前半から続く)


l  新興市場の不安

NYT August 29, 2013

The Unsaved World

By PAUL KRUGMAN

ルピアが急落している! また,1997-98年のアジア通貨危機が起きるのか?

それはないだろう.確かに,最近,次々と起きている危機は,我々がそれを制度改革に結びつけなかったことを示している.正しい教訓は学ばれていない.

過度の楽観と民間投資,外国から銀行融資が流れ込んだ.それはまた,一気に悲観論に変わったのだ.ギリシャと違って,インドネシアには自国の通貨があった.最初,通貨価値の下落はデフォルトなどの危機を拡大するものであったが,それは続かなかった.輸出の競争が改善し,輸出主導の力強い回復が始まったのだ.

他方,危機は国際通貨制度が金融の規制緩和で不安定化することを教えていたが,改革派行われず,アメリカ連銀・財務省の3Alan Greenspan, Robert Rubin, Lawrence Summersが危機救済の英雄として称賛された.

インドネシアが,1998年,経済規模の13%を失ったのは,危機の深刻さを示すが,回復も早かった.2000年には回復が明確になり,2003年に危機前の水準を超えた.昨年には72%も増大している.

ギリシャが回復しないのは,インドネシアと違って自国通貨を持たないだけでなく,緊縮策をなかなか緩和しないからだ.

インドも,1990年代の危機を再発するとは思わないが,中国については別の理由で非常に心配している.

The Guardian, Friday 30 August 2013

Another financial crisis looms if rich countries can't kick their addiction to cash injection

Ha-Joon Chang

インドのルピーが減価している.他にも,中国を除く,新興市場の通貨から資本が流出し,価値が低下している.しかし,それは必ずしも危機ではない.なぜなら,ブラジルや南アフリカのように,通貨価値が過大になっていた国もあるからだ.

それにもかかわらず不安が広まっているのは,豊かな諸国で採用された量的緩和QEの影響で,新興市場に大量の資本が流入していたからだ.それは,絶え間なくバブルに頼る裕福な諸国がその経済モデルを転換しないために,採用された政策である.短期の金融的利益が重視され,長期の生産的な投資,労働者の生活の質が軽視された.

P Project Syndicate 31 August 2013

A Bumpy Ride for Emerging Markets

Laura Tyson

Project Syndicate 31 August 2013

Autumn’s Known Unknowns

Nouriel Roubini

Project Syndicate 02 September 2013

Are Emerging Markets Submerging?

Kenneth Rogoff

新興市場が政治や経済の改革を怠って危機に向かうかもしれない.世界の金融システムや欧米経済がそれを受け入れる条件を失うのではないか?

FT September 4, 2013

Like India, Indonesia will pay for resting on its laurels

By David Pilling

FT September 4, 2013

Don’t blame the Fed for emerging market woes

By Patrick Zweifel

VOX 4 September 2013

The BRICs party is over

Anders Åslund

BRICSの成長の波は終わった.BRICSは,その成長がこれほど長く続いたことを驚くべきだ.ガバナンスは劣悪で,無駄なインフラや記念碑的建造物を遺した.BRICSの成長とは,国際商品ブームと信用膨張による二重の拡大効果であった.それらは終わったが,BRICS諸国は改革のチャンスを失い,「中所得の罠」に陥った.しかも,成長低下の対策を,国家資本主義への傾斜に求めている.


l  インドの新総裁

FT August 30, 2013

Raghuram Rajan, academic in an emerging storm

By James Crabtree

VOX 1 September 2013

India and the Emerging Market crisis

Marco Annunziata

Project Syndicate 03 September 2013

India’s Change of Guard

Sanjeev Sanyal

FT September 4, 2013

Rajan enters RBI with a big bang

By Victor Mallet in New Delhi and Avantika Chilkoti in Mumbai

NYT September 4, 2013

India’s New Central Bank Leader May Have a Short Honeymoon

By KEITH BRADSHER

インドの慢性的なインフレは,貿易赤字,財政赤字,インフラ不足のような,中央銀行の操作できない理由で起きている.Rajanの指名により,ルピー下落の問題は,インフレと成長との間で金利を決定するジレンマとして,人々に理解されるようになった.

NYT September 4, 2013

Falling Economic Tide in India Is Exposing Its Chronic Troubles

By KEITH BRADSHER


The Guardian, Friday 30 August 2013

What the Muslim Brotherhood and the Levellers have in common

Giles Fraser


l  金融改革と景気循環

Project Syndicate 31 August 2013

Whose Central Bank?

