IPEの果樹園2013

今週のReview

9/9-14

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シリア空爆・イギリスの離脱 ・・・シリア空爆・アメリカの選択 ・・・新興市場の不安 ・・・インドの新総裁 ・・・金融改革と景気循環 ・・・スウェーデンの経済モデル ・・・ドイツとユーロ圏

 [長いReview]

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l  シリア空爆・イギリスの離脱

FT August 30, 2013

The Syria vote brings to an end decades of delusion

By Philip Stephens

帝国の最後の見せかけが崩れ落ちた.

それは60年前のスエズ危機でアイゼンハワーがアンソニー・イーデンに撤退を強いたときから明らかであったが.それ以降,イギリスはアメリカの影に従って行動してきた.

イギリスはアメリカとともにイラク戦争に参加し,アフガニスタンでタリバンとも戦った.しかし,下院でキャメロンが敗北したのは,偶然でもあり,歴史的必然でもあった.国連の査察も,安保理の議論も無視して,キャメロンは休暇中の議員たちを呼び戻し,採決を急いだ.しかし,労働党は党内政治から反対派になり,国民感情は戦争を嫌っていた.アサドを罰するという大げさな騎士道精神は,キャメロンの外交のすべてだった.

否決が示したのは,国民の疲労感である.国民はイギリスの軍事力についても現実を直視していた.イラクやアフガニスタンは,その犠牲が何のために支払われたのか,納得できなかった.リビアでわずかに上向いたが,結局は,イスラム過激派の勢力が拡大している.

キャメロンは,容赦ない緊縮策を,軍備削減も含めて追求したにもかかわらず,威勢の良い空爆論を唱えている.アメリカ議会でもオバマが学んでいるように,民主主義システムの不都合な政治的現実を受け入れるしかない.同時に,アメリカはイギリスに失望しただろう.イギリスというのは,アメリカとの同盟も,EUとの協力も,解消し始めた,後ろ向きの国である,と.

帝国の遺産の陰に隠れて,この危険な世界に乗り出すようでは,失敗する.


l  シリア空爆・アメリカの選択

NYT August 29, 2013

One Great Big War

By DAVID BROOKS

世界平和に対する最大の脅威は何か? それは,シリアの化学兵器でも,イランの核武装でもないだろう.最大の脅威は,中東における宗派争いが激化して,地域全体に広がることである.

シリア内戦は暴力の波を広げている.それは最初,宗教戦争ではなかった.しかし,シーア派とスンニ派の大国が,宗教を名目に介入し,宗派の対立を地域に拡大した.サウジアラビアとイランが,戦争の背後にいる.

シリアの死者がルワンダの規模に近づくにつれて,大量作陸のイメージが流布され,近隣や遠方から兵士たちが流入した.過激な宗教戦士は強力であり,戦場を宗教によって分割した.人々は無秩序と(宗教戦士の)残虐さの間で,選択を迫られている.

イラクにおける宗派間対立が再び激しくなってきた.さらに,トルコ,パキスタン,バーレーン,クウェートでも,暴力の影響がみられる.それは一つの地域戦争になりつつある.これは世代に及ぶ長期の戦争の一部であり,第1次世界大戦後にそうであったように,各地の体制が崩壊し,国境線が描き変えられるだろう.人々を分断する勢力が,人々を包括する勢力を圧倒する.

アメリカは軽い外交を展開してきた.アメリカ国内の再建を優先し,撤退を進めたのだ.イラクの紛争を鎮静化するために,もっと多くの軍隊を駐留させることもできたし,シリアにおける反政府勢力をもっと早く支援することもできたはずだ.しかし,もう手遅れである.

結局,アメリカは中立を保つだろう.アメリカがサウジに味方して武器や情報を利用すれば,スンニ派だけを支援することになり,それは長期的な宗教戦争における中立の立場に背くことになる.反シーア感情,反スンニ感情を抑えるグローバルな教育がもっと必要だった.

今となっては,外部から何かするのは事態を悪化させるだけだ.「大規模な森林火災と同じく,われわれは最善を尽くしてそれを封じ込めることである.」

FP AUGUST 29, 2013

Wounded Giant

BY ROSA BROOKS

かわいそうなオバマ大統領.彼は負けるしかない.

シリアで虐殺が続いている間も,彼は何もしない.批判派は弱腰と言う.戦略がない.アサド体制が国民を弾圧していることに無関心だ.アサドが国際法を犯しても気にしない.

