前半から続く)


l  国際金融システムの改革

NYT September 5, 2013

Years of Tragic Waste

By PAUL KRUGMAN

もうすぐリーマン・ブラザーズの倒産から5周年である.しかし,政府は分裂し,正しく行動せず,その結果,アメリカ人の多くは失業し続けている.

FT September 8, 2013

Unfinished business in battle to fix the banks

By Patrick Jenkins, Banking Editor

FT September 9, 2013

A plan to finish fixing the global financial system

By Mark Carney

G20がこの5年で改善できたことは,バーゼル合意Ⅲや透明性確保による銀行システムの強化,などである.新しい基準の実行と協力が必要だ.

VOX 10 September 2013

Enhancing the global financial safety net through central-bank cooperation

Edwin M. Truman

世界金融危機は過去のものではない.内外の債務が積み上がれば,将来も繰り返し起きるだろう.そのとき,世界流動性を供給するグローバル・セーフティー・ネットの仕組みが必要だ.世界の中央銀行が協力して流動性を供給することに,あらかじめ合意しておくのである.

そのために必要であるのは,制度化されたグローバルな中央銀行間スワップ網である.まず,IMFが世界的な金融危機(流動性危機)を判定し,宣言する.世界的な金融システムを維持するために,流動性を供給しなければならない.中央銀行は協力して,自国だけでなく,他国の金融機関も救済するのである.

そのために必要なグローバル・スワップ網を,各中央銀行はあらかじめ合意しておかねばならない.その判断は,各中央銀行の独立性やその国の金融システムの安定性に基づき,各国で行われる.また,IMFや他国の中央銀行からの要請に対して,各国の中央銀行はその対応を独自に判断できる.グローバル・スワップ網の外で,2国間や地域のスワップが流動性を供給することも可能である.

中央銀行の対応には,建設的な曖昧さが必要である.それは政府や民間金融機関のモラルハザードを抑制する.また,中央銀行は制度的に各国の財務大臣に従う.政治からの独立性を維持し,外国の危機に巻き込まれないことを判断する権限が残されるべきだ.

しかし,グローバルな金融危機が起きれば,各国の中央銀行に選択の余地はない.IMFなど,国際機関が危機を宣言し,協調を要請するのは,こうした中央銀行の行動に国内から生じる批判を抑え,信認を維持するためだ.構造的なアプローチによってのみ,グローバル・スワップ網は十分に機能する.そのことが事前に理解されていなければならない.

Project Syndicate 11 September 2013

Learning from Lehman

Liu Mingkang

FT September 12, 2013

Insane financial system lives post-Lehman

By Gillian Tett

リーマン・ショック後の5年も,改善は限られている.6つの失敗を挙げよう.

1.銀行はさらに巨大化した.2.影の銀行システムはさらに活発に活動している.3.システムは投資家の中央銀行に対する信認に依拠している.4.富裕層の富は増大した.5.金融家の訴追は信用バブルが理由ではない.6.ファニーもフレディーも元気だ.

FT September 12, 2013

Lehman’s legacy: Five bitter pills

By Patrick Jenkins


l  インドのラジャン

BLOOMBERG Sep 5, 2013

India’s New Central Banker Isn’t a Superhero

By William Pesek

ラジャンのRBI総裁就任は,シカゴ大学の尊敬されるエコノミストで,世界金融危機を予測したという評価から,大きな期待を集めた.金融改革を進め,銀行融資を誰にでも利用できるようにして,拡大する,という.ルピーも株価も上昇した.

しかし,ラジャンにはインド経済の多くの重要問題を解決する決定権がない.彼は,金融的なカオスと経済機会の消滅,政治的なマヒ状態,という泥沼に落ち込むわけだ.放漫財政も,政治家の汚職も,投資を妨げる様々な規制も,彼には取り除けない.税制,新興企業,教育・訓練,インフラ,議会,輸入や投資への障壁,中東へのエネルギー依存,中国の脅威,その他,インドのさまざまな病巣.