J. Bradford DeLong

VOX 31 August 2013

Dilemma not Trilemma: The global financial cycle and monetary policy independence

Hélène Rey

グローバルな金融サイクルは「トリレンマ」を「ジレンマ」に変えた.自律的な金融政策を得るには,資本勘定を直接もしくは間接に管理するしかない.

資本移動は景気循環を増幅している.為替レートが変動制であるかどうかに関係なく,アメリカの金融政策がグローバルな銀行の融資に影響し,国際金融システムの資本移動や信用供与を増減するのである.

金融政策の自律性を取り戻すには,a)資本規制,b)金融政策,c)信用供与とレバレッジの循環的変動抑制,d)信用供与とレバレッジの金融システム規制,による.それらには効果的な国際協調が必要であるが,歴史的に,対立が繰り返されている.

各国は,独自に,マクロ・プルーデンシャル政策を模索するが,資本規制も排除してはいけない.

FP SEPTEMBER/OCTOBER 2013

Laggard

BY MOHAMED A. EL-ERIAN

Project Syndicate 04 September 2013

The Failure of Free-Market Finance

Adair Turner

リーマン倒産から5年経った.未だに,その後の金融危機につながった根本的原因は解消されていない.すなわち,債務の過剰(レバレッジ)である.それが景気回復を遅らせている.

1960年,イギリスの家計が負う債務はGDPの15%以下だった.2008年までに,それが90%を超えた.アメリカの民間部門の債務は1945年に70%であったが,2008年には200%を超えた.しかし,中央銀行は,物価が安定している限り,債務の水準は問題ないと考えていた.

金融危機と不況で,それが間違いだった,とわかる.ハイエクが述べたように,債務は過剰投資の循環を増幅した.好況期にも,問題は解消されない.日本が示したように,危機後の不況は長引いた.財政支出によって民間債務を救済し,支出を補う政策は,問題を公的債務に移すだけだった.

2つの問題がある.1.民間部門と公的部門にある債務を,どうやって減らすか? それは深刻な不況を招く.それを避けて,債務の組換・免除,債務の貨幣化,が必要だろう.2.将来,債務の膨張(レバレッジ)を,どうやって抑えるか? 景気循環を抑える資本の抑制策が必要だ.銀行の預金準備を量的に厳しく規制し,債務者の規制を行う.

こうした規制手段は,自由な市場が金融においても望ましい,という危機前の正統派経済学に否定されていた.しかし,それは間違いだった.民間部門は債務の水準を適切に管理できなかった,という事実を学ぶべきだ.

Project Syndicate 04 September 2013

The Vultures’ Victory

Joseph E. Stiglitz

アメリカの法廷は,アルゼンチン債券に関する「ハゲタカファンド」の主張を認めた.しかし成長回復と国民多数の利益を重視して,政府債務のデフォルトを,アメリカの破産法と同様に,債権者にも負担させるべきだ.


l  スウェーデンの経済改革モデル

FP August 30, 2013

The Swedish model for economic recovery

By C. Fred Bergsten

ロシアでG20に参加するオバマ大統領は,ついでにスウェーデンを訪問し,スカンジナヴィア諸国の首相たちと会うことにした.スウェーデンこそ,アメリカや世界が目指すべき改革のモデルである.

1968年に世界第3位の裕福な国であったスウェーデンが,1970年代,80年代,福祉国家の肥大化によって,世界第17位に下落し,1991年には,厳しい金融・不動産危機を経験した.そして,その後,熟達した技量と政治的勇気により改革を進めた.

今やインフレは抑えられ,毎年,黒字予算を示す.法人税はアメリカより低く,研究開発にGDPの多くを費やす.企業は世界市場で競争力を示し,経常収支も大きな黒字である.そのために,危機後,政府支出をGDP20%も削減し,失業や病気に関する社会的な補償を大きく削った.政府債務を半減させ,限界税率は低く,税制は簡素になった.改革された銀行システムは世界金融危機も切り抜けた.

規制緩和や競争を取りこむ構造改革も進めた.スウェーデンは充実した社会福祉を解体するのではなく,競争によって大幅に効率化することに成功した.子供たちはバウチャーによって学校を選び,社会保障は純粋な保険制度である.福祉国家は生き残り,支出は経済規模の半分を占めるが,それは教育と医療である.財政的な保守性と,行政的な効率化,これが経済改革の原則だ.

