IPEの果樹園2013

今週のReview

9/23-28

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シリア危機の新局面 ・・・プーチンの仲介とNYT投書 ・・・景気回復のために ・・・中国はどうする? ・・・日本の困難 ・・・リーマン・ショック後の金融改革 ・・・人口の限界 ・・・ドイツの選挙後に

 [長いReview]

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l  シリア危機の新局面

FT September 16, 2013

Cruise missiles alone cannot secure credibility

By Gideon Rachman

ワシントンから見れば,シリア問題とは化学兵器の問題であるとともに,オバマの信用の問題でもある.

ロシアのプーチン大統領がオバマの議会に対する提案否決を救った,という経過は,アメリカ大統領の決断が議会によって制約されていることを示した.それはアメリカに敵対する者がアメリカの実行力を試すきっかけになるだろう.

しかし,大統領が安全保障の約束を守るために軍事力を行使する,というのは,アメリカの信用を決める一つの要因でしかない.外交における致命的な間違いを避ける,強い経済や魅力ある社会を維持する,というのも重要な要因だ.アメリカがグローバルな大国として,その地位をもっとも深く損なったのは,イラク戦争であり,2008年の金融危機であった.

間違って軍事力を行使する方が,軍事介入をためらうよりンも,さらに大きな信用失墜をもたらす.この半世紀のアメリカ外交で最悪の失敗が,イラク戦争とベトナム戦争であり,最大の成果が,軍事力を用いなかった,ソビエト帝国の崩壊であった.

保守派にとってレーガンRonald Reagan大統領は,ジミー・カーターやオバマの弱さに対して,強い大統領のモデルである.しかし,レーガンは軍事費を増大したが,軍事介入には非常に慎重だった.レーガンが行ったもっとも勇敢な軍事介入は,人口9万人のグレナダに対してだった.また,レバノンの爆破による241人の米兵殺害に対しては軍を撤退した.レーガンが行ったリビア空爆は,短期の,体制転換を考えない,ちょうど今,オバマが検討している介入と同じである.

結局,レーガンの時代が強さを取り戻したのは経済が回復したからであった.アメリカや自信と地位を回復し,ソ連は分裂した.オバマもアメリカのグローバルな力が経済の回復に依存していることを知っている.彼は繰り返し,自国の再建“nation-building at home”に集中することを主張してきた.イギリス,フランス,ソ連が影響力を失ったのも,その経済が国際的な約束を実行できなくなったからだ.中国がアメリカを抜いて世界最大の経済になるとき,コストのかかる戦争を始めるのは,長い目で見て,間違っている.

政府がシリアに空爆できなかったとしても,それが国際情勢からアメリカの軍事力を永久に消し去る,と思うのはばかげている.アメリカは軍事的な優位を保つし,介入の長い歴史を持つ国である.オバマは軍事行動を取る前により慎重に考慮するが,それはアメリカの信用を失わせるよりも,むしろそれを維持するのに役立つだろう.

WSJ September 18, 2013

The Best Diplomacy Is Armed Diplomacy

By HENRY R. NAU

かつてプロシアのフレデリック大王は述べた.「軍事力をともなわない外交は,楽器の無い音楽に等しい.」 交渉以外には武力で敵を阻止できるときしか,彼は平和的な交渉に関心を持たなかった.

イランを観ればわかる.西側と交渉している間に,イランは武力で目的を達成してきた.着実に核武装に近付いている.レバノンとシリアの聖戦主義勢力を強化し,イラクとアフガニスタンで影響力を拡大し,アメリカの撤退する真空を埋めている.

他方,アメリカは交渉が失敗するまで軍事力を考慮しない.それは,結局,事態を悪化させ,大きな代償につながる.

1948年,トルーマン大統領は有名な空輸によってベルリンを守った.彼の顧問たちはすべて,このソビエト圏内に残された飛び地を放棄するように主張した.しかしトルーマンは,ヨーロッパにおける大規模な地上戦を回避したのだ.その後,朝鮮半島で,アメリカが早期の軍事介入を行わなかったために,戦争が起きたように.

軍事的圧力をともなう外交は,戦争によって敵を敗北させるか,永久に道義的な意味で受け入れがたい敵と共存することを意味しない.敵に自由が広まることで,交渉の目的を達成する.

