,アメリカにイランの政権転覆や体制転換を求めるなら,オバマが彼らの主張を聴く必要はない.

問題は,イランの発言が真剣なものか,という点だ.これは国際関係における古典的問題である.Robert Jervisはかつてこの問題を考察した.The Logic of Images in International Relations (1970) においてJervisは.シグナルと指標"indices"とを区別するよう求めた.シグナルとは,本質的な信用を欠いているものであり,指標は,それが意図するイメージは正しいという本質的な証拠を含む発言や行動である.すなわち,その意図を将来において否定するなら,実質的なコストをともなっている,ということだ.

では,ロウハニの提案はどうか? 私は,真剣なものであると思う.イランは真剣に交渉を望んでいる.われわれが制裁によって与えた影響は経済状態を悪化させている.イランは,コストのかかる行動を広範囲にとって,交渉に向けた姿勢を示している.大統領と外相とは,交渉担当者に強い権限を与え,その人選を明確にした.それは強硬派ではなく,それに反対する和解を支持する人選である.最高指導者のハメネイ師も,公衆に向けた演説で交渉の柔軟性を支持した.

抑えられた強硬派の,特に革命防衛隊は,交渉に積極的な姿勢を示す者に対して,もし失敗すれば報復するだろう.その発言や行動は,それゆえ,容易に取り消せず,高い政治的コストを意味している.また,遠心分離器によるウラン濃縮の作業を遅らせて,交渉の時間を許している.

ほかにも,もっと象徴的な行動として,前大統領のホロコーストを否定する発言を見直したり,シリア政府による化学兵器の使用を非難したりしている.会議派はこうしたすべての行動を「見せ掛け」と否定するだろうが,イランの国内政治状況が,こうした行動に真剣な意味を与えている.

要するに,イランの提案は本物の機会を示している,と思う.しかし,それが交渉の成功を約束するわけではない.交渉それ自体は,やはり非常に難しい.双方の強硬派が交渉を破壊する機会を狙っている.オバマとロウハニが各国の政治を掌握し,重要な利害関係者たちに交渉合意の利益を説得する力がもっとも重要である.

私は,それがロウハニよりもオバマにとって厳しいものだと思う.オバマは,イスラエルとその国内の支持者たち,サウジアラビアなどの諸国に反対されるからだ.彼らはアメリカ政府がイランと対立し続けることを願って,何でもやるだろう.オバマとケリーは,これまで以上の政治的勇気を持たねばならない.それでも,驚くような結果を私は待っている.

NYT September 21, 2013

Mother Nature and the Middle Class

By THOMAS L. FRIEDMAN

30年前に眠りについた男が先週目覚めたとすると,アラブ世界に起きていることを見て,何も変わっていない,と思い,また30年間の眠りにつくのだろうか?

そうでもない.2つの力が,前の30年間と先の30年間を違ったものにするはずだ.第1に,自然の豊かさが失われていく.人口圧力が増し,温暖化が進む.

新聞は,元農業大臣のIssa Kalantariが新大統領のこのことを告げたと伝えている.「われわれを脅かす主要な敵はアメリカでもイスラエルでも,政治的内紛でもない.それはイランの国土が次第に居住できないものに変わっていることだ.・・・地下水は減り,地価の水位が下がっている.このことを誰も考えていない.」

イランでもエジプトでも,自然の豊かさが上からのガバナンスを改善する圧力を強めている.同様に,誕生しつつある,政治的発言力を高めた中産階級が,イランの2009年緑の革命や,エジプトの2011年タハリール広場に現れた.彼らは下からガバナンスの改善を求めている.

秩序が漂流し,腐敗することも,人口が少なく,自然が豊かで,気候が安定しているなら,そして,市民たちが情報交換する技術がなく,結びつくことがなければ,耐えられる.今や,どちらの国でも,「秩序に加えて」ダイナミズムや自立する力が求められる.そのためには,法の支配,革新,政治的・宗教的多様性,より大きな自由が求められる.