インドの成長は短期の資本移動による債務の上に起きたことでしかなかった,ということになる.改革は5月の選挙まで何も動かず,この9か月は混乱が深まる.

theguardian.com, Sunday 8 September 2013

Raghuram Rajan: the challenge facing India's Ben Bernanke

Heidi Moore

Project Syndicate 11 September 2013

The Case for India

Raghuram Rajan

外国人のインド経済評価は両極端に振れる.しかし,インド経済の今の問題は,構造的なものではなく,2008年の危機を緩和するためにマクロ政策を拡大したことと,貿易相手国の成長が失われたせいだ.

Project Syndicate 12 September 2013

India Embraces the Welfare State

Shashi Tharoor


l  新興市場のユーロ惨禍

Project Syndicate 06 September 2013

Emerging Markets’ Euro Nemesis

Daniel Gros

新興諸国の通貨が不安を強めているのはアメリカ連銀が量的緩和をやめるからではない.ユーロ危機のせいだ.

アメリカの量的緩和は経常収支不均衡の急激な逆転と無関係だ.なぜならアメリカの対外赤字は近年にそれほど大きく変化していないからだ.アメリカはドル安で輸出を増やしたが,景気回復で輸入も増えている.

しかし,ヨーロッパの緊縮策はユーロ圏の経常収支に大きな影響を生じた.2008年,1000億ドルの赤字であったが,今年は3000億ドルの黒字になったのだ.それは南欧の加盟諸国に流入していた資本が突然に停止した結果であった.それらの国は3000億ドルの赤字を一気に消滅させてわずかな黒字になった.しかも,ドイツやオランダなど,北欧の黒字諸国は内需を拡大しなかったから,ユーロ圏は中国を上回って世界最大の黒字を出している.

ユーロは今も強く,切下げによるのではない,内需不足による4000億ドルの経常収支逆転が,新興諸国の経常収支悪化を強いた本当の理由である.


l  イギリスの自意識

The Guardian, Friday 6 September 2013

Britain's place in the world: small island blues

Editorial

FT September 6, 2013

Conversations with John le Carré

By Philippe Sands


Project Syndicate 06 September 2013

Global Institutions after the Crisis

Ngaire Woods

Project Syndicate 09 September 2013

A Dream for the Digital Age

Peter Singer

Project Syndicate 10 September 2013

Nature, Inc.?

Barbara Unmuessig


l  ユーロ圏の不安

FT September 9, 2013

Germany is a vegetarian in a world full of carnivores

By Gideon Rachman

肉食獣がいっぱいの世界で,ドイツは菜食主義者である.シリアへの軍事介入が話題になっているが,ドイツ人には関心がない.選挙のテーマは自分たちの町の些細なもめ事ばかりだ.

Project Syndicate 11 September 2013

Is Europe Out of the Woods?

Barry Eichengreen

ユーロ圏が崩壊することはないだろう,私はその可能性を,0%,と答えた.崩壊すると主張する者が軽視しているのは,ギリシャでも,ドイツでも,各国の有権者がヨーロッパのプロジェクトを支持していることだ.

確かに,ユーロ圏はECBという「最後の貸し手」を得た.しかし,危機を回避することと,景気を回復することは別である.

FT September 12, 2013

The audacity of stealth – Merkel’s plan for the euro

By Philip Stephens


WP September 6, 2013

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By Anne-Marie Slaughter


l  サマーズか,イエレンか?

NYT SEPTEMBER 6, 2013

Why Janet Yellen, Not Larry Summers, Should Lead the Fed

By JOSEPH E. STIGLITZ

BLOOMBERG Sep 8, 2013

Summers Would Spark Confirmation Fight of the Century

By Simon Johnson


l  日本の消費税引き上げ

BLOOMBERG Sep 8, 2013

Japan Can Afford a Higher Sales Tax

By the Editors

FT September 9, 2013

Japan must be brave – it is time to put up taxes

By Takatoshi Ito

日本の財政状態はユーロ危機の諸国より悪い.それでも金利が上昇しないのは,消費税率が5%でしかないからだ.ヨーロッパのように,2025%まで引き上げることができる,と思うから,投資家は不安を感じない.実際,2012年に,主要3党が消費税引き上げに合意した.

その合意に付加された条件をめぐって,安倍首相に消費税の引き上げを緩和する意見が出ている.しかし,過去1か月に60人の参考人を招いて,この問題の意見を聴取した報告書の作成で,4点が明らかになった.