それゆえ,イランやシリアを独裁国家と非難する姿勢を変えてはならない.彼らとの合意を一時的に守ることは,彼らの体制を容認することではない.


l  プーチンの仲介とNYT投書

theguardian.com, Friday 13 September 2013

On Syria, Putin is a modern Machiavelli – and that's a good thing

Vadim Nikitin

プーチン大統領の投書は,アメリカ人の思い込みを容赦なくたたき潰した.「善人こそが悪を成すものだ.」 アメリカ人のヒーローは,情け深い,リベラルな,憲法の元教授で,イラク戦争に反対した.

プーチンの投書を読むと,個人的には大嫌いな奴が,あなたの欠陥をすべて指摘して,それが煩わしいことに正確である,という印象を持つ.我慢ならないが,そのすべてに同意できる.

プーチン大統領の主張は正しい.アメリカ人は,価値に基づく外交が間違いを犯すことに,反省を強いられたのだ.道義的な軍事介入は,しばしば逆の結果をもたらす.短期的な空爆でも,罪のない多くの市民を巻き込み,また,暴力のエスカレートを招くかもしれない.

道徳と国際関係を区別する,というのはマキャヴェリNiccolò Machiavelliが主張したことだ.政治的行動に,個人や人間関係の道徳的基準を適用するのは,道義的にも,戦術的にも,間違いである.

一般の思い込みとは逆に,マキャヴェリは不道徳な陰謀を推奨したのではない.むしろ彼は,政治的問題で達成不可能な基準を掲げれば,政治家が自ら幻滅に至り,究極的に,その価値さえも裏切ることになる,と恐れた.世界を舞台にしたときの人間的な価値の限界について,リアリスティックな,明晰な思考を維持すること,事態をあるがままに,あるべき姿ではなく,見ることがより優れている.マキャヴェリはプーチンを称賛するだろう.

NYTの読者は書いている.「何と狂った世界に私たちは生きているのか.深刻な国際的危機について,我々の政府よりも,ロシアの主張の方が正気で,責任あるように聞こえる.」

Project Syndicate 19 September 2013

The Russian Janus

Robert Skidelsky

ロシアは世界に二つの顔を示す.恐ろしい顔と,めぐみ深い顔だ.それらは結びついて,意外なことに,アメリカと他の西側諸国が破滅的な軍事介入に向かうのを止めた.

ロシアの国内情勢も嘆かわしいものだ.計画経済が1991年に崩壊した後も,ロシアは市場で売れる商品を持たなかった.ロシアは,エネルギーという単一商品経済だ.才能ある者や技術者は海外へ出て働く.汚職の蔓延する国内経済から資本も逃げ出して行く.

その弱さは,プーチンの支配した14年間,エネルギー価格高騰によって隠されてきた.略奪政治と,反体制派の弾圧,所得の上昇したショッピング狂の中産階級とが,結び付いている.多様化に必要なインフラ投資をせず,ラテンアメリカになっている.

西側の外交は人権を重視するが,ロシアは気にしない.不正選挙による「管理された民主主義」がソフトな独裁体制を支える.法律は政治の目的に従い,それでも足りないときは暗殺してしまう.そのリアリズムは保守的な慎重さであり,中国も共有しているものだが,西側の守れない基準と同じ問題を含む.

プーチンは,反政府軍が西側の軍事行動を招くため,化学兵器を使用した,と示唆する.こうした政治体制下で真実は分からないだろう.ロシア人の多くは,19999月に爆弾テロで300人の市民を殺害したのは,プーチンの選挙を有利にするため,ロシア秘密警察が行ったことだと信じている.

合意は,中東におけるロシアの地位を高めただろう.プーチンはオバマを救った.しかし,その報酬は期待できない.


l  景気回復のために

NYT September 12, 2013

Rich Man’s Recovery

By PAUL KRUGMAN

新しい経済に向けて,政府や交渉力によって中産階級を増やすニュー・ディールが必要だ.しかし,政治の状況はそれから大きく隔たっている.競争条件を平等にする小さな前進でも,忘れてはいけない.ニューヨークは前市民に幼稚園を提供する.超富裕層に課税し,不利な子供たちの機会を広げるのだ.