ワシントンに交渉を提案するイラン指導層は,それを理解したのだ.核兵器を持つために経済制裁を我慢することは,自然の豊かさが失われ,台頭する中産階級の力を意識するなら,もはや維持できない.もっと世界と統合化したガバナンスが必要だ.

イランの大統領も,エジプトの将軍も,彼らが権力を得たのは中産階級の圧力があったからだと知っている.そして,権力を維持するためには,システムを改革しなければならない.

FT September 22, 2013

A US detente with Iran could be game-changing

By David Gardner

NYT September 22, 2013

Short of a Deal, Containing Iran Is the Best Option

By KENNETH M. POLLACK

The Guardian, Monday 23 September 2013

Iran: This time, the west must not turn its back on diplomacy

Mohammad Khatami

BLOOMBERG Sep 23, 2013

Five Reasons Not to Trust Iran on Nukes

By Jeffrey Goldberg - Sep 24, 2013

FP SEPTEMBER 24, 2013

Forget the Handshake

BY YOCHI DREAZEN

FP SEPTEMBER 25, 2013

What's New Is Nuance

BY DAVID ROTHKOPF

The Guardian, Thursday 26 September 2013

If we fear an Iranian bomb, we should back Hassan Rouhani

Simon Jenkins

FT September 26, 2013

Talks are the only way to reset Iran’s atomic clock

By Philip Stephens

NYT September 26, 2013

Iran’s President Calls on Israel to Join Nuclear Treaty

By RICK GLADSTONE

FP September 26, 2013

Can Rouhani or Obama deliver on any deal?

By Fareed Zakaria

前大統領Mahmoud Ahmadinejadに比べて,Hassan Rouhaniの態度は非常に際立っている.国連総会の前に,ジャーナリストたちとの小さな会合を持った.彼は時間通りに,素晴らしいローブをまとって現れた.そしてあらゆる問題について,知的に,かつ正確に回答したのだ.彼が強く非難したのは「イラン嫌い」“Iranophobia”だけだった.むしろメディアをイランに招待し,正しい姿を伝えてほしい,と述べた.

しかし,はっきりしないのは,ロウハニの行動が政府を代表しているのか,という問題だ.この機会に,オバマ大統領との短い会談と握手が提案されたとき,彼らはこれを拒んだ.35年ぶりの会談には十分な準備が必要である,というのだ.しかし,ロウハニが握手する権限もないとしたら,核開発について交渉する権限もないだろう.テヘランでは,タカ派の革命防衛隊が強い権力を持ち,経済制裁によって,むしろ密輸ビジネスを拡大している.

他方,彼らも疑っている.オバマに制裁を解除することができるのか?  制裁解除,イランからの積極的な対応,その検証,さらなる解除が望ましい.しかし,制裁は国連決議やEU, アメリカ議会などによっても行われている.アメリカ大統領に解除できる制裁は限られたものだ.オバマが議会に制裁解除を提案しても,共和党は全く話を聞きもせず,全ての提案を葬るだろう.

互いに交渉相手の男を見て,思うだろう.・・・彼にできるのか?

YaleGlobal, 26 September 2013

The US and Iran in a Tantalizing Dance

Abbas Amanat


l  地球温暖化の政治と科学

The Observer, Saturday 21 September 2013

To fight climate change, we must trust scientific truth and collective action

Will Hutton

The Observer, Saturday 21 September 2013

World leaders must co-operate on talks for strong new climate change deal

Nicholas Stern

Project Syndicate 22 September 2013

The New Climate Economics

Felipe Calderón, Nicholas Stern

NYT September 25, 2013

Climate Change Has Reached Our Shores

By CHRISTOPHER J. LOEAK


l  経済停滞と移民

NYT September 21, 2013

For Migrants, New Land of Opportunity Is Mexico

By DAMIEN CAVE

NYT September 26, 2013

Moving Up in a Stagnant Economy

不況は移民排斥を政治の争点にします.移民による社会的移動性や革新の加速を歓迎するべきでしょうか?


l  ロシアと人権外交

WP September 21, 2013

Russia still flexes its hard power

By Anne Applebaum

「正義が力だ.その逆ではない.」 数週間前に,オバマの演説はそう説いた.彼の言いたいことはわかる.ソフト・パワーだ.友人を得たり,本や映画を売ったり,洗練された経済学を教える力,先端的な技術がある.それは正しいのかもしれない.