スカンジナヴィア諸国は,ユーロ圏の中であれ,外であれ,同様の改革に向かっている.


l  ドイツとユーロ圏

FT September 1, 2013

Lessons for Greece from down-and-out Detroit

By Wolfgang Münchau

The Guardian, Monday 2 September 2013

Merkel the European will wake up – once Germany's elections are over

Ulrich Beck

FT September 3, 2013

Germany is being crushed by its export obsession

By Adam Posen

もしヨーロッパが,将来,ドイツ・モデルを採用するとしたら,我々は問題を抱えるだろう.

ユーロ危機は今も,ドイツのたどった競争力回復のモデルを前提している.すなわち,賃金の切り下げだ.ドイツは,他国にも増して,低賃金・パートタイムの弾力的な雇用を増やしてきた.他方,裕福な国がたどるべき研究・開発投資は少なく,生産性の上昇も低い.すべての先進経済で製造業の雇用は急速に減っているが,ドイツは,イタリアや日本とともに,その減少率が少ない.

ドイツの成長は,低賃金による輸出に大きく依存し,それが貯蓄や国内投資をへらして,ますます輸出に依存するサイクルを成している.もっとも重要なことは,その結果として,ドイツはヴァリュー・チェーンの位置を下げていく.こうしたモデルをヨーロッパが採用することは,間違いだ.

FT September 3, 2013

Euro’s destiny depends on more than Merkel’s mindset

By Ralph Atkins in London

SPIEGEL ONLINE 09/04/2013

The Domino Defect

Five Years After Crisis, Banks No Better Off

By Martin Hesse

FP SEPTEMBER/OCTOBER 2013

The Big Bet

BY ISAAC STONE FISH

Project Syndicate 05 September 2013

The Birth of Fiscal Unions

Harold James, Jennifer Siegel

ヨーロッパの財政統合は,アメリカをモデルにして実現できない.なぜなら,それらはまったく異なる動機でできたからだ.

安全保障上の脅威と軍備拡大の融資が問題であるとき,財政統合は共通の問題を解決する手段になる.ヨーロッパが平和になって,そのような歴史的試みの継続は疑わしくなった.有権者は他国への融資(財政負担)を拒む.

ドイツは,それを克服するために厳しい財政協定を求めた.アメリカも安全保障上の同盟から財政同盟へ進んだが,多くの民主的制度を統合したからできたのだ.それには時間がかかる.

Project Syndicate 05 September 2013

Europe’s Asian Pivot

Karl Kaiser, Manuel Muniz


l  労働組合

NYT September 1, 2013

A New Kind of Union

By BENJAMIN I. SACHS


l  中国の改革

FT September 2, 2013

China has a choice – short-term growth or sustainability

By Michael Pettis

Project Syndicate 02 September 2013

The Second Coming of Zhu Rongji?

Zhang Jun

2013-09-03 (China Daily)

Upgrading the partnership

By Chu Hao

FT September 5, 2013

China’s model stimulus has more to show for it than US

By Henny Sender

YaleGlobal, 5 September 2013

Why Is Prosperous China So Anxious?

Orville Schell


l  フランスの年金

FT September 2, 2013

Politics of ageing


l  移民政策の革新

Project Syndicate 03 September 2013

The Changing Mood on Migration

Peter Sutherland


l  ルワンダの独裁者

NYT September 4, 2013

The Global Elite’s Favorite Strongman

By JEFFREY GETTLEMAN


l  G20

The Guardian, Wednesday 4 September 2013

G20 and Syria: Putin's show

Editorial

BLOOMBERG Sep 5, 2013

G-20 Needs to Reinvent Itself to Be Relevant

By Jim O’Neill

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The Economist August 24th 2013

How India got its funk

Central bankers: The apprentices

Black America: Walking life

Lexington: Barack Obama’s Iraq syndrome

Dutch immigration: Overflow

Bagehot: Go away, we need you

Remembering Holocaust: Bearing witness ever more

(コメント) Middle East: SWIM WITH CAUTIONという立て札のある砂浜を,虚ろな表情で,海水パンツ姿のオバマが海からあがって来る.ただし頭にタコ,肩から背中,腰,足にかけて,ヒトデ,サメ,ピラニアかサメみたいな,牙のある小さな魚がびっしり並んで噛みついている.

オバマ外交を,さまざまな立場で批判するのは間違いだ.オバマは,国民と同様に,冷静で,理性的な主張を一貫して唱え,公平に批判している.ただし,政治的には,それが罪かもしれない.

インドの通貨危機,金融政策の迷い,オランダとイギリスの移民に関する姿勢が議論されています.特に,イギリスでは火星人がそれを観察します.