WSJ September 16, 2013

Martin Feldstein: How to Create a Real Economic Stimulus

By MARTIN FELDSTEIN

量的緩和はその効果が疑わしい.このまま維持すれば,将来のリスクが増大する.アメリカ経済は,成長と雇用を増やす新しい戦略を必要としている.

即時に税率を引き下げ,多年度にわたってインフラ投資することと,公的債務の規模を相対的に低下させることを組み合わせる.それが正しい戦略だ.


l  中国はどうする?

Project Syndicate 17 September 2013

Silver Linings for a Golden Age

Kishore Mahbubani

世界の平和や繁栄は低下するのか? ある地域は啓蒙と進歩が訪れ,他の地域には先祖返りと停滞が起きている.そこで3つの問題に分けて考える.

1.アメリカは,道徳的な指導力の源という地位を回復するか? 2.中国は,経済の活動力を回復するか? 3.ヨーロッパと日本は「アニマル・スピリッツ」を回復するか?

幸い,アメリカと中国の経済は活気ある社会によって支えられている.アジアの他の諸国でも若者は楽観的だ.今後,アジアの増大する中産階級が爆発的な成長を担うだろう.アフリカの人口増加もそうだ.

シリア,エジプト,ソマリア,アフガニスタンで深刻な課題が残されているとしても,食糧安全保障や気候変動がグローバルな課題であるとしても,将来には希望が持てる.われわれは人類史の新しい黄金時代に入るのだ.

FT September 18, 2013

Let money leave China to ease Fed ‘taper’ pressure

By Charles Dumas

中国は,国内だけでなく,世界にまで影響するような政策転換に向かうだろう.

アメリカのQEが終結することを予想した資本移動が新興市場を襲っており,それは中国でも深刻である.かつて,1990年代の後半に,中国はアジア通貨危機を免れた.それは1994年に大幅な切り下げをしていたからだ.しかし,今回は違う.アメリカの政策変更は中国に最も強く影響するだろう.労働コストから見て,中国の為替レートは3分の1も過大評価されている.

中国の卸売物価のデフレと金利上昇で,企業は賃金を下げようとするだろう.同時に,過剰な投資の弊害から,投資も抑制されていく.その結果,中国経済は厳しい縮小に向かう懸念がある.指導部は,旧来の刺激策を繰り返すのか,それとも,新しい政策として,以前から約束していた資本勘定の自由化を実行するかもしれない.

民間部門の貯蓄が外国の土地や資産に向かって流出する.それは為替レートの減価を促し,過剰投資の急激な削減を緩和する.また,中国の目指す人民元の国際化にもプラスである.問題は,銀行の預金が流出することだ.政府は銀行を整理し,資本を強化しなければならない.それを負担するなら,金融自由化の利益が供給面にある.

世界市場は,この中国の転換によって重大な変化を生じるだろう.中国の貯蓄はアメリカの2倍,45兆ドルもある.大規模な投資がアメリカなど,世界の不動産・資産市場に向かい,他方,外貨準備として保有されていたアメリカ財務省証券は売られる.その構造調整の衝撃は,アメリカ連銀のQE終結を超える.


l  日本の困難

FT September 13, 2013

Nuclear freeze chills Japan’s cash-strapped utilities

By Ben McLannahan in Tokyo

今,エネルギー価格の高騰でデフレ脱出がとん挫することを政府は恐れている.より長期的には,原発の完全な廃棄が,世界第3の規模である日本経済の競争力を失わせるだろう.そこで,アメリカのシェールガス革命で安価になった天然ガスの輸入を求めている.

BLOOMBERG Sep 16, 2013

Japanese Ask, What’s Wrong With a Little Deflation?

By William Pesek

現在の黒田日銀総裁はデフレ脱出に努めている.しかし,もし前任者の白川総裁が正しいとしたら,日本はどうなるか?

かつて白川は,なぜもっと金融緩和しないのか? という問に,日本は高齢化しているから,物価の上昇は高齢者の固定所得(の購買力)を減らす,と答えた.政治家はこれを,言い逃れだ,と非難した.安倍もそうだ.

しかし,IMFの新しい研究でも,高齢化によって金融政策は効果を失う,と主張している.金融緩和が働くのは,それが長期の期待や現在の行動を変えるからだ.しかし,住宅の購入や投資を考えるのは若者である.日本は人口の4人に1人が65歳以上である.これは2060年までに40%になる.