しかし,ソフト・パワーが動かせない分野では,今もハード・パワーが重要だ.地球の裏側,シリアでは,ロシアのハード・パワーが,アメリカ以上に,正しいことを決める上で重要だとわかった.

プーチンが率いるロシアのエリート層は,ロシアの国益のために行動するのではない.彼ら自身の利益のために行動する.経済ナショナリズムと新帝国主義の主張は,ポピュリズムであるが,彼らの私的な利益にもなる.他のロシア人は,いつまで耐えられるだろうか?

Project Syndicate 22 September 2013

Jimmy Carter Obama

Dominique Moisi

FP SEPTEMBER 23, 2013

Samantha Power's Problem from Hell

BY COLUM LYNCH

NYT September 24, 2013

For Obama, an Evolving Doctrine on Foreign Policy

By DAVID E. SANGER


l  アメリカの貧困と成長回復

The Guardian, Sunday 22 September 2013

The American dream has become a burden for most

Gary Younge

FT September 23, 2013

The return of great expectations for US growth

by Laura Tyson and James Manyika

BLOOMBERG Sep 23, 2013

Fixing Inequality Can Save Us From the Next Crisis

By James K. Galbraith - Sep 23, 2013


l  TPPとは何か?

FT September 22, 2013

Trans-Pacific Partnership: Ocean’s Twelve

By David Pilling and Shawn Donnan

日本の参加は驚きだった.市場開放に消極的だと思われていたからだ.TPPは,アメリカからニュージーランドまで,日本からペルーまで,21世紀型の通商協定をめざす.

しかし,TPPは本当に通商政策における「金本位制」なのか? むしろ,WTOによるドーハ・ラウンドが成立しないから,アメリカが一気にTPPを改造した.それは,反対派から見れば,食品の安全性や医療,国家主権を侵す,大企業の陰謀だ.

また違う観方では,TPPの目的は通商政策ではなく,地政学的なものだ.自由貿易という衣装を着たアメリカのアジア戦略である.中国はそう疑っている.2008年にアメリカが関心を持ってから,TPPは変質した.世界生産の5分の2,貿易の3分の1を占める.この範囲が,アメリカ企業のための庭になる.

アメリカ政府にとって,TPPは世界貿易のルールを更新する作業だ.それは1994年で止まっている.また,中国の影響力拡大によって,アジアでアメリカの役割が小さくなるのを阻止し,回復する試みだ.さらに,ドーハ・ラウンドを動かすための有志同盟でもある.アメリカは,自由貿易に賛同する諸国や地域と,個別に同盟を組むことで合意を促進する.

しかし,合意の成立は難しいだろう.政府調達,知的所有権,国有企業,などで合意し,インターネット商取引,クラウド,から,労働問題,環境規制まで扱い,非関税障壁を取り除き,各国の自由化交渉からはぶく分野の拡大を抑える.反対派から見れば,これは秘密交渉であり,金本位制ではなく,贋金づくりである.

最近まで,TPPを中国に対する封じ込めであると批判していたが,ベトナムが参加できるなら,中国も参加する余地がある.また,TPPに参加する諸国にとっても,中国市場を犠牲することは考えられない.TPPは,ドーハ・ラウンド後の自由化に向けた突破口である.

しかし,WTORoberto Azevêdo事務総長は疑っている.いかなる地域協定も,保護主義の問題を免れない.自由化交渉におけるWTOが取り組む問題を,TPPが解決する特別な利点は何もない.自由化は,包括的に,多角的に行うことが望ましい.TPPは貿易差別化交渉だ.