シリアだけじゃない.エジプトもそうだ.アラブの春はその希望を失った.ロシアとの関係を「リセット」できなかったし,アジアへの「ピヴォット」も実現していない.

しかし,オバマの失敗だけでなく,グローバルなパワーの構造変化や,アメリカ国民が好まなくなったことで制約されている.オバマは,われわれが嫌う真実を語れないのだ.

アメリカの世紀は終わった.アメリカが望む世界に変える力はない.われわれには物を破壊する力がある.アフガニスタン,イラク,リビアで見たように.しかし,ミサイルを撃って,アサドの体制を安定した民主主義に変えることはできない.

オバマは,アメリカの限界を認めるように求めている.エジプトの問題も,シリアの問題も,アメリカには解決できない.われわれにできる問題に集中するべきだろう.これは正直な議論だ.孤立主義ではない.グローバルな関与を続けるが,軍事力の行使には限界がある.

FP August 29, 2013

An Imaginative, Creative Way to Deal with the Syrian Crisis

Posted By Stephen M. Walt

限定的な軍事力の行使で何を達成できると考えるのか? 懲罰的なミサイル攻撃で国際的な規範が守られるのか? 明らかではない.アメリカ国民は戦争に関与することを嫌っており,もし報復された場合に,オバマは重大な代償を支払わされる.アメリカにとって重大な利益に関係ない問題で軍事力を政治的に利用する,エリートたちの慢性病を見る.

さらに問題であるのは,シリア危機を外交的な転換に結びつける想像力がないことだ.危機を利用して,外交ゲームの流れを大きく変えるべきだ.

化学兵器による危機を,新しい外交イニシアティブにするべきだ.安保理の検討事項にして,各国が情報を提示すればよい.何より重要なことは,ミサイルを発射する前に,アメリカ,EU,ロシア,中国,トルコ,そして,イランを招いて,シリア問題に関する国際外交会議を行うべきだ.イランを招くことで,従来から求めていた地域的な役割をイランは認められる.アメリカはイランの建設的な役割を評価する.また,イランの核開発問題と切り離す.選挙に勝利した穏健派の新大統領Hasan Rouhaniを支援できる.

会議は停戦への可能性を示す.敵対勢力の支配地域にシリアが事実上,分割されたことを認める.それは権力をシェアする交渉への出発点となる.また,残虐な弾圧を行ったアサド体制を支援するロシア,中国,イランは,その体制との距離を取れる.

ミサイルを発射することが好きなアメリカ,という印象を拒む方がよいだろう.

FT September 2, 2013

The world would miss the American policeman

By Gideon Rachman

1899年,帝国主義の詩人Rudyard Kipling“Take up the white man’s burden”と唱えたように,今,アメリカの黒人大統領はあえて帝国主義的な言葉を使っても,世界の安全保障を担うアメリカの特別な役割を宣言する.シリアに対する軍事行動とは,それである,と.1945年以後のグローバルな秩序を築き,守ってきたのはアメリカであった.

しかし,アメリカは平和をもたらす野蛮な戦争を引き受けるべきか? アメリカ議会は論争する.国民の多くはそれを疑っているのだ.世界第4の軍事力を持ち,安保理の常任理事国でもあるイギリスの議会は,シリアへの軍事行動を否決した.アメリカ議会も否決するとしたら,世界は震撼するはずだ.

イラク,アフガニスタンの戦争,シェールガス革命,花吹雪の歓迎という幻想の消滅,それどころか,アメリカは守ったはずの人々から憎まれている.イギリス人の4分の3はシリア攻撃に反対し,アメリカ議会は2分している.

たとえアメリカ議会が否決しても,伝統的な,限定的な武力介入に戻るだけである.アメリカが世界の警察官であることを拒んだわけではない.しかし,それがアサド体制の野蛮さを助長する以外に,より広範なメッセージを世界にもたらす.太平洋,アラビア湾岸,ロシア・ポーランド国境,など,グローバルな安全保障を築く「アメリカの警告」America’s “red lines”が疑わしくなるからだ.

オバマはシリアに警告したが,もし行動しなければ,その結果からアメリカの敵は学ぶだろう.日本,ポーランド,イスラエルなど,アメリカの同盟諸国も学ぶ.世界は,思っている以上に,アメリカという警察官に頼っているのである.