1.日本の景気は拡大局面にある.219974月の増税は1998年の景気後退と関係ない.アジア通貨危機と,日本国内の銀行問題であった.3.現在の合意を見直すには,多大な時間と政治資本が浪費される.それより改革を進めるべきだ.4.増税を中止すれば投資家は政治的な意思がないと考える.これまで攻撃的な金融政策で得た上昇機運が失われてしまう.

Global Times | 2013-9-9

Tokyo 2020 brings fresh chance for Japan

By Global Times

BLOOMBERG Sep 9, 2013

Tokyo Reaches for 1964 Olympic Magic

By William Pesek

2020年のオリンピック開催は,安倍に政治的な支持を追加した.この機会に,福島原発の安定化と放射能の除去,日本経済の構造改革を達成し,日本文化の孤立性,特に,英語の能力を高めることだ.

FT September 10, 2013

Shinzo Abe to write revival story for Japan with Olympics

By Jonathan Soble in Tokyo

SPIEGEL ONLINE 09/10/2013

Japan's Nuclear Migraine

A Never-Ending Disaster at Fukushima

Von Marco Evers

WSJ September 10, 2013

Home Abenomics

FT September 11, 2013

Three arrows and five rings: Abe’s inflationary quest

By David Pilling

2020年オリンピック開催を得たが,日本を蹂躙するデフレ怪獣を退治する安倍の英雄譚はまだまだ続く.福島,旧敵国,日銀,円安,消費税引き上げ.

VOX 11 September 2013

Consumption-tax fears risk stalling Abe’s ‘three arrows’

Takatoshi Ito

FT September 12, 2013

Tokyo’s gamble

Project Syndicate 12 September 2013

Betting on the Tortoise in Japan

Jeffrey Frankel

予定通り消費税を引き上げるべきか? 19974月,Larry Summersは日本政府に繰り返し警告した.政策を変更できるとは思わないが,日本の役人たちが失敗したとわかるから,と.

今,日本は財政刺激策と,長期的な財政再建が求められる.これは信用を得るのが難しい.日本の場合,浜田宏一が言うように,5年かけて,毎年1%ずつ引き上げるのがよいだろう.その方が財政規律を示して,増税の中止より債券市場を驚かさない.増税の引き締め効果も抑える.将来の増税は自動車や電化製品の購入を促す.

デフレ脱出のためには,インフレ期待を形成するのはよいことだ.また,アメリカの炭素税や,新興諸国の食料,エネルギーなど,補助金削減についても,一気にではなく,徐々に行うのがよい.


l  景気回復策?

WSJ September 9, 2013

The Weak Recovery Explains Rising Inequality, Not Vice Versa

By JOHN B. TAYLOR

theguardian.com, Tuesday 10 September 2013

Austerity works? We need to keep making noise about why it doesn't

Jack Monroe

FT September 10, 2013

America’s economic growth is built on sand

By Robin Harding


l  新興経済の問題

BLOOMBERG Sep 10, 2013

Are Emerging Economies Entering a Lost Decade?

By Anders Aslund

Project Syndicate 11 September 2013

Erdoğan Is Not Turkey’s Only Problem

Dani Rodrik

新興市場,トルコの問題は,エルドアン首相だけではない.エルドアンの保守的な姿勢は,2010年のオリンピック開催というチャンスを逃がした.


The Guardian, Wednesday 11 September 2013

Who will win the first world war this time round?

Jackie Ashley

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The Economist August 31st 2013

Hit him hard

Attacking Syria: Global cop, like it or not

Free exchange: Horns of a trilemma

(コメント) シリア問題,ロシアのプーチン,アジア通貨危機の懸念,中央アフリカ,政治風刺,日本の起業家,FRB新議長,中国の4大銀行,などがありますが,いずれも退屈です.

1年前にThe Economistがシリアへの介入を求めた内容が興味深いです.地上軍は送らず,反政府軍の装備を改善し,人道支援の回廊を設置し,飛行禁止空域を設ける.もしアサドがそれを侵せば,政府の防空システムや軍事施設を空爆して破壊する.1年前であれば,アサド政権は弱く,反政府派は穏健派が主で,死傷者数も少なかった.

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IPEの想像力 9/16/13

講義の準備と思いながら探し続けて,私はTEDのいくつかの話に感銘を受けました.言葉の喚起する想像力です.