ドイツだけでなく,アメリカにもホロコースト記念館があります.その教育活動を世界に広める大会が中国であり,日本軍による殺戮,南京大虐殺,などが比較されます.ラテンアメリカでは関心があっても,アラブ諸国には関心が無い.ホロコーストの通俗化,を懸念します.

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IPEの想像力 9/9/13

シリアをめぐる論争は続いています.ロシアによる提案(シリアの化学兵器を国際監視下に置く)は,約束の実行がともなえば,優れた打開策だと思います.それに続いて,シリアの停戦と(事実上の)分割合意,地域安全保障の枠組みに関するEU・米・ロシアと,トルコ,サウジアラビア,イランなどが参加する国際会議.国連平和維持軍と人道的支援.経済再建のための通貨安定化と共同市場.・・・

日本には,もちろん,内戦が起きていません.しかし,老人と若者の間にある社会・政治観の対立が,経済停滞を長引かせています.「平和の報奨金」システムとスウェーデンの政治経済改革に,学ぶことがあるはずです.

戦争になれば貿易や投資は減少し,平和になれば貿易も投資も増大します.シリアに限らず,尖閣諸島や竹島,北方領土は,事実上,「平和の報奨金」システムに適した紛争地域です.台湾も,北朝鮮も,カシミールも,そうでしょう.

独裁体制や弾圧による犠牲者,逮捕者,治安と経済状態の悪化は,大きなコストをもたらします.支配エリートがそれを免れているとしても,国際的な制裁や介入が彼らにコストを意識させます.「平和の報奨金」では,さらに利益をも意識するのです.軍事的な解決よりも,政治的・外向的な解決と和解を,それが無い場合よりも,促す仕組みになります.

DANIEL ALTMANは,アメリカが世界貿易に占める重要性を考慮して,平和から得られる配当をシリア国民に約束します.すなわち,近隣諸国の貿易額から,シリアの平和とアメリカの輸出増を予測できます.それはアメリカ企業の所得を増やし,アメリカ政府の税収を増やすから,この財源を,平和を維持するという条件でシリアに与えます.巡航ミサイルによる空爆や,イラク戦争のような死傷者・経済コストを回避して,アサド退陣と和平交渉を進めます.

エジプト,タイ,中国,など,国内でも目に見えない政治的な占領,独裁体制,が続いていますから,このシステムを利用してみるべきです.日本の「高齢化の政治学」もそうです.

「特に選挙前になると,政治家たちは,過度に手厚い年金システム,過剰で効率に欠ける医療,低い出生率をさらに抑え込んでいる若者たちの経済的苦境など,対策を取れば高齢者の利益と衝突しかねないセンシティブな問題を避けようとする.」(A.ハーニー「日本を抑え込む『シルバー民主主義』」フォーリン・アフェアーズ・リポート,2013 No.9

病気,将来の生活費,孤独,・・・十分な蓄えの無い老人の不安は切実です.政治家たちは競争して不安を煽り,彼・彼女に安心を約束するでしょう.それは,財制,農業,労働市場で,もっと多くの解決すべき問題を無視したまま,候補者たちの選挙結果を大きく左右します.高齢者が投票の圧倒的多数を占拠する政治システムは,シリア内戦で宗教・宗派が組織する聖戦にも似た,老人利益共同体になってしまいます.

社会制度の改革には,高齢者・老人たちを,既得権に従う政治・宗教ネットワークから解放する必要があります.老人に優しく,老人を尊ぶ社会システムを前提に,社会保障システムの改革などで生じる,財政赤字削減や成長による税収増を彼・彼女に給付するのです.

C. Fred Bergstenによれば,スウェーデンの改革では,財政(すなわち政府の)規模を縮小し,社会保障システムを維持するために市場改革を取り入れました.すなわち,開放性と競争によって,社会保障システムや学校を効率化した,と述べています.各機関が黒字化と行政の革新とを重視し,企業は研究開発投資,政府支出は医療と教育に集中しました.老人の医療にもバウチャーを給付できたら良いと思います.

さらにAdam Posenが,ドイツの成長モデルについて主張することは,日本でも重要です.低賃金や短期間・不安定な雇用を増やすことで,生産性の上昇ではなく,価格競争や輸出拡大に頼るのは,豊かな先進経済を貧しくする「成長」です.グローバルな生産や消費の体制に生きる豊かな諸国の担う分野を切り拓く,新製品や技術革新に挑むべきです.

それはどういう社会なのでしょうか? 世界中を旅する若者たちが,きっと具体的に構想しているはずです.30歳代の若者,女性,外国人の永住権保有者が,もっと政治指導者になる仕組みを見つけて,日本の内戦を終わらせます.

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