FT September 2, 2013

America must stick to a course on Syria

Richard Haass

1.シリア政府の化学兵器使用に対する空爆を行う.2.軍事的関与は限定的である.3.シリアの近隣諸国,特に難民を吸収するヨルダンを助ける.4.外交的な努力を続ける.ロシアをアサド体制から切り離し,政府側の妥協を促す.それにはまだ時間がかかる.

アメリカは,それに従って長期的に行動できる戦略を必要としている.それは,ただちに体制や戦争を終わらせるものではない.しかし,緊急の利害を守り,内外におけるアメリカの安全保障に関するより大きな諸問題を解決するような軌跡を描くものである.

Project Syndicate 03 September 2013

Calling Off America’s Bombs

Jeffrey D. Sachs

アメリカ政府はシリア人民の利益を何度も主張した.それは非常に疑わしい.アメリカはシリア内戦を,イランとの代理戦争と見なしている.

アメリカは仲介者や問題解決者から,シリア反政府軍の支援者に変わったが,それは重大な失敗であった.そのせいでアメリカは,国連のアナン元事務総長による和平工作を妨げた.

今や,シリア政府の化学兵器使用をめぐって(おそらくは,双方が使用しただろう),アメリカは非難を強め,再び国連を迂回して,軍事介入を計画している.実際,アメリカが考えているのは,イランやイスラエルのことだ.世界中に多くの独裁政権があるけれど,アメリカはその退陣を要求していないし,友好関係を維持している.オバマ政権は,中東における体制転換を目指したネオコンの思想を継承したのだ.

そうではなく,アメリカは化学兵器使用の証拠を国連に提出するべきだ.国連安保理で違反者を非難し,国際刑事裁判所に訴える.そして,ロシアや中国とも協力するのだ.もし彼らが協力を拒めば,それは国際的な重要問題で彼らが孤立するだけである.

NYT September 3, 2013

Arm and Shame

By THOMAS L. FRIEDMAN

問題は複雑だ.シリアの化学兵器使用を止め,アメリカはシリア内戦に巻き込まれず,シリアの国家が突然崩壊して化学兵器が拡散したり,さらに悪いことに,ヒズボラやイランの同盟者としてシリアが強化されたりするのを阻止しなければならない.この針の穴を通すような戦略として,オバマが採用した1回限りの“shock and awe” シリア軍事施設にミサイル攻撃する,というのは間違いだろう.むしろ,“arm and shame”の戦略が正しい.

シリア内戦を終結させるのは容易でない.おそらく,国際的な,多宗派による,連合軍が全土を支配するしかないだろう.そして,すべての武器を取り上げ,合意された支配に向けて移行期を監視する.21世紀にそのような軍事力の組織化が可能とは思えないし,イラクのケースは,それでも必ず上手く行くとは限らないことを示した.

最も起こりうるのはシリアの分割である.アサドを支持するアラウィート派,スンニ派,クルド人など.さらにスンニ派は,西側に近い世俗派のFree Syrian Armyと,アルカイダなど,イスラム主義,聖戦主義のグループに分かれる.

だから,アサドに対して化学兵器の使用に懲罰的なミサイル攻撃をするより,Free Syrian Armyの軍事訓練と(対戦車,対戦闘機を含む)武器供与を強化することが最善である,と思う.これには3つの利点がある.1.アサド体制を苦しめる.2.自分たちを守れる.3.穏健派の支配領域を拡大し,交渉と妥協をもたらす.

他方,限敵的な空爆は,アメリカの弱さを示す.シリア人の犠牲者が出た場合,アサドの戦争犯罪から離れて,焦点がアメリカに向けられる.

さらに,戦略を次に進める.あらゆる外交的手段を駆使して,アサドとその妻や仲間を化学兵器の使用に関して断罪する.国連安保理で彼らを指名し,国際刑事裁判所にも持ちこむ.それによって正義がなされる見込みはないが,世界が彼らの犯罪者の烙印を押すことは重大な意味を持つ.ロシアや中国,イランがアメリカの軍事介入を非難するのは容易である.しかし,アサドの犯罪,化学兵器の使用を擁護することは非常に難しい.

オバマが自分の信用を傷つけないために空爆すれば,アサドではなく,自分たちの行動に関心が向けられる.