l  イギリス労働党

FT September 22, 2013

What Labour needs to do to win the next election

By Peter Mandelson


l  中国の外交戦略

Global Times | 2013-9-22

Newborn Silk Roads need careful nurturing

By Ei Sun Oh

Global Times | 2013-9-22

Made-in-China besieged in Latin America

By Ding Gang

Project Syndicate 23 September 2013

Asia’s Rebalancing Act

Lee Jong-Wha

Global Times | 2013-9-23

Okinawa’s future lies in Chinese tourists, not Philippine experiences

By Yan Shenghe


l  ケニアのテロ攻撃

NYT September 22, 2013

Nigeria’s Long Emergency

By ADEWALE MAJA-PEARCE

NYT September 23, 2013

The West Need Not Fear Its Young Muslims

By JAMES FERGUSSON

FT September 24, 2013

TheKenyanattackjeopardisesinternationaljustice

By Michela Wrong

FT September 24, 2013

Arab rulers must speak up against sectarianism

Ahmed Rashid

FT September 26, 2013

Nairobi foreshadows tomorrow’s urban conflicts

By DavidKilcullen

ケニアの首都,ナイロビで起きたイスラム過激派al-Shabaab, the Somali groupのテロは,一つの恐ろしい傾向を示している.

武装した過激集団は,かつて国境の山岳地帯でゲリラ戦を展開した.911以後,辺境の村で治安回復や経済再建を図ることが主要諸国の安全保障に関わる行動の一部になっていた.しかし,環境の悪化(洪水,汚染,疫病),人口圧力の増大,沿岸部の都市化,スラムの形成が進む中で,ゲリラの浸透が起きている.


NYT September 23, 2013

Decades of Disarmament

By WILLIAM J. BROAD and DAVID E. SANGER


l  BRICな壁

FP SEPTEMBER 23, 2013

Can India Keep Growing?

BY DANIEL ALTMAN

FP SEPTEMBER 24, 2013

BRIC Wall

BY SIMEON DJANKOV, ANTOINE VAN AGTMAEL


l  オバマのシリア外交

FP September 23, 2013

Armageddon 2

BY JEFFREY LEWIS

FT September 24, 2013

Syria shows why Europe needs to flex more muscle

By Gérard Errera

Project Syndicate 24 September 2013

Obama’s Rocky Path to Success in Syria

Gareth Evans

NYT September 25, 2013

For the U.N., Syria Is Both Promise and Peril

By NADER MOUSAVIZADEH


NYT September 23, 2013

Deeper Than God: Ronald Dworkin’s Religious Atheism

By STANLEY FISH


l  貧困をどう解決するか?

NYT September 24, 2013

The End of Poverty, Soon

By JEFFREY D. SACHS

人類は,極端な貧困をなくすことができる.発展途上諸国で11.25ドル以下の極端な貧困層は,1980年人口の52%,1990年に43%,1999年は34%,そして2010年には21%に下がった.

アフリカの貧困を減らした要因を2つ挙げれば,携帯電話の普及と,科学や情報を普及させる公的融資であった.つまり,世界が極端な貧困から抜け出すには,「新しい混合資本主義」が必要であろう.民間部門と公的部門が,新しい戦略の下で協力するのだ.

WSJ September 26, 2013

Poor Indians Prove Amartya Sen Wrong

By AKSHAYA VIJAYALAKHSHMI, SRIKANTH VISWANATHAN AND VIPIN P. VEETIL

A.センは否定するが,貧しい家庭も良い学校を選択する能力がある.市場はこうした家庭を助けることができる.

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The Economist September 14th 2013

Syria’s chemical weapons: Distrust and verify

Charlemagne: A post-war continent

The German election: One woman to rule them all

Angela Merkel: a safe pair of hands

China in Central Asia: Rising China, sinking Russia

Business confidence: Freaking out

The dangers of debt: Lending weight

(コメント) 今も,軍事力は外交の基本だ,ということが示されています.シリアに対して,オバマもEUも及び腰でありながら,ロシアに任せることはできません.中国の中央アジア進出は,他面で,仕事を失った人々の怨嗟を増し,経済では後れを取ったロシアへの出稼ぎ移民を増やしています.中国の腐敗追放や企業への捜査が,外国企業・投資家の不安を高めています.

最も興味深いのはメルケルに関する記事でしょう.メルケルは,イデオロギー的な政治論争とは正反対に位置する,介助者です.その手法を,”politics of small steps”と呼んだりします.彼女はドイツの政治的自我に一致しており,穏やかな姿勢で,しかし反対政党の主張を取り込み,ドイツ政治に大きな変化をもたらしている.ユーロ危機に関しても,決してドイツ国内の限界を超えることはしない.ヨーロッパの健康を回復し,その家族の幸せをかなえるために,最強の国家を動かせるか?

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IPEの想像力 9/30/13

ゼミの合同合宿で東京・池袋の立教大学へ行きました.桜井先生,山川先生,お世話になりました.

たまに行く東京には,いつも異常な空気を感じます.世界都市風の外観,時間を無視して乗降客が行き交う駅構内,果てしなく続く繁華街の雑居ビル,駅によって一変する街の様相,異邦人のように,雑多な衣装をまとった雑多な階層の人々,公園のホームレス,労働者たち,老朽化するインフラ,巨大な工事現場,・・・

私のゼミ生のチームは,アベノミクスに関しても,TPPに関しても,日本の政府を肯定するような立場になりましたが,もちろん,安倍政権が大好きだ,というわけではありません.日本の政府が何を目指すべきか,は,政権政党に関わらず,一定の方針・戦略が問われる,と私は思います.

ゼミ生たちが強調し損ねたのは,アベノミクスがポスト・バブルの政治経済力学として,金融破綻後の先進諸国に共通する挑戦的政策ミックスである,という点です.かつてアダム・ポーゼンが,日本の政策ミスとして批判していたことを,周回遅れで是正し始めたのです.

彼らが強調し損ねたのは,金融緩和が出遅れてしまえば,このグローバルな金融市場では,厳しい円高とデフレ圧力を受ける,ということです.日銀が量的緩和の先駆者であるとしても,その効果をうんぬんするより,アメリカやイギリスが急激な緩和姿勢を取る中で,何もしないことは失策でした.主要通貨の中央銀行が一斉に量的緩和を実施することで,グローバルな金融政策が採用される流れを読めなかったのです.

彼らが強調し損ねたのは,この金融緩和政策が金融の問題だけでなく,財政刺激策や成長のための構造改革をともなう<ガバナンスの革新>である,ということでした.デフレ解消とは,金融的なデフレ現象をうんぬんすることではなく,日本の企業や投資家,家計の行動を変える挑戦でした.円安や株高を称賛するのではなく,デフレ・スパイラルこそが問題です.日本だけがデフレを放置することは,政府が債務を累積することと併せて,破滅の処方箋です.

私はゼミ生たちと話し合って,アベノミクスがさまざまなリスクに直面する,ぎりぎりの選択であると思いました.しかし,それでも成功の可能性は残されており,このまま放置すれば「日本病」(あるいは,ABCDフィッピー)が悪化するばかりです.ギリシャになるぞ,ハイパー・インフレになるぞ,という警告が無意味であると主張するのではなく,それが現実に襲いかかる前に,最後のチャンスに賭ける政治力学が働いた,と思いました.

円安によって景気を刺激するだけか? 株高によって富裕層の消費に期待するだけか? 法人税を引き下げて,消費税を引き上げるのか? 賃金も上がらないのに,ガソリンや食料の価格が上昇するのを許すのか? 貿易収支の増大はヘッジファンドの円売りを招くのではないか? 若者たちは安定した雇用を見つけられずに悲観し,老人たちは年金が少ない,デフレが続くほうが楽だ,と政治家たちに改革を放棄させるのか? ・・・

その通りです.これがアベノミクスです.正しい政策課題を含みながら,保守派のイデオロギーが求める政策には矛盾がある,と思います.しかし,反対するだけでなく,その政治的な姿勢を批判し,過去ではなく,一層の改革による未来を問わねばならない,と思います.

だれの利益か? 誰のために新しい政治経済を築くのか? 何を理想として人々の力を引き出すのか? ・・・

歴史は「アベノミクス」などという呼称を記憶しないでしょう.政権は次のショックで崩壊し,政争が続きます.指導者たちが交代する中で,将来に向けたイデオロギーは,まだ見えてきません.

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