多くの日本人は「良いデフレ」を経験している.藻谷Kosuke Motaniによれば,高齢者はインフレよりデフレを好み,政治家は,デフレを日本経済の停滞の一つの兆候であると考えず,原因だと誤解している.金融緩和でデフレを解消できる,と思うのは,貨幣数量説の盲信であり,カルトである.政府(そして高齢者)はデフレのおかげで苦しい改革を避け,膨大な債務を,わずかなコストで累積し続けている.

安倍首相は,大幅な金融緩和という簡単な改革にだけ成功した.これは最初,誰も苦しまない.しかし,本当にデフレが終わり,インフレが起きると,人々はコストの上昇に,政府は債務の負担に苦しみ始める.改革への政治的反発が生じるだろう.


l  リーマン・ショック後の金融改革

VOX 14 September 2013

The mother of all sudden stops: Capital flows and reversals in Europe, 1919-1932

Olivier Accominotti, Barry Eichengreen

2001年から2008年まで,ヨーロッパの半分に,他の半分とその他の世界から膨大な資本が流入した.2009年,その流れが止まって,資本が逆転し,危機が起きた.1924年から1928年も,同様に,ヨーロッパの半分は資本流入を経験した.そして1929年に,危機が起きた.

経常収支の赤字諸国を比べると(1929年危機のAustria, Germany and Hungary2008年危機のGreece, Ireland, Italy, Spain and Portugal),2008年の方が経常収支の調整幅が小さく,デフレの圧力が緩和されている.それは,政府間や国際機関を通じた国際協調融資が大きかったからだ.ユーロ圏は,突然の資本流入停止に対して,効果的な保険システムを提供した.対照的に,1929年の中欧諸国は,個別の保険(外貨準備)に頼るしかなく,大幅な経常収支赤字の削減とデフレを強いられた.

国際資本移動の変化を説明するのは,各国の政策や経済状況ではなく,グローバルな要因,すなわち,債券発行市場(長期金利,株式市場の浮動性)と投資家のパーセプション(リスク認識)である.かつてハリスやヌルクセの古典的研究は,国際資本移動は経済的・金融的な均衡を不安定化する,という強い疑念を示した.グローバル・ファクターを与件として扱うのは間違いだ.

FT September 17, 2013

We still live in Lehman’s shadow

By Martin Wolf

リーマン・ショックから5年が経つ.サマーズLawrence Summersが連銀議長候補から退場したのは,民主党員たちが金融自由化に責任あると考えているからだ.

しかし,リーマン・ショックが金融危機を起こしたのではない.債務の膨張に依存したバランスシートが危機を生んだ.もちろん,リーマン・ショックによる金利や株価の変動は重大な影響を及ぼした.今も景気回復に苦しんでいる.

その後の問題は,要するに,主要諸国の財務長官と中央銀行総裁が集まって,グローバル金融システムを政府の監督保護下に置いたのだ(病棟に入った).同時に,国民は途方もない高級で暮らす,コントロールを失った公務員たち,を見た.

政府と中央銀行は,パニックを救済したが,景気を回復できていない.債務に依拠した需要の増大と,彼らへの輸出で維持された世界景気は,その後も金融緩和に大きく依存している.それは他の選択肢がもっと悪いから,リーマン・ショック以前に似た,金融緩和を続けているのだ.

債務による成長をもたらした原因は,バーナンキが2005年に述べた「グローバルな貯蓄過剰」であった.特にアジア危機の後,発展途上諸国は過剰貯蓄を続け,世界的な低金利と経常収支不均衡が起きた.アメリカ連銀などは,このデフレ圧力を回避するために,国内のバブル経済をもたらす金融緩和を強めたのだ.それはグローバルな過剰生産力も実現し,その後のデフレを長引かせている.

金融緩和に頼る以外にないのか? 他の選択肢はない,と信じるイエレンJanet Yellenが連銀候補に残った.


l  人口の限界

NYT September 13, 2013

Overpopulation Is Not the Problem

By ERLE C. ELLIS

人間が増えすぎて地球の資源では維持できなくなる.そんな主張を信じてはいけない.