FP September 4, 2013

Dollars, Not Bombs

BY DANIEL ALTMAN

シリアの人口は2100万人,その1人当たり所得は戦争中も3300ドルあった.シリアは所得の38%を輸入に充てたが,貿易は国内生産とともに減少した.隣国であるヨルダンは,1人当たり所得4900ドル,その73%を輸入した.レバノンは,9700ドル,49%であった.レバノンの輸入の9分の1,ヨルダンの輸入では16分の1が,アメリカからである.少なく見積もっても,平和で自由なシリアを回復した場合,年に70ドルの財・サービスをシリア人はアメリカから買うだろう.総額で15億ドルである.そこから約3億ドルがアメリカ政府の税収になる.

アメリカはこの税収をシリア国民に払い戻す.平和を維持するという条件で,アメリカ政府は,毎年,20年といった決まった期間,この額を支払う.現状に比べて,この政策はアメリカの財政に中立的である.

他国も,同様に,このシステムを採用して,シリアの平和に報償することができる.例えば,ヨーロッパの主要諸国だ.EUは地中海地域との経済関与政策を掲げているが,まだシリアの主要貿易相手ではない.EUが参加すれば,平和の報奨金は10億ドルも増える.アサドとその支持者は,敗北すれば全てを失うと知っている.だから,報奨金をアサドと分け合うことが,平和的な政権移行の交渉(その後の停戦,政権安定化)を促すだろう.双方が殺し合うよりもはるかによい.

1990年代に,冷戦が終結するとき,アメリカはその報奨金を得て財政赤字が解消できる,と議論された.その後,アメリカは減税と2つの戦争で報奨金を使い果たしたが,別の形で手に入れることができる.


l  新興市場の不安

The Guardian, Friday 30 August 2013

Another financial crisis looms if rich countries can't kick their addiction to cash injection

Ha-Joon Chang

インドのルピーが減価している.他にも,中国を除く,新興市場の通貨から資本が流出し,価値が低下している.しかし,それは必ずしも危機ではない.なぜなら,ブラジルや南アフリカのように,通貨価値が過大になっていた国もあるからだ.

それにもかかわらず不安が広まっているのは,豊かな諸国で採用された量的緩和QEの影響で,新興市場に大量の資本が流入していたからだ.それは,絶え間なくバブルに頼る裕福な諸国がその経済モデルを転換しないために,採用された政策である.短期の金融的利益が重視され,長期の生産的な投資,労働者の生活の質が軽視された.

VOX 4 September 2013

The BRICs party is over

Anders Åslund

BRICSの成長の波は終わった.BRICSは,その成長がこれほど長く続いたことを驚くべきだ.ガバナンスは劣悪で,無駄なインフラや記念碑的建造物を遺した.BRICSの成長とは,国際商品ブームと信用膨張による二重の拡大効果であった.それらは終わったが,BRICS諸国は改革のチャンスを失い,「中所得の罠」に陥った.しかも,成長低下の対策を,国家資本主義への傾斜に求めている.


l  インドの新総裁

NYT September 4, 2013

India’s New Central Bank Leader May Have a Short Honeymoon

By KEITH BRADSHER

インドの慢性的なインフレは,貿易赤字,財政赤字,インフラ不足のような,中央銀行の操作できない理由で起きている.Rajanの指名により,ルピー下落の問題は,インフレと成長との間で金利を決定するジレンマとして,人々に理解されるようになった.


l  金融改革と景気循環

VOX 31 August 2013

Dilemma not Trilemma: The global financial cycle and monetary policy independence

Hélène Rey

グローバルな金融サイクルは「トリレンマ」を「ジレンマ」に変えた.自律的な金融政策を得るには,資本勘定を直接もしくは間接に管理するしかない.

資本移動は景気循環を増幅している.為替レートが変動制であるかどうかに関係なく,アメリカの金融政策がグローバルな銀行の融資に影響し,国際金融システムの資本移動や信用供与を増減するのである.

金融政策の自律性を取り戻すには,a)資本規制,b)金融政策,c)信用供与とレバレッジの循環的変動抑制,d)信用供与とレバレッジの金融システム規制,による.それらには効果的な国際協調が必要であるが,歴史的に,対立が繰り返されている.

各国は,独自に,マクロ・プルーデンシャル政策を模索するが,資本規制も排除してはいけない.

Project Syndicate 04 September 2013

The Failure of Free-Market Finance

Adair Turner

1960年,イギリスの家計が負う債務はGDPの15%以下だった.2008年までに,それが90%を超えた.アメリカの民間部門の債務は1945年に70%であったが,2008年には200%を超えた.しかし,中央銀行は,物価が安定している限り,債務の水準は問題ないと考えていた.