シアトルに住む不可知論者のユダヤ人,ヘイズルトンLesley Hazletonは,ある疑問から,ムハンマドの伝記を書きました.

西暦610年,砂漠の夜,アラーの存在を信じるようになったムハンマドに何が起きたのか,という疑問です.そして彼の経験を思索します.一人の控えめな男が神の存在に直面したら,それは喜びではなく,畏怖aweであっただろう.しかし,自分の経験を理解できず,それは悪魔ジンの与えた幻ではないか? と疑う.悪魔は自分を殺してしまうに違いない,と信じたムハンマドは,崖から飛び降りて恐怖を終わらせようとした.

このムハンマドの経験を知って,逆に,それこそイスラム教が生まれた瞬間であった,とヘイズルトンは考えます.人間の理解を超えた存在に直面し,自我や世界観が打ち砕かれる経験をしたことで,それがムハンマドを社会的・経済的な正義の急進的指導者に変えたのだ,と考えます.

(ウィリアム・H・マクニール『世界史』は,古代の4大文明が均衡状態に達した中で,それを大きく変えたものとして,ユーラシア草原の騎馬民族と,イスラム教の宗教的情熱,を挙げています.)

私はヘイズルトンのこの解釈が好きです.時代や社会を変えるイデオロギーが持つ急進性,現実を超える,個人を超える,境界を越える,既存の秩序を無視して「罪」を犯す,・・・不正義を糾弾する.その激しい感情や力を感じるからです.それは,神や,強烈な希望が,合理的・分析的には説明できないものであることを示します.

疑いこそ信仰の本質である.人間は,自分は,世界の支配者ではない.理性的に説明できないような経験をした者が,それについて疑いと,信仰との間にあり,苦しみ続ける.だからこそ,彼の強い信仰には,同じ疑いに苦しむ者に対して力があるのです.

しかし,確信は信仰ではない,とヘイズルトンは主張します.原理主義者は疑いを許さない.彼らには答えだけがある.神はすべてを知っており,常に正しくなければならない.それを疑う者は信仰を持たない者として攻撃する.・・・そうではない.疑いこそ,信仰の核心である,と.

それを失えば,絶対的な真理をかざす,傲慢さ,ドグマティズムになる.イスラム原理主義者も,彼らと反対の極にいたキリスト教の原理主義者,十字軍も,敵を非難する言葉は「異教徒」(信仰のない者)であった.原理主義者は思考を避けるために,信仰の厳しい要求を逃げて,絶対主義に向かう.

ヘイズルトンは,ここで現代の過激派を批判し始めます.疑いを持ち,真の信仰を求める多数の者は沈黙し,少数の過激派に公的な議論(政治)を奪われている,と.救世主気取りでヨルダン川西岸に入植する者,同性愛者を攻撃し,女性を軽蔑するキリスト教徒,自爆テロという犯罪を助けるイスラム主義,・・・しかし,武装した過激派はどの宗教でもない.彼らはすべてカルトであり,他者の血にまみれた兄弟だ.信仰と狂信を混同してはならない.

自分は合理主義者,不可知論者であるが,信念はある.中東和平が実現できる,と私は信じている.それは不可能だという証拠をいくら積み上げられても,私はそれを信じない.信念をあきらめるという誘惑に負けてはいけない.絶望というものは自己実現的である.私たちが絶望的な現実を受け入れるなら,それが続いてしまう.

ニヒリズムを拒否し,未来や人間同士の関係を信じる.ムハンマドが現在の中東を見れば,彼の名において活動する原理主義の過激派に激しい怒りを覚えるだろう.人類の半分がジェンダーによって弾圧されていること,セクト主義によって殺し合っていることに心を引き裂かれ,テロリズムだと呼ぶだろう.そして,厄介な中東和平の実現に,全力を注ぐだろう.

シリアの空爆は避けられた.・・・オバマの失策? 軍事的圧力による外交の勝利?

2020年,東京オリンピック開催が決まった.・・・原発事故の処理は? 尖閣問題は?

安倍首相は,東京オリンピックを平和の祭典として受け入れてもらえるように,尖閣問題の凍結と,長期の交渉姿勢を示し,アジアの平和的な秩序に合意すべきでしょう.

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