現在の世界人口は約72億人であり,90億人まで増えると予測されている.しかし,先史時代の狩猟技術しかなければ,人類は1億人以上生きることができないだろう.農業が始まって,同じ土地に,人類はもっと増えることができた.それでも上限は30億人だろう.

資源と人口とを固定して比較することは間違いだ.人口が増えれば人間は技術や文明を変化させてきた.その上限を決めることはできない.人々が飢えているのは,現在も,将来も,その環境が理由ではない.

地球の限界とは,想像力と社会システムが決める.


l  ドイツの選挙後に

FT September 16, 2013

Ignore the doomsayers: Europe is being fixed

By WolfgangSchäuble

ヨーロッパの冷静な危機管理は成功している.その成果は表れた.

1990年代に,停滞と失業に苦しむドイツが改革を実行して成功したのは,すべての党派・利益集団が協力して,雇用者と労働組合も協力して,雇用,公共部門,社会保障,消費税に取り組む合意を形成したからだ.財政再建の中でも,教育やR&D投資は優先した.ドイツの競争力は高まり,輸出も雇用も増えたのだ.

ユーロ圏でも同じことを実現しつつある.メディアや研究者,国際機関,政治において多くの批判が出されてきた.しかし,調整には苦痛が伴う.ヨーロッパはセーフティネットを提供している.この3年間で,財政赤字は半減し,労働コストと競争力は調整された.銀行のバランスシートが回復し,経常赤字も消滅しつつある.ユーロ圏の不況は終わるだろう.

2つの教訓を学ぶべきだ.1.構造改革には時間がかかる.2.現在の苦痛は永久に続かない.システムは調整されるのだ.

BLOOMBERG Sep 17, 2013

Europe’s Best Hope Is a German Grand Coalition

By Peter Bofinger

922日の投票後,メルケルAngela Merkelが首相に再任されるとき,既存のFDPthe Free Democratic Party)との連立が続くなら,ユーロ危機が再現するだろう.

メルケルの危機対策は4つの特徴を示している.1.長期ビジョンを欠く,2.極めて警戒的,3.極端にプラグマティック,4.債務を強く嫌う.その結果,危機の最悪の際まで行かないと対策を示さず,事前の対策を示したのは,唯一,ユーロ圏の公的債務を減らす合意であった.

この姿勢は,周期的に問題が生じても赤字国の構造改革はうまく行く,と前提している.しかし,ECBによるユーロ圏を守るために「何でもする」という約束は維持できないだろう.たとえば,イタリアとスペインも危機になれば,ECBの融資の前に厳しい改革の条件を示され,政府や議会が承認しなければならない.それに失敗する可能性がある.

民間投資家のストライキが起き,これまでの公的な枠組みでは債務を保証できない.これに対してECBが融資することはドイツで憲法に反するという抗議が起きるなら,危機を止められない.銀行危機,財政危機,マクロ経済危機という,3つがなす悪循環で,危機は急速に悪化する.

ECBの約束は時間を与えたが,銀行同盟を合意しただけで,制度の他の欠陥は改革できなかった.GDP60%を上限としてユーロ債を発行する,という提案も実現しなかった.メルケルがFDPではなく,危機回避のため赤字国の債務削減を約束している社会民主党との大連立を組むなら,ユーロ改革は進むだろう.

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The Economist September 7th 2013

Where’s the next Lehman?

The origins of the financial crisis: Crash course

Striking Syria: Fight this war, not the last one

Central Asia and its Russian dependence: Remittance man

Free exchange: One of the giants

(コメント) 世界金融危機を深刻なものにしたのは,債務の累積,取引の複雑な相互シンク,政府の対応の不明確さ・予測不能,であった.Crash courseとして,その基本的な経過が整理されています.新しい点は,アジアやヨーロッパがどのように関係するのか,が理解されてきたことでしょうか.

シリア空爆,タジキスタンとキルギスタンからロシアに向かう大規模な出稼ぎ労働者,そして,企業はなぜ存在するのか? という「コースの定理」の説明が面白いです.

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IPEの想像力 9/23/13

PechaKucha Night, Kyoto Vol.11! を観てきました(参加した,とは言えません).グローバリゼーションの渦中に,コスモポリタンが集まるクラブの文化が,そうか,こうして繁華街の一角にあるのだな,と納得しました.