金融危機と不況で,それが間違いだった,とわかる.ハイエクが述べたように,債務は過剰投資の循環を増幅した.好況期にも,問題は解消されない.日本が示したように,危機後の不況は長引いた.財政支出によって民間債務を救済し,支出を補う政策は,問題を公的債務に移すだけだった.

2つの問題がある.1.民間部門と公的部門にある債務を,どうやって減らすか? それは深刻な不況を招く.それを避けて,債務の組換・免除,債務の貨幣化,が必要だろう.2.将来,債務の膨張(レバレッジ)を,どうやって抑えるか? 景気循環を抑える資本の抑制策が必要だ.銀行の預金準備を量的に厳しく規制し,債務者の規制を行う.

こうした規制手段は,自由な市場が金融においても望ましい,という危機前の正統派経済学に否定されていた.しかし,それは間違いだった.民間部門は債務の水準を適切に管理できなかった,という事実を学ぶべきだ.


l  スウェーデンの経済モデル

FP August 30, 2013

The Swedish model for economic recovery

By C. Fred Bergsten

1968年に世界第3位の裕福な国であったスウェーデンが,1970年代,80年代,福祉国家の肥大化によって,世界第17位に下落し,1991年には,厳しい金融・不動産危機を経験した.そして,その後,熟達した技量と政治的勇気により改革を進めた.

今やインフレは抑えられ,毎年,黒字予算を示す.法人税はアメリカより低く,研究開発にGDPの多くを費やす.企業は世界市場で競争力を示し,経常収支も大きな黒字である.そのために,危機後,政府支出をGDP20%も削減し,失業や病気に関する社会的な補償を大きく削った.政府債務を半減させ,限界税率は低く,税制は簡素になった.改革された銀行システムは世界金融危機も切り抜けた.

規制緩和や競争を取りこむ構造改革も進めた.スウェーデンは充実した社会福祉を解体するのではなく,競争によって大幅に効率化することに成功した.子供たちはバウチャーによって学校を選び,社会保障は純粋な保険制度である.福祉国家は生き残り,支出は経済規模の半分を占めるが,それは教育と医療である.財政的な保守性と,行政的な効率化,これが経済改革の原則だ.


l  ドイツとユーロ圏

FT September 3, 2013

Germany is being crushed by its export obsession

By Adam Posen

もしヨーロッパが,将来,ドイツ・モデルを採用するとしたら,我々は問題を抱えるだろう.

ユーロ危機は今も,ドイツのたどった競争力回復のモデルを前提している.すなわち,賃金の切り下げだ.ドイツは,他国にも増して,低賃金・パートタイムの弾力的な雇用を増やしてきた.他方,裕福な国がたどるべき研究・開発投資は少なく,生産性の上昇も低い.すべての先進経済で製造業の雇用は急速に減っているが,ドイツは,イタリアや日本とともに,その減少率が少ない.

ドイツの成長は,低賃金による輸出に大きく依存し,それが貯蓄や国内投資をへらして,ますます輸出に依存するサイクルを成している.もっとも重要なことは,その結果として,ドイツはヴァリュー・チェーンの位置を下げていく.こうしたモデルをヨーロッパが採用することは,間違いだ.

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The Economist August 24th 2013

How India got its funk

Central bankers: The apprentices

Black America: Walking life

Lexington: Barack Obama’s Iraq syndrome

Dutch immigration: Overflow

Bagehot: Go away, we need you

Remembering Holocaust: Bearing witness ever more

(コメント) Middle East: SWIM WITH CAUTIONという立て札のある砂浜を,虚ろな表情で,海水パンツ姿のオバマが海からあがって来る.ただし頭にタコ,肩から背中,腰,足にかけて,ヒトデ,サメ,ピラニアかサメみたいな,牙のある小さな魚がびっしり並んで噛みついている.

オバマ外交を,さまざまな立場で批判するのは間違いだ.オバマは,国民と同様に,冷静で,理性的な主張を一貫して唱え,公平に批判している.ただし,政治的には,それが罪かもしれない.

インドの通貨危機,金融政策の迷い,オランダとイギリスの移民に関する姿勢が議論されています.特に,イギリスでは火星人がそれを観察します.

ドイツだけでなく,アメリカにもホロコースト記念館があります.その教育活動を世界に広める大会が中国であり,日本軍による殺戮,南京大虐殺,などが比較されます.ラテンアメリカでは関心があっても,アラブ諸国には関心が無い.ホロコーストの通俗化,を懸念します.

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IPEの想像力 9/9/13

シリアをめぐる論争は続いています.ロシアによる提案(シリアの化学兵器を国際監視下に置く)は,約束の実行がともなえば,優れた打開策だと思います.それに続いて,シリアの停戦と(事実上の)分割合意,地域安全保障の枠組みに関するEU・米・ロシアと,トルコ,サウジアラビア,イランなどが参加する国際会議.国連平和維持軍と人道的支援.経済再建のための通貨安定化と共同市場.・・・

日本には,もちろん,内戦が起きていません.しかし,老人と若者の間にある社会・政治観の対立が,経済停滞を長引かせています.「平和の報奨金」システムとスウェーデンの政治経済改革に,学ぶことがあるはずです.

戦争になれば貿易や投資は減少し,平和になれば貿易も投資も増大します.シリアに限らず,尖閣諸島や竹島,北方領土は,事実上,「平和の報奨金」システムに適した紛争地域です.台湾も,北朝鮮も,カシミールも,そうでしょう.

独裁体制や弾圧による犠牲者,逮捕者,治安と経済状態の悪化は,大きなコストをもたらします.支配エリートがそれを免れているとしても,国際的な制裁や介入が彼らにコストを意識させます.「平和の報奨金」では,さらに利益をも意識するのです.軍事的な解決よりも,政治的・外向的な解決と和解を,それが無い場合よりも,促す仕組みになります.

DANIEL ALTMANは,アメリカが世界貿易に占める重要性を考慮して,平和から得られる配当をシリア国民に約束します.すなわち,近隣諸国の貿易額から,シリアの平和とアメリカの輸出増を予測できます.それはアメリカ企業の所得を増やし,アメリカ政府の税収を増やすから,この財源を,平和を維持するという条件でシリアに与えます.巡航ミサイルによる空爆や,イラク戦争のような死傷者・経済コストを回避して,アサド退陣と和平交渉を進めます.

エジプト,タイ,中国,など,国内でも目に見えない政治的な占領,独裁体制,が続いていますから,このシステムを利用してみるべきです.日本の「高齢化の政治学」もそうです.

「特に選挙前になると,政治家たちは,過度に手厚い年金システム,過剰で効率に欠ける医療,低い出生率をさらに抑え込んでいる若者たちの経済的苦境など,対策を取れば高齢者の利益と衝突しかねないセンシティブな問題を避けようとする.」(A.ハーニー「日本を抑え込む『シルバー民主主義』」フォーリン・アフェアーズ・リポート,2013 No.9

病気,将来の生活費,孤独,・・・十分な蓄えの無い老人の不安は切実です.政治家たちは競争して不安を煽り,彼・彼女に安心を約束するでしょう.それは,財制,農業,労働市場で,もっと多くの解決すべき問題を無視したまま,候補者たちの選挙結果を大きく左右します.高齢者が投票の圧倒的多数を占拠する政治システムは,シリア内戦で宗教・宗派が組織する聖戦にも似た,老人利益共同体になってしまいます.

社会制度の改革には,高齢者・老人たちを,既得権に従う政治・宗教ネットワークから解放する必要があります.老人に優しく,老人を尊ぶ社会システムを前提に,社会保障システムの改革などで生じる,財政赤字削減や成長による税収増を彼・彼女に給付するのです.

C. Fred Bergstenによれば,スウェーデンの改革では,財政(すなわち政府の)規模を縮小し,社会保障システムを維持するために市場改革を取り入れました.すなわち,開放性と競争によって,社会保障システムや学校を効率化した,と述べています.各機関が黒字化と行政の革新とを重視し,企業は研究開発投資,政府支出は医療と教育に集中しました.老人の医療にもバウチャーを給付できたら良いと思います.

さらにAdam Posenが,ドイツの成長モデルについて主張することは,日本でも重要です.低賃金や短期間・不安定な雇用を増やすことで,生産性の上昇ではなく,価格競争や輸出拡大に頼るのは,豊かな先進経済を貧しくする「成長」です.グローバルな生産や消費の体制に生きる豊かな諸国の担う分野を切り拓く,新製品や技術革新に挑むべきです.

それはどういう社会なのでしょうか? 世界中を旅する若者たちが,きっと具体的に構想しているはずです.30歳代の若者,女性,外国人の永住権保有者が,もっと政治指導者になる仕組みを見つけて,日本の内戦を終わらせます.

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