DerrickAshの英語と日本語を交えた司会で,テンポよく9組がProjectsを発表し,真ん中でBeer Break, 最後は飛び入り参加者によるPechaKucha Mix! と記念撮影で終わる.彼らの話では,2003年から始まり,10年間で600以上の都市を舞台に,世界中で開催された企画です.

1.コスモポリタン・クラブ文化 ・・・音楽と,ビールと,談笑と,・・・野心,誘惑,歓楽,情念,何か,その中を,コスモポリタンな,不思議な熱気が漂い,帰属の無い個人が,新しい仲間を探している.自分という企画に,他人が関わる可能性を求めて,まるで夢想でしかない(と昼のビジネスが拒む)ことを,夜の街の,ここでだけは真剣に語ることができる.

2.日本であるから,そうなのか? ・・・「おおさかカンヴァス」では,47人のおばちゃん,しょうべん小僧,といった企画に歓声が上がった.街ゆく大阪のおばちゃんが,頼みもしないのに集まって,参加してくれた.・・・しょうべん小僧は,下の部分に公衆便所があり,利用者の小便の圧力に応じて,上のしょうべん小僧も遠くまで小便を飛ばす.・・・この楽しみとナンセンスに,日本の企画の貧しさも感じます.(橋下徹のせいで,予算はぐっと縮小された,のだろうか.)

5.カンボジア支援 ・・・つまり,これはビジネスではない.自分の気持ち,動機が何であれ,良いと思うことを主張し,行動するエネルギーがあること.そこに友人がいたから,その国に旅して,彼らの生きる困難さを知ったから,その素晴らしい世界を救いたい,と思う.

4Bridge Japanキャラバン ・・・日本はバラバラだ,と思ったからか? 彼は日本中を旅して,人々をつなぐ.その企画に,誰でも参加して,自分は本にしたい,という.こんなのでいいのか? という不安や堅苦しさを跳ね飛ばせる自転車旅行のスペイン人?は,冒険家の心を生きる.

3.舞踏・舞踊 ・・・確かに,舞うというのは,音楽ととともに,太古からある芸術なのです.しかし,商業的な成功には結び付かない.オペラ,ミュージカル,舞台演劇・ショーや映像・映画として成功する国もあるけれど.芝居小屋,学園祭,など,日本ではそれも無いように思う.

6.自分という表現・芸術の意味を考える.・・・Letters,面白かった.手紙かと思ったら,文字だ.それを絵のように見る.しかし,象形文字でも,意味や意図を示すのは,誰かに何かを伝えるためだろう.つまり,なるほど,Lettersなのだ.私たちは地球上に広く生息する高度な文化を持った生物種であるけれど,だからこそ,異なる文化や言語・文字に阻まれ,隔離されている.文明の容器を超えるLettersの中に,芸術の意味を考える.

7.政治・性 ・・・Nuit Blanche 2013 から,最後のApotheke,ビラにある「<自分>のできごとをつくる」まで,ここには政治がある.独仏友好の協定成立を記念し,京都でも芸術家たちが作品を展示・展開する.Apothekeの仲間は,LGBTLesbian, Gay, Bisexual, Transgender)によって社会から孤立させられた経験を持つ.ロシアの同性愛者を非合法化し,弾圧する法律に反対した.

日本人の参加者の多くは,文化的なバリアが厚く,この熱気に戸惑うのかもしれません.私は,音楽は満足,ビールは飲まない,コスモポリタンになれず,情熱を注ぐ企画も無し.結局,オープンな政治・性に参加する情念を持たないなら,日本人という文化の特異さを弁解することになります.

これは,文明圏や,野生の違いかもしれません.欧米文化が個人主義とクラブを持ち,イスラム社会がモスクや礼拝を持ち,日本人は・・・夏祭りや盆踊り,運動会や遠足,を残しています.これらを次々に住み替える若者たちの中から,日本のコスモポリタンも育つのでしょう.

伝統的な文化が近代化し,都市化する中で消滅し,それでも生きる上で仲間を得ようとし,あるいは,強烈な政治的情念で,ルールや公的な財源をめぐって争う人たちがいます.近代的な都市の文化の中に,伝統的な美しさや望ましい姿を再生する試みに,もっと自然に参加する仕組みを築くため,私たちは模索